逆さ鳥居

  • 2016.07.22 Friday
  • 13:11

JUGEMテーマ:自作小説

寂れた神社がある。
田舎の集落の奥まった所に、ひっそりと建っている。
鳥居は立派で、春になると桜が咲く。
秋には紅葉も見られるので、彩のある季節だけはちらほらとアマチュアカメラマンがやって来る。
この神社、寂れた以外は特に変わった所はない。
しかし一つだけ他の神社と違う所があった。
それは鳥居が逆さまになっている場所があるのだ。
入り口には普通の鳥居がある。
その奥に階段が続き、本殿へと伸びている。
境内には小さな社が二つあって、落石で割れた陶器製の狛犬が座っている。
本殿の前には鐘がぶら下がっていて、その下には賽銭箱、そして社の奥には御神体がある。
どこを見ても逆さまになって鳥居などない。
しかしある手順を踏むと現れるのだ。
まず鳥居を潜り、階段を上る。
そして本殿で参拝し、その後狛犬にも手を合わせる。
そして鳥居の前まで戻り、パンパンと手を叩いてから外に出る。
外に出たら、今度は前を向いたまま鳥居の中へ戻る。
それから十秒数えて、またパンパンと手を叩く。
そうしてから後ろを振り向くと、そこには入り口とは別の鳥居が現れるのだ。
その鳥居は上下が逆さまになっていて、通称逆さ鳥居と呼ばれる。
この鳥居、潜るのには覚悟がいる。
なぜならこの鳥居を潜れば、生きて帰れる保証はないからだ。
神社には二つの顔があって、一つは温厚な和魂(にぎみたま)、そしてもう一つは気性の荒い荒魂(あらみたま)である。
普段私たちが知っている神社の顔は、和魂の方だ。
境内には静かな空気が漂い、賽銭を入れて参拝をする。
この時、願い事をすれば神様が叶えてくれることもある。ごくたまにだけど。
絵馬なんかも願い事の儀式の一つだし、和魂の顔をした神社はとても優しい空間なのだ。
しかし逆さ鳥居を潜ると、荒魂の神社に変わる。
例え昼でもあっても、辺りは暗く染まる。
境内には黒い影が行き来して、社の鐘がカラカラと一人でに鳴る。
本殿では扉の奥の御神体がガタガタと揺れて、こんな警告をしてくる。
『すぐに立ち去れ』
その声は腹に響くほど重く、すぐにこの場から逃げ出したくなるほどだ。
荒魂の神社というのは、優しい空間ではない。
今この空間は、人が入ってはいけない場所になっているからだ。
神様から『立ち去れ』と言われたら、素直に立ち去った方がいい。
その場に留まれば、どういう災いを受けるか分からないのだから。
荒魂の神社から出るには、もう一度鳥居を潜らなければいけない。
しかし入り口の鳥居は逆さになっていて、ここを通っても外に出ることは出来ない。
なぜなら外に出ても、その先もまた同じ神社に繋がるからだ。
荒魂の神社から出たいなら、ここへ入ってきた時と同じような手順を踏まなければならない。
そうすれば正しい向きの鳥居が現れ、和魂の神社に出ることが出来る。
しかしそれはかなり難しいことだ。
なぜなら神社の中をうろつく黒い影が邪魔をしてくるからだ。
正しい鳥居を呼び出す為の儀式を行っていると、わらわらと群がって来る。
大人、子供、男、女、若者、老人、中には外国人もいる。
あらゆる人間が黒い影となり、身体に纏わりついて来るのだ。
『行かないで』
『一緒にいよう』
『慣れれば楽しいぞ』
『元の世界に戻って何がある?』
『夢も希望もないんでしょ?』
『友達も恋人もいないんでしょ?』
『いるって?それはあんたが勝手にそう思ってるだけ。』
『みんな君のこと鬱陶しがってるよ。』
あれこれと理屈を並べて邪魔をしてくる。
それを無視していると、今度は力づくで止めようとしてくる。
手足にしがみつき、胴体にしがみつき、鳥居の前に立ちはだかって、外へ出すまいとする。
それにも負けず、正しい鳥居を潜ることが出来たなら、和魂の神社に戻れるだろう。
しかし少しでも迷いを見せると、すぐさま黒い影に乗っ取られる。
意識を奪われ、次に目を開けた時には・・・・・、
黒い影はこうして増えて行く。
しかし永遠にここにいられるわけではない。
なぜならここは荒魂の神社。
人が来てはいけない場所。
本殿の奥でカタカタと鳴っている御神体から、とうとうお怒りになった神様が飛び出して来るだろう。
それは魚のような、トカゲのような、しかし人も混じったような姿をしている。
ぬるんとした舌を伸ばし、一瞬で黒い影たちを飲み込んでしまう。
そして口の中をもごもごさせて、ぺっと吐き出す。
黒い影たちは一つの塊になり、ある時はゲジゲジに、ある時はムカデに、またある時はゴキブリにされてしまう。
虫になれば、和魂と荒魂の両方の神社を行き来出来るようになる。
いつでもここから抜け出せるし、また入ることも出来る。
ただし注意がいる。
和魂の神社には人がやって来るからだ。
虫となった人間は助けを求めて近づくだろう。
しかし人間は醜い虫を嫌う。
大きな大きな人間の足に踏み潰され、そのまま土に還ることになるだろう。
生き延びたいのなら、荒魂の神社を出てはいけない。
虫となった人間は、逆さ鳥居を潜てっても、もう人間には戻れないのだから。
神社には二つの顔がある。
もし逆さまになった鳥居を見つけても、決して潜らない方がいい。

 

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