不思議探偵誌〜探偵の熱い夏〜 第十話 私が飼う!

  • 2016.07.16 Saturday
  • 11:23

JUGEMテーマ:自作小説

幼い少女がストーカーに悩まされている。
俺はその子から依頼を受けて、ストーカーの捕獲に乗り出した。
そしてそのストーカーは今目の前にいる。
ハッハッハっと荒い息遣いで、舌を出しながら腰を振っている。
それも市民公園の犬の銅像に覆いかぶさって。
「知らなかったなあ、犬にも変態がいるとは。」
俺はストーカーに近づき、「おい」と呼んだ。
「それは銅像だ。本物の犬じゃない。」
そう言っても通じるはずがなく、まだ腰を振っっている。
「犬って無機物に欲情したりするんだな。初めて知ったよ。」
俺はまじまじとストーカーを見る。
そう、少女を追いかけますストーカーとは、この犬のことだ。
正確には少女の連れているメス犬を狙っている。
柴?秋田?それとも何とかレトリバー?
俺は犬に詳しくないが、それでも雑種であることだけは分かる。
そこそこ大きな身体をしていて、尻尾はフサフサだ。
毛は汚れているが、色艶はいい。
このご時世に野良犬とは珍しい。
俺が子供の頃はよくいたもんだが、最近ではとんと見なくなった。
犬は必死に腰を振り続ける。
しかし残念ながら、どんなに頑張っても子孫は残せない。
だって相手は銅像なんだから。
そこへ今回の依頼者である、カイちゃんがやって来た。
「ね?ここでもストーカーしてるでしょ?」
「そうだな。狙われてるのはサンマだけじゃなかったんだな。」
そう言ってカイちゃんの連れた犬を見る。
「今なら簡単に捕まえられそうだ。」
俺は犬の後ろに回り、ヒョイと持ち上げた。
「けっこう思いな。」
犬は俺に抱かれても腰を振っている。
いったいこいつの繁殖本能はどうなっているんだ・・・・?
「おじさん、その子病院に連れて行かないと。」
「分かってる、去勢するんだろ?」
「そうじゃなくて、サンマに噛まれたところ怪我してるから。」
そう言って犬の前足を指さす。
これはさっきサンマに襲い掛かった時に受けた、痛々しい反撃の痕だ。
「少し血が出てるな。」
「バイ菌とか入るから、病院に行った方がいいよ。」
「いや、この程度なら大丈夫だろう。それにサンマは飼い犬だから、噛んでも変なバイ菌は入ったりしないさ。」
「ほんとに?」
「多分。」
こいつを病院へ連れて行くとなると、費用は確実に俺持ちだ。
カイちゃんには申し訳ないが、そこまでする義理はない。
なんたって今回の依頼料、缶ジュース一本分だからな・・・・・。
どうしても病院へ連れて行きたないなら、あとはカイちゃんの家の人に任せるしかない。
「さて、捕獲は完了。カイちゃんの家に連れて行こう。」
「うん!」
俺たちは来た道を引き返し、カイちゃんの家に向かう。
犬はしばらく腰を振っていたが、やがて大人しくなった。
「これあげる。」
カイちゃんは鞄から餌を取り出し、犬に向ける。
俺は腰を落とし、口を近づけてやった。
美味そうに平らげ、次を要求する。
そうして全ての餌を平らげクセに、まだ欲しそうにしていた。
「もうないよ。」
カイちゃんは手の平を見せ、何も持っていないとアピールする。
すると不思議なもので、犬はそれ以上餌を要求しなくなった。
「大したもんだ、ちゃんと伝わるんだな。」
犬が賢いのか?それともカイちゃんの犬の扱いが上手いのか?
