グレイヴ&リーパー〜墓場の王〜 第七十二話 さよなら王様(3)

  • 2016.04.11 Monday
  • 11:10
JUGEMテーマ:自作小説
大地が激しく揺れ、穴の中から凄まじい光が溢れる。
そして・・・銀色に輝く、楕円形の飛行物体が現れた。
大きさはゆうに300メートルはあり、さながら空母が空を舞っているようだった。
その物体の両脇には、虫の足のような突起が幾つも付いていて、気味悪く動いている。
先端には人の顔らしき像が彫ってあり、目の部分が青く輝いていた。
「・・・・・・・・・・・・。」
緑川はその物体の光を受け、爛々と目を輝かせる。
今までに見たこともない物、受けたことのない衝撃。自分の理解と力を超えたものが、煌々と目の前に浮かんでいる。
それはまるで、胎児が産道を通り、初めてこの世の光を見た時のような感動だった。
緑川は思い出す。記憶の片隅に埋もれる、母の産道を通ってこの世に生まれて来た時のことを。
それは感動であり、喜びであり、興奮であり、不安であり、不思議と不気味に満ちた、ある種の卑猥ささえ感じる幸福の瞬間だった。
あの時は恥ずかしく、それと同時に誇らしかった。
謎に満ちたこの世界を、これから歩いて行く。
まだ自我すら芽生えていないのに、そんな感情が胸を満たしていたことを思い出す。
緑川はこの世に生を受けて、二度目の本当の涙を見せた。
生まれてきた時に見せた、生の涙。そして今、またしても生の喜びを感じる涙を流していた。
「すごい・・・・・。」
ポツリと呟いて、煌々と浮かぶUFOを見つめる。
そしてなぜか首狩り刀を振り回し、UFOに斬りかかった。
刀はUFOに当たったが、硬い音を響かせて跳ね返る。
「・・・・・生き物じゃないんだな。」
もしかしたらこのUFOは生きているのではないかと思い、それを確かめたかった。
もしこのUFOが生き物ならば、今の身体を捨ててでも同化したいと思ったのだ。
しかしそれは無理だと悟り、涙は消える。
「おい!」
大声で呼びかけると、UFOから子供が飛んで来た。
『なあに?』
「俺・・・・・これに乗るのやめるわ。」
『どうして?』
「どうしても。」
『乗らないの?』
「乗らない。」
『どうして?』
「・・・・・・乗ったら完全に自分の物にしたくなる。ていうかこのUFOと一体化したくなる。でもそれは無理だから乗らない。」
『変なの。』
「変じゃないよ。欲しいのに手に入らない物を、ずっと見せつけられることになる。そんなの目の前にニンジンを下げられた馬と一緒だよ。」
『・・・・・・?』
「いいよ、理解出来なくても。」
『でも乗ってくれないとお母さんとの約束が守れない。』
「守らなくていいよ。」
『どうして?』
「どうしても。」
『でも約束したから・・・・・、』
「だからいいって言ってるだろ。」
鬱陶しそうにそう言って、「それよりさ・・・・」と笑う。
「俺とパートナーになろう。」
『でもUFOに乗らないと・・・・・、』
「乗らないなら、俺のことをどうするつもりだ?」
『無理にでも乗せろって。』
「へえ。」
『もし断ったら、イナゴに食わせるか、ずっとここに閉じ込めておけばいいって。』
「なら殺すってことだな?」
『分からない。そう言われただけだから。』
「・・・・・・・・・・。」
緑川は口をへの字に曲げて考える。
「もし俺がUFOに乗るのを拒否した場合、アチェは時間を稼ごうとするはずだ。ここに閉じ込めて、その間に沢尻に追いかけさせる。
ならここでUFOに乗るのを拒否したら、結局沢尻に追いつかれるな。」
しばらく考え込み、どうすればいいか悩む。
「・・・・・あのさ・・・・・・、」
『なあに?』
「UFOに乗ればそれでいいんだよな?」
『うん。』
「じゃあ乗り方まで指示されてないわけだ?」
『?』
「とにかくUFOに乗ればいいわけだから、中に乗り込もうが、UFOの上に立とうが、乗ることに変わりはないよな?って聞いてるんだよ。」
