勇気のボタン 最終話 勇気を出して(5)

  • 2010.06.23 Wednesday
  • 10:43
 みんなでドタドタとマンションの階段を駆け降りる。
途中でつまずきそうになった藤井を支え、急いでマンションの前まで出てきた。
茶トラのケンゾウが植え込みの所で座って、俺達を待っていた。
「あなたがココの居場所を知ってるのね!」
藤井はケンゾウに近づいて、声を弾ませながら聞いた。
「ああ、この先にある公園の、もっと先にある空き地にいた。」
それを聞いた藤井は胸の前で手を組んで飛び上がり、それからケンゾウの手を取って喜んた。
「あの猫がお前の言ってたやつか?」
マサカリが隣に来て尋ねてくる。
俺は頷き、喜ぶ藤井を見ていた。
ケンゾウからココを見つけたと知らせを受け、俺はすぐに藤井の部屋に駆けあがってこのことを伝えた。
みんな驚いて俺を見た。
藤井は弾かれたように立ちあがり、「本当!」と目を大きくして聞いてきた。
俺は近づいて「本当だよ、一緒に捜してくれていた猫が見つけてくれたんだ」と藤井の両肩に手を置いて言った。
藤井は俺の手を取り、興奮しながら「何処にいたの?」と食いつくように聞いてくる。
そう言えばまだ場所は聞いていなかった。
俺はケンゾウのことを簡単に説明し、場所はまだ聞いていないけど、今マンションの前にいるから詳しいことを聞こうと言った。
そして藤井も動物達も一斉に階段を下りてきたというわけだ。
部屋を出る時、「私も連れて行って」とマリナが言ったので、俺の肩にはマリナが乗っている。
ケンゾウの手を取って喜び、「ありがとう!」とお礼を言ってから、藤井は「それで、ココは何処にいるの?」と顔を近づけて尋ねた。
ケンゾウは尻尾を振り、「そこのあんたが捜してた公園の、少し離れた所にある空き地だ」と俺の方を見ながら言った。
俺も公園の周辺は捜したはずだが、場所を聞くと捜索範囲の少し外にある空き地だった。
俺は悔しくなった。
もっと範囲を広げて捜していれば。
でも今はそんなことを言っても仕方がない。
ちゃんとケンゾウが見つけてくれたので、よしとしないと。
「ココは無事だった?」
心配そうに尋ねる藤井に、ケンゾウは困ったような顔を見せた。
そこで俺はふと思った。
もしココを見つけて、そして無事でいたならば、ケンゾウが一緒に連れて帰って来てくれているはずではないのか。
見つけるだけ見つけて、連れ戻すなんてことはしないなんて薄情な猫には見えない。
困った顔のケンゾウに俺は聞いた。
「もしかして、ココに何かあったのか。」
ケンゾウはコクリと頷く。
見る見るうちに藤井の顔が青くなっていった。
さっきまで喜んでいたのが嘘のように、じっと固まってしまった。
「真奈ちゃん・・・。」
モモが心配そうに藤井に頭を擦り寄せる。
藤井は何か言いたそうにしていたが、言葉になっていない。
きっと聞くのが怖いのだろう。
青い顔のままモモを抱き上げると、ぎゅっとその腕に力を込めていた。
「ココに何があったんだ?」
代わって俺が聞いた。
ケンゾウはまた尻尾をパタっと振り、そして重々しい口調で答えた。
「穴にはまっているんだ。」
「何?」
穴にはまっているとはどういうことだ?
