春の鳴き声 第六話 氷の友情(2)

  • 2017.01.05 Thursday
  • 14:32

JUGEMテーマ:自作小説

菊池さんはゲームが上手かった。
僕の家から持ってきた格闘ゲームを、井口の家でやっていた。
今までほとんど格ゲーはやったことないのに、始めてから一時間後には僕より上手くなっていた。
「なんや、シュウちゃん全然あかんやん。」
井口が代わり、菊池さんと対戦する。
でも僕と同じように負けた。
「井口もあかんやん。」
「俺格ゲー苦手やから。」
「空手やってんのに?」
「ゲームと実際にやるんじゃ違うって。そんなんやったら、メジャーリーガーはみんな野球ゲームが上手いんかっちゅう話やん。」
「まあそうやな。ていうか菊池さんが強いねん。」
「ほな別のゲームにしよか。」
「Wiiやらしてよ。」
「今日は姉ちゃんおるからアカン。」
「借りれへんの?」
「この前勝手に使ったからな。バレてもてめっちゃキレられた。」
「ほな別のゲームにかえよ。」
格ゲーを終了して、車のレースゲームをやる。
でもこれまた菊池さんは上手くて、僕らはコテンパンにされた。
「すごいな菊池さん。」
「うん。」
「めっちゃ上手いやん。」
「毎日由香子とやってるから。」
「ほな由香子ちゃんも上手いんか?」
「うん。」
「菊池さんより?」
「うん。」
「マジで?すごいな由香子ちゃん。」
ゲームの間は、菊池さんの独壇場だった。
でもあんまり楽しそうじゃなくて、なんか黙々と作業しているみたいな顔だった。
《ゲームよりキティちゃんの方が好きなんやろうなあ。》
もう一度キティちゃんの話をしようと思ったが、それを察した井口が《やめとけ》と睨んでくる。
「また長なる・・・・。」
「そやな・・・・。」
小声で言い合って頷く。
しばらくゲームで遊んでから、お菓子を買いにコンビニに行くことになった。
すると井口が「シュウちゃんはここにおれ」と言った。
「なんで?みんなで行こうや。」
「何言うてんねん。菊池さんと二人きりになれるチャンスやぞ。」
井口はボソボソっと耳打ちする。
僕は「だから・・・」と返した。
「そういうのじゃないって。」
「遠慮せんでええから。」
「ほんま違うって。」
「ほなちょっと行って来るから。」
そう言い残して、井口は出て行ってしまった。
「なにを勘違いしてんねん。」
部屋には僕と菊池さんだけ。
いったい何を喋ろうかなと考えていると、誰かが部屋に入ってきた。
それは井口の姉ちゃんで、僕は「お邪魔してます」と挨拶した。
「健吾は?おらんの?」
「さっきコンビニに行きました。」
「あ、そうなんや。」
「お菓子買いに行っただけやから、すぐ戻って来ると思いますよ。」
「ほなここで待っとくわ。」
井口の姉ちゃんは、僕の隣に座る。
「あ、私のこと気にせんとゲームしといて。」
「あ、はい。」
井口の姉ちゃんはゴソゴソと部屋を漁っていた。
机の引き出しを開けたり、タンスを覗いたり。
そしてベッドの下を覗いた時に、「あった!」と叫んだ。
「あいつまた勝手に・・・・、」
何かを見つけて、そのまま部屋を出て行く。
「なんか探してたんですか?」
「ちょっとな。健吾が帰ってきたら、あとで部屋に来るように言うて。」
「あ、はい。」
「ほなお邪魔。」
そう言ってさっさと部屋を出て行く。
その時、井口の姉ちゃんが持っている物がチラリと見えた。
《え?あれって・・・・、》
僕は一瞬だけ変な顔になった。
だって井口の姉ちゃんが持っていたのは、男と男がエッチなことをする漫画だからだ。
いわるゆBL本ってやつだ。
《なんであんなモンが井口の部屋にあったん?》
井口の姉ちゃんはああいう漫画が好きだ。
けっこう筋金入りのオタクで、そのクセ体育会系でもある変わった人だった。
お父さんが空手の先生だから、井口の姉ちゃんも昔から習っている。
だから井口ほどじゃないにしても、女とは思えない筋肉をしてる。
