不思議探偵誌〜探偵の熱い夏〜 第三話 髪型の呪い

  • 2016.07.09 Saturday
  • 10:06

JUGEMテーマ:自作小説

髪を切った。
かなり長くなっていたし、それに夏だし。
いつもは近所の床屋に行くのだが、今日は気分を変えて隣町の美容室へ来ていた。
エロイお姉さん・・・・もといスタイルの良い美容師たちが、キビキビと働いている。
中にはまだ子供なんじゃないかと思える若い子もいるが、おそらく研修か何かで来ているのだろう。
若者たちが一生懸命働く姿は、なんとも気持ちの良いものだった。
ちなみに俺の頭をカットしているのは、志茂田景樹を若返えらせたようなオバサンだ。
さすがベテランだけあって、手際はいい。
俺はクセ毛なので、今回はストレートパーマをあててもらった。
そして今風のオシャレな髪形にしてほしいと頼んだ。
ええっと、何て言ったっけ・・・・・そう!アシンメトリーってやつだ。
散髪は気持ちいいので、うつうつと微睡む。
しばらく眠っていると、オバサンが「お兄さん」と呼んだ。
「終わったよ。」
そう言ってグイと顔を掴まれ、鏡を見せられる。
「どう?カッコいいでしょ?」
「・・・・・・・・・・。」
「クセ毛が真っ直ぐになって、しかも今風でオシャレ。」
「・・・・・・・・・・。」
「これなら女の子にモテるわよ。」
そう言って顔を近づけ、ニマっと笑った。
「あの・・・、」
「んん?」
「これって・・・・、」
「そう、マッシュルームカット。」
「・・・・キノコじゃねえか。」
マリオに出て来るキノコの上の部分だけを、頭に乗せたような髪型になっている。
そういえば昔にイジリー岡田という夜の番組専門の芸人がいたけど、彼もこんな髪型をしていた。
「はいこれで終わり。四万ね。」
「高ッ!」
「これでも割り引いてるのよ。ほんとなら倍だから。」
「そ、それはぼったくりでは・・・・、」
「イヤなら元に戻す?その分料金を貰うけど。」
「どれくらい?」
「同じ金額・・・・、」
「今のままでいいです。」
サッと立ち上がり、金を払って店を出る。
オバサンは「また来てね〜!」と手を降るが、俺は心の中の藁人形に彼女の顔を重ね、五寸釘を打ち付けた。
「クソ!なんてことだ・・・・頭が亀頭・・・・・キノコみたいじゃないか。」
ガラスに映った自分を見つめ、「はあ〜・・・」とため息をつく。
こんなことなら行きつけの床屋にしておけばよかった。
こんなキノコみたいな頭じゃ、まともな依頼は来ない・・・・まあ元々来ないが。
事務所に戻り、鏡を見つめながら切ない気持ちになる。
気分転換にエロ本でも読もうと思った時、ドアがノックされた。
「はいはい・・・。」
どうせ新聞の勧誘か何かだろうと思い、「間に合ってるよ」と顔を出す。
しかしそこにいたのは新聞の勧誘ではなかった。
在りし日の吉永小百合のように、うら若くて美しい乙女だった。
まるで清楚が服を着て歩いているような美女で、周りの景色さえ輝いて見える。
俺はビシッと顔を決め、「当探偵事務所所長の、久能司です」と笑顔を振りまいた。
「お仕事の依頼でしょうか?」
ニコリと微笑むと、彼女は「はい・・・」と俯いた。
「実はお願いしたことがありまして・・・・、」
「この久能司、どのような依頼でも必ず解決してみせます。ささ!中へ。」
美女を招き入れ、ソファに座らせる。
「少々お待ちを。」
台所に行ってコーヒーを淹れ、「安物ですが」とカップを置いた。
「いえ、お構いなく・・・・、」
恥ずかしそうにするその笑顔は、まるで荒野に咲く一輪の花のよう。
俺は向かいに腰を下ろし、名刺を取り出す。
エロくない程度に手を触れながら、「どうぞ」と渡した。
一輪の花の美女は、じっと名刺を見つめる。
「久能・・・・司さん・・・・。」
「ええ。人呼んで超能力探偵です。」
「超能力・・・・本当に使えるんですか?」
花の美女は疑わしそうな顔をする。
俺は「はは!」と胸を張った。
「もちろんです。念力、透視、そして未来予知が出来ます。」
「そ、そんなにたくさん出来るんですか!」
「念力は物を動かす力です。軽い物なら3センチほど動かせますよ。」
「3センチ・・・・。」
「ええ。」
「他には?」
「透視は1センチ先まで見ることが出来ます。
封を切らずとも、中身を読むことが出来る。
だからエロ本の袋閉じなんかもバッチリと・・・・・、」
「え・・・・エロ本・・・?」
「・・・いえ、こっちの話で。」
コホンと咳払いをして、微妙な空気を仕切り直す。
「最後は未来予知。1秒先まで当てることが出来ます。
この能力のおかげで、犬のウンコを踏まずに済んだこと数知れず。
とても実用的な能力です。」
「はあ・・・・・。」
花の美女の顔がだんだんと曇っていく。
しかし俺は慌てない。
こんなのはいつものことで、要は依頼を解決することが大事なのだ。
「で、本日はどのような依頼で?」
胸ポケットから手帳とペンを取り出す。
ここに書かれているのはエロ本の発売日だけだが、それは内緒だ。
花の美女は恥ずかしそうに俯き、手の中で名刺を弄ぶ。
「実は私・・・・兄がいまして・・・、」
「ほう、お兄さんがいらっしゃるんですか?」
「兄はとても出来た人なんです。昔から文武両道で、誰からも慕われる人でした。」
