グレイヴ&リーパー〜墓場の王〜 第七十一話 さよなら王様(2)

  • 2016.04.10 Sunday
  • 09:03
JUGEMテーマ:自作小説
緑川は亀池山の頂上に来ていた。
池の傍に立ち、穏やかに揺れる水面を眺めている。
ここへ来るまで、一匹も妖怪やUMAと出くわさなかった。
きっと群れで襲いかかって来るだろうと思っていたのに、ツチノコ一匹現れなかった。
緑川は考える。どうして妖怪やUMAが襲ってこないのかと。
自分を恐れているからか?それともどこかに戦力を結集させて、一気に潰しに来るつもりなのか?
どっちにしろ、妖怪やUMAが来たところで敵ではないと思っていた。
ミノリやペケが死んだ今、「こっち」に敵はいない。
ケントの気配も感じないので、きっと死んだのだろうと思った。
もう自分を邪魔するものは何も無い。あとはこの池に眠るUFOさえ手に入れれば、目的は達成である。
適当に宇宙旅行でもして、適当に他の星を探索でもして、飽きたらまた地球へ戻って来ればいい。
そして誰もが自分のことを忘れ、平和が戻って来たと思った頃に、再び暴れてやればいい。
首狩り刀で人間も化け物も切り裂き、首を落としてやればいい。
なぜならこの世で生きているのは自分だけで、後は石ころに過ぎないのだから。
そうやって好きなように生き、好きなように過ごし、好きな事だけを楽しんで、人生に飽きたら死ねばいいと思っていた。
無限の命などない。いつかは自分も死ぬ。それが命だと思っているし、それでいいと思っている。
かつて抱いていた命への疑問は、もう無い。
命とは、この世に生まれて、好きな事をするためにあるもの。
だから散々好きなことをして死ねるのなら、それはとても良い人生になるはずだった。
しかしいつかは死ぬにしても、誰かに殺されるのは我慢ならない。
寿命による死は納得できても、それ以外の死は受け入れるわけにはいかない。
命を持たない石ころどもが、命を持つ自分を殺すなどあってはならないことだった。
「沢尻・・・・・一番厄介な石ころだよ。」
彼の目はまだ何かを企んでいた。
これ以上ここにいれば、必ず追って来る。
だからあの場で殺してしまうのが一番だったが、彼の中からはアチェの気配を感じた。
もしアチェが沢尻に味方しているのなら、それは安易に手が出せない。
彼女のことだから、下手に襲いかかると返り討ちに遭う可能性がある。
緑川は背中から蛾の羽を生やし、宙に舞い上がる。そして池の真ん中までやって来た。
「とっととUFOを手に入れて、宇宙旅行でも行こう。100年先か、1000年先か・・・いつかまたここに戻って来て、石ころどもを潰してやる。」
池は深い緑色をしていて、まったく底が見えない。
しかし王の脳と心臓は、この池の底から何かを感じ取っていた。
ここには巨大な何かが眠っていると、緑川に告げていた。
「・・・・・・・・・・・。」
一つ深呼吸をして、池に飛び込む。小さな水柱が上がり、水底へと突き進んでいく。
水は淀んでいて、一メートル先も見えない。
それでもずっと進んでいくと、やがて水底に降り立った。
王の脳と心臓が強く反応している。何かに共鳴するように、激しく脈打っている。
緑川はじっと神経を研ぎ澄まし、どこからこの共鳴が響いてくるのか探った。
そしてほんの数メートル先に、その共鳴の元となるものを見つけた。
それは人間の背丈ほどもある大きな墓石で、英語で文字が書かれていた。
「ケント・テーラー」
墓石には確かにそう彫られていて、しかも足元には花が活けられていた。
緑川はその花に触れ、一輪だけ手に取る。
王の脳と心臓は激しく脈打ち、もはや痛いほどだった。
なんとなくその花を握り潰し、ポイと投げ捨てる。
花弁の欠片が水の中を漂っていき、ゆっくりと落ちていく。
すると墓石が揺れ出し、真ん中に亀裂が入る。そして観音開きの扉のように、左右へと開いていった。
「・・・・・・・・・・・。」
中を覗くと、真っ暗で何も見えない。
一歩だけ中へ入り、さらに様子を窺う。
すると墓の奥から風が吹き、掃除機のように水を吸い込み始めた。
緑川は水と一緒に中へ吸い込まれ、それと同時に墓石の扉は閉じてしまった。
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
