ダナエの神話〜星になった神様〜 第百二十二話 残されたもの(1)

  • 2017.04.21 Friday
  • 17:11

JUGEMテーマ:自作小説

みんなは船の中に集まっていた。
広いテーブルを囲いながら、難しい顔で座っている。
誰も口を開かない。
重い沈黙だけが流れ、壁時計の音だけが響いている。
邪神をあと一歩のところまで追い詰めながら、仕留めることが出来なかった。
それは大きなショックだったし、痛いほど悔しい。
本当なら今すぐにでも邪神を追いたい。
この船を飛ばし、地球へ向かいたい。
しかしそう出来ない事情があって、誰も口を開くことが出来なかった。
沈黙は続く。
それはあまりに重く、耐えかねたカプネが「なあ」と顔を上げた。
「その・・・・そろそろどうするか決めようや。このままじゃ時間が過ぎるだけだぜ。」
そう言うと、ノリスは「んなこた分かってらあ」と天井を仰いだ。
「ほんとなら今すぐにでもぶっ殺しに行きてえ。
だがよ、アイツとやり合うには神器が必要だ。
それをここに置いていけってんだから、無茶言いやがる。」
ノリスはテーブルの奥に目をやる。
そこにはジル・フィンが立っていた。
彼はニコリと微笑み、肩を竦めた。
「無茶を言っているのは承知だよ。でも神器はここに置いていってもらいたい。」
窓の外には、暗い雲が広がっている。
今は大人しくしているが、いつまた黒い渦を巻くか分からない。
「あれがある限り油断はできない。」
「へ!ならお前らだけでどうにかすりゃいいだろうが。」
「無理さ。」
「どこが?ユグドラシルもいるし、キーマだっているんだ。
どうにか戦えるだろうがよ。」
「大量に出てきたらさすがに無理さ。」
「なら俺たちはどうすりゃいいんだ?
神器なしで邪神とやり合っても、結果なんか見えてるぜ。」
タバコを灰皿に押し付け、苛立ったように立ち上がる。
「神器なしでやれってんなら、俺は降りる。」
そう言うと、ダナエがピクリと顔を上げた。
「勝ち目のねえ喧嘩したって仕方ねえだろ。お前らも降りた方が賢明だぜ。」
肩を竦め、みんなを見渡しながら言う。
するとシウンが「俺は降りない」と答えた。
「例え神器がなくても俺は戦う。」
「でも勝ち目はねえだろうがよ。」
「勝ち負けの問題じゃないんだ。アイツを放っておけば、今より酷いことになる。
なら誰かが戦わないといけない。」
「へ!超人さんは正義の味方ってか。」
「そういうつもりじゃない。俺ただ、俺と同じような目に遭う奴を減らしたいだけだ。
誰かに騙され、利用され、全てを奪われる。
あのダレスでさえ邪神の被害者と言えるだろう。
そういう奴を一人でも減らしたい。だから戦うんだ。」
「そうかい。なら好きにしな。」
不機嫌そうに言いながら、部屋から出て行く。
一瞬だけ振り返り、「どうするか決まったら呼んでくれ」と言い残した。
彼が遠ざかる足音を聴きながら、誰もが真剣に考える。
果たして神器なしで邪神と戦えるのか?・・・・と。
「ねえ、ちょっといい?」
アドネがジル・フィンに手を挙げた。
「なんだい?」
「私もノリスの言うことに賛成かな。」
「なら君も降りると?」
「違うわ。そうじゃなくて、やっぱり神器は必要だと思う。」
「しかし雲からたくさんの邪神が現れたらどうする?今度こそラシルは終わりだよ?」
「そうかもしれないけど、でも邪神を倒さないことには、ラシルは本当の平和はないわ。
もし仮にあの雲を消すことが出来たとしても、邪神が生きてる限りは油断できない。
またこっそりラシルに戻ってきて、雲を生み出すかもしれないし。」
「だったらなおのこと神器は置いていってもらいたい。
邪神がここへ戻ってきた時、戦う手段がなくなる。」
「それは私たちだって同じよ。このまま地球へ行って、どうやって邪神と戦えばいいの?」
アドネの不安は誰もが同じだった。
邪神と戦うには、やはり神器が必要になる。
「ジル・フィンには悪いけど、私は神器を置いていけない。
すぐに地球へ行って、邪神を倒すことが平和への近道よ。」
