春の鳴き声 第四話 金と石(2)

  • 2017.01.03 Tuesday
  • 15:23

JUGEMテーマ:自作小説

冬休みが始まって三日目。
僕の部屋に井口が来て、漫画を読んでいた。
柴田が高校生のヤンキーを連れて復讐に来てから、三週間が経っていた。
あれ以来、僕たちは菊池さんと由香子ちゃんに会っていない。
ていうか会わせてもらえないのだ。
あんな事があって、警察までやって来たもんだから、菊池さんの親がすごく心配した。
僕らのことを怒りはしなかったけど、でも《もう会わんといて》と言われた。
《この子らはちょっと普通の子と違ってて、ちょっとしたことでもすごいストレスに感じるんよ。
仲良うしてくれるのは嬉しいけど、あんまり会わんといて。》
菊池さんのお母さんに、面と向かってそう言われた。
あの時、菊池さんのお父さんもお母さんも、それにお爺ちゃんも、由香子ちゃんのことを心配そうにしていた。
菊池さんはその隣でポツンと立ってた。
いつもみたいに、何を考えてるのか分からない、石みたいな表情で。
あの時、僕はなんとなく思った。
きっと菊池さんの家族にとって、由香子ちゃんは金で、菊池さんは石なんだろうって。
同じ子供でも、金と石じゃ大事にされるのは金の方だ。
あの時ラーメン屋で菊池さんが言っていたことを思い出した。
《私はブスで、由香子は可愛いから。》
そう、菊池さんはブスだ。
でも由香子ちゃんはすごく可愛い。
ほんとに可愛い。
だから菊池さんの家族は、由香子ちゃんの方を大事にしてるんだ。
僕は菊池さんが可哀想だと思った。
顔はブスでも、すごく良い子だし、それに優しいし。
余計なことは言わないし、素直だとも思う。
だからこのまま会えなくなるのは、なんだかすごく嫌だった。
背中を向けて漫画を読んでいる井口に「なあ?」と尋ねる。
「菊池さんに会いに行かへん?」
「会うなって菊池さんのおばちゃんに言われたやん。」
「でも菊池さん可哀想やんか。」
「なんで?」
「だって由香子ちゃんんばっかり可愛がってもらってんねんで?菊池さんあんなええ子やのに。」
そう言うと、井口はゴロンとこっちを向いた。
漫画を閉じて、マッチョな足で胡坐をかく。
「でもなあ・・・、」
「嫌なん?」
「嫌とちゃうけど、俺も親父から言われてるからさ。」
「会うなって?」
「うん。」
「井口のおっちゃん怖いもんな。」
「あれ化け物やで。素人やったら刃物持っても勝たれへんわ。」
この前の事で、井口はお父さんからすごく怒られたらしい。
普通の子を相手に、暴力を振るうなんてもっての他だって。
でもそれは僕を助ける為だったから、二発殴られるだけですんだらしい。
そして《友達は大事にせなあかんけど、でもそういう時は大人に言え》と怒られたそうだ。
だけど僕から言わせれば、その大人がアテに出来ないから、井口に頼むしかなかった。
「なあ井口。」
「ん?」
「なんかいっつも悪いな。助けてもらって。」
「ええって。友達やん。」
そう言って「気にすんなや」と笑った。
「おかげで柴田は大人しくなったんやろ?」
「うん。なんかあの後、あのヤンキーどもにボコボコにされたらしいで。」
「そら自分だけ逃げたからな。」
「自分の復讐為に、わざわざ知り合いのヤンキー呼んできたのにな。
ピンチになって一人だけ逃げたら、そらそうなるわな。」
「まあこれで、もうしょうもないことはせんやろ。」
あれ以来、柴田はまったく僕に絡んでこなくなった。
取り巻きの連中も大人しくなったし、柴田と仲の良かった女子は、全然アイツと喋ろうとしなくなった。
これで憎き柴田は完全にやっつけたけど、でも僕は気分が晴れない。
だって菊池さんのことが気になって仕方ないから。
「なあ、やっぱ会いに行かへん?」
「菊池さんに?」
「気になるんや。」
「でも家に行っても会わせてもらえへんと思うで。やんわりと追い返されるのがオチやって。」
「電話しても無理かな?」
「おんなじやろ。」
「ほな・・・・・三つ葉の里は?」
「ん?」
「菊池さん言うてたやん。障害とかもった子が行く所に行ってるって。」
「そうなん?」
「お前は由香子ちゃんと話してたから知らんよな。でもそこに通ってるって言ってた。」
「でもいま冬休みやで?」
「そういう所も冬休みとかあるんかな?」
「知らんけど。」
「ちょっと調べてみよか。」
僕はスマホをいじって、《三つ葉の里》と検索した。
「どや?」
「・・・土日と祝日以外はやってるみたいやな。」
「今日って水曜やんな?」
「うん。12月の27日まではやってるみたい。」
「ほな明日までやんか。」
「年明けやと1月5日からやから、今日と明日逃したら来年まで無理やわ。」
「ほな行ってみるか?」
