不思議探偵誌〜探偵の熱い夏〜 第一話 美術部の青年

  • 2016.07.07 Thursday
  • 11:38

JUGEMテーマ:自作小説

超能力探偵、久能司。
人は俺のことをそう呼ぶ。多分・・・・・。
宝くじを当て、脱サラをして始めた探偵業。
今までに様々な依頼が持ち込まれ、それを見事な推理で解決してきた・・・・・はず。
本当はビシッと言い切りたいのだが、なかなかそうもいかない。
俺の元に持ち込まれる依頼は、およそカッコいい探偵のこなす仕事ではないからだ。
UFO研究家との対談とか、幽霊の婚約指輪を探すとか。
酷い時なんか、依頼者のSM趣味を誤魔化す為に、相手の奥さんに謝りに行ったこともある。
まああれは自分から首を突っ込んだんだけど・・・・・。
ああ!他にもっと酷いのがあった・・・・。
頭が二つあって、全身が毛むくじゃらで、しかも関西弁を喋るヘビを探すというものだ。
そんな依頼は藤岡弘、に任せておけと思ったが、信じられないことに本当にそのヘビが見つかった。
今では上の階で働いている、『月刊ケダモノ』の編集長のペットになっている。
どれもこれも自慢出来るような仕事ではなく、華やかでカッコいい探偵生活とは無縁だった。
俺は鼻くそをほじりながら、壁の時計を見る。
時刻は午後二時半。
一か月前からまったく依頼が来なくて、多分今日も来ない。
だからそろそろ店じまいすることにした。
表の看板を『閉店中』に変えて、デスクでエロ本を読む。
「むほ!この女優脱いだのか・・・・。」
エロイ足に、エロイ鎖骨、そして両手でも余りそうなおっぱい・・・・。
ゴクリと唾を飲み、息子が元気になっていくのを感じる。
するとその時、タラリ〜ン!とスマホが鳴った。
どうせ何かの下らないチェーンメールだろうと思ったが、液晶を見て「お!」と唸った。
『久能さん、元気にしてますか?』
そう送ってきたのは、我が探偵事務所の助手、本条由香里君だ。
今は大学の三回生で、オーストラリアに留学している。
三回生で留学とは珍しいが、真面目な彼女は卒業に充分な単位を得ている。
あとは卒論だけで、卒業後は我が探偵事務所のエージェントとして働くことになっていた。
まあエージェントなんて言っても、バイトから社員への雇用契約に変わるだけだけど。
ていうか彼女がいないと、この事務所はままならない。
本当はもっと良い所で働けるだろうに、『しょうがないから残ってあげます』と言ってくれたのだ。
持つべきものは優秀で優しい部下。俺は実に恵まれている。
スマホをいじり、メールを読んでいった。
『ちゃんと仕事してますか?依頼が来ないからって、サボっちゃダメですよ。』
「俺は子供か。」
『どうせエッチな本とか読んでるんだろうけど、私が帰ったら全部処分しますからね。』
「いっつも処分してるじゃないか。」
『ああ、それと事務所の戸締りはちゃんとして下さいね。
あとコンロを使ったらちゃんと火を消すこと。』
「だから俺は子供か。」
『一ケ月だけの短期留学だから、あと半月もしたら帰ります。
それまでちゃんと仕事してて下さいね。
帰ったらお茶淹れてあげますから。』
「今度は爺さん扱いか。」
『それじゃまた。ああ、それとお土産は何がいいですか?
定番のチョコレートかコーヒーにしようかと思うんですけど、何かリクエストあります?』
「う〜ん・・・そうだな。じゃあオーストラリアのエロ本を・・・・っと。」
ポチッと送信すると、すぐに返信が来た。
『シバきますよ?』
「冗談。コーヒーでいいよ。
ていうか俺のことはいいから、留学を楽しんで来なよ。」
『そうですね。じゃあ戸締りと火の始末だけ気をつけて下さい。
またメールしますから。それじゃ。』
「ああ、また。」
スマホを閉じ、「ふあ〜・・・」っと欠伸をする。
「さてと・・・・・・帰るか。」