そう言って「みんなもそう思うでしょ?」と見渡した。
シウンは「どっちでも構わない」と答えた。
「さっきも言ったが、俺は神器なしでも戦うつもりだ。」
「でも実際問題・・・・・、」
「分かってる。しかしこのまま邪神を放っておくことは出来ないだろう。」
「それこそ分かってるわよ。だけどノリスの言う通り、勝ち目がないんじゃ意味ないわ。」
「・・・・だとしても、俺はアイツを追う。それが俺の答えだ。」
シウンは立ち上がり、「みんなの答えが出たら聞かせてくれ」と言った。
「俺の答えはもう出ている。どっちになろうとも地球へ行くつもりだ。」
シウンの目に迷いはない。
力強い足取りで部屋を出て行く。
そしてこう言い残した。
「邪神は地球でも誰かを傷つけるだろう。そして真っ先に弱い奴が犠牲になる。
そんな時、強い奴は弱い奴を守ってやらなきゃいけない。
きっとその為に、俺は超人になったんだ。」
シウンの決意は固い。
自分も弱者として、ダレスから酷い目に遭った。
しかし今は違う。超人に生まれ変わり、強者になった。
弱い者は、誰かの助けを必要としている。
自分も弱者だったからこそ、誰よりもその気持ちが分かるのだ。
そしてその手を差し伸べるのは、自分の役目だと信じていた。
遠ざかるシウンの足音は、決意を表すかのように強い。
その足音を聴きながら、マナがクスクスと笑った。
「ほんとに熱血バカよね。」
「まあ単純ではあるわね。でもそれがシウンの良い所だけど。」
「あ、ちなみに私は地球へ行きたくない。」
「どうして?」
「お金にならないから。」
「ならお金が貰えるなら行くわけ?」
「まあね。」
「・・・・・・・・・。」
「何?」
「あんたあれでしょ?お金貰って地球へ行ったら、こう言うつもりでしょ?
邪神と戦うのは別途料金がかかりますって。」
「まあね。」
「いくら欲しいのよ?」
「前金で十億。邪神を倒したら二十億。」
「ダレスが生きてたら払ってくれたかもね。」
アドネは首を振り、「お金で解決できるなら安いもんよ」と言った。
「一つの星の命運が懸ってるんだもん。
それくらいで邪神を倒せるなら、みんな喜んで寄付してくれるわ。」
「ほんとに!?」
マナはパッと笑顔になり、「私地球へ行く!」と言った。
「でも神器を持って行けるとは限らないわよ?」
「でも前金で十億だから。倒さなくても問題なし。」
「問題ありよ・・・・。」
マナは「じゃあ寄付を呼びかけなくちゃ」と部屋を出て行ってしまった。
「能天気ねほんとに。」
肩を竦めながら、「あんた達はどうするの?」と尋ねた。
「ダナエ、コウ。いつまでも喧嘩してないで、話し合いに参加してよ。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
二人は目を合わせない。
ダナエはコウに怯え、コウはダナエに怒っている。
いつもとまったく立場が逆転して、アドネは少しだけ笑ってしまった。
「ごめんね、笑っちゃって。」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
「まあこれはあんた達二人の問題だから、私がとやかく言えないわ。
でも相談くらいなら乗るわよ。」
「ねえよ、相談なんて。」
「ダナエは?」
「私は・・・・、」
ダナエは顔を上げ、コウの方を見ようとする。
しかしすぐに顔を逸らし、俯いてしまった。
「今は・・・・私たちのことより、邪神のことを話し合わないと。」
そう言って表情を引き締めた。
「私は・・・・、」
「うん。」
「ここに残る。」
「え?」
アドネは思わず聞き返す。
ダナエのことだから、ぜったいに地球へ行くと思っていた。
「ダナエは邪神を追いかける気がないの?」
「ううん・・・邪神は絶対に倒すわ。」
「じゃあどうして残るのよ?」
「だってみんなが地球へ行っちゃったら、ラシルはどうなるの?」
「どうなるって・・・ユグドラシルとキーマがいるじゃない。」
「でもジル・フィンは言ってたじゃない。