まあそれはいいんだけど、問題はどうしてあんな漫画がここにあったのかってことだ。
井口にそんな趣味が?
そんなの聞いたことない。
だってアイツには半年前まで彼女がいて、中一の時には初体験を済ませている。
俺の持ってたエロ本を勝手に読んでたこともあるし、ホモとかじゃないはずなのに。
《・・・・もしかしてバイってやつかな。男と女、両方好きみたいな。》
そう考えた時、《待てよ》と思った。
《てことは、俺と一緒におる理由ってそれなんかな?
あんなハイスペックな奴が、こんなショボイ奴とおるんやもん。
それやったら何か理由があるわけで、もしかして俺のこと狙ってるとかか?》
まさかとは思うけど、もしそうならかなり怖い。
だってアイツはムキムキマッチョの空手マンで、力で来られたら勝てない。
《うわ!それ絶対に嫌や!俺、童貞の前に処女失ってまうやん!》
変な顔をしながら引いていると、「おう」と井口が戻ってきた。
「お菓子買うて来たで。」
「お、おう・・・・。」
たくさんお菓子の入ったビニール袋を、僕らの前に置く。
「色々買うて来たからな。菊池さんも好きなん食べて。」
「うん。」
菊池さんはシュークリームを取り出して、モグモグと食べ始める。
「あのな・・・・、」
シュークリームを食べながら、不安そうな顔で僕を見た。
「なに?」
「これ、お母さんには言わんといて。」
「なにが?」
「お菓子な、いっつもお風呂上がった後じゃないとあかんのや。」
「ああ、この前由香子ちゃんが言うてたな。」
「だから黙っといて。」
「別に言わへんよ。」
「うん。」
菊池さんは安心してシュークリームを頬張る。
井口もアイスを取り出して、一気にかぶりついていた。
「シュウちゃんも食べえな。」
「あ、うん・・・、」
「なに?変な顔して。」
「いや、さっき井口の姉ちゃんが入ってきてな。」
「そうなん?」
「そんで帰って来たら、部屋に来いって。」
「なんや、まだWiiのこと怒ってんのかな?」
面倒臭そうに立ち上がって、「ジュースもあるで」と僕に渡した。
「あ、うん・・・、」
「ちょっと待っといて。」
部屋を出て、姉ちゃんの所へ行く井口。
僕は壁に耳を当てて、盗み聞きしようとした。
すると菊池さんが「あかんで」と言った。
「え?」
「そういうことしたらアカンて、お婆ちゃんが言うてた。」
「そ、そうやな・・・、」
菊池さんに注意されてしまった・・・・。
僕は大人しく座り込んで、ジュースを飲んだ。
「ゲームしよ。」
菊池さんがコントローラーを渡してくる。
僕は「そやな」と一緒にプレイした。
相変わらず菊池さんは強くて、僕はコテンパンだ。
そして菊池さんは僕に勝つたびに、どんどん身体の揺さぶりが強くなった。
「そんな動いててようゲームできるな。」
「由香子はもっと動くで。」
「ゲームしにくくない?」
「全然。」
そう言って、菊池さんはニコッと笑った。
《あ、初めてやん。俺に笑ったん。》
菊池さんの笑顔といえば、三つ葉の里でしか知らない。
でも僕と一緒に遊んでる時に笑ってくれた。
それがすごく嬉しくて、僕も笑い返した。
「なあ菊池さん。」
「なに?」
「明日も遊ぼか?」
「ええで。」
「明日は僕の家でゲームしよか?」
「ええで。」
「菊池さんの好きなゲームがあったら、持って来てええで。」
「うん。」
なんだかよく分からないけど、でも嬉しい。
別に恋とかじゃなくて、なんか分からないけど嬉しかった。
「あのさ・・・、」
「うん。」
「僕ら友達になろか?」
「うん。」
「ほんなら、冬休み中はもっと遊ばんとな。」
「うん。」
「また三つ葉の里に行ってもええ?」
「ええで。」
「僕もあそこに通おかな。」
「高崎君は普通の子やから、来たらアカンのやで。」
そう言って、またニコッと笑った。
僕も笑って、「菊池さんも普通の子やん」と言った。
「違うで。私な、小さい頃に病院に行って、ADHDって言われたから。」
