ダナエの神話〜星になった神様〜 第百十九話 遠い空の彼方に(4)

  • 2017.04.18 Tuesday
  • 17:29

JUGEMテーマ:自作小説

「みんなはどこに・・・・?」
辺りを見渡していると、黒い染みの中から邪神が迫ってきた。
慌てて飛び退き、空へ舞い上がる。
「逃がさない!」
邪神の群れが下から迫って来る。
ダナエはさらに上へ飛んだ。
すると空からも黒い染みが落ちてきて、邪神に変わった。
「上からも!?」
空を覆う暗い雲。
その雲の半径三十キロほどが、黒い渦に変わっていた。
この渦がある限り、邪神はいくらでも湧いてくる。
ダナエは息を飲み「この雲を消す以外にどうにも出来ないわね」と言った。
「邪神はこの雲そのものが自分だって言ってたけど、それなら今すぐにでもラシルじゅうに自分をばら撒けるはず。
でもそんな事にはなっていない。
ということは、雲だけじゃ自分を生み出せないってことだわ。
あの黒い渦からじゃないと、自分をばら撒くことが出来ないんだ。」
ダナエは考える。
さすがにラシル全体を覆う雲を消し去るのは難しい。
しかし黒い渦だけならどうにか出来るかもしれない。
あの神器を使えば、一点にこの渦を集めて・・・・、
そう考えていた時、後ろから「ダナエ!」と声がした。
「無事だったのか!」
「コウ、早くここから逃げて!」
ダナエはコウの手を引っ張って飛んでいく。
するとさっきまでダナエがいた場所に、邪神たちが群がってきた。
「逃げ足の速いガキ。」
恨めしそうな目で睨んで、ダナエを追いかけて来る。
「コウ!邪神はこの黒い染みを広げて、銀河を塗り潰そうとしてるの!」
「うん、多分そんなとこだろうと思った。」
コウはそう言って大地を指さした。
そこにも黒い染みが広がっていて、仲間たちが邪神と戦っていた。
「みんな・・・・。」
ダナエは目を閉じ、「早く終わらせないと」と唇を噛んだ。
「邪神はあの雲そのものなの。だけど雲を全部消すなんて無理だわ。」
「じゃあどうするんだ?」
「雲はとりあえず置いといて、あの黒い渦をどうにかしないと。」
「でもあれだって相当な大きさだぜ?俺たちだけじゃどうにも・・・、」
「出来る。」
ダナエは言い切る。強い目で頷きながら。
「何か考えがあるみたいだな。」
「神器の槍を使うの。」
「槍を?まさかあの槍で黒い渦を一点に集める気か?」
「それしかないわ。でもきっと邪魔してくるはず。だから・・・私を守って。」
「もちろん。」
コウは頷き、ダナエを雲まで運んでいく。
「自分で飛ぶわ。」
「いや、俺の方が速い!」
コウの背中にはギンヤンマの羽が生えていた。
それも飛行機のように大きな羽が。
「飛ばすぞ!」
コウは結界魔法を唱えて、自分たちを守る。
そして本気で羽ばたき、一瞬で音速を超えた。
「すごい!まるでカルラみたいに速いわ!」
カルラとは地球で仲間になった、仏教の神だった。
音速の何十倍もの速さで飛ぶことができる。
コウは「さすがにアイツほどじゃないけどな」と笑った。
コウはすぐに雲まで辿り着く。
そして「後は頼んだぞ」と後ろを振り返った。
邪神の群れがすぐそこまで迫っている。
コウは胸いっぱいに息を吸い込み、「ノリ〜ス!!」と叫んだ。
するとノリスはピクピクと耳を動かして、空を見上げた。
「あの野郎・・・あんなところまで行ってやがる。
弾が届くわけねえだろ。」
そう言うと、アドネが「任せて!」と叫んだ。
「コイツでぶっ叩いて、あそこまで飛ばしてやるわ!」
大きな鎌を振り上げて「さあ!」と頷く。
「んじゃ頼む。」
ノリスはアドネに向かって銃を撃つ。
弾丸は大鎌にぶっ叩かれて、コウたちのいる空まで飛んでいった。
「・・・・・・ビンゴ!」
遠い空で爆炎が上がる。
ノリスは「ホームランだな」と笑った。
しかし目の前に邪神が迫ってきて、「やべえ!」と慌てて飛び退いた。
コウは空から「助かった!」と手を振る。
そして大きな羽を羽ばたいて、邪神の群れに挑んだ。
「雑魚め。」
「そりゃお前らだ。」
