勇気のボタン 最終話 勇気を出して(3)

  • 2010.06.21 Monday
  • 10:44
 通りを歩いていく俺達を見て、すれ違う人達が何事かと振り返る。
好奇の視線を感じながら、それでもそんなことは気にすることなく歩き続けた。
首にかけたタオルで汗を拭い、暑い陽射しの中を早足で目的地まで向かう。
青く晴れ渡る空を見上げ、藤井とココのことを考えていた。
「なんか俺達じろじろ見られてるなあ。」
先を歩くマサカリが、暑さで舌を出しながら言う。
「そりゃあそうよ。こんなに動物を連れて歩いているんだもん。」
俺の横をトコトコ歩いていたモンブランが、マサカリの隣に駆け寄って答えた。
「やっぱりイグアナの肩に乗せてるってのが珍しいんだろ。」
汗で濡れる俺の胸ポケットの中で、カモンが暑そうに顔を出してマリナを見る。
「そうよねえ。やっぱり私は目立つわよねえ。」
きょろきょろと目を動かしながら、マリナは落ち着かない様子で俺の肩に乗っていた。
爪が食い込んで少し痛い。
「みんなでお出かけ。初めて。」
頭の上でぴょんぴょん飛び跳ねながらチュウベエは嬉しそうにしていた。
「遊びにいくわけじゃねんんだぞ。
真奈子の大事な猫がいなくなったんだ。
気合を入れて捜さなきゃならねえ。」
はしゃぐチュウベエをたしなめるようにマサカリは言い、肉厚の顔をきりりと引き締めてチラリとこちらを振り返った。
俺はもう一度タオルで汗を拭い、動物達のやり取りを聞きながらもう少し足を速めた。
昨日家に帰ってから、ココ捜しに協力してくれと動物達に頼んだ。
みんなココのことを心配し、藤井の力になりたいと言ってくれた。
「真奈子が悲しがってんだ。
協力するに決まってんだろ。」
マサカリは胸を張って言った。
「ココって子はまだ子供なんでしょ?
藤井さん心配でしょうね。
私達で出来ることがあったら力になるわよ。」
モンブランもマサカリの言葉に同意する。
俺は頭を下げて、「ありがとう」と言った。
「俺が言っても何の役に立つか分かんねえけどよ。
でもじっととはしてられねえよな。
そのココってやつを見つけて藤井を安心させてやろうじゃねえか。」
カゴの中のブランコから降り、テーブルの上に出てきてカモンが俺の顔を見上げた。
俺はカモンを手に乗せ、「頼りにしてるぞ」と顔を見ながら言った。
「俺、きっと役に立つ。
空からココを捜す。
絶対に見つけてみせる。」
チュウベエは力を込めて言い、俺の頭の上に乗ってきた。
確かに空からの捜索は期待できそうだ。
「頼むぞ。」
そう言われたチュウベエは嬉しそうに頭の上で羽をパタパタさせた。
「みんな行くのに私だけ行かないわけにはいかないわよね。
みんなと一緒に捜すのは無理かもしれないけど、藤井さんの部屋でお留守番くらいだったら出来そうだわ。」
窓際でそう言うマリナにも「ありがとう」とお礼を言い、明日はみんなでココを捜そうということになった。
動物達はみんな藤井のことが好きである。
だからその藤井が悲しむのであれば、それを解決する為に勇んで力を貸すと言ってくれたことに、俺は心から感謝した。
「みんな、本当にありがとう。
明日はよろしく頼む。」
また頭を下げて俺は言った。
「礼を言うのはそのココってやつが見つかってからだ。
おい、みんな。
明日は気合を入れてココを捜そうぜ!」
「おー!」
そして今日、俺達は藤井のマンションに向かっている。
これだけの動物を電車に乗せるわけにはいかないので、歩いて向かうことになる。
徒歩だと一時間くらいかかるが、今日はそんなことは苦痛だとは思わなかった。
気合の入った動物達ともくもくと歩き続け、ついに藤井のマンションの前まで辿り着いた。
体から吹き出る汗を拭い、ケータイで藤井に連絡を入れた。
数回のコールの後、電話は繋がった。
「もしもし、今みんなと一緒にマンションの前まで着いたよ。」
俺がそう言うと、藤井は「分かった」と短く返事をした。
「すぐに出るからちょっと待ってて。」
そう言って電話を切り、俺は昨日と同じ植え込みに腰掛けた。
「私達は一度来たことがあるけど、カモンとマリナはここへ来るのは初めてよね?」
モンブランが俺の隣に座って二匹に言った。
「そうだな。
ここが藤井の住んでる所か。
悠一のアパートとはえらい違いなだな。」
お前達の餌代や病院代がなければ、俺だってもう少しマシな所に住めるさと思ったが、それは口に出さずにおいた。
「私、人様の家に来るなんて初めてだわ。
なんかドキドキする。」
マリナが肩でせわしなく動く。
俺は昨日街灯に照らされていた道を眺め、藤井が出てくるのを待った。
今日は見つかるだろうか。
そう自分に尋ねてみる。
いやいや、見つかるかじゃなくて絶対に見つけるんだ。
自分にそう言い聞かせた所で、藤井がモモと一緒にマンションから出てきた。
「おはよう、みんな。」
出てきた藤井はみんなに笑顔でそう言い、俺の傍に来て言った。
「今日はありがとう。
みんな協力してくれるんだね。」
「ああ、ココを捜す為にみんな気合が入ってるよ。
今日は絶対に見つけような。」
俺は立ちあがってそう言った。
藤井は昨日は寝ていないのかもしれない。
目の下にくまがあった。
もしかしたら、俺が帰ったあとも一人でココを捜していたのかもしれない。
俺は迷った挙句、昨日と同じように藤井の手を優しく握った。
「絶対にココは見つかるから。
きっと無事だから。
今日の夜にはまた一緒にいられるさ。」
藤井は手を握り返してきた。
小さく、柔らかな手の感触が伝わってくる。
「うん、ありがとう。」
藤井は俯いてそう言い、それから顔を上げて笑いかけてきた。
俺も笑い返し、ぎゅっとその手を握った。
そしたら膝のあたりにドスンと何かがぶつかってきた。
マサカリだった。
「おいおい、お前ら。
いつからそんな仲になったんだよ。」
ニヤニヤ顔で冷やかすように言ってくる。
見ると他の動物達も同じような顔つきになっていた。
「悠一も隅に置けないわねえ。
ちゃんと藤井さんとの仲を深めてたのね。」
モンブランにそう言われ、俺達は赤面して手を離した。
「なんだよ。そのままキスまでもってっちゃえばいいのに。」
胸ポケットでそう言うカモンの頭を押し込め、俺は咳払いをしてからみんなを見た。
「えーっと、じゃあ今からココの捜索を始める。
みんなまとまって動いても効率が悪いから、それぞれ別れて捜そう。」
俺の言葉にみんが頷き、それを確認してから言った。
「じゃあまずチュウベエは空から捜してくれ。
マンションの北側を頼む。」
「分かった。任せとけ。」
チュウベエが頭の上で勢い良く飛び跳ねる。
「じゃあ次、モンブラン。
マンションの西側を捜してくれ。」
「うん、了解!」
そう言った所で藤井が「ちょっと待って」と言ってきた。
「何だ?」
見るとモモを抱えて立っていた。
「この子あんまり外に出したことがないの。
だから一匹で行動させるのは不安なんだけど。」
その言葉に、「真奈ちゃん、私なら大丈夫だよ」とモモが言う。
「ダメ。もしあなたまでいなくなっちゃったらどうするのよ。」
ココがいなくなったことで、藤井は神経質になっているんだろう。
もしモモまでいなくなったらという藤井の不安はよく分かる。
「分かった。
じゃあモモはモンブランと一緒に行動させよう。
モモを頼むぞ、モンブラン。」
モンブランは「任せてよ」と言い、モモの近くに寄った。
「藤井さん。
私と一緒なら大丈夫だよ。
モモちゃん、一緒にココを捜そうね。」
モンブランの言葉に藤井も頷き、モモを地面に下ろした。
「モモをお願いね、モンブラン。」
そう言ってモンブランの頭を撫で、モモに「しっかりね」と付け足した。
「よし、じゃあ次は藤井とマサカリ、マンションの南側を頼む。」