真面目に働けと言われても、依頼がないんじゃ働きようがない。
貧乏暇なしと言うけれど、暇な方が貧乏になるに決まってる。
「このまま依頼が来なかったら、由香里君が帰って来る前に潰れたりしてな。」
半ば冗談、半ば本気で言いつつ、事務所を出る。
季節は八月の半ばで、外に出た途端に汗がにじむ。
元気になっていた息子も力を失い、早く家に帰って元気にしてやらねばと思った。
すると俺と入れ違いに、事務所のあるビルに駆け込んでいく青年がいた。
しかしすぐに出てきて、事務所の看板を見上げた。
《なんだ?もしかして依頼者か?》
ゆっくりと近づき、「あの・・・・」と話しかける。
「ウチの事務所に何か御用ですか?」
ジャニーズ風のイケメン青年は、驚いた顔でこっちを振り向く。
「あ、あの・・・・・、」
俺と事務所の看板を交互に指さし、口をパクパクさせている。
「はい、私が久能探偵事務所の所長、久能司です。」
「あ・・・・ああ!」
「人呼んで超能力探偵、どのようなご依頼でしょうか?
ニコっと営業スマイルを振り撒く俺。
《久しぶりの依頼だからな・・・・何としても逃すわけにはいかん!》
嘘くさいほど笑顔を振りくが、脇にエロ本を抱えているのを思い出して、サッと隠す。
「あ、あの・・・・頼みがあるんです。」
「ええ、何なりと。この久能司、どんな依頼でも解決してみせます。」
「ここの探偵さんは、どんな依頼でも受けてくれるって聞きました。
だからその・・・・・恥ずかしいお願いなんですが・・・・、」
「遠慮なさらずにご相談下さい。」
「俺・・・・美術部に入ってて、何としても次のコンクールで入賞したいんです!
だからその・・・・・、」
「その?」
「・・・・ヌードモデルになって下さい!」
青年は顔を真っ赤にしながら頭を下げる。
俺は首を傾げ、「ヌードモデルですか?」と尋ねた。
「あなたは・・・この久能司の肉体美を描きたいと?」
「あ、いや・・・その・・・・・、」
「私も職業柄、肉体は少々鍛えてあります。
探偵は常に危険が付き物、それゆえに毎日のストレッチとプロテインは欠かしません。
ちなみに通信教育でコマンドサンボを習ったこともありますよ。続けたのは一週間だけですがね、ははは!」
「いえ、その・・・・・、」
「しかしあれですな、私の肉体に目を付けるとはお目が高い。
本来の探偵業とは異なりますが、我が事務所も少々の経営難。
ギャラ次第では、ヌードモデルを引き受けることもやぶさかでは・・・・、」
そう言って胸元のボタンを外すと、「あなたの裸体に興味はありません!」と言われた。
「え?」
「ここに本条由香里さんという方がいらっしゃいますよね?」
「ええ、我が事務所の助手を務めておりますが・・・・・、」
「彼女にヌードモデルをお願いしたいんです。」
「ゆ・・・・由香里君に?」
「はい!」
青年は強い目で頷く。
俺は胸元のボタンを閉じ、ポンと青年の肩を叩いた。
「あのね君・・・・、」
「はい。」
「ここはそういうお店じゃないんだよ。」
「・・・・・はい?」
「この事務所から少し離れた所に、ビッグ・マダムというお店がある。
そこのママは基本的に裸族だから、頼めばモデルをやってくれるよ。」
そう言ってポンポンと背中を叩き「じゃあ」と手を振る。
しかし青年は追いかけてきて、「そういう意味じゃありません!」と叫んだ。
「僕は真剣にお願いしてるんです。本条さんにモデルをやってほしいんです。」
「いや、だからそれは無理だって。」
「どうして?本人に聞いたわけでもないのに。」
「あのね、由香里君は超が付くほど真面目で、そんな頼みは絶対に聞いてくれない。
ていうかもし聞いてくれるなら、とっくに俺がお願いしてるから。」
「でも・・・・、」
「それに彼女は空手の達人だよ?去年なんか全国大会で三位になってるんだから。
