グレイヴ&リーパー〜墓場の王〜 第七十四話 石ころと命(2)

  • 2016.04.13 Wednesday
  • 09:36
JUGEMテーマ:自作小説
誰にだって疑問はある。不思議に思うことはある。
特に幼い子供の頃は、何もかもが不思議に見える。
虫捕りの最中に妖精を見たとか、知らない道を歩いていたら、別の世界へ出たとか。
それらはただの錯覚に過ぎないが、万物を不思議に思う心は、確かにある。
緑川鏡一は、亀池山の頂上で幼い頃を思い出していた。
この世が不思議に満ち、何もかもが未知なる世界に映っていた時のことを。
思えば物心ついた時から、強烈にある疑問を抱いていた。
『命って何だ?』
命とは生き物がもつモノであり、それを失うと死ぬ。
歳と共にそれを理解するようになったが、実感がなかった。
自分はこうして生きていて、他人も同じように生きている。
息をして、飯を食って、風呂に入ったり買い物をしたりする。
それは生きているから出来ることであって、死ねば何も出来なくなる。
でも・・・・本当にそうなのか?
死んでしまうと、本当に何も出来なくなるのか?
逆に、生きていると何でも出来るのか?
命さえあれば、どんな願いでも叶えることが出来るのか?
そんな疑問は子供心に強く残り、消えることのないままに大人になった。
やがてナイフ好きが高じて、それで人を殺してみたくなった。
生きている人間を殺すとどうなるのか?
ナイフを実戦で使いたいという欲求と共に、そういう思いも抱いていた。
しかし人を殺したところで、何も理解出来なかった。
殺せば確かに動かなくなるが、それは機能を停止しているからであって、壊れた機械と大差ない。
一人殺しても二人殺しても、壊れた機械のように動かなくなるだけ。
やがて緑川は、命というものに懐疑的になった。
『自分以外の生き物は、本当に命を持っているのか?』
そういう疑問が湧き上がり、周りは全て作り物にしか見えなくなった。
しかし心のどこかで、生きているのが自分だけのはずがないと思っていた。
だがそんなわずかな思いは、アチェとの出会いで変わってしまった。
彼女に導かれ、「こっち」で戦うようになり、数多くの化け物を切り裂いた。
そして首狩り刀を大きくするために、何百人という人間の首を刎ねた。
戦えば戦うほど、殺せば殺すほど、相手はただ動かなくなるだけ。
死んだ肉体は人形のようで、ただの物にしか見えない。
そうやって多くの命を刈り取っていくうちに、緑川はなるほどと思い当たった。
生き物というのは、何度殺しても、そして幾つ殺しても、結局は壊れた機械のように動かなくなるだけなのだと。
ということは、どんな生き物も命など持っておらず、まるで生き物のように振る舞っているだけの、機械人形なのだと。
確かにどの生き物も、自分と同じように息をして、飯を食い、痛みを感じたり苦しんだりする。
しかしそれは、そうプログラムされただけの、安易な機械なのだと気づいた。
『自分以外のすべての命は紛い物。生き物に似せて作られた、ただの人形』
そんな人形を誰が作ったのかは知らないが、そんな事はどうでもよかった。
神だろうが仏だろうが、悪魔だろうが異星人だろうが、人形の作り主などどうでもいい。
問題なのは、自分以外のすべてのモノは、命など持っていないという事だった。
この宇宙がどこまで広がり、どれだけの星に生き物がいるのかは分からない。
しかし少なくとも、今この地球上においては、自分以外に生き物などいないと思っていた。
自分はこの星でたった一つの生命。それは何にも代えられない素晴らしいものである。
であるにも関わらず、その素晴らしい命を奪おうとする者達がいる。
ただの人形のくせに、この星でたった一つの命を刈り取ろうと目論む者達がいる。
緑川は頂上の崖に立ち、南へ連なる山々を睨んだ。
そこには黒い太陽が浮かんでいて、その下を化け物どもが行進している。
まるで百鬼夜行のように、うるさいほど喚きながらこちらを目指している。
『作り物のクセに・・・・・、』
命を持たない人形たちが、何を勘違いしてか戦いを挑んでくる。
緑川は化け物たちの方へ向かって唾を飛ばす。
そして「向こう」へ戻り、麓の町並みを見下ろした。
田んぼと民家が並び、その手前に川が流れている。
川の傍には土手があり、一本の道が通っていた。
その一本道を、戦車や装甲車が連なっている。銃を持った歩兵もいるし、大きな護送車のような車も走っている。
それは真っ直ぐに麓を目指していて、これから戦争でもするかのような物々しさだった。
空には戦闘機やヘリも飛んでいて、轟音を立てながら飛び抜けていく。
緑川は「こっち」へ戻り、『クズばっか・・・・』とうんざりした。
『人間も化け物も、なんで俺を殺そうとするんだ?工場の機械と大差ない連中のクセに、なんで生き物の俺を殺そうとする?こんなの間違ってる。』
そう言って池の傍へ歩き、首狩り刀を手に取った。
池の周りには、UFOがばら撒いた無数の髑髏が置かれている。
まるで花壇の生垣のように、池の周囲に綺麗に並べられていた。
緑川は花を植えるように、丁寧に髑髏を置いていく。首狩り刀で地面を掘り、種でも撒くように並べていく。
やがて池を一周して、髑髏の輪が繋がる。
その髑髏の輪は、一つだけではない。全部で三つの輪が、池の周りを囲っていた。
そして最後の髑髏を並べ終えると、『疲れた・・・・』と呟いた。
『首狩り刀は、人の首を落とせば落とすほど強くなる。それは髑髏が刀の力になるからだ。でもこんなに髑髏があるなら、わざわざ人の首を落とさなくてもいいかもしれない。』
そう言って、池の周りに並べた髑髏を眺めた。
『二千個近くあるんだ。これだけあれば、俺を殺そうとする奴らを皆殺しに出来る。』
最後に並べた髑髏を睨み、そこに首狩り刀を突き刺す。
その状態でしばらく放置していると、変化があった。
刀に刺された髑髏が砕け散り、刀身へと吸い込まれたのだ。そして柄の髑髏が一つ増えた。
『あは!』
緑川は手を叩いて喜ぶ。髑髏さえあれば刀が成長するという事が分かって、嬉しそうにはしゃいだ。
『王は良い物を残していってくれた。こんなもん持ってても邪魔だから捨てたんだろうけど、でも俺にとっちゃ宝だ。』
そう言って、また並べた髑髏に刀を突き刺す。
すると次々と髑髏を吸収していって、刀はたちまち大きくなった。
『いいぞ。でもあんまり大きくなると使いづらいから・・・・・っと。』
刀を持ち上げ、空を一閃させる。
『・・・・・うん。振れないことはないな。』
首狩り刀は、その長さが五メートルにまって達していた。しかしまだまだ髑髏は残っていて、もっと大きくすることが出来そうだった。
『これは機関銃の弾と一緒だ。乱射してたらすぐに無くなる。大事に使わないと。』
大事な弾丸を敵に奪われては困る。緑川は大量に鱗粉を巻き、髑髏の上に降り注がせた。
『こんだけ撒いとけば手は出せないだろ。』
そう言って、一仕事終えたようにうんと背伸びをする。もう準備は万端とばかりに、大地に寝転んだ。
『王は去っていった。でもまだ「こっち」は残ってる。きっとどこかの誰かが「こっち」を維持してるんだろうな。』
そう呟いて、遠くに浮かぶ黒い太陽を睨んだ。
『どうもあの太陽が怪しいんだよなあ。あれってきっと、化け物どもの親玉なんだろうな。妖怪やUMAを守る為に、「こっち」を存続させようとしてる気がする。
まあそれは俺にとってもありがたいけど。』
黒い太陽からは、とてつもなく大きな力を感じる。それは「墓場の王」にさえ匹敵するほどだった。
『こっちへ向かってるけど、敵意は感じないんだよな、あの太陽・・・・。戦う気は無いってことか。』
しばらく黒い太陽を睨んでから、『あれは相手にしなくていいや』と寝そべった。
『あの太陽には勝てる気がしないけど、でも襲って来ないなら問題ないだろ。』
緑川は空を睨みながら、ゆっくりと目を閉じた。
『あの黒い太陽、なんか王と似たような雰囲気を感じる・・・・。きっとあれも、大昔に宇宙からやって来たんだろうな。
多分・・・いや、きっと・・・この星にはそういう奴らがまだいるはずだ。そいつらは生きてるのかな?俺と同じように、命を持ってるんだろうか?』
思いを馳せながら、目を閉じて触覚を立てる。
化け物たちはどんどん近づいていて、あと20分ほどでここに到達するだろう。
ピンと立てた触覚は、その数が圧倒的であることを感じていた。
しかしほとんどの化け物が戦ったことのある者ばかりで、特に脅威に思うことはない。
ミノリやペケがいない今、脅威となる妖怪やUMAはこの山にいなかった。
しかし化け物の大群の中に、一つだけ覚えのない気配を感じた。
それは河童に近いが、少し違う気配も混じっている。
『なんだこれ、チュパカブラか?・・・・・違うな、初めて感じる気配だ。』
身体を起こし、迫り来る化け物の大群を睨む。
『・・・・・・気味悪いな。なんだこいつ・・・・・、』
今までに感じたことのない、異様な気配。緑川は刀を握り、木立の中へと駆けこんだ。
そこには機関銃とロケットランチャーを隠していて、『よいしょ』と言いながら引きずり出した。
『自衛隊の残骸から拾って来たけど、役に立ってくれよ。』
得体の知れない敵が迫っている今、じっとしていられない。
こちらから攻撃を仕掛けて、様子を窺うことにした。
ロケットランチャーを構え、空中に舞い上がる。
そして自分から化け物の大群に近づき、武器の射程内にまで入った。
『・・・・あいつか。河童でもチュパカブラでもない。・・・・まるで二つの雑種みたいな・・・・・、』
そう言いかけて、『・・・・・ああ!』と何かに気づいた。
『あいつら・・・・手を組んだのか。殺し合うほど仲が悪かったのに、子供なんか作ってやがる。これまずいな・・・。』
ここへ来て、緑川はある誤算に気づいた。
妖怪とUMAが大群で襲って来ようとしているのは、利害の一致のせいだと思っていたのだ。
『俺の事が邪魔だから手を組んだのかと思ってたけど、そうじゃないらしい。あいつら和解しやがったんだ。妖怪とUMAは共存関係を築こうとしてる。これ厄介だな・・・・・。』
もし利害の一致で共闘しているだけなら、手の打ちようがある。
最悪はどちらかの味方をしてやれば、同士討ちをさせることも可能だと思っていたからだ。
しかし共存関係を築こうとしているのなら、それも無理である。
妖怪とUMAは完全に手を組み、「こっち」の世界を守ろうとしているのだから。
『・・・・となると、あいつら人間とも手を組んでる可能性があるな。河童は以前に俺を援護してくれたから、人間には好意的だし。』
緑川は考える。本気で戦えば、あの化け物の群れに勝てないわけではない。
しかしそこへ人間が介入してくるとなると、これはかなり不利になる。
『UMAや妖怪と戦ってる間に、沢尻どもに背後を突かれるのは痛い。それに「向こう」へ逃げたって、きっと自衛隊や警察が待機してるはずだし・・・・、』
自分が完全に孤立してしまっている事に気づき、どうしようかと悩む。
『・・・・ミノリを殺すのは早過ぎたかもしれない。あいつがまだ生きてれば、俺だけに攻撃が集中することもなかったから・・・・・。』
ミノリがいないということは、残された敵は自分だけということになる。
そうなれば人間も化け物も、お互いに手を組んで討ち取りに来ることは目に見えていた。
『偶然こんな結果になるわけがない。どこかで糸を引いてる奴がいるはずだ・・・・。沢尻か?それともケントか?』
いったい誰が仕組んだ事かと考えた時、ふと背後に気配を感じた。
『誰?』
思わず振り向くと、そこにはよく知る顔がいた。
『・・・・・・アチェ。』
目の前にアチェがいた。初めて会った頃のように、不適な笑みを湛えながらこちらを見ている。
『・・・・・ああ、これはお前の描いた絵か。お前がここまでお膳立てして・・・・、』
そう呟いた時、アチェは池の方へと飛んで行った。
『おい。』
緑川はそれを追いかけ、池の傍に降りた。
『お前・・・・沢尻の中から抜け出して来たのか?』
『・・・・・・・・・。』
アチェは微笑みを残したまま、池の周りを囲う髑髏を見つめる。
『あんたはまだこんな事をやってるのね。』
『こんな事?』
『・・・人の頭をこんなに並べて、それで刀を強くして・・・・それって何の為?』
『決まってるじゃん。俺を殺そうとする奴を殺す為だよ。』
『そうね。あんたは誰からも嫌われてるから、みんなが命を狙ってるわ。』
『だから困ってるんだよ。別に嫌うのは構わないけど、どうして殺そうとするかな?放っといてくれればいいじゃん。』
『あんたを放っとくと、何をするか分からないじゃない。』
『喧嘩を売るから勝ってるだけだ。別に俺は野望なんてないし、世の中をどうこうしようなんて思いもない。UFOだって結局手に入れなかったし、王だってもうここにはいない。
だったらもう何もしなくていいじゃん。』
緑川は不満そうに言う。いったい自分のどこに非があるのかという風に。
『合理的じゃないよ。俺と戦ったって死者が増えるだけだ。だったら放っとくのが一番だ。化け物も人間もアホだよ。所詮作り物だ。』
『じゃあどうする?誰とも関わらないで、たった一人で生きて行くの?』
『さあね。分からないけど、必要以上にこっちから関わることはないよ。』
『嘘言うんじゃない。』
アチェは笑みを消し、強い口調で睨みつけた。
『あんたは必ず誰かを殺す。人間でも化け物でも、遊び半分で殺すに決まってる。』
『うん。』
『だから嫌われるのよ。あんたみたいなのは誰も受け入れない。変わるチャンスはあったはずなのに、最後まで変わろうとしなかった。』
『だってみんな作り物なんだもん。人形に囲まれて生活して、いったい何が楽しいの?壊すなら面白いけどさ。』
『あんたは死ぬしかない。もし生きていたいのなら、誰とも関わらないこと。それが出来る?』
『ああ、一人で生きろってこと?』
『そうよ。でもそうやって生きたとしても、それはきっと虚しい事よ。何をするわけでもない、何を生み出すわけでもない。たった一人で死ぬまで息してるようなもの。
そんな人生に意味がある?いくらあんたでもきっと耐えられなくなって、必ず誰かに関わろうとする。そしてまた殺しを始める。分かり切ってることよ。』
そう言って緑川に近づき、『これが最後よ』と尋ねた。
『偉そうにあんたの事を批判してるけど、私だって許されない事をした。あんたに手を貸して、多くの人間を殺したんだもの。』
『共犯だよ。』
『そうね・・・。そしてあんたを「こっち」に招いたのも私。だから私にも責任がある。』
アチェは手をかざし、首狩り刀を奪い取る。それを緑川に向けると、『一緒にいてあげるわ』と言った。
『一人で生きていたら、きっと殺しを繰り返す。だから私が一緒にいてあげる。』
『何が?』
『ここであんたの首を落とさせてちょうだい。その後に私もこの身体を捨てる。』
『心中ってこと?』
『違うわ。肉体を捨てて、王と一緒にこの星を出ようって言ってるの。』
そう言って遠い空に目を移し、『今ならまだ間に合う』と呟いた。
『身体を捨てて、思念だけになるの。そして王の一部にしてもらう。』
『一部って・・・・それは嫌だよ。どの部分になるか分からないじゃん。』
『心配しないでいいわ。ちゃんと意識は残る。私とあんたで、ずっと宇宙を漂えばいいわ。身体を失えば殺しも出来ない。それに私が傍にいてあげるから、一人にはならない。
だから一緒に生きましょ。遠い遠い宇宙旅行に。』
アチェは触覚を立たせ、目の色を青くした。
『ほんの少しだけね、王の脳を残してある。UFOに追いつくくらいなら思念を保っていられるわ。』
『・・・・・・・・・・。』