水に揉まれながら、墓の奥へと運ばれて行く。
やがて少しずつ水の量が減っていって、完全に消えてしまう。
緑川は硬い地面に投げ出され、「痛ッ・・・」と肘をさすった。
「・・・・・・・・・・・・・。」
肘の痛みを堪えながら、ゆっくりと立ち上がる。
辺りは薄暗く照らされていて、どうやら長い通路になっているようだった。
光はその奥から射していて、思わず目を細めた。
王の脳と心臓は、通路の奥から激しい共鳴を感じている。
緑川は「ここにUFOが・・・・」と呟き、奥へ向かって歩き始めた。
するとその時、何やら妙な音が聴こえてきた。
「・・・・・・・・・・・・・。」
良くない気配を感じ、首狩り刀を構える。
すると通路の奥から、一匹の巨大なイナゴが現れた。
それは人の三倍はあろうかという大きさで、目が真っ赤に染まっている。
足にはノコギリのような棘が並んでいて、顔の左右からペンチのような牙が伸びていた。
その牙をカチカチと鳴らしながら、こちらへ飛んでくる。
緑川は咄嗟に刀を振り、イナゴを一刀両断する。
真っ二つに裂かれたイナゴは、そのまま地面に激突して死んだ。
「・・・・・・・・・。」
緑川はイナゴの死体に近づき、刀で突いてみる。
真っ二つになった身体から茶色い内臓がはみ出ていて、辺りに悪臭を放っている。
「臭・・・・・・・、」
思わず鼻をつまむと、またイナゴの羽音が聴こえてきた。
今度はアリの大群のように群がってきて、細い通路につっかえている。
どのイナゴも凶悪な顔をしていいて、大きな顎をカチカチと鳴らしている。
緑川は真っ二つになったイナゴの死体を睨み、「この臭いが・・・・」と呟いた。
「死体の臭いに引かれて集まって来るのか。」
通路の先はイナゴでぎゅうぎゅう詰めになっていて、とても先へ進めそうにない。
殺せば通れるかもしれないが、死体が増えればさらに集まって来るだろうと思った。
「どうしよ・・・・・。」
普段ならここで退散するが、今はそうはいかなかった。
早くUFOを手に入れないと、いつ沢尻が追って来るか分からない。
少し悩んだが、ここは強行突破することに決めた。
羽を羽ばたき、毒の鱗粉をまき散らす。
イナゴの群れは激しい嘔吐に見舞われ、顎をカチカチ鳴らして苦しんだ。
緑川はその隙に斬りかかり、イナゴの頭を落としていく。
通路にギュウギュウに詰まったイナゴは、首狩り刀によって豆腐のように切り裂かれていく。
しかし斬っても斬っても先はイナゴだらけで、しかも次々に群がって来る。
「キリがないな。」
鬱陶しそうに言って、「あ、そうだ」と何かを思いつく。
そしておもむろに自分の胸を斬って、中から青い心臓を取り出した。
「痛った・・・・・。」
激しい痛みを我慢しながら、左手に心臓を持つ。それをギュッと握ると、辺りに血が飛び散った。
その血はすぐに生き物へと変わり、やがて緑川とそっくりの人物となった。
その数は20人はいて、首狩り刀とよく似た武器を持っている。そして一斉にイナゴに斬りかかった。
道を塞ぐイナゴは次々に狩られていき、通路が開けていく。
緑川は後ろからその様子を見ながら、時折鱗粉を放った。
そしてどうにか全てのイナゴを倒し、光の射す方へ出ることが出来た。
そこは草一本生えない荒れた大地で、空も地面もグレー一色に霞んでいた。
「なんだこれ?まるで廃墟だな。」
そう言って空を見上げると、先ほどとは比べものにならないほどのイナゴの大群が飛んでいた。
小さなイナゴもいれば、ウェンディゴのように巨大なイナゴもいて、空も大地も我が物顔で占領している。
しかも共食いをしていて、巨大なイナゴは小さなイナゴを貪り、小さなイナゴは群れで巨大なイナゴを襲っていた。
「こいつらお互いに殺し合ってるのか・・・・・・?」
イナゴ同士が貪る異様な光景を睨んでいると、その中に見知ったUMAがいた。
「あれ・・・・ミントか?」
イナゴの群れの中に、黒と黄色の縞模様のUMAがいた。
その姿はアブにそっくりで、なぜかイナゴに襲われていない。
そしてそのすぐ傍には、誰かが横たわっていた。
「あれは・・・・・・・、」
緑川は目を凝らし、「ケント・・・・?」と呟く。
ケントは大地に横たわっていて、じっと目を閉じている。
