【読み切り】一つしかないペンダント

  • 2016.07.23 Saturday
  • 09:51

JUGEMテーマ:自作小説

日に日に彼がおかしくなっていくんです。
・・・・・ええ、そうです。
なんかこう・・・心ここにあらずって感じで。
仕事も辞めてしまって、友達とも会わなくなって、最近じゃ家族とも距離を置いているんです。
唯一私にだけ普通に接してくれるんですけどね。
先生、これってやっぱり病気ですよね?
だって仕事も友達も捨てるなんておかしいじゃないですか。
前はすごく明るい性格だったんですよ。
そりゃ見た目通りあまり社交的じゃないけど、でも今みたいに暗い人じゃなかったんです。
ねえ先生、これってやっぱり病気ですよね?
・・・・・え?今の彼を否定するなって?
どうしてですか?
だってこんなに暗い人になっちゃったんですよ。
最近じゃ閉店前のスーパーに行って、じろじろお客さんを観察してるんです。
頭の禿げたおじさんを指さして、「あれ、俺と似てるね」なんて言って。
全然似てないんですよ。だって彼はカッコいいのに。
やっぱり変です、最近の彼・・・・・。
この胸のペンダントをくれた時の彼はすごく優しかったのにな。

          *

先生、俺ね、もうじき死のうと思ってるんですけど、その前にやり残したことがあるんです。
・・・・はい?そうです、今日は俺一人だけです。
ああ、アイツとは別れました。
ていうかフラれたんですよ、もうアンタみたいな変人とは付き合えないって。
まあ遅かれ早かれこうなると思ってたんですよ。
前からちょくちょく元カレと会ってたみたいだし。
あ、でもこのペンダントだけは持ってるんです。
これ、おそろいで買ったやつなんですよ。
これだけは気に入ってるんで。
ていうかそんな事はどうでもいいんです。
俺ね、すごい事に気づいたんです。
この世には二種類の人間がいて、生きてる人間と死んでる人間がいるんですよ。
でね、死んでる方の人間がよく喋りかけてくるんですよ。
最近なんか特に。
だってほら、この前彼女と別れたから。
まあアイツも死んでる人間なんだけど、でも別れた途端に別の死んでる人間に付き合ってくれって言われて。
だからね、一度だけソイツと付き合ってやろうと思ってるんです。
俺が死ぬのはそれからで。
・・・・ん?どうして死にたいのかって?
だって先生、死んでる方が人間は楽じゃないですか。
働かなくていいし、これ以上死ぬこともないし。
ふわふわその辺うろついてりゃいいんですから。
食べなくても大丈夫だし、どこへでも行けるし。
でもね、別れたアイツは言うんですよ。
死んでるのはアンタの方だって。
馬鹿ですよね、アイツ。
俺はまだ生きてるのに。
じゃあ先生、俺、ちょっと告ってきた死んでる女と付き合ってきます。
多分二度とここには来ないだろうけど、先生も元気で。
          *

先生、私アイツと別れたんですよ。
だってね、そろそろ現実見なきゃと思って。
死人とは結婚も出来ないし、子供だって産めないし。
今の彼はすごく優しくて、頼りになるんです。
でもね、前の彼がちょくちょく会いに来るんですよ。
アイツ・・・もうお前とは会わないって言ったクセに。
今でも昔のペンダントなんか身に付けちゃって。
まあ私もこれだけは着けてるから人のこと言えないけど。
でね、先生に聞きたいことがあるんです。
今回の彼氏はどうですか?
すごく良い人だと思うんですけど、先生はどう思います?
・・・・・・そうですか。
やっぱりこの先上手くいかないんですね、私たち。
・・・分かってるんです。今の彼も死人だって。
でも私、死んだ人しか好きになれないんです。
ねえ先生、今度は私が病気になっちゃったんでしょうか?
やっぱり薬とか飲んだ方がいいんですかね・・・・。

          *

・・・・・先生、アイツはもう本当に俺のことを必要としてないみたいです。
俺は死人だから、さっさとあの世へ行けって・・・・。
・・・・ええ、死ぬつもりでしたよ、俺は。
告ってきた死人の女と付き合ってね。
でもアイツが邪魔してくるんですよ。
そんな女はアンタに似合わないって。
無理矢理別れさせられました。
はあ・・・・なんなんだよアイツ。
別れたクセに、どうして人の恋路に首突っ込んでくるんだろ?
・・・・はい?
このペンダントですか?
そうですそうです!お気に入りなんですよ!
アイツとおそろいのを買って・・・・・・・え?
それはおそろいじゃないって?
一つしかないペンダントだって?
やだなあ先生、これはアイツとおそろいなんですよ。
・・・・そんなことないです。
これは俺が買ったやつなんです。アイツとおそろいなんです。
嘘言わないで下さい。

