稲松文具店〜ボンクラ社員と小さな社長〜 第三十九話 俺のスピーチを聴け!(2)

  • 2016.05.30 Monday
  • 13:07
JUGEMテーマ:自作小説
「俺・・・・一つだけ心当たりがあるんですよね。」
そう答えると、「ほんとに!?」と顔を上げた。
「どこにあるの!?」
「ここです。」
俺は自分の頭を指さした。
「ここって・・・・冴木君の頭?」
不思議そうな顔をしながら、首を傾げる課長。
でもすぐに、「ああ!」と叫んだ。
「もしかして・・・・君の記憶の中に、何かヒントになる物があるってこと?」
「本当にそこにいるかどうかは分からないけど、でも行ってみる価値はありますよ。」
「君の記憶力は本物・・・・期待してみる価値はあるかも・・・・。」
課長は少し迷っていたけど、「行こう」と立ち上がった。
「君を信じる。」
「いいんですか?空振りに終わったら、後で草刈さんに怒られるかも。」
「だから君を信じるって言ったじゃない。」
「課長・・・・・。」
「草刈さんの言う通り、私は君の将来に期待してる。でも将来だけじゃなくて、今の君にも大きな期待をしてるの。この子なら、絶対にあの怪人を倒してくれるんじゃないかって。」
そう言ってニコリと笑い、「早く」と俺の腕を引っ張った。
「もたもたしてると逃げられるかもしれないから。」
「もしそこにいたらですけどね。」
「何度でも言うわ。君を信じる。」
課長は俺の腕を引っ張って走り出す。その足はとても速くて、途中で転げそうになった。
《課長って細いわりに、けっこう力が強いんだよな・・・・・。》
ギュっと俺の腕を握りしめた感触が、なんだか胸に突き刺さる。
勝手な妄想だけど、この先も課長と一緒にいられるような気がした。
例えこの会社を辞めたとしても、決して離れることはないだろうなって・・・・・。
運命の赤い糸なんて言うつもりはないけど、でもどこかで俺とこの人は繋がってる。
強く握られた腕から、そう思える何かを感じた。
でも今はそんなことを考えてる場合じゃない。怪人と加藤社長のことを考えないと。
余計な煩悩を振り払い、昇ってくるエレベーターの表示を見上げる。
チンと鳴ってドアが開き、課長が入っていく。
ぼうっとそれを見ていると、「何してるの?早く」と言われた。
「多分俺・・・・社長になります。」
「?」
「分かんないけど、でも確信っていうか・・・そんな気がするんです。だから絶対に加藤社長を助けないと。それで俺が社長になる瞬間を見てもらうんです。」
エレベーターの中の鏡を見つめながら、そこに映った自分に語り掛ける。
課長は小さく微笑みながら、「うん」と頷いた。
根拠はないけど確信はある。
そう感じる時は、誰にでもあるのかもしれない。
今の俺は、社長になるという確信、そして・・・これから向かう先に、あの怪人がいるという確信があった。
鏡の中の自分を睨みながら、少しだけふと思う。
課長が言うように、前よりちょっとだけ大人っぽい顔になったかもしれないと。

            *

本社から車を走らせ、目的の場所に着く。
砂利が敷き詰められた駐車場に降りると、課長は「ここは・・・」と見上げた。
「ここは・・・・喫茶店?」
「そうです。美樹ちゃんの家の近くの。」
俺たちの目の前には、レンガ造りのオシャレな喫茶店が建っていた。
ドアには準備中の札が掛かっていて、店の電気は点いていない。
課長はゆっくりと喫茶店に近づき、「ここって確か・・・」と呟いた。
「そうです。白川常務と美樹ちゃんが会っていた場所です。」
「彼女から聞いたわ。ここで待ち合わせをしていたって。」
「美樹ちゃんはあれ以来ここへ来てないみたいですけどね。」
「そりゃ来たくないわよ。でもここがどうしたっていうの?まさかこんな場所に怪人が?」
「俺の記憶が正しければ、あいつもこの店に来たことがあるはずなんですよ。」