コウはマッハ3の速さで群れに突っ込む。
円を描くように飛び回ると、何体かの邪神がバラバラに切り裂かれた。
「へへ!風の魔法を放って、羽に神器の力を宿したんだ。」
高速で動くギンヤンマの羽は、名刀のごとく群れを切り裂いていく。
邪神は「ガキい・・・」と怒った。
「そっちのガキとまとめて吹き飛ばしてやる!」
全ての邪神が、六つ同時に魔法を放とうとする。
もしこれが炸裂すれば、辺りの全てが消し去ってしまうだろう。
しかしコウは臆することなく飛び回った。
「恐ろしい魔法なら、使う前に止めればいいだけだ!」
そう言って、邪神の手に浮かぶ六つの魔法を切り裂いた。
「邪神!確かにお前は強い!でもな・・・・・、」
風の魔法を唱えながら、群れの頭上に舞い上がる。
「いっつも戦い方が大雑把なんだよ!そりゃ思い上がってる証拠だぜ!」
羽の周りに風が集まり、刃のように駆け巡る。
「神器の力を宿したかまいたちだ!細切れになれ!」
羽を群れに向けると、幾つものかまいたちが襲いかかった。
細切れにはならなかったが、それでも脚を切り落とすほどのダメージを与えた。
「調子に乗るなよクソガキ!」
邪神は青い業火を吐き出す。
コウは結界を張りつつ、かまいたちで反撃した。
「コウ・・・ありがとう。」
ダナエは神器の槍を構え、黒い渦を睨む。
「こうして近くで見ると、ほんとに不気味ね。」
夜のダムにいるような、なんとも気味の悪い感じ、そしてえも言えぬ暗い気配が漂っている。
ダナエは深呼吸してから、神器の槍を突き刺した。
黒い渦は波打ち、槍の刺さった場所に魔力が集まってくる。
「ここにいたら吸い込まれるわ。離れないと。」
ダナエは黒い渦から遠ざかる。
その時、また渦の中から邪神の群れが現れた。
「来たわね。」
十体もの邪神が、六つの魔法を唱えようとしている。
ダナエは槍の神器を消して、弓矢の神器に持ち替えた。
「これは魂に刺さる武器。だったら・・・・、」
弓矢をつがえ、目の前の邪神を射抜く。
すると矢は反射されることなく突き刺さった。
「やっぱり!」
魂に刺さるということは、身体をすり抜けるということだ。
そのおかげで反射されることはなかった。
矢の刺さった邪神は苦しみ、大地へと落ちていった。
「攻撃が効くなら怖くなんてないわ!」
手をかざすと、たくさんの矢がどこからともなく現れる。
それを番えて、何本もの矢を同時に放った。
全ての邪神は射抜かれて、大地へ沈んでいった。
しかし次から次へと現れて、数にものを言わせて迫ってくる。
「お前らゴキブリに邪魔させないわ!」
邪神の群れは一斉に青い業火を吐く。
業火は一つに重なり、大蛇のように襲いかかってきた。
「無駄よ!」
ダナエは羽を透明にかえて、攻撃を回避する。
そしてサッと群れの後ろまで回って、次々に射抜いていった。
「コウの言う通りだわ。邪神はいつだって思い上がってる。
ならつけ入る隙はいくらでもある!」
高い空の上で、ダナエとコウは必死に戦う。
地上でもアドネたちが奮闘していた。
みんな神器の扱いに慣れてきて、前よりも上手く戦っている。
邪神は強いが、それでも神器を使いこなせば勝てない相手ではなかった。
「月の魔力なんかなくなって、私たちは戦える!」
ダナエは炎の魔法を唱える。
それを神器に宿すと、矢は炎の鳥となって邪神を撃ち抜いた。
「ぎいやあああああああ!」
魂が焼かれ、絶叫する邪神。
「ぬう・・・ぐううう・・・・ほんとに小賢しいガキども!」
「言ったでしょ、私は諦めないって!」
「無駄よ!この雲がある限り、私はいくらでも生まれてくる!」
「だったら何度でもぶっ倒すだけよ!」
「やってみろおおおおお!」
「喧嘩上等よ!ボッコボコにしてやる!」
ダナエは鬼のような顔で矢を射る。
しかしその時、頭上から大きな音が響いた。
見上げると、黒い渦がブルブルと震えている。
「まずい!もう爆発するわ!」
ダナエはサッと空から離れていく。
「コウ!」
「分かってらあ!」
コウと戦っていた群れは、残り二体だけとなっていた。
彼は羽を広げて、二体の間を飛び抜ける。
