グレイヴ&リーパー〜墓場の王〜 第七十七話 災害になる二人(3)

  • 2016.04.16 Saturday
  • 10:52
JUGEMテーマ:自作小説
ドッペルゲンガーに運ばれて、二人は「こっち」へ帰って来た。
そして「こっち」へ着くなり、突然命の危機に晒されてしまった。
「どうなってる!?これじゃ焼け死ぬぞ!」
東山が顔をしかめながら叫ぶ。なぜなら「こっち」の亀池山は、辺り一面火の海に覆われていたからだ。
木々が吹き飛び、斜面は抉れ、地盤が剥き出しになって、真っ赤な炎に包まれている。
二人の立つ場所も点々と火が飛び散っていて、周りは炎の壁に塞がれていた。
空には戦闘機が飛び交い、轟音を立てて駆け抜けていく。
「おい沢尻!これは・・・・、」
「ああ、緑川が「こっち」に現れたんだ。」
「自衛隊が火の海にしやがったんだな!」
「それ以外に考えられん。さっそく災害が降りかかったってわけだ。」
そう言って可笑しそうに言う沢尻を見て、「笑ってる場合か!」と怒鳴った。
「ちくしょう!麓に降りてから戻ればよかった!」
灼熱の風に顔をしかめながら、「ドッペルゲンガー!」と呼ぶ。
「ここじゃ駄目だ!いったん「向こう」へ戻してから、麓まで運んでくれ!」
後ろを振り返ってそう頼むと、そこにはもうドッペルゲンガーはいなかった。
「あいつ・・・・・どこ行きやがった!?」
「帰ったんだろ。」
「帰ったって・・・・・こんな状況で俺たちをほったらかしてか?」
「だろうな。」
「落ち着いてる場合か!もういっぺん呼び寄せて・・・・・、」
そう言って菱形の鏡を取り出そうとすると、「あれ?」と首をかしげた。
「・・・・無い。あいつもしかして・・・・・、」
「持って帰ったんだろうな。もうパートナーは解消なんだから。」
「な・・・・なんて事しやがる!元相棒が焼け死んでもいいってのか!」
悔しそうに叫び、「薄情な野郎め!」と石を蹴り飛ばした。
「おいどうすんだ!?このままじゃ焼け死ぬぞ!」
「・・・・・・・・・。」
「沢尻!」
「・・・・・いや、迎えが来たみたいだ。」
そう言って空に指を差すと、一機のヘリが近づいて来た。
バタバタと音を立てながら、風を起こして降下してくる。
「無事か!?」
中から隊員が顔を覗かせ、「今すぐ助ける!」と言った。
ヘリからロープが下ろされ、隊員が降りて来る。
「大丈夫ですか?怪我は?」
そう言って心配そうに尋ねると、沢尻は「平気さ」と答えた。
「それより・・・・緑川は「こっち」に現れたんだな?」
「ええ。少し前に頂上を飛んでいるのを確認したんです。現れたら山ごと焼野原にしろとの命令でしたから。」
「鏑木がそう言っていたな。・・・・・で?奴は?」
「残念ながら見失ってしまいました。まだ仕留めたとの報告は入っていません。」
「そうか・・・・。まあいつでも「向こう」に逃げられるからな。とりあえずこの火の海から抜け出そう。」
そう言うと、隊員はすぐに沢尻の身体にロープを巻こうとした。
「待て、先にこいつを乗せてやってくれ」
東山の背中を押し、「俺は後でいい」と答えた。
「おい、何言ってやがる。お前が先に行け。」
「いや、俺は後でいい。」
「これでも俺はSATの隊長だ。先に行けるか。」
「いいから行けよ。ああ・・・・それとそいつは預かっとくよ。」
そう言って、東山の手から骨切り刀を奪った。
「誰かの手に渡ったら大変だ。俺が預かっておく。」
「俺は子供か?」
「いいから行けって。」
顔をしかめながら背中を押すと、東山は「何を企んでる?」と睨んだ。
「何も。」
「嘘を言うな。お前・・・・・・もしかして緑川の居場所を知ってるんじゃないのか?」
そう言いながら目の前に詰め寄る。
「奴の居場所を知っていて、自分一人で仕留めに行くつもりなんじゃないのか?」
「まさか。」
「いや、そうに決まってる。奴と刺し違えるつもりなんだろう?」
「違うと言ってるだろう。」
