春の鳴き声 第八話 消えた居場所(2)

  • 2017.01.07 Saturday
  • 14:34

JUGEMテーマ:自作小説

風邪を我慢して三つ葉の里に行ってから、二日後のこと。
朝のニュースでこんなのが流れた。
《児童支援センター、三つ葉の里の園長が、経費の一部を横領。》
ニュースはとても短くて、すぐに他のニュースに変わる。
芸能人の麻薬とか、今シーズンの阪神の活躍とか。
僕は般若みたいな顔で、画面を睨んでいた。
隣には井口がいて、僕と同じように難しい顔をしている。
「あのおばちゃん先生、ほんまに悪いことしてたんや。」
井口がボソっと言って、ソファにもたれかかる。
「なあシュウちゃん。あそこロクなとこじゃないな。」
「そやな。菊池さんのお母さんが言うたこと、ホンマやったんや。」
「由香子ちゃんにはエッチなことするわ、経費はパクるわ。滅茶苦茶やんか。」
僕も井口も、酸っぱいような顔をして、大人みたいに腕を組んでいた。
そこへお母さんがやって来て、「あんたら掃除するからどいて」と言われた。
「二階でゲームしとき。」
「うん。」
僕らは二階に行ったけど、ゲームをする気にはなれなかった。
だって菊池さんのお母さんが言ってたことが、本当のことだったんだから。
「もう三つ葉の里は終わりやな。」
井口はボリボリと足を掻きながら「菊池さん可哀想にな」と言った。
「あそこすごい楽しみにしてたんやろ。こんなんやったら、居場所を奪われたも同然やん。」
「いや、それは言い過ぎやろ。だってちゃんと家があるんやから。」
「でも楽しみにしとった場所がなくなってもたんやで。」
「やっぱりショック受けてるかな?」
「そらそうやろ。だって昨日は電話しても、出てくれへんかったんやろ?」
「うん。菊池さんのお母さんがな、今は落ち込んでるから、ちょっと話せそうにないって。」
「じゃあ会いにに行っても無理かな。」
「今はそっとしとく方がええと思うわ。会いたいけど、でも菊池さんがストレスになるかもしれんし。」
そう、僕は菊池さんに会いたい。
この前三つ葉の里まで行った時みたいに、すごく会いたい。
でもあの時の菊池さんは泣いていた。
お母さんに呼ばれて、やっとトイレから出てきた。
ドアを開けて、振り子みたいに身体を揺らしながら。
僕は何か言おうとしたけど、菊池さんは僕のことなんか見てなかった。
お母さんの所へ行って、寂しそうに泣いてるだけだった。
由香子ちゃんが話しかけても、ずっと泣いてばかりで。
あの日、僕は菊池さんのお母さんの車に乗って帰った。
家まで送ってもらう間に、三つ葉の里で何があったのかを教えてもらったんだ。
あそこのおばちゃん先生は、園のお金を勝手に使っていた。
使っていたって言っても、そんなに大金じゃない。
服とか香水とか、あとは自分が食べるお菓子とか。
でもダメなものはダメなので、おばちゃん先生は偉い人に怒られたらしい。
しかも以前に由香子ちゃんの事件があったから、あんまり騒ぎになると、それもバレてしまうかもしれない。
だからおばちゃん先生は、色んな偉い人から文句を言われて、辞めなきゃいけなくなった。
本当ならこれで終わるはずだったんだけど、誰かがその話をバラしてしまったから、こうしてニュースになってしまった。
僕には詳しいことは分からなかったし、菊池さんのお母さんもそこまで詳しいわけじゃないみたいだった。
でも確かなことはあって、それは三つ葉の里はしばらくお休みにするってことだ。
いつ再開するか分からないから、今は誰もあそこに行けない。
菊池さんはそれが嫌で、一人で勝手に来ていたらしい。
誰にも言わずに家を出て行って、歩いてここまで来たんだ。
心配したお母さんが、もしやと思ってここに来て、わんわん泣く菊池さんを慰めた。
あの日の菊池さんは、柴田にイジメられてた時よりも暗い顔をしていた。
あれから二日経つけど、きっと今だってそんな顔をしてるだろう。
僕は菊池さんを励ましてあげたかった。
でもやっぱり今行くのは良くないだろうな。
もうちょっと時間が経てば、きっと落ち着くはずだ。
その時に会いに行って、慰めようと誓った。
僕と井口は、それからしばらく話し合った。
これから三つ葉の里はどうなるんだろうとか、菊池さんは別の所に通うのかなとか。
いや、もしかしたら学校に戻って来るかもしれない。
この先どうなるかは、きっと菊池さんにも分からないだろう。
もどかしいし、そわそわするし、ゲームをしても全然楽しくなかった。
「なんか菊池さんの為に出来ることないかな?」
ボソっと呟くと、井口は「新しい所探してみるか」と答えた。
「新しい所?」
「三つ葉の里みたいな、発達障害の子が通うとこ。」
「そんなん菊池さんのお父さんとかお母さんがやるやろ。」
「そうかもしれんけど、シュウちゃんそわそわし過ぎやねん。
菊池さんの振り子がうつったみたいや。」
「マジで!?」
「なんで喜んでんねん。」