彼にの周りにだけ花が咲いていて、まるで死者を弔っているかのようだった。
「やっぱ死んだのかアイツ・・・・。もう身体も光ってないし、生きてる気配も感じない。」
ケントは眠るように穏やかな顔をしていて、天国にでもいるかのようだった。
ミントは彼の傍に立ち、グレーに霞む景色を見つめている。
「・・・・多分あの下だな。ケントの死体の下にUFOがあるはずだ。」
王の脳と心臓は、ケントのいる方から強く共鳴している。
彼の下を掘れば、必ずUFOが現れるはずだと頷いた。
緑川は頭から触覚を生やして、辺りをうろつくイナゴを警戒する。
「とんでもない数だな。きっと何万・・・・いや、何十万匹っているはずだ。」
イナゴの群れは凄まじい数で、さすがにこの大群に襲われたらひとたまりもない。
ならばイナゴに襲われる前に、一気にケントの元まで駆け抜けようと思った。
「ミントは敵じゃない。それにもしイナゴが襲ってきても、こいつらが盾になってくれる。その間にUFOを乗っ取るしかないな。」
そう言ってまた心臓を取り出し、ギュッと血を絞った。
大量の血が地面を染め、何百人もの緑川が現れる。
「・・・・・・キツイなこれ。あんまり何度も使えない。」
血を失った心臓は鼓動が弱くなる。その分緑川の身体にも負担がかかり、ゆっくりと心臓を戻した。
毒針を使い、胸の傷を塞ぐ。
「お前ら俺を守れよ。」
数百人の緑川にそう言って、一気にケントの元を目指す。
するとミントがそれに気づき、笛のようなかんだ高い声で鳴いた。
数十万のイナゴが一斉に緑川の方を向き、真っ赤に染まった目で睨む。
そして空気を揺るがすほどの羽音を響かせて飛びかかってきた。
緑川はイナゴの群れには構わず、真っ直ぐにケントを目指す。
しかしイナゴはそれを喰らおうと、アリのごとく群がって来た。
コピーの緑川は、オリジナルの緑川を守る為に盾となる。
刀を振り、イナゴを切り裂いていく。
しかしイナゴの表皮は硬く、コピーの刀ではなかなか切り裂けない。
首狩り刀や骨切り刀でもない限り、豆腐のように切り裂くのは無理があった。
数十万のイナゴの大群に囲まれて、どこにも逃げ場がなくなる。
コピーの緑川は必死にオリジナルを守ろうと、死にもの狂いで刀を振った。
硬い表皮を貫き、内臓を潰す。しかしその間に別のイナゴに襲われて、頭をもぎ取られた。
四方八方を敵に囲まれて、倒しても倒してもキリがない。
コピーの緑川はどんどん殺されていき、イナゴの腹に収まる。
しかし彼らを食べた途端、鱗粉の毒によって悶え始めた。
オリジナルの緑川は首狩り刀を振り、道を塞ぐイナゴを切り払う。
一振りで数匹のイナゴが切断され、悪臭を放ちながら死んでいく。
緑川はピンと触覚を立てて、四方八方から襲い来るイナゴの動きを察知する。
無駄のない動きで刀を振り、相手に攻撃する暇を与えない。
しかしそれでも圧倒的な大群の前に、中々前に進むことが出来なかった。
「ウザい害虫ども・・・・・、」
だんだんと腹が立って来て、首狩り刀を鎖鎌のように振り回す。
それは死神の鎌のように、ほんの一太刀で敵の命を奪っていった。
しかしイナゴを斬れば斬るほど、刀は短くなっていく。
じょじょに髑髏を消費していって、刃渡りが一メートルほどにまで縮んでしまった。
「駄目だなこれ、戦ってると死ぬ。」
圧倒的な数の前に、これ以上の戦いは無理だった。
ここはいったん退くべきかと考えたが、すぐに名案が浮かんだ。
「あ、そっか・・・・・。小さくなれば狙われにくくなるな。」
そう言って人間の手のひらサイズまで縮んだ。
「大きさを変えられるって便利だよな。」
首狩り刀はその場に捨てて、一気にケントの死体を目指す。
イナゴは大群で襲いかかって来るが、緑川はなんなくそれをかわす。
手のひらサイズまで小さくなった分、巨大なイナゴの隙を縫うのは造作もなかった。
緑川は機敏に動き回ってイナゴを翻弄する。そしてようやくケントの元まで辿り着いた。
するとミントが、ケントを守るように立ちはだかった。鋭い口吻を伸ばし、襲いかかって来る。
緑川はサッとそれをかわすと、すぐに元の大きさに戻った。
そして頭上に手をかざし、首狩り刀を呼び寄せた。
投げ捨てた首狩り刀が、イナゴを貫きながら飛んで来る。
