ダナエの神話〜星になった神様〜 第百二十三話 残されたもの(2)

  • 2017.04.22 Saturday
  • 16:13

JUGEMテーマ:自作小説

喧嘩をするほど仲がいい。
ダナエとコウは、今までたくさんの喧嘩をしてきた。
その度に仲直りして、そしてまた喧嘩をした。
そうやって二人の絆は深くなって、今では切っても切れないほど強くなっている。
しかし今回の喧嘩は違った。
コウは初めて自分の為に怒っている。それも本気で。
だからダナエは怖かった。
この喧嘩はいつもと違う・・・・。
下手をすれば、二度と修復不可能になってしまうかもしれない。
いつもなら、勢いに任せてコウの所へ行く。
謝ることもあるし、自分が正しいと貫き通すこともある。
しかし今回ばかりは勢いに任せられない。
自分の為に怒っているコウと仲直りするには、いったいどうしたらいいのか?
頭の中で幾つも言葉を思い浮かべ、なんと切り出そうかと悩んでいた。
コウの部屋へ向かう足取りは重い。
まるで重りを付けられたように、力を入れないと持ち上がらなかった。
部屋が近づくにつれて、鼓動が速くなる。
足の重りも重くなる。
それでもどうにか部屋の前までやってきて、「ふう・・・」と深呼吸した。
「大丈夫、落ち着いて・・・・。」
胸に手を当て、何度も頷く。
震える手を持ち上げて、コンコンとノックした。
「コウ。」
返事を待つが、何も返って来ない。
もう一度ノックして、「入っていい?」と尋ねた。
するとドアが開いて、「なんだ?」と顔を覗かせた。
「あの・・・・邪神のことについてなんだけど・・・・、」
「ああ。」
「私の案でいくことになったわ。」
「そうか。」
「でもすぐに船を飛ばせないの。
ちょっと傷んでるみたいで、カプネたちが修理してくれてる。」
「うん。」
「五時間くらいで直るって言ってたから、それまでは休んでろって。」
「分かった。」
コウは頷き、そのままドアが閉めようとする。
「あ、待って!」
「なんだ?」
「その・・・・話し合いたいんだけど・・・・、」
「何を?」
「だから・・・私が永遠の寿命を手放したことについて・・・・。」
ダナエは俯き、手をもじもじとさせる。
小さく深呼吸して、ゆっくりと顔を上げた。
「その・・・・ごめんなさい。」
頭を下げて謝ると、コウは「いいよ」と頷いた。
「お前なりの考えがあったんだろ?」
「うん・・・。でも一言も相談せずにこんなことしちゃって、やっぱりコウに悪かったって思ってる。
だから・・・きちんと謝らせてほしいの。」
「もう謝ったじゃん。」
「そうだけど・・・でも私の気持ちを聞いてほしい。どうしてこんなことしたのか。」
「寿命のある人生に憧れた。それだけだろ。」
「もちろんそうだけど、でもどうしてそれに憧れたのかってことを。
それにコウはどう思ってるのかも聞かせてほしい。
その上でもう一度きちんと謝らせてほしいの。
だって・・・・私から約束を破っちゃったから・・・・。」
最後の方は聞き取れないほと小さな声になっていた。
コウがどう反応するのか?
それを想像すると怖かったが、グッと堪えて目を見つめた。
「あの・・・・やっぱり怒ってるよね?」
沈黙になるのが怖くて、自分から言葉を繋ぐ。
するとコウは「いいや」と首を振った。
「お前が勝手なことするなんて、いつものことだ。だから怒ってない。」
「で、でも!ずっと一緒にいようって約束して、それを破っちゃったんだよ?
私から好きだって言って、ずっと一緒にいたいって言い出したのに・・・。」
「それもいつものことだろ。自分から何か初めて、余計なトラブル起こすんだ。
今さらって感じだよ。」
コウの声は冷たい。
ダナエは「コウ・・・」と唇を噛んだ。
何か言わないと、もうこれ以上話し合ってくれない。
そしてこのドアが閉じられて、仲直りできないまま地球へ行ってしまう。
「その・・・私は・・・・コウを傷つけた。
自分のことばかり考えて、勝手なことをして・・・・。
いつものことかもしれないけど、でも今回はそうじゃないわ・・・・。
だっていつか私は死ぬもの・・・・。もう永遠じゃないから。」
ずっとコウの目を見つめていようと思ってのに、だんだんと顔が下がっていく。
足だけでなく、全身に重りを乗せられたように、気分が重くなった。
「この先何十年って時間が過ぎて、私がおばあさんになって、いつか寿命がくる。
その時、私は自分の夢を叶えて満足してるかもしれないけど、コウは違う。
コウはただ私が死ぬを見送るしかなくなる。」
「・・・・・・・。」
「私知ってるのに!残された者がどれだけ辛い思いをするかってことを。
いつかコウが邪神に殺された時、私は気が狂いそうになった・・・・。
自分でもこんな言葉が出て来るんだっていうくらいに、汚い言葉で邪神を罵って。
その後、コウが戻ってくるまで、ずっと傷ついたままだった。
みんなには明るく振る舞ってたけど、でもいつも悲しいままで・・・・、」
大切な者が死んで、残されたものがどれだけ悲しむか。
ダナエは痛いほど知っていた。
それなのに、その悲しみをコウに背負わせようとしている。
今になって、自分がどれだけ勝手なことをしたのか理解した。
悔やんでも遅く、謝って許してもらえるようなことじゃない。
必死に繋ごうとしていた言葉は、胸につかえて出てこなくなった。
「・・・ごめん・・・・ごめんなさい・・・・。」
ボロボロと泣いて、ただ謝ることしかできない。
するとコウはポンと頭を叩いた。
「泣くなよ、大人になったんだから。」
「ごめん・・・・。」
コウは「いいよ」と頷く。
そっとダナエを抱きしめて、ポンポンと背中を撫でた。
「お前はいっつも勝手だ。でもそんなお前が好きだから一緒にいるんだ。」
「コウ・・・・。」
ダナエはしばらくコウの胸で泣いた。
本当ならコウの方が泣きたいだろうに、なぜか自分が慰められている。
それが情けなくて、申し訳なくて、コウの顔を見つめた。
「私・・・・死ぬまでコウと一緒にいる・・・。
いつかお別れしちゃうけど、でもその時まではどこにも行かない。
何があっても一緒にいる!だから・・・・ごめんなさい。」
「もういいって。謝らなくて。」
そう言ってダナエの涙を拭った。
「お前の気持ちはよく分かった。だからもう自分を責めるな。」
「だって・・・・、」
「お前は一度こうだと思ったら、絶対に後ろに退かないからな。
寿命のある人生に憧れたんなら、いつかきっとそうしてたはずだ。」
「でもそうする前に相談するべきだった!」
「仕方なかったんだろ?あれが最後の進化だから。」
そう言われて、ダナエは目を丸くした。
「知ってたの・・・・?」
「当たり前だ。だって月の魔力を手放したんだから、お前はもう月の王女じゃなくなる。
なら進化はあれが最後だ。
そして進化する時にしか、寿命をどうこうすることなんてできないよ。」
「・・・・・・・。」
ダナエはギュッと抱きつく。
コウはちゃんと自分の気持ちを理解してくれていて、その上で怒っていた。
なのにこうして許してくれる優しさに、なんの言葉も出なかった。
またしばらく泣き続け、それからズズッと鼻をすすった。
頬も鼻も真っ赤になって、目も腫れぼったくなる。
