春の鳴き声 第九話 星風の会(1)

  • 2017.01.08 Sunday
  • 13:59

JUGEMテーマ:自作小説
二月が終わって、三月がやって来る。
暦だと春だけど、まだまだ寒い。
晴れた昼間は暖ったかいけど、でも朝と夜はストーブがないと辛かった。
それなのに、お母さんはさっさとストーブをしまってしまった。
ウチで飼ってる猫が、カーテンを引き千切ってストーブの上に落としてしまったからだ。
危うく火事になるところで、お母さんは大慌てでカーテンを叩いた。
でも全然消えないので、ストーブの上に置いていたヤカンのお湯を掛けた。
火は消えたけど、ストーブはお湯びたし。
畳もべちょべちょになって、仕事から帰って来たお父さんがめちゃくちゃ怒った。
あんまり猫が好きじゃないお父さんは、お母さんと大喧嘩した。
『そんな猫捨ててこい!』
『猫を捨てるなら家を出て行く!』
お母さんも意地になって、もう収拾がつかなかった。
だから僕が言ったんだ。
「ストーブしまったら」って。
するとほんとにしまってしまった。
おかげで猫が捨てられることはなくなったけど、僕はストーブなしで春を待たないといけなくなった。
暖房は喉がイガイガするから、ウチの家族は誰も使わない。
だから頼りなのはコタツだけで、学校から帰った僕は猫みたいに丸くなっていた。
頭だけ出して、あとは全部コタツの中。
膝を抱えて、猫と一緒にゴロゴロしていた。
「あんた来年受験なんやから、今年から本腰入れて勉強しいよ。」
掃除機を抱えたお母さんが、僕の頭をつつく。
「掃除機かけるからどいて。」
「ええ、寒い・・・。」
「部屋で布団入っとき。」
そう言われて、僕は面倒くさく這い出た。
《ストーブしまえなんて言わんかったらよかった。》
まだコタツで丸くなっている猫に《お前のせいやからな》と睨んだ。
二階へ上がり、たまには真面目に勉強しようかなと、教科書を広げる。
でも一時間ほどで飽きてきて、ゲームを始めた。
するとスマホが鳴って、僕はすぐ手に取った。
相手は菊池さんからで、LINEを開く。
《おはよう。》
《おはよう。今起きたん?》
《うん。》
《今ゲームしてる。家に来る?》
《行きたいけど、でも風邪気味やから。》
《そうなん?大丈夫?》
《昨日熱出た。今日はマシ。》
《まだしんどい?》
《ちょっとだけ。でもゲームは出来るくらい。》
《じゃあ僕がそっち行こかな。》
《うん。》
《ほな今から行くわ。なんかゲーム持って行く?》
《怖いやつ。》
《分かった、じゃあすぐ行くな。》
《うん。》
LINEを閉じて、すぐにモコモコのジャンバーを羽織る。
ブンブン掃除機を掛けてるお母さんに、「ちょっと出て来る」と言った。
「早よ帰っといでよ。暗らあなる前に。」
「うん。」
ダッシュで家から出て、一目散に自転車を漕ぐ。
でもゲームを忘れたことを思い出して、また家に戻った。
僕の家から菊池さんの家まで、自転車で7分くらい。
立ち漕ぎで飛ばして、すぐにやってきた。
ピンポンを押すと、菊池さんのお母さんが出て来た。
僕は「こんにちは」と挨拶した。
「こんにちわ。すぐ呼んでくるね。」
2階へ上がっていって、菊池さんと一緒に降りてくる。
ついでに由香子ちゃんもついてきて、「あのな、きょう学校でな・・・」とマシンガントークが始まった。
「お邪魔します。」
靴を揃えて、家に上がる。
菊池さんのお母さんは「いつもありがとうね」と言った。
「仲良うしてくれて。」
「あ、はい。」
「高崎君と仲良うなってから、真紀も明るうなって。」
「ああ、はい。」
ニコッと笑いながら、菊池さんと一緒に2階に上がった。
由香子ちゃんもついて来て、三人でゲームをする。
「これ、怖いやつ。」
「ありがとう。」
嬉しそうに受け取って、プレステの蓋を開く。
由香子ちゃんが「それ怖いやつやろ」と興味津々だった。
ゲームが始まって、菊池さんも由香子ちゃんも画面に釘付けになる。
それを後ろから見ながら、《菊池さん元気になってよかった》と思った。
三つ葉の里が駄目になって、しばらく落ち込んでいた。
だけど一週間くらいしてから、いきなり僕の家にやって来た。
『ゲームしよ。』
いきなりやって来てビックリしたけど、僕はすごく嬉しかった。
部屋には井口がいて、菊池さんを見るなり『ほな帰ろかな』と立ち上がった。
コイツには、僕が菊池さんを好きなことを伝えてある。
だから気を利かせてくれたわけだ。
だけど菊池さんは『井口君もおりいな』と引き止めた。
戸惑う井口だったけど、僕も『一緒に遊んだらええやん』と言って、三人でゲームをした。
菊池さんは黙々とゲームをやって、ほとんど喋らなかった。
きっとまだ落ち込んでいたんだろう。
僕は一緒に遊ぶことで、ちょっとでも元気になってくれたらなと思った。
すると井口が肘をつついてきて『これええぞ』と言った。
『何が?』
『さっき俺が帰ろうとしたら、引き止めたやろ?』
小声でボソボソ言う井口。僕は『だからなんなん?』と聞いた。
『あのな、お前と二人きりになるのが恥ずかしいんや。』
『なんで?自分から来たのに。』
『そらシュウちゃんい会いたかったからやろ。
でも緊張してたはずやで。だって菊池さんも、シュウちゃんのことが好きやから。』
『はあ?』
僕は嬉しいような分からないような、変な気持ちになった。
『なんでそんなん分かるん?』
『だってあの引っ込み思案な菊池さんが、自分から来たんやで。
そんで俺におってくれっていうのは、二人きりやと緊張するからや。』
『そうなんかな・・・・。』
『もし俺がおらんかったら、絶対にガチガチやったと思うで。
それでもシュウちゃんの家に来たってことは、絶対に好きなんやんか。』
『ほんまかな。』
『ほんまやって。』
なぜか井口まで嬉しそうに笑う。
僕は『そうなんかな?』と呟いた。
あの日以来、妙にドキドキしてしまって困る。
困るけど、でも嬉しい。
こうしてまた会えるようになったわけだし、もし僕のことが好きなら、付き合うことだって出来るかもだから。
僕たちは前より仲良くなって、もっとたくさん喋るようになった。
そこで菊池さんにこう提案した。
『スマホ買ってもらったら?』
『うん。』
菊池さんは頷いて、お母さんに頼んだ。
最初はダメって言われたらしいけど、でもどうしても欲しいと頼んだ。
なんでそんなに欲しいのかって聞かれたので、高崎君と話す為だって答えたらしい。
僕は仲の良い友達で、遊ぶ時にいきなり家に行ったりしたら悪いから、連絡を取らないといけないからって。
お母さんは渋ってたらしいけど、でも結局買ってもらえることになった。
だから今、僕と菊池さんはいつでも話せる。
電話でもLINEでも。
そして菊池さんがスマホを買ってもらってから、毎日電話かLINEをした。
菊池さんは家からほとんど出ないけど、でも毎日話せるなら問題ない。
けど由香子ちゃんまでスマホを欲しがって、お母さんは困ってるらしいけど。
ゲームをする菊池さんと由香子ちゃんを見つめながら、僕は色々考える。
この先もっと仲良くなったら、ホントに付き合うかもしれない。
そうしたら手を繋いだり、キスしたり、セックスだってするのかも。
でもあんまり色々考えてると、アソコが立ってくるからやめることにした。
僕も「やらせて」とゲームに加わる。
仲間が殺人鬼に殺されて、女の悲鳴が響く。
由香子ちゃんはビクッと固まって、菊池さんの腕に抱きついていた。
「なあ菊池さん。」
画面を見つめながら「この前のアレどうする?」と尋ねた。
「星風っていうグループのやつ、行ってみる?」
「う〜ん・・・・、」
「いや?」
「う〜ん・・・・、」
「まだ聞いて三日目やもんな。だからもうちょっと迷ってもええで。」
「・・・・行く。」
「え?」
「行く。」
「行くん?」
「うん。」
「ほんまに?」
「うん。」
「ほな予約せなな。」
「うん。」
「あ、でもその前に菊池さんのお母さんに聞かなな。」
「うん。」
