春の鳴き声 第十一話 居場所を求めて(1)

  • 2017.01.10 Tuesday
  • 15:02

JUGEMテーマ:自作小説
発達障害支援グループ「星風」
三つ葉の里が駄目になって、でも菊池さんの新しい居場所を作る為に、僕らはここへ来た。
でも肝心の菊池さんは緊張しっぱなしで、メトロノームみたいに揺れている。
何度も肩がぶつかって、僕は何度も「大丈夫やで」と励ました。
ギュッと手を握って、ちょっとでも菊池さんの不安を紛らわそうとした。
ワークショップが始まって、まずはみんなの自己紹介から。
主催者のラクさんがトップバッターだ。
「星風を主催しているラクといいます。
三年前に発達障害の診断を受けて、それからこのグループを立ち上げました。
僕自身が障害を持っているので、出来ること出来ないことがあります。
だけどここへ来てくれた皆さんが、なるべく良い時間を過ごせるように頑張ります。」
ラクさんの紹介はアッサリしていた。
次は隣にいる遊さんが自己紹介した。
「ええっと・・・・遊といいます。ハンドルネームじゃなくて本名です。
僕は一年半前に診断を受けて、その時に発達障害だと分かりました。
それまでやっていた仕事が上手くいかなくて、診断をもらってからすぐに辞めました。
それから半年ほどニートをやてってて、今は新しい仕事が見つかりました。
星風には一年前から参加しています。
他にも色々こういうグループに行ったんですが、ここが一番自然体でいられるので、頻繁に通うようになりました。
そんで三ヶ月くらい前に、ここのサポートメンバーになりました。
あんまり喋る方じゃないんですが、今日はファシリテーターとしてみなさんを支援したいと思います。
よろしくお願いします。」
ペコっと挨拶する遊さん。
井口が「なんか頼りなさそうな人やな」と小声で言った。
「僕も思うけど、そういうのは言わん方が・・・、」
「分かってる。基本は黙っとくから。」
星風のメンバーの挨拶が終わって、今度は参加者が自己紹介する番だ。
まずは遊さんの隣にいる男の人から。
歳は若そうで、多分20代くらいだ。
でもなぜか靴を脱いでいて、シャツも脱いで肌着だけになっていた。
髪はボサボサで、鬚も濃い。
その人は立ち上がって、「テツ」ですと言った。
そしてそれだけ言って、紹介は終わりだった。
えらく早い自己紹介だった。
次は女の人で、まだ大学生くらいの人だ。
けっこう美人で、すごい大きなおっぱいをしている。
井口も熱い視線を送っていた。
《こいつホンマにバイなんやな。この前俺にキスしたクセに。》
まあそんなことはどうでもいい。
今は自己紹介を聞かないと。
女の人は立ち上がって「夏」ですと言った。
「夏が好きなので、夏ってハンドルネームにしています。
ワークショップにはよく参加していて、今回で七回目くらいです。
ええっと・・・・高校の時に発達障害って診断されて、今は手帳を持っています。
でも人には言ってません。
知ってるのは親とここの人だけです。友達にも言ってません。
ええっと・・・・喋るのが下手で、それに数字を覚えるのも苦手です。
大学を出て就職して、だけど続かなくて、しばらく短期のバイトばかりやってました。
だけど今の仕事は一年くらい続いていて、このまま頑張れば正社員になれるかもしれません。
ええっと・・・・以上です。」
大学生かと思ってたけど、社会人だったようだ。
でもすごく若く・・・・ていうか幼く見える感じがした。
どう見ても井口の方が年上に見える。スーツを着てることを差し引いても。
次は井口の番だ。
スッと立ち上がって、「押忍!」と叫んだ。
空手の挨拶みたいに、手をクロスさせながら。
《なんでそんな挨拶やねん。》
僕は心の中でツッコンだ。
他のみんなもポカンとしてる。
「井口健吾といいます。家が空手の道場をやっていて、三歳からやっています。
今は高校受験の為、鋭意勉強中です。押忍!」
周りからどよめきが起こる。
なんでかって?
だって来年高校受験って言ったからだ。
どこからどう見ても二十歳を超えた大人なのに、中身はまだ中二だ。
ラクさんが「すごいね」と笑った。
「強そうやなあ。」
「押忍!」
いちいちデカイ声で叫ぶから、他の参加者がビクっとする。
僕は「もうちょっと声落とせや・・・」と言った。
「自分は友達の付き添いで来ました。
今日は見聞を広めるつもりで、勉強させていただきます。
よろしくお願いします、押忍!」
また手をクロスさせて、背筋を伸ばしたまま座った。
次は僕の番だ。
「ええっと・・・・高崎修二といいます。友達の付き添いで来ました。
手を繋いでるこの子の友達です。」
立ち上がる時、手を離そうかどうしようか迷った。
でも菊池さんはギュッと握っているので、離すのはよくないと思って、握ったままにした。
ちょっと恥ずかしいけど、でも菊池さんの為だ。
「さっきの井口君も友達です。
ここのホームページを見つけて、友達を誘って来ました。
こういう所は初めてで、上手く喋れるか分かりません。
ちょっと緊張してますけど、よろしくお願いします。」
無難な紹介をして、ホッと息をつく。
次はいよいよ菊池さんの番だ。
メトロノームは強くなって、不安そうに俯いている。
顔だけじゃなくて、全身が石になったみたいに、立ち上がることも出来ない。
「菊池さん。」
「・・・・・・・・・。」
「大丈夫やで、手え握ってるから。」
「うん・・・・・・。」
「怖い?」
「うん・・・・・。」
不安な表情のまま、じっと俯いている。
するとラクさんが「無理しないでええで」と言った。
「どうしても嫌やったら、飛ばしてくれていいからね。」
「・・・・・・・・・。」
「名前はそこの札で分かるから。ええっと・・・・菊さんでええんかな?」
「はい・・・・。」
「じゃあ菊さん、よろしくお願いします。」
「お願いします・・・・。」
消えてしまいそうな声で呟く。
僕は「大丈夫やで」と握った手を揺らした。
次は菊池さんのお母さんで、「この子の母です」と菊池さんを見つめながら言った。
「ここへ参加させて頂くのは初めてになります。
私自身発達障害の子を抱えているので、今日はみなさんのお話を聞かせて頂いて、今後に活かせたらと思っています。
分からないことが多々あるので、ご迷惑をお掛けするかもしれません。
よろしくお願いします。」
そう言って深く頭を下げた。
次は由香子ちゃんの番で、立ち上がる前から喋っていた。
「ええっとな、由香子はな・・・・・、」
お母さんの方を見ながら困っている。
「名前を言うんやで。」
「うん。菊池由香子っていいます。」
「みなさんの方を向いて。」
「うん。菊池由香子っていいます。」
前を向き、元気いっぱいに名乗る。
由香子ちゃんの可愛さはここでも輝いていて、向かいにいた高校生くらいの男の子が見惚れていた。
「えっとな、由香子はな、小学六年生でな、小学四年生までは三つ葉の里に行っててな、でもそこの先生にトイレの裏でな・・・・、」
そこまで言いかけて、慌ててお母さんが止めた。
「すいません、喋り出すと止まらないんです。
落ち着かないところがあって、ご迷惑をおかけすることがあると思います。すいません。」
そう言って由香子ちゃんを座らせた。
ラクさんは「まあ子供だから仕方ないですよ」と笑った。
次は菊池さんのお父さんで、ムッとした顔で立ちあがった。
「この子たちの父です。
娘は二人とも発達障害を抱えていて、それでも毎日楽しく暮らしています。
大変なことも多々ありますが、この子たちがいてくれて本当に良かったと思っています。
しかし理解が及ばない部分もあって、知らずに傷つけていることもあるかもしれません。
今日ここでみなさんのお話を参考にして、より娘たちへの理解を深められればと思っています。」
そう言って、ムッとしたまま座った。
次は向かいに座る人達の番だ。
右に座っている女の人が、「サチです」と立ち上がった。
さっきの夏って人と同じくらいの歳に見える。
長い髪をしていて、金髪に近いくらいの茶髪だ。
パッと見はヤンキーっぽいけど、でもちょっとオドオドしている。
「あの・・・・初めての参加になります。
去年大学を卒業して、就職しました。
でも周りに上手く合わせらなくて、怒られてばっかりで鬱病みたいになってしまいました。
子供の頃からそうで、イジメられたこともあります。
でも大学の時はけっこう友達が出来て、けっこう楽しかったです。
去年の秋くらいに診断を受けて、今は手帳を申請している所です。
普通に働くのが難しいなと思っているけど、でも夢があるので頑張りたいです。
よろしくお願いします。」
自己紹介を終えて、ホッとしたように座る。
次は高校生くらいの男の子だ。
由香子ちゃんに見惚れていたけど、自分の番が来て立ち上がる。
不安なのか、ずっと眼鏡をいじっていた。
「あのう・・・ゴエモンといいます。
がんばれゴエモンってゲームが好きなので、この名前にしました。
僕は病院で発達障害って言われたわけじゃないけど、でも本を読んでいて、そうなんじゃないかなと思いました。
今年は成人式があって、行くかどうしようか迷いました。
でも中学の時の友達から電話があって、誘ってくれたので行ってきました。
それでその時に、昔好きだった子と会って、ちょっと仲良くなれたことが嬉しかったです。
今はちょくちょくLINEをしてて、でも残念ながら向こうは彼氏がいるみたいです。
それが最近ショックだったことです。
でも嬉しかったこともあって、車の免許に受かりました。
車はまだ持ってないけど、バイトして貯金するつもりです。
よろしくお願いします。」
ペコッと挨拶して、また由香子ちゃんに見惚れていた。
この時、僕はあることを思った。
発達障害の人って、実際の年齢より若く見えるんだなってことだ。
おっぱいの大きい女の人も、ヤンキーっぽい女の人も、それに眼鏡の男の人も。
みんな成人していて、僕が思ってたよりも年上だった。
井口みたいに、大人にしか見えない中学生もいるのに。
そして次は最後の人だ。
この人も眼鏡で、すごい天然パーマだった。
顔はムスッとしてて、何を考えてるのか分からない。
20代くらいに見えるけど、でも実際はもっと若いのかもしれない。
今から面接でも受けるみたいに、すごく背筋を伸ばして座っていた。
「ええっと・・・・ブーです。ブーちゃんって呼んで下さい。
別に太ってないですけど、なんとなくこの響きが好きなので、ブーって名前にしています。
今日はちょっと疲れてて、一昨日からあんまり寝ていません。
だから今日はちょっと押さえ気味に行こうかなと思ってます。
僕は多分この中で一番ワークショップに参加しています。
ラクさんがここを立ち上げた時から通ってるから、三年くらいいます。
まあその・・・・あんまりベテランが喋るのもアレなんで、なるべく初参加の人が話せるように、ちょっと様子を見ていこうかなと。
まあそんな感じです、はい。」
ちょっと上から目線な感じの自己紹介だった。
これでとりあえず全員の紹介が終わった。
するとラクさんが「ええっと・・・一人遅れて来るから、とりあえず始めましょうか」と言った。
「後からもう一人サポートメンバーの方が来られます。
その人は他のグループの人なんですが、支援者としてちょくちょくウチを手伝ってくれています。
・・・はい、それじゃ始めましょう。」
ラクさんのア合図と共に、フリートークの時間が始まる。
テーマは自由、話す内容も自由。
トークに参加したければすればいいし、嫌ならしなくてもいい。
なんか曖昧過ぎて、最初のウチは誰も喋らなかった。
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
みんな黙っている・・・・・。
誰一人口を開こうとしない。
もう開始から三分くらい経っているのに、沈黙のままだ。
僕は井口の肘をつついて、「なあ・・・」と言った。
「気まずうない・・・・?」
「そやな・・・・・。」
「なんで誰も喋らへんのやろな・・・・?」
「緊張してんとちゃう・・・・・・?」
「でも初参加の人ばっかりちゃうで・・・・。向かいの天パの人なんか、三年くらいおるって言うてたし・・・・。」
「あの人はあんまり喋らん方向で行くって言うてたやん・・・・。」
「でもさあ・・・・・、」
「まあそのうちファシリテーターいう人が喋るんちゃう・・・・?」
「ああ、あれな。紙に書いてあったな。話が進みやすいようにする人のことやろ・・・・?」
「まあもうちょっと様子見ようや・・・・・。」
「せやな・・・。」
小声でヒソヒソ話していると、ラクさんが「どうぞ」って手を向けてきた。
「え?」
「え?」
「あ、どうぞって何が・・・・?」
「え?」
「いや・・・・、」
「あ、自由ですからね。喋りたくなかったら構わんから。」
「はあ・・・・。」
なんだ、今の・・・・?
「井口、今のって・・・・、」
「小声で喋ってるから、遠慮せんとどうぞって意味やったんちゃう・・・・?」
「ああ、なるほど・・・・。」
「ていうかシュウちゃんから喋ったら・・・・?」
「なんでえな・・・・。」
「だって全然会話がないやん・・・・。」
「でもさっきは様子見ようって言うてたやん・・・・。」
「そやけど、ちょっと気まずずぎやろ・・・・・。」
「ほな井口が喋れや・・・・・。」
「そやな、俺から行くわ。」
そう言って立ち上がると、「押忍!」と叫んだ。
「自分はバイです!」
場が静まり返る。
半分くらいの人はポカンとして、もう半分の人は意味が分からないみたいな顔をしていた。
「自分はバイです!」
なぜか二回言う。
僕は「ちょっとお前・・・」と止めようとした。
するとヤンキーっぽい女のサチさんが、「バイってなんですか?」と尋ねた。
「バイというのは、男も女もイケるという意味です。」
「イケる?」
「普通、男は女が好きじゃないですか。」
「はい。」
「それで、男が好きな男はホモって言われます。」
「はい。」
「自分は女も好きだし、男も好きってことです。」
「・・・・・それって、どっちも恋愛対象になるってことですか?」
「押忍!」
「・・・・・・・・・。」
サチさんは明らかに引いていた。
それは他の人たちも同じで、特に菊池さんのお父さんは余計にムッとした顔になった。
井口が変なことを言ったせいで、余計に空気が気まずくなる。
しかし井口はそれだけ言って「以上です!」と座った。
「お前さあ・・・・、」
「次シュウちゃんの番やで。」
「は?」
「俺とシュウちゃんが喋ったら、菊池さんだって喋りやすくなるやろ?」
「ああ、そういうこと・・・・。」
「今日は菊池さんの為に来たんやから、俺らがサポートしたらな。」
「そうやな。僕ら友達やもんな。」
緊張するけど、でもこれは菊池さんの為だ。
僕はふうっと息をついて、椅子から立ち上がった。
するとラクさんが「座ったままでいいですよ」と言った。
「え?」
「別にいちいち立たなくても、座って話して構わないですから。」
「あ、ああ・・・・はい。」
恥ずかしくなって、顔を赤くした。
井口のせいで、僕まで釣られて立ってしまったじゃないか・・・・。
「あ、あの・・・・僕は・・・・、」
緊張した声で、何も決まらないまま喋ろうとした。
その時ドアが開いて、ヤクザみたいな顔のおじさんが入ってきた。
「遅れてすいません。」
喋り出そうとしていた僕は、タイミングを失う。
メトロノームになった菊池さんが、何度も僕にぶつかっていた。

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