微睡む太陽 第三話 二つの太陽(1)

  • 2017.05.07 Sunday
  • 09:22

JUGEMテーマ:自作小説
俺は今、怪人の館にいる。
オペラ座の怪人に出て来そうな洋館で、中身もまんま洋館だ。
天井にはシャンデリア、壁には絵画が掛かっていて、床には高そうな絨毯が敷いてある。
シャンデリアはオレンジ色の光を灯していて、家の中が夕陽のように染まる。
俺は大きなソファに座って、おばさんと向かい合っていた。
「はい、これでよし。」
口元に消毒と絆創膏を貼ってもらい、「どうも」と頭を下げる。
傍には車椅子の少年がいて、珍しい生き物でも見るみたいに、俺を観察していた。
ちなみに怪人は向かいのテーブルでテレビを見ている。
たまにチラっと振り返って、怖い目で睨んでくる。
《怪人め・・・まだやる気か。》
戦っても勝てないけど、尻尾を巻いて逃げるわけにはいかない。
来るなら来いと睨み返した。
「はいはい、そんな喧嘩腰にならない。」
おばさんが割って入る。
「怪人は危険です。すぐに追い出さないと。」
「今は怪人より勇作君の話を聞かせて。」
「ああ、UFOのことですか?」
「どうしてそんなに興味があるの?」
「それは俺の仕事だからです。」
「うん、だからね、どうしてそれを仕事に選んだのか聞かせてほしいの。」
「どうしてそんなに知りたいんですか?おばさんもUFOに興味が?」
「そりゃあるわよ。もしいるなら見てみたいわ。ねえ?」
そう言って少年に目を向けると、コクコクと頷いた。
「いいでしょう、お教えしましょう。」
「長くなりますがいいですか?」と前置きすると、「いいわよ」と頷いた。
「あのね、俺は日本の生まれじゃないんです。」
「そうなの?」
おばさんは驚く。
この話をすると、だいたいみんなこんな顔をする。
もう慣れっこなので先を続けた。
「俺は北欧の生まれなんです。」
「へええ!どこ?フィンランド?スウェーデン?」
「アイスランドです。父が仕事で向こうに住んでて、その時に現地の日本人女性と結婚したんです。
それで俺が生まれました。」
「アイスランド・・・・オーロラで有名な国ね。」
「俺がいたのは四歳までで、ちょっとしか向こうのことを覚えてないんですよ。
それでね、色々あって両親は死にました。その時にですね、すごいオーロラが・・・・、」
「ちょ、ちょっと待って!」
おばさんは慌てて止める。
少年も「すごい大事なとこ飛ばした」と呆れた。
「あの・・・・聞いていいことかどうか分からないけど、その・・・・話したくなかったらいいけど・・・・、」
おばさんは泣きそうな顔になる。
気を遣ってくれるのはありがたいけど、でも俺は全然気にしないので、普通に答えた。
「刺されたんです。」
「・・・・・・・・。」
「外国人の観光客とトラブルになったんです。そいつは父の財布を盗もうとしていて、それを母が見つけたんです。
その時は逃げて行ったんですけど、四日後に別の場所で会ったんですよ。
そこは港で、すごく寒かったのを覚えてます。そいつはまた誰かの財布を盗ろうとしてたんです。」
「・・・・・・・・。」
おばさんの顔が引きつっている。
目にいっぱい涙を溜めているけど、笑いを堪えているのだろうか?
