ダナエの神話〜星になった神様〜 第百二十話 遠い空の彼方に(5)

  • 2017.04.19 Wednesday
  • 17:29

JUGEMテーマ:自作小説

「ダナエ!早く精霊を出せ!このままじゃ・・・・、」
コウがそう言いかけた時、ダナエは元の姿に戻った。
悪魔にも蜂にも天使にも進化せずに、妖精の姿に戻った。
「コウ・・・・。」
一言呟いて、ガックリと気を失う。
「ダナエ!」
「・・・・・・・・・。」
ダナエはまったく動かない。呼吸すらしていない。
鼓動だけがかすかにあった。
「馬鹿野郎!無茶するから・・・・。」
コウはすぐに回復魔法をかけようとする。
しかし《待って!》とキーマが止めた。
《様子が変だわ。》
「変?」
《見て、全身が銀色に輝いている。》
ダナエの周りに、煙のような光が浮かんでいた。
白銀のように綺麗な光が、彼女を包み込んでいる。
その光は液体に変わり、なんとダナエを溶かしてしまった。
「おい!どうなってんだ!」
《慌てないで。あの子の魂はまだここにいる。》
「でもドロドロに溶けちまったぞ!」
《おそらく・・・最後の進化をしようとしているのよ。》
「最後の進化?」
コウは首を傾げる。
キーマは《思い出して》と言った。
《ダナエは自ら月の魔力を手放した。
それはつまり、月の統治者になるのを放棄したのと同じことよ。》
「それがなんなんだよ?」
《ダナエはもう月の王女様ではないってことよ。
特別な妖精ではなくなったわけね。
今までのように大きな進化は、きっとこれが最後になる。
そして・・・・、》
「そして?」
コウは息を飲んで答えを待つ。
キーマは首を振り、《すぐに分かるわ》と言った。
ダナエはまだ銀色の液体のままだ。
それはスライムのようにドロドロしていて、とても不気味な光景だった。
コウは不安を抱きながら、「ダナエ・・・」と呟くしかなかった。
するとその時、「オオアアアアアアア!」と凄まじい悲鳴が聞こえた。
「なんだ!?」
《邪神が暴れてるみたいね。》
鳥の翼に包まれていた邪神が、癇癪を起した子供のように暴れている。
その暴れっぷりは凄まじく、今にも鳥の翼から抜け出しそうだった。
「まずい!」
コウは慌てて飛びかかる。
「もうダナエを待っていられねえ!みんな、トドメを刺すぞ!」
アドネたちは頷き、邪神に挑みかかった。
《どいつもこいつも邪魔ばかりしやがって!許さない!皆殺しにしてやる!》
邪神の力が何倍にも膨れ上がっていく。
そして暴れるだけ暴れて、急に動きを止めた。
「なんだ・・・?動かなくなっちまった。」
邪神は糸が切れたかのように、ピクリとも動かない。
しかしその時、「おい!」とノリスが叫んだ。
「卵産んでるぞ!」
「卵?」
邪神のお尻から、大きな卵が産み落とされる。
それと同時に邪神は息絶えた。
がっくりと項垂れて、化石のように朽ちてしまった。
「どうなってんだ一体?」
誰もが呆然とする中、キーマが叫んだ。
《その卵を破壊して!》
「なに?」
《早く!じゃないと邪神もまた進化してしまう!》
キーマは《急いで!》と促す。
コウは「なんか分からねえけど、卵を破壊すりゃいいんだな」と頷いた。
「それで終わるならやってやるぜ!」
拳を構え、卵に殴りかかる。
しかし拳が触れた瞬間に、衝撃を跳ね返された。
「ぐはッ・・・・。卵にも反射能力があるのかよ・・・・。」
自分のパンチをモロにくらって、その場にうずくまる。
するとノリスがコウの頭を踏みつけながら、卵に飛びかかった。
銃を向け、マグマの弾丸を発射する。