緑川はその刀を掴み、ミントの頭に向かって振り下ろした。
しかし刀がミントを一刀両断する手前で、誰かがそれを止めていた。
首狩り刀を素手で掴み、そのままへし折ってしまう。
「・・・・・・・・・・・・。」
緑川は慄き、すぐさま後ろへ飛び退いた。
「・・・・・・ケント。」
首狩り刀を止めたのはケントだった。へし折った刀を掴んだまま、ゆっくりと立ち上がる。
そしてポイとそれを投げ捨てると、クスクスと笑った。
それを見た緑川は、「アチェ?」と尋ねる。
「お前・・・・・沢尻に宿ってたんじゃないのか?」
そう言いながら後ろへ下がると、イナゴの羽音が聴こえた。
振り返るとイナゴの大群に囲まれていて、空も大地も見えないほどだった。
解き放った数百人のコピーはとうに殺されていて、イナゴの腹に収まっている。
緑川はため息をつき、「なんだよこれ?」とケントに向き直った。
「どうしてお前がケントに宿ってる?」
そう尋ねると、ケントは自分の頭を指さした。
するとそこから小さな蛾が出て来て、緑川に話しかけた。
『お父さん?』
「・・・・・・・・・・。」
『こんにちわ。お父さん。』
小さな蛾はそう言って、また笑い声を響かせた。
『あのね、お母さんが生まれたらすぐここへ行けって。』
「・・・・・・・・・・・・。」
『きっとお父さんが来るから、その邪魔をしろって。』
「・・・・・・・・・・・・。」
『お父さんは悪い奴で、王様の身体を食べてるから、それを取り戻しなさいって言われたの。』
「・・・・・・・・・・・・。」
『他にもいっぱい兄弟がいたんだけど、みんなイナゴに食べられちゃった。だからここへ来たのは私だけ。』
そう言ってケントの頭に潜り込み、彼の身体を操った。
ゆっくりとこちらに近づき、『痛くしないから大丈夫だよ』と緑川の頭を掴む。
『脳?とか心臓?を取り戻しなさいって。きっとミノリを殺してどっちも手にれてるから、それを取り返しなさいって言われた。』
そう言って頭を押さえつけ、『ミント』と呼んだ。
『ミントのお口で、脳とか心臓?とかを吸ってあげて。』
ミントは頷き、緑川に近づく。そして長い口吻を頭に向けた。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
緑川はミントを睨み、首狩り刀を動かす。
『死ぬよ?』
ミントはイナゴを指さし、『ケントから離れたら襲って来るよ』と言った。
『大丈夫、死なない。王の脳と心臓を吸うだけ。それをUFOに戻すだけだから。』
そう言って緑川の頭に口吻を当てる。
「・・・・・・・・・・・・。」
緑川は刀を下ろし、抵抗するのをやめた。
周りにはイナゴの大群、目の前には自分の子供が操るケント。
どちらも強敵で、しかも首狩り刀まで折られている。こんな状態では勝ち目はなく、「向こう」へ逃げようとした。
しかしいくら頑張っても「向こう」へ行くことが出来ない。
するとミントが『ここからじゃ行けないよ』と言った。
『ここはケントの墓の中だから、「向こう」へ行けない。大人しくしてて。』
そう言って頭に口吻を突き刺し、王の脳を探る。そして『ここだね』と言って、脳を吸い取り始めた。
「・・・・・・・・・・。」
緑川は激しい痛みに耐える。抵抗するのが無理なら、今は大人しく従うしかなかった。
ミントはチュルチュルと音を立てて脳を吸い取る。そして完全に吸い尽くすと、今度は胸に口吻を当てた。
『・・・・・・・・・・・。』
少しだけ口吻を動かし、王の心臓の位置を探る。そして右の胸に鼓動を感じて、またブスリと突き刺した。
「・・・・・・・・・・・ッ。」
緑川は声にならない声で叫び、カッと目を見開く。
胸の中から心臓が吸われていく痛みを感じながら、ただひたすら耐えていた。
ミントはものの数秒で心臓も吸い取り、緑川から離れていく。
そして地面に向かって口吻を突き刺し、それをドリルのように回転させて穴を空けた。
口吻はどんどん伸びていって、地中深くまで穴を空ける。
やがて口吻は硬い何かに当たって止まる。するとミントは吸い込んだ心臓と脳を、地中に向かって吐き出した。
口吻の中を通って、ドロドロとした青色の物体が流れていく。
「・・・・・・王に送ってるのか?」
緑川はその様子を見つめながら、どうやってこの状況から抜け出そうかと考えていた。
王の心臓も脳も吸い取られて、今は完全に人間に戻ってしまった。
羽も触覚も消えて、「向こう」へ戻る事すら出来ない。
しかしまだ希望はあるはずだと、ケントの頭を睨み付けた。
「おい。」
呼びかけると、『なあに?』と子供が答えた。
「お前は俺の子供なんだろ?」
『うん。』
「だったらどうしてお母さんの言うことばっかり聞くんだよ?同じ親なら、俺の言うことだって聞いてほしいんだけど。」
『それはお母さんが駄目だって。』
「なんで?」
『お父さんは悪い奴だから。』
「そんなことないよ。」
『お父さんは悪い奴で、平気で嘘をつくから、話を聞いたらダメだって。』
「ウソつきはお母さんの方だぞ。あいつは平気で人を利用するからな。お前だって利用されてるんだよ。」
『どうして?』
「それはお母さんが悪い奴だから。目的の為なら、自分の子供だって利用するんだよ。それにお前がお父さんに懐くのが許せないんだよ。
お母さんは嫉妬深いから、子供を独り占めにしたいんだ。だから嘘をついて騙してる。」
『ほんとに?』
「ほんとだよ。」
『そうなんだ。』
「だからお父さんにも力を貸してくれよ。お父さんはすごく困ってて、お前の力が必要なんだ。悪い刑事に追いかけられて、やってもいない罪を押し付けられようとしてる。
だからお父さんを助けてくれないか?」
『でも・・・・・、』
「お前はもうお母さんの言う事は聞いただろ?だったらきちんと約束を守ったってことだ。」
『まあね。』
「お前はえらい子だ。ちゃんと約束を守ったんだから。」
『まあね。』
「だったら次はお父さんと約束してくれないか?」
『どんな約束?』
子供はケントの頭から顔を出し、じっと緑川を見つめた。
「あのな、お父さんとパートナーになってくれないか?」
『パートナー?』
「うん、お父さんと一緒に頑張って、悪い奴らをやっつけるんだ。」
『どうやって?』
「簡単さ。さっき俺から奪った心臓と脳ミソを返してくれればいい。」
『でもそんな事したら、お母さんとの約束を破っちゃう。』
「・・・・・そうか。ならこうしよう。この下に埋まってるUFOに、お父さんを乗せてくれないか?」
緑川は子供に歩み寄り、そっと手を伸ばす。そして手の平に乗せると、頭を撫でた。
小さな蛾は大人しく頭を撫でられていて、二つの複眼に父を映す。
「お父さんは宇宙へ行きたいんだよ。よかったらお前も一緒に行かないか?」
『私も?』
「親子水入らずで行こう。きっと楽しいぞ。」
そう尋ねると、『いいよ』とあっさり頷いた。
『だってお父さんをUFOに乗せるように言われてるもん。』
「そうなの?」
『うん。だってお父さんはしぶといから、殺そうとすると何をしでかすか分からないって。だったら宇宙へでも捨てた方が安全だって。』
「お母さんがそう言ったのか?」
『うん。』
「そっか・・・・・宇宙に捨てるか。俺はゴミってわけだな。」
いかにもアチェの企みそうなことだと思い、「じゃあ一緒に行くか?」と立ち上がった。
「お父さんと一緒にこの星を飛び出そう。」
『でもね、、もう戻って来れないよ。』
「どうして?」
『知らない。お母さんがそう言ってたから。』
「・・・・・・・・・・・。」
緑川はじっと考え込み、アチェが何を企んでいるのか考える。
しかしこの状況では、とにかくUFOに乗る以外に手は無かった。
「なら・・・・・乗せてくれるか?」
『うん。』
子供はケントの頭の中に潜り込み、彼を動かす。
そしてミントの空けた地面の穴を睨み、そこへ花の種を落とした。
しばらくすると、その種は大地に根を張り、蜘蛛の巣のように地中を駆け巡った。
そして地面を盛り上がらせて、太い根っこを飛び出させる。
土は吹き飛ばされ、大地に大きな穴が空いた。
『ここで待っててね。』
子供はそう言って、穴の中へ飛び込む。
しばらく待っていると、やがて地震のように大地が揺れ、穴の中から凄まじい光が溢れた。
そして激しく大地を揺らしながら、地面を吹き飛ばして巨大な何かが現れた。
それは銀色に輝く、楕円形の飛行物体だった。

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