『分からない。UFOに乗せろって言われただけだから。』
「なるほど。だったらどこに乗ろうと問題ないわけだ。」
そう言ってニコリと笑い、「乗るよ」と頷いた。
「UFOに乗る。でも中には入らない。上に立ってる。」
『うん。』
「それでいいだろ?乗ることに変わりはないんだから。」
『うん。』
言っている意味がよく分からないという風に、子供は首を傾げた。
するとミントが『悪いこと企んでる』と口を挟んだ。
『悪い目をしてる。ちゃんとUFOの中に乗らないと駄目だよ。』
「なんで?別にどこに乗れなんて言われてないんだぞ?」
『でも乗れっていうのは、中に入ることだと思う。』
「それはお前が勝手にそう思ってるだけ。アチェはどこに乗れなんて言ってないんだから。」
『でも・・・・・、』
「グダグダ言うなら乗らないぞ?」
『ちゃんと中に乗らないと駄目だと思う。』
「しつこい奴だな。」
緑川は子供に目を向け、「あいつがUFOに乗るのを邪魔しようとする」と指さした。
「俺はUFOに乗るって言ってるのに、なんだか気に入らないみたいだ。あいつは悪い奴だよ。」
『分からない。』
「でもこれじゃお母さんとの約束を守れない。そうだろ?」
『うん。』
「じゃああいつをどうにかしないと。だってあいつがいるとUFOに乗れないから。」
『うん。』
「お母さんとの約束を守る為に、あいつをやっつける。ここで大人しく見ててくれる?」
『うん。』
「良い子だな。」
そう言って頭を撫で、ニコリと笑う。
そして次の瞬間には、首狩り刀がミントの頭に刺さっていた。
『イギッ・・・・・・・、』
頭の後ろまで貫通し、茶緑の液体が飛び散る。
「クソ虫が・・・・・くたばれ。」
刀を振り下ろし、そのまま股の間まで切り裂く。ミントは真っ二つに両断されて、左右に分かれながら倒れていった。
しばらくピクピクと動いていたが、やがてまったく動かなくなる。
緑川はトドメとばかりに、細切れに切り裂いた。
「よし!じゃあ邪魔者もいなくなったし・・・・乗ろうか?」
『うん!』
子供は嬉しそうに頷き、宙へと舞い上がる。緑川は地面に転がったケントの死体を睨み、頭を蹴り飛ばした。
「こいつも八つ裂きにしたいけど、身体をバラしたらイナゴが襲って来るかもしれないからな。」
そう言ってもう一度蹴り飛ばし、UFOを見上げた。
「なあ。」
『なあに?』
「ちょっとお願いがあるんだけど、俺に毒針を刺してくれないか?」
『毒針?』
「お前の口の中に、鋭い針があるだろう?それを俺の首に刺して、たっぷり毒を注いでほしいんだよ。」
『なんで?』
「親子だから。親子はそうやって愛情を確かめるんだ。」
『?』
「難しく考えなくていいよ。お父さんに針を刺して、毒を入れればいい。そうしたらたくさん褒めてやるから。」
『分かった。』
子供は近くに寄って来て、緑川の首に毒針を突き刺す。そして言われた通りに毒を注いだ。
「あああああ・・・・・・、」
緑川は痛みにのたうち回るが、「もっと毒入れろ!」と叫んだ。
「そんなんじゃ足りない!ありったけの毒を注げ!」
『うん。』
子供はまた針を刺し、毒を注ぐ。すると緑川の身体に変化が起き始めた。
目は大きく膨れ上がり、虫の複眼になる。頭からは触覚が伸び、背中には羽が生えてきた。
そして身体には白い毛が生えて、UMAへと変貌を遂げた。
『・・・・・・・痛った・・・・・。』
首を押さえながら、ゆっくりと立ち上がる。
『ありがとう。おかげでUMAに戻れたよ。』
『うん。』
『で、お前はもういらない。さよなら。』
手を伸ばし、子供を捕まえる。そして思い切り握りしめた。
『イギャアアアアアア・・・・・、』
『馬鹿だなお前は。俺とアチェの子供ならもうちょい賢くなれよ。』
そう言ってさらに握りしめる。子供は悲鳴を上げ、嫌な音を立てながら潰れていく。
