グレイヴ&リーパー〜墓場の王〜 第七十三話 石ころと命(1)

  • 2016.04.12 Tuesday
  • 09:31
JUGEMテーマ:自作小説
「向こう」は騒然としていた。
なぜなら亀池山の上空に、巨出なUFOが現れたからだ。
空母のような巨大さ、太陽のように眩い光。
しかもその光は白銀に輝いていて、船体の先には人の顔の像が付いている。
これを見て平静を装うことの出来る人間はいなかった。
UFOは大きく、遠く離れた避難所からも見ることが出来る。
報道のカメラがその姿を捉え、テレビやネットの画面で見ることも出来た。
興奮する者もいれば慄く者もいて、中には神を拝むように祈りを捧げる者もいた。
UFOはゆっくりと動きながら、我が物顔で空を舞う。
山の周りを旋回するように、孤を描いて飛んでいた。
自衛隊の戦闘機はすぐにスクランブル発進して、UFOを攻撃の射程内に置いていた。
四機の戦闘機がUFOを囲うように飛び回り、交信を試みる。
しかし返事はなく、警戒態勢を保ったまま飛び続けるしかなかった。
このUFOが超文明の産物であることは、誰に目にも明らかである。
戦いを挑んでも勝ち目は薄く、かといって交信も出来ない。
事態がどう転ぶかは、このUFOの行動次第だった。
日本政府はすぐに閣僚会議を開き、今までの亀池山の事件を鑑みて、もしもの事態に備えて大部隊を投入することにした。
沢尻の話から、あのUFOこそが一連の事件の原因であることは分かっていた。もし暴れられたら、甚大な被害をもたらすことになる。
政府は米軍に協力を頼んだが、あっさりと断られてしまった。
理由は二つあって、一つは前回の戦いで大きな被害を被ったことにある。
自分の国にアレが現れたのなら別だが、他国の為に前回のような被害を被ることは出来ないと言われたのだ。
もし共闘を願いたいのなら、まずは自衛隊が戦い、敵の行動や能力を見極めてからにしろと言われた。
そして二つ目は、新開発した化学兵器を使用したことが、マスコミによってバラされてしまった為だ。
そのニュースは本国にも伝わり、大きな批判を呼んだ。
ベトナムやイラクだけでなく、日本まで戦場に変えてしまう気かと、反戦論者から激しいバッシングを受けた。
化け物を退治するのだから、これは正当な戦いだと主張する声も多かったが、アメリカとしては日本の為に世論を混乱させる気にはなれなかった。
化け物を潰したところで、何かメリットがあるわけでもない。
もしあのUFOがアメリカにとって有益なものならば、それは協力しても構わないと思っていた。
しかし今の時点では、敵か味方かの判断すらつかない。
アメリカはしばらく静観することに決め、その代わりとして、他国がこの件で日本に干渉してくるのを抑えてくれると約束した。
日本は自分たちの力だけで、有事の際に備えなければならなくなった。
もちろん事態が悪化すればアメリカは手を貸してくれるだろうが、そうなるまでの間には、大きな犠牲を払う。
前回の戦いでは、自衛隊も米軍もほぼ壊滅状態に追い込まれた。
ならばもう二度と同じ轍を踏むわけにはいかず、大きな戦力を投入することに決めた。
前回の戦いでは一個中隊規模だったが、今回はもっと大規模な部隊を投入することにした。
使える武器も大幅に広げ、戦争でもするかのような部隊と装備を投入することにした。
しかし戦力が大きくなればなるほど、動きは鈍くなる。