「ガキいいいいいい!」
邪神が追いかけてくる。
しかし二体とも細切れになって、大地へ散らばっていった。
「はは!思い上がってるからそうなるんだよ!」
ダナエとコウは急いで渦から遠ざかる。
邪神は「そんな・・・・」と嘆いた。
「あんなガキどもに、ここまでコケにされるなんて・・・・。」
悔しがっても、もう渦が爆発するのを止められない。
コウの言う通り、慢心が敗北を招いてしまったのだ。
「残念だけど、このまますんなり銀河を塗り潰すことは無理みたい。
だからって諦めたりしないわ。」
邪神はダナエを睨む。
ダナエが諦めないのは、いつでも希望を絶やさないからだ。
しかし邪神には希望などというものはない。
あるのは果てしない欲望、そして執念だけ。
「諦めない・・・・私はしつこいのよ。あんたを殺してやる。必ず・・・・。」
邪神は黒い渦を見上げる。
槍で刺された場所に魔力が集まり、今にも爆発しようとしていた。
「渦が消えても、雲が晴れるわけじゃない。
だけどまた渦を広げるのは、ちょっと時間がかかるわ。
なら・・・その間にあの星へ行く。
ルシファーとサタン。
奴らをこの星に連れてきて、暗い雲の糧にしてやる。
そうすれば、もっと短時間で銀河を塗り潰すことができるはずだから。」
底なしの欲望は、ダナエの持つ希望以上に強力だった。
邪神は決して諦めない。
目的が達成されるのをこの目で見るまでは、どんな事があっても・・・。
「でもその前に、やっぱりあのガキを始末しないと。
生かしておいたらまた邪魔をしてくるはず。」
仲間の元へ避難したダナエを睨んでいると、頭上から衝撃が走った。
巨大な魔力の塊である黒い渦が、とうとう爆発したのだ。
その衝撃は空を伝い、別の大陸の空気まで揺らすほどだった。
空にいた邪神の群れは一撃で壊滅。
反射能力さえ役に立たないほどの衝撃を受けて、砂塵に帰した。
そして大地にいたダナエたちにも、その衝撃は襲いかかった。
みんなは箱舟の中に避難して、衝撃波から逃れる。
しかしあまりに強烈な衝撃波は、箱舟をひっくり返して、海まで押し込むほどだった。
「おい!この船は海ん中でも平気なのか!?」
ノリスが叫ぶと、ダナエは「もちろんよ」と答えた。
「宇宙でも飛べる船だからね。海の中でも問題ないわ。」
「なら安心だ。」
船がひっくり返ったせいで、みんな逆さまに倒れている。
しかし船そのものは少しの傷を負っただけで、衝撃波からみんなを守ってくれた。
箱船は海から飛び上がり、陸へと着陸する。
ダナエはすぐに外へ駆け出した。
「・・・・すごい、光が射してる。」
「どれどれ。」
みんな甲板に出て来て、明るい光に目を細めた。
「本当だ。俺が空けたような小さい穴じゃなくて、もっと大きな穴が空いてる。」
青い空、射し込む光。
それはまさに希望そのもので、心が洗われるほど気持ち良かった。
「やっぱり空は青い方がいいよね。」
「ああ。でも雲はまだ残ってる。てことは・・・・、」
「邪神はまだ死んでない。そのうちきっと復活して・・・・、」
そう言いかけた時、ダナエの上に何かが迫ってきた。そして・・・・、
「きゃあ!」
「ダナエ!」
地上にいた群れのうち、一体だけ邪神が生き残っていた。
ダナエはあっという間にさらわれる。
「邪神!」
弾かれたようにコウが飛び出す。
邪神は後ろを振り返り、青い業火を吐いてきた。
「今さらそんなもん効くか!」
拳を振り、業火を切り裂く。
それと同時に、反対側の拳から竜巻を飛ばした。
しかし邪神には効かない。
反射能力が竜巻を跳ね返してしまう。
「クソ!」
慌ててかわすコウ。
その時、背後から銃声がした。
「これで反射出来ねえだろ。」
「ノリス・・・・。」
「船長さんを助けに行こうぜ。」
みんなは船から飛び出し、邪神を追いかける。
誰よりも先に追いついたのは、もちろんコウだった。
「ダナエええええ!」
羽を伸ばし、ダナエを掴んでいる邪神の脚を切り裂こうとする。
しかしコウが助ける前に、ダナエは邪神に矢を撃ち込んでいた。
「ぐぎッ・・・・、」