卵は爆炎を上げたが、まったくの無傷だった。
「おい!人の頭を踏むな!」
「お前こそ油断してんじゃねえよ。」
ノリスは続けて銃を撃つが、卵は割れない。
「チッ!けっこう硬えな。誰か頼むわ。」
そう言うと、アドネが鎌を振り上げた。
「私に任せて!」
大きな鎌を振り下ろすと、少しだけヒビが入った。
「もう一発!」
また卵を斬りつけると、バキバキと音を立てて、大きな亀裂が走った。
「あとちょっとね。」
もう一度鎌を振り上げ、完全に叩き切ろうとする。
しかしその時、卵の中から邪神の手が出てきた。
アドネの鎌を掴み、そのまま投げ飛ばしてしまう。
「きゃあ!」
「アドネ!」
アドネは空中で一回転して、「この!」と斬りかかる。
「しつこいにもほどがある!とっととくたばんなさい!」
そう言って鎌を振り下ろそうとした時、シウンが「待て!」と止めた。
「何よ!?」
「今斬りかかったらやられる!」
シウンは卵を指さす。
殻は粉々に割れて、中から邪神が現れた。
冷酷な顔、長い髪、異様な殺気。
一致纏わぬ姿で、殻の上に立っている。
それを見たアドネたちは、思わず後ずさった。
「・・・もういいわ。もういい。」
邪神はゆっくりと歩き始める。
パキパキと殻を踏みしめながら、アドネたちには目もくれずに歩いていく。
そして空を見上げ、「あの星へ行かなきゃ」と呟いた。
「こんな星はもうどうでもいい。銀河の侵略はあの星から始めることにするわ。」
邪神は手を広げ、ゆっくりと息を吐く。
次の瞬間、彼女は巨大な虫に変化した。
いつものようにマイマイカブリに似た姿。
しかしその色は、磨き上げた真珠のように、見惚れるような白をしていた。
邪神は羽を広げ、空へ舞い上がる。
そして高速で羽を動かして、時空を揺さぶった。
「空間が波打ってる!あいつどこかへワープする気だ!」
コウは邪神を見上げ、「逃がしちゃダメだ!」と叫んだ。
「進化して強くなってる!時空を揺さぶるなんて新しい力まで手に入れてる!
今ここで仕留めないと、本当に銀河が支配されちまう!」
そう言って邪神に飛びかかるが、アドネたちは動けなかった。
「何してんだよ!さっさと行くぞ!」
「う、うん・・・・。」
「何ビビってんだ!」
「だって・・・・あいつの目を見た瞬間に、言いようのない寒気が走って・・・。」
「ああ・・・肝が冷えるほどだった・・・・。迂闊に飛びかかったら、俺たちはこの世にいなかっただろう。」
「だからなんだってんだ!今さらビビッてどうする!」
「・・・・そうよね。ここまで来たんだもん。」
アドネは鎌を握り直す。
シウンも「弱気になっては駄目だな」と拳を握った。
ノリスとマナはあっけらかんとしていて、「やるんだろ?」と尋ねた。
「お前の言う通り、今さらビビッてもしょうがねえ。」
「私、タダ働きは嫌だけど、あいつを見逃すのはもっと嫌。」
「俺だって同じだ。だからやるしかねえ!全員でな。」
コウは迷いを見せずに突っ込む。
拳に竜巻を纏わせて殴りかかった。
「待てガキ!また反射されるぞ!」
ノリスが慌てて銃を撃つ。
邪神の反射能力が消えて、コウのパンチがめり込んだ。
神器の宿った拳が、邪神の顔面を切り裂く。
次にアドネとシウンが飛びかかって、同時に攻撃を仕掛けた。
アドネの鎌が首を斬りつけ、硬い甲殻を割る。
シウンの熱線が炸裂し、邪神を燃やし尽くそうとする。
「このまま一気に終わらせるぜ!」
コウは何度も邪神を殴る。
アドネもシウンも、邪神を滅多打ちにしていった。
ノリスは銃で援護し、マナもリング状の光を飛ばして、邪神を締め上げた。
コウたちの攻撃は確かなダメージを与えている。
このまま攻め続ければ、倒すことは可能だった。
しかし邪神も黙ってはいない。
クスクスと笑って、天を仰いだ。
そして口の中から、大量の強酸を巻き散らした。
茶色とも緑色ともつかない、妙な色をした強酸が、コウたちを蝕んでいく。
「うおおおおお!」
「あああああああ!」
マナが慌てて結界を張ったが、邪神の酸はたやすくそれを溶かしてしまう。
「みんな!離れろ!」
コウが叫ぶと同時に、邪神は雨のように酸を振らせた。
「ぐううおおおおお!」
「まずい!このままじゃ完全に溶かされるぞ!」
猛烈な酸の雨は、夕立のように降り注ぐ。
コウたちは必死に逃げるが、途中で力尽きてしまった。
「そんな・・・・なんて奴だ・・・・、」
どうにか箱舟まで逃げようとするが、立ち上がることすらできない。
辛うじてシウンだけが立っていて、その後ろにノリスとマナが隠れていた。
「ダメだ!このままでは・・・・、」
シウンは熱を上げて抵抗するが、強酸を防ぐことはできない。
身体に染み込んで、何もかも溶かそうとする。
「俺の熱でも防げないなんて・・・いったいこの酸は何で出来ているんだ!?」
遂にシウンも膝をつく。
酸はマナにも振りかかり、小さな身体を溶かそうとした。
「ああああああ!」
「マナ!」
「大丈夫・・・・大きくなれば平気だから・・・・。」
ドッペルゲンガーの力を借りて、人間ほどの大きさに変わる。
しかしそれでも酸の浸食を免れることは出来なかった。
遠くではアドネも倒れていて、「みんな・・・」と手を伸ばしていた。
「なんてこった・・・一気に形勢逆転だな・・・・。」
ノリスは自嘲気味に笑う。
するとその時、箱船が動いて、みんなの上に飛んで来た。
「大丈夫かオメエら!?」
カプネが窓から顔を出す。
コウは「馬鹿!」と叫んだ。
「中にいろ!死ぬぞ!」
「俺だけじっとしてられるか!今すぐ助けてやっからな!」
カプネは舵を切り、船を邪神の方に向けた。
「このまま体当たりしてやるぜ!」
箱船は猛スピードで邪神に突っ込む。
しかし寸前のところでかわされて、真っ白な業火を吹きつけられた。
「うおおおおおお!」
白い業火は船を焦がしていく。
カプネは慌てて舵を切り、そのまま墜落してしまった。
「カプネ!」
手を伸ばすコウだったが、また酸が降り注いで「うおおおお!」と叫んだ。
「溶ける・・・・このままじゃ・・・・みんな溶けちまう・・・。」
進化した邪神は圧倒的だった。
酸による攻撃だけで、コウたちを追い詰めていく。
「この酸・・・・降り注ぐ一粒一粒に結界が張ってある・・・・。
そして身体に触れた途端に、結界が弾けて溶かし始めるんだ・・・・。
防ぐには・・・・この結界以上の力を出さないと・・・・・、」
シウンの熱でも防げなかったのは、この結界の為。
コウは歯を食いしばり、どうにか立ち上がった。
「俺が・・・・俺がどうにかしないと・・・・、」
魔力を溜め、風の魔法で酸を巻き上げようとする。
しかし魔力が溜まりきる前に、また倒れてしまった。
立ち上がろうとしても、それを嘲笑うかのように溶かされていく。
「もう・・・ダメだ・・・・。どうにも・・・・でき・・・な・・・、」
そう呟きかけた時、《諦めちゃダメ》と声がした。
「キーマ・・・・、」
《お嬢さんはまだ戦ってるのよ。最後の進化を遂げる為に、自分と戦ってる。
だから諦めちゃダメ。》
キーマは手を広げ、大きな結界を張った。
酸はキーマの結界に弾かれて、雨粒のように流れていく。
邪神は酸を吐き出すのをやめて、さらに羽を羽ばたいた。
空間が歪み、どこかへワープしようとする。
《このまま逃げるつもりね。でもそうはさせないわ!》
キーマは手を掲げ、超重力の渦を起こした。
邪神はその渦に引っ張られて、大地へと叩きつけられる。
《今よ!やっちゃって!》
キーマが合図すると、ニーズホッグが襲いかかった。
頑丈なこの竜は、強酸を浴びても平気な顔をしていた。
そして大きな口を開けて、邪神の頭に噛みついた。
「コノママモギ取ッテクレル!」
メキメキと音を立てながら、邪神の頭を食い千切ろうとする。
しかし邪神も負けてはいない。
身体を捻り、ニーズホッグを投げ飛ばした。
「ヌウウ・・・・往生際ノ悪イコトヨ!」
二体の怪物は、巨体をぶつけ合って戦う。
キーマは《援護するわ!》と言って、超重力の渦をぶつけた。
邪神の動きは鈍り、そこへニーズホッグの頭突きが炸裂する。
大きな音が響いて、邪神の大顎が割れてしまった。
「アアアアアアア!」
悲鳴のような鳴き声を上げて、怒りを表す邪神。
刃物のような脚を振り上げ、ニーズホッグを叩きつけた。
「グオッ・・・・、」
硬い鱗が切り裂かれて、肉に食い込む。
しかし「コレシキ!」と、怯むことなく突っ込んだ。
《今のうちにみんなを回復させて!》
「わ、分かった!」
コウは傷ついた仲間を助けに向かう。
みんな大怪我を負っているが、まだ息はあった。
「すぐに治してやるからな。」
コウは両手をかかげ、三つの魔法を同時に使った。
水、風、土。
癒しの精霊を呼び出して、頭上に解き放つ。
ウンディーネが、シルフが、そしてノームがたくさん現れて、仲間たちの元へと吸い込まれていく。
そしてコウの中にも吸い込まれ、酸の傷はたちまち治っていった。
「ああクソ!またやられた!」
アドネが悔しそうに叫ぶ。
シウンも怒りを滲ませながら、大地を叩きつけた。
「ちょっと油断したらこのザマだ・・・・情けない!」
ノリスはタバコを咥え、「まあいつものこった」と笑った。
「上手くいきそうな時ほど危ないってな。生きてるだけで儲けもんだぜ。」
するとマナは「何が儲けもんよ!」と怒った。
「治療費貰わないと気がすまない!」
「んじゃ請求してやるか?」
「当然!」
「私もやり返さないと気がすまない。毎度毎度いたぶってくれやがって・・・。
この鎌で首を落としてやる!」
「アイツは自分が一番強いと思っている。それが間違いだということを、灼熱の拳で思い知らせてやる。」
あれだけボロボロにやられたのに、誰も闘志が衰えない。
それこどろか、余計に火が点いていた。
それを見たコウは「お前らさ・・・」と肩を竦めた。
「ほんとに逞しいよな。今まで一緒に旅してきた仲間の中で、一番逞しいかもしれない。」
「伊達にあんた達と旅してないからね。もうこんなの慣れっこよ。」
「怖がるくらいなら、玉砕覚悟で突っ込んだ方がマシだ。」
「俺は玉砕なんざゴメンだね。ただ借りは返さねえと気がすまねえ。」
「ほんっとにね。星一個買えるくらいの慰謝料と治療費がほしいわ。ああ腹立つ!」
みんな邪神の方を睨んで「ぶっ殺す!」と叫んだ。
「うん、ほんとに逞しい。お前らと一緒なら、どこまでも戦えそうな気がするよ。」
コウはグルんと肩を回し、ボキボキと拳を鳴らした。
「さあて、んじゃ今までの分やり返すか。」
全員が頷き、邪神へ飛びかかっていった。
みんなそれぞれの持ち味を活かして戦う。
コウはスピードで攪乱し、隙を見ては切り裂く。
アドネは常に死角へ回って、急所へ一撃を加える。
シウンは堂々と正面に立ち、燃え盛る拳で殴りつける。
ノリスはみんなの背後を移動しながら、正確な射撃で射抜いていった。
