稲松文具店〜ボンクラ社員と小さな社長〜 第三十二話 汚泥をすする(1)

  • 2016.05.23 Monday
  • 12:52
JUGEMテーマ:自作小説
どうしようもないピンチになった時、必ずヒーローが助けに来てくれる。
子供の頃は本気でそう思っていた。
俺がヒーローに会えないのは、ピンチになったことが無いからだ!
だったらわざとピンチになって、ヒーローに助けて来てもらおう。
そんな風に考えて、わざと車に撥ねられたことがあった。
今思うとただの自殺行為だけど、あの時は本気でヒーローを信じていたんだ。
テレビで、漫画で、アニメで活躍するヒーローが、きっと助けに来てくれるって・・・・。
でもそんなことはなくて、俺はただ骨を折っただけだった。
わざと赤信号に飛び込み、右折してきた軽四に撥ねられて・・・・・。
ちなみにその軽四の後ろからは、大型トラックが迫っていた。
もし飛び込むタイミングがズレていたら、俺はこの世にいなかったかもしれない。
あの時から、俺はヒーローを信じなくなった。
テレビの特撮ヒーローや、漫画やアニメのヒーローは作り物だと知ったのだ。
だからそういうものに興味を示さなくなったし、何かあれば自分の力でどうにかするしかないと思うようになった。
そして今・・・俺はピンチだ。当然ヒーローは助けに来てくれず、自分の力でどうにかするしかない。
でもどうにも出来ない状況の中で、ただ痛みを味わっていた。
ここは怪人の住むマンション。
俺はここで、殴られ、蹴られ、首を絞めて落とされ・・・・・・。
屈強な男たちから散々に暴力を受け、床に転がされていた。
口からはドロッとした血が流れ、ヨダレと混じって床に垂れていく。
身体は痣だらけで、ちょっと動いただけでも激痛が走るほどだ。
怪人は俺を見下ろし、「どう?」と笑う。
「痛いでしょ?苦しいでしょ?」
「・・・・くたばれクソが。」
「なるほどねえ・・・・やっぱり自分の痛みには強いわけか。」
地味な顔を笑わせながら、「でもこれ以上やると死んじゃうし・・・」と呟く。
「さすがに殺人はまずいからねえ。でもまだまだ刃向う気満々だし・・・・どうしよう?」
「俺は・・・・こんなもんでへこたれたりしないんだよ・・・・。殴られたり蹴られたりしたから何だってんだ・・・・。世の中にはなあ・・・もっと痛いことがあるんだよ。」
「何を痛いと思うかは人ぞれぞれよ。肉体的な痛みに弱い人間もいれば、精神的な痛みに弱い人間もいる。はたまた経済的な痛みとか・・・・、」
「ゴタクなんて聞いてねえよバカ・・・・。気が済んだんなら・・・・とっとと解放しろや。」
そう言ってペッと血を吐きかけ、怪人の足を汚してやった。
「君は肉体と精神、両方の痛みに強いみたいね。」
「ああ、そうだよ・・・・。こう見えても我慢強くてな・・・・だからいくら暴力ふるったって、俺はへばったりしないぞ。」
「そうみたいね。」
「なんなら殺すかよ?まあそんな度胸ないだろうけどな・・・・・。」
「君ごときの為に殺人を犯すなんて割りに合わないわ。でもこのままだとまた私に刃向うし・・・・どうしよう?」
「・・・あのな、言っとくけど俺の周りに手え出したら許さねえぞ。」
「ん?」
「どうせそう考えてんだろ・・・・。俺を痛めつけても無駄なら、周りの奴らを酷い目に遭わそうって。」
「よく分かるわね。」
「俺を潰す為に、でっち上げの記事を載せようとしてたじゃねえか・・・・。課長のことを書いてな。」
「君は大事な人の痛みには弱いと思ったからね。」
「もし・・・・もし課長に手え出してみろ。俺はお前を殺してやるぞ。冗談じゃなくて・・・・本気で殺す。」