もしもあのUFOが攻撃を仕掛けてきた場合、戦力を集結させる前に、大きな打撃を受けることは目に見えていた。
だから先行部隊として、鏑木が率いる一個中隊、そして沢尻と東山もそれに同行した。
戦車と歩兵、それに装甲車や自走榴弾砲が、亀池山の麓を目指していく。
上空には戦闘ヘリも飛び、応援の戦闘機も駆け付けた。
山の麓へ続く一本道を、自衛隊の車両が列を作って進んでいく。
のどかな田園、ポツポツと並ぶ民家、そんな中を、轟音を立てながら行進していく。
それは場違いな光景にも見えたが、遠くの山には巨大なUFOが浮かんでいる。
景色の中には元々場違いな物体が浮かんでいて、人々の目は全てそちらに向ている。
誰も自衛隊の行進など見てはいなかった。
沢尻と東山は、その列の中にいた。装甲の施された輸送車の椅子に揺られていた。
亀池山へ続く道は、川沿いに遠くまで伸びている。
すぐ横は土手になっていて、河童やチュパカブラの棲む川が流れている。
沢尻は防弾ガラスの窓からその様子を眺め、瞳に川や山を映す。
亀池山は別の山々と連なっていて、その山は遥か遠くまで伸びている。
草木が茂り、木立が鬱蒼としている。
傍を流れる川は、護岸工事が施されている。逞しい植物の種子が、コンクリートの隙間から芽を覗かせていた。
地方ならばどこにでもある光景、どこにでも目にする景色。
しかしこの変哲のない景色の「向こう」には、化け物が蠢く世界が重なっている。
沢尻は遠くに浮かぶUFOを見ようと、ふと上に目をやった。
すると亀池山から続く稜線の上に、陽が重なっているのが見えた。
稜線から半分だけ顔を出し、鋭い陽射しを投げかけている。
沢尻は目を細め、向かいに座る東山に視線を移した。
「化け物は共闘してくれるんだな?」
そう尋ねると、東山は「ああ」と答えた。
「お前が言っていた河童モドキとやらが、こちらの申し出に応じてくれたよ。緑川を討つために、自分たちも戦うと。」
「そうか・・・・。」
「緑川は完全に追い詰められている。人間も化け物も敵に回し、そして・・・・・UFOを乗っ取ることにも失敗した。」
「だな。もしあいつが乗っ取てるなら、UFOはとうにこの星を去ってる。これみよがしに「こっち」で遊覧することもないだろう。」
「あいつはもう何もかも失ってる。きっと王の心臓や脳でさえ失くしてるはずだ。」
「お前もそう思うか?」
「UFOが乗っ取れなかったってことは、そういう事なんだろう。しかし不思議だな。そこまで追い詰められても、なぜかあいつが死んでるとは思えない。
根拠はないが、確信が持てないんだ。」
「お前も「向こう」で戦ううちに、だんだんとそういう勘が備わってきたみたいだな。」
沢尻は可笑しそうに笑う。しかし東山は「そんなもんは欲しくないな」と言い捨てた。
「俺は人間だ。お前らの仲間入りなんぞしたくない。」
「俺だって今は人間だぞ?」
「馬鹿を言うな。お前の中にはアチェが宿ってるんだろう?」
「まさか。」
「緑川はそう言ってたじゃないか。あいつが見誤るなんて考えられない。」
東山は鋭い目を向け、「どうなんだ?アチェはまだ生きてるのか?」と尋ねた。
「はっきり言ってあの女も信用出来ん。あいつだってある意味ミノリと同様だ。目的の為なら手段を選ばない化け物だろう?」
「確かにそうだが、しかし彼女はもう生きてはいない。俺の中に彼女はいないよ。」
