稲松文具店〜ボンクラ社員と小さな社長〜 第三十八話 俺のスピーチを聴け!(1)

  • 2016.05.29 Sunday
  • 12:50
JUGEMテーマ:自作小説
怪人と加藤社長がいなくなった。
これから選挙だってのに、忽然と姿を消してしまった。
課長が言うには、加藤社長は怪人に連れ去られた可能性が高いらしい。
誰かがその場面を目撃したわけじゃないけど、でもそう考えるのが自然だと思う。
だって加藤社長は、怪人を再起不能なまでに叩きのめす武器を持っていたから。
それがどういう武器か知らないけど、手紙には確かにそう書いてあった。
もし怪人がどこかであの手紙を見たとしたら、その武器とやらのことを警戒したはずだ。
だから連れ去った。
みんなが注目する選挙で、その武器を使われたら堪らないと思って。
「・・・・と、俺は考えてるんですけど、どう思いますか?」
加藤社長の部屋を漁りながら、課長を振り返る。
「私も伊礼さんの手紙を読ませてもらったの。だから君の考えは当たってると思うわ。」
「あの怪人・・・実は見捨てたように見せかけて、加藤社長を泳がせていただけなんじゃないですかね?自分が傍にいたら尻尾を掴ませないだろうから。」
「そうかもしれない。でも今はとにかく二人を捜さないと。」
課長はくまなく部屋の中を捜す。
テーブルの上に散らかったオモチャやお菓子。
備え付けのテレビの棚。それに小さなロッカーやテーブルの下など、思いつく限りの所を調べていた。
俺も隅々まで部屋を調べ、何か手がかりになるような物はないか探す。
するとソファに寝かせていた草刈が「うう・・・・」と目を覚ました。
「草刈さん!」
課長が駆け寄り、「大丈夫ですか?」と心配そうに尋ねた。
「大丈夫じゃない・・・・まだ背中が痛いぞ・・・・。」
「すみません・・・・いきなりあんな事を・・・・、」
「どうして北川課長が謝る?悪いのはあのアホだろうが。」
そう言って身体を起こし、「ここは?」と尋ねた。
「加藤社長の部屋です。何か手がかりになる物はないかと思って。」
「無駄だ。伊礼がすでに調べてるはずだからな。」
草刈は背中を押さえながら、「あのガキめ・・・」と立ち上がる。
そしてすぐに俺に気づいて、「お前!」と怒った。
「なんだお前は!いきなり人を投げやがって!」
鬼の形相で掴みかかってきて、「せっかく助けてやったのに!」と怒鳴る。
「恩を仇で返すとはこの事だ!いますぐ首にしてやる!」
そう言って首を締めてきたので、もう一回投げてやった。
「げふッ!」
「冴木君!」
課長が俺たちの間に割って入り、「なんで乱暴なことするのよ!」と睨んだ。
「草刈さんが君を見つけてくれたのよ!それを・・・・、」
「そこが分からないんですよ。」
「え?」
「俺・・・・てっきりそいつに閉じ込められたんだって思ってました。でも違うんですか?」
「なんで草刈さんが君を閉じ込めるのよ?」
「だって俺だけ物置みたいな部屋にされたんです。そいつ俺のこと嫌ってるみたいだから。」
「分からない・・・・どういうこと?」
課長は不思議そうに首を傾げる。すると草刈は「やっぱりそういうことか・・・」と立ち上がった。
「おい冴木・・・・、」
「なんだよ?」
「お前は誤解してるぞ。」
「誤解?何を?」
「お前をあの部屋に入れるように指示したのは俺じゃない。」
「・・・・は?」
「だからお前を閉じ込めてもいない。」
「いや、だって係の人が・・・・、」
「その係の奴も行方不明なんだよ。」
「・・・・・ん?」
「お前は嵌められたんだ。あの怪人にな。」
そう言って痛そうに背中を押さえ、ソファに腰を下ろした。
「順を追って話してやる。そこに座れ。」
草刈は向かいのソファに手を向ける。
でも俺は「加藤社長を捜す方が先だ」と言った。
「あの人は怪人にさらわれたんだ。早く見つけないとどんな目に遭わされるか・・・・、」
「いいから座れ。」
「嫌だね。俺は加藤社長を捜しに行く。お前みたいに嫌がらせばっかりする奴の言うことなんか聞くか。」
「ガキかお前は。」
「何とでも言え。俺はあの人の信頼を裏切るわけにはいかないんだ。早く見つけ出して、予定通り選挙をやる。そんで俺が社長になる瞬間を見てもらうんだ。
