稲松文具店〜ボンクラ社員と小さな社長〜 第二十八話 怪人の素顔(2)

  • 2016.05.19 Thursday
  • 12:49
JUGEMテーマ:自作小説
怪人の正体を掴む為の重要な情報。
祐希さんの持って来た写真の中に、その一つが隠されていた。
それは怪人の素顔・・・・・。
でももうもう一つ重要な情報があるという。
それは怪人から結婚詐欺に遭っていた被害者のメールだ。
「そのメールには、この写真にはない重要な情報があるの。」
そう言いながら、メールを印刷した紙をゆらゆらと振った。
「これに?」
「気づかない?」
「・・・・・いえ、まったく。」
「・・・・・・・・。」
「だって怪しいところといえば、よくオシッコに行くこと。長い間出て来ないこと。そんで出てきた時は肌のノリが良くなってることくらいじゃないですか。
それってつまり、あの怪人は今ほどメイクが上手くなかったってことでしょ?」
「そうね。でもそれだけじゃない。他にも一つ、重要な手がかりがあるのよ。あの怪人を知る上でね。」
「手掛かり・・・ですか?」
「もう一度よく読んでみて。」
そう言われて、俺はまたメールを読み返した。
だけど全然おかしな所は見当たらない。メイクに関するところ以外は。
「・・・・すいません。まったく分かりません。」
首を傾げながら、「課長は何か分かりましたか?」と尋ねる。
すると口元に手を当てて、じっと考え込んでいた。
「課長?」
「・・・・・これ、ちょっと気になるところが・・・・、」
「どこです?」
「ここよ、子供のくだり。」
そう言ってメールの一部を指さした。
《これから始まるんだよ。二人の人生が。きっと新しい家族だって増える。》
《由実は子供好きだもんね。最初は男の子がいい?それとも女の子?》
《どっちでもいい。だって子供は神様からの授かりものだから、男とか女とか関係ないから。》
《そうだね。もし俺たちの子供が出来たら、大事に育てようね。》
《うん!きっと幸せな家族になるよ。二人でがんばろ!》
課長の指さした部分を読みながら、「何か変なところでもあります?」と尋ねた。
「変っていうか、気になることがあるの。」
「どこがです?」
「この文章だと、被害者の女性は間違いなく子供を作るつもりでいるよね?」
「そりゃ当然でしょう?結婚するんだから。」
「そうだね・・・。でもそれって、子供を作る能力があるってことだよね?」
「・・・・はい?」
何が言いたいのか分からず、顔をしかめる。
「このメールの女性は、相手の子供を産むつもりでいる。だって子供は神様からの授かりものだって書いてあるから。」
「うん、まあ・・・・そういうもんじゃないんですか?実際に神様が授けてくれるのかどうかは知らないけど。」
「子供を産む為には、そういう行為が必要になるわ。」
「結婚したら夫婦の営みをするのは当たり前じゃないですか?」
「そうだけど、その当たり前のことをしようとしているってことは、やっぱり子供を作る能力があるってことが前提なのよ。」
「あの・・・・さっきから何が言いたいんですか?俺にはさっぱりなんですけど。」
唇をすぼめながら尋ねると、課長はこう答えた。
「生殖能力があるってことよ。」
そう言って、「ねえ祐希さん」と尋ねた。
「私はこういうのに詳しくないから聞きたいんですけど・・・・。」
「なに?」
「その・・・・さっきこう言いましたよね?怪人は相手を騙す為に、性転換手術をすることもあるって。」
「ええ。実際にそうして相手を騙してるわ。」
「なら・・・・もし性転換手術を行った場合、生殖能力というのはどうなんでしょう?性行為は可能かもしれないけど、実際に子供を作ることは・・・・、」
「無理よ。」
祐希さんはスパッと答えた。
「手術によって、異性の性器を作ることは出来る。だけど実際に精巣や卵巣まで作れるわけじゃないわ。」
「なら手術によって性別を変えたとしても、生殖能力までは変えられないわけですね?」
「ええ。」
「なるほど・・・・それを聞いて、このメールの重要性が分かりました。」
課長は納得したように頷く。祐希さんも「さすが翔子ちゃん、よく気づいたわ」と頷いた。
なんだか俺だけ置いてけぼりにされたような気になって、「俺、寂しいです・・・」と呟いた。