俺は隣にいたマサカリと顔を見合わせた。
マサカリも不思議そうな顔をしていた。
俺達の顔をぐるっと見回したあと、ケンゾウは続けた。
「その空き地はたくさんのゴミが捨ててあってな。
よく猫が隠れていたりしていて、俺も時々行くんだ。
そこに誰が掘ったのか知らないが、穴があいているんだ。
入ったことなんて無いから分からないが、結構深いと思う。」
藤井がモモを抱きしめたまま、恐る恐る尋ねた。
「その穴に、ココがはまっているの?」
ケンゾウは頷いた。
「ああ、俺がその空き地を捜していた時、もしかしたらと思って穴の中に向かってココって名前を呼んでみたんだ。
すると中から返事があった。
お前、白地に顔の真ん中に黒い模様のある、目のクリっとしたココって猫だなって俺は尋ねた。
そしたら穴の中から、そうだよ、おじさんは誰って言葉が返ってきた。
だから姿は見ていないが、あの穴にはまっているのは、あんた達が捜しているココって子猫に間違い無いと思う。」
何てこった。
それでココは自分に家に帰って来れなかったんだ。
でもその穴の中にいるのは間違いない。
だったらロープでも何でも持って行って助けてやればいいだけのことだ。
「藤井。」
固まっている藤井は、ビクッとして俺の方を振り返った。
「今からココを助けに行こう。
お前の部屋に何か長い紐かロープみたいなものはあるか?」
藤井はおどおどしながらも、「ビニールの紐がある・・・」と呟くように答えた。
俺は藤井に近づき、また両手を肩に置いて言った。
「何落ち込んでんだよ。
穴にはまっただけじゃないか。
そんなもん紐でもロープでも持っていけばすぐに助けられるよ!」
泣きそうな顔になっていた藤井は「うん」と頷くと、モモを地面に下ろし、また俺の手を取って答えた。
「そうだよね。
何かあったわけじゃないもんね。
穴にはまっただけだもん。
すぐに助けられるよね。」
まるで自分に言い聞かせるようにそう言う。
「当たり前だ。
きっとココもお前を待ってる。
すぐに助けに行こう。」
藤井は強く頷き、紐を取って来る為に自分の部屋に戻ろうとした。
「そう簡単に行くといいがな。」
するといきなりケンゾウが俺達を見てそう言ってきた。
「どういうことだ?」
訝しげに尋ねる俺に向かって、ケンゾウは目を鋭くして答えた。
何を言うつもりなのだろう?
俺も藤井もじっとケンゾウを見ていた。
「そのココってやつ、怪我をしているみたいだったぞ。」
「怪我だって?」
聞き返す俺の横で藤井がさっきより青い顔になっていた。
怪我をしている。
無事じゃないのか?
俺も不安になってきた。
藤井が俺の腕を握ってくる。
「怪我って、どういう怪我よ。」
固まっている俺達に代わって、モンブランが尋ねた。
ケンゾウはじろりとモンブランを睨む。
同じ猫につっけんどんな聞き方をされて気に障ったのかもしれない。
しかしモンブランはそんなことなど気にせず、「さっさと答えなさいよ」と逆に怒りを見せていた。
「気の強いメスだことだ。」
ケンゾウはそう呟き、そして俺達の方を見て話し始めた。
「前足が痛いって言ってたんだ。
血が出てるってな。
なんでだって聞くと、野良猫にやられたらしい。
あの穴にはまったのも、野良猫から逃げる為だと言っていたな。」
藤井が俺の腕を握る手に力をこめる。
「有川君・・・。」
見ると目に涙を浮かべていた。
「どうしよう、ココが・・・。」
俺はその手を取り、強く握り返して言った。
「大丈夫だ!
きっと大した怪我じゃないさ。
こうしている間にもココは俺達を待ってるんだ。
お前は早く紐を取ってきてくれ。」
藤井は泣きながら頷き、部屋へと戻って行った。
「ケンゾウ。
悪いけど俺達をそこまで案内してくれ。」
しかしケンゾウは尻尾を振り、そっぽを向いた。
「おい、ケンゾウ!」
ケンゾウは目を怒らせるようにして俺の方に向き直った。
鋭い目をさらに鋭くして言う。
「あのな、俺はお前達の仲間でも何でもない。
何でもかんでも協力してられるかよ。
俺もこれから用事があるんだ。
ココってやつはちゃんと見つけてやったんだ。
それで十分だろうが。
俺はパシリじゃねえんだ。
あまり勘違いするなよ。
後は自分達で何とかするんだな。」
そう言って背中を向け、ケンゾウは去ろうとする。
確かにケンゾウの言う通りだ。
こいつは善意の協力者で、何でも俺達の頼みを聞く義理は無い。
場所は聞いたことだし、あとは何とかなるだろうと俺は思い、ケンゾウにお礼を言おうとした時だった。
モンブランがケンゾウに飛びかかり、その尻尾に噛みついた。
「ぎゃっ!」と声を上げてケンゾウが飛び上がる。
振り向いたケンゾウは「何しやがる!」と怒ったが、モンブランはその顔に猫パンチを浴びせた。
いきなりのことでケンゾウは驚き、目を丸くしていた。
モンブランは毛を逆立て、尻尾を太くして怒っていた。
目は吊り上がって、怒ったようにケンゾウを睨んでいる。
「あんたねえ!オスのくせに金玉の小さいこと言ってんじゃないわよ!