「それでですね、また母がそれを見つけて、父が注意したんです。
警察呼ぶぞとか言って、そしたらそいつは急に慌て出したんです。
逃げようとしたから父が追いかけたら、いきなりナイフを出してきたんですよ。
危ないと思った母が止めに入ると、刺されてしまいました。
それで父はキレて、そいつに飛びかかったんです。
だけど父も刺されて死にました。それで誰かがすぐに警察を呼んだんですけど、そいつは逃げて行って。」
「ひどい・・・・・。」
グスっと目を拭っている。
笑っているんじゃなくて、泣いていたようだ。
「それで俺は警察に保護されました。だけどその時にですね、空にものすごいオーロラが見えたんですよ。
向こうじゃ珍しくないんですけど、その時のオーロラは半端じゃなくて。
グワワアワ!って感じで空に広がって、最後はバン!って弾ける感じて、そこらじゅうに光が走ったんです。
それでオーロラは消えて、真っ黒な夜に戻りました。
みんなすごい驚いてましたよ。警察だってポカンとしてましたからね。」
「・・・・・・・。」
おばさんは俯き、ズズっと鼻をすすっている。
少年は興味津々で、「それ知ってるかも」と言った。
「テレビでやってた。そういうすごいオーロラが出ることがあるって。普通のオーロラよりも明るくて、最後は弾けるやつがあるって。」
「あれは・・・まるで太陽だったな。この世のものとは思えないくらい、とにかくすごかった。
あれ見た時に、なんかビリビリって電気が走った感覚があったんだ。
目の前で親を殺されたのに、あれを見た瞬間に、悲しみとかショックとか、全部忘れた。
その時からだな。やたらとUFOとか未確認生物に興味を持つようになったのは。」
「じゃあそれからずっと探してるの?」
「まあな。全然見つからないけど。あ、ちなみに俺の親を殺した奴は死んだ。」
「死んだ!警察に撃たれて?」
「違う。バーン!とオーロラが弾けた瞬間に、驚いて海に落っこちた。
アイスランドは寒いから、みんな厚着なんだ。だから溺れてた。
向こうの海は寒いから、二分も浸かってればあの世行きなんだよ。」
「じゃあ犯人も親も死んだってこと?」
「そうだ。あの時は親を殺されたショックで動けなかったけど、今は全然平気。
だってあのオーロラを見てから、UFOとかUMAのことしか考えられないようになったから。
でも・・・・、」
「でも?」
「なんか忘れてる気がするんだよ。」
「何?」
「分からない。なんかその場所にもう一人いたような気がするんだよな。
家族か友達か・・・・すごい大事な人が。」
「思い出せないの?」
「あのオーロラを見た瞬間に、色んなことが吹き飛んだ。
親が殺されたことは覚えてるけど、それ以外のことはぼんやりっていうかな。」
「じゃあちょっとした記憶喪失じゃん。」
「かもな。」
「思い出そうと思わないの?」
「全然。だって俺はUFOに乗れればそれでいいから。」
「でも見つからないんでしょ?」
「そうなんだよ。絶対にいるはずなんだけど、どこ探しても見つからないんだ。
きっと米軍が匿ってるんだ。だからエリア51に手紙を出そうかと思って・・・・、」
そう言いかけた時、おばさんが手を握ってきた。
「辛かったでしょう・・・・。」
「そうなんですよ。どんなに頑張ってもUFOが見つからないですからね。ちょっと落ち込むっていうか・・・、」
「そうじゃなくてご両親のこと!」
大声で叫んで、悲しそうに首を振る。
「そんな幼い時に一人ぼっちになるなんて・・・・・、」
「でも親戚の家にもらわれたんです。けっこう良い人達だから、あんまり寂しくなかったですよ。
それに子供の時は友達も多かったし。」
俺の過去を話すと、みんなこうやって同情する。
俺は全然気にしてないんだけどな。
おばさんはブルブル首を振って、「ごめんなさい・・・・」と謝った。
「辛いこと思い出させちゃって・・・・。」
「別に辛くはないんです。問題はUFOが見つからないことで・・・・、」
そう言いかけた時、今度は怪人が近づいてきた。
そして無言でコーヒーを置いていく。
「怪人め、こんな罠に引っかからんぞ。どうせ毒でも入ってるんだろ。」
クンクン臭いを嗅いで、「毒は・・・・ないな」と飲んだ。
「お、美味しい。」
「お父さんコーヒー淹れるの得意なんだよ。夢が喫茶店のマスターだったから。」
「なるほど。そうやって客をさらうつもりだったんだな。」
「何がなんでもお父さんを怪人にしたいんだね?」
「君は騙されてる。きっと本物のお父さんは、怪人の生贄にされたんだ。あれは怪人が化けてるんだよ。」
「もう面倒臭いからそれでいいけどさ、今度UFO探しに行く時、僕も連れてってくんない?」
「君もUFOに乗りたいのか?」
「乗れるなら乗りたいでしょ。」
「いいぞ。でも山は険しい。車椅子だと厳しいから、別の場所にしよう。」
「いつもどこ探してんの?」
「色々だ。山とか森とか、それに怪しい建物とか。」
「怪しい建物ってなに?」
「俺が怪しいって感じる場所だ。」
「じゃあそういう場所があったら連れていって。」
「いいぞ。」
「友達も呼んでいい?」
「いいぞ。でも危険は覚悟しておけよ。宇宙人はたくさんいて、中には凶暴な奴もいるんだ。」
「会ったことあるの?」
「ない。でもきっとそうに違いない。」
「じゃあ覚悟しとくよ。」
少年は嬉しそうに笑う。
俺にはこの子の気持ちがよく分かった。
《きっと足を治してほしいんだろうな。》
宇宙人は超高度な文明を持っている。
歩けなくなった足を治すことくらい、なんてことないはずだ。
《こうなってはますますUFOを見つけないとな。》
ズズっとコーヒーをすすり、腕時計を見る。
「お、もう夜中の一時か。」
俺は立ち上がり、「そろそろ帰る」と言った。
「もう帰るの?泊まってけばいいじゃん。」
「ダメだ。今日工場をクビになったからな。また新しい副業を探さないといけないんだ。」
「クビ!なんで?」
「大人は色々と大変なんだ。特にこの俺はな。本業の方では給料は出ないから。」
「なんか知らないけど、仕事見つかったらいいね。」
「仕事ならある。UFOを探すことだ。」
「それ仕事なの?趣味じゃなくて?」
「違う。人生の仕事だ。」
「でも給料もらえないじゃん。生活できないよ?」
金が出ないから仕事じゃない。
この少年はそんな風に思っているらしい。
でも違う。
仕事ってのは、自分の背負った使命のことだ。
金を稼ぐのは労働であって、仕事と一緒ってわけじゃない。
「怪しい場所を見つけたらまた来る。その時は一緒に行こう。」
「うん。あ、でもこっちの家じゃなくて、お墓がある方の家に来てくれる?」
「なんで?」
「いつもは向こうにいるから。」
「ああ、そうか!君はさらわれてるんだったな。」
「ちょっと設定忘れかけてたでしょ?」
「設定?」
「なんでもない。」
「じゃあ墓地がある方の家に行くから。」
「早く怪しい場所見つけてくれよ。」
少年は期待した目で見つめる。
俺は頷き、おばさんを振り返った。
「じゃあ帰ります。」
「・・・・・・・。」
おばさんはまだ泣いていて、玄関まで見送りに来てくれた。
「まていつでも来て。寂しくなったら・・・・。」
「寂しくはありません。でもまた来ます。あの子とUFOを探さないといけないので。」
おばさんはハンカチで口元を押さえながら、コクコクと頷く。
「それと怪人には気をつけて下さい。危なくなったらすぐに110番を。」
「分かってる・・・・勇作君も気をつけて帰ってね。」
また手を握ってきて、グスっと鼻を鳴らした。
「じゃあまた。」
ペコっと会釈して、怪人の館を後にする。
車に乗り込み、真っ暗な空の下を走っていった。
「今日は色んなことがあったな。こうやって色んなことが起きてくれれば、そのうちUFOが見つかるかもしれないな。」
淡い期待を胸に、家路についた。

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