不思議探偵誌〜探偵の熱い夏〜 第九話 ストーカーを捕まえろ!

  • 2016.07.15 Friday
  • 13:09

JUGEMテーマ:自作小説

八月も残すところ後わずか。
あと三日もすれば九月に変わる。
しかしまだまだ暑さは厳しく、セミの合唱はこれでもかと冴えわたっている。
時刻は午後5時。
空には薄い雲が出ている。
そのおかげで直射日光に焼かれることはないが、それでも暑いものは暑い・・・・。
しかしへたっている場合ではない。
俺はある依頼を受けて、鋭意張り込み中なのだ。
電柱の陰に隠れながら、先を行く少女を追いかける。
犬を連れて歩き、時折キョロキョロと辺りを窺っていた。
俺は親指を立てて、《大丈夫》と小声で言う。
少女は頷き、ゆっくりとした足取りで犬の散歩を続けた。
「おのれ・・・か弱い少女を狙うストーカーめ。この久能司がとっ捕まえてやるぞ!」
怒りに燃えながら、散歩の後をついていった。
この仕事の始まりは、一昨日の夕方に遡る。
とても暇な一日で、そろそろ閉めようかと立ち上がった時だった。
突然事務所のチャイムが鳴り、「はいはい」とドアを開けた。
「申し訳ないが、今日はもう終わりなんですよ。また明日にでもお越しを・・・・、」
そう言おうとして、「あれ?」と首を捻った。
「誰もいない。」
もしかしてピンポンダッシュかと思い、ドアを閉めようとした。
すると「あの・・・」と声がして、ドアの裏から人が出てきた。
「ぬあ!」
「・・・・・・・・。」
「こ・・・・子供?」
まだ小学校低学年くらいの女の子が、犬を連れている。
「あ、あの・・・・お嬢ちゃんがピンポンしたのかな?」
「はい・・・・。」
「そうか。で、何の用かな?」
笑顔で尋ねると、その子は「ストーカーに狙われているんです」と言った。
「す、ストーカー!?」
「ずっとついて来るんです。」
「・・・・そいつはどこにいるんだ?」
「このビルの前。」
俺は「ちょっとここで待っててね」と言い残し、ビルの外へ向かった。
辺りを見渡すが、誰もいない。
遠くの通りをサラリーマンや学生が帰宅しているだけだった。
「怪しい奴はいないな。」
事務所に引き返し、「誰もいないよ」と言う。
「ほんとに?」
「ああ。」
「でもずっとついて来たんです。」
「いつから?」
「犬の散歩の時から。」
「どんな奴だい?」
「大きくて怖いんです。乱暴だし、すぐ襲って来るし。」
「お・・・・襲って来るだと!?」
俺は少女の顔を見つめ、「大丈夫だったのか?」と尋ねた。
「サンマが追い返してくれたから、平気でした。」
「サンマ?」
「この子。」
そう言って犬の紐を引っ張る。
「なるほど・・・・勇敢な犬だな。」
その犬は柴が混ざったような雑種で、凛々しい顔をしていた。
「三才、メスです。」
「そうか。えらいぞサンマ、ご主人様を守るなんて。」
頭を撫でると、嬉しそうに尻尾を振った。
「でもお嬢ちゃんを一人で帰すのは危ない。
それにもし本当に襲われたのなら、それは立派な事件だ。
とにかく警察に電話しないと。」
俺は「中で待ってなさい」と少女を招き入れた。
「家の番号は分かる?」
「うん。」
「じゃあまずは警察に掛けるから、その後家に電話しよう。」
「うん。」
俺は受話器を持ち上げ、110番する。
「・・・・ああ、もしもし?警察ですか?実はですね・・・・・、」
女の子がストーカーに襲われたらしいと言おうとすると、突然電話が切れてしまった。
「・・・・・なんだ?」
少女が机の傍まで来て、電話を切っていた。
そして真剣な目で俺を見上げる。
「あの・・・・・、」
「うん?」
「おじさんって、探偵なんですか?」
「そうだよ。人呼んで超能力探偵さ。」
カッコを受けて笑うと、少女は「?」と首を傾げた。
「いや、その・・・・どうやらスベッてしまったようだな、ははは・・・・。」
苦笑いで誤魔化し、「でもどうして電話を切ったんだい?」と尋ねた。
「これは立派な事件だから、警察に言わないと。それに家にも電話して、お父さんかお母さんに迎えに来て・・・・、」
「あのね、お願いしたいんです。」
「お願い?何を?」
「私、そのストーカーを捕まえたいんです。」
「つ、捕まえる・・・・?」
少女は真剣な顔で頷く。
俺は頭を掻きながら、「これはまた何とも・・・・」と顔をしかめた。
しかし少女は本気だった。
真面目な顔で、どうしてもストーカーを捕まえたいのだと語る。
そしてそのストーカーについて、詳しく話してくれた。
話を聞いた俺は、「それはちょっとなあ・・・・」と肩を竦めた。
「気持ちは分かるけど、やめた方がいいんじゃ・・・・、」
「でも私は捕まえたいんです。じゃないと、また怖い目に遭う子が出て来るから。」
「その考えは立派だと思うが、それは俺にじゃなくて、ご両親に相談した方が・・・・、」
「ダメだって言われました。」
「なら捕まえても結局は無駄だと思うけどなあ。」
「でもおじいちゃんは、捕まえてきたらお願いを聞いてくれるって言いました。」
「なるほど・・・・おじいちゃんはOKなわけか。」
俺は腕を組み、う〜んと唸る。
別に暇なので引き受けてもいいが、相手は子供だ。
もし何かあった場合、これは俺の責任問題ということに・・・・。
「・・・・あのねお嬢ちゃん、探偵にお願いをする場合は、お金がいるんだ。
でも君は子供だから、お金は持ってないだろう?
だからやっぱりその依頼は受けられないよ。」
そう言って断ると、少女は「お金ならあります」と言った。
肩から掛けている鞄を漁り、小さな財布を取り出す。
そしてチャラチャラと音を立てながら、チャリンと俺の机に置いた。
「はい。」
「・・・・・・・・。」
「お金をあげるから、お願いを聞いて下さい。」
「・・・・・何とも寂しい依頼料だな。」
俺は苦笑いしながら、「分かった」と頷く。
「でも家の人にはちゃんと話をしておくんだ。
もしご両親が反対したら、依頼は受けられない。それでいいね?」
「うん!」
少女は嬉しそうに頷き、犬の紐を引っ張って行く。
「あ、お嬢ちゃん、君の名前は?」
「犬川カイ。」
「そうか。ならカイちゃん、明日ここで待ってる。」
「うん!」
少女は嬉しそうに去って行き、そして翌朝またやって来た。
「お父さんとお母さんはダメって言ったけど、おじいちゃんはOKだって。」
それを聞いた俺は、「う〜ん・・・」と唸った。
「さすがにおじいちゃんの許可だけじゃあなあ。」
「ならお金を奮発します。」
そう言ってまた小銭を取り出す。
机の上に20円。
昨日の分と合わせても、缶ジュース一本しか買えない。
しかしこの子にとってはなけなしの金だろう。
こうして追加料金まで貰ってしまったわけだし、断るのは野暮というものか。
「まあいいか。危険なことをするわけじゃないし。」
俺は頷き、「君の依頼を引き受けよう」と言った。
・・・・・そして今日、カイちゃんとの依頼を果たす為に、こうして張り込みをしているわけだ。
彼女は犬を連れながら、辺りを警戒している。
時折俺を振り返り、不安そうな目をしながら。
《大丈夫、俺がついてる。》
グッと拳を握り、励ますように頷きかける。
カイちゃんも頷き、サンマを連れて歩いて行った。
やがて住宅地を抜け、市民公園に差し掛かる。
緑が豊かな遊歩道を進み、犬の像の脇を抜けながら、また住宅地へと入って行った。
「子供のクセに遠くまで歩くもんだ。」
なかなかの健脚だなと感心していると、サンマがふとアレの態勢に入った。
足を踏ん張り、お尻をプルプルさせている。
カイちゃんはサッとナイロン袋を取り出し、アレが地面へ落ちる前に受け止めた。
「まだ小学二年生なのに偉いな。そのまま放置していく大人もいるというのに。」
この子は良い子に育つ。
なんだかジーンと感動していると、ふと眉間に痛みが走った。
「こ、これは・・・・・、」
意識が眉間に集中し、集中力が高まっていく。
そして次の瞬間、一秒先の未来が見えた。
「危ない!」
俺は駆け出し、カイちゃんの前に立ちはだかる。
すると曲がり角から、一匹の犬が飛び出してきた。
「出やがったなストーカー!」
手を広げ、そこそこ大きな犬を迎え撃つ。
しかし股間にタックルを喰らい、「ぬごおおおお・・・・」と悶絶した。
「い・・・・犬のクセに正確に急所を狙って来るとは・・・・・、」
プルプル震えながら、犬を振り返る。
「あ!マズイ・・・・・、」
犬はサンマの後ろに回り、交尾の態勢に入っていた。
カイちゃんが必死に紐を引っ張るが、さすがに二匹分の体重には敵わない。
「待ってろ!今助ける!」
そう言って立ち上がると、サンマが「ウォン!」と吠えた。
背中に圧し掛かる犬に噛みつき、鼻に皺を寄せている。
犬は慌てて飛び退き、噛まれた前足を痛そうに舐めた。
「おじさん!その子がストーカー!」
「分かってる!この久能司に任せておけ!」
俺は手を広げ、じりじりと犬に近づく。
またタックルを喰らってはマズイので、最大限腰を引きながら。
すると犬は背中を向け、ダッと駆け出した。
「あ、逃げる気か!?」
すぐに追いかけたが、さすがに犬の足には敵わない。
「くそ・・・・・せっかくチャンスだったのに。」
犬は遠くへ走り去り、角を曲がって消えていく。
するとカイちゃんが「追いかけよ」と言った。
「いや、追いかけたいのはやまやまだが、さすがに犬の足には・・・・・、」
「あの子ね、他にもストーカーしてるんだよ。」
「本当か!」
「さっき市民公園に行ったでしょ?そこにいると思う。」
「分かった!ならすぐに向かおう。」
俺たちは来た道を引き返し、さっきの市民公園に戻る。
すると・・・・・、
「いた・・・・・。」
カイちゃんの言う通り、確かに犬はいた。
そして彼がストーカーしているもう一匹の犬とは・・・・、
「なんてこった。犬にも変態がいるとは・・・・・。」
犬は交尾の態勢に入り、必死に腰を振っている。
その相手とは、公園に建てられた犬の銅像だった。

 

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