          *

先生・・・・私どうしていいか分からないんです。
新しい彼とも上手くいかなくなって、だから別れちゃって・・・・。
それでね、前の彼がヨリを戻さないかって。
でも彼って死人じゃないですか。
だから結婚も出来ないし、子供も産めないし・・・・。
生きてる人間ならヨリを戻してもよかったんですけどね。
・・・・・このペンダント?
ええ、彼とおそろいですよ。
・・・・やだなあ先生、これは彼が買ってくれたやつなんですよ。
どうして先生がプレゼントしてくれたことになってるんですか?
しかもこのペンダントは一つしかないなんて。
・・・・何を言ってるんですか?
これは先生の亡くなった奥さんの形見で、特注品だから一つしかないって?
馬鹿なこと言わないで下さい。
これは彼とおそろいなんです。

          *

先生・・・・最近頭がボーっとするんです。
ふわっと意識が遠のくような・・・・。
でも俺が弱っていくと、アイツは元気になっていくんですよ。
これってもしかして、アイツに精気を吸い取られてるんですかね?
死人と一緒にいるから、俺のエネルギーとかが吸われてるんじゃ・・・・。
・・・・え?元気がないのは寝てないからだって?
いや、寝てますよ俺は。
・・・・彼女が起きてるから寝てないだろうって?
いや、意味が分からないです。
アイツが起きてても、俺は寝てますよ。
だって毎回毎回セックスするわけじゃないし。
ああ、それとね、このペンダントは俺が買ったやつですから。
アイツも言ってましたよ、先生が変なこと言うって。
・・・・・・はい?
どうして先生がこれを俺に渡したのか、よく思い出せって?
だから意味が分からないです。
これ自分で買ったやつだし。
・・・・・ん?これ先生の奥さんの写真すか?
ずいぶん美人ですね。
確か何年も前に亡くなったんですよね。
もったいないなあ・・・こんな美人なのに。
・・・・・あれ?
ねえ先生、奥さんの胸元、俺たちと同じペンダントが着いてる。
・・・・ははあ、さては先生も奥さんとおそろいで買ったんですね。
俺たち似た者同士じゃないですか。
はははは。

            *

先生・・・・私ね、最近すごく調子が悪いんです。
ちゃんと寝てるんですけど、全然寝てないみたいに疲れるんですよ。
これって彼のことで精神的に参ってるんですかね?
・・・・・それは寝てないからって?
やだなあ先生、私はちゃんと寝てますよ。
・・・・うん、寝てます。寝てますよ・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
いや、だからね先生、アイツは俺とヨリを戻したいのかどうか、はっきりしてほしいんですよ。
死人だから嫌とか言いつつ、でも俺がいなきゃダメみたいな言い方したり。
もうね、はっきりしてほしいっつうか・・・、
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
先生・・・・やっぱり私ダメです・・・・。
体調が悪いし、それに彼のことでいっぱい悩んでて・・・・・。
もう身体も心も限界っていうか・・・・、
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
あの先生・・・・・俺・・・・もう・・・・死にそうです・・・・。
めちゃ変なんですよ・・・・・なんか・・・・意識が・・・・遠のくっていうより・・・・消えていきそう・・・・、
・・・・ペンダント・・・・・これ・・・・そうなんすね・・・・。
これって・・・・やっぱり先生の・・・・奥さんの・・・・、
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
嫌だあ・・・・先生・・・・私・・・・思い出しちゃった・・・・・。
このペンダント・・・・一つしかないやつだ・・・・。
先生が・・・・迷わないようにって・・・・くれた・・・・・。
世界で一つしかないから・・・・別の人間が・・・・持ってるはずのない物だって・・・・。
だから・・・・これ・・・・彼と・・・・・おそろいじゃ・・・・ない・・・・・。
これは・・・・・彼と・・・・私で・・・・二人で・・・・一つの物を・・・・・。
先生・・・・・私・・・・どうなるんですか・・・・・?
彼は・・・・・どうなって・・・・・・、
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。

            *

退院おめでとう。
長い治療だったけど、ようやく終わりを迎えることが出来た。
これからは迷うこともないだろう。
でももしもの時の為に、そのペンダントは預けておくよ。
もしまた自分ではない人間の声が聴こえたら、そのペンダントを見て思い出せばいい。
自分は一人しかいないんだってことを。
・・・・・・・・・・・。
・・・・そうかい。
そのペンダントはおそろいだと言うんだね。
残念だ・・・・今回こそは上手くいくと思ったのに。
・・・・ああ、話を聞くよ。
とりあえず中へ入ろうか。
またしばらくここで生活することになるだろうからね。
でも僕は信じてるよ、いつか君が本当の自分を取り戻してくれると。
それまで一緒に頑張ろう。

 

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