その二人だけだど、ラシルを守るのは難しいって。」
「だからこそ神器を置いていけって言ってんのよ。まあ私は反対だけど。」
「だから私が残る。私は二つも神器を持ってるし、それに前よりもずっと強くなったし。
だからみんなは自分の神器を持って、地球へ行ってほしいの。」
「ああ、なるほど!それはいい考えかもね。」
アドネは「ねえジル・フィン」と笑いかけた。
「ラシルと地球、それぞれに神器を持たせればいいじゃない。それなら問題ないでしょ?」
「・・・・・・・・・・。」
「何よ、浮かない顔して。」
せっかく良い案が出たと思ったのに、ジル・フィンは納得していなかった。
眉間に皺を寄せ、「ダナエ」と呼んだ。
「神器の最大のメリットは、神獣を呼び出せることなんだ。
ラシルと地球で分散させたんじゃ、それが出来なくなる。」
「そんなの分かってるわ。だから私が残るって言ってるんじゃない。」
「しかし神獣がいなければ邪神に対抗できない。」
「じゃあ地球はどうなるの?
あの星が邪神のモノになったら、きっとラシルにも攻めてくるわ。
それも地球のおっかない悪魔をたくさん連れて。」
「そうなるだろうね。でも僕はこの星の神なんだ。
だから一番に考えるのはラシルのことさ。」
ジル・フィンは黒く汚れた海を見つめる。
暗い雲から降った雨のせいで、ラシルの海は汚れ切っていた。
「僕はラシルの海神だ。だからこの星の海が汚れるのを見ていられない。」
「ジル・フィンの気持ちは分かるわ。だけどそれは地球だって同じじゃない。
あの星だってたくさんの命が住んでいて、それが邪神に滅茶苦茶にされるかもしれないのよ?」
「地球には地球の神がいる。彼らがラシルのことを考えると思うかい?」
「そういうことじゃなくて、どっちの星のことも考えないと。
ラシルと地球、どっちかだけ助かればいいなんてことはないわ。」
「それぞれの星に神がいて、それぞれの星のことを考えればいいんだ。
たくさんの星々のことを考えるのは、宇宙の中心にいる大きな神だけでいいんだよ。」
ジル・フィンが一番に考えるのはラシルのこと。
それは当然のことだし、間違ったことではない。
ダナエにもそのことは分かっていたが、だからといって地球を見捨てるような真似は出来なかった。
「私はあの星が嫌い。いっつも戦ってばかりだもの。
それも何かの為に戦うんじゃなくて、戦いの為の戦いをやってるわ。」
かつて地球に行った時、あの独特の空気に馴染めなかった。
美しい星ではあったが、それと同時に不気味な生々しさがあった。
それはいつでも戦いをしているせいだし、必ずと言っていいほどどこかで殺し合いが行われているからだ。
しかし大きな魅力もあった。
「地球の命はみんな寿命を持ってる。限られた時間の中を、精一杯生きてるわ。
あの輝きはラシルにも月にもないものだった。」
「ラシルの住人だって寿命はあるよ。地球が特別なんじゃないさ。」
「そうだけど、でも・・・・難しいな。
あの独特の生々しい空気は嫌いなんだけど、でもそんな中だからこそ、短い命が輝くのかなって・・・・。
ドロっとした世界の中で、まるで花火みたいに飛び散ってるの。」
一瞬の輝き。
地球にだけあった、あの何とも言えない妙な魅力。
ダナエはその魅力に惹かれて、自ら永遠の寿命を手放した。
それほどまでに、あの星の命から魅力を感じた。
ジル・フィンは腕を組みながらこう答えた。
「君の気持ちはよく分かるよ。なぜなら君には地球の人間の血が流れているからね。
そういうものに魅力を感じたとしても、不思議じゃないさ。」
「じゃあ・・・・、」
「しかし神器は置いていってもらう。」
「・・・・やっぱりダメ?」
「すまないね。僕が一番愛しているのはこの星なんだ。
その輝きを取り戻す為には、絶対に神器が必要なんだ。」
頑なに譲らないジル・フィン。
しかしダナエも諦めない。
どうにか説得しようと口を開きかけた。
すると突然コウが立ち上がり、部屋を出て行こうとした。
「コウ、君はどっちなんだい?地球へ行くのか残るのか?