『お・・・・・お父さん・・・・・・悪い奴・・・・・・・、』
『俺が悪いんじゃない。俺を信じたお前が悪いんだよ。』
我が子を地面に叩きつけ、そのまま踏みつける。
『ギャッ・・・・・・・・、』
『土に還れ。』
踏みつけた足をグリグリと動かし、すり潰すように蹴りつける。
子供は何もかもぺちゃんこにされて、潰れた身体が地面に張り付いていた。
緑川は無感情のまま子供の死体を眺め、『虫の子供なんかいらないよ』と言った。
『さて・・・・・、』
UFOを睨み、空へと舞い上がる。そしてUFOの上に乗ると、先端にある人の顔らしき像を見つめた。
『このUFOは生き物じゃない。でもあれは生き物だ。』
そう言って人の顔の像に近づき、『ムメ・アラン?』と呼んだ。
『お前が王だろ?』
返事はなく、像は何の反応も示さない。
『このUFOにお前の意識が宿ってるんだろ?出て来いよ。』
顔の像まで近づき、首狩り刀を向ける。
すると青い目が何度か点滅して、UFOはゆっくりと動き出した。
『お前・・・・この星から飛び出すつもりなのか?』
『・・・・・・・・・・・・。』
『もしかして、宇宙を旅するのに充分なエネルギーが溜まっちゃったの?』
『・・・・・・・・・・・・。』
『また宇宙へ飛び出して、どこか別の星へ行くつもり?』
『・・・・・・・・・・・・。』
『今度はいつ戻って来るの?』
『・・・・・・・・・・・・。』
『もう帰って来ないつもり?』
王は何も答えず、ゆっくりと動いて行く。そして青い目から強烈な光を放つと、眼下にいたイナゴの群れを一瞬で焼き払った。
『すご・・・・・。』
数十万の巨大なイナゴが、たった一発の光線で灰に還る。
そして大地に横たわっていたケントの死体も、イナゴの群れに混じって焼き払われた。
緑川は息を飲みながらその様子を見つめる。すると王はまた目を光らせて、ケントの生み出したこの空間そのものを焼き払った。
辺りは眩い光に包まれ、青い炎がほとばしる。
空間は灼熱の炎に焼かれ、水泡のように消えていく。
ケントの空間が消えた先には、亀池山の景色が広がっていた。王はその景色ゆっくりと昇っていく。
『お前やっぱり地球から飛び去るつもりなんだな。』
離れていく大地を見つめながら、緑川は像の傍に座った。
『俺さ、生きてるのは自分だけって思ってるんだけど、お前はどう思う?これって正しいと思う?』
『・・・・・・・・・・・・。』
『なんかさ、みんな作り物に見えるんだよな。全部が嘘臭く感じるんだよ。お前はどう思う?』
『・・・・・・・・・・・・。』
『おいムメ・アラン。お前に聞いてんだぞ。なんか答えろよ。』
『・・・・・・・・・・・・。』
『喋れるだろ?なんか言えよ。』
そう言って刀で突くと、また目が光った。
『俺も焼き尽くすつもり?』
王の目は何度も点滅し、空に閃光が走る。
その時、像の上に、ぼんやりと人間の姿が浮かんだ。
一糸纏わぬ姿に、長い黒髪が乱れている。顔は緑川によく似ていて、じっとこちらを睨んでいた。
『・・・・・・・・・・。』
それは幻のように一瞬で消え去ったが、緑川の目に強烈に焼き付いた。
あれは間違いなく墓場の王、ムメ・アランの姿であると。
自分とよく似た顔をしていて、まるで鏡を見ているかのようだった。
しかし目だけは異なっていて、王の目はとても明るかった。
この世に満足しているような、至福の中にいるような、生まれてきてよかったと思えるような、とても明るい目をしていた。
その目は緑川と対照的で、だからこそ鮮明に彼の姿が目に焼き付いた。
緑川は思う。王はもう一人の自分なのだと。
もし自分が先にUFOと出会っていたら、きっと自分こそが・・・・・。
『王は・・・・・・ちょっとだけ故郷に帰りたかっただけなんだろうな。でも間違ってアチェの家族を死なせて、だからしばらくこの星に留まった。
多分すぐ飛び去るつもりだったんだ。アチェの家族さえ死ななかったら・・・・・・。』