それがあの人の信頼に応える一番の方法だからな。」
一瞥をくれ、部屋を出て行こうとする。
すると「冴木君」と課長が腕を掴んだ。
「ちょっと落ち着いて。」
「落ち着いてられませんよ!」
「捜すって言ったって、闇雲に捜したって見つかるわけないじゃない。だから今は話を聴こう。」
「じゃあ課長だけで聴いて下さい。俺は行かなきゃいけないんです。」
「君だけで捜したって意味がないって言ってるの。一人で突っ走ったってしょうがないのよ。」
課長はギュッと俺の腕を握りしめる。
これが他の誰かなら振り払っただろうけど、課長にそんな事をするわけにはいかない。
だから俯いたままこう答えた。
「俺・・・・腹が立ってるんですよ。」
そう言って顔を上げ、課長の目を見つめた。
「自分勝手なことする奴に・・・腹が立ってるんです。あの怪人にも、風間って記者にも、それに・・・・そこの草刈にも。」
ソファに座った草刈を睨み、「なんでもっと協力し合えないんですかね?」と頭を掻いた。
「どいつも自分のことだけ考えて、好き勝手なことしやがる・・・・・。」
「何言ってるの。草刈さんはそんな人じゃ・・・・、」
「でも課長だって言ってたじゃないですか。そいつはあんまり信用出来ないって。」
「そんなこと言ってないわよ。草刈さんは監査役だから、悪いことしないように注意しないといけないよって言っただけじゃない。」
「・・・そうでしたっけ?」
「そうよ。彼は社内で不正を行う者を監視するのが仕事なの。だから冴木君も悪いことしちゃ駄目よって言っただけじゃない。」
そう言われて、「そう言えばそうだったかな・・・」と頭を掻いた。
「君は草刈さんが自分のことを嫌ってるって言ったけど、それは逆よ。君が彼のことを嫌ってるの。だから都合の良いように私の言葉を受け取ったんでしょ?」
「ええっと・・・・、」
「私は草刈さんが信用出来ない人なんて、一言も言ってないわ。」
「・・・・・・・・・・。」
「よく知りもしないのに、勝手にそうやって決めつけて・・・・・。今勝手なことをしてるのは君の方よ。」
課長はキツイ口調で言い、俺の腕を離した。
「草刈さんはただの監査役じゃなくて、素行の悪い社員を監視する役目も持ってるの。」
「・・・そうなんですか?」
「白川常務・・・・最後は怪人の手で追い込まれたけど、でもあのままじゃ近いうちに常務の椅子から降ろされてたわ。
だってあまりに女性関係が酷すぎるから。草刈さんはその証拠を掴んでて、もしこれ以上女子社員を利用するようなことがあれば、処分を与えるつもりだったのよ。」
「・・・・・・・・・。」
課長はソファに座り、「ほら」と隣を叩いた。
「こっちへ来て話を聞いて。」
「・・・・・・・・・・。」
「君は男になったんでしょ?でもそのまま拗ねてたらただの男の子よ。」
「・・・・・・・・・・・。」
「冴木君。」
「・・・・・・・・・・・。」
「あ、そう。ならもういいわ。勝手に好きなようにすればいい。でもその代わり、みんなには迷惑を掛けないでね。
突っ走るのは勝手だけど、君のせいで加藤社長を見つけるのが遅れるかもしれないから。」
今日の課長はいつもより厳しい。
キッと目を吊り上げ、「さっさと行けば?」と言った。
「捜しに行くんでしょ?早く行きなさい。」
「いや・・・・、」
「何?草刈さんの話を聴く気はないんでしょ?だったらここにいてもしょうがないじゃない。」
「それは・・・・、」
「君は成長したと思ってた。でもそうやって拗ねてるだけじゃ、前と同じね。悪いけど、もし君が社長になってもデートは無しよ。」
「えええ!?」
「当然でしょ。「男の子」とデートしたってしょうがないじゃない。それはデートじゃなくて、ただ遊びに連れて行ってるだけだから。」
「ぐほあ!」
「私は君のお母さんじゃないのよ。いつまでも勝手なことやって、それを許してもらえると思ったら大間違い。ちょっと甘いんじゃない?」
「げほッ!」
「ほら、さっさと行きなさい。邪魔だから。」
そう言ってシッシと手を振る課長。その表情はとても厳しく、心が折れそうになった。
「あ、あの・・・・・、」
俺はフラフラと歩き、課長の傍に立った。
「その・・・・ちょっと調子に乗ってたかなあって・・・・、」
「何を?」
「いえ・・・その・・・・最近俺のことを褒めてくれる人が多かったから・・・・調子に乗ってたのかなあって・・・・、」
「だから?」
「それに・・・課長にも褒めてもらって・・・・デートの約束もしてもらって・・・・ちょっと浮かれてたっていうか・・・・、」
指をもじもじさせながら、飼い主に叱られる犬のように俯いた。
「だからその・・・・ごめんなさい!」
そう言って頭を下げると、「私に謝ってどうするの」と言われた。
「謝るのは私にじゃないでしょ。」
「ええっと・・・・じゃあ誰に・・・・?」
「言われなきゃ分からないの。そんな簡単なこと。」
課長の目は増々厳しくなる。
俺は「すいません・・・」と項垂れるしかなかった。
「その・・・どなたに謝ればいいのか・・・・、」
「草刈さんに決まってるでしょ!」
「え?その人に・・・・?」
「せっかく君を助けに来てくれたのに、それをいきなり投げるなんて・・・どうしてそんな乱暴なことするの!」
「はあ・・・・、」
「しかも子供みたいに拗ねて、話も聞こうとしない。こんな失礼なことがある?」
「いや、でもですね・・・・俺はてっきりその人に閉じ込められたと思って・・・・、」
そう言い返すと、課長の目はさらに険しくなった。
「す・・・すいません!俺が悪かったです。」
草刈の傍に行き、「申し訳ありませんでした!」と頭を下げた。
「その・・・とんだ勘違いで酷いことをしてしまって・・・・。」
「まったくだ。」
「全て俺の早とちりのせいです。本当に・・・ごめんなさい!」
肩を竦めながら、小さく丸まって謝る。
草刈は「ふん」と鼻を鳴らし、「北川課長も大変だな」と言った。
「こいつの面倒を見るのは、さぞかし骨が折れるでしょう?」
「ええ、まったく。」
「この手のタイプはすぐに調子に乗る。でも褒めてやらないと伸びない部分もある。まさに飴と鞭だ。」
「使い分けがすごく難しくて・・・・・最近はちょっと甘やかしすぎてたかなって反省してます。」
「男ってのは、下手に育てるとガキのままなんですよ。なんなら私が預かって、一から鍛え直しましょうか?」
「あ、お願い出来ますか?」
課長は嬉しそうな顔で言う。俺は「ちょっと!」と割って入った。
「何なんですかいきなり!二人でそんな話を進めないで下さい。」
そう言うと、草刈がパチンと俺のおでこを叩いた。
「痛ッ!」
「馬鹿かお前は。」
「な・・・何が?」
「いいか?北川課長はな、お前の将来に期待してるんだよ。」
「期待?」
「お前はまだまだケツの青いガキだ。でも中身はいいもん持ってんだよ。だからお前に期待してるんだ。」
「そ・・・・そうなんですか?」
「こうやって厳しくするのも、全部お前の将来を期待してのことだ。今までみたいに甘やかしてたんじゃ、この先伸びないだろうからな。」
「・・・・・・・・・。」
「それともお前は何か?ずっと甘やかしてほしいのか?」
「そ・・・そんなことは・・・・、」
「ケツの青いガキのままじゃ、いつまで経っても彼女と対等になれない。仕事でも恋愛でもだ。」
「なッ・・・・、」
顔が真っ赤になるのを感じて、「なんでそのことを!」と叫んだ。
「んなもん見てりゃ分かる。彼女に惚れてんだろう?」
「う・・・・、」
「でもな、ガキみたいに甘やかされてるだけじゃ、絶対に男として見てもらえないぞ。お前それでもいいのか?」
「い・・・・嫌です・・・・。」
「だったらこれ以上彼女に迷惑を掛けるな。お前のボンクラさ加減のせいで、いったいどれだけ尻拭いをさせられてるか・・・・お前知ってるのか?」
「尻拭い・・・・?」
「お前の普段のしょうもないミスのせいで、始末書180枚、取引先に謝りに行くこと75回、残業だって数えきれないほどやってる。」
「ま・・・・マジすか?」
「誰かがミスをすれば、それをフォローする人間が必要になる。身近なとこだと箕輪がそうだろう?」
「うぐッ・・・・、」
「お前が今までクビにならずに済んだのはな、全部北川課長のおかげなんだよ。それもこれも、お前の将来に期待してのことだ。
なぜなら彼女こそが、お前の秘めてる可能性に一番に気づいたんだからな。」
そう言ってまた俺のおでこを叩いた。
「課長が・・・・俺の可能性に・・・・?」
「だからいつだってお前のミスをフォローしてきた。そしてお前がクビにならないように、上司や取引先にどれだけ頭を下げてきたことか・・・・。」
草刈はソファに腰を下ろし、タバコを吹かした。
「厄介な奴だよお前は・・・・・。優秀な人間は、なぜかお前のことを評価したがる。会長だってお前の覚えはいい。
いくら前の事件があったにしても、あの会長が人を気に入るなんて滅多にないんだ。」
「・・・・・・・・・・・。」
「忌々しい奴だよまったく。しかし・・・・会社の将来を考えると、俺だって優秀な奴はクビにしたくない。今は使い物にならなくても、いつか化ける可能性があるならな。」
そう言って灰皿にタバコを押し付け、グリグリと揉み消した。
「どうでもいいような奴なら、誰も目を掛けたりしない。北川課長のことを大事に想うんなら、今は落ち着いて話を聴け。」
草刈の表情は険しく、この人も焦ってるんだなと分かる。
怪人と加藤社長がいなくなって、それをどうにかしないとと思ってる・・・。
俺は課長の隣に座り、「熱くなってすみませんでした」と謝った。
「その・・・・話を聴かせて下さい。」
真っ直ぐに見つめながら、膝の上で拳を握る。
課長と草刈は目を合わせ、小さく頷いた。
「加藤は間違いなく怪人に連れ去られてる。あいつは伊礼と一緒にこの部屋にいたんだが、ほんの一瞬の隙をついて誘拐された。」
「一瞬の隙?」
「加藤がジュースを飲みたいというから、伊礼が買いに行ったんだ。その時、傍にいた係員に加藤のことを頼んだ。
しかしそいつが少し目を離した隙にいなくなってたらしい。」
「それ・・・どれくらいの時間ですか?」
「30秒もなかったって言ってたな。ケータイに知らない番号から掛かってきて、出てみれば無言電話だと言っていた。」
「なら・・・それも怪人の仕業じゃ・・・・。」
「だろうな。伊礼が戻って来た時、係員は加藤がいないことを告げた。すぐに辺りを捜したが見つからなかった。
まさかとは思って怪人の部屋を覗いてみると、奴もいなくなってたというわけだ。」
「でも怪人の部屋の前にも係員はいたんですよね?だったらいつ抜け出したんでしょう?」
「言い忘れたが、奴の傍にいた係員も行方不明だ。」
「・・・・共犯?」
「その可能性が高いな。どうやら本社の中にも、怪人の手の者がいたらしい。もっと俺が目を光らせとけば・・・・なんて思っても、後の祭りか。」
そう言ってタバコを咥え、「それからは全ての部屋を調べたよ」と言った。
「候補者全員の部屋を確認した。するとお前までいなくなってた。」
「だって俺・・・物置みたいな部屋にいましたからね。」
「怪人の奴がわざとそこへ入れたんだ。」
「なら俺を案内した係員も・・・・、」
「奴の手駒だろう。」
「・・・・・・・・・・。」
「北川課長から聞いたよ。あの怪人、ずいぶんとお前のことを警戒してたみたいだな。奴のマンションへ連れて行かれて、散々に殴られたんだって?」
「ええ・・・しかも俺だけじゃなくて、美樹ちゃんまで怖い目に遭わせて・・・・、」
「可哀想にな、なんの関係もないってのに。白川のこともあるし、特別手当でも出してやるか。」
「お願いします。あのままじゃ可哀想だから。」
俺はグッと拳を握り、「それで?」と先を促した。
「それからはみんなで大捜索だ。とりあえず選挙は保留にして、手の空いた者は全て捜索に回した。
北川課長、伊礼、選挙にやって来た大勢の社員・・・・・。ちなみにカグラの連中は引き揚げて行った。面倒には関わりくないから、ここで棄権すると言ってな。」
「冷たい奴らですね。」
「元々そういう連中だ。しかし優秀な奴が多い会社だから、会長も好きにさせてる。ウチのグループの売り上げの三割を占めてるしな。」
「三割・・・・ってすごいんですか?」
「年間のグループ全体の売り上げが二兆二千億・・・・どれだけ貢献してるかくらい分かるだろ。」
「ちなみに靴キング!は・・・・、」
「900億、全体の約4パーセントだ。本社とカグラには遠く及ばない。」
「なんか悔しいな・・・・。」
「お前は靴キング!の人間じゃないだろう。それに今は関係のない話だ。」
「そうですね。で・・・・その後は?」
草刈はトントンと灰を落とし、短く煙りを吐いた。
「いくら捜しても見つからなかった。怪人と加藤とお前・・・・三人も一気に消えたんだ。それがどこにいるか分からないっていうんだから焦ったよ。
でもその時、五階から一枚の窓ガラスが落ちてきた。」
「ああ!」
俺は思わず叫ぶ。そして恐る恐る「あれはわざとじゃなくて・・・」と肩を丸くした。
「立てつけが悪かったもんだから、つい強引に開けようとして・・・・、」
「幸い誰も怪我しなかった。給料からの天引きだけで許してやる。」
「ほげえッ!」
恐れていたことを言われて、がっくり項垂れた。
「怪人はよほどお前のことを恐れていたみたいだな。だからあんな部屋に閉じ込めたておいたんだろう。もし窓ガラスが落ちてなきゃ、きっと今でも閉じ込められたままだ。」
「なんか複雑だな・・・・良かったような悪かったような・・・・。」
「もしやと思って物置部屋を見上げると、お前が隠れるのが見えた。だから急いで五階まで向かってると、北川課長と出くわしたってわけだ。」
「課長は元陸上部ですからね。足速いんですよ。」
そう言って「ね?」と笑いかけると、真剣な顔で「話の腰を折らない」と注意されてしまった。
「すいません・・・・。」
「その後はお前も知っての通りだ。俺は二回も投げられ、背骨がイカれそうになった。」
「すいません・・・。」
「せっかく助けに来たのに酷い仕打ちだ。」
「すいません・・・。」
「後で病院に行かなきゃな。治療費はお前の給料から天引きだ。」
「そんなあ〜・・・・・・、」
泣きそうになりながら、「しばらく米と漬物だけの生活になる・・・」と嘆いた。
「悔しかったら稼いでみろ。」
「うう・・・・・。」
「とにかく今は二人の行方を捜索中だ。目ぼしい所はすでに捜してるし、伊礼も動いている。あいつは腕利きの探偵だったそうだから、何か掴んできてくれるだろ。」
そう言ってタバコを揉み消し、「だから今は下手に動かない方がいい」と煙を吐いた。
「あの怪人が何を企んでるか分からない以上、勝手に動かれちゃ困るんだよ。」
「だから・・・・さっき課長が怒ったんですね。」
「とにかく今は待つしかないんだ。もし昼までに見つからなければ、選挙は中止だ。」
「・・・・・・・・・。」
「お前は北川課長と一緒にここにいろ。何か分かったら知らせてやるから。」
草刈は立ち上がり「おお・・・背中が痛てえ」と呻いた。
「これが中止になったら、次があるか分からない。」
「ですよね・・・・選挙で社長を決めるなんて、普通はしないから・・・。」
「まあせいぜい祈っとけ。加藤の無事と、選挙が流れないことをな。」
そう言って、俺たちを残して部屋から出て行った。
足音が遠ざかり、部屋がしんと静まり返る。
俺はすぐに立ち上がり、「やっぱり捜しに行きましょう」と言った。
「冴木君・・・・草刈さんの話を聞いてた?」
課長が険しい顔で言う。でも俺はこう言い返した。
「もちろん聞いてましたよ。でもあの人・・・・加藤社長の手紙のことは知らないんでしょ?」
「そのことは教えてないわ。だって加藤社長の秘密に触れちゃうから。」
「ならやっぱりじっとしてられませんよ。あの手紙の内容を知らないんじゃ、加藤社長が連れ去られた本当の理由を分かってないってことだから。」
「例の武器のことね?怪人を倒せるっていう・・・・。」
「きっとそのことを恐れて誘拐したんですよ。だから早く見つけないと危険なんです。今頃顔を変えてどっかに隠れてるはずですよ。」
「その隠れ家か分からないから問題なのよ。下手に動くと余計に混乱するだけだし・・・・。」
課長は口元に手を当て、不安そうな顔をする。
眉間に深い皺が寄って、「いったいどこにいるのか・・・」と呟いた。
「俺・・・・一つだけ心当たりがあるんですよね。」
そう答えると、「ほんとに!?」と顔を上げた。
俺は頷き、「ここです」と自分の頭を指さした。

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