「よっしゃ!俺が絶対見つけてやるぜ。」
意気込んで鼻息の荒いマサカリの紐を藤井に渡し、「絶対見つけような」と顔を見て言った。
紐を受け取った藤井は強く頷き、「うん、有川君もお願いね」と言葉を返してきた。
「じゃあ俺とカモンはマンションの東側だな。
公園を中心に捜そう。」
胸ポケットから顔を覗かせたカモンは鼻をひくひくさせていた。
「俺が何の役に立てるか分かんねえけど、まあやれることはやるか。」
確かにカモンが何の役に立つかは俺も分からない。
けどやる気はあるようだ。
俺はカモンの頭を撫でて笑いかけた。
「私はお留守番ってことでいいのかしら。」
肩の上からマリナが問いかける。
「そうだな。
可能性は少ないけど、もしかしたらココが家に帰ってくるかもしれないからな。
お前は藤井の家で待機していてくれ。」
それを聞いた藤井は思いだしたように言った。
「じゃあトイレの上の窓を開けとくね。
閉め切ったままじゃココも帰ってこれないだろうから。」
そう言って部屋に戻る藤井にマリナを預けた。
「モンブランとチュウベエはもしココを見つけたらすぐに家に帰るように言って、一緒に戻って来てくれ。
何かあったらすぐに俺か藤井を見つけて報告すること。」
「うん、分かった。」
「了解。」
モンブランとチュウベエの返事を聞き、俺は頷いた。
ケータイで時間を確認すると午前9時だった。
時間は十分ある。
俺はケータイをしまって空を見上げた。
そして藤井が部屋から戻ってきた所で俺は言った。
「みんな、ココは子供だからそう遠くへは行ってないはずだ。
捜せばきっと見つかる。
夕方にもう一度ここへ集まろう。
みんな力を合わせてココを捜そう!」
動物達が一斉に「おー!」と声を上げ、チュウベエは北の空へ、モンブランとモモは隣の家の塀を飛び越えて、マンションの西側へと走って行った。
「じゃあ俺達も行こうか。」
去って行った動物達を見送る藤井に声をかけた。
「うん・・・。」
藤井は俯いて、力無い声で頷いた。
マサカリの紐を両手で持ち、不安気に顔を曇らせていた。
「有川君、ココ、きっと見つかるよね。」
俺の顔を見上げ、訴えるような眼差しを向けてくる。
俺は笑顔になって藤井の背中を優しく叩いた。
「大丈夫だ。
きっと見つかるさ。
ココもきっと家に帰りたがってるに違いない。
早く見つけて安心させてあげよう。」
俺の言葉に藤井は頷き、顔を引き締めて言った。
「そうだよね。
はやく見つけてあげなくちゃ。
不安になってる場合じゃないよね。」
藤井はマサカリの頭を撫でると、「きっとココを見つけようね」と言った。
「おう!俺がついてれば大丈夫だぜ。
真奈子は安心して俺について来いよ。」
何処からくるのか分からない自信でマサカリは胸を張って言った。
それを見た藤井は笑って「頼りにしてる」と答えた。
「じゃあ行ってくるね。」
そう言い残して藤井はマサカリと共に歩いて行った。
「よっしゃ!俺らも行くか。」
カモンに促され、俺達も藤井とは反対の道を歩き始めた。
大丈夫さ、きっと見つかる。
ココを連れて帰るんだ。
そして藤井を安心させるんだ。
自分にそう言い聞かせ、暑い陽射しの中を東側の公園へと向かう。
溢れる汗をタオルで拭い、胸ポケットのカモンを撫でる。
カモンは頭を出して、前を見ていた。
ココの顔を思い浮かべ、そして藤井の顔も思い浮かべた。
ココを抱いて笑顔になる藤井を見なくてはならない。
俺は藤井には笑っていて欲しい。
そう思いながら、もう残り短い夏の道を歩いた。
胸の中では、笑顔でココを抱く藤井を思い描いていた。

                              最終話 またまたつづく



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