「だって僕も発達障害やったら、菊池さんと同じ所に通えるやん。」
「無理やろ。シュウちゃんのはそわそわしてるだけやから。」
「やっぱそうか。ほなやっぱり、菊池さんが学校に戻って来ればええんや。」
「う〜ん・・・・それはどうやろなあ。」
僕たちは何も結論を出せない。
その日は展した会話もなく、井口は「もう帰るわ」と言った。
まだ夕方前だったのに、受験勉強があるからって。
「悪いなシュウちゃん。勉強せえ勉強せえって親父がうるさいから。」
「井口のお父さんは文武両道やな。」
「いや、親父は学歴ないで。だから俺にええ大学行ってほしいねん。」
「姉ちゃんの方が行ったらええやん。何もお前が行かんでも。」
「いや、あの姉貴はアカンねん。BL本ばっか読んで、将来は漫画家になる言うてるし。」
「マジで?いまのうちからサインもらっとこかな。」
「でもエロい漫画やで、絶対。」
「ほな・・・・ええかな。」
僕たちはしょうもない会話をしてから、「ほなな」と別れた。
井口はすごいスピードで自転車を漕いでいく。
僕はそれを見送ってから、部屋に戻った。
「う〜ん・・・・井口の言う通り、やっぱり調べてみよかな。三つ葉の里みたいな所があるか。」
スマホで色々と検索する。
発達障害ってワードを入れて、そういう施設がないか調べてみた。
けっこうたくさん出て来るけど、この近くでは三つ葉の里だけだった。
けっこう離れた街に一つあるみたいだけど、でも毎日通うには遠すぎる。
「やっぱこういう施設って少ないんかなあ。」
ポチポチとスマホをいじって、他にもないか探してみる。
すると施設じゃないけど、ちょっと面白いものを見つけた。
「発達障害の人らが集まるグループか。これやったら菊池さんも楽しいかもしれんな。」
それは「星風」ってグループで、月に二回ほど隣の街で集まりをやっているらしい。
ワークショップ?っていうのをやっていて、集まった人たちが何時間か話をするみたいだ。
自分の悩んでることとか、困っていることとか。
このグループのリーダーも発達障害の人で、他にサポートメンバーが二人いる。
一人はこれまた発達障害で、もう一人はどこかの施設から手伝いに来てるらしい。
毎日やってるわけじゃないけど、でも近くで発達障害の人が集まるのは、これしかなさそうだった。
「菊池さんが落ち着いたら、教えてあげよかな。」
喜ぶかどうかは分からないけど、でも家以外にだって居場所が欲しいはずだ。
だってあんなに三つ葉の里を楽しそうにしてたんだから。
僕は「星風」ってグループのサイトを、お気に入りに登録する。
その日は適当にゲームをして、適当に勉強して、エッチな画像を検索して、ベッドの上でオナニーした。
そしてオナニーの途中に、ふと菊池さんの顔が浮かんできた。
この時、僕は菊池さんをブスだと思わなくなっていた。
いや、顔はブスなんだけど、でもそんなのどうでもよくなっていたんだ。
なんか菊池さんの顔がすごく可愛く思えて、ていうか菊池さん自体がすごく可愛いと思った。
だから射精するまで、菊池さんのことを思い浮かべた。
あの日握った手の感触を思い出すと、いつもより気持ち良いオナニーになった。
もう認めよう・・・・僕は菊池さんが好きなんだ。
また一緒に遊びたいし、手を繋ぎたい。
キスだってしたいし、エッチなことだってしたいと思ってる。
でも多分しないだろうけど。
想像では出来ても、いざ本人を前にしたらドキドキして、普通に喋れなくなると思う。
だから菊池さんでエッチなことを考えるのは、オナニーの時だけにしないとと思った。
いつもよりすごく気持ちよくて、二回も連続でしてしまった。
僕は菊池さんが好きだ。
だから今度井口にからかわれたら、誤魔化すのは難しい。
きっとそわそわして、表情にだって出るだろう。
あいつは余計にからかって、今までよりも気を遣うはずだ。
だったら次に会ったら、僕から言ってやる。
菊池さんが好きだって。
そうすれば、アイツは僕を応援するだろう。
だって僕の恋には協力するって言ってたんだから。
僕は色んな妄想をする。
もうオナニーは終わったので、エッチな妄想はしない。
その代わり、菊池さんと付き合ったらって妄想をした。
一緒にゲームはもうやったから、また手を繋ぎたい。
そうやってどこかにデートに行ったり、誕生日にはプレゼントしたり。
もしも菊池さんが音楽が好きだったら、ミュージシャンのライブに行くのもいいなと思った。
僕の好きなミュージシャンを気に入ってくれるかどうか分からないけど、でも今度会ったら話してみよう。
《菊池さん、いま何しとる?早く元気になってや。》
オナニーが終わって、菊池さんを想像してしまったことが恥ずかしくなるし、申し訳ない気持ちになってくる。
丸めたティッシュを、ポンとゴミ箱に投げた。

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