マナはニーズホッグの頭に乗って、みんなを応援する。
そして絶対に安全な時だけ攻撃を仕掛けた。
それぞれが個性を活かし、特性を活かし、自分の戦いに専念している。
でも決してバラバラではなく、見事な連携が取れていた。
《大したもんだわこの子たち。
自由に戦ってるクセに、まるでテレパシーで繋がってるみたいに動きが合ってる。》
キーマは可笑しそうに笑う。
べったりくっ付くわけでもなく、かといって離れすぎるわけでもない。
全員が絶妙な距離感を保った、最高のチームだった。
《私もやるわ!ここでクインを討つ!》
凄まじい猛攻を受けて、さすがの邪神もよろめく。
しかしどんなに打ちのめされても、決して倒れなかった。
憎しみ、欲望、執念・・・・邪神を支える原動力は、底なし沼のように尽きることがない。
傷ついても傷ついても立ち上がり、死にもの狂いの反撃を続けた。
戦いは拮抗し、お互いに疲弊してくる。
体力も魔力も、そして精神力も奪われていく。
それでも誰も膝をつかない。
魂の一滴が枯れるまで、意地でも戦い続けた。
だが均衡を保っていた戦いは、じょじょに邪神が押し始めた。
強酸が、業火が、鋭利な脚が、コウたちを確実に苦しめていく。
そして一瞬の隙をついて、またあの魔法を使った。
火、氷、風、雷、土、光。
六つの魔法が同時に炸裂して、辺り一帯を吹き飛ばす。
まともにくらえば即死。
しかしノリスの弾丸が攻撃を跳ね返し、キーマの結界がみんなを守った。
どうにか生き延びることが出来たが、邪神は再び六つの魔法を炸裂させた。
「ぐううあああああ!」
「きゃああああああ!」
みんなボロボロに傷つき、邪神の周りに倒れる。
「はあ・・・はあ・・・ちくしょう・・・・負けるか・・・・。」
コウは手をついて立ち上がる。
他の仲間も、それに続くように立ち上がった。
「負けねえ・・・・負けねえぞ・・・・。」
いくら打ちのめされようとも、闘志は衰えない。
ここで負けたら最後、今までの戦いは全て無駄になる。
燃え盛る闘志は、限界を超えて力を発揮した。
しかしそんな闘志を打ち砕くかのように、邪神はまた六つの魔法を炸裂させた。
火が、氷が、風が、雷が、土が、光が、コウたちにトドメを刺そうとする。
「負けねえ・・・・負けねえぞ・・・・、」
迫りくる強大な魔法、それを前にしてもコウたちは諦めない。
これを喰らえばもう終わる。
それが分かっていても、邪神に向かって突き進んだ。
するとその時、鳥の鳴き声が響いて、大きな翼が邪神を包んだ。
六つの魔法は、武神の鳥によって防がれる。
コウは鳥を見上げ、こう呟いた。
「ダナエ・・・・。」
武神の鳥の中に、進化を終えたダナエがいた。
その姿は以前とまるで変わらなかった。
今までの進化と違って、妖精の姿のまま。
しかし以前とは一つだけ違うところがあった。
「この気配・・・・まるで人間みたいだ。」
ダナエは進化した。
それによって以前と変わったのは、妖精らしからぬ気配を持っていることだった。
まるで人間と妖精を混ぜたような、二つの気配を放っているのだ。
《終わったみたいね。》
「キーマ・・・・。どうしてダナエから人間の気配を感じるんだ?」
《彼女には人間の血が眠っていたからよ。》
「人間の血が・・・・?」
そう言われて、コウには思い当たることがあった。
「ダナエの親父は元人間なんだ。今は妖精だけど、元々は地球に住んでた人間だった。
だったらアイツの中にも、人間の血が宿ってたってことか?」
《そうよ。》
「でもどうして今になって人間の血が目覚めるんだよ?