下手に手を出したら大怪我をして・・・・、」
「それなんですよ!」
青年はビシッと指をさす。
「僕はとある空手の大会で彼女を見つけたんです。
そして・・・あの凛とした佇まい、芯の強そうな目、それに何より、鍛え抜かれた肉体に目を奪われたんです。」
青年はうっとりしながら目を細める。
俺は「おい君・・・」と詰め寄った。
「鍛え抜かれた肉体に目を奪われたって・・・・どういう意味だ?」
「はい?」
「まさか・・・・更衣室を覗いたのか?」
「なッ!ち・・・・違いますよ!」
「君!今すぐその時のことを詳しく教えるんだ!俺も覗きに行くから!」
「だ〜か〜ら〜!違いますって!道着の袖や裾から見える手足が、すごく鍛え込まれていたんです。
それに目を奪われたって意味ですよ!」
「・・・・なんだ、つまらん。」
プイッとそっぽを向くと、「なんなんだこのオッサンは・・・」と言われた。
「俺はまだ34だ、オッサンではない。」
「俺はまだ21です。ちなみに本条さんと同じ大学です。」
「何?君は彼女と同じ大学・・・・?」
「ええ。」
「そうなのか・・・・それならそうと言ってくれないと。それを知ってれば・・・・・、」
「知ってれば?」
「・・・・・・いや、特にない。」
「だからなんだよこのオッサン・・・・。」
青年はバカでも見るような目で俺を蔑む。
「まああれだ、その依頼ばっかりは無理だから。」
「どうしてもですか?」
「どうしてもだ。」
こんな依頼を引き受けたら、由香里君が帰って来た時に殺される。
俺は「他を当たってくれ」と言い残し、青年を後にした。
・・・・しかしふと立ち止まり、「なあ?」と振り返る。
「その・・・・君はどういう絵を描くんだ?」
「どういう絵って・・・・、」
「ほら、あるだろう。印象派とか抽象画とか。」
「ああ、写実画ですよ。」
「本当か!」
青年に詰め寄り、「で、どの程度の腕前なんだ?」と睨んだ。
青年はスマホを取り出し、「僕の作品です」と写真を見せた。
「・・・・こりゃすごい。まるで写真並じゃないか。」
「そうですか?これくらい描く奴なんてザラにいますけど・・・・、」
「これは風景の絵だな。人物のはないのか?」
「こっちが人をモデルにしたやつです。」
「・・・・・ぬううう!」
何とも美しい女性が、裸で滑り台を降りている。
その絵は写真と遜色ないほど素晴らしかった。
「なあ君・・・・・、」
「はい。」
「その・・・・由香里君を描いたとして、それをコンクールに出すんだよな?」
「ええ。」
「なら・・・・その絵は誰でも見られるわけだ?」
「入賞すれば・・・・・。」
「なるほど・・・・。」
「あの・・・・なんかイヤらしい顔になってますけど?」
「ちなみに現場には俺が同行しても?」
「は?」
「だから絵を描く現場だよ。アトリエとかあるだろう?俺もそこへ同伴していいのか聞いてるんだ。」
「それは・・・・本条さん次第じゃないですか。」
「なら彼女がいいと言えば、問題ないんだな?」
「本当なら他人に来てほしくないんだけど、もしあなたから説得してくれるというのであれば・・・・、」
「する!するさ!」
「あの・・・・なんか下の方が膨らんでるんですけど・・・・、」
「気にするな、息子が元気を取り戻しただけだ。」
俺はニコニコと笑いながら、「君の依頼を引き受けよう」と言った。
「ただしギャラは貰うけどな。」
「いいですよ、モデルを依頼するわけだし。」
「よし、それじゃ契約成立だ。」
俺はギュッと彼の手を握る。
「ははは!心配するな、俺が由香里君を説得してみせるから。」
息子はますます元気を増し、夏の暑さなど吹き飛んでいく。
青年は「変態かよ・・・」と呟いた。

 

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