不思議探偵誌〜探偵の熱い夏〜 第四話 マッシュルームはお好き?

  • 2016.07.10 Sunday
  • 14:11

JUGEMテーマ:自作小説

髪型で呪いをかける。
そんな呪術師がいるらしい。
そして何を隠そう、俺は今日その呪術師にカットしてもらった。
今はマリオのキノコのような頭をしている。
窓ガラスに映った自分を見つめ、不似合いなマッシュルームカットを恨めしく思う。
「よくもこんな髪型にしてくれやがって。この久能司を怒らせたことを後悔させてやる。」
今、窓ガラスの向こうにはその呪術師がいる。
そして俺の隣には、荒野に咲く一輪の花のような美女がいた。
名前は凛坂美琴、27歳。
隣にいるだけでいい香りがしてくるが、今は息子を膨らませている場合ではない。
俺は美容院のドアを開け、「おいアンタ」と詰め寄った。
「よくもこんな髪型にしてくれたな。元に戻してもらおう。」
そう言うと、呪術師は「はい?」と首を傾げた。
「元に戻すって、何を今さら・・・・、」
「もうネタは上がってんだ。アンタは相手の髪型を変えることによって、呪いを掛けるんだろう?」
「・・・・頭大丈夫かい?」
呪術師の美容師は鼻で笑う。
「いいかよく聞け。世の中にはな、科学では説明の出来ないことがあるんだ。
俺がその証拠を見せよう。」
そう言って店内を見渡し、カット台の上に指輪が置いてあるのを見つけた。
「いいか、あの指輪をよく見てろ。」
俺は意識を集中させて、念力を発動させる。
するとカット台に置かれている指輪が、ズズっと3センチほど動いた。
「どうだ?」
「どうだって言われても・・・・あのカット台ちょっと濡れてるから。
水で滑ったんでしょ?」
「ほう、言い逃れをするか。ならば今度はこうだ!」
俺は途中で買って来たエロ本を取り出す。
「この芸術書には袋とじが付いている。破らなければ中は見えない。」
そう言って額にエロ本・・・もとい芸術書を当てて、意識を集中させた。
「むうう・・・見える。この袋とじの中の女優は、今売り出し中の天の川ヌメ子だ!」
近くにあったハサミを掴み、丁寧に袋とじを切る。
「・・・・見ろ、やはり中は天の川ヌメ子だ。」
「だから何?あらかじめ破ったやつを見てたんでしょ?」
「違う!これは今日発売なんだ。しかもついさっき書店に並んだ。中身を確認する余裕などない!」
「二冊買って、一冊破けばすむじゃない。バカなのかいあんた?」
呪術師は鼻で笑うを通り越し、呆れた顔をした。
「どうでもいいけど、営業の邪魔するなら帰ってくれるかい?」
「どうあっても呪術師と認めないつもりだな?」
「誰が呪術師だよ、まったく・・・。夏の暑さで頭ヤラれてんじゃないのかい?」
そう言ってそっぽを向き、「これ以上は警察呼ぶよ」と言った。
「どこまでもシラを切る気か・・・・。いいだろう、だったら最後の能力、未来予知を見せて・・・・、」
俺は何かないかと店内を見渡す。
すると花の美女、凛坂女史が駆けこんできた。
「お義姉さん。」
「あら、美琴ちゃんじゃない。どうしたの?」
呪術師はニコニコ笑って手を振る。
「今日は仕事じゃないのかい?」
「いい加減兄さんと別れて下さい!」
「またそれかい・・・・。いくら美琴ちゃんでも、その頼みだけは聞けないね。
だってあんたの兄さんは、私がいなきゃロクに何も出来ないから。
今別れたら確実に死ぬよ。」
「そんなことない!私が・・・・私が兄さんを幸せにしてみせる!」
凛坂女史は拳を握り、いかに兄を愛しているかについて語った。
呪術師は肩を竦め、呆れたように首を振っている。
《なんだこれは?いったいどうなってるんだ?》
状況が飲み込めず、「あの・・・」と声を掛ける。
「これはいったいどういうことなんですか?」