アイツはずっと妖精のままだったんだぞ?」
《それは永遠の寿命を放棄したからよ。》
「な、なんだって?」
コウは顔をしかめる。
信じられないことを言われて、すぐには理解できなかった。
「それってどういうことだよ?なんで自分から永遠の寿命を捨てるんだ?」
《ダナエがそう望んだから。》
「だからなんで!?永遠の寿命っていうのは特別なもんなんだぞ!
普通の生き物には絶対にないものなのに。」
コウは首を振る。
なぜなら永遠の寿命を手放すということは、妖精であることを否定することになるからだ。
病気や怪我、呪いにでもかからない限り、妖精は死なない。
それどころか、ある一定の年齢に達すると歳も取らない。
不老不死に近いのが妖精なのに、それを手放すなど考えられなかった。
「アイツは妖精でいるのが嫌になったっていうのか?」
《そうじゃないわ。ダナエは限りある命を選んだってだけ。》
「限りある命?」
《人間の命には限りがある。どんなに願っても、定められた時間の中でしか生きられない。
ダナエはそんな人間の生に惹かれたのよ。》
「そんな馬鹿な!なんで限りのある命に憧れるんだよ?」
《それは輝きがあるからよ。》
「輝き?」
《地球の生命は。誰でも命に限りを持っている。
きっとダナエは、そんな地球の生命たちに輝きを見たんでしょうね。》
「・・・・・・・・。」
《ダナエは決して妖精であることを捨てたりしないわ。
あの子は自分が妖精であることに誇りを持っているもの。》
「じゃあ・・・どうして・・・・、」
《限られた時間の中で、精一杯生きてみたい。そう願ったからよ。》
コウは納得できなかった。
あれほど地球を嫌っていたのに、どうして地球の人間と同じような生を望むのか?
それに何より、どうして限られた命なんか選んだのか?
「ダナエ・・・・お前は俺を置いて歳とって、俺を置いて死ぬつもりなのかよ。
そんなの・・・・身勝手すぎるだろ。」
コウは怒っていた。
ずっと一緒にいようと誓ったのに、自分を置いて死ぬつもりなんて。
この先何十年かしたら、ダナエはいなくなってしまう。
そんな大事なことを、何の相談もなしに決めたことがショックだった。
「ふざけんな!なんだよそれ!お前・・・・お前は自分がよけりゃそれでいいのか!?
俺のことなんか考えねえのかよ!」
どうしようもない悔しさが滲んで、ダナエから目を逸らす。
「なんで・・・なんでそんな勝手なことするんだよ!
もう元に戻れねえぞ!後からどんなに願っても、手放したもんは戻ってこないんだ!」
ダナエは妖精であることを捨てた。そしてずっと一緒にいようという約束を捨てた。
コウにはそう思えて仕方なかった。
寿命のない妖精だからこそ、永遠の愛を誓える。
その永遠を手放すということは、一緒にいようという約束を破ったのと同じに思えた。
「ふざけてる・・・・アイツ・・・・なんだよ勝手に・・・・。
こっちの気持ちも考えないで・・・・ふざけんなよ・・・・。」
コウは硬く拳を握る。
「おおおおおおお!」と雄叫びを上げながら、邪神に飛びかかった。
《ダメ!無防備に突っ込んじゃ!》
キーマが止めるが、コウの耳には届かない。
怒りと悔しさだけを滲ませて、邪神を殴り飛ばした。
「お前が・・・・お前さえいなけりゃ!
お前なんかいるから、俺たちはこの星へ来る羽目になったんだ!