『緑川鏡一。もう充分でしょ。好きなだけ暴れ回って、好きなだけ生き物を殺したじゃない。だからもう終わりにしましょ、ね?』
笑みを湛え、ゆっくりと首狩り刀を振り上げる。
すると緑川は『殺したいなら殺せばいいじゃん』と言った。
『いちいち俺に同意を得なくても、バッサリやればいい。その刀がある限り、お前の方が強いよ。』
『無理なの。私にはもうそこまで力は残されていない。あんたが抵抗したなら、それを仕留める力なんてないのよ。』
『そうなの?』
『今・・・・私を殺そうと思ったでしょ?』
『うん。』
『そんな事しても意味がない。あんたは人間と化け物に殺されるか、死ぬまで息をしているだけの虚しい人生を送るだけよ。だからこれが最後、私と一緒に行こう、ね?』
そう言って笑うアチェに、一瞬だけ人間だった頃の姿が重なる。
『もうお終い、お終いなの。良い子だから・・・・・、』
振りかぶった刀を、緑川の首目がけて振り下ろす。しかし彼は『行かない』と答えた。
『俺はどこにも行かない。終わりじゃないし、殺されもしない。』
振り下ろされた刀が、首を刎ねる手前で止まる。
『嫌だよそういうの。俺、生きてるんだもん。作り物のお前となんか一緒に行かない。人形とずっと一緒にUFOの中なんか生きたくないよ。』
『作り物じゃない。私もあんたも生きて・・・・、』
『違う、俺以外はみんな作り物だ。』
『緑川・・・・、』
『何が一人ぼっちだよ。俺しか生きてないんだから、最初から一人ぼっちに決まってるだろ。今に始まったことじゃないよ。』
『・・・・・・・・・・・。』
『俺はここがいい。宇宙なんて行かないし、UFOにも乗らない。俺はこの世でたった一つの素晴らしい命なんだ。それを邪魔するなら、人間だろうが化け物だろうが壊してやる。
どうせ全部作り物なんだ。俺以外はみんな石ころと同じなんだから。』
『じゃあどうするの?この先もそんな考えで生きていくつもり?馬鹿みたいに戦って、馬鹿みたいに殺し合って、あんたいったい何がしたいの?』
アチェは悲しみとも怒りともつかない声で尋ねる。刀を止めたまま、その答えを待つように緑川を見つめる。
『そういう質問はおかしい。何かしてないと生きていちゃダメってことはないはずだ。俺はここがいい。ここで生きる。』
『でもきっと退屈するわよ?寂しくなるわよ?』
『アチェ、お前は良い人形だったよ。人形の中では一番好きだった。でも人形は人形だよ。石ころと同じで、命なんてないんだ。』
『・・・・・・・・・・・。』
『俺はここがいい。ここが好きなんだ。ただ死ぬまでここにいるだけでいい。これ・・・・俺の星なんだよ。俺だけが生きてる、俺の為の星だよ。』
『・・・・・・・・・・・。』
『凄いだろ?俺だけなんだよ、生きてるのは。だから何もしなくていい。たった一つの命だから、それだけで尊いんだ。
生きてるだけで充分なんだよ。この星にいるのは俺だけ。あとはぜ〜んぶ石ころだから。』
『・・・・・・・・・・・・。』
緑川は微笑みながらそう答える。
アチェは刀を下げ、それをポイと彼の足元に投げ捨てる。
その顔はとても悲しそうで、想いが届かないことを嘆くような目だった。
『・・・・・・可哀想に。』
悲しみの表情のまま、アチェはゆっくりと消えていく。彼女が消えた後には一匹のUMAがいて、それは彼女にそっくりの小さなモスマンだった。
『自分の子供に宿ってたのか。』
アチェの思念が抜けた子供は、わけが分からずに首を傾げる。そして緑川を見るなり、『悪い奴』と指を指した。
『お母さんが言ってた悪い奴。』
『なんだよ、まだ兄弟が残ってるじゃん。』
『・・・・・・お父さん?』
『うん。』
『悪い奴。』
『かもな。』
『さよなら。』
子供は怯えたように去っていく。殺されては敵わないとばかりに、すぐに遠くへ消えていった。
緑川は首狩り刀を拾い、目の前に構える。
アチェはどうなったのか?思念が消滅して死んだのか?それとも王を追ってこの星から出て行ったのか?
それは分からなかったが、彼女が最後に呟いた言葉が強く残っていた。
『可哀想に』
いったい何が可哀想なのか?それはきっと、彼女の言う所の『変われるチャンス』とやらを不意にしてしまったことなのだろうと思った。
アチェもケントも、常に優しさの手を差し伸べてくれていた。そんな事くらい、自分でも気づいていた。
それはあの沢尻からも感じたことだった。
この手を掴めば、どこか別の場所に出られる。ここではない違う場所へ行ける。
そういうものに気づきながら、いっこうに態度を変えようとしなかった。だからアチェは『可哀想』と言ったのだろうと。
『知らねえよ・・・お前らの望む俺なんか。』
あの三人が、いったい自分の中に何を見ていたのかは、知る由もない。
しかし自分では気づかない何かを見出し、どうにか変えてやろうとしていたのは分かっていた。
『変わらないから可哀想・・・・・なんなんだろうな、いったい。どうして俺があいつらの価値観に合わせなきゃいけない?』
優しさは欺瞞。
あの三人が差し伸べる手は、ある意味猛毒のように思えた。
その毒にかかったら最後、心を蝕まれ、身体まで朽ちてしまう。
そしてその後は、自分が望まない自分に生まれ変わるだけ。他人が喜ぶだけの、どうでもいい自分が待っているだけだった。
それは虫殺しの槍の毒よりも性質が悪い。あの槍の毒は死ぬだけで済むが、優しさという欺瞞の毒は、本人の望まない自分へと作り変えられてしまう。
もしそんな事になれば、それは他の人間と同様に、命を持たない石ころになるような気がしてならなかった。
『可哀想ねえ・・・・・。そんな事言い出したら、人間なんかみんな可哀想だろ。』
消え去ったアチェの影を追うように、緑川は空を見上げる。
ケントもペケもいなくなり、ミノリもいなくなった。
残るは沢尻だけで、必ずこの命を狙いに来る。
『石ころの分際で・・・・ほんとにさあ・・・・・・、』
先ほどからビンビンと触覚が反応していて、化け物の群れがもうそこまで迫っていることを告げている。
緑川は刀を振り、目の裏に残るアチェの影を切り払った。
『化け物と人間の挟み撃ちか。前も後ろも逃げ場なし。だったらとりあえず・・・・楽な方から潰さないと。』
人間を相手にすれば、沢尻と戦うことになる。
彼の中にもうアチェはいないが、それでも油断のならない相手である。
そして戦うことを避けて通れない相手でもあった。
それならば、まずは目の前の邪魔な石ころを蹴り飛ばす必要がある。
おそらく戦っているうちに沢尻が来るだろうが、その前にどうにか化け物どもの勢いを削がなくてはと思った。
『全滅は時間がかかる。数さえ減らせりゃそれでいい。』
後ろを振り向き、『こんだけ弾丸があるんだから』と髑髏を睨んだ。
やがて黒い光が射してきて、化け物の群れが到来したことを告げる。
『グェッ!』
河童モドキが崖をよじ登ってきて、ペケの頭を掲げた。
『そんなもんいつまでも持ってんじゃねえよ。』
ロケットランチャーを拾い、河童モドキに向ける。引き金を引いて、砲身から爆薬の詰まった弾頭を発射した。
弾は命中し、轟音と共に凄まじい煙が上がる。
しかしどこからか『グェッ!』と鳴き声が響いて、緑川は首狩り刀を構えた。
声は崖の向こうから響いていて、河童モドキが現れる。
しかも牛鬼の頭に乗っていて、全身を透明な粘液で覆っていた。
『生きてんのかよ。まあいいや、こっちなら死ぬだろ。』
そう言って首狩り刀を振り回すと、河童モドキの後ろから大量の化け物が這い出て来た。
次から次へとワラワラと涌いてきて、奇声を挙げながら河童モドキの周りに集結する。
『まとめて死ね。』
緑川は素早く刀を投げる。化け物たちは散開し、その一撃をかわした。
『グェッ!グェッ!』
河童モドキは鳴き続け、それに合わせるように化け物も鳴く。
緑川は刀を戻し、また鎖鎌のように振り回した。
『あのさ、時間かけてられないんだよ。さっさと死んでくれる?』
そう言って二撃目を放つと、河童モドキが粘液を吐いて刀に纏わりつかせた。
『なんだよこれ?汚ねえな。』
『グェ!』
開戦の狼煙とばかりに、河童モドキはペケの頭を放り投げる。
化け物たちは雄叫びを挙げ、憎き死神に群がった。

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