「あの爆発でよく生きてたわね。びっくりするほどのしつこさだわ」
もう一発矢を撃ち込むと、邪神は大地へ落ちていった。
ダナエは慌てて邪神の脚から逃れて、空へ舞い上がる。
「これでトドメよ!」
両手を掲げ、左右に別々の魔法を溜める。
右手には雷、左手には炎。
「六つ同時ってわけにはいかないけど、私だって同時に魔法を使えるわ。」
激しい炎と雷が起こって、ダナエの手の中で混ざり合う。
二つの魔法が融合して、眩いプラズマとなった。
それはシウンの熱線に似ていたが、違う部分もあった。
ダナエの手にあるプラズマは、鳥の形をしていたのだ。
まるでフェニックスのような、神秘的な姿をした鳥に。
そしてその鳥に、どこからか風が吹いてきた。
ダナエは後ろを振り返り「コウ!」と叫んだ。
「俺の魔法も混ぜてやる!」
コウは風の魔法を放ち、プラズマの鳥の中に吸い込ませる。
風をまとい、鳥は優雅に羽ばたいた。
すると「私の力も乗っけてやるわ!」とアドネが叫んだ。
鎌を振り上げ、怨霊の群れを飛ばしたのだ。
プラズマの鳥は黒く締まり、憎しみに歪んだ顔をした。
「なんかおっかない鳥になっちゃったな。」
コウが呟くと、「文句ある?」とアドネが怒った。
「いえいえ、まったく。」
肩を竦めながら首を振ると、今度はシウンの熱線が飛んできた。
鳥の中に吸い込まれて、真っ白なプラズマに輝く。
「俺の怒りもぶつけてくれ。」
シウンはグッと拳を握る。ダナエはニコリと頷いた。
「なら俺の分もついでだ。」
ノリスの銃弾が鳥を射抜く。
すると空間が波打って、鳥は無色透明に変わった。
「デカイ一発をくれてやれ。」
「ノリス・・・。」
ダナエは「みんなありがとう」と頷く。
その時、「私を忘れないでよ」とマナが飛んできた。
「なんでいっつも私を忘れるのよ。」
「あ、ごめん・・・わざとじゃないのよ。」
「顔が白々しいんだけど?」
マナはぷくっと頬を膨らませる。
「私だけ何もしないってわけにはいかないからね。はい。」
両手を掲げ、リング状の光を放つ。
それを吸い込んだ鳥は、だんだんと緑色に変わっていった。
翼を羽ばたき、天に向かって舞い上がる。
辺りに風が起きて、鳥の羽が降り注いだ。
「これは・・・・、」
ダナエはゴクリと息を飲む。
みんなの力を合わせた鳥が、まるで神獣のように神々しく輝き出した。
「緑の羽に、神獣のような輝き。これってきっと・・・・、」
「きっと武神の言ってた鳥だ。」
「コウ・・・。」
二人は鳥を見上げ、目を細める。
「ねえコウ・・・・雲の隙間から星が見えるわ。」
「星?」
「武神の星よ。見えない?」
「いや、俺には・・・・。」
「私にはハッキリ見える。武神があの空の向こうに・・・。」
瞳に映る大きな星は、間違いなく武神の星。
ダナエは「やるわ」と頷いた。
「あなたの残した神器の力で、ラシルを覆う雲を晴らしてみせる。」
七つの神器を全て合わせた時、ラシルを守る神獣が現れる。
ダナエはその神獣を呼び出す為に、自分の神器を手に持った。
左手には弓、右手には槍。
そして弓で槍を番えて、緑の鳥を射抜いた。
その瞬間、鳥は空を覆うほど巨大になった。
翼は海を覆い、雄叫びは空を響かせる。
緑色だった身体は、まるでエメラルドのように輝き出した。
「すごい・・・・、」
「なんて荘厳な・・・・、」
アドネたちはその鳥に見入る。
息を飲み、瞬きさえも忘れていた。
コウも「こりゃすげえや・・・・・」と驚くばかりだった。
「なんて大きいんだ。空も海も、あの鳥の色に染まって見える。」
天を染める大きな鳥。
それはフェニックスのようにも見えたし、鳳凰のようにも思えた。
しかし地球にいるどんな神獣とも違っていた。
「神獣というより、神様が鳥に変わったみたいだ・・・。」
コウの呟きに、「きっとそうよ」とダナエが頷いた。
「あの鳥は武神そのものなんだから。
この星を愛して、今でも守ろうとしている。
全てはラシルの為に、そして・・・・かつての婚約者の為に。」
そう言って地上を睨むダナエ。
そこには邪神がいて、ダナエたちよりも驚いた顔で鳥を見つめていた。