緑川は首狩り刀を持ち上げ、『全部人間が始めたことだ』と言った。
『王はきっと・・・・自分の身体を復活させようとしたんじゃなくて、アチェの家族を生き返らせようとしてたんだ。
でもアチェはそうは思わなかった。家族を殺されたと思ってるから、どうにかしてそれを生き返らせようとして・・・・・・。
そこにペケが絡んできて、ケントが絡んできて、ミノリが絡んできて、そして俺が絡んできて・・・・・みんな元々人間じゃないか。
そうやってたくさんの人間が関わって来て・・・・・すごく単純なものを、複雑にしてただけなんじゃ・・・・・・、』
王の真意は分からない。しかし王の幻を見た時、なぜかそんな思いが湧いてきた。
UFOはゆっくりと飛び続け、やがてその動きを止めた。
そして底の部分が開き、大量の髑髏をばら撒いた。
『あれ・・・・もしかしてUMAを作るのに吸い込んだ人間か?』
髑髏の数は2000個以上にもなり、大地がポツポツと白く染まっていく。
緑川は自分の子供が言っていた事を思い出し、『ああ・・・この星には戻って来られないってこういうことか』と納得した。
『中に入ったら最後、俺もああなってたわけだ。』
アチェの企みを知り、思わず笑ってしまう。
『捨てると見せかけて、しっかり殺すつもりだったんじゃん。ほんっと油断のならない奴。』
そう言って笑っていると、UFOは陽炎のように薄くなっていった。
『あ、「向こう」へ行くの?』
『・・・・・・・・・・・・。』
『もうこの星も見納めだな。どうせ戻って来ないだろ?』
『・・・・・・・・・・・・。』
『まあ戻るも戻らないも、好きにしたらいいよ。ここはお前の故郷なんだし。』
UFOはゆっくりと消えて行き、「向こう」へと去ってしまう。
緑川は宙へ羽ばたき、『バイバイ』と手を振った。
結局UFOを手に入れることは出来ず、王の心臓と脳も奪われてしまった。
『・・・・これからは自分の力だけでどうにかしなきゃな。』
いずれ沢尻が追って来る。それもアチェと一緒に。
ならばこのままだと必ず殺されると思った。
『首狩り刀・・・・また大きくしないと。』
折れた首狩り刀を見つめ、『あ・・・』と何かを思いつく。
『あれ使えないかな。』
大地に落ちた髑髏を睨み、『あれだけあれば・・・・』と頷く。
『上手くいくか分からないけど、やってみる価値はある。』
本当ならば「向こう」へ行って人の首を落としたかったが、それは沢尻の思うツボだろうと思った。
下手に戻れば、今度は大部隊で戦いを挑んでくる。かといって「こっち」へ逃げても首狩り刀は大きく出来ない。
やがては人間と化け物の双方から挟み撃ちにされ、殺されることは目に見えていた。
『もし上手くいけば、今までにないくらいに刀を大きく出来る。化け物もアチェも・・・・そして沢尻も全員壊してやる。』
そう言って、大地を白く染める髑髏へ飛んで行く。
王はこの星からいなくなる。だったら今度は、自分が王になればいいと思った。
『生きてる限りは、人生はやり直せる。邪魔な物を全部壊したら・・・・・・ちょっとだけ善人になってみよう。ムメ・アランに近づけるかもしれない。
そうすれば、今度アイツが戻って来たとき、一心同体になれるかも。』
大地に広がる髑髏は、王が残してくれた生まれ変わりの希望。
緑川の目には、光り輝く宝石のように映っていた。

calendar

S M T W T F S
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930     
<< September 2019 >>

GA

にほんブログ村

selected entries

categories

archives

recent comment

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM