ダナエの神話〜星になった神様〜 第百二十一話 遠い空の彼方に(6)

  • 2017.04.20 Thursday
  • 17:04

JUGEMテーマ:自作小説

槍の切っ先が邪神に触れる。
眉間を貫き、頭の中心に刺さる。
これで終わる。
長く続いた戦いが、ようやく幕を引く。
邪神はこの世から去り、ラシルに平和が戻ってくる。
誰もが息を飲み、その瞬間を待った。
しかしそんな希望はあっさりと崩壊した。
なぜならダナエの槍が刺さった瞬間に、邪神は消えてしまったからだ。
「そんなッ・・・・、」
しっかりと翼で包んだので、逃げることなど出来ないはず。
なのに邪神は消えた。
ダナエは一瞬パニックになる。
しかしすぐに謎は解けた。
邪神は人の姿に戻っていたのだ。
ダナエの槍が、完全に頭を貫く前に・・・・・。
ダナエと邪神。
二人の目が合う。
ほんの短い時間だが、時が止まったように見つめ合った。
「・・・・・・・・・。」
邪神は何かを呟いた。
ダナエは耳を澄まし「なに?」と尋ねる。
しかし邪神はクスクスと笑うばかりで、それ以上何も言わなかった。
その代わり、口を開けて業火を吐き出した。
ダナエは風を起こし、業火を振り払う。
そして・・・・、
「しまった!」
業火が消えた時、邪神はどこにもいなかった。
手品のように、忽然と消えていた。
「逃げられた!」
ダナエは歯を食いしばり、悔しそうに唸る。
邪神は時空を歪め、どこかへ逃げる準備をしていた。
最後に響かせた雄叫びは、悲しみと寂しさを吐き出すものではなく、時空を揺らす為のものだったのだ。
そのことに気づいたダナエだったが、時すでに遅し。
あと一歩のところまで追い込んだのに、トドメを刺すことが出来なかった。
「うう・・・・くッ・・・・・。」
ギリギリと歯を食いしばり「じゃしいいいいいいいいん!」と吠える。
生まれてきてから一番大きな声で吠えて、がっくりと項垂れた。
「何してるの私!こんなところまで来て失敗するなんて!」
地面に槍を突き立て、ガツンと頭をぶつける。
ダナエを包んでいた緑の鳥は、そのまま離れて空に舞い上がった。
そして一声鳴いたあと、静かに消え去った。
「そんな!ラシルの神獣が・・・・、」
愕然とするダナエ。
するとキーマがこう言った。
《大丈夫、いなくなったわけじゃないわ。》
「ホントに!?」
《神器の力を合わせれば、また現れるはずよ。》
「そう・・・・よかった。」
ダナエはホッとする。
邪神まで逃がして、その上神獣の鳥まで消してしまったら、いったいどうしたらいいのか途方にくれるところだった。
「あの鳥がいるなら、この星は安心だわ。でも・・・・・、」
ダナエの胸には不安があった。
邪神がどこかへ逃げる前に、小さく呟いた言葉。
はっきりとは聞き取れなかったが、その中にこんな言葉が混じっていた。
「地球って言ってた・・・・。邪神はきっと地球へ逃げたんだわ。」
ダナエは立ち上がり、邪神の消えた場所を睨む。
「邪神を倒すには、地球へ行かなきゃいけない。
でもそうなると、神器も持って行かなきゃいけないわ。
これがないとアイツは倒せないから。」
地球へ神器を持っていけば、ラシルを守る神獣も連れていくことになる。
しかしそれは出来なかった。
なぜならこの星の空は、まだ暗い雲に覆われているからだ。
「これをほったらかしたまま、地球へ行くわけにはいかないわ。」
不安を煽る暗い雲。
これを晴らすことが出来るのは、ラシルの神獣だけ。
しかし地球へ神器を持っていかないと、邪神を討ち取ることは出来ない。
それにあの星には強い悪魔がウヨウヨしていて、神器なしではどこまで戦えるか分からなかった。
ダナエは悩む。
唇を噛み、「どうしたら・・・」と困った。
「ねえコウ。どうしたらいい?神器は置いていくべきかな?
それとも・・・・、」
そう言いかけた時、ダナエの頬に痛みが走った。
「コウ・・・・。」
ダナエは驚いた顔でコウを見る。
ジンジンと痛む頬を押さえながら、目を丸くしていた。
「・・・・・・・・・・。」
コウはじっとダナエを睨む。
その顔は本気で怒っていて、ダナエは目を逸らした。
「ごめん・・・・邪神を逃がしちゃった。」
申し訳なさそうに言うと、コウは「また殴られたいか?」と睨んだ。
「え?」
「俺がそのことで怒ってると思ってるのか?」
「違うの?」
「・・・・・・・・・・。」
コウの目は怒りに染まっていて、ダナエはまた目を逸らした。
「・・・・・ごめん。」
ダナエはすぐに分かった。
どうしてコウが怒っているのか?
グッと唇を噛み、また「ごめん・・・」と呟く。
「で、でもね!仕方なかったの!邪神を倒す為に・・・・、」
そう言いかけた時、また頬に痛みが走った。
パチンと音がなり、ショックで固まる。
「・・・・・・・・・。」
コウは本気で怒っている。心の底から・・・・。
ダナエは身を竦め、コウから顔を背けた。
・・・・叩かれるのは怖くない。しかし嫌われるのは怖かった。
コウは絶対にこんな目で睨むことはなかった。
どんなに喧嘩しようと、どんなにぶつかろうと、本気で怒った目を向けることなんてなかった。
いや、あるにはあったが、それはダナエの為を思ってのことだ。
ダナエが無茶をした時に、その身を心配して怒ることはあった。
しかし今は違う。
コウは自分の為に怒っているのだ。
ダナエはそんなコウの目を見るのが怖くて、顔を背けることしか出来なかった。
二人の間に不穏な空気が漂う。
すると見かねたアドネが「ちょっとちょっと・・・」と止めに入った。
「どうしたのよあんた達。なに本気で喧嘩してんの?」
アドネはダナエの顔を覗き込み、「大丈夫?」と頬を撫でた。
「ちょっとコウ!何があったか知らないけど、どうしてダナエを叩くのよ?」
「うるせえ。」
「なんですって?」
「そんな奴殴られて当然だ。」
コウはアドネを押しのけて、ダナエの胸倉をつかむ。
「こっち向け。」
「・・・・・・・・・。」
「俺の目え見ろ。」
顎を掴み、グイっと顔を上げさせる。
「だから何やってんのよ!なんでそんな乱暴なこと・・・・、」
「こいつはな、俺を裏切ったんだ。」
「え、裏切る・・・・?」
アドネは首を傾げる。
他の仲間も、訳が分からないという風に首を傾げた。
「ねえ、裏切るってどういうことよ?ダナエが何か悪いことでもしたの?」
「こいつはな、妖精であることを捨てたんだ。」
「妖精を捨てる?・・・・どこがよ?何も変わってないように思うけど?」
「見た目はな。でも気配はどうだ?」
そう言われて、アドネはダナエの気配を感じてみた。
すると・・・・、
「あれ?これって・・・・人間?」
「ああ、人間の気配が混じってるんだ。」
「でもどうして?ダナエは妖精でしょ?」
「コイツの親父は元人間なんだ。だから元々人間の血が流れてるんだよ。」
「ああ、そっか。ダナエのお父さんは、地球の日本って所にいたんだもんね。
でもどうして眠ってた血が出てきたの?」
アドネは不思議そうに尋ねる。
何かキカッケがなければ、眠っていた血が目覚めることなどないからだ。
「ねえ、何があったのよ?どうしてダナエは人間の目を目覚めさせちゃったの?」
アドネは心配そうに尋ねる。
コウの顔は険しいままで、ダナエの顔は沈んだまま。
二人の空気は今までにないほど険悪だった。
それがたまらなく不安で「ねえったら」とコウを見つめた。
「何があったの?」
「・・・・放棄したんだ。」
「放棄?何を?」
「永遠の寿命。」
「え・・・永遠の寿命?」
「俺たち妖精には寿命がねえ。」
「知ってるわ。ちなみに私もね。」
「ああ。死神だって同じだ。神も悪魔も、それに神獣や魔獣、妖怪や精霊。
そういう奴らは寿命がないんだ。」
「神や悪魔なんて、死んでも復活することがあるしね。」
「そうだよ、俺たちは普通の生き物とは違うんだ。
限られた時間の中を生きてるわけじゃない。
病気や怪我でもしない限りは、いつまでも生き続ける。
そしていつまでも生き続けられるからこそ、永遠の約束を誓えるんだ。」
コウの顔はさらに険しくなる。
怒りと悔しさ、そして寂しさと悲しさ。
ダナエを睨む目の中に、複雑な感情が渦巻いていた。
それを感じ取ったアドネは「なるほどね」と頷いた。
「どうしてアンタが怒ってるのか分かってきたわ。」
「・・・・・・・・。」
「でもダナエの気持ちも聞かずに怒るのは、ちょっと酷いんじゃない?
この子だって自分なりに考えてのことなんだろうし。」
そう言ってコウの手を掴んで、ダナエの胸倉から離した。
「あんたの気持ちも分かるけど、今は邪神を追うのが先よ。」
「・・・・分かってる。ちょっとイラついただけだ。」
コウは背中を向け、箱船の方へと歩いてい行く。
「ちょっと!なんで船に行くのよ?」
「邪神を追う為だ。」
「追う為って・・・・アイツがどこに逃げたか分かるの?」
「ああ。きっともうこの星にはいない。」
「この星にはって・・・・じゃあどこにいるのよ?」
「ここ以外に行く星っていったら、一つしかないだろ。」
「一つしかって・・・・・まさか!」
コウは振り返り、小さく頷く。
アドネは「だったら・・・」と険しい顔をした。
「急がなきゃいけないわ!向こうだって大変なことになってるんだから。
そこに邪神まで現れたら、それこそあの星は・・・・、」
「だから早く追いかけようぜ。」
コウは一人で船に向かう。
アドネは「ちょっと」と呼び止めたが、それを無視して行ってしまった。
「何よアイツ・・・自分だけ拗ねちゃって。」
そう言ってダナエを振り返る。
「ねえダナエ、気にすることないよ。」
「・・・・・・・・。」
「さっきまで邪神と戦ってたんだから、アイツも気が立ってるだけなのよ。
少しすれば落ち着くって。」
ポンポンとダナエの肩を叩き、「船に戻ろ」と言った。
すると「よう」とノリスが呼んだ。
「さっきからまったく話が見えねえ。いったいなんだってんだ?」
タバコを吹かしながら、不機嫌そうにする。
「ええっと、とりあえず船に戻ってから話すわ。」
アドネはダナエの背中を押して、船に歩いていく。
ノリスは「しょうもねえ痴話喧嘩ならゴメンだぜ」と言った。
「あのクソ野郎を追っかけなきゃいけねえんだ。
んな時に下らねえことで揉めんじゃねえぞ。」
ポケットに手を突っ込みながら、ダナエの背中を睨む。
「いったい何なんだ?」
「さあ?」
シウンとマナは、小さく肩を竦めた。

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