俺には分からないが、お互いに何か通じる何かがあるのかもしれない。
やがてカイちゃんの家に着くと、「ちょっと待ってて」と中へ消えていった。
そしてしばらくすると、中国の仙人みたいな爺さんが出てきた。
俺の方へ来るなり、「どうも孫が世話になって」と頭を下げる。
「いえ、仕事ですから。」
そう、これは仕事だ。例え缶ジュース一本分の料金とはいえ、貰った以上は仕事になる。
爺さんはマジマジと犬を見つめ、「野良だな」と言った。
「タマあ付いとる。飼うならとらんと。」
そう言って手を向けるので、爺さんに犬を渡した。
「この犬をどうするかはお任せします。私はもう仕事を果たしたので。」
「子供のワガママに付き合わせて申し訳ない。よかったら中で酒でも・・・・、」
「いやあ、それはちょっと。まだ朝ですし・・・・、」
「なんじゃい。だらしない恰好のわりに真面目だな。」
爺さんはつまらなさそうに言う。どうやら酒の相手が欲しかったらしい。
「では私はこれで。」
頭を下げ、家を後にしようとする。
するとその時、開けっ放しになった玄関から、「私が飼う!」と聞こえた。
「ちゃんと世話するから!」
悲鳴にも近いカイちゃんの叫び。
俺は爺さんに顔を寄せ、「やっぱりご両親は反対なんで?」と尋ねた。
「まあなあ・・・すでに一匹飼うとるし。」
「あの犬、サンマより大きいですからね。カイちゃんじゃ散歩に連れて行くのも大変でしょう。」
「散歩は儂が連れて行ってもいい。ただなあ、親が反対してるなら、いくら儂がOKと言うても・・・・、」
「カイちゃんね、あの犬をストーカーと呼んでいたんですよ。」
「ストーカー?」
「ええ。散歩の時にいつもサンマを狙って来るそうなんです。」
「なるほど。」
「最初は嫌がってたみたいなんですが、そのうち愛着が湧いてしまったそうで。」
「別段可愛い犬でもないのにな。」
そう言って抱いた犬を見つめる。
「でもまあ・・・昔の犬はみんなこんな感じだった。
今は人間だけでなく、犬まで小綺麗になっとる。」
「綺麗な犬が散歩する公園の隅に、明日の生活さえ見えない人が佇んでいたりしますからね。
なんだかおかしな景色だなあと思うことはあります。」
「時代だな。」
爺さんは「よっこらしょっと」と犬を抱き直す。
「まあとにかく、迷惑をかけて悪かった。」
「いえ、依頼料を貰っていますので。」
「もし何なら、改めて来てくれ。多少なら払うから。」
「お気遣いありがとうございます。
しかし依頼者はカイちゃんで、彼女から正式にお金を頂いています。
追加料金を取るような仕事でもありませんし、これで充分ですよ。」
ポケットを叩き、貰った20円をチャリンと鳴らす。
「欲のない男だな。」
爺さんはニヤリと笑う。
家からはまだカイちゃん声が聴こえていて、「私が飼ううううう!」と雷鳴にも近い叫びを上げている。
「では私はこれで。」
頭を下げ、今度こそ家を後にする。
途中で振り返ると、爺さんは家の中に消えていた。もちろん犬も。
しかしまだカイちゃんの叫びは続いていて、「こりゃ大変だな」と肩を竦めた。
「まあ飼うかどうかはカイちゃんの親が決めることだ。後がどうなるかは知らないが、俺の仕事はここまで。」
これ以上子供のワガママに付き合うつもりはない。正直なところ、あの犬がどうなるかも気にならない。
カイちゃんの叫びを背中で聴きながら、ゆっくりと事務所へ帰る。
ポケットの小銭がチャリチャリと鳴った。

            *

翌日、昼過ぎに出勤すると、事務所の前にカイちゃんがいた。
その隣には昨日の犬もいて、ハッハッハと舌を出しながら口を開けている。
「おはよう。」
手を挙げながら近づき、「昨日はどうだった?」と尋ねる。
カイちゃんは寂しそうな顔で犬の紐を握っている。
「うん、まあ・・・・その顔を見れば分かるよ。」
そう言うと、カイちゃんは勢いよく立ち上がった。
そして俺の手に紐を押し付ける。
「おじさんの家で飼っていいよ。」
「いやいや、飼っていいよじゃなくて、これは君が・・・・、」
「これで餌を買ってあげて。」
そう言って30円を俺の手に握らせる。
「じゃあね、おじさん!」
「おいコラ!」
カイちゃんは俺の声を無視して、サッと走って行ってしまう。
通路の角を曲がり、トタトタと階段を降りていく足音が響いた。
「おい待て!これは君が飼うんだろう!?」
階段まで追いかけるが、すでに姿はない。
「なんて足の速い子だ・・・・。」
俺は犬を見つめ、そして渡された30円を見つめた。
「これで餌を買えって言われてもな・・・・・。」
30円で買える食い物。
うまい棒とBIGカツと・・・・他に何かあったかな?
俺は渡された紐を見つめながら、「マジかよ・・・」と呟いた。
「なんで俺が飼わなきゃいけないんだ?こんな事なら、最初から子供のワガママなんて付き合うんじゃなかった。」
飼うつもりはない。
しかし保健所へ連れて行くのは躊躇われる。
だからといって、今さらに野放しにするわけにもいかないし・・・・・。
「おいお前、どうしてちゃんとアピールしなかった?自分を飼って下さいって。」
じっと犬の顔を見つめ、「もっと上手いことやらないとダメだろうが」と怒る。
「どうせまたサンマに襲いかかったんだろう?家に行った初日で焦るからそうなる。」
グチグチ説教をしていると、犬は突然どこかへ駆け出した。
手から紐が抜け、「待て!」と追いかける。
「・・・・・いや、いいか。このまま放っておこう。」
犬は自分から逃げたのだ。俺が逃がしたわけじゃない。
これなら野放しにしたことにもなるまい。
「・・・・・・さて、今日も暇だろうし、読書でもするか。」
事務所へ入り、机の引き出しを開ける。
しかし一冊も俺の愛読書がなかった。
「あれ?エロ本がない?」
普段なら最低でも三冊は常備してあるのに、まったく見当たらない。
由香里君がいるとポイポイ捨ててしまうが、あいにく彼女は留学中だ。
「どうして俺の愛読書が・・・・、」
そう呟いて、「ああ!」と思い出した。
「そうだ・・・・カイちゃんの依頼を受けた後、全部家に持って帰ったんだった。
さすがに子供に見つかっちゃまずいから・・・・。」
ボリボリと頭を掻き、「なんってこった・・・・」と嘆く。
「これじゃ読書も出来ないじゃないか。」
パソコンやスマホで見るという手もあるが、どうしても読書がしたい。
はあっと息をつき、「仕方ない、買って来るか」と腰を上げた。
するとその時、事務所のドアがカリカリと鳴った。
「なんだ?」
何かで引っかくような音が鳴り響き、「誰だ?」とドアを開ける。
するとそこには逃げたはずの犬がいた。
「お前戻って来たのか?いや、それよりも・・・・、」
犬は口にある物を咥えていた。
それはボロボロになったエロ本だった。
「お前・・・・どこでこんなモンを・・・・、」
そう言いかけて「まさか!」と気づいた。
「公園か!お前が腰を振っていた、あの市民公園だな!?」
犬はエロ本を落とし、「ウォン!」と吠える。
「ふむ、公園にはほとんどの場合、植え込みか木立がある。
そしてそういう場所には、よくこういう本が落ちているんだ。」
ボロボロになったエロ本を拾い、「昭和62年・・・・年代物だな」と唸った。
「こんなの中々手に入らない。お前は優秀だな。」
「ウォン!」
「うむ。お前は俺の言いつけ通り、自分を飼ってもらえるようにアピールしたんだな。偉いぞ。」
よしよしと頭を撫で、「お前とは通じるものがありそうだ」と頷いた。
「まあ犬の一匹くらいならどうにかなるだろ。今日から我が事務所の一員として迎えよう。」
「ウォン!」
犬は尻尾を振って喜ぶ。
俺も「はっはっは!」と笑った。
でも・・・・・一つ疑問が。
「なあお前。どうしてこれが俺の愛読書だと知ってたんだ?」
ボロボロになったエロ本を振りながら、真剣に尋ねる。
するといきなりお座りをして、渋い顔になった。
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
無言で見つめ合う俺たち。
俺の目には犬が。
犬の目には俺が。
「・・・・・なんか・・・・、」
「・・・・・・・・・・・・。」
「俺たち似てるのかもな。」
「ウォン!」
言葉は通じなくても、目を見れば通じるものがある事は分かる。
「お前は銅像に腰を振り、俺はエロ本がないからと嘆く。うん・・・・やっぱり似てるな。」
類は友を呼ぶ。
何も言わずとも、コイツは俺の趣味を見抜いたのかもしれない。
「まあアレだ。とりあえず餌でも買いに行くか。」
「ウォン!」
今日、我が事務所に仲間が増えた。
それは犬。
しかも俺と似たような奴だ。
由香里君が帰って来たら、果たしてこれをどう思うか?
とりあえず帰国するまでは黙っておこう。
彼女がどういう顔をするのか見てみたいからな。
俺たちは事務所の階段を下りて行く。
カイちゃんから渡された餌代が、ポケットの中でチャリチャリ鳴った。
「なあお前?うまい棒とBIGカツ、どっちがいい?」
犬は白けた目で俺を睨んだ。

 

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