「しかし緑川はそう言って・・・・・・、」
「残り香だ。」
「何?」
「アチェはもういない。・・・・俺が生き返ったのは、彼女の残り香がそうさせただけだ。」
そう言って窓の外に目をやり、「アチェは自分で死を選んだ」と呟いた。
「俺が生き返った時、確かに彼女の存在を感じた。しかし今はまったく無い。」
「・・・・・自分で死を選んだって・・・・・あいつがそんな事をするか?」
「アチェはきっと、王の脳のおかげで思念だけ保ってたんだろう。それを緑川が吸い込み、ミノリが吸い込んだ。
彼女は死んでなんかいなかったんだ。ただ・・・・チャンスを窺っていた。」
「チャンス?」
「緑川を討つチャンスだよ。アチェだって気づいてたはずだ。ミノリよりも、緑川の方が遥かに厄介だと。そして緑川を倒すには、あいつを孤立させる必要があった。」
「なるほど。もしミノリが生きている状態だと、いつ邪魔をしてくるか分からないってことか?」
「ああ。緑川を倒す上で、ミノリは障害になる。俺たちが争っているうちに、漁夫の利とばかりにUFOや王をかっさらう危険があった。
だからまずはミノリを潰す必要があった。しかしその途中で俺がくたばっちまった。これはアチェとしては頂けない事だ。
だからわざわざミノリの中から出て来て、俺を生き返らせるのに力を貸したってわけだ。」
「じゃあもしお前が死んでいなければ、アチェがミノリを殺していたと?」
「おそらくな。王の脳を吸い込んだ時点で、アチェはミノリの中に宿ることになる。」
「王の脳には、死者を宿らせておく力があるのか?」
「死者じゃない。意識だ。」
「違いが分からん・・・・。肉体が無くなれば、死んだも同然だと思うが。」
「でもそう考えるとしっくり来る。アチェは王の脳を宿していたから、その力を知っていたんだろう。対してミノリは、王の脳の力を知らない。だから安易に吸い込んだんだ。」
「なら・・・・それはアチェの思うツボだったと?」
「だと思う。アチェはミノリの頭に入り込み、中から乗っ取るつもりだったんだ。完全には無理だとしても、半分くらいなら操れるかもしれない。
そうなれば、ミノリは本来の力を発揮出来なくなる。そんな状態で戦えば、緑川に殺されるか、人間に討たれるかのどっちかだ。」
「・・・・そうやってミノリを死に追い込み、緑川を孤立させる。あとは俺たちと化け物が手を組み、緑川を討てばいいと?」
「そうだ。今までのことは、全てアチェの手の平の上ってわけだ。」
「・・・・化け物の描い絵に、俺たちは踊らされていたのか・・・・・。」
「孤立した緑川を、人間と化け物で挟み撃ちにする。今、まさにそういう状態になってる。アチェの思い描いた通りになってるんだ。
だから・・・・彼女は死んだ。もう役目を終えたとばかりに、俺の中から消え去ったよ。」
「・・・・・・・・・・・。」
「アチェは最後の最後、俺を生き返らせるのに力を使った。本当ならミノリを乗っ取るのに使うはずだった力を、俺に託したんだ。」
「・・・・だから残り香か。」
「ああ。」
「そしてすぐに消えたと?」
「そうだ。だから今の俺は普通の人間だ。お前が嫌うような化け物じゃないぞ。」
沢尻は稜線の陽射しに目を細める。なんの変哲もないこの山が、どうしてここまで大きな騒動を巻き起こすことになったのか?
それは化け物のせいか?UFOのせいか?それとも「向こう」という世界があるせいか?
答えははっきりしなかったが、それでも分かることがあった。
ここまで凄惨な事件になってしまったのは、多くの人間が関わってしまったからだろうと。
ペケもアチェも元は人間で、それは「墓場の王」でさえ同じだった。
元は人間だった者、今でも人間のままの者、そうやって多くの人間が関わってしまった為に、大量に死人を生み出す騒ぎになってしまった。
誰もが触れてはいけない物に手を伸ばし、しかもその場所から離れようとしなかった。
沢尻は考える。
この凄惨な事件の一番の原因は、『静観出来る人間』が一人もいなかった為だろうと。
遥か昔、ムメ・アランという一人の人間が、UFOによって連れ去られた。
彼を連れ去った異星人は、すぐにムメ・アランを地球へ戻してやるつもりだったのだろうと思った。
争いや嘘を知らなかったというその異星人が、ムメ・アランを酷い目に遭わせるとは思えない。
興味本位でこの星に立ち寄り、興味本位で人間に触れてみただけ。
だから騒ぎを起こすつもりなど毛頭なかっただろうと。
しかしムメ・アランはUFOを乗っ取った。異星人に殺し合いをさせ、大きな力を我が物とした。
そしてよせばいいのに、何の気紛れかこの星に戻ってきた。挙句の果てには、着陸に失敗して人身事故まで起こすという始末。
その事故が元で、アチェが関わり、ペケが関わり、ミノリが関わり、そして緑川や自分が関わった。
まったくもって人間とは、いらぬ騒ぎばかり起こす生き物だなと自嘲した。
「・・・・なんで人間ってのは、静観することが出来ないんだろうな?」
その呟きに、東山は眉を寄せる。
「もしかしたら・・・・もしかしたらだが、この騒動に関わった人間の、誰か一人でも静観していることが出来たなら、ここまでの騒ぎにはならなかったんじゃないかと思うんだ。」
「それはどうかな?俺たちのうちの誰かが静観していたとしても、他の誰かが関わるだけだ。」
「・・・・正論だな。結局人間は、何にでも首を突っ込んで、何にでも手を触れたがる、子供みたいな生き物なのかもしれない。
その好奇心で何度も痛い目を見てるはずなのに、態度を改めようとしない。戦争しようが、自然を破壊しようが、そんなのは時間と共に忘れやがる。
頭が割れるほどの二日酔いになったって、三日もすりゃまた大酒を喰らうんだ。・・・・学ばない。いや、学んでもすぐ忘れる。それが人間だよ。」
自嘲でも自虐でもなく、沢尻は本心からそう言った。
悪いのはUFOでも化け物でもなく、尽きることのない好奇心を抱く人間だと。
欲望とも違う、思想や信念とも違う。
何かに興味を惹かれ、手を伸ばして触れてみる。
そんな些細な好奇心こそが、人間の持つ一番の毒なのではないかと。
動物も植物も、そして化け物でさえも、不要なことはほとんどしない無精な生き物である。
なのに人間だけが、無用な事に力を注ぎ、無用な事に手を伸ばす。
人間を死に誘う一番の毒、それこそが好奇心。そしてその好奇心は、人間が人間である限り消えることはない。
陽射しに目を細めながら、死にもの狂いでこの事件を終わらせたところで、それがいったい何になるのだろうと考えた。
もしかしたら、緑川を仕留めることは可能かもしれない。
しかし先ほど東山が言った通り、誰かが静観しても、他の誰かが手を触れたがる。
だからいつかまた、緑川やミノリのような者が現れ、世を乱す災いを振り撒くのだろうと思った。
「人が死に・・・・恐怖と悲しみが広がって・・・・俺たちみたいな奴がそれを阻止しようとする。ずっと昔から続いている構図だ。何も変わりやしないのかもな・・・・。」
すると黙って聞いていた東山が、面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「刑事を辞めて哲学者にでもなるか?」
「ん?」
「ほら、ニーチェとかいう哲学者は、そうやって頭がイカれて自殺したんだろう?だからお前も哲学者になるのかと聞いてるんだ。」
「まさか、自殺は望んでいない。ただ同じ事を延々と繰り返して、それに何の意味があるのかと・・・・・、」
「生きている。」
「・・・・・?」
「こんな大きな騒動に巻き込まれ、化け物や死神と戦いながらも、俺たちは生きている。死んでるわけじゃないんだ。」
「そうだな。誰が見ても当たり前のことだ。」
「その当たり前ってやつを、俺たちは大事にしなきゃいけない。当たり前が当たり前じゃなくなったら、死人が生きて、生きてる人間が死んだような世界になっちまう。」
「・・・・・・・・・・。」
「そんな世界はごめんだよ。死人が生きてる人間を押しのけて、我が物顔で歩く世界なんて・・・・まだミノリや緑川と戦ってた方がマシだ。」
そう言って、沢尻の後ろにある窓を睨んだ。
流れて行く景色を見つめながら、沢尻と同じように目を細める。
「俺たちは生きている。当たり前のことだが、でもそれは大事なことなんだ。なぜ大事かというと、俺たちにはやるべき事があるからだ。
ペケも死に、ミノリも死に、アチェまでくたばったってのに、まだしぶとく生き残ってる奴がいる。しかもそいつは、誰からも嫌われる恐ろしい死神だ。
そいつを生かしておいたら、きっと当たり前の事が当たり前じゃなくなる。だから俺たちは、緑川を仕留めなきゃいけない。こうして・・・・当たり前に生きてるんだから。」
東山は銃を握りしめ、「あいつにこの弾丸をぶち込むまでは死ねん」と言った。
「それはお前だって同じはずだろう?その歪な刀で、あいつの首を刎ねるまでは死ねないはずだ。」
そう言って沢尻の持つ肉挽き刀に目を向ける。さらにその隣には、骨切り刀が横たわっていた。
刃は茶色く錆び始め、足で踏んだだけでも折れそうなほど腐っていた。
「その刀は、生き物に似た性質があるんだったな?確かミノリの分身から出来るんだとか?」
「ああ。」
「あれだけ強い武器だったのに、酷い有様だ。俺の家の包丁よりも錆びてやがる。でもまだ形は成している。全身が錆びに侵されても、まだ武器として形を残してる。
死人になって生きるってのは、きっとそういうことだ。見ちゃいられないくらいに、汚くておぞましい事なんだ。」
「やけに語るな。もっと寡黙な男だと思ってたに。」
沢尻は小さく笑いかける。東山は憮然と鼻を鳴らした。
「そうだな。普段はこんなにペラペラ喋るわけじゃない。でもな、腑抜けみたいなことを言うお前なんざ見たくない。今のお前は、腐りかけた骨切り刀と同じだ。
どんなに切れ味が鋭くても、そんなんじゃ戦えないだろう?」
「・・・・・・・・・・・。」
「これから緑川と最後の喧嘩をしようってんだ。泣き言みたいな屁理屈は聴きたくない。」
そう言って沢尻から視線を逸らした。
「なあ沢尻・・・・。」
東山はそっぽを向いたまま尋ねる。
「ん?」
「友達少ないだろ?」
「よく分かるな。偏屈だし、それに理屈っぽいんで鬱陶しがられる。」
「だろうな。」
東山は目を動かし、チラリと沢尻を見る。
「もし緑川を仕留めたら、いくらでも屁理屈を聴いてやるよ。酒でも飲みながら。」
そう言ってほんの少しだけ笑い、すぐに真顔に戻った。
沢尻はポリポリと頭を掻き、「お前も友達が少なさそうだな」とにやけた。
「うるさい。友人なんてのは、本当に信頼できる奴だけでいいんだ。馬鹿みたいに集まって騒ぐのは好きじゃない。」
「ならこれが終わったら飲みにでも行くか?飲み代はあの長官の名前で領収証を切っとけばいい。」
「そりゃ名案だな。」
冗談を飛ばしながら。二人は子供のように笑い合った。しかしすぐに静けさが戻る。
「・・・・河童モドキはこっちの動きに合わせるとさ。」
東山がポツリと呟く。
「そうか。なら俺たちは好きに暴れていいわけだ?」
「ああ。今お空を飛んでるUFOは問題じゃない。あんなもんは、ほっときゃいずれいなくなる。」
「だろうな。駅のホームで立ち尽くしながら、旅立つ故郷を眺めてる感じだ。多分もう・・・・戻って来ないだろう。」
「あれが消えたら、すぐに緑川は動くだろう。そうなったらやる事は一つ、奴の頭に弾丸をぶち込むか、その刀で首を削ぎ落としてやるかだ。」
「肉挽き刀・・・・ペケの形見だ。きっと力を貸してくれるさ。」
「そうだな。それに骨切り刀だってある。もう腐りかけてるが、それでも斬れることは斬れるだろう。きっとミノリの怨念が宿ってる。役に立ってくれるぞ。」
「俺にはこれがある。骨切り刀は譲るよ。」
そう言って腐りかけた骨切り刀を摘まみ上げ、「ほら」と渡した。
「お前・・・・・そんな事やってるから友達が少ないんだよ。」
東山は顔をしかめながら受け取る。
沢尻はニコリと笑い、また窓の外に目を向けた。
陽は少しずつ顔を出し、稜線の上へ昇っていく。その光は強烈で、窓から突き刺すような光が射し込んできた。
その向こうには、もう一つ激しい光を放つ物がある。
白銀の輝きを放つ巨大なUFOが、ゆっくりと空を昇っていく。
二つの光が地上を照らし、大地が鏡のようにそれを反射する。
山の麓には、それと対比するように強い影が伸びていた。
光が強くなればなるほど、影も濃くなる。
二人の目には、その影が死神のおぞましい鎌のように思えた。


            *


沢尻達が麓へ向かっている頃、「向こう」では化け物たちが集結しつつあった。
亀池山から連なる、南の方へ長く伸びる山々。
その山々の中で、一等高い頂上に河童モドキがいた。
ペケの頭を掲げ、『グェッ、グェッ!』と喚いている。
その喚きに呼応するように、続々とUMAや妖怪が集まってきた。
ウェンディゴ、煙々羅、ツチノコにのっぺらぼう。スカイフィッシュに巨大ムカデに、モスマンにオボゴボ。
それにチュパカブラや河童に、牛鬼やドッペルゲンガーにミルメコレオ。
他にも多くの化け物が集い、河童モドキの周りを取り囲む。
山の頂上には千匹近い化け物が集まり、河童モドキの掲げるペケの頭に目を向けている。
妖怪にとっての英雄、そしてミノリから捨てられたり、殺されそうになったUMAも、ペケに護られてきた。
ペケはいつだって弱者の味方で、いつだって世の中から弾かれた歪な者達の味方だった。
人間でさえ、ペケに救われた者は大勢いる。
彼のマントに宿っていた人間の思念は、変人や狂人のレッテルを張られて、医療の名の元に拷問を受けていた者達である。
世の中から弾かれる、迫害される、傷つけられる。
そういう者達にとって、ペケこそが唯一の理解者だった。
彼こそが弱者の希望であり、光であり、崇拝に値する神であった。
その神を殺した人間、緑川鏡一。
ペケに護られてきた者達にとって、緑川は絶対に許すことの出来ない存在だった。
かつて妖怪とUMAは対立し、激しく争っていた。
しかしペケの登場で、それは終わった。
ミノリによる妖怪への迫害は無くなり、UMAと妖怪の争いは終わった。
小さな争いやいざこざは今でもあるが、種族を挙げての戦いは無くなった。
完全な対立は血を流すだけで、だからといって完全な共生も互いの良さを失ってしまう。
付かず離れず、お互いのテリトリーを侵さず、必要のない争いはなるべく避ける。
戦いの末に見出した、お互いにとって最も良い距離。
これを維持することこそが、妖怪にとってもUMAにとっても大切なことだった。
そしてその象徴となるのが、河童モドキである。
妖怪とチュパカブラの雑種であるこの生き物は、UMAでありながら、妖怪でもある。
この変てこな生き物こそが、二つの種族を繋ぐ架け橋であり、共存を守る秩序となる。
この山にいる全ての妖怪とUMAは、河童モドキを頂点とし、長くこの地で生きていこうと決めた。
そして本来ならば、ペケの加護の元にそれを成そうとしたが、そのペケはもういない。
これからは自分たちの力だけで、お互いにとって最良の世界を守っていかなくてはならなくなった。
河童モドキはペケの頭を掲げ、士気を高めるように鳴き続ける。
千匹近い化け物たちも、声をそろえて雄叫びを挙げる。
そしてその頭上には、黒く輝く太陽が浮かんでいた。
それはとても巨大で、王のUFOと変わらないほどの大きさをしている。
激しく燃え上がり、黒い光を山に投げかけている。
しかしその姿は、どこか儚く、燃え尽きる寸前のロウソクのように、激しい炎を放っていた。
黒い太陽はもうじき死を迎える。
最後の輝きを放ちながら、宙へ分散して消えていく。
しかしそうなる前に、この太陽にはやるべき事があった。
それは「こっち」の世界を維持すること。
王の宿ったUFOがこの星から飛び去ろうとしている今、「こっち」はじきに消滅する。
しかしそうなると、せっかく築き上げたUMAと妖怪の共存関係も崩れてしまう。
この星には「こっち」と似た世界は幾つもある。
この星に降り立った異星人が、自分たちの居場所を確保する為に作り上げたものだ。
それは互いに干渉しないように成り立っていて、行き来をするのにも一苦労する。
それはさながら、地球で多くの国が成り立ち、国境を自由に超えられないのと同じだった。
しかしこの場所のように、妖怪とUMAの共存が築かれている所は少ない。
王が生み出した「こっち」の世界は、地球に幾つものある「こっち」の見本になれるものだった。
こうやって異なる種族も共存可能なのだと、異星人同士の間にも友好関係を築かせることが出来る。
かつては自分も地球外生命体だった黒い太陽は、異星人同士がこの星で仲良くしてくれることを願っていた。
幸い今まで大きな争いは起きていないが、一度衝突が起きれば、この星の文明などあっという間に吹き飛んでしまうからだ。
黒い太陽はこの星を愛していて、出来るならずっと今のままの美しい姿であり続けてほしいと願っている。
その為には、「こっち」の世界を維持する必要があった。
ムメ・アランが築いた、UMAと妖怪が共存できる素晴らしい世界。
ならば命を賭してでも、それを守りたかった。
自分自身が緑川の討伐に参加するつもりはない。緑川を倒せるかどうかは、妖怪やUMA、そして人間に託すつもりだった。
彼を倒せるかどうかは、妖怪やUMAにとっての試練であり、人間にとって人知を超えた物に対する免疫になる。
自分が出ていってカタを付けるのは楽だが、それはこの星の住人にとって、良いことではないのだ。
自分のやるべきことは、「こっち」の世界を残すこと。
ムメ・アランが生み出した、妖怪とUMAが共存できる素晴らしい世界を維持する事にこそある。
黒い太陽は光を放ち、妖怪やUMAに祝福を与える。
その光を受けながら、化け物たちは黒く輝く。するとそこへ、東山とパートナーを組んでいるドッペルゲンガーがやって来た。
『・・・・・・・・・・・。』
ドッペルゲンガーは伝える。
人間たちが緑川の討伐に向かうので、呼吸を合わせろと。
化け物たちは奇声を上げ、ペケの頭に祈りを捧げる。
そして河童モドキを筆頭に、緑川のいる亀池山の頂上を目指していった。
長い行列を作りながら尾根を歩き、まるでお祭り騒ぎのように奇声を挙げる。
歪な姿をした生き物たちが、己の世界を勝ち取ろうと、死神に戦いを挑みに行く。
黒い太陽は、その行列の一番最後をついて行った。
化け物たちの行く先に黒い光を照らしながら、殿を務めるようについていく。
その光景はまるで、百鬼夜行のようであった。
異界の者達、歪な姿をした者達、それらがパレードのように行進していく。
百鬼夜行の絵には、一番最後に真っ赤な太陽が描かれている。それは妖怪たちが去った後の太陽を示している。
陽が昇り、妖怪が人間の世界から去っていくことを意味している。
しかし今、この場に浮かんでいるのは黒い太陽である。夜明けを意味する真っ赤な太陽ではない。
黒い太陽は、真っ赤な太陽とは対照的に、闇をもたらす存在である。夜明けを黒く染め、いつだってこの世界が夜である為の光である。
殿を務める黒い太陽がもたらすもの。それは夜明けではなく、歪な者達がいつまでも生きられる、常闇の世界であった。
夜を運ぶ黒い太陽に見守られながら、化け物たちは死神の元を目指す。
この世界から、いつまでも夜が終わらないように、そして闇が失われないように、全てに厄災もたらす死神を討伐しにいく。
ペケの頭を掲げ、黒い太陽に見守られながら、百鬼夜行は亀池山へ向かって行った。

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