そして神器はどうしたい?」
ジル・フィンが尋ねると、コウは迷うことなく答えた。
「地球へ行く。」
「では神器は?」
「持ってく。」
「僕はうんとは言わないよ。」
そう答えると、コウは強い目で振り返った。
「あれはあんたのもんじゃない。武神が俺たちに託したんだ。」
「いや、あれはラシルの財産さ。武神がこの星の為に残したんだからね。」
「じゃあ力づくで取り返してみろよ。」
「物騒なことを言うね。僕は戦いは好まない。だから君たちに納得してほしいんだ。」
「俺だってうんとは言わねえよ。これは持って行く。
だけど全部じゃない。二つはこの星に残してく。」
そう言ってダナエを見つめた。
「このバカが残るって言ってんだ。それでいいだろ。」
「しかし二つだけじゃ神獣は呼び出せない。」
「もしもの時はそいつが命懸けで戦うよ。
なんたって一瞬の輝きを大事にしてるんだ。
邪神と相討ちになったとしても、そいつにとっちゃ本望だろうぜ。」
コウは辛辣な口調で言い放つ。
するとアドネが「ちょっと!」と立ち上がった。
「あんた今のはヒドイわよ!」
「どこが?」
「それじゃダナエがどなってもいいみたいな言い方じゃない。」
「別にそんなこと言ってないだろ。」
「いいや、そんな風に聴こえた。
いくら喧嘩してるからって、そういう言い方はあんまりよ。」
アドネはダナエを振り返り「気にしなくていいからね」と言った。
しかしコウは「そんな奴ほっとけよ」と突き放す。
「ラシルに残るのも、永遠の寿命を手放したのも、そいつの勝手なんだから。
その結果どうなろうと、全部自分の責任だ。」
「だからあ!なんでそんな言い方・・・・、」
アドネはさらに喰ってかかる。
しかしダナエは「いいの」と止めた。
「コウが怒るのは当然だから。」
「でもあんな言い方・・・・、」
「ありがとね、アドネ。心配してくれて。
でもコウの言う通り、これは自分で決めたことだから。
だからその結果どうなろうと、それは私の責任。」
「ダナエ・・・・。」
ニコリと笑うダナエだったが、その笑顔は寂しそうだった。
コウは一瞥をくれ、何も言わずに出て行く。
アドネは交互に二人を見つめて、「もう!」と怒った。
「なんでそんなに喧嘩するのよ!」
「私のせいよ。永遠の寿命を手放すなんて大事なことを、勝手に一人で決めちゃったから。」
「でもダナエにはダナエの考えがあったんでしょ?
アイツったらそれも聞かずにさ・・・・、」
「ううん、コウが怒ってるのはそういうことじゃない。」
ダナエは視線を落とし、自分の手を見つめた。
進化を終えても、姿形は変わっていない。
しかし自分でも気配が変わったのは分かる。
妖精の中に、少しだけ人間の気配が混じっていることを。
「あの時、私は決断を迫られたわ。」
「決断?」
「銀色の光に包まれて、最後の進化をしようとしていた時。
あの時しか、永遠の寿命を手放すチャンスがなかったの。」
「どうして?進化ならまたするんでしょ?
ならその時に決めればよかったじゃない。」
「ううん・・・私はもう進化はしない。
だって今までの進化で、もう妖精としては大人になったからね。
これからは普通に歳を取るだけなの。」
「でも今までは何度も大きな進化をしてきたじゃない。
だったらこれからも・・・・、」
「それは私が月の王女だったから。」
「え?今でも王女でしょ?」
アドネは首を傾げる。
ダナエは「もう違うわ」と答えた。
「私は月の魔力を手放した。その時点でもう月の王女じゃなくなったの。」
「どうしてよ?あの魔力を手放したからって、何か変わるわけ?」
「月の魔力は月を治める為にあるのよ。そしてその力は、月の統治者が引き継ぐの。
でも私はその魔力を放棄した。
それってつまり、月の統治者にはなりませんよっていうのと同じ意味なの。」
ダナエは窓の外を見つめ、去っていった月の魔力を思い浮かべた。
「月の魔力は新しい統治者を探すわ。
それが誰になるのか分からないけど、少なくとも私じゃない。
一度手放した者には、二度とを戻って来ないから。」
「なら今までの大きな進化は、ダナエが月の王女だったからってことなの?」
「そうよ。月を治めるにはそれなりの力がいるもの。
でも今はもう違う。だからあれが最後の進化。
そして・・・・その時しかチャンスがなかった。
永遠の寿命を手放すチャンスが・・・・・。」
再び手元を見つめて、ギュッと握りしめる。
「・・・前から考えてたんだ。寿命のある人生を生きてみたいって。
でも誰にも言わなかった。
だって言う機会ならいくらでもあると思ってたし、今は邪神を倒す方が先だって思ってたから。
だけど・・・・ちゃんと言うべきだった。少なくともコウには・・・・。」
ダナエは目を閉じ、コウの顔を思い浮かべる。
怒ったり笑ったり、喧嘩したり。
目まぐるしく表情が変わっていく中で、最後に向けられたあの目が浮かんだ。
「コウは本気で怒ってた。こんな大事なことを、一言も相談しなかったから。
私たち、ずっと一緒にいようって約束したのに、その約束を破っちゃったのよ。
私の勝手のせいで・・・・。」
瞼の裏に浮かぶコウは、今もダナエを睨みつけている。
妖精の寿命は永遠で、だからこそ永遠の愛を誓える。
それを一言も告げずに、一方的に破ってしまった。
「いくらあの時しかチャンスがなかったからって、やっぱり言うべきだった。
いつでも言えるなんて思ってたから、コウを傷つけて・・・怒らせた。」
「ダナエ・・・・。」
「私からなのに・・・・好きって言ったの。好きになったのも私の方からなのに・・・。
コウに一度フラれて、でもそれでもずっと好きで、それで昨日の夜に初めてあんなことになって・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「私はずっとコウを追いかけてた・・・・。いつだって守られてるのは私の方で、いつだって助けられて・・・・・。
ワガママばかり言って、困らせてばっかりで・・・・でも・・・コウはいつでも傍にいてくれた。
一度死んだのに、私の為にまた戻って来てくれた・・・・。
全部私の為に・・・・。」
ダナエの声がだんだん掠れていく。目尻が濡れて、顔が下がっていく。
アドネは手を伸ばし、そっと肩を抱いた。
「一緒にいようって約束した・・・・。ずっと一緒にいようって・・・。
でも私からそれを破ったの・・・・。何も言わずに・・・・勝手に破った!」
「・・・・・・・・・。」
膝の上でギュッと手を握り、「ごめんなさい・・・」と呟く。
アドネは何も言わずに肩を抱いていた。
今は何を言っても、ダナエの胸には届かない。
友達として出来ることは、ただ傍にいてやることだけだった。
昔のダナエなら、声を上げてワンワンと泣いただろう。
しかし今の彼女はグッと堪える。
妖精年齢で成人して、以前のような子供ではなくなったから。
そんなダナエを見て、アドネは少しだけ寂しく思った。
前みたいにワンワン泣いた方が、ずっと楽だろうにと。
そうすれば抱きしめてやれるし、慰めの言葉もかけてやれる。
《ダナエ・・・もう大人になっちゃったのね。》
ずっと妹のように思ってきたのに、あっという間に大人になってしまった。
アドネにとっては、嬉しさよりも寂しさが勝った。
「部屋に戻ろうか?」
そう言うと、ダナエは首を振った。
ズズッと鼻をすすり、ゴシゴシと目を拭う。
「ごめん・・・・こんなの今は関係ない話なのに・・・・。」
「いいのよ、だって友達なんだから。」
「今は・・・私とコウのことを話してる場合じゃない・・・・。
これから私たちがどうするかを決めないと。」
グッと表情を引き締め、ジル・フィンを振り向く。
「ごめんね・・・話の腰を折っちゃって。」
「いいさ。色んなことがある年頃だからね。」
ジル・フィンはポンとダナエの頭を撫でた。
「ダナエ、あんまり無理して大人っぽく振る舞う必要はないんだよ。」
「無理なんかしてないわ。ただ・・・ずっと子供じゃいられないから。」
「君が望もうと望むまいと、大人にならなきゃいけない時がやってくる。
僕にはまだその時が来たようには思えないけどね。」
もう一度頭を撫でて、「君の言う通りにしよう」と頷いた。
「僕はラシルを守りたい。
でもあまり自分の主張だけを通すのは、君たちを苦しめてしまうようだ。」
「ジル・フィン・・・・。」
「だからここはダナエの案で行こう。君はここに残り、僕たちと一緒に戦う。
他のみんなは邪神を追って地球へ行く。そして神器はそれぞれが持てばいい。」
「いいの?ほんとに?」
「いいとは思わないけど、でも君たちがいなければ、ここまで戦うことは出来なかった。
だったら僕のワガママだけ通しちゃ悪いさ。」
そう言って肩を竦め、部屋から出て行く。
「ありがとう・・・ジル・フィン。」
「僕は海にいる。何かあったら呼んでくれ。」
「うん。ああ、それと・・・・、」
「なんだい?」
「ユグドラシルは?ニーズホッグもいなくなってるみたいだけど・・・。」
「二人はバージェス大陸に向かったよ。避難している人達が大勢いるからね。
誰かが守っていないと。」
「ミミズさんも一生懸命頑張ってくれたし、会ったらお礼を言わなきゃね。」
ジル・フィンはニコリと頷き、船から出て行った。
アドネは「さて」と立ち上がる。
「私はノリスたちに知らせてくるわ。」
「あ、じゃあ私も行く。」
「あんたはコウに知らせてあげなよ。」
「え、でも・・・・。」
「だってしばらく離れ離れになるかもしれないんだよ?
だったらきちんと話し合わなきゃ。」
バシっとダナエの肩を叩き、「大丈夫」と励ます。
「アイツ拗ねてるだけなのよ。根っから怒ってるわけじゃないわ。」
「だけど私から約束を破っちゃったんだよ?絶対怒ってるに決まってる・・・。」
「だとしても、このままでいいわけがないわ。」
アドネは厳しい顔で見つめる。
「あんたらの仲が悪いと、こっちまでヤキモキしちゃうのよね。
これはみんなの為だと思って、ちゃんと話し合ってきなよ。」
「みんなの為・・・・。」
「ダナエとコウが私たちの中心でしょ?
その二人がしょげてちゃ、戦う気も起きないってもんよ。」
「アドネ・・・。」
アドネは微笑みを残し、部屋から出て行く。
ダナエは俯き、じっと目を閉じた。
「そうだよね。ちゃんとコウと向き合わなきゃ。」
自分を励ますように言って、「よし!」と立ち上がる。
「一番大事な人なんだもん。逃げてちゃダメだわ。
ちゃんと私の気持ちを伝えないと。そしてコウの気持ちも聞かないと。」
頬を叩き、気合を入れる。
すると後ろから「いつもの嬢ちゃんに戻ったな」と声がした。
「カプネ。」
「船に戻ってからずっとしょげた顔してたからよ。」
「ごめんね、心配かけちゃって。」
「良いダチを持ったな。」
「うん。」
ダナエは仲間の顔を思い浮かべ、「私って周りに恵まれてる」と頷いた。
「アドネもシウンも、それにノリスもマナも・・・ううん、今までに出会ったたくさんの仲間に支えられてきた。
もし一人だったら、絶対にここまで辿り着けなかったわ。」
「みんな嬢ちゃんに惹かれて集まってきたんだよ。俺だってそうだ。」
「ふふふ。」
「なんだ?」
「カプネ、泣いてる。」
「ち、違わい!これは煙管の煙が染みただけで・・・・、」
ズズッと鼻をすすり「チクショウ!」と唸る。
「歳取ると涙脆くなっていけねえぜ。
お前えらみたいな若いモンが、色んなもんにぶつかって頑張ってるのを見ると、どうしても・・・・ぐふッ!」
ハンカチを取り出し、ブチ〜ンと鳴らす。
ダナエはクスクス笑って、カプネの手を握った。
「私はここに残るから、みんなを地球まで運んであげてね。」
「おう・・・・。」
「ほんとはユグドラシルの根っこを通れば早いんだけど、地球と月は悪魔の手に落ちてるだろうから・・・・、」
「分かってら。俺に任せとけ!」
ドンと胸を叩き、自信満々に頷く。
ダナエは「おじいちゃんがいたら、カプネみたいな感じなのかな」と笑った。
「ば、バッキャロウ!まだおじいちゃんなんて歳じゃねえや!」
「ごめんごめん、でもカプネも大事な仲間。いつも助けてくれてありがとね。」
「照れるからやめろよチクショウ。」
ううん!と咳払いをして、椅子から立ち上がる。
「おお〜・・・長く座ってたから腰が痛てえ。」
「後で揉んであげようか?」
「おお、頼むわ。」
ゴキゴキっと肩を回し、モコっと腰を捻る。
「ただよ、地球へ行くのはいいんだが、今すぐってわけにはいかねえ。」
「そんなに腰痛がひどいの?」
「そうじゃねえ。船が傷んでんだ。」
そう言ってポンポンと壁を叩いた。
「激戦ばっかりだったからなあ。あちこちにガタが来てる。」
「ええ!まさか壊れたりしないよね?」
不安そうに尋ねると、「それはねえ」と笑った。
「こいつは相当丈夫な船だ。しっかり直せばすぐに飛べる。」
「よかったあ〜・・・地球へ行けないならどうしようかと思った。」
「だがちょっとばかり時間がかかる。
俺は子分どもとすぐに取り掛かるからよ、嬢ちゃんたちは休んどいてくれ。」
「うん、お願い!・・・・ちなみにどれくらい掛かりそう?」
「そうだな・・・・ざっと五時間ってところか。」
「五時間ね。ならみんなにそう伝えとく。」
「おう。ただし・・・・、」
「ただし?」
「腰痛がひどくならなけりゃな。こいつが暴れ出したら、今日中ってわけにはいかねえかもしれねえ。」
「大丈夫、その時はバキバキに揉んであげるから。」
ダナエはポキポキと指を鳴らす。
カプネは「お手柔らかに頼むぜ」と笑った。
「じゃあお願いね、おじいちゃん。」
「だ、だから誰がおじいちゃんでい!」
カプネは顔を真っ赤にして怒る。
ダナエはクスクス笑って、ほっぺにチュっとした。
「それじゃまた後でね。」
手を振りながら出ていくダナエ。
カプネは「ったく・・・」と煙を飛ばした。
「おじいちゃんか・・・・。まあそれも悪くねえかもしれねえな。」
この船は地球へ行き、また戦火を駆け巡る。
その為にもしっかりと直さないといけない。
「若い奴らが頑張れるように、もうひと働きするか。」
痛む腰を押さえ、ポキっと鳴らした。

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