「俺がいたら邪魔か?戦力にならんか?」
「そうじゃない。ただお前に先に行けと言ってるだけだ。他意はない。」
沢尻は肩を竦めて笑う。しかし東山は表情を変えず、猛るような目で睨んだ。
「俺は普通の人間だ。」
「ああ、それがどうした?」
「だからお前ほど上手くあの男とは戦えない。」
「俺だって上手く戦えない。だから逃がしちまったんだ。」
「そうだな。でもお前はまだ諦めていない。」
「そりゃすぐには納得できないさ。でもさっきも言った通り、奴は災害みたいなもんで・・・・、」
「違う!あいつは災害なんかじゃない!自分の意志で人を殺してるんだ!台風や竜巻と違って、殺すつもりで殺してやがる!そんな屁理屈納得できるか!」
そう言って沢尻の胸倉を掴み、「あまり俺を馬鹿にするなよ」と凄んだ。
「あんな理屈で本当に納得したと思ってるのか?」
「してたじゃないか。熱血漢のお前にしちゃ、大人しく引き下がってた。」
「そういう振りをしただけだ。」
「なんで?」
「決まってるだろ!お前が次の考えを持ってると思ったからだ!」
掴んだ胸倉を捩じり上げ、沢尻の足が浮きそうなほど力を込める。
「お前は簡単に真意を見せない!だからあんな屁理屈を言いながらも、心の中じゃまだ諦めてないと分かってた。だからそれに付き合っただけだ!」
「そりゃお前の勝手な妄想だ。」
「妄想じゃねえだろ!今!お前は!実際に奴の所へ行こうとしてる!それもたった一人でだ!ふざけんじゃねえぞこの野郎!!」
東山の怒りは、この山を焼く炎のように激しかった。こめかみに血管が浮き、今にも殴りかかろうとする。
「ここまで付き合わせといて、最後の最後で降りろってか?それじゃ俺はピエロと一緒じゃねえか!あんなわけの分からん場所で、わけの分からん化け物どもと戦って来たんだ!
SATだろうが自衛隊だろうが、本来はあんなもんは仕事に含まれていない!本心を言えば、途中で降りたかった!犯罪者と戦う覚悟はあっても、化け物と戦う覚悟なんて無いからな!」
激しく唾を飛ばしながら、さらに力が入る。沢尻の足は浮き、息が苦しいほどだった。
「それでもここまで来たのは、お前がそうさせたからだ!テメエがここまで付き合わせたんだろうが!無茶な言動ばかりで、いったい何度冷や汗を掻いたか分かりゃしねえ!
だったら最後まで付き合わせろ!テメエ一人でおいしい所持ってこうとしてんじゃねえぞ!」
鼻が触れるほど顔を近づけ、「ヒーロー気取りで死ぬなんて許さねえ」と言った。
「こんな所まで来て、テメエだけでカッコつけさせるか・・・・。でなけりゃ、お前を信じて命張ってきた俺たちはどうなる?」
東山の胸には、死んだ部下のこと、仲間のこと、そして罪もなく首を狩られていった人たちの無念が渦巻いていた。
途中で降りる機会なら何度もあったのに、そうしなかったのは沢尻に期待していたからだ。
彼に命を預け、ここまで戦って来た。死神や化け物との戦いの果てに死んだとしても、それは己の職務を全うしたという誇りになるはずだった。
だからこそ、この男を信用して命を張った。
それが最後の最後で蚊帳の外に放り出されるのが許せなかった。
そして何より、ここまで無茶に巻き込んだクセに、最後の最後で気遣いを見せるのが許せなかった。
「俺はな・・・・お前に心配されるほど弱くないぞ。例え死神が相手だろうが、お前を守る盾くらいにならなってやれる。だから・・・・・俺を除け者にするんじゃねえよ。」
掴んでいた胸倉を離し、沢尻の答えを待つ。
言いたい事は全て言い、怒りも覚悟も伝えた。
それでもまだ一人で行こうとするのなら、その時は銃を突き付けてでも引き留めようと思っていた。
ここで蚊帳の外にされるなら、やる事は一つ。
沢尻を無駄死にさせない事。
いくらこの男といえど、一人で緑川に挑むのは自殺行為に等しい。
あの男は完全に化け物に成り下がり、もはや人ではなくなったのだから。
東山はじっと答えを待つ。一人で行くのか?それとも俺を連れて行くのか?
「・・・・・・・・・・。」
沢尻は宙に視線を彷徨わせ、ここではないどこかを見ていた。
この世でもなくて、あの世でもない場所。この山に重なるもう一つの世界、「向こう」を見透かそうとするような視線だった。
「・・・・ありがたいな、そこまで言ってもらえるなんて。」
ぽつりとそう呟き、東山に目を向ける。
「まるで昔の刑事ドラマみたいに暑苦しい。でも・・・・お前のそういう所は嫌いじゃない。ちょっと羨ましくもあるぐらいだ。」
そう言って小さく笑い、「一つだけ頼まれて欲しい」と真顔になった。
「早苗の事を見てやってほしいんだ。」
それを聞いた東山は、「答えになってないぞ」と睨んだ。
しかし沢尻は「まあ聞け」と続ける。
「あいつは必ず刑事になるだろう。しかも俺に似て無茶ばかりしやがる。だからお前が手綱を引いてやってくれないか?」
「どういう意味だ?」
「・・・・あいつは刑事になって、緑川を追おうとするはずだ。きっと誰が止めても無駄だ。だからお前が手綱を引いてやってほしいんだよ。
止めるのが無理なら、せめて無茶をしないように見張っていてほしい。」
「ならお前がやればいいだろう。自分の娘なんだから。」
「・・・そうしたいが、そうもいかない。俺も緑川と同様に、災害になる必要があるからな。」
そう言って燃え盛る山を見つめ、「まだ諦めちゃいない」と呟いた。
「お前の言う通り、俺は諦めてなんかいない。なんとしても緑川を仕留めるつもりだ。」
「ほら見ろ。だったら俺も一緒に・・・・、」
「出来ればそうしてもらいたいが、そうもいかないんだよ。」
「まだ意地を張るのか?」
「・・・・お前は屁理屈と言ったが、緑川を災害と例えたのは本心だ。なぜなら、あいつはもう人間では止められないからだ。
だったらこっちも人間じゃなくなるしかないだろう?あいつと同じように、人間やめなきゃいけないんだ。」
「人間やめるって・・・・お前も化け物になるってのか?」
「ああ。そうすれば奴を追って「向こう」まで行ける。災害に太刀打ち出来るだろ?」
「なら奴を仕留めた後はどうする?化け物のまま「向こう」で生きるってのか?」
「そうだな・・・そうなるな。」
「そうなるな・・・・って。何を呑気に・・・・、」
「しかしそれでもいいさ。いつまた緑川みたいな奴が出て来るか分からないんだ。だったら俺が「向こう」を見張っておくよ。
そして俺だけじゃ手に負えなくなったら、その時はお前に頼みに来るさ。」
そう言って笑顔を見せ、「だから早苗を頼む」と頷きかけた。
「もしそんな日がきたら、あいつだってきっと戦おうとする。だからお前が手綱を引いてやってくれよ。」
小さく頭を下げ、自分のわがままを聞いてくれと頼む。
東山は憮然としながら、「自分勝手な・・・・」と吐き捨てた。
「やっぱりお前は無茶苦茶だな。最後まで変わらん。」
「自覚してるさ。でも頭下げて頼むなんて、嫁さんの両親に会いに行った時以来だ。だからまあ・・・・大目に見てくれよ。」
また笑顔に戻り、ポンと肩を叩く。
炎は広がり、沢尻たちの元に迫る。隊員が「どちらを先に?」と急かした。
「・・・・・俺だ。」
東山が答え、隊員がロープを巻こうとすると「いらん」と突っぱねた。
「素人じゃないんだ。このままでいい。」
そう言ってヘリの下まで歩き、ロープを掴んだ。
「・・・・・・・・・。」
沢尻を振り返り、何かを言いたそうに口を動かす。しかしその言葉を飲み込み、「上げてくれ」と言った。
隊員もロープを掴み、そのまま上昇していく。
「おい沢尻!」
東山は叫び、「早苗ちゃんのことは任せろ」と言った。
「俺がちゃんと鍛えてやる。お前みたいな無鉄砲にならんようにな。」
「ああ、頼む。」
「あの子が刑事になったら、顔を見せに来い。化け物にっててもいいから。」
「ああ。」
頷く沢尻を見届けると、東山はもう振り返らなかった。
ロープが上昇していき、彼はヘリの中に消える。
ヘリはしばらく上空にとどまっていたが、やがて山から離れていく。
次のロープが垂らされそうになっていたが、東山がそれを止めていた。
もうここには戻って来なくていいと言う風に、隊員と言い合っている。
そして沢尻を残したまま、遠くへ飛び去ってしまった。
「・・・・・・・すまん。」
最後の最後で、またわがままを言ってしまったことを詫びる。
事が終わったら酒を飲もうと約束していたのに、それを守る事が出来なかった。
「せっかく出来ない少ない友達だってのに、悪いことしちまった。」
心の底から申し訳なさそうに言い、もう一度「すまん」と呟く。
辺りを覆う炎は、山を丸裸にしようとしている。
木々は焼け、斜面は爆撃で抉れ、機銃の痕が生々しいほど足元に走っている。
いったいどれだけの砲弾や弾丸が撃ち込まれたのか、一目で分かるほどの惨状だった。
しかしそれでもなお、あの男が死んでいるとは思えなかった。
例え「向こう」に逃げなくても、このような狙いの定まっていない攻撃では、到底仕留める事は無理だろう。
山を焼野原にされようが、あの男だけは生きている。
沢尻の胸の中には、そう確信があった。
「アチェの言う通りだ。毒針を残しておいてもらってよかった。」
そう言ってズボンのポケットから一本の針を取り出す。
それはアチェの持つ毒針だった。
「アチェ・・・・何もかもお前が予想した通りになってる。しかも悪い方の予想だ。
あいつはお前の説得でも改心することはなかった。そしてお前の立てた作戦でも仕留める事は出来なかった。
だったらやる事は一つ。俺がお前の代わりに緑川を追い詰める。その為にこの毒針を残してくれんだからな。」
鋭い針を立て、その切っ先を睨みつける。
「俺の中から消える時、お前はもう疲れたと言っていたな。今頃は王様と一緒に、宇宙旅行でも楽しんでるのか?」
そう言って自分の首に毒針を突き刺した。
中に残った毒は少量だが、通常のものより何倍にも濃縮されている。
毒が体内に流れ込み、身体中に激痛が走った。
悲鳴を上げながらのたうち回り、危うく炎に焼かれそうになる。
しばらくすると痛みは治まり、むしろ爽快な気分になる。
二つの目には万華鏡のように景色が映り、再びUMAになった自分の身体を見つめた。
『もう人間に戻ることはないだろうな。』
そう言って首に刺さった針を抜き、ポイと投げ捨てた。
『なんでこんな厄介な事になったんだか・・・・俺ものんびり宇宙旅行に行きたい気分だよ。』
心底うんざりしながらそう言って、大きくため息をつく。
しかし自分以外にあの男を追い詰める者はおらず、自分だけがアチェから望みを託された事実は変わらない。
退職したらのんびり暮らそうと考えていたのに、それも全てパアになる。
刑事という職に命を懸けるのは誇らしいが、化け物になって人間を捨てるとは思いもしなかった。
『まあ愚痴っても変わらんな。人生なんて思い通りにいかないもんだ。・・・・いや、もう化け物だから人生ですらないか。』
自嘲気味に言って、肉挽き刀と骨切り刀を掴む。
そして二つの刀を構え、処刑人のように交差させた。
『緑川・・・・お前のせいで人生が台無しだよ。いったいどう責任を取ってくれる?』
早苗のこと、東山のこと、そして刑事という職。捨てるものはあまりにも大きく、得られるものはほとんどない。
しかしそれでも、ここで引き返すことは出来なかった
すでに戻れない道に踏み込み、やるべきことはたった一つしかないのだから。
『もしかしたら、俺は誰よりもお前に恋焦がれていたりしてな。一番心配なのは、お前の首を落とした後だよ。俺はその後どうすりゃいい?
だから・・・・簡単にはくたばってくれるなよ。』
複眼が赤く染まり、興奮と殺気で膨れ上がる。
四枚の羽を大きく広げながら、陽炎のように揺らぎ始める。
炎が全てを飲み込む頃、彼は「向こう」へと消え去っていた。

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