「二人で納得してないで、俺にも教えて下さいよ。」
唇を尖らせながら言うと、「翔子ちゃん、説明してあげて」と祐希さんが振った。
「いい冴木君?」
課長は子供に教える先生みたいに、すごく丁寧な口調になる。
「怪人は性転換手術までして、相手を騙すことがあるの。」
「さっき聞きましたよ。」
「そして手術をしてしまうと、生殖能力は失われる。」
「それも聞きました。」
「ということは、当然子供は作れないよね?」
「それは俺でも分かります。」
「でも相手の女性は、子供を作る気でいる。」
「メールの文章から考えるとそうでしょうね。でもそれの何が変なんですか?怪人は人を騙すのが得意なんだから、性転換してることだってバレないでしょ?」
そう答えると、「そこが重要なのよ」と言われた。
「いい?この女性は怪人の子供を産むつもりでいるわ。ということは、怪人には生殖能力があるってことを知ってるのよ。」
「・・・・・・?」
「この二人は付き合ってたんだから、当然そういう行為もするわよね?」
「そりゃするでしょ。」
「そしてそういう行為をした時に、男性は必ず射精をするでしょ?」
「・・・・・・・・・。」
課長の口から射精という言葉が飛び出し、何とも言えない気持ちになる。
なぜか俺の方が恥ずかしくなって、ちょっとだけ目を逸らしてしまった。
「怪人はこの女性と付き合っている時、そういう行為をしていたはず。そして最後には射精をしていた。」
「まあ・・・・出さない奴はいないと思います、はい・・・。」
「いい?もし・・・もしも怪人を射精をしていなかったら、この女性は変に思うはずよ。どうしてセックスをしておきながら、射精しないんだろうって。」
今度はセックスという言葉が飛び出し、また恥ずかしくなる。
だって課長の口からそういう言葉が出て来るのは・・・・なんかイメージにないから。
「だけどメールの文章を読む限り、この女性はそういう疑問は抱いていない。それはつまり、この時の怪人には射精能力があったってことよ。」
「そ・・・そうですね・・・。」
「ちゃんと聞いてる?ていうかどうして顔が真っ赤なの?」
「いや、何でもないです。続けて下さい・・・・。」
こほんと咳払いをしながら、冷めた紅茶をすすった。
「この女性を騙している時の怪人には、射精能力があった。それはつまり、この時点では性転換手術をしていないって証拠なの。」
「はい・・・・・。」
「ということは・・・・・・?」
「いうことは・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・なんで黙るのよ?」
「いや、だって・・・・なんかさっきから恥ずかしくて・・・・。」
顔を真っ赤にしながら、また紅茶をすする。
すると祐希さんが「君ってまさか・・・」と口を開いた。
「君は・・・童貞なの?」
「ぶふぉ!」
紅茶を吹き出し、「な・・・何言ってんですか!」と睨んだ。
「だって顔を真っ赤にしてるから。こういうのに免疫がないのかなと思って。」
「し・・・失敬な!」
「なら童貞じゃないのね?」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・ノーコメントで。」
「まさか・・・・素人童貞とか?」
「違いますよ!ていうか童貞の話なんてどうでもいいでしょ!」
そう言って怒ると、祐希さんはニヤニヤと笑った。
《くっそ〜・・・・絶対に楽しんでるよ、この人。》
覗きはするわ、童貞かと問い詰めるわ・・・・人をからかって何が楽しいんだか。
ムスっとしながら紅茶を飲んでいると、課長が「あの・・・・」と尋ねた。
「素人童貞って・・・・何?」
そう言って俺に目を向ける。
「ぶふぉ!」
「童貞は分かるんだけど、でも童貞に素人とか玄人とかあるの?」
「い・・・いや・・・・それはですね・・・・、」
「ねえ祐希さん。素人童貞って何のことですか?」
「それはね、いわゆる風俗で筆下ろしを・・・・、」
俺はテーブルにカップを叩きつけ、「答えなくていいですから!」と止めた。
「あら、また顔が真っ赤。じゃあやっぱり素人どうて・・・・・、」
「もう童貞の話はいいです!ここでお終い!はいお終い!」
これ以上放っておくと、何を言われるか分からない。
課長はまだ「素人童貞って・・・」と呟いていて、「課長ももうやめましょう!」と止めた。
