稲松文具店〜ボンクラ社員と小さな社長〜 第三十七話 いざ選挙!(3)

  • 2016.05.28 Saturday
  • 13:33
JUGEMテーマ:自作小説
選挙のスピーチは8時から。
しかも俺がトップバッターである。
緊張と共に控室で過ごし、ドアの前で名前が呼ばれるのを待っていた。
だけど時間が近づいても全然呼んでくれなくて、とうとう8時になってしまった。
本当なら係員が呼んでくれるはずなんだけど、時間が来ても呼ばれる様子がない。
ルールでは勝手に部屋を出てはいけないことになってるけど、もう我慢出来ない。
ドアを開けて出ようとすると、なんと外から鍵が掛かっていた。
しかも内側から開けることが出来ないようになっている。
俺はノブを回し、「開けてくれ!」と叫んだ。
「早くしないと時間が無くなる!」
ノブをガチャガチャ回しても、係員は来ない。
「おい!そこにいんだろ?早く開けてくれ!」
そう叫んでも、うんともすんとも返事がなかった。
「なんだ?いないのかよ?」
バンバンとドアを叩き、「開けろって!」と叫ぶ。
「便所でも行ってんのか!?俺がトップバッターなんだよ!さっさと開けろ!」
叫んでも喚いても、ドアを叩いても返事がない。
こうなりゃヤケだと思って、思い切りドアを蹴飛ばした。
でも全然ビクともしなくて、「痛ってえ・・・」と足を押さえた。
「んだよ・・・ドアってけっこう頑丈なんだな・・・・。」
蹴った足がジンジンする・・・・。ドラマとか漫画なら簡単に蹴破ってるのに、実際はけっこう固いもんだった。
「クソ!開けこの野郎!」
今度は体当たりをかますが、やっぱりビクともしない。
「おのれ〜・・・・こうなったら必殺の回し蹴りで・・・・・。」
カンフー映画みたいに、クルっと回ってキックを放つ。
でも埃だらけの床のせいで、ズルっと足元が滑った。
「ふぎゃッ!」
一回転しながら派手に倒れる。思い切り背中を打って「ぬおおお・・・・」と悶えた。
「い・・・息が・・・・呼吸がああ・・・・・。」
ゲホゲホと咳をしながら、「ふざけんなよ・・・」と立ち上がる。
「なんだってんだよ・・・・なんで誰も呼びに来ないんだよ・・・・。」
背中を押さえながら、「ぐふッ!」と咳き込む。
時計を見ると8時3分になっていて、「ぬああ!」と叫んだ。
「もう始まってんじゃん!」
一気に焦りが出て来て、「ここを開けろ〜!」と叩きまくった。
「俺の時間なんだよ!俺がトップバッターなんだ!」
いくら叫んでも誰も来ない・・・・・。これはいよいよヤバイことになった。
「・・・確か草刈が言ってたな・・・・。8時になったら、候補者は全員会場へ移動するって・・・・・。てことは・・・もしかしてこの階には誰もいないんじゃ・・・・。」
この部屋のある五階は、普段は誰も使わない。
緊急の会議とか、他の部屋が開いていない時にしか使用しないのだ。
だからこんな物置みたいな部屋があるわけで・・・・。
「なんてこった・・・・俺だけ忘れられてる・・・・。」
がっくりと項垂れ、埃まみれの床に座り込んだ。
「・・・・・そうだ!スマホで・・・・、」
そう言いながらポケットに手を入れて、「あ!」と固まった。
「ダメだ・・・・取り上げられてるんだった。」
またガックリと項垂れ、「ああ・・・もう!」と床を叩いた。
「ドアは開かない!係員はどっか行っちまう!スマホも無けりゃ、この階自体に人がいない!もうお手上げじゃないか!!」
ガリガリと頭を掻きむしり、「どうすりゃいいのさ!」と叫んだ。
でもそこで「そうだ!」と思いついた。窓に駆け寄り、庭を見渡す。
「・・・・・・いなくなってる。」
さっきまで箕輪さんたちがいたのに、ベンチには誰もいなかった。
「中に入っちゃったのか・・・・クソ!」
せっかく直したパイプ椅子を蹴飛ばし、また倒れて来る。
「ぎゃうッ!」
ガラガラと音を立てながら、幾つものパイプ椅子に組み敷かれた。
「なんってこった・・・・今日は厄日だ。」
もうどうにでもなれと思い、本気でこのまま寝てしまおうかと考える。
《ああ、もう!一番決めなきゃいけない日なのに・・・なんでこんな事になるかね?ていうかそもそも草刈の野郎が悪いんだ。
あいつがこんな部屋さえ用意しなきゃ・・・・・、》
そう思った時、「まさか・・・」と顔を上げた。
「これ・・・・わざとか?わざと俺を閉じ込めたのか?スピーチをさせない為に・・・・・。」
ふつふつと湧き上がった疑惑は、炎のように燃え上がる。
「絶対にそうだ・・・・俺だけ呼び忘れるわけがない・・・・。これも草刈の野郎が企んだことなんだ・・・・・。」
今日は厄日だ・・・・・そう思ったことを撤回する。
これは厄日なんかじゃない。全部草刈の野郎が悪いんだ・・・・。
「あの野郎・・・・・・屋上から巴投げかましてやる!」
椅子を押しのけ、「オラあ!」とドアに突っ込む。でも全然ビクともしなくて、「こっちはダメか・・・」と諦めた。
「自力で出るのは無理だな。なら・・・・誰かに気づいてもらうしかない!」
また窓に駆け寄り、外に人はいないか探してみる。
するとたくさんの人が集まっていて、入り口の前で固まっていた。
「おお、たくさんいるじゃん!」
これだけいれば、大声で叫べば誰かが気づいてくれる。
俺は窓に手をかけ、「ふぎ〜・・・・」と引っ張った。
「ほんっと立てつけ悪いなこれ・・・・・・。」
ほとんどハメ殺し状態の窓を思い切り引く。
するとガコ!っと音がして、サッシから外れてしまった。
「あ、ヤバッ・・・・・、」
そう呟くのと同時に、窓が落ちて行く。
そして数秒後にはバリーン!と大きな音が響いた。
「・・・・・・・やっちまった。」
背中に冷や汗が流れ、すぐに窓から身を乗り出す。
下を見ると、窓は盛大に割れていた。
五階からでも分かるくらいに、辺り一面にガラスが飛び散っている。
でも幸いなことに、周りに人はいなかった。
俺は「よかったあ〜・・・」と息をつき、サッシにもたれかかった。
もし誰かが怪我をしていたら、それこそ給料の天引き程度じゃすまなくなる。
ていうか選挙どころじゃなくなるだろう。
「やっぱ今日は厄日かもしれんね・・・・・。」
ガックリと項垂れ、もうどうにでもなれと運命を呪う。
すると「誰かいるのか!?」と下から声がした。
「ヤベッ・・・・、」
咄嗟にしゃがんで隠れる。また「上に誰かいるのか!」と声がして、俺はじっと固まった。
「ああ・・・・見つかったら弁償させられる・・・・。頼むからこれ以上の天引きは勘弁してくれ。」
貯金は祐希さんを雇う為に使い果たし、給料は元々安月給。
もし社長に当選しなかったら、生活そのものが危うくなる。
「どうにかここから抜け出さないとな。」
事情を説明したら、今からでもスピーチをさせてもられるはずだ。
落ちた窓ガラスのことは・・・・まあ風が強かったとか、ポルターガイストのせいとか、どうにか言い逃れしよう。
一番の問題はどうやって抜け出すかで、ドアの前に立って考えた。
「壊す以外に方法が思いつかない・・・・。でもそんな事したら、やっぱ給料から引かれるのかな?・・・いやいや、これは全部草刈が悪いんだから、あいつのせいにしとけばいいんだ。
課長に事情を話せば、きっと分かってもらえるさ。」
そう自分に言い聞かせ、床に転がったパイプ椅子を掴んだ。
「助走つけてこいつで殴れば、多分壊せるだろ。」
ゆっくりと壁際まで下がり、「うおおおお!」と駆け出す。
そして椅子を振りかぶって、思い切り叩きつけようとした。
しかしその時、ガチャリとドアが開いた。
「うおッ・・・・・、」
慌ててブレーキを掛け、椅子を振り下ろすのを止める。
でも勢いは止まらず、前のめりに転んでしまった。
「ぎゅうッ!」
「きゃあッ!」
誰かとぶつかって、そのまま押し倒してしまう。
部屋の外に倒れ込んで、「なんなんだよ・・・」と立ち上がろうとした。
その時、床に手を着いたつもりが、何か柔らかいものに当たった。
いや、当たったというより、握ったという方が正しいかもしれない。
なぜならその柔らかいものは、ちょうど手の平に収まるくらいの大きさだったからだ。
しかも妙に肉感的で、触っているとこう・・・・ある種の本能が目覚めて来るような・・・・・、
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・手・・・・・どけてくれる?」
そう言われて、俺はゆっくりと手を離した。
それと同時に、床に頭をついて謝った。
「すすすすすす・・・・すみません!!」
「・・・・・・・・・・。」
「わざとじゃないんですよ!いや、ほんとに!絶対にわざとじゃないんです!!」
「・・・大丈夫、分かってるから。」
「だ・・・だってですね!まさか課長が急に現れるなんて思わなくて・・・・・、」
床に穴を空ける勢いで頭を下げる。
何度も何度も「ごめんなさい!」と謝っていると、「もういいから」と肩を叩かれた。
「い・・・いやいや!一発くらい殴って下さい、ええ!」
「だから気にしてないってば。」
「俺が気にするんです!だって・・・この・・・・この汚れた手が・・・・課長のお胸を鷲掴みに・・・・・、」
「言葉に出さなくていいから!」
まだ感触が残る手を見つめていると、ペチンと叩かれた。
《お・・・おお・・・・おっぱ・・・・おっぱいを・・・・・課長の・・・・課長のおおおおおお・・・・。》
喜び?興奮?・・・・いやいや、それより申し訳なさを先に感じないといけない。
いけないんだけど・・・・・やっぱ喜び?
震えながらその手を見つめていると、「目がイヤらしい・・・」と言われた。
「え?・・・・ああ!いやいや・・・そんな・・・・、」
「もしかしてわざとだった?」
「め・・・・滅相もない!この冴木晴香、天地天命に誓ってそのような事は・・・・、」
「もしわざとだったら、ちょっと嫌いになったかも・・・・・。」
課長はジトっとした目で睨む。胸を隠し、怒るような視線で・・・・。
俺はすぐに謝ろうとしたけど、でもすぐに違和感を覚えた。
《あれ?いつもなら「別に怒ってないよ」とか「気にしてないから」って許してくれるのに・・・・。こうやって怒ってるってことは、やっぱ弟君から卒業したってことなのかな?
俺のことを男として意識してるから、こうやって怒ってるのかも。》
じっと考えていると、「いつまでイヤらしい目してるの」と怒られた。
「え?いやいや・・・・別にそんな・・・・、」
「今はそんな事考えてる場合じゃないのよ。」
課長は立ち上がり、「もしかしたら選挙どころじゃなくなるかもしれないんだから」と言った。
「はい?」
「いなくなっちゃったのよ。」
「いなくなった・・・・・って誰が?」
「怪人よ。」
「・・・・・・・ええええ!?」
思いがけないことを聞かされて、「どうして!?」と立ち上がる。
「なんでいなくなっちゃったんですか!?」
「分からない・・・・。でも逃げたのかもしれない。」
「逃げるって・・・・だって選挙に出る気満々だったじゃないですか!」
「理由は分からない。でも突然いなくなっちゃったの。」
「そんな・・・・、」
「だけどそれ以上に深刻な事がある。」
そう言って表情を引き締め、「落ち着いて聞いてね」と眉間に皺を寄せた。
「いなくなったのは怪人だけじゃないの。加藤社長も・・・・。」
「加藤社長も?」
「というより、連れ去られた可能性が高いわ。」
「連れ去られたって・・・・・誘拐ってことですか?」
ゴクリと息を飲み、恐る恐る尋ねる。
課長は無言で頷き、「だから選挙どころじゃなくなるかもしれない」と答えた。
「・・・・・・・・・・・。」
「驚くよね・・・・・・。」
「なんで・・・・?どうして加藤社長を誘拐して・・・・・。」
「今は伊礼さんが捜してくれてる。」
「もし本当に誘拐だとしたら、選挙なんてやってる場合じゃないですよ!早く警察に・・・・、」
そう言いかけると、課長は首を振った。
「無理よ。だって加藤社長は怪人の養子だもの。」
「いや、でも見捨てたんじゃ・・・・、」
「確かに見捨てたけど、法律上はまだ養子のはず。だから・・・・警察に頼んでも意味はないわ。自分の子供なんだから。」
「・・・・・・・・・・・。」
「どうして怪人が加藤社長を連れ去ったのかは分からない。だけど君の言う通り、今は選挙をやってる場合じゃないわ。早く加藤社長を見つけないと。」
課長は深刻そうな顔で言う。でも俺は、もっと深刻な顔になっていた。自分では見れないけど、きっとそんな顔になってるに違いない。
《加藤社長・・・・・。》
もし怪人が狙ってくるなら、それは課長だと思っていた。
なのになぜ見捨てたはずの加藤社長を連れ去ったのか?
《・・・・一つだけ心当たりがある。もしそれが理由だとすると、最悪は加藤社長は・・・・・。》
嫌な予感がこみ上げ、「捜しましょう!」と言った。
「早く見つけないと加藤社長が危ない!」
「分かってる。でもどこを捜せばいいのか・・・・・。」
「とにかく捜すんです!加藤社長が最後にいたのはどこですか?」
「多分自分の部屋だと思うわ。候補者は別々に隔離されてたから、私も直接見たわけじゃないけど・・・・・。」
「なら加藤社長のいた部屋に行きましょう!」
「でもそこはもう調べて・・・・、」
「もう一度調べるんです!何か見つかるかも!」
そう言って駆け出した時、また誰かとぶつかった。
「痛ッ!」
「うお!」
お互いに頭を押さえ、「どこ見てんだ!」と罵り合う。
「・・・・ああ!」
「・・・・またお前か・・・・。」
ぶつかったのは、憎きあの男だった。
俺は胸倉を掴み、ガクガクと揺さぶった。
「てめえこの野郎!よくも閉じ込めやがって!」
「はあ?何を言って・・・・、」
「問答無用!」
腕を掴み、「どうりゃあ!」と一本背負いを決める。
草刈の身体は綺麗に宙を舞い、背中から落ちていった。
「げふッ・・・・!」
「思い知ったかこの野郎!」
ガッツポーズをして勝ち誇ると、「何やってるの!」と課長が怒った。
「何って・・・・こいつが俺を閉じ込めたから・・・・、」
「大丈夫ですか!草刈さん!」
課長は慌てて草刈を抱き起す。背中をさすりながら、「なんてことするの!」と睨まれた。
「え?いや・・・・だってそいつが・・・・・、」
「怪人と加藤社長がいなくなって、みんなパニックだったのよ!でも草刈さんだけが君のこと思い出して助けに来てくれたのに。」
「・・・・・へ?」
わけが分からず、首を傾げながら唇をすぼめる。
草刈はゲホゲホと言いながら、「やっぱりお前はクビだ・・・・」と気絶した。
「・・・・わかが分からない。いったい何なの?」
まったく状況が理解できず、肩を竦める。
課長は目を吊り上げて怒り、草刈は泡を吹いていた。

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