「え?なにそれ?」
「こうやってな、ずっと身体を動かしたり、キョロキョロしたりとか。そういうのがな、普通の子と違うんや。」
「でもそれくらいみんなやるやん。」
「みんなやるけど、大人になったらやらへんようになるんや。
でも私は大人になってもやるから、ちゃんと先生とか専門家とか、そういう人の所へ行かなあかんの。」
「そうか、なんか大変やな。」
「だからな、高崎君は普通の子やから、三つ葉の里は来たらアカンの。」
「うん、ほなまた家の前に誘いに行くわ。」
「ええで。私もゲーム持って行くから。」
「うん。」
僕たちはまた笑う。
今日、僕と菊池さんは友達になった。
普通友達って、自然にそうなるものだと思うけど、「友達になろか?」って言って友達になったのは初めてだ。
だから菊池さんは、今日から正式な友達だ。
それから僕たちは、ゲームのことでずっと話していた。
途中で危うくキティちゃんの話をしそうになって、慌てて別の話題に変えたけど。
僕は菊池さんが嫌いじゃない。
友達になるくらいだから当たり前なんだけど、でも一緒にいるとすごく落ち着く。
井口だって仲の良い友達だけど、アイツとは全然違った感じの友達だ。
なんていうか・・・ちょっと僕と似てるかもしれないと思った。
同じ目線で話せるというか、同じ高さに立っているみたいな。
ちょっと会話が続きにくいところはあるけど、でももっと仲良くなれば自然に話せると思う。
新しい友達が出来て、僕は嬉しかった。
その時、井口が不機嫌な顔で戻ってきた。
「クソ!あのアホ姉貴!」
バタン!とドアを閉めて、「最悪や」と頭を掻いた。
「どうしたん?」
「あのなシュウちゃん・・・・、」
「うん・・・・。」
「誤解せんといてや。」
「何が・・・・?」
井口は俺の横に座って、ゲームの画面を睨んだ。
「俺な・・・・、」
「うん・・・・。」
「シュウちゃんのこと、友達以上に思ってんねん。」
「・・・・は?」
「でもな、気にせんといて。」
「いや、何を言うてんの・・・・?」
「俺、シュウちゃんは大事な友達やから。」
「うん・・・・。」
「だからシュウちゃんが傷つくこととか絶対にせえへんし、シュウちゃんが好きな子できたら協力するし。」
「・・・・・・・・・。」
「さっきな、姉ちゃんがBL本持って出て行ったやんろ?」
「うん・・・・。」
「俺な、女も好きやけど、男も嫌いじゃないねん。」
「それ・・・・バイってやつやんな?」
「よう知っとるな。」
井口は笑う。でも僕は笑えなかった。
「そんな心配せんといて。絶対にシュウちゃんが嫌がるようなこととかせえへんから。」
「ホンマに・・・・?」
「約束する。だからな、これからも友達でおってや。」
「ええけど・・・・でもビックリやわ。」
僕はまともに井口を見れなかった。
だってまさかとは思っていたことが、ホントにそうだったなんて。
「で、どないなん?」
小声で話しかけて来て、僕は「何が?」と返す。
「ちょっとは菊池さんと仲良うなった?」
「友達になったで。」
「おお!進展やん。」
「それとな、明日は僕の家でゲームすんねん。」
「マジか!」
井口はバンバン僕の背中の叩く。
「ほな明日は二人きりやな。」
「なんでやねん。お前も来たらええやん。」
「だってさっき言うたやん。シュウちゃんの恋は応援するって。」
「いや、だからそういうのと違うから。」
「告ってキスくらいしてまえや。」
「だから違うって。」
「そんでそのまま初体験も済ませてまえ。」
「そんなんと違うんやって。」
「俺の余ってるゴムあげよか?」
「いらんわ。」
「ええねんて、ええねん。」
「何がええねん・・・。ホンマ違うで。お前こそ誤解すんなや。」
僕は必死に否定する。
するとゲームをしていた菊池さんが「イヤらしいことするん?」と尋ねてきた。
「は?」
「明日高崎君の家に行ったら、私にイヤらしいことするん?由香子がされてたみたいなこと。」