「それはこっちのセリフだよ。あんたこそ一体何なんだい?」
呪術師は顔をしかめる。
するろ凛坂女史は「私が雇った探偵よ!」と叫んだ。
「探偵?」
そう言って疑わしそうな目で俺を見る。
「申し遅れました、ワタクシこういう者です。」
名刺を渡すと、「超能力探偵・・・・久能司」と呟いた。
「美琴ちゃん・・・あんたまたこんなしょうもない人達を頼って・・・・、」
「しょ、しょうもないですって!」
「あんたは黙ってな!」
そう言って目を吊り上げ、「いいかい?」と凛坂女史の肩を叩いた。
「あんたが自分の兄さんを好きな気持ちはよく分かる。
あれだけ良い男は滅多にいないからねえ。」
「だったら私に譲ってよ!」
「それは出来ないよ。だってあんたらは兄妹じゃないか。」
「実の兄妹じゃないわ!血は繋がってないんだから!」
それを聞いた俺は、「なぬ!」と驚いた。
「凛坂女史・・・・実の兄妹ではないというのはいったい・・・・、」
「あんたは黙ってて!」
「・・・・はい。」
お前が俺を雇ったんだろう!・・・・と言いたかったが、あまりの剣幕に気後れする。
「いいかい美琴ちゃん、いくら血が繋がっていなくても、あんた達兄妹は戸籍上は血縁関係にあるんだ。
だから結婚出来ないんだよ。」
「ウソよ!戸籍を訂正さえすれば、結婚は可能だって聞いたわ!」
「・・・・確かに、それなら可能だね。
あんたは昔に養子としてももらわれて、その時に法律の手違いがあって、実の子供という事になってしまった。
だから戸籍の訂正さえすれば結婚は出来るだろうさ。
でもね、だからってやっぱり・・・・、」
「だってあなたは兄さんのことが好きじゃないんでしょう!だったら別れればいいのに・・・・、」
「あんたの兄さんの方から猛アプローチしてきたんだよ。
樹利亜さんに髪を切ってもらうと、人生が明るくなるような気がするんです。
だからこれから一生僕の傍で髪を切って下さい!ってね。
こんなプロポーズされたら、美容師として嬉しいに決まってるよ。」
「何言ってるの!あなたは呪術師よ!
兄の髪型を落ち武者に変えて、心まで落ち武者にしてしまったじゃない!
明るくするどころか、地獄のドン底よ!」
「あれはあんたの兄さんが事業で失敗したせいだろ?
羊羹にナスビ詰め込んで、そんなもん誰が買うってんだい。」
「あれは美味しかったわ!買わない客がバカなのよ!」
「不味かったよ。食えたもんじゃない。」
「あなたが兄に呪いを掛けたから、おかしくなってしまったの!いいから兄を返してちょうだい!」
凛坂女史は悲鳴のように喚く。
俺の事務所へ来た時のような、凛とした振る舞いはどこにもない。
ていうか、そもそも俺は何の為に雇われたんだ・・・・?
困った顔で腕を組んでいると、呪術師が「あんたも災難だねえ」と言った。
「美琴ちゃんは昔からお兄さん一筋でね。他の男なんて目に入らないんだ。」
「はあ・・・・。」
「でもってそのお兄さんが私と結婚しちゃったもんだから、悔しくてたまらないんだよ。」
「あの・・・・あなた方は昔からの知り合いで?」
「そうだよ。私は美琴ちゃんとお兄さんの通っていた高校で教師をやっててね。」
「先生だったんですか?」
「昔はね。でもって実家が床屋なもんで、そっちも手伝ってた。今は教師を辞めたから、こうして美容院に務めてるわけさ。」
「ははあ・・・・教師と生徒の禁断の恋というやつですね?」
「違う違う。私が政明君と付き合い始めたのは、彼が社会人になってからだから。」
「そうなんですか。なんか色々と危ないことを想像してしまって・・・・。」
俺は咳払いをしながら「まあ細かい所はツッコミませんが・・・」と言った。
「でも凛坂女史は、どうして俺を雇ったんです?俺はこの場所にはいらないような気が・・・・、」
「うん、いらないね。」
「だったらなぜ・・・・・、」
「この子はね、昔からオカルト好きなんだよ。
だから思い通りに行かないことがあると、そういう物に頼っちまう。
あんたは超能力探偵とかホラ吹いて仕事してんだろ?
だからこの子の目にとまっちまったわけさ。」
「失敬な!ホラじゃありませんよ!さっき実際に緒能力を見せたでしょう。」
「あんなのどうとでもなるじゃないか。」
「・・・・まだ見せていない能力があるんです。」
俺は表情を引き締め、「未来を当てましょう」と言った。
目を閉じ、意識を集中させる。
すると一秒先の未来が浮かんで来た。
「危ない!」
浮かんだ未来は、凛坂女史が呪術師に殴りかかるところだった。
俺は弾かれたように駆け出し、呪術師の盾となった。
しかし次の瞬間、俺は宙を待っていた。
一回転して床に叩きつけられ、「のおおおおお・・・・」とエビ反り状態になる。
「な・・・・なんで・・・・?」
「それはこっちのセリフだよ!なんでいきなり割って入るんだい!?」
「だって・・・凛坂女史が殴りかかろうとしてる未来が見えたから・・・・、」
「あのね、私はこう見えても合気道四段なんだよ。美琴ちゃんのパンチなんかなんてことないさ。
でもいきなりあんたが入って来るから、思わず投げちゃったじゃないか。」
呪術師は「ほら」と俺を立たせる。
「あんた未来が見えるんだろ?ならどうしてこういう事態を予測出来なかったんだい?」
「見えるのは一秒先まででして・・・・、」
「それ見えてるって言えるのかい?」
呪術師はため息をつき、「もうあんたは帰りな」と言った。
「これ以上美琴ちゃんに付き合うことはないよ。」
「いや、しかしですね・・・まだ依頼料を貰ってなくて・・・・、」
「なら今度ここへ来なよ。タダで頭を戻してやるから。」
「ほ、ホントですか!」
このヘンテコな頭とおさらば出来るかと思うと、「では引き揚げます」と頷いた。
「明日か明後日には来るので、よろしくお願います。」
そう言って頭を下げ、店を後にする。
凛坂女史はまだ喚いていて、それを宥めるように呪術師が説得していた。
こんなことになると分かっていれば、元々依頼など受けなかった。
もう少し未来予知の能力が強ければ、回避出来た未来かもしれないな。
投げられた背中を押さえながら、「痛ってえ・・・」と背伸びをする。
コンビニの窓に自分の姿が映り、その情けない頭にうんざりした。
「キノコ・・・・これキノコだよな?」
髪をつつき、ツンツンと押す。
すると店の中で買い物をしていた美女が、俺の方を見てクスリと笑った。
「うん、まあ・・・・美女に笑ってもらえるなら、もうしばらくこのままでもいいかな。」
ヘンテコな髪形も、美女の笑顔を誘発出来るなら価値がある。
「キノコの頭も悪くないもんだ。」
俺は店から出て来た美女に笑いかけ、マッシュルームの頭をなびかせた。
「あの・・・・マッシュルームはお好きですか?」
「はい?」
美女は笑いを堪えている。
「よかったらランチを奢らせて下さい。良いキノコを出す店を知っているんです。」
美女は大ウケし、友達を呼んでもいいならと頷いてくれた。
その友達とやらも美女で、二人して俺の頭をネタに楽しんでくれている。
俺は二人の美女に笑顔を振りまきながらこう思った。
カッコいい髪型なら、カッコいい性格に。
落ち武者の髪型なら、落ち武者みたいな性格に。
なら面白い頭なら、面白い性格になるのかもしれない。
今日の俺のトークは絶妙で、美女たちの笑顔が絶えない。
あの呪術師、案外本物かもなと思った。

 

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