「武神は今でも、邪神を愛しているのかもしれない。ううん・・・きっとそうだわ。
だからこそ、これ以上悪さをしてほしくないのよ。この想い、あなたに伝わる?」
死んでもなお邪神に想いを抱く武神。
ダナエにはその気持ちが痛いほどよく分かった。
もし自分が武神の立場でも、きっと同じだろうと思ったからだ。
月を忘れることなんて出来ないし、コウを忘れることなんてもっと出来ない。
もし自分が星になったとしても、月やコウには何かあれば、きっと助けに来る。
例え相手に気持ちが伝わらなかったとしても・・・・・。
邪神の目は憎しみに歪んでいる。
それ以上に欲望に染まっている。
その執念はあまりに強烈で、今さら覆すことは出来ない。
武神もそのことは分かっているはずで、しかしそれでも彼女を放っておくことは出来なかった。
改心させることが無理なら、これ以上悪さを重ねないようにするしかない。
魂までもが穢れきってしまわないように、その命を絶とうとしているのだ。
ダナエは武神の想いに涙する。
少しだけ目を閉じ、目尻を拭った。
そして次に目を開けた時、目の前に武神がいた。
「ギーク・・・・。」
《ダナエ。辛い役目を押し付けてしまってすまない。》
武神は心の底から申し訳なさそうに言う。
ダナエは首を振り、「何も言わないで」と答えた。
「分かってる、あなたの気持ちは。だから謝ったりなんかしないで。」
《君は本当に強い子だね。どうしてユグドラシルが君を呼んだのか、僕にも分かるよ。》
「違うわ。私が強いんじゃなくて、みんなが支えてくれるからここにいるだけ。
もし一人ぼっちだったら、とうの昔に諦めてる。」
《誰も一人で戦えやしないよ。
もし一人で何でもやろうとしている者がいたら、それはとても寂しい奴さ。》
そう言って邪神に目を移した。
《僕は今でもクインを愛している。でも彼女は一人でいいと思ってるんだ。》
寂しそうに言いながら、小さく首を振る。
《でもね、それでも僕は見捨てられない。今でも大好きなんだよ、彼女とこの星が。》
武神は手を広げ、鳥の方へと飛んでいく。
《僕はいつまでもこの星を見守る者でありたい。この翼でラシルを抱いていたいんだ。
そして・・・・クインも・・・・。》
武神は遠ざかり、鳥の中に消えていく。
ダナエは手を伸ばし、「待って!」と叫んだ。
「いなくなったりしないよね!いつまでもこの星を見守るんでしょ!?」
《もちろんさ。でも僕はもう死んでるんだ。
だから行くべき場所に行かなきゃいけない。》
「だったらこの星はどうなるの!?
クインをやっつけても、あなたがいないと何かあった時に・・・・、」
《ユグドラシルがいるさ。あの神樹が守ってくれる。》
「でも・・・・、」
《それにこの鳥は残る。ラシルを守る神獣として、いつまでもこの星を抱きしめているさ。》
武神は完全に鳥の中に吸い込まれる。
もう彼の魂は天にはない。
眩いほど輝いていたあの星は、どこを探してもなくなっていた。
武神を吸い込んだ鳥は、邪神に目を向けた。
そして大きな翼を向けて、彼女を包み込んだ。
《ダナエ、やってくれ。》
「でも・・・・、」
《今ならクインは動けない。君の一撃で、彼女を楽にしてやってくれ。》
ダナエは躊躇う。
もしこのまま邪神を倒せば、きっと武神も消えてしまう。
そう思うと、邪神にトドメを刺せなかった。
すると横からコウの手が伸びてきて、ダナエの手に触れた。
「やるしかないぜ。」
「分かってる。分かってるけど・・・・。」
「キーマもお願いってさ。」
「え?」
そう言われて振り向くと、コウの後ろにキーマが浮かんでいた。
「キーマ・・・・・。」
《私はダレスとの戦いで死んだ。
でもこうしてまだ現世にとどまっているのは、ギークのおかげなの。》
「武神の?」
《彼はいつでもこの星を見ていた。でも近いうちに、自分は消えることを覚悟していたの。
クインを倒す為にね。》
「なら・・・・自分の代わりにキーマに星になってもらったわけ?」
《そういうことね。
せっかく死んで楽になれると思ったのに、まだまだそうはいかないみたい。