「そうなの!?」
「俺、前に一度だけここへ来たんです。その時に気になる奴がいて。」
「ここに・・・あの怪人が・・・・・。」
「その時に箕輪さんにシバかれそうになったけど。」
「?」
「あ、いや・・・全然関係ない話です。」
苦笑いして誤魔化し、「それに・・・ここにはちょっと気になる奴もいるんですよ」と言った。
「前に怪人がでっち上げの記事を載せようとしてたこと・・・話しましたよね?」
「うん。私のことを書いた記事でしょ?その記事で君に脅しをかけて、大人しくさせるつもりだった。」
「それを書いたのは風間守って奴なんですよ。」
「それも聞いたわ。祐希さんのお弟子さんだったのよね?」
「あいつはフリーライターで、金さえ貰えばどんな記事でも書くような奴なんです。だけど祐希さんが言うには、今はほとんど喫茶店に専念してるって。」
そう言いながら、一歩喫茶店に近づいた。
「前にここへ時、何人かお客さんがいたんですよ。ザッと見ただけだけど、でも全部記憶に焼き付いているんです。」
課長の横に並び、あの時の光景を思い浮かべる。
頭の中に鮮明な映像が浮かび上がってきて、まるで一枚の写真のように蘇る。
「あの時・・・そんなにたくさんの客がいたわけじゃありませんでした。俺、箕輪さん、美樹ちゃんの他に、五人だけでした。
若いカップルが一組、おばさんが二人、そして・・・若い男が一人。」
「ならそのお客さんの中に、怪人がいたってこと?」
「一人で座ってた若い男・・・・あれがすごく気になるんです。だってあいつの顔、別の場所でも見たから。」
「別の場所・・・・いったいどこ?」
課長は首を傾げる。
俺は記憶の中から、その場所の光景を蘇らせた。
「あいつの顔をもう一度見た場所・・・・それは課長の部屋です。」
「私の!?」
課長は大きな声を上げて驚く。
俺は頷き、「あの時、祐希さんから写真を見せられたでしょう?」と尋ねた。
「写真・・・・?」
「怪人の詐欺に遭った人たちの写真ですよ。」
「・・・ああ!あの結婚詐欺の?」
「そうです。その被害者の男性の方・・・・・あいつの顔が引っかかるんです。」
記憶の中から、男の被害者の顔を蘇らせる。それと同時に、喫茶店で見た若い男の顔も思い浮かべた。
頭に浮かんだ二つの顔を、ゆっくりと近づけていく。そして・・・・モンタージュのように、ピタリと重ね合わせた。
「・・・・・・・・・・。」
「冴木君?」
「・・・・ピッタリだ。ほとんど一緒の顔だ。」
「何が?」
「あいつ・・・・化けてたんです。自分が騙した男の顔に。」
俺は「課長・・・」と振り向き、二つの顔が同じであることを説明した。
「・・・そんな・・・まさか・・・・、」
「あいつちょくちょくこの店に来てたんだと思います。風間って奴は怪人と繋がってて、きっと今でもお互いを利用し合ってるんですよ。」
「利用?」
「怪人は風間にネタを提供し、風間は怪人の敵となる奴を潰す。でっち上げの記事を書いたりして。」
「なるほど・・・・共生関係ってことね。」
「あの時、怪人がこの店にいたのは、きっと白川常務が理由だと思うんです。ここで美樹ちゃんと会ってたから、それをネタに脅してやろうと。」
「風間って人が、怪人に白川常務の情報を売ったってこと?」
「おそらく美樹ちゃんと白川常務の会話を盗み聞きしてて、これは使えると思ったんじゃないですかね。
だって怪人は、加藤社長を本社の社長にするつもりだったから。」
「白川さんは女性関係で問題を抱えている。それを暴露して蹴落とそうとしたってことね。」
「白川常務って、けっこう野心家じゃないですか。だから選挙となれば絶対に出て来ると思ったはずですよ。
だから強力な対抗馬を潰す為に、この店に来て女性関係の問題の証拠を掴もうとしてたのかも。」
「もしそうだとすると、その風間って人と怪人は仲間ってことよね?なら・・・・、」
課長は喫茶店を睨み、緊張を抑えるように息を飲んだ。
「ここに隠れてる可能性が高いね。」
「そうです。しかももっと厄介な事が・・・・、」
「何?」
「風間は祐希さんの弟子なんです。だから絶対に油断の出来ない相手ってことです。だってあの人に鍛えられたんだから、無能なわけがないでしょう?」
「そうね・・・・。だったら二人で乗り込むのは危険かな・・・。」
課長はさらに緊張した顔になって、「祐希さんに知らせよう」と言った。
「私たちだけで乗り込んでも、逆に捕まるだけかも。」
「そうですね。もしそうなったら加藤社長を助けられないし、選挙は確実に流れるだろうし。」
そう答えると、課長はスマホを取り出した。そして「もしもし?」と祐希さんに電話を掛けた。
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・どうしたんです?」
「電話・・・・繋がったんだけど、返事がないの・・・・。」
「返事がない?」
「無言なのよ・・・・・。でも微かに音がしてる。何の音か分からないけど・・・・、」
「俺にも聞かせて下さい。」
スマホを受け取り、じっと耳を澄ます。
「・・・・ああ、なんか音が鳴ってますね。チッチッチッチって・・・・小さな音が・・・・。これ何だろう?」
「チッチッチって小さな音・・・しかも正確にリズムを刻んでるよね。もしかして時計の音かな?」
「ああ・・・言われてみれば。祐希さん、もしかして寝坊してるとかかな?」
「寝坊?」
「まだベッドの中にいて、傍の時計が鳴ってる音とか。」
「あのね・・・・冴木君じゃないんだから。祐希さんが寝坊してるわけないでしょ。今日は箕輪さんたちを守らないといけないんだから。」
「ですよね・・・。俺がそう頼んだんだから、寝坊なんかしてるわけが・・・・。ていうか・・・チッチッチって音が止まっ・・・・・、」
そう言いかけた時、突然『もしもし?』と声がした。
「・・・・・・・ッ!」
『おはよう冴木君。私が誰だか分かるわね?』
脳の中に電気が走る。口の中が乾き、下で湿らせた。
「・・・・・・ああ。」
グッとスマホを握りしめ、ゴクリと唾を飲む。
課長が「どうしたの?」と尋ねて来て、俺は小さく首を振った。
『今シャモールの近くにいるわね?』
そう言われて「シャモール?」と聞き返した。
『レンガ造りの喫茶店よ。紅茶の美味しい。』
「ああ・・・・いるよ。」
『せっかく閉じ込めといたのに、案外早く出て来たわね。』
「不幸中の幸いってやつだ。給料は天引きだけどな。」
『何をわけの分からないこと言ってるの?』
「こっちの話だ。それよりお前・・・・なんで祐希さんの電話に出てるんだ?あの人に何かしたんじゃないだろうな?」
眉間に皺を寄せながら、不安を押し殺して尋ねる。すると『殺したわ』と答えた。
「なッ!ころ・・・・、」
『冗談よ、まだ生きてる。』
「てめえ・・・・、」
『今のところは無事よ。あくまで今のところはだけど・・・・。』
そう言って可笑しそうに笑い、『今は屈強な男どもと戦ってるわ』と言った。
「何?」
『ほら、私のボディガードがいたでしょう?あいつらと戦わせてるの。四対一でね。』
「てめえ!何ふざけたことを・・・・、」
『勝ったら無事に解放してあげる。でも負けたら男たちの慰みもの。面白い戦いでしょ?』
「ふ・・・ふざけんな!今どこにいやがんだ!?そっちに行ってやる!」
『あら?ずっと目の前にいるじゃない。』
「はあ!?目の前って・・・・、」
『だからすぐ目の前よ。ほらここ。』
そう言った次の瞬間、喫茶店の窓からコンコンと音がした。
「・・・・・・・・・・。」
『ね?』
「糸川百合・・・・・。」

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