「あなたのお兄さんなら、さぞ美形でしょうね。女性にもモテたんじゃありませんか?」
「身内の私が言うのもあれですけど、兄に敵う男性は中々いないと思います。」
そう言って目を伏せ、「ここだけの話ですけど・・・・」と切り出した。
「子供の頃、少しだけ兄に想いを寄せていたことがあるんです。」
「それはまた・・・・、」
「もちろん子供の頃の話ですよ。それもほんの一時の。」
「身近にそこまで立派な男がいたら、子供心に憧れるのも無理はありませんよ。」
「そう言って頂けると助かります。」
花の女は小さく笑い、「でも・・・」と表情を曇らせた。
「最近の兄は変わってしまって・・・・、」
「変わる?どんな風に?」
「実は先月、兄が結婚したんです。」
「それはおめでとうございます。お相手の女性はさぞ美しい方なんでしょうね。」
そう言って笑いかけると、「いえ・・・」と首を振った。
「こんな言い方をしてはあれですけど、どうしてこの人をって思うような・・・・、」
「お兄さんと釣り合うような人ではないと?」
「はい・・・・。歳もかなり上だし、それにその・・・・・兄と釣り合うほどの方とは到底・・・・、」
花の女は言葉を濁す。
おそらく兄に釣り合うような美人ではないと言いたいのだろう。
「ならあなたは不満なわけだ?敬愛するお兄さんが、不釣り合いな人と結ばれてしまったから。」
「ええ・・・。だけどそれだけならまだ我慢出来たんです。」
「他にも理由が?」
ペンを回しながら、じっと言葉を待つ。
花の女はしばらく俯き、カッと目を見開いた。
「兄はとてもカッコいいんです。それはもう・・・・神話にでも出てくるような、誰からも愛される英雄のようなほど・・・・・、」
「そこまでの方ですか?」
「だけど今の奥さんと結ばれてから、全然ダメになってしまったんです。」
「ダメ・・・というのは、どういう風に?」
「まず体形が崩れました。以前は彫刻のように素晴らしい肉体だったのに、今ではぽっちゃりとたるんで・・・、」
「太ってしまったわけだ?」
「はい・・・。それに頭も悪くなっているような・・・・、」
「頭も?」
「以前は哲学や歴史の本を愛読していたんです。
それが今じゃ低俗な本ばっかり・・・・、」
「低俗・・・・ですか?」
「男の人が好んで読むような本です。」
「ああ、なるほど。」
どうやらエロ本のことらしい。
エロ本は決して低俗ではいし、ある種の芸術だと思っている。
しかし今は話の腰を折る時ではない。黙って先を聞いた。
「だんだんとダメな人になっていって、遂にはギャンブルや借金まで・・・・、」
「ああ、それはよくないですね。ギャンブルと借金という組み合わせは、人生を破滅させる王道ですよ。
すぐにやめさせた方がいい。」
「何度も注意してるんですけど、まったく聞いてくれないんです。
それもこれも、全てはあの女と結ばれてから・・・・私の敬愛していた兄を台無しにしてしまったんです。」
花の女は、初めて憎しみの表情を浮かべた。
清楚な雰囲気とのギャップのせいで、より恐ろしさが増す。
俺はゴクリと息をの飲み、これは怒らせたら怖いタイプだなと思った。
「兄は変わってしまった・・・。それもこれも、全ては髪型の呪いのせい・・・・。」
「髪型の呪い?」
意味が分からず、オウム返しに呟く。
花の女は強い目で頷いた。
「髪型は人生を左右すると言ったら、信じてくれますか?」
「髪型が人生を・・・・?」
俺は思わず口を曲げる。
花の女は「ある呪術師がいるんです」と言った。
「そいつは髪型を変えることによって、人の人生を弄ぶんです。
カッコいい髪型なら、カッコいい人生に。
情けない髪型なら、情けない人生に。」
「それは・・・なんともまた・・・・、」
「もし落ち武者のような髪型にされてしまったら、落ち武者のような人生を歩んでしまう。
そして今の兄は、まさに落ち武者のような髪型なんです。」
悔しそうに言って、さらに憎しみを強くする。
「兄を落ち武者の人生から救うには、今の髪型をやめさるしかありません。
だけどすでに人生の敗北者となってしまった兄は、『僕には落ち武者の髪がお似合いさ』と言って、直そうとしないんです。」
「・・・・ほう。なるほど・・・・。」
俺は手帳を見つめながら、《この人痛いな・・・》と思った。
《どこまで本気で言ってるのか分からないけど、でも多分頭のどこかがやられてる。
こりゃあまともな依頼は取れそうにない。》
綺麗な花には棘がある。
その言葉通り、花の女には棘があった。
オカルトという名の棘が・・・・・。
《いくら美人でも、棘が大きすぎると関わりたくない。ここは上手いこと言ってお引き取り願うしか・・・・、》
そう思っていると、女はバッグから一枚の写真を撮り出した。
「これが兄の奥さんです。」
「ほう・・・・拝見させて頂きます。」
写真を受け取り、次の瞬間には「ほぎゃ!」と叫んでいた。
「こ、こ、こ、これは・・・・・、」
「どうしたんです?まさか・・・・お知り合いとか?」
花の女は不思議そうな目で見つめる。
俺は自分の頭を指さし、こう言った。
「私も呪いにかけられているかもしれません・・・・・。」

 

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