これ以上は協力出来ないって?
何それ?
格好をつけてプライドを見せているつもり?
だったらちゃんちゃらおかしいわね。
情けないオスだったらありゃしない。
あんた見た感じボス猫でしょう。
だったら小さいことをぐちぐち言ってないで、乗りかかった船なんだから最後まで協力したらどうなのよ!
この器の小さい薄情猫!」
モンブランは威勢の良い啖呵をきった。
ケンゾウは目を丸くしてそれを見ていたが、やがて大声で笑い出した。
「ははは、こいつは気の強いメスだ。
気に入ったぜ。」
俺も動物達も、唖然としてその光景を見ていた。
「ふん、あんたなんかに気に入られても、ちっとも嬉しくないわよ。」
モンブランは吐き捨てるように言った。
それを聞いてケンゾウはまた笑った。
「ますます気に入ったぜ。
お前、俺の女にならないか?」
モンブランはべーっとしたを出して、「お断り!」と言った。
「私のことなんかどうでもいいのよ。
要はあんたが最後まで協力してくれるかどうかってこと。
どっちなのよ?」
モンブランにそう言われ、ケンゾウは相変わらず笑ったまま答えた。
「分かったよ。あんたに免じて最後まで協力するぜ。
気の強いメス猫さん。」
「ふん、最初っからそう言えばいいのよ。」
俺も動物達もモンブランの勢いに感心していた。
隣にいたマサカリが、「やっぱ怒らすと怖いやつだ」と小さく呟いた。
俺も同感だと頷く。
「どうしたの?
何かあったの?」
ビニールの紐の束を持って来た藤井が、唖然としている俺達を見て尋ねる。
「いや、何で無いよ。
ただみんなモンブランは格好いいやつだなあと思ってただけさ。」
俺の言葉に藤井は首を傾げて、モンブランを見た。
「うふ、何でもないのよ、藤井さん。」
恐ろしいやつだけど、確かにさっきは格好よかった。
マサカリと目を見合わせ、お互いモンブランは怒らせない方がいいと小さく言って頷いた。
「じょあ行くか。」
そう言ってケンゾウが歩き出す。
藤井は紐を持ったまま俯いていた。
「きっと大丈夫さ。
みんなでココを助けよう。」
俺は優しく微笑みかけた。
藤井は「うん」と頷き、顔を引き締めた。
先を歩くケンゾウの後を、俺と藤井、そして動物達みんなでついて行った。
陽がだんだんと沈みかけている。
俺は懐中電灯がいるなあと思っていると、「これ、役に立ちそうだから持ってきた」と藤井がポケットから小さな懐中電灯を取り出した。
以外と冷静な藤井に俺は安心し、二コリと笑ってみせた。
待ってろよ、ココ。
今助けに行ってやるからな。
ココの身を案じ、暗くなっていく空を見上げた。
気の早い星達が光を放っている。
歩きながら藤井が俺のシャツの裾を握ってきた。
俺は一瞬だけそれに手を重ねた。
暖かい感触が、手の平を通して伝わってきた。
その温もりをずっと胸に感じながら、俺達はココの所へ向かった。
きっとココも、この温もりを待っているだろうなと思いながら。

                                 最終話 まだつづく



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