歯を食いしばりながら、鬼のような目で睨みつけてやる。
これは脅しじゃなくて本気だ。もし課長を傷つけるような真似をしたら、俺は絶対にこいつを殺す。
例え死刑になろうが、絶対に許さない・・・・地の果てまで追いかけてでも殺してやる・・・・。
「怖い目・・・・本気で言ってるのね。」
「当たり前だろうが・・・・・。課長は俺の女神なんだよ。だから課長の為なら、例え火の中水の中だ・・・・・。」
また血を吐き出し、怪人の足を汚す。
「なるほどね・・・君の覚悟は本物なわけか。」
そう言って肩を竦め「でも心配しないで」と笑った。
「あの子には手を出さない。さすがに誘拐とか痛めつけたりとかは出来ないわ。だって・・・・稲松文具会長の一人娘なんだもの。
もしそんなことをしたら、私の身が危うくなる。君に殺される前に、会長に八つ裂きにされるわ。」
「なら・・・もういいだろうが・・・・。ここで終われよ。」
「でも君はまだ刃向うつもりなんでしょ?」
「当たり前だ・・・・。誰がお前みたいなクソ怪人を見逃すか・・・・。真剣に頑張ってる人達を利用して、たくさん傷つけて・・・・絶対に許さねえ。」
加藤社長のこと、被害に遭ったカップルのこと、他にも大勢の人がこいつのせいで苦しんだ。
本気で頑張ってる人を、何の罪もない人を、ただ自分の為だけに利用した。
そうやって傷つけられた人たちの無念は、いったいどれほどのものだっただろう・・・・。
本当に痛いっていうのは、殴られたり蹴られたりじゃないんだ。
そうやっていい様に弄ばれて、人生を踏みにじられることだ。
「お前のやってることは、ガキのイタズラと同じなんだよ・・・・。」
「へえ。」
「お前は小心者で捻くれてて、なんでも思い通りにいかないと気がすまないガキだ・・・・。思春期のまま大人になったみてえな、ただの頭の悪いガキなんだよ・・・。」
「ボロクソね。」
怪人は可笑しそうに笑い、「否定はしないわ」と言った。
「でもこの状況をどうする?いくら吠えたってどうにも出来ないじゃない?」
「それはお前の方だろ?俺はどんなに痛めつけられたって、お前に従ったりしねえ・・・。かといって殺す度胸もないし、課長にも手を出せない・・・・。
追い詰められてるのはお前の方だろうが・・・・。」
「ほんとにそう思う?」
「思うね・・・。お前は何も出来ない。だからずっとここで俺をいびってりゃいいんだよ・・・・。選挙が終わるまでそうしてりゃいい。
きっと・・・きっとあの人が社長になって、お前を倒してくれる。」
「あの人?」
「地獄から戻ってきたヒーローだよ・・・・。クソみてえな怪人を倒す為にな。」
「何を言ってるのか分からないわ。」
怪人は首を振る。そして「でも君の言ってることは間違ってる」と笑った。
「君を従わせる手段なんていくらでもあるのよ。」
「へえ・・・どんな風に・・・・?」
「こんな風によ。」
怪人はパチンと指を鳴らす。すると奥のドアが開いて、屈強な男が現れた。
その男の腕の中には、一人の女性が捕まっていた。
猿ぐつわを噛まされ、後ろで手を縛られている。
「あ・・・・・・・・、」
俺は身体を起こし、「美樹ちゃん!」と叫んだ。
「ふ・・うう・・・ひゃえきひゃん・・・・、」
「なんで美樹ちゃんが!?」
膝に手を付きながら、痛みを我慢して立ち上がる。
すると怪人が「人質に決まってるでしょ」と言った。
「君は自分の痛みには強い、けど他人の痛みには弱い。だからこうして人質を取ったってわけ。」
「て・・・・てめえ!」
「だって仕方ないでしょ?北川課長には手を出せない。だったら他の人間に手を出すしかないもの。」
「ふざけんなよコラあああ!!」
怒りが噴き上がり、痛みがすっ飛んでいく。気がつけば怪人に殴りかかっていて、でも途中でボディガードに捕まった。
「離せコラああああ!」
思い切り暴れるが、屈強な男たちはビクともしない。
太い腕で俺を持ち上げ、そのまま床に叩きつけた。
「ごおッ・・・・、」
「ちょっと・・・頭から落とさないでよ。死んだらマズイでしょ。」
怪人はそう言って、俺の顔を覗き込む。
「生きてるわよね?」
「・・・・ぐッ・・・・、」
「ほんとに頑丈ね。ほら、頭上げて。」
俺の髪を掴み、強引に前を向かせる。
目の前には美樹ちゃんがいて、「ひゃえきひゃ〜ん・・・・」と泣いていた。
「美樹ちゃん・・・・、」
「ひゃ・・・ひゃんで・・・・、」
美樹ちゃんはブルブルと震えながら、グッと猿ぐつわを噛みしめる。
怪人は「外してあげて」と言い、ボディガードが猿ぐつわを取った。
「あんた大声出すんじゃないわよ。」
美樹ちゃんの髪を掴み、「さもないと冴木みたいになるから」と指さした。
「ふ・・・ふうう・・・・、」
ボロボロと泣きながら、美樹ちゃんは「なんでえ・・・・」と呟く。
「なんでこんな事に・・・・、」
「それは冴木君のせいよ。彼が私に刃向うからこうなった。全部彼が悪いの。」
「さ・・・・冴木さんは・・・・悪い人じゃありません・・・・。」
「何?私に口応えするの?」
ギロっと睨まれ、美樹ちゃんはブルブルと首を振る。
「美樹ちゃん・・・・・・・。危険な目には遭わせないって約束したのに・・・。」
怖がる彼女を見つめながら、「ごめん・・・」と謝る。
「お・・・お店に行こうとしてたら・・・・急にこの人たちが現れて・・・・。それで車に押し込まれて・・・・・、」
「こいつら怪人の手下なんだ・・・・。」
「わ・・・わたし・・・・どうなるんですか・・・・?冴木さんみたいに・・・酷い目に遭わされちゃうんですか・・・・・。」
「そんなことさせない!」
「で、でも!こんなのどうしょうもないじゃないですか!私だってきっと怖い目に遭う!」
「・・・・・・・・・・。」
「助けて・・・・助けて下さい・・・・冴木さん・・・・。」
美樹ちゃんは必死に助けを求める。俺はすぐに助けてあげたかったけど、でもこの状況じゃ・・・・。
怪人は「怖いわよねえ」と美樹ちゃんの頭を撫でる。
「君はいったいどうなっちゃうのかしら?冴木みたいに血まみれになるほど殴られたり・・・・、」
「い・・・・嫌!」
「そうよねえ、暴力は怖いわよねえ。せっかくこんな可愛い顔をしてるんだから、傷つけられたりなんかしたら嫌よね。」
「ご・・・ごめなさい・・・・。大人しくしてるから・・・・殴ったりとかしないで下さい・・・・・。」
「うん、殴らない。殴らないけど・・・・別の酷い目に遭ってもらおうかなあ。」
そう言って美樹ちゃんの髪の毛を引っ張り、ベッドに押し倒した。
「あんた達。」
屈強なボディガードに目配せをして、「この子好きなようにしていいわよ」と言った。
「なかなか可愛い顔してるわ、この子。あんた達も興奮するでしょ?」
不敵な笑みを浮かべながら、「たっぷり可愛がってもらいなさい」と美樹ちゃんに笑いかける。
「い・・・いや・・・・、」
「でも殴られるのは嫌なんでしょ?だったらこうするしかないわ。」
そう言って「ほら、好きにしてあげて」と男たちに言う。
ボディガードたちはお互いに顔を見合わせ、イヤらしい笑みを浮かべた。
そしてゆっくりとベッドを取り囲み、美樹ちゃんに手を伸ばした。
「いやあああああ!」
「やめろテメエらあああああ!」
また怒りが噴き上がり、身体の底から力が湧いてくる。
でも残ったボディガードに首根っこを押さえられ、床に叩きつけられた。
「離せコラああああああ!」
「冴木さん!助けて!」
「てめえら!美樹ちゃんに触んじゃねえ!ぶっ殺すぞ!!」
「いやあああああ!」
「やめろつってんだろおおお!!」
部屋中に響き渡るほどの大声で怒鳴る。すると怪人は「じゃあどうする?」と睨んだ。
「このままじゃ可愛い美樹ちゃんが傷つくわよ?じゃあどうするの?」
「いいからやめろつってんだよ!」
「あ、そ。あんた達、たっぷり犯してあげな。身体の隅々まで全部ね。」
ボディガードたちはニヤリと頷き、美樹ちゃんに覆いかぶさる。
服が引き裂かれ、美樹ちゃんの叫びがこだました。
「いやああああああ!」
「美樹ちゃん!」
「助けて!助けて冴木さあああああん!」
引き裂かれた服が宙を舞い、床にハラリと落ちる。男たちはズボンを下ろしながら、汚れた手を美樹ちゃんに伸ばした。
「やだあああああ!いやあああああああ!!」
「分かった!分かったからもうやめろ!!」
そう叫ぶと、怪人が「あんた達」と止めた。
「ちょっと待って。」
そう言って俺の方を向き、「もう一度」と睨んだ。
「・・・分かったから・・・もう・・・、」
「何が分かったの?」
「もう・・・・刃向わない・・・。だから美樹ちゃんに・・・・酷いことしないでくれ・・・・。」
「声が小さい。もう一度。」
「もう・・・もう刃向わないから!だから美樹ちゃんを助けてくれ!」
床に手をつき、頭を下げる。
怪人は足音を鳴らしながら近づいて来て、「約束よ」と言った。
「次に刃向ったら・・・・今日の続きをする。」
「・・・・・・・・・・。」
「この子の次は箕輪って子よ。二人とも散々に汚されて、あの男たちに孕ませられる。」
「・・・・・・・・・・。」
「ついでにあの楠って店長にも、あんたと同じ目に遭ってもらうわ。あれはあんたみたいには強くない。きっと一生もののトラウマになるわよ。」
「・・・・・・・・・・。」
「どう?今後、絶対に、二度と私に刃向わないって約束出来る?」
怪人は俺の頭を踏みつけ、「どうなのよ?」と体重を掛けた。
グリグリと踵で踏みつけ、床に頭を押しつける。
「・・・・約束します。」
「ん?」
「もう二度と刃向いません・・・・・約束します。」
そう言って「だから美樹ちゃんを助けて下さい!」と頼んだ。
「もう一度。」
「もう刃向いません。だから美樹ちゃんを解放してあげて下さい。」
「ん、上出来。」
頭から足をどけ、代わりに唾を吐いた。
それは俺の目の前に落ちて、「舐めなさい」と言われた。
「それ、舐めて。」
「・・・・・・・・・・。」
「本当に約束するなら舐めて。」
「・・・・・・・・・・。」
「ほら、早く。」
「・・・・・・・・・・。」
「さっきのは嘘なの?ならまたあの子を酷い目に・・・・、」
怪人の言葉を遮るように、俺は唾を舐めた。
それは血と混じって赤く染まり、口の中に滲んだ。
その瞬間、言いようのない嫌な感情がこみ上げた。
悔しい・・・・情けない・・・恥ずかしい・・・惨め・・・・そして怒り・・・。
色んな感情が混ざり合って、身体の隅々まで溶けていく。
俺の表情は苦痛に歪む。それを見た怪人はこう言った。
「屈辱でしょ?」
「・・・・・・・・・。」
そう言われて、なるほどと納得した。
このどうしようもない嫌な感情・・・滲めで情けなくて・・・・そこに激しい怒りが湧き上がる。
これが・・・これが屈辱ってもんなのか・・・・。
俺は頭を下げたまま、しばらく動けなかった。

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