「そうしよ。」
僕たちは自転車に跨り、三つ葉の里を目指した。
ここからだと自転車で一時間くらいだ。
けっこう遠いけど、でも菊池さんのことが気になって仕方ない。
だから寒い中を、ぶるっと震えながら漕いでいった。
「それ、ええ自転車やな。」
井口が僕の自転車を見る。
「前のん柴田に壊されたからな。ねだってええの買ってもろたんや。」
「ええな。俺も親父に頼んでみよかな。」
井口はそう言って、ものすごい速さでママチャリを漕いでいった。
マッチョなコイツは自転車を漕ぐのも速い。
ギアなんてついていないクセに、ギア付きの僕の自転車より速かった。
それから一時間後、僕たちは三つ葉の里にやって来た。
「シュウちゃん息上がってんで。」
「お前が・・・・・飛ばすからやん・・・・、」
「別に飛ばしてないで。」
「それお前基準やから・・・・・、」
ちょっと休んで、息を整える。
そして三つ葉の里の前に立った。
すごく小さな校舎が、三つ並んでいる。
その前には、フットサルが出来そうなくらいの運動場があった。
校舎の傍には事務所みたいなのがあって、その向こうには畑がある。
フェンスで囲ってあって、土から大きな葉っぱが出ていた。
なんだか幼稚園で芋堀した時のことを思い出した。
門の傍には《児童支援センター・三つ葉の里》と書いてある。
僕も井口も、じろじろと中を見つめた。
「これって勝手に入ってもええんかな?」
井口が言う。
僕は「どうやろなあ」と答えた。
「菊池さんが気づいてくれたら、中に入れるかもな。」
「おるか?」
「分からん。みんな校舎の中みたいやで。」
僕は首を伸ばして覗く。
しばらく待っていると、奥の校舎から子供が出てきた。
小さい子もいれば、高校生くらいの子もいる。
全部で十人くらいの子供が出てきて、その中に菊池さんがいた。
「おった!あそこ!」
「・・・・おお!ほんまや。」
菊池さんは楽しそうに笑っていた。
横にいる女の子と何かを喋っていて、こっちまで笑い声が聞こえてくる。
「笑ってる。いっつも石みたいな表情やのに。」
すごく楽しそうな菊池さんを見て、僕は意外だった。
だってあんな風に笑うなんて思わなかったから。
「楽しそうやな。」
井口も驚いている。
僕はジャンプしながら手を振った。
すると何人かの子供が気づいて、僕の方を見た。
つられて菊池さんもこっちを見て、驚いた顔をしていた。
「菊池さん!」
そう呼ぶと、普段の石みたいな顔に戻ってしまった。
さっきまであんなに楽しそうだったのに、まるで幽霊でも見つけたみたいに。
「俺ら歓迎されてないんちゃうか?」
「ぽいな。でもここまで来たんやから、このまま帰るのは嫌やん。」
ずっと手を振り続けていると、先生らしき人がこっちへやって来た。
30歳くらいの女の人で、「何か?」と僕らを見る。
「あの、僕ら菊池さんの友達なんですけど・・・、」
「菊池さんの?」
「学校で同じクラスなんです。こっちのデカイ奴は違うけど。」
「押忍!井口です。」
「はあ・・・・。」
いきなり空手の挨拶なんかするから、先生は変な顔をした。
「あの、僕ら菊池さんに会いたいんです。」
「入ってもいいですか?」
そう言うと、先生は困った顔をしながら「ちょっと待ってて」と戻って行った。
事務所に入り、今度は50歳くらいのおばちゃんが出てくる。
さっきの先生は菊池さんの所へ行って、みんなで畑の方へ行ってしまった。
「こんにちわ。」
おばちゃん先生は、僕らを見てニコッと笑う。
僕は「あの・・・」と話しかけようとした。
しかし話す前に、「君たちだけ?」と聞かれた。
「え?」
「菊池さんの友達って聞いたけど、君たち二人で来たの?」
「そうです。僕は高崎といいます。」
「あ、僕は井口です。」
二人して頭を下げて、「菊池さんに会いたいんですけど」と言った。
するとおばちゃん先生は「悪いんだけど、基本的に関係者しか入れないんです」と答えた。
「そうなんですか?」
「見学は出来るけど、事前に予約が必要なんですよ。」
「あの、でも一時間くらい自転車漕いで来たんですけど・・・・、」
そう答えると、おばちゃん先生は困った顔をした。
僕はどうしても菊池さんい会いたかったので、「ちょっとだけでも駄目ですか?」と尋ねた。
「う〜ん・・・・・。」
おばちゃん先生はまた困る。
そしてちょっとの間困ってから、「待っててくれる?」と言った。
「今は菊池さんは畑で野菜を採ってるから。」
「ほなそれが終わったら会えますか?」
「ここにいる間は、勝手に誰かに合わせるわけはいかないんだけど・・・・。
菊池さんに聞いてみて、それからご両親にも聞いてみてからじゃないと。」
「親にも聞くんですか?」
「だから待っててくれる?」
「分かりました。」
おばちゃん先生は事務所に戻って行く。
井口は酸っぱい顔をしながら、「こら無理やな」と言った。
「親に言われたら会えるわけないやん。」
「そうやな。ここに来たら会えると思ってたのに。」
「まあしゃあないって。もう帰ろうや。」
「いや、あのおばちゃんが戻って来るまで待ってみようや。」
僕はドキドキしながら中を見つめていた。
畑で大根を抜いている菊池さんが見える。
たまに僕を振り返って、でもまたすぐに大根を抜いていた。
《菊池さん、僕と会いたあないんかな?》
どうしてこんなに菊池さんが気になるのか、自分でも分からない。
でも可哀想と思ったんだ。
由香子ちゃんはあんなに大事にされてるのに、菊池さんはそうじゃない。
でもここにいる菊池さんはすごく楽しそうで、だったら僕が来たのは邪魔だったのかもしれない。
そう思うと、来なかった方がよかったのかなと後悔した。
やがておばちゃん先生が戻って来て、こう言った。
「菊池さんのお母さんは、園の人が一緒なら会ってもいいよって。」
「ほんまですか!」
「でもまだ菊池さんに聞いてないから。
今は楽しそうに畑をしてるから、ちょっと待っててくれる?」
「どれくらいですか?」
「30分くらい。」
「ほな待ちます。」
「ここじゃ寒いでしょ、中に入って。」
「いいんですか?」
おばちゃん先生は事務所へ行って、手招きをする。
僕は井口を振り返り「あの・・・」と言った。
「ん?」
「お前ここにいたい?」
「え?」
「いや、お前は菊池さんに会いたいわけちゃうやん。だから悪いなと思って。」
「シュウちゃんが誘ったんやん(笑)」
「そやけど、でもすぐ会えると思ってたから。」
「別に付き合うで。帰ってもやることないし。
空手の練習も、親父からしばらく禁止されてもたし。」
「ほな・・・・行くか?」
「おう。」
僕たちは事務所へ向かう。
中は石油ストーブのおかげで、とても温かかった。
おばちゃん先生はじっとパソコンとにらめっこをしていて、僕たちは黙ったまま椅子に座った。
やがて畑仕事が終わったようで、ワイワイと子供が戻って来る声が聞こえた。
おばちゃん先生は立ち上がり、「ちょっと待っててね」と出て行った。
「会ってくれるかな?」
「さあな。」
「僕らが来てさ、石みたいな顔に戻ってたやん?」
「そうやな。」
「やっぱ嫌やったんかな?」
「う〜ん・・・・それは本人しか分からんけど、でも会うつもりがないわけじゃなさそうやで。」
「なんで?」
「だってそこまで来てるから。」
井口はドアの向こうに顎をしゃくる。
目をやると、向こうから菊池さんがやって来るのが見えた。
《来てくれた!》
僕は嬉しくなって、椅子から立ち上がる。
ドアが開き、おばちゃん先生の後ろから菊池さんが入ってきた。
「・・・・・・・・・。」
菊池さんは石みたいな表情で僕らを見る。
おばちゃん先生に背中を押されて、僕の隣の椅子に座った。
「ほな私はそこにおるから。」
そう言っておばちゃん先生は、パソコンとのにらめっこを再開した。
たまにカタカタとキーボードを打つ音が聞こえる。
後は換気扇のブウウウって音だけが響いて、僕と菊池さんは見つめ合うだけだった。
井口がドンと肘をつく。
何か話せと言ってるのだ。
僕は「あの・・・」と口を開いた。
「ごめんな、いきなり来て。」
「うん。」
「迷惑やった?」
「別に。」
「家に行っても会われへんと思って、ほんでここに来たんやけど。」
「うん。」
「あの・・・・特に用事があるわけちゃうんやけど、どうしてるかなあと思って。」
「うん。」
この前と同じように、菊池さんは落ち着きがない。
返事は素っ気ないけど、でも身体はずっと動いている。
あちこち見渡したり、身体を揺すったり。
机の上の物をいじったり、髪の毛を触ってみたり。
「柴田な、あれから大人しくなったで。」
「うん。」
「後からあのヤンキーどもにボコボコにされたんや。」
「うん。」
「取り巻きの連中も大人しいなったし、柴田にくっ付いてた女子どもも離れた感じやし。」
「うん。」
「だからな、もう誰もイジメられへんと思う。」
「うん。」
「だからな、また学校に来ることがあっても大丈夫やで。」
「うん。」
何を言っても「うん」で終わってしまって、そろそろ話が続かない。
どうしようかと考えていると、この前の約束を思い出した。
「あのさ、また一緒にご飯食べに行こ。」
「うん。」
「約束したやろ。菊池さんはラーメンがあかんから、次はカレーにしよか?」
「うん。」
「じゃあいつ行く?冬休みやったら、僕ずっと空いてるで。」
「うん。」
「ここって明日までやろ?ほなその後に行こか?」
「うん。」
「でも僕が家に行っても会えへんから、菊池さん出て来てくれへん?
そうしたら一緒に行けるやろ?」
「うん。」
「あ、でも嫌やったらええで。」
「・・・・・・・。」
「行く?」
「うん。」
「ほな・・・そうやな。明後日にしよか?28日に。」
「うん。」
「昼前くらいに行くわ。家の前に出て来といてくれる?」
「うん。」
「ほなまた明後日な。」
「うん。」
僕は立ち上がり、おばちゃん先生の所へ行った。
「話は終わったんで、もう帰ります。」
「ああ、ほな・・・、」
おばちゃん先生は立ち上がり、ドアを開けてくれた。
「気をつけてね。」
「はい、ありがとうございました。」
井口と二人で頭を下げる。
僕らは自転車に跨って、また寒い風の中を走っていった。
「なあシュウちゃん。」
「なに?」
「ほんまに約束守ってくれるかな?」
「どういうこと?」
「いや、だってさっきの会話、あのおばちゃん先生に聞かれてるで。
そんなら親にだって話が行くやろ。じゃあ一緒にご飯行くの無理ちゃうか?」
「そうかな?」
「そうやろ。俺らが来るのをバレてるんやから。」
「ん〜・・・・俺はそう思わんけど。」
「なんでえな?」
「あのな、これ俺の勝手な想像やで。」
「うん。」
「菊池さんに言わんといてよ。」
「分かった。」
「僕な、菊池さんは石で、由香子ちゃんは金やと思うねん。」
「は?」
「あのな、由香子ちゃんは家族とか周りから大事にされてて、菊池さんはそうでもないと思うねん。」
「なんで?」
「ほら、あの二人って、姉妹やけど顔が全然違うやん。だから・・・・、」
「ああ、由香子ちゃんが可愛いからってこと?」
「やと思う。だからな、今日だってもしあそこにおるのが由香子ちゃんやったら、絶対に会えへんかったと思うねん。
だって親が許さんやろ。」
「う〜ん・・・・、」
「いや、勝手な想像やで。」
「あながち間違ってないかもしれへんけど、実際はどうやろな?」
「まあ分からんけど。でもな、僕の思ってる通りやとしたら、別に菊池さんの親は止めへんと思うねん。一緒にご飯行くこと。」
「まあ・・・それは明後日になってみんとな。」
「そやな。寒いから早よ帰ろか。」
「てか俺の家行かへん?Wiiやろうや。」
「おお!やるやる!」
僕たちは急いで家に帰る。
それは寒いからだし、Wiiをやりたいからでもあった。
だけどそれ以外にも理由があった。
どうしてか分からないけど、僕は嬉しかったんだ。
ラーメン屋で、また一緒にご飯食べよなって言ったのは、何気なく言っただけだった。
でもまたこうして約束して、一緒に行くことになった。
僕は別に、菊池さんに恋してるわけじゃないと思う。
付き合うなら、あの可愛い由香子ちゃんがいい。
でもどうして胸が弾む。
だから自転車を漕ぐ力も上がって、帰りは井口に負けなかった。
「なあシュウちゃん。」
「なに?」
「その明後日のご飯、俺行かん方がええ?」
「なんで?お前も来いよ。」
「いや、だってシュウちゃんが菊池さんのこと好きなんやったら、邪魔せん方がええかなと思って。」
「ちゃうちゃう、そんなんとちゃうねん。なんかな、気になったから誘っただけやねん。別に好きとかちゃうで。」
「そうなん?ほな俺も一緒に行くわ。」
井口は嬉しそうに笑う。
コイツも暇だから、置いてけぼりは嫌なんだろう。
その気になれば彼女でも友達でも、いくらでもできるはずなのに、なぜか俺とばかり一緒にいるもんだから、俺と会えないと退屈なんだろう。
「明後日か。どこのカレー屋行こかな。」
胸を弾ませながら、寒い風を切っていった。

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