そんなダナエの顔を見て、コウは可笑しそうに笑った。
「こんな短い時間に、よくそれだけ泣けるな。」
「だって・・・・、」
「でもそれもお前のいい所だよ。泣きたくても泣けない奴ってのはいるからな。」
コウは自嘲気味に言う。
泣きたい時に泣けないのは、自分自身のこと。
なぜなら自分が泣いてしまったら、ダナエが泣くことが出来なくなるからだ。
「いいよ、もういいんだ。」
「コウ・・・・・。」
ダナエはゴシゴシと目を拭い、コウの手を握りしめた。
「約束する・・・・寿命がくるその時まで、絶対に一緒にいるって。」
「うん。」
「もうこんな勝手なことはしない。コウを傷つけるようなことはもうしない。」
「そう自分を追い込むなって。自分勝手なのがダナエなんだから、しょうもない約束したら困るだけだぜ。」
「ほんと!ほんとだから!」
「分かった分かった。」
コウはもう一度ダナエを抱きしめて、「もう泣くな」と慰めた。
「コウ・・・・ありがとう。」
もしかしたら、二度と仲直りできないかもしれないと思っていた。
なのにこうして許してくれて、抱きしめてくれる。
《私・・・コウに甘えてばっかりだ。だから今度は私がコウを支えなきゃ。
何かあった時に、今日のコウみたいに大きな優しさで・・・・、》
そう思いかけた時、「なあ」とコウが言った。
「実はさ、俺も考えてることがあるんだ。」
「なに・・・?」
ダナエは顔を上げ、真っ直ぐに見つめる。
「俺さ、この戦いが終わったら月へ戻ろうと思う。」
「え?」
ダナエは固まる。どういう意味か分からず、パチパチと瞬きをした。
コウは小さく笑って、部屋の中に入っていく。
ベッドに腰掛け、ポンポンと隣を叩いた。
「・・・・・・。」
ダナエも部屋に入り、ゆっくりとドアを閉める。
そして隣に腰掛けて、コウの顔を見つめた。
コウは窓の外に目をやり、暗い雲を見上げる。
目を細め、その視線の先に何かを描くように。
ダナエは同じように窓の外を見つめ「ねえ?」と尋ねた。
「月を思い浮かべてるの?」
「ああ。」
「その・・・・月へ戻るってどういうこと?」
「どうもこうも、そのままの意味だよ。
この戦いを無事に終えることが出来たら、俺は月へ帰る。
そしてあの星を復興させるんだ。」
「復興・・・・。」
「邪神のせいで、月は滅茶苦茶にされた。
あの星の妖精は全部食べられて、今は誰もいない。」
「・・・・・・・・・・。」
ダナエはギュッと手を握る。
故郷が滅茶苦茶にされた時のことを思い出し、胸が張り裂けそうになった。
「邪神のせいで・・・・私たちの故郷まで滅茶苦茶にされた・・・・。
アイツだけは許せない・・・・。」
怒りが滲み、「私も手伝う!」と言った。
「月は私たちの星だもん!だからこの戦いが終わったら、私も復興を手伝う!」
コウの手を握り、「一緒にやろう!」と頷いた。
「大変だろうけど、二人ならきっと出来る!
邪神に壊された大事なものを、元に戻そう!」
意気込んでそう言うと、コウは首を振った。
「いや、お前はいい。」
「な・・・なんでよ!私だって月の妖精よ!?」
「知ってるよ。」
「それに一人で復興なんて無理よ!」
「だろうな。」
「だったら私も手伝う!ううん、やる!これは私たちがやらなきゃいけないことだから!」
ダナエは力強く言う。
この戦いが終わったら、自分の夢はいつでも追える。
ならその前に、やらべきことをやらないといけない。
あの美しい月の景色を蘇らせて、また妖精の国を建てるのだ。
しかしコウは首を振る。「お前は来なくていい」と言って。
「これは俺の仕事なんだ。だからお前は来なくていい。」
「なんでよ!?なんでそんなこと言うの!月は私たちの故郷なのよ?
どうして自分だけでやるなんて言うのよ!」
ダナエは立ち上がり、顔を真っ赤にして怒る。
コウは窓の外を見つめたまま、その言葉を無視して続けた。
「俺は月に帰る。そしてあそこを復興して、統治者を目指すつもりなんだ。」
「統治者?」
思いもしないことを言われて、ダナエの勢いは削がれた。
《統治者?いったいどういうこと?》
眉間に皺を寄せながら、「それって・・・・」と尋ねる。
「コウが月を治めるってこと?」
「そうだよ。」
「で、でも・・・・そんなの・・・・、」
「そんなの・・・・なんだ?」
「だ、だって!月を治めることができるのは、統治者の血を引く者だけよ。」
「知ってる。」
「知ってるならどうして統治者なんて・・・・、」
「その血を継ぐ者が、月の統治を放棄したから。」
そう言われて、ダナエは固まった。
「ダフネとアメルが死んで、ケンは行方不明。
なら次に月を治めるのは、お前しかいない。」
「・・・・・・・・・。」
「でもそのお前も月の王女じゃなくなった。
だったら他の誰かが統治者にならなきゃいけない。」
「・・・・・・・・・。」
「俺は月を元に戻す。そして統治者になる。
まあ月の魔力が俺を認めてくれたらの話だけど。」
コウは立ち上がり、窓の傍へ行く。
この星からでは月は見えないが、まるでそこにあるかのように目を細めた。
「俺は月が好きだ。ジル・フィンがラシルを愛するように、俺だって月を愛してる。
でもお前と宇宙の旅に出たのは、あの時はみんな健在だったからだ。
ダフネもアメルもケンもいた。
だから俺たちがどうこうしなくなって、月は安泰だった。」
「・・・・・・・・・。」
「でも今は違う。誰かがあの星を復興しないと。
俺は月の妖精だから、それをやる義務がある。」
コウの口調は静かだが、とても力強い。
ダナエは何を言い返すことが出来ずに、ベッドに座り込んだ。
「別にお前を責めてるわけじゃないぜ。
あの星を飛び出した時点で、お前は月に戻らないって分かってた。
そして俺もそれに付き合うつもりだった。
でも統治者がいなくなった今、それは出来ないんだ。」
「・・・・・・・・。」
「お前は王女の地位を捨て、永遠の寿命まで捨てた。
そこまでの覚悟で選んだ道なら、月へ戻るべきじゃない。」
コウは振り返り、ダナエの横顔を見つめる。
彼女の顔はとても切なくて、目の焦点が定まっていない。
ダナエはショックを受けている。
それは分かっているが、、それでもこう続けた。
「お前はもう月へ戻っちゃダメなんだ。
そこまでして選んだ道なら、甘えは許されねえぜ。」
「・・・甘えるなんて・・・・そんなつもりは・・・・、」
「じゃあ寿命まで月で過ごすか?」
「そ、それは・・・・、」
「一生あの星にいられるか?」
「・・・い、いるわよ!だって月は私の故郷で・・・・、」
「・・・・・・・・。」
「わ、私の・・・・・、」
最後まで言い切ることが出来ない。
なぜなら自分から統治者であることを放棄したのだから。
コウは無言の目で睨む。
大きなプレッシャーをかけるように。
「もしどうしても月へ戻るっていうんなら、一生あの星にいてもらう。」
「・・・・・・・・。」
「でもそうなると、月の魔力を手放したことは無意味になる。」
「・・・・・・・・・。」
「永遠の寿命まで放棄して選んだ自分の道だ。
お前・・・・そんなんで一生あの星で過ごして満足なのかよ?」
コウの問いは真剣で、ダナエの胸を抉る。
この部屋へ来る前、こんなことを言われるなんて思いもしなかった。
コウは許してくれるか?仲直りできるか?
そのことしか頭になかった。
しかしコウの言葉を聞くうちに、いかに自分が身勝手なのかを思い知らされた。
コウはずっとダナエのこと、そして月のことを考えていた。
それなのに、自分はただ自分のことばかり・・・・・。
頭が真っ白になって、何も言うことが出来ない。
一つも言葉が浮かんでこない。
ぼやける視点で、ただ床を見つめていた。
コウは窓の外を睨みながら、ダナエに背中を向ける。
「地球へ行って邪神を倒すことが出来たら、そのまま月へ帰る。
そしてもう二度とラシルには戻ってこない。」
「二度と・・・・。」
ダナエはピクンと顔を上げる。
「だけど邪神がラシルに戻って来たら、その時は俺も戻って来る。
そしてアイツを倒したら、俺の旅は終わりだ。」
「・・・・・・・・・。」
コウの目に迷いはなく、強い意志を感じさせる。
ダナエは彼の背中を見つめたまま、「終わり・・・・」と呟いた。
二度と戻らない。
俺の旅は終わり。
頭の中に、グルグルとリフレインする。
近くに立つコウの背中が、すごく遠くに見える。
二つの言葉がそこらじゅうに溢れているかのように、胸を締めつけた。

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