いったいいつになったら自由になれるんだか。》
面倒臭そうに言うキーマだったが、《でもこれも運命よね》と笑った。
《ギークはいなくなる。でもあの鳥は残るし、ユグドラシルも私もいる。
だからこの星のことは心配ないわ。》
「分かってる!でも・・・、」
《ギークになんにも恩返しできないのが辛い?》
「そうよ。だってたくさん助けてもらったのに、最後は私の手で邪神をごと消せって言ってるようなものじゃない。そんなの私・・・・、」
ダナエの躊躇いは強くなる。
キーマは彼女の頭を撫でながら、《優しい子ね》と笑った。
《でもね、ギークの望みはラシルを守ることなのよ。
そしてクインを救うこと。
だからこそあなたの手で、全てを終わらせてほしいのよ。
それこそがギークへの恩返しになるわ。》
「どうしてそれが恩返しになるの?」
《だってギークはあなたを見込んでるもの。
あの子は僕と似ている。でも僕なんかよりもずっと強い。
彼の隣に並んでから、ずっとそう言っていたわ。》
キーマは空を指さす。
武神の星が輝いていた隣に、彼女の星が浮かんでいた。
《ダナエ、あなたの手で終わらせて。みんなそれを望んでる。》
キーマも、コウも、そして他の仲間たちも、ダナエを見守っている。
まだ躊躇いはあったが、みんなの眼差しが彼女の胸を押した。
「分かったわ。でもあの邪神を倒しても、雲を消さない限りは意味がない。
それはどうすれば・・・・、」
《いいえ、あれが最後の邪神よ。》
「え?どういうこと?」
《ラシルを抱く神獣が、きっとこの雲を晴らしてくれる。
だから最後の一匹を倒せば、もう生まれてくることはない。》
「なら・・・・ギークが捕まえてるあの邪神さえ倒せば・・・、」
《全てが終わる。》
それを聞いたダナエは、急に表情を変えた。
躊躇いはなくなり、その目に闘志を燃やす。
「全てが終わる。だったら・・・・私の全てをぶつけるわ!」
銀の槍を呼び出し、邪神に向ける。
「今の私にできるすべてのこと。それをこの一撃に乗せる!」
ダナエは槍を掲げ、大声で叫んだ。
「来い!全ての精霊!」
ダナエの声に呼ばれて、蛾と蜂の精霊が現れる。
「みんな!私の中に宿って!」
ダナエはすでに蝶の精霊を宿している。
その中に、さらに二体の精霊が吸い込まれていった。
「おいおい・・・・そんなことして大丈夫なのか?」
コウが心配そうに尋ねると「さあね」と笑った。
「さあねって・・・・一匹ずつでも大きな力を持ってるんだろ?
三つも宿したお前の身体がもたないんじゃないか?」
「でも私はやる。これで全てが終わるなら、迷うことなんてないわ!」
体内に宿った三つの精霊は、お互いに異なる進化をしようとする。
悪魔に、蜂に、そして天使に。
三つの進化は反発し合う。特に悪魔と天使の力は強くぶつかり合った。
「あああああああ!」
「ダナエ!」
全身が引き裂かれそうな痛みが走る。
頭が、心臓が、骨が、神経が、血管が、筋肉が、全てが四方八方へ引っ張られて、今にも粉々になりそうだった。
「ダナエ!やめろ!死んじまうぞ!」
コウが心配そうに肩を抱く。
ダナエは歯を食いしばり、「うぎぎぎ・・・・」と耐えた。
「みんな・・・・喧嘩しないで・・・・。だって・・・みんな私なんだから。
悪魔も・・・・蜂も・・・・天使も・・・・全部私なんだから・・・。」
異なる進化の力は、ダナエを異様な姿へ変えていく。
顔は悪魔に、身体は蜂に、手足は天使に。
羽は透明になったり灰色になったりと、万華鏡のように目まぐるしく変わった。
「うう・・う・・・あああああああ!」
「ダナエ!もうよせ!」
ガクガクと震えて、「いやああああああ!」と悲鳴を上げる。
目から血を流し、口から泡を吹いた。
「ダナエ!早く精霊を出せ!このままじゃ・・・・、」
コウがそう言いかけた時、ダナエは元の姿に戻った。
悪魔にも蜂にも天使にも進化せずに、妖精の姿に戻った。

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