百目鬼マンション

  • 2016.07.05 Tuesday
  • 12:11

JUGEMテーマ:自作小説

仕事、つまらない。
恋人、いない。
給料、安い。
何も楽しみがない人生において、唯一の楽しみが盗撮だった。
盗撮と言っても、別に更衣室だのトイレだのに仕掛けるわけじゃない。
自宅のマンションの五階から、その辺にいる人を撮影するだけだ。
最近のビデオカメラは性能が良くて、手に収まるサイズでもかなりの望遠が効く。
それに綺麗に写るし、テープじゃないので編集も簡単だ。
今日はマンションにある公園を盗撮していた。
窓を開け、五階からカメラを向けている。
こんな場所から撮っているなんて誰も思わないから、今までに一度も気づかれたことはない。
公園には子供を連れた母親が二人、学校をサボっているっぽい学生が三人いる。
母親はお喋りに夢中で、学生の方はスマホでゲームをしている。
声は聞こえないが、口の動きや表情で会話を想像した。
こんな事だけが楽しみなんて、俺の人生は腐ってる。
でもこれまで辞めてしまったら、生き甲斐が無くなってしまう。
別に他人の人生に興味があるわけじゃないけど、こっそりと撮影する快感は堪らない。
仮に見つかったとしても、イヤらしい盗撮じゃないんだから、しょっぴかれることも無いだろう。
マンションの住人に見つかったら、ここにはいられなくなるだろうけど・・・・。
まあそうなったらそうなったで、新しい部屋を探すだけ。
だから公園の盗撮に没頭した。
お喋りをしていた母親の元に、別の母親がやって来る。
ママ友というやつだろうか?
学生の方は相変わらずゲームをしていて、画面の中に没頭しているようだ。
すると砂場で遊んでいた子供の一人が、フラフラと公園の外に向かった。
外は車の通りが激しく、小さな子供が一人で歩くのは危ない。
しかしお喋りに興じている母親たちは気づかない。
楽しそうに喋っているだけで、子供はまったく目に入っていないようだった。
このままだと、子供は道路へ出てしまう。
するとその時、学生の一人がそれに気づいた。
母親たちに声をかけ、子供が道路へ向かっていることを知らせたのだ。
母親たちは慌てて子供の元へ行く。
そして道路へ出る間一髪の所で連れ戻した。
よかった・・・・と思っていると、母親の一人が学生に詰め寄った。
怒った顔で何かを喚いている。
学生は狼狽え、助けを求めるように仲間を振り返った。
すると仲間の学生が、喚いている母親にスマホを向けた。
しばらくすると、喚いていた母親はピタリと大人しくなった。
そして子供を連れて、一目散にその場から逃げ去った。
残された他の母親たちも、学生のスマホを避けるように逃げて行く。
学生たちは、勝ち誇った顔でガッツポーズをしていた。
声は聞こえないが、ゲラゲラと笑っていそうな顔をしている。
そしてスマホの画面を見つめながら、またゲラゲラと笑っているような顔をした。
いったい何をしてるのか?
そんな疑問が浮かんだが、すぐに閃いた。
俺はスマホを取り出し、ツイッターを開く。
しばらくいじっていると、お目当てのツイートを見つけた。
「やっぱりか。」
さっきの公園でのやり取りが、ツイッターにアップされている。
そこには動画のリンクが貼り付けてあって、「バカ親に絡まれたけど撃退したったwww」と書いてある。
俺はリンク先へ行き、動画を確認した。
《なんでもっと早く言ってくれないの!》
母親が喚いている。
《危うく事故するところだったんだよ?どうしてもっと早く言わないの?》
鬼の形相で喚く母親。
すると学生たちが反論した。
《はあ?自分で見とけよ。》
《うっせえなババア。テメエのガキだろうが。なんでこっちに文句言うんだよ?》