「いやいや!そんなんせえへんよ!井口が勝手に言うてるだけやから。」
「ほんまに?」
「うん、絶対。てか俺ら友達やん。友達にそんなことせえへんよ。」
「うん。」
「ホンマやで。大丈夫やで。」
「分かった。」
菊池さんはまたゲームに戻る。
僕は井口を睨んで、「しょうもないこと言うなよ」と怒った。
「なんでえな?ええやんか。」
「よくないわ。僕と菊池さんは友達なんや。だからそういう目で見てへんねん。」
そう言っても、井口は全然信じていない感じだった。
「まあええわ。明日はお前も来いよ。」
「いやいや、せっかく友達になったんやから、二人で遊びって。」
「変な気い遣うなや。」
「ええねん、シュウちゃんが楽しそうやったら、それでええねん。」
それから一時間ほどゲームをして、僕たちは菊池さんを送って行った。
家の前まで来ると、僕は「また明日な」と手を振った。
「うん、また明日な。」
菊池さんは家に戻って行く。
玄関を開けた時、由香子ちゃんの顔が見えた。
菊池さんに駆け寄って、マシンガンみたいに話しかけている。
そして僕らに気づいて、ニコッと笑った。
「ほな明日。」
菊池さんは手を振る。
僕も手を振って、「また明日な」と言った。
玄関が閉まって、僕は菊池さんの家から離れていく。
井口が後ろからついて来て、「なんか淡々としてるな」と言った。
「なにが?」
「友達やのに、すごい淡々としてる感じがするで、お前ら。」
「そうか?」
「だって菊池さん無表情やん。シュウちゃんもやし。」
「それが落ち着くねん。菊池さんとおる時は、僕もああいう顔しとった方が、なんかやりやすい。」
「俺はもっと表情がある方がええな。お前らの友情って、なんか氷みたいやもん。」
「氷?」
「冷たいっちゅうか、いつかバキっと割れそうな感じや。」
「そんなことないよ。」
「だからな、今のウチに男と女になっとけって。燃えるかもしれんで?」
「だからそういうのと違うって。」
「いや、どう見てもそういうのやろ。」
「あのさ、なんで俺と菊池さんをそんなにくっ付けたがろうとするん?」
「ん〜・・・・そやなあ・・・、」
井口はちょっと黙ってから、「幸せになってほしいから」と答えた。
「は?」
「シュウちゃんは俺の大事な友達やし、それに嫌いじゃないし。」
「それ変な意味でってこと?」
「そういう感情もある。」
「きしょいねん・・・。お前との友情の方が、いつかバキっといきそうやわ。」
「いや、でも何度も言うけど、シュウちゃんが嫌がることとか、傷つくことは絶対にせえへんから。」
「マジやんな?」
「ていうかさ、こんなん一生言う気なかってん。
それがアホ姉貴のせいで、おかしな感じになったから。
自分の姉貴じゃなかったら絶対にシバいてるわ。」
井口は本気で怒ってるようで、「次なんかやりよったら、アイツのWii勝手に売ったる」と息巻いた。
でも僕は、そういうのはいつかバレるんじゃないかと思った。
今回はたまたまBL本がキッカケだっただけで、いつかはきっと・・・・・。
僕は菊池さんの家を振り返り、ちょっと考える。
《もしかして、僕もいつか菊池さんのこと好きになるんかな。》
もしそうなったら、僕たちの友情にヒビが入るかもしれない。
井口の言う通り、バキっと割れる氷みたいに。
積もった雪は、晴れてきた空のせいで溶けかかっている。
車が何度も通り、地面はべちょべちょだ。
足元が滑り、凍りかけた雪がバキっと割れた。

calendar

S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
<< November 2019 >>

GA

にほんブログ村

selected entries

categories

archives

recent comment

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM