微睡む太陽 第一話 UFOはどこに(1)

  • 2017.05.05 Friday
  • 10:41

JUGEMテーマ:自作小説
幼い頃から超常現象が好きだった。
テレビでそういう番組があると、必ず見ていた。
ネッシー、ミステリーサークル、チュパカブラ。
心霊系にはあまり興味はないけど、不可思議な出来事や生き物は好きだった。
特にUFOが好きで、毎晩空を見上げていた。
・・・いや、今でも見ている。
朝でも昼でも夜でも、暇さえあれば空飛ぶ円盤を探している。
UFOは一番の憧れだったし、できれば乗りたい。
出来ることなら、宇宙人がさらに来てくれないかと思っている。
だけど待てども待てども、まったく来てくれない。
テレビなんかじゃ「UFOに乗せられた!」なんて人がたくさんいるのに、なんで俺の所には来てくれないのか?
悔しいし、すごい不満だ。
こうなったら自分で探しに行くしかない。
きっとどこかにいるはずで、一生懸命探せば見つかるはずなんだ。
今日はバイトが休みで、朝から出かけた。
ちょっと曇っているけど、陽は射している。
大きなスコップを担ぎ、弁当の入ったリュックを背負い、登山用のブーツを履く。
向かうは少し離れた山。
よく行く銭湯のじいさんが、ここにUFOが出ると言っていたからだ。
だから大学を出てからは、毎日通っている。
もう三年も通い続けている。
山を探索したり、穴を掘ったりして、どうにかUFOの形跡がないか調べてる。
それにたまにはテントを張って泊まる。
頂上には大きな溜め池があって、その傍にテントを張る。
周りに木立がないから、よく空が見えるんだ。
でもあまりに空が見えるから、夜になるとUFOを探すのが大変だ。
だって星がすごくよく見えるから、UFOを見逃すかもしれない。
探し物をするには注意が必要で、いつだって神経を張りつめてなきゃいけないんだ。
俺は車を走らせて、少し離れた山までやって来る。
麓には墓地があって、傍に大きな家がある。
この墓地を管理している人の家で、朝はいつも掃除している。
俺は空き地に車を停めて、墓地へ降りた。
リュックを背負い、スコップを担ぎ、ブーツの紐をきつく結ぶ。
ほんとはテントを張りたかったんだけど、明日は朝からバイトだ。
休みを入れようとしたら、店長から『ダメ』と言われて、すごいショックだった。
まあ仕方ない。今日はテントは諦めよう。
リュックを担ぎ直して、墓地の奥に向かう。
そこから山に登れるんだ。
スコップとリュックの金具が当たって、ガランガランと音が鳴る。
すると墓地を掃除していたおばさんが「おはよう」と挨拶してきた。
「あ、どうも。」
「今日もUFO?」
「はい。」
「いつも精が出るね。」
「仕事なんで。」
「ふふ。」
おばさんはニコっと笑う。
俺は会釈して山に向かった。
「今日は午後から雨らしいけど、合羽とか持ってるの?」
おばさんが大きな声で呼ぶ。
「あ、大丈夫です。」
「この前みたいに風邪ひくよ?」
「この前引いたから大丈夫です。」
「ちょっと待ってて。」
おばさんは家に戻って、折り畳みの傘を持ってきた。
「はい。」
「あ、大丈夫です。」
「でも仕事でしょ?じゃあちゃんと持っていかないと。」
「ああ、じゃあ。」
傘を受け取って、広げてみる。
「今差してどうするの?」
おばさんは可笑しそうに笑う。
俺は「日除けです」と答えた。
「それにこの方が目立つから、UFOが見つけてくれるかもしれないし。」
「大変な仕事ね。」
「これで給料が出たらいいんですけどね。でもタダの仕事なんです。」
「人生の仕事だもんね。」
「そうなんですよ。俺はUFOに乗る為に生まれてきたんで。」
クルクルと傘を回して、山に向かっていく。
「あんまり無理しないようにね。」
「仕事だから大丈夫です。」
山道に入って、ゴツゴツした岩道を登っていく。
昔は川が流れてたらしくて、そのせいで地面は石だらけだ。
でも慣れた山だから楽チンに登れるけど。
マリオみたいにピョンピョン跳ねながら、スイスイ登っていく。
でも傘に枝が引っかかって、転びそうになった。
「今はしまっとくか。」
クルクルっと畳んで、バチンと柄を戻す。
リュックのポケットに突っ込んでから、また歩き出した。
そんなに高くない山だから、一時間ほどで登れる。
だけど一直線に頂上まで向かうわけじゃない。
怪しい場所を見つけたら、徹底的に調べるのだ。
頂上までのルートは幾つかに分かれていて、俺は分岐点で立ち止まる。
今日は左の方から攻めてみることにした。
途中でウサギみたいな形をした、大きな岩が出て来る。
おもちみたいに丸まった、可愛い感じのウサギだ。
上の尖った部分が、上手い具合に耳みたいになっている。
岩の傍には「兎羽岩」と看板が立っている。
読み方は「とばいわ」
昔に大きな兎がいて、悪さばかりしてたらしい。
でも神様に怒られて、その後は山を守る神獣になったとか。
そんな伝承が看板に書かれている。
だからこの山は「兎羽山」という。
もしほんとにそんな兎がいたら、一種の未確認生物だ。
この岩が動き出してくれたら面白いのに。
そう思いながら、岩を過ぎていく。
細い道を歩き、高い杉が並ぶ場所に出た。
枝の間から光が漏れて、倒木を射している。
そこにはアリの行列が出来ていて、せっせと餌を運んでいた。
今は10月の頭だから、もうじき冬だ。
アリにとっては一番忙しい時期かもしれない。
しゃがみこんで、しばらくアリの仕事ぶりを眺める。
・・・・誰もいない山。
ものすごい静かで、耳鳴りがしてきそうなほどだ。
たまに葉っぱが揺れる音が響くくらいで、あとは無音。
周りは木立で、ここにいるのは俺とアリと木だけ。
この山へ来るといつも感じることだけど、ここはちょっと不思議な世界だと思う。
もし街にUFOが降りてきたら、みんな驚くだろう。
UFOを信じている俺も驚く。
でもここにUFOが降りてきて、宇宙人が「よう!」って話しかけてきても、きっと違和感はない。
なんでか分からないけど、普通と違うこの空気が、そんな風に思わせるのかもしれない。
しばらくアリの行列を見つめてから、また歩き出す。
茂みを探ったり、穴を掘ってみたり。
ちなみに穴を掘るのは、墜落したUFOの破片でもないかと探してるからだ。
きっと宇宙人は地球人より昔からいるはずだから、過去に墜落したUFOがあっても不思議じゃない。
そう思って穴を掘ってるんだけど、残念ながら今のところは収穫がなかった。
「ダメだな。」
穴を掘るのをやめて、また探索を続ける。
しばらく歩くと、隣の山に続く道に出た。
傍にはコンクリートで舗装された道があって、車で登ってくることも出来る。
俺は真っ直ぐに歩き、隣の山の入り口を目指す。
ここには古いキャンプ場があるんだ。
錆びた水道、ボロい窯、それに汚い便所。
今は誰も使っていないキャンプ場だ。
でも俺は何度か使った。
夜になると不気味だけど、でもそれがいい。
いかにもUFOとかUMAが出てきそうだから。
このキャンプ場を抜けると、ブランコとか鉄棒とかが並んだ、ショボいアスレチックがある。
遊具は少ないけど、可愛らしい動物の石像がたくさんある。
タヌキ、ウサギ、イノシシ、カメ、それにクマ。
けっこうリアルに出来ていて、可愛いんだけど不気味さがある。
夜になったら動き出すんじゃないかと思って、ここでテントを張ったこともある。
でもなんにも起きなかったけど。
「な〜んか・・・今日も収穫がなさそうだな。」
今日は良い予感がしない。
ていうかいつだって良い予感がしない。
だって一度もUFOやUMAに出会ったことがないんだから。
一生懸命探しても、どうしても会えない。
それにいくら穴を掘ったって、UFOの破片は出てこない。
どうせ今日も何も起こらない。
何かを期待しても、何も起こらないんだ・・・・・。
俺はすごく寂しかった。


            *

夕方、山を下りた。
案の定収穫はなかった。
でもいいんだ。これこそ俺の仕事だから。
給料は出ないけど、人生の仕事だ。
金儲けの為にやっているんじゃない。
だからいいんだ。
山を下りた俺は、墓地の傍の家に行った。
庭におばさんがいたので、「どうも」と傘を返した。
「UFO見つかった?」
おばさんは笑いながら傘を受け取る。
「努力が足りないみたいで、まだ見つかりません。」
「雨降らなくてよかったね。」
「はい。」
会釈して「それじゃ」と去る。
「またね。」
おばさんは手を振る。
俺は車に乗って、プップーとクラクションを鳴らした。
家に帰り、荷物を置いて、銭湯に行く準備をした。
俺が住んでいるのはボロい借家だ。
二階建ての民家の、二階の部分だけが俺の部屋だ。
入り口は一階とは別々になってるけど、でも風呂と便所は全て一階にある。
そして一階には別の人が住んでるから、俺の家には風呂も便所もないのだ。
だからもっぱら銭湯。
便所は近所の公民館のを使う。
UFOの捜索道具をしまい、代わりにタオルと桶と替えの下着を持っていく。
銭湯は近くにあるので歩いていく。
徒歩で5分くらいだ。
すごくボロくて汚い銭湯なので、若者は俺しか行かない。
ていうか今でも営業してるのが不思議なくらいに客が少ない。
ペタペタとサンダルを鳴らし、銭湯にやって来る。
レンガ造りの煙突がそびえているけど、これはもう使っていない。
いくらボロい銭湯だからって、今時薪で風呂は焚かないから。
暖簾をくぐり、番台のおばあちゃんに300円払う。
すごい不愛想なばあちゃんで、何も言わずにお金だけ受け取るのだ。
俺はすぐに裸になり、便所かと思うほど汚れた風呂場に入った。
きっと潔癖症の人では入れないだろうな。
いちおうシャワーはあるので、身体を洗う。
クソ熱い湯船につかって、「UFO・・・・」と呟いた。
「いつになったら乗れるんだろ・・・・。このままジジイになっちゃうのかな?」
ボソッと呟いた一言は、隣で顔を赤くしているじいさんの耳に入ってしまった。
「ゆーふぉー?」
ほとんどのぼせた顔で、「ゆーふぉー?」と見つめてくる。
「そうです。UFOが見つからないんです。」
「そんなもんスーパーでも行ったら売ってるだろ。」
「そっちじゃないんです。空飛ぶ円盤です。」
「ああ、宇宙人が乗ってるやつか?」
「そうです。俺はあれに乗りたいんです。でも全然見つからなくて、けっこう困ってるんですよ。」
「儂見たことあるぞ。」
「え!?」
「まだガキの頃にな。空をピューンと飛んでくモンがあってな。」
「どこで見たんですか!?」
「この銭湯の上。」
「ここで?」
「ほんの一瞬な。あれは間違いなく空飛ぶ円盤だった。」
そう言って湯船から出て、身体を洗い始めた。
「あの・・・乗ったんですか?UFO。」
「乗った乗った。」
「ほんとに!?」
「頭ん中にチップも埋め込まれたな。」
「チップ!!」
俺はじいさんの横に座った。
一緒に身体を洗いながら、「それでそれで?」と詰め寄った。
「他の星に連れて行かれた。」
「ほんとに!?」
「遠い星の王女様にも会ったし、宇宙人のご飯も奢ってもらってな。」
「・・・・・・・・。」
「記念写真も撮った。」
「それ見せて下さい!」
「残念だけど、どっかに行っちまってなあ。」
そう言ってニカっと笑った。
「宇宙人はいる。間違いない。」
ポンポンと俺の肩を叩いて、「お先」と出ていった。
「マジか・・・・。」
去りゆくじいさんの背中を見つめながら、ショックで動けなかった。
ゴシゴシと身体を洗い、また湯船に浸かる。
「やっぱいるのか、宇宙人・・・・。」
頭までお湯に使って、ブクブクと息を吐く。
《俺も違う星に行ってみたい!》
すぐに風呂から上がって、番台のばあちゃんに話しかけた。
「あのね、ここUFOが来るみたいなんです!だからこの屋根の上に泊めてもらえませんか?」
必死いお願いすると、ばあちゃんは俺の後ろを睨んで「あんた!」と怒鳴った。
「またからかったね!」
「だって面白えからよ。」
「この子はそういうの本気にするんだよ。何度も言ってるだろ。」
「宇宙人くらいどっかにいるだろ。ここに来ても不思議じゃねえ。」
「あのね、この子は本気でそういうの信じるの。前にも酒屋の大下さんの家の屋根に勝手に登ったんだから。
あそこの息子がUFO見たなんて言うから。」
「だったらここの屋根にも登らせてやりゃいいじゃねえか。」
「ごめんだよ。瓦が傷むだけなんだから。」
ばあちゃんは俺を睨んで「あれは嘘だからね」と言った。
「ここにUFOなんか来ないよ。」
「でもあのじいさんは乗ったんですよ!」
「だから嘘に決まってるだろ。」
「嘘にしては具体的でした。違う星に行ったとか、王女に会ったとか。」
俺は力説する。きっとここにUFOが来たんだって。
ばあさんは「ほらね」とじいさんを睨んだ。
「こうなるんだよ。」
「面白えガキだな。」
「笑いごとじゃないよ。もし勝手に屋根に登られたら、あんたの責任だからね。」
「瓦くらい直してやるよ。それより頭の弱いそのアンちゃんに、ちょっとくらい夢見せてやりゃいいじゃねえか。」
じいさんは服を着て出て行く。
「あんた!言っていい事と悪い事があるよ!」
ばあさんは大声で怒鳴る。
風呂にのぼせたみたいに真っ赤な顔をしながら。
「まったく・・・迷惑なクソジジイめ。」
ぶつぶつ言いながら「あんなジジイの戯言信じちゃ駄目だよ」と睨まれた。
「あんたからかわれてるだけなんだから。」
「からかう?」
「ちょっと変わってるからね。」
「変わってますか?」
「自覚してない時点で変わってるよ。ちゃんと友達とかいるのかい?」
「いえ。」
「彼女は?」
「いますよ。」
「嘘ばっかり。」
「ほんとですよ。でもね、ちょっと前に別れたんです。あんた頭がおかしいって言われて。」
「なら今はいないんじゃないか。」
「顔はいいけど、頭がダメだって言われました。でもIQテストは問題なかったんですよ。だからまともなんです。」
「どっかネジが緩んでるんだよ。酷くなる前に医者行きな。」
そう言ってシッシと手を振った。
俺はいそいそと服を着替えて「屋根はダメですか?」と尋ねた。
「登ったら警察呼ぶよ。」
「ならやめます。」
ペコっと頭を下げて、外に出る。
そしてボロい屋根を振り返った。
「ここにUFOが来たのか・・・・。夜になったら来てみよう。」
その日、夜になるのを待って、銭湯に向かった。
時刻は午前一時、今なら誰もいない。
俺は持って来た脚立をかけて、屋根まで上った。
一晩中ここにいるつもりなので、夜食と飲み物も持ってきた。
今日はちょっと曇っていて、星は見えない。
でもその方がいい。
UFOが来たらすぐに分かるから。
「俺も乗せてくれ。」
そう願いながら、夜空を見上げる。
でも残念ながら、朝になってもUFOは来なかった。
やがてばあさんがやって来て「あんた!」と見つかってしまった。
「登るなって言っただろ!」
「ここUFO来ませんね。」
「早く下りてきな!でないと警察呼ぶよ!」
UFOの来ない場所に用はない。
さっさと屋根を下りると、バチンと頭を叩かれた。
「次やったらほんとに警察だからね!」
「ごめんなさい。」
ペコっと謝って、家に帰る。
そして一睡もしないままバイトに向かった。
「ふああ〜・・・眠。」
ベルトコンベアから流れてくる荷物を、出荷先のボックスに振り分けていく。
このバイトを始めて半年、慣れてはきたけど、その分退屈になってきた。
そして退屈すぎて眠ってしまって、ベルトコンベアからボトボトと荷物が落ちていった。
主任から「何度目だ!」と怒鳴られる。
「ああ、すいません・・・・。」
「またUFOでも探してたのか?ああ!?」
「はい。でも見つからなくて。」
「そりゃ残念だな。でもUFO探すより仕事を探した方がいいぞ。」
「なんで?」
「今日でクビだ。」
「ええ!」
「この前忠告しただろ。こんなミスされちゃあな、配送に時間がかかって仕方ないんだよ。みんなに迷惑がかかるんだ。」
主任は周りを見渡す。
みんな不機嫌な顔で俺を睨んでいた。
「ここにいられちゃ邪魔だから、他の仕事探せ。」
「あの・・・・今月の給料は貰えるんで・・・・、」
「気にしなくても払う。だからもう来るな。」
胸の社員カードを取られて、代わりにタイムカードを押し付けられる。
さて、これでクビになったのは何度目か?
《こっちは真面目に働いてるつもりなんだけどな。》
なにぶん本業が忙しいもので、副業に差し支えてしまう。
また新しいバイトを見つけなきゃと思いつつ、クビになった職場を去った。
UFOを探すのも楽じゃないもんだ。

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