お前さえいなかったら・・・・俺とダナエはずっと一緒にいられたんだああああ!」
拳から神器の剣が伸びてきて、邪神の顔を貫く。
「お前なんか最初からいなけりゃよかったんだ!このまま消して去ってやる!」
《コウ!ダメよ!離れて!》
キーマは慌てて引き離そうとする。
しかしそれより早く邪神が動いた。
巨大な脚でコウを叩き、そのまま踏みつけたのだ。
そして顔を近づけ、真っ白な業火を吐き出した。
「うわあああああああ!」
《コウ!》
キーマの助けも間に合わず、コウは真っ白な業火に飲み込まれる。
しかし誰かがコウの前に立ちはだかり、業火を防いでいた。
「・・・・・・・・。」
「ダナエ・・・・。」
ダナエはコウを振り向き、小さく頷く。
いつもと変わらないその姿。
しかしいつもと違う気配が混じっている。
「ダナエ・・・どうして・・・・、」
コウの呟きは、ダナエの耳に届いた。
悲しみ、悔しさ、怒り。
小さな呟きの中に、色んな感情が混じっている。
それを感じ取ったダナエは「ごめんね・・・」と返した。
「でも今は邪神を倒さないと。だから・・・力を貸して。」
ダナエは槍をかかげる。
すると武神の鳥が羽ばたき、緑色の風を起こした。
その風は邪神を包み込んで、完全に動きを封じてしまう。
「みんな!鳥に神器を向けて!」
ダナエは槍と弓を呼び出し、鳥に向ける。
「コウも。」
「・・・・・・・・・。」
コウは怒っていた。悔しかった。
しかし今は邪神を倒すことが先。
感情を押し殺し、鳥に拳を向けた。
神器の剣が伸びてきて、拳の中から飛び出していく。
他の仲間も神器を向けた。
斧が、棍棒が、杖が、指輪が。
全ての神器が鳥に向けられて、そのまま吸い込まれていった。
ラシルを守る神獣は、神器を吸い込んで力を増す。
そして一筋の風になり、ダナエの中に宿った。
彼女の全身がエメラルドに輝く。
大きな大きな神獣の力が、ダナエの中に渦巻いた。
「邪神、もう終わりにしよう。」
ダナエは空高く昇る。まるで鳥のように。
すると背中の羽が、緑の翼に変わっていった。
《・・・・・・・・。》
邪神は憎しみと欲望を募らせて、ダナエを睨む。
首をもたげて、悔しそうに吠えた。
《ああああああああああああああ!》
その雄叫びはとても悲しく、そして切ない。
子供が泣くような、夢が壊れたような、胸を揺さぶる叫びだった。
ダナエは翼を広げ、槍を構える。
周りに風が起きて、その風は鳥の姿へと変わっていった。
「邪神・・・・もう楽にしてあげる。武神が向こうで待ってるよ。」
ラシルの神獣を纏いながら、邪神目がけて飛びかかる。
真っ直ぐに槍を向けて、真っ直ぐに見つめながら。
邪神はまだ吠える。泣き声のような寂しい声で、ひたすら吠え続ける。
《ああああああああああああああ!》
ダナエは大きく翼を広げ、邪神に迫る。
邪神の悲しい叫びは胸を揺らすが、それでも迷いはない。
翼を広げ、邪神を包み込む。
そしてしっかりと槍を握りしめて、「たあああああああ!」と飛びかかった。
槍の切っ先が邪神に触れる。
眉間を貫き、頭の中心に刺さる。
これで終わる。
長く続いた戦いが、ようやく幕を引く。
邪神はこの世から去り、ラシルに平和が戻ってくる。
誰もが息を飲み、その瞬間を待った。
しかしそんな希望はあっさりと崩壊した。
なぜならダナエの槍が刺さった瞬間に、邪神は消えてしまったからだ。

calendar

S M T W T F S
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930     
<< September 2019 >>

GA

にほんブログ村

selected entries

categories

archives

recent comment

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM