春の鳴き声 第十三話 春の鳴き声(1)

  • 2017.01.12 Thursday
  • 14:04

JUGEMテーマ:自作小説
今日で中学二年生が終わる。
春休み前の終業式、生徒みんなが体育館に集まって、校長の退屈な話を聞いていた。
昨日はゲームのし過ぎで、夜遅くまで起きていた。
何度もあくびをしていると、近くにいた先生から注意されてしまった。
頭がボーっとして、早く家に帰って眠りたい・・・・。
どうにか退屈な時間を乗り越えて、終業式から解放された。
教室に戻り、担任が春休みの間の注意事項を話す。
しっかし勉強すること、家に籠ってないで外で身体を動かすこと、興味本位で酒やタバコをやらないこと。
隣街の商店街は、夜になるとガラの悪い連中がいるから、行かないようにすること。
最近はこの辺でも怪しげな薬を売る輩がいるので、怪しい人物には近づかないこと。
もし何かあったら、すぐ親や学校に言うこと。
長ったらしい注意が続いて、またあくびが出そうになる。
だけど最後の話で、眠気が吹き飛んだ。
「ええっと・・・柴田やけど、別の中学へ転校することになった。
ちょっと家の事情で、引っ越さなアカンようになったんや。」
出かかっていたあくびが止まる。
《柴田が転校?なんで?》
今日、柴田は学校に来ていない。
でもアイツが来ないことはよくある。
しょっちゅう学校をサボっていて、特に体育祭とか合唱祭とか、そういうイベントの時はまず来ない。
多分面倒臭いんだろう。
だから今日来なかったのだって、終業式が面倒臭いんだろうと思っていた。
でもまさか転校なんて。
井口にシバかれて、復讐に来て、でもその後に仲間のヤンキーにシバかれて。
それからアイツは大人しくなった。
僕をイジメることはなくなったし、取り巻きの連中も離れていった。
いっつも一人でいて、退屈そうにしていた。
《転校するのって、やっぱりそれが原因なんかな。
菊池さんみたいに、アイツも居場所がなくなってもたから。》
僕は柴田の転校の理由について考える。
でもいくら考えても分からなくて、だんだんと飽きてきた。
《まあどうでもええか、柴田のことなんて。》
眠気が蘇って、ふわっとあくびが出る。
そらからしばらく担任の話が続いた。
まあお説教に近いような、どうでもいい話だ。
やがてホームルームが終わり、委員長が号令を掛ける。
帰りの挨拶が終わって、みんなガヤガヤと話し始めた。
本日現時刻をもって、僕の中学二年生時代は幕を閉じた。
次に学校へ来る時は三年生。
受験が待っている嫌な年だ。
だけど僕には新しい友達がいる。
菊池さんだ。
星風に行ってから、僕たちはさらに仲良くなった。
一緒にゲームをしている時、さりげなく手を握ったりしている。
この前なんか、竹屋のカレーを食べに行った帰りに、ちょっとデートっぽいこともした。
初詣の時の神社へ行って、お願い事をしたんだ。
パンパンと手を叩いて、《これからも菊池さんと仲良く出来ますように》とお願いした。
お願いが終わってから、僕は菊池さんに尋ねた。
『なんてお願いしたん?』
そうすると、菊池さんはこう答えた。
『高崎君と、ずっと仲良く出来ますようにって。』
それを聞いた時、僕は飛び上がるほど嬉しかった。
『僕も同じことお願いした。これからも菊池さんと仲良く出来ますようにって。』
すごく嬉しくて、声が上ずってしまった。
神社からの帰り道、僕はそっと菊池さんの手を握った。
僕の手より小さくて、柔らかくて、握っているだけでドキドキした。
部屋の中で握っている時よりも、外で握っている時の方がドキドキする。
ちょっと力を入れて握ると、菊池さんもちょっと力を入れて握り返してきた。
《これ、もうデートやんな。》
嬉しくて、恥ずかしくて、でも嬉しくて。
興奮して、次から次へと言葉が出て来て、なんだか僕だけ喋ってしまった。
帰り道、コンビニ寄ってパピコを買った。
二つに割って、近くの公園で一緒に食べた。
何人か子供がいて、滑り台を登って遊んでいた。
それを見つめながら、僕らは色んな話をした。
ゲームのこととか、学校のこととか、進学のこととか。
それにキティちゃんのことも話したし(これは菊池さんの独演会状態だったけど)、由香子ちゃんのこととか。
あとは井口のことも。
アイツは変わっている男なので、いくらでもネタがある。
菊池さんは可笑しそうに笑っていた。
そして春休みになったら、何をしようかって話になった。
ゲームばかりじゃ飽きるから、どこかへ出掛けようってことになった。
やっぱり春といえば花見だ。
だから僕は、三つ葉の里へ行く途中にある、あの池でお花見をしようって提案した。
僕と菊池さんと、井口と由香子ちゃんの四人で。
菊池さんは『行きたい』と言って、嬉しそうに笑った。
パピコを食べて、ゴミ箱に捨てて、僕は菊池さんを家まで送った。
並んで歩きながら、また色んなことを話した。
僕が手を出すと、同時に菊池さんも手を出してきて、指がぶつかった。
僕らはまた手を繋いだ。
家まで送り、『じゃあまた明日』と手を振った。
菊池さんも手を振って、家から由香子ちゃんも出て来て手を振った。
僕はすごく幸せだった。
家までの帰り道、ガラにもなく鼻歌を歌ったりした。
僕は菊池さんが好きだ。
もっと一緒にいたいし、友達以上の関係になりたい。
だから密かに決めていた。
あの池にお花見に行って、その時に告白しようと。
『菊池さんが好きです。僕と付き合って下さい』って。
今からドキドキして、ウキウキしていた。
でももし断られたらどうしよう・・・・。
友達のままがいって言われたら、僕はけっこうへこむだろう。
色んなことをムンムン考えながら、教室を出て行く。
すると「おい」と呼び止められた。
振り向くと、柴田の取り巻きだった中田がいた。
「お前気いつけた方がええぞ。」
「え?」
「柴田のことや。」
意味が分からなくて、「何を?」と聞き返した。
「アイツが転校する理由知っとるか?」
「いや、分からんけど・・・・。」
「アイツな、人を刺しよったんや。」
「は?」
「ほら、アイツ高校生のヤンキー連れて、お前に復讐に行ったやろ。」
「うん・・・・。」
「そんでその時、自分だけ逃げたからボコられたやん?」
「うん・・・。」
「あの後な、アイツはパシリさせられとってん。」
「パシリ?」
「自分から復讐を頼んだクセに、自分だけ逃げよったからな。
ヤンキーどもが怒って、柴田をボコったんや。でもそれで終わりじゃなくて、ごっつうイジメみたいに遭ったらしいで。」
「イジメ・・・・。」
「まあイジメ言うても、俺らがお前にやっとったみたいなんとちゃうくてな。
なんかある度にパシリにされて、そんでヤバイ薬とか売らされてたらしい。」
「ヤバイ薬って・・・麻薬とか?」
「いや、脱法の薬。あのヤンキーどもな、ちょっとヤバイ人らとも関わりがあるんやって。」
「ヤクザとか?」
「ヤクザじゃないねん。だから余計に性質が悪いねん。」
「どういうこと?」
「ヤクザやったら、子供使ってそんなんしてる時点でソッコー捕まるから。
でもそうじゃなくて、族上がりのけっこうヤバイ人とかおんねん。」
「その人らの方が性質悪いん?」
「だってヤクザは暴対法ってのがあるやん。知らん?」
「うん・・・・。」
「そういう法律があるから、ヤクザってあんまり悪いこと出来へんねん。
でも族上がりのヤバイ人らって、ヤクザとは違うから、けっこう好きなことしよんねん。
だから性質悪いっていうか、マジで危ない奴らやってこと。」
「そうなんや・・・・。」
僕の知らない世界、知らないこと。
なんでコイツがそういうのに詳しいのか分からないけど、でも僕はちょっと怖くなってきた。
「だから柴田を使って、中学生とか小学生とかにも売ろうとしてたらしいで。」
「小学生とかに!」
「そんでな、そんな事してたら、いつかヤバイことになるやん。」
「そらそうやろ。」
「だからそうなる前に、柴田は逃げることにしたんや。
でもただ逃げるんじゃなくて、ヤンキーの一人を刺したんやって。」
「刺すって・・・ナイフとかで?」
「いや、カッターって聞いたけど。」
「・・・・・・・・・。」
「でもカッターって折れやすいやん。だから刺した時に折れて、そんな深くは刺さらんかったらしいけど。」
「ほな・・・それでどうなったん?警察に捕まったん?」
「いや、警察は入ってない。
だって刺された方だって、薬とかサバいてたわけやからな。
そんなんバレたら面倒臭いことになるやん。
まあ脱法やから捕まることはないんやろうけどさ。
でも叩いたら埃なんかなんぼでも出る連中やから、警察はないねん。」
「そうなんや・・・・。」
「そんで刺したあと、柴田はソッコーで逃げた。
それからヤンキーどもに粘着されるようになって、ここにおったら危ないってことになったんや。
だから転校すんの。」
「マジか・・・・。」
僕の顔は引きつっていたと思う。
弱い奴しか狙えない、しょうもない奴だと思ってたのに、まさかそんなに怖い連中と関わりがあったなんて。
そう思うと、井口に頼んでシバいておらったことが、すごく怖くなってきた。
もしあの時だってカッターとかナイフとかを持ってたら、ヤバいことになってたのは井口の方かもしれないんだから。
「だから気いつけえよ。」
中田が心配そうに言う。
「アイツな、お前らのことごっつ恨んでんねん。」
「お前らって・・・僕と井口?」
「それしかおらんやん。俺がヤバイことになったんは、アイツらのせいやって言うてたから。」
「ほなまた復讐に来るかもってことか?」
「そうなるかもしれへん。俺もアイツとはほとんど直に会ってないからな。
でもたまに連絡が来るから、そんでこの話を聞いたってことや。」
「・・・・・・・・。」
「アイツが引っ越すのは来月の頭や。それまでなるべく家から出ん方がええで。
あのマッチョなダチにもそう言うときや。」
「分かった・・・・。」
さっきまでのウキウキ気分はどこへやら。
一瞬で暗闇の中に叩き落とされた気分だった。
《せっかく楽しい春休みになると思ったのに・・・・。》
柴田が引っ越すのは、来月の頭。
ということは、みんなでお花見だって無理かもしれない。
それに井口だって危ないかもしれないわけだから、こんなの楽しんでられる状況じゃなかった。
頭に重りを乗せられたみたいに、顔を上げられなくなる。
その時「なあ」と中田が言った。
「イジメて悪かったな。」
「え?」
「アイツがおらんようになって、ちょっと目え覚めたっていうか。」
「・・・・・・・・。」
「俺ら楽しんでイジメやってたと思う。
でも柴田がおらんようになって、なんかな・・・・お前らに悪いことしたなって思って。」
「うん・・・・。」
「アイツな、ちょっとヤバイとこがあんねん。
だから最初はキレさせたらヤバイって思って合わせてたんやけど、いつの間にかアイツとおんなじ性格になってもて。
まあ俺らも元々ガラのええ方ちゃうけどさ。」
「・・・・・・・・。」
「だから悪かったな。イジメて。」
「うん・・・・。」
まだ怒ってないと言えば嘘になる。
だけど中田だって、ある意味僕と同じように柴田に怯えてたんだろうと思った。
そう思うと、別にコイツに腹は立たなかった。
「お前さ、最近菊池とも仲がええんやろ?」
そう言われて「なんで知ってんの!?」と驚いた。
「初詣の時におったやん。」
「自分らも来てたん?」
「ここら辺で初詣って言うたら、あの神社しかないやん。」
「まあそうやけど・・・・。」
「それに竹屋にもチョイチョイ一緒に行ってるんやろ?」
「それも知ってんの!?」
「あんな近くの店行って、バレへん方がおかしいやろ。他の奴もよう行くわけやし。」
「ああ、そうか・・・・・。」
言われて納得。
でもコイツらに菊池さんとのことがバレたのは、なんか嫌な気分だった。
だって好きな人とのことって、嫌いな奴には知られたくないから。
なんかこう・・・・汚された気分になる。
「みんなあえて触れへんだけで、他の奴もけっこう知ってるで。」
「マジか・・・・。」
「まあそんなんはどうでもええねん。俺が言いたいんは、菊池にも謝っといてってこと。」
「ああ、うん。」
「アイツにもけっこうキツイことしたからな。悪かったって言うといて。」
「分かった。」
「ほなまああれや、柴田のことだけ気いつけろよ。」
「うん。」
中田は仲間の所に戻って行く。
僕はなんとも言えない気分になって、急いで学校を出た。
家に帰ると、すぐに井口に電話した。
でもアイツは出なくて、だからLINEを打った。
《柴田が俺らのこと復讐に来るかもしれん。
取り巻きの奴が言うとってんやけど、アイツけっこうヤバイかも。》
そう送ってから、今度は菊池さんに電話した。
こっちはすぐに出て《もしもし?》と聞き慣れた声がした。
菊池さんの声を聴いた瞬間、ちょっとだけ落ち着いた。
「もしもし?あのな、ちょっと話があるんやけど。」
《うん。》
「僕らのことイジメてた奴らおるやん。」
《うん。》
「あいつらの中で、中田っておったやろ。ちょっと髪染めてる。」
《うん。》
「今日な、終業式が終わった後に、アイツに言われたんや。
イジメて悪かったって。だからごめんって。」
《うん。》
「そんでな、菊池さんにも悪かったって。謝っといてって言われた。」
《うん。》
「あいつらもな、柴田のこと怖がってたんや。
そんでアイツに合わせるウチに、イジメとかするようになってもたんや。
だから今日謝ってきた。悪かったって。」
《うん。》
菊池さんは淡々としている。
怒るでもなく、喜ぶでもなく、いつもと変わりがない。
ということは、もう柴田たちのことはどうでもいいんだろう。
アイツらが謝ろうと謝るまいと、菊池さんにとっては過去のことなんだ。
「それを言いたくて電話したんや。」
《うん。》
「ああ、それとな・・・・こっから先はちょっと話が長くなるんやけど、ええかな?」
《うん。》
「ほな話すで。これは中田が言うてたんやけど、柴田って人を刺したみたいでな。」
《え?》
さすがにこれには驚いていた。
だって人を刺すなんて、ニュースでしか聞かない言葉だから。
きっと菊池さんは激しく揺れていると思う。
動揺して、石のメトロノームになってるはずだ。
だけどこれは言わないわけにはいかない。
なぜなら場合によっては、菊池さんにだって危険が及ぶかもしれないんだから。
あの陰湿な柴田のことだから、僕と井口だけじゃなくて、菊池さんにだって手を出すかもしれない。
だって僕と菊池さんが仲が良いってことが、中田にもバレてたんだから。
ということは、柴田にだってバレてる可能性がある。
そうなれば、わざと菊池さんを傷つけて、僕に復讐しようとするかもしれない。
考えすぎかもしれないけど、でもあり得ないとは言えない。
僕が思っていたよりも、ずっと危ない奴なんだから。
中田から聞いた話を、菊池さんに説明していく。
話している間、菊池さんはずっと黙っていた。
何かが擦れる音が聞こえるから、激しく揺れてるんだろう。
それとコトコト物音も聴こえるから、落ち着かなくなって、周りの物をいじってるんだろう。
石みたいになった菊池さんの顔が、簡単に想像できた。
柴田が転校すること、いかに危ない奴かってこと、そして復讐に来るかもしれないこと。
引っ越すのは来月の頭だから、それまではなるべく家から出ないようにすること。
菊池さんは物音を立てながら、小さな声で《うん》と頷いた。
僕は「また連絡するから」と言って、電話を切った。
ふうっと息をついて、冷蔵庫からジュースを持って来る。
それをチビチビ飲みながら、もし本当に復讐に来たらどうしようと、堪らなく不安だった。
《やっぱ大人にも言うた方がええか?いや、でもなあ・・・・言うたところで、大人なんかアテにならんし。》
大人がしっかりしているなら、僕も菊池さんもイジメられることはなかった。
由香子ちゃんがエッチなことをされることもなかったし、菊池さんが三つ葉の里へ行けなくなることだってなかった。
悪い薬を作るのも大人だし、そもそも悪いことで捕まる奴のほとんどが大人だ。
大人は子供を守るどころか、苦しめてる。
だったらやっぱり、大人なんてアテに出来ない。
警察に行ったって何もしてくれないだろうし、親や先生に言ったところで役に立たない。
だったら僕がしっかりしていないと。
もし・・・もしも柴田が菊池さんに復讐して、菊池さんが酷い目に遭ったとしても、大人はなぜか柴田を庇うだろう。
優しい子や良い子よりも、悪い子の方を庇うのが大人だ。
だから僕が菊池さんを守らないと。
僕が狙われるのは怖いし、井口だって狙われてほしくない。
でもそれ以上に、菊池さんが狙われてほしくなかった。
だからどんな事があっても、僕が菊池さんを守る。
男女平等とか言うけど、僕は好きな子を守れる男でありたい。
今まではそんなこと考えもしなかったけど、でも菊池さんと仲良くなってから、僕は強くなりたいって思ったんだ。
これからもずっと、菊池さんと仲良くしたいから。
ブブっとスマホが震えて、LINEが届く。
それは井口からで、すぐ僕の家まで来るって書いてあった。
怖いし、不安だし、復讐なんて絶対に起きてほしくないと思う。
だけどもし何かあったら、僕は戦う。
弱っちいけど、でも戦う。
スマホを握る手が、興奮と不安でべっとりしていた。

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