《ていうか感謝されるのが先だよね?文句言うっておかしくない?》
男二人、女一人の学生たちの攻撃を受ける母親。
しかしまったく怯まない。
《暇な学生と違って、主婦は大変なんです!》
《はあ?》
《365日24時間子供を見続けるなんて無理なんです!
だから周りの助けが必要なんです!》
《意味分かんね(笑)》
《大人は忙しいの!特に子供を持ってる主婦は!》
《いや、公園で喋ってんじゃん(笑)》
そこへ別の母親が割って入る。
《君たち学生でしょ?サボってていいの?》
《今の時間は学校でしょ?どこ?どこの学校?》
《暇なのはそっちでしょ?》
今度は母親たちが笑う。
学生たちはムッときたようで、《これ、ネットに挙げるから》と言った。
《リンクつけてツイッターに挙げるよ?》
《はあ・・・・?》
《いきなりビビり出した(笑)》
《そんなことしたら訴えてやるから!》
《やれば?(笑)》
《ファビョんなよババア(笑)》
《あんたら学校に言うからね!制服とかで分かるんだから!言いつけてやるから!》
《はい、んじゃアップするね〜!》
学生は可笑しそうにケラケラ笑う。
母親は顔を真っ赤にしながら、我が子の手を引いて逃げて行った。
学生たちは動画を挙げ、まだゲラゲラと笑っている。
予想通りの展開に、俺も笑ってしまった。
「誰でも撮影できて、誰でも世間に発信できる。怖い時代だな。」
スマホを閉じ、ビデオを片手に盗撮に戻る。
するとその時、ピンポ〜ンと部屋のチャイムが鳴った。
ビデオを置き、ドアの覗き穴から見てみる。
するとさっきの母親がそこに立っていた。
俺は首を傾げ、「なんだ?」と呟く。
そしてゆっくりとドアを開けると、母親は怖い顔で睨んできた。
「あなた・・・・、」
「はい?」
「いっつも部屋からビデオ向けてますよね?」
「え?」
「あれ、何してるんですか?」
「何って・・・・、」
変な汗が出て来る・・・・。
鼓動が早くなって、口の中が乾いていく・・・・。
「あ、あの・・・・・、」
しどろもどろになりながら、パクパクと口を動かす。
母親はスマホを取り出し、俺に向けた。
「もう盗撮とかやめてくれます?」
「と・・・盗撮って・・・・、」
「いつも部屋からビデオを向けてますよね?あれ、やめて下さいって言ってるんです。」
「いや、別にあんたを撮ってるわけじゃ・・・・、」
「気持ち悪いんです。他の人もみんな言ってますよ。」
「え?みんなって・・・・・、」
「みんな知ってますから。」
母親はスマホを向けながら、じっと睨む。
俺は目を泳がせながら「あの・・・」と呟いた。
「・・・・・すいません・・・・。もう撮りません、すいませんでした・・・・。」
そう言って頭を下げると、母親は満足そうに笑った。
踵を返し、勝ち誇ったような足取りで去って行く。
俺は呆気に取られ、しばらく固まっていた。
「・・・・バレてたのか。」
部屋に戻り、バクバクする心臓を押さえる。
「訴えられたりしないよな・・・・?」
不安になり、部屋の中をうろつく。
気を紛らわす為にスマホを開き、何気なくツイッターを見てみた。
すると俺のアカウントに、誰かがこうツイートしていた。
《気持ち悪いんで、盗撮とかやめて下さいね。》
そこには動画のリンクが貼ってあり、ついさっきのやり取りがアップされていた。
アイコンを見ると、あの母親が写っている。
「・・・・・・・・・・。」
俺はスマホを閉じ、ビデオカメラを手に取る。
それをゴミ箱に捨てると、すぐに出かけた。
向かった先は不動産屋。
椅子に座り、店の人にこう言った。
「引っ越ししたいんで、部屋を紹介して下さい。なるべく早く・・・・・。」

 

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