「じゃあお母さんがええでって言うて、予約取れたら行こか?」
「うん。」
「じゃあ約束な。」
僕は指切りをする。
そして指を離す前に、ちょっとだけ手を握った。
そうしたら菊池さんも握ってきて、ちょっとの間だけ手を繋いでいた。
そわそわして、むずむずして、ちょっとイヤらしい気持ちになって、すごく嬉しかった。
すると由香子ちゃんも手を握ってきて、楽しそうに笑った。
「あのな、由香子もな、スマホ欲しいんやけどな、お母さんは高校生になるまでアカンて言うてな。
でもお姉ちゃんは中二やのに買ってもらってな、だからお父さんに私も中二になったら買うてって言うてな・・・・、」
由香子ちゃんの不満をたくさん聞かされる。
でも菊池さんと仲良くなったことで、由香子ちゃんとも仲良くなった。
僕は二人も新しい友達ができたわけだ。
この日は楽しくゲームをして、「お邪魔しました」と帰った。
菊池さんのお母さんは「またいつでも来てな」と言ってくれた。
その日の夜、僕は晩御飯を食べてから、井口に電話した。
「今日な、菊池さんにあのことをもう一回聞いたんや。」
《あのこと?》
「星風のことやん。」
《おお、どうやった?》
「行くって。」
《よかったやん。調べた甲斐があったな。》
「でもお母さんに聞いてからやけど。それと予約取らなあかんし。」
《まあいけるやろ。お前と一緒やったら、菊池さんのお母さんもOKしてくれると思うで。》
「そうかな?」
《好きな子の親に気に入られるってことは、ええことやで。》
「そうなん?」
《だってそうやん。もし長く付き合って、そんで結婚とかになったら、親に挨拶せなアカンわけやんか。
それやったら、今のウチに気に入られてる方がええで。》
「いや、まだ付き合ってもないし。結婚とかそんなんまだまだ先やろ。」
僕より井口の方が興奮して、《そっち行ってもええか?》と言った。
《ちょっと勉強のし過ぎで、息抜きしたいねん。》
「ええで。」
《ほなすぐ行くわ。》
電話を切ってから三分くらいで、井口はやって来た。
「お前どんだけ自転車飛ばしてきてん。早過ぎやろ。」
井口はちょっとだけ息が上がっていて、マッチョな足で胡坐をかいだ。
「だって家におったら親父がうるさいからさ。勉強か空手かどっちかやから。
まあ空手は好きやからええんやけど。」
「逃げてきたわけか?」
「まあな。進学校も楽ちゃうで。」
井口の顔はちょっと疲れていて、かなり勉強が大変なんだろう。
僕は「電話して悪かったな」と謝った。
「ええよ、息抜きせんとやってられへん。」
「まあちょっとゆっくりせえよ。ジュース持って来るわ。」
「おう。」
僕たちはジュースで乾杯して、しばらく駄弁っていた。
そして「なあ・・・」と僕が切り出した。
「菊池さん、楽しんでくれるかな?」
「ああ、星風?」
「まあ行ってみんとどういう所か分からへんけど、でも楽しんでくれたらええなって。」
「それは行ってみるまで分からんな。」
「もし嫌な所やったら、余計に落ち込んだりせえへんかな?」
「それやったら帰ったらええんちゃう?別に学校とかと違うんやし。」
「そやな。」
「ていうかさ、俺もちょっと星風のホームページを見たんやけど・・・・、」
井口はスマホをいじって、難しい顔をした。
「ここさ、高校生以下は保護者がおらんとあかんらしいで。」
「そうやねん。だから菊池さんのお母さんがOKしてくれんとアカンのや。」
「でもシュウちゃんも行くんやろ?」
「そやで。」
「ほなシュウちゃんのお母さんにも来てもらわなアカンのとちゃうん?」
「いや、僕は付き添いやし。」
「でも中学生やから、シュウちゃんだけじゃアカンかもしれへんで。」
「菊池さんのお母さんが来てくれるんやったら、僕も入れると思うけど。」
「それやったらええけどな。」
「ほなもし無理やったらどないしよ。」
そう尋ねると、井口は「俺が行ったる」と答えた。
「俺がな、スーツ着ていくから。」
「は?なんでスーツ?」
「ほら、俺って中学生に見えへんやろ?だからスーツ着てたら、シュウちゃんの保護者やって信じてもらえるかもしれへんやん。」
「う〜ん・・・・そんな上手くいくかな?」
「でも俺っていっつも駅で止められるんやで、子供料金買うと。」
「それは中学生に見えへんってだけで、俺の親ほど歳取っては見えへんやろ。」
「いや、親じゃないねん。兄貴でええねんて。」
「ああ、兄貴か。」
僕はポンと手を叩いた。
「それやったらいけるかもな。」
「やろ。だから俺も一緒に行くわ。」
「ほな頼むわ。でも勉強はええのか?」
「構へんって。一日くらい休んだ方が、頭も働くから。」
そういうわけで、井口も一緒に星風に行くことになった。
確かにコイツなら、スーツを着てれば大人に見えるだろう。
あとは菊池さんのお母さんがOKしてくれるかどうかだけだ。
もしOKなら、菊池さんがLINEしてくれる。
僕は「ほな息抜きにゲームするか」とプレステの電源を入れた。
すると井口は「なあ」と真面目な顔になった。
「シュウちゃんさ・・・、」
「なに?」
「ほんまに菊池さんと付き合うことになったら、どうする?」
「どうするって、そらデートとかするやろ。」
「キスとかも?」
「そらするやろ。ていうかさ、セックスだってするかもしれへんやん。」
「そやな。そらするわな。」
おっちゃんがお酒を飲むみたいに、ジュースを一気する井口。
「ああ〜・・・」とため息をついて、「絶対にうまくいかなアカンで」と言った。
「何が?」
「俺な、シュウちゃんに幸せになってほしいねん。」
「だから僕の恋に協力してくれるんやろ?」
「そうやで。でもな、僕かてシュウちゃんのことが好きや。」
「やめいや、きしょいから。」
「ああ、ごめん。でもな、ケジメは付けなアカンと思うねん。」
「ケジメ?」
井口はジュースを置いて、床に手をついた。
「シュウちゃん、一つだけお願いや。」
「な、なにが・・・?」
「キスさせてくれ。」
「はあ!?」
「頼む、この通りや!」
頭を床につけて、置物みたいに土下座する。
僕は「いやいやいや」と手を振った。
「男同士でキスなんて嫌やで。」
「分かってる。でもこれは俺の為やねん。」
「お前の為?」
「俺な、高校は東京に行くねん。」
「マジで?」
「めっちゃ頭のええ学校やから、本気で勉強せなあかん。」
「だからそんなに疲れてんのか。」
「そうや。だから高校生になったら、僕はもうシュウちゃんとはほとんど会われへん。
だからな、ここらでケジメを付けときたいんや。」
そう言って頭を上げて、「一回でええねん」と見つめた。
「一回だけシュウちゃんとキスして、もうシュウちゃんのことは忘れようと思うねん。」
「忘れるって・・・・友達やめるってことか?」
「違うがな。シュウちゃんをそういう目で見るのは終わりにするってことや。」
「そんなん言われても・・・・、」
「頼む!一回だけ!」
マッチョな肉体で土下座するから、小さい岩みたいに盛り上がる。
でも本気で頼んでいるのは確かで、僕は少し迷った。
《ほんまにこれ一回で終わるんかな・・・・。》
僕は不安だった。
でも今まで何度も助けてもらったし、コイツは親友だし。
だから迷った挙句、「一回だけやったら」と頷いた。
「ホンマに!」
「でもこれ一回やで。」
「分かってる。」
「それと舌とか入れんなよ。唇合わせるだけやから。」
「うん、大丈夫や!」
「ほな・・・・、」
僕はカチコチに固まって目を閉じた。
井口が近づいてくるのを感じて、ちょっと仰け反る。
「シュウちゃん、好きや。」
《やめいや・・・・。》
井口の鼻息が顔にかかる。
そして口に柔らかい物が当たった。
《うわあ〜・・・・きしょい。》
「シュウちゃん、好きや。」
《この状態で喋るなや!口が動いてキモイねん。》
井口のキスはしばらく続く。
それから三日くらい、僕はブルーな気持ちだった。

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