「今は怪人の話でしょ!?」
「ああ、そうだったね。」
「・・・・・で?なんでしたっけ?どこまで話してたんだっけ・・・・?」
「もう!やっぱりちゃんと聞いてないじゃない。」
課長はムッと睨んで、「人の話はちゃんと聞くように」と怒った。
《ちゃんと聞いてましたよ。でも祐希さんが邪魔をするから・・・・。》
肩を竦めながら、また紅茶をすする。
「ええっと・・・・怪人には生殖能力があって、相手の女性はそれを知っていた。それはつまりその・・・・・。」
「つまり?」
「・・・・・つまり・・・・・分かりません。」
「もう・・・・。」
課長は大きなため息をつき、「どうしてここまで説明して分からないかなあ」と呆れた。
「すいません・・・・。」
「いい?生殖能力があるってことは、性転換手術をしていないってことなの。それはつまり、怪人の本当の性別は男ってことになるわけ。」
「男・・・・・。」
「だってそうでしょ?被害者の女性は、相手の子供を産むつもりでいた。だったら怪人には射精能力があったってことなんだから。」
「・・・・・・ああ!そうか・・・なるほど・・・分かってきた。」
俺は頷き、「手術したら射精出来なくなりますもんね」と言った。
「そうよ。女性から男性に変わったとしても、射精能力まで得るわけじゃない。だから怪人の性別は男なの。」
「ははあ・・・・そういうことだったのか。」
「このメールの一番重要なところは、怪人の性別がハッキリ分かるってことなのよ。」
「なるほどなあ・・・・。今まで一切謎だった奴の情報が、写真とメールで二つも分かったわけだ。」
「そう、素顔と性別がね。」
「それすごいですよ。何もかもが一切謎だったのに、そんな重要なことが二つも分かるなんて。」
「これは大きな前進よ。」
課長は頷き、「顔と性別が分かれば、色々と調べようがあるからね」と言った。
「でも怪人の調査は私たちの仕事じゃない。だからこの情報は伊礼さんに渡しましょ。」
「伊礼さんに?」
「だって彼は元探偵でしょ?しかも腕が良いって言ってたじゃない。」
「加藤社長が言うには、かなりのもんらしいですよ。」
「なら伊礼さんにこの情報を渡しておけば、必ず怪人の素性を突き止めてくれると思う。私たちは怪人の見張りに専念出来るわ。」
「おお、なるほど!なんて言うか・・・・おお!って感じですね。」
「ほんとに分かってる?」
「もちろんですよ。だって俺たちには、伊礼さんだけじゃなくて祐希さんだっているんです。きっとすぐに怪人の正体を掴んでくれるはずですよ。」
そう言って「ね?」と笑いかけると、祐希さんは「悪いんだけど・・・」と肩を竦めた。
「これ以上は協力出来ないのよ。」
「な・・・・なんでですか!?前は力を貸してくれるって・・・・、」
「そうなんだけど、他に仕事が入っちゃってね。」
「そんな・・・・、」
「悪いけど、これは善意の協力でやってることだから。もっと言うなら、ただのボランティアね。」
「ボランティアって・・・・そんな言い方酷いじゃないですか。」
「だって本当のことだもの。いくら君達に協力したって、一円の得にもならない。私は君達みたいに会社に雇われてる身じゃないから、休んだ分だけ収入が減るの。」
「だからって途中で抜けるなんて酷いですよ。せっかくここまで協力してくれたのに。」
「これは私じゃなくて、風間君がやってくれたのよ。でも彼だって仕事がある。ジャーナリストとして、そして喫茶店のマスターとして。」
「あの人・・・・どっちが本業なんですか?」
「今は喫茶店みたいね。元々は趣味で始めたんだけど、今じゃけっこう儲かってるみたい。だから近いうちに喫茶店に専念するって言ってたわ。」
「じゃあなんで俺たちに協力してくれて・・・・、」
「それは私の顔を立ててくれただけ。」
「だけどここで降りるなんて冷たいですよ。せめてもうちょっと協力してもらえませんか?」
ムスっとしながらそう言うと、祐希さんは「あのね・・・」と顔をしかめた。
「私はあなた達の便利屋じゃないのよ。前の事件の時は、黒幕が私にも因縁のある奴だったから力を貸しただけ。でも今回はなんにも私に関係ないもの。」
「それはそうだけど・・・・・、」
「どうしても協力してほしいなら、仕事として依頼してちょうだい。報酬さえもらえるなら、喜んで手を貸すわよ。」
祐希さんは肩を竦めながら、「どうする?」と尋ねる。
俺はしばらく迷ってから、「もしかして・・・」と尋ねた。
「祐希さん、ここまでの仕事に報酬もらってます?」
そう尋ねると、何も言わずに微笑んだ。
「前は聞きぞびれたけど、あなたと加藤社長ってどういう関係なんですか?前に「うみねこ」で会った時、なんかお互いに知ってる感じだったけど。」
「仕事で知り合ったのよ。ほら、加藤社長って元々は企画部長だったでしょ?だから新しい商品が出来た時に、私に撮影を依頼してきたのよ。」
「広告用の写真とかですか?」
「そうよ。私は報酬さえ貰えばジャンルは問わないから。風景も動物もヘアヌードも撮るし、ジャングルや海底にだって行くわ。もちろん広告用の物撮りだってやる。」
「なんか・・・・すごいですね。」
「だってプロだもの。仕事に見合った報酬さえ貰えるなら、選り好みはしないわ。」
「なるほど・・・・。ならやっぱり今回も仕事だったんですね。」
俺は祐希さんの持って来た写真や書類を見つめ、「これって加藤社長から依頼されたんでしょう?」と尋ねた。
「うみねこで会った時、確か仕事だって言ってたはずです。」
「そうね。」
「加藤社長はあなたが筋金入りのプロだって見込んで、多額の報酬を渡して怪人の調査を依頼したんでしょう?何か奴の弱みになるような写真を撮ってきてくれって。」
「正直言うとねそうね。あなた達には黙っていてくれって頼まれてたけど、もう仕事は果たしたから喋っても問題ないわ。」
「なら風間のでっち上げの記事が出るのを防いでくれたのも、加藤社長からの依頼だったんですか?」
「ええ。」
「・・・・・・・・。」
「加藤社長、君のことを心配してたからね。あいつは大きな可能性を秘めてるけど、まだまだ脇が甘いって。
だから万が一に備えて、私に頼んでたのよ。もし何かあったら、冴木を助けてやってほしいって。もちろんその分は報酬を上乗せしてもらったけどね。」
「・・・・・・・・。」
「君はまだ若いから分からないだろうけど、ほとんどの物事には誰かの意図が絡んでるのよ。
偶然起きたことに思えても、実は誰かが糸を引いていた。都合の良い偶然ってそうそう起こるものじゃないからね。」
「・・・・・・・・。」
「ここまでの私の協力は、全て加藤社長からの依頼。でも貰った報酬分は働いたから、これ以上は手を貸せないわ。
後は君たちだけでやるか、もしくは私に仕事として依頼するか。風間君の分の報酬も貰えるなら、彼にも手伝わせるけど・・・・どう?」
そう言って決断を促す。
俺は眉を寄せながら、「祐希さん」と呟いた。
「俺・・・ちょっとあなたのことを尊敬しました。」
「褒めても何も出ないわよ?」
「そんなつもりじゃないですよ。前からすごい人だとは思ってたけど、でも今日ハッキリ分かりました。
あなたは本物のプロなんだなあって。だから加藤社長は、あなたに依頼したんでしょうね。この人なら期待通りの仕事をしてくれるはずだって。」
「なら君もしてみれば?ただし私の仕事は安くないけど。」
「分かってます。だから・・・・今はやめておきます。」
俺はそう言って首を振った。
「祐希さんみたいな人を雇うには、こっちだってそれなりの器じゃないとダメなんだ。俺、あなたを雇うにはまだ早いなって思うから・・・・。
だから今よりもっと偉くなったら、その時はお願いします。」
そう言って頭を下げると、「成長したわね」と笑われた。
「ほんの一カ月前までは、まだまだ子供だったのに。だんだん逞しくなってる。」
「そうですか?あんま変わんないと思うけど。」
「成長っていうのは、意外と自分では分からないものよ。他人から言われて、初めて気づくものだから。」
祐希さんは「加藤社長の言う通り、君は大きな可能性を秘めてるかもね」と微笑んだ。
「楽しみだわ、これからどんな風に成長していくのか。」
「俺、自分でもよく分からないけど、でも今のままじゃダメかなって思ってて。じゃないと仕事も恋も、上手くいきそうにないなって・・・。」
そう言いながら課長を見つめると、向こうも俺を見ていた。
「私も逞しくなったと思う。だから期待してるわ、いつか立派な人になるって。」
「俺、必ず課長に相応しい男になりますよ。だから待ってて下さい。」
拳を握り、「怪人、やっつけましょうね」と言った。
「うん、力を合わせればきっと出来る。」
課長も拳を握り、「祐希さん、ここまでの協力ありがとうございました」と頭を下げた。
「相変わらず良い仕事だなって感心しました。私も見習いたいです。」
「翔子ちゃんにそう言ってもらえると嬉しいわ。」
それを聞いた俺は「もしかして課長は・・・」と尋ねた。
「気づいてたんですか?祐希さんが仕事だから手を貸してくれてるって。」
「もちろん。だってこの人のことはよく知ってるもの。君より前からね。」
「ああ・・・そういえばそっか・・・・。」
「妥協のない筋金入りのプロよ。だからこそ信頼できる。私もいつか、この人に頼んで良かったって思ってもらえるくらいの仕事をしてみたい。」
そう語る課長の顔は、ここじゃないどこかを見ているような気がした。
それはつまり、まだまだ俺の想いは届かないってことなんだろうなと思った。
今課長が真剣に考えているのは、自分の未来のことだ。
人生とか仕事とか、恋愛とは全然ちがった所に目を向けていて、きっと今は振り向いてもらえない。
だから俺だって、今は自分のことを考えるようにしよう。
もちろん課長が俺にとっての一番だけど、でも課長課長って追いかけてるだけじゃダメなんだ。
本当に好きな人に振り向いてほしいなら、脇目もふらずに自分の道を突っ走ることも大事なんだ。
これからどうやってあの怪人を倒すのか?それが今考えるべきことだ。
気を引き締め、必ず追い詰めてやるぞと拳を叩く。
そんな俺を見て、祐希さんは「君たちなら出来るわ」と言った。
「あの怪人は強敵だけど、でも倒せない相手じゃない。顔を変えてコソコソ動き回るような奴だから、その程度の性根しかないってことよ。
みんなの見ている明るい場所で、首根っこを押さえてやりなさい。きっと一発でカタがつくわ。」
そう言って立ち上がり、「それじゃ」とドアへ向かう。
「困ったことがあったら、いつでも連絡して。仕事ならどこへでも飛んで行くから。」
手を振りながら部屋を出て行く。パタンとドアが閉じられ、俺と課長だけになった。
「祐希さんの言う通りだ。あの怪人、俺たちだけでも勝てるはずですよ。」
「そうだね。その為にも、この写真とメールは伊礼さんに渡そう。きっとあいつの正体を暴いてくれる。」
「じゃあ俺伊礼さんに電話しますよ。すごい情報が手に入ったって。」
ポケットからスマホを取り出し、伊礼さんの番号を呼び出す。
するとブルブルとスマホが震えて、液晶に伊礼さんからの着信が表示された。
「向こうから掛けてきた。」
通話ボタンを押し、「もしもし?」と電話に出る。
『冴木か?』
「ええ。実はこっちから電話しようと思ってたんですよ。あの怪人のすごい情報が手に入って・・・・、」
『加藤が目を覚ました。』
「ほんとですか!いつ!?」
『ついさっきだ。俺も病院へ来てる。』
「よかったあ〜・・・・じゃあ俺もすぐに行きます。」
ホッと安心しながらそう言うと、『でも様子がおかしいんだ』と不安そうな声が返ってきた。
「様子がおかしい?」
『ああ。身体はピンピンしてるんだが、どうも様子が変なんだ。』
「変って・・・・どう変なんですか?」
『来れば分かる。とにかく待ってるぞ。』
そう言って電話を切られた。
俺は「なんなんだ?」と首を傾げ、でもすぐにある不安に襲われた。
「・・・・まさか・・・・、」
最悪の予感が頭をよぎり、飛び上がるように駆け出した。
「あ!冴木君・・・・、」
「課長!病院へ行ってきます!」
「待ってよ!何があったのか教えて・・・・・、」
課長の声も無視して、とにかく走る。
エレベーターの前で待ちながら、《早く来いよ!》と苛立った。
《加藤社長・・・・まだ向こうになんか行ってないですよね?あなたの魂は、まだこの世にいなくちゃいけないんですよ。だからどうか無事で・・・・。》
課長が追いかけて来て、「一人でどうやって行くのよ?」と肩を叩いた。
「車ないでしょ?走って行くつもり?」
「・・・・・・・・・・。」
いつもなら、課長の言うことには笑顔で返す。
でも今はそれさえ出来なかった。
遅いエレベーターを睨みながら、ただ加藤社長の無事を祈った。

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