微睡む太陽 第四話 二つの太陽(2)

  • 2017.05.08 Monday
  • 12:41

JUGEMテーマ:自作小説

九月の半ば、キリギリスが足元を跳ねていく。
バッタに似てるけど、この虫は肉食だ。
素手で触ると噛まれることがある
そしてかなり痛い。
あれはいつだったか、UFOを探す為に川原で野宿している時に、顔にこの虫が飛んできたことがあった。
どかそうと思って掴むと、思い切り指を噛まれた。
まるでペンチで挟まれたみたいに痛くて、少し血が出た。
虫ってのはこんなに小さいのに、何十倍・・・いや、何百倍もデカい人間に傷を負わせる力を持っている。
跳ねていくキリギリスを見つめながら、「こいつらもUMAの一種かもしれんな」と呟いた。
追いかけると、キリギリスはピョンピョン跳ねていく。
その先には墓地があって、おばさんが草むしりをしていた。
「こんにちわ。」
「あら、勇作君!」
おばさんは鎌を片手に走ってくる。
「今日は仕事休み?」
「俺の仕事に休みはありません。」
「そっちじゃなくて、お金を稼ぐ方の。」
「工場はクビになったので、今日は新しい副業の面接を受けてきました。」
「え?クビになったの!?」
「五日前に怪人の館でお話したと思うんですけど。」
「ああ、ごめんなさい。あの時は泣いてばっかりだったから。」
おばさんは恥ずかしそうに手を振る。
鎌が危ないので、俺はサッと身を引いた。
「残念ながら、面接官の受けはあまりよくありませんでした。」
「そうなの?」
「得意なことはなんですか?って聞かれたから、UFOを探すことです!って答えたんです。」
「ああ・・・・、」
「その瞬間に、みんな暗い顔で俺を睨みました。」
「あのね勇作君、本業のことは、あんまり人に言わない方がいいと思うの。」
「いえ、そうではありません。」
「何が?」
「面接官が暗い顔をしたのは、俺が嘘をついたからです。」
「嘘?」
「得意はことは何ですか?と聞かれて、UFOを探すことです!って答えてしまいました。
でも俺は、まだ一度も見つけてないんです。だからその嘘を見抜かれて、面接官は俺にマイナスな印象を持ったんだと思います。」
「違うわよ。UFOなんて言い出すからそんな顔したの。」
「なんでですか?」
「勇作君にとっては、UFO探しは仕事かもしれないけど、他の人はそうじゃないからよ。」
「仕事は誰だって違います。」
「そうね。でも本業のことは言わない方がいいと思う。」
「どうして?」
「どうしても。」
また鎌を振るので、もう一歩後ずさった。
するとそこへ、車椅子の少年が現れた。
「UFOの人!」
キイキイと車椅子を鳴らしながら、こっちへ走ってくる。
「怪しい場所見つかった!?」
「見つかった。今から行こう。」
「今から!?」
「なんでも急ぐのに限るんだ。モタモタしてたらUFOは逃げるからな。」
「じゃあちょっと友達誘うから!待ってて!」
そう言って、車椅子の脇からタブレットを取り出した。
最近の子供は贅沢だなと思っていると、おばさんが「どこ行くの?」と尋ねた。
「廃トンネルです。」
「廃トンネル・・・・どこの?」
「大きな車の工場がある所の、ずっと向こうのトンネルです。」
「ああ、あそこ。今は新しいのが出来てる所でしょ?」
「そうです。新しいトンネルの傍に、古い廃トンネルがあるんですよ。あそこは幽霊が出るって噂があるんです。」
「幽霊?UFOじゃなくて。」
おばさんは首を傾げる。
俺は丁寧に説明してあげた。
「いいですか?幽霊というのは、全て宇宙人の仕業なんです。」
「そうなの?」
「幽霊の正体は、宇宙人の機械によって肉体から分離させられた、人間の意識なんです。」
「まあ。」
「宇宙人は地球人とは比べものにならないほど、超高度な文明を持っていますからね。
人の意識を抜き取るくらいわけないんです。」
「なら幽霊がいるってことは、宇宙人が傍にいるってことになるわね。」
「そういうことです。あの廃トンネルには、きっと宇宙人が潜んでいるはずです。」
「う〜ん・・・・。」
おばさんは険しい顔をする。
「信用できませんか?」
「そうじゃなくて、陸翔をそんな場所に連れて行くっていうのがね・・・・。」
「もちろん危険はあります。もし凶暴な宇宙人だったら、血を抜かれたり、実験体にされる可能性もありますから。」
「明日じゃダメ?それなら私も空いてるんだけど。」
「おばさんも行くつもりですか!」
「陸翔だけ行かせるわけにはいかないわよ。」
「でもおばさんも危険な目に遭うかもしれませんよ?」
「そうだけど、あの子は車椅子だから。勇作君だけに預けるわけにはいかないの。」
「なるほど。俺はあの怪人から陸翔君を助けることが出来なかった。
だったら怪人より強いであろう宇宙人を相手にしたら、陸翔君を守れない・・・・。」
「でしょ?」
おばさんに言われるまで、そんな簡単なことに気づかなかった。
「いいでしょう、ならおばさんも一緒に来て下さい。」
「行きたいのは山々なんだけど、今日は予定があるから。」
「でも今日じゃなきゃダメなんです。」
「どうして?」
「あのトンネル、明日には完全に封鎖されるそうなんですよ。」
「そうなの?」
「入り口の看板に書いてありました。勝手に入る奴がいるから、工事して完全に封鎖するって。」
「入っちゃダメな場所なの?ならダメよ。」
「いいえ、行くべきです。そこに宇宙人がいる可能性があるなら。」
「でもねえ・・・・、」
おばさんと言い争いをしていると、陸翔君が「二人来るって!」と叫んだ。
「そうか。なら俺とおばさん、そして陸翔君と友達の二人だな。五人パーティーってわけだ。」
「え?お母さんも行くの!」
「俺だけじゃ陸翔君を守れないからな。でもお母さんは回復が得意だ。
サポート要員として活躍してくれる。あ、ちなみにその友達は魔法が使えるか?」
「無理に決まってんじゃん。」
「それは残念だな。またあの怪人みたいに、物理に強い敵が出てきたら困る・・・・。」
「ああ、ゲームに影響されてんのね。」
少年は「使える使える」と言った。
「実は僕、ちょっとだけ魔法使えるから。」
「ホントか!?」
「大したもんじゃないけどね。ドラクエでいうならメラミくらい。」
「充分だ!物理しかないよりマシだぞ!」
まさかこんな所に魔法使いがいたとは。
だからこそあの怪人にさらわれたんだろうな。
魔法を自分の物にする為に。
「魔法使いに回復要因。パーティーは完璧だ。」
これなら凶暴な宇宙人が出てきても問題ないだろう。
「じゃあ早速行くか。」
「うん!」
「ほらおばさんも。」
手を向けると、「本当に行くの?」と顔をしかめた。
「心配はいりません。パーティーは完璧です。」
「パーティー?どこで?」
「チームのことです。」
「なんのチームのパーティー?」
「物理、魔法、回復。ちゃんとバランスが取れてるってことですよ。問題ありません。」
「でもそのトンネルは入っちゃダメな場所なんでしょ?ならやっぱりダメよ。」
おばさんは頑なに譲らない。
「う〜ん・・・」と唸って、「あ!」と手を打った。
「ならあそこにしましょ!」
「おばさんもUFOの場所に心当たりが?」
「あるある!」
「どこですか!?」
俺の知らない所で、俺の知らない秘密の場所がある。
そんなの行かないわけにはいかない。
「教えて下さい!」
「慌てなくても連れてってあげるわよ。でも午後からでもいい?」
「どうして?」
「ちょっと用事がね。」
おばさんは家に戻って行く。
すると少年が「お父さんに会うんだよ」と言った。
「あの怪人に?まさか倒しに行くのか?」
「うん。」
「でもおばさんは回復要因だぞ。戦闘は出来るのか?」
「実際に戦うわけじゃないから。僕の親権をどっちが取るかで話し合い。」
「親権?もしかして・・・・、」
「離婚するんだよ。けっこう前から別居しててさ。だから家も別々なんだ。」
「陸翔君!おばさんを応援しろ!怪人の子供になっちゃいけない!」
「僕はどっちでもいいんだよね。お父さんもお母さんも優しいから。
それに会おうと思ったらどっちにも会えるし。」
「でも怪人に育てられたら、君も怪人になってしまうぞ?」
「別にいいんじゃない。それも面白そうだし。」
「そうなのか?」
「ていうかさっさと決めてほしいんだよな。じゃないと色々面倒臭くってさ。」
「う〜ん・・・・君も大変だな。」
「まあお父さんとお母さんが決めることだから。それよりさ、早くUFO見つけたいよね!」
「おばさんはどこへ連れて行く気なんだろう?」
「さあ。」
この少年も色々と事情を抱えているらしい。
最近の子供は大変だ。
しかしUFOに乗ることが出来れば、そんな悩みは吹っ飛ぶだろう。
人間の社会の些細な悩みなんて、宇宙を飛べばどうでもよくなる。
おばさんが出てくるまでの間、俺たちはドラクエの話で盛り上がっていた。

            *

どちらが陸翔君を育てるか?
その話し合いを終えたおばさんは、スッキリした顔で帰って来た。
「陸翔!お母さんと一緒に暮らすからね!」
「あ、そうなの?別にどっちでもいいけど。」
「ホントは嬉しいクセに。」
嬉しそうに肩を合わせるおばさん。
俺を振り返って、「それじゃ行きましょうか」と言った。
「私が車出すわ。」
「お願いします。」
俺は椅子から立ち上がり、「これ、ご馳走様でした」とピザの箱を振った。
「いいのよ、陸翔もお昼まだだったし。」
おばさんが怪人の家に行っている間、おばさんの家で昼飯を食っていた。
その後は陸翔君とゲームをしていて、飽きたのでテレビを見ている所だった。
「いよいよUFOだね!まず友達んとこ行かなきゃ!」
陸翔君はキイキイと車椅子を動かして、スロープを登っていく。
子供なのに大した腕力だ。
さすが怪人の血を引いているだけある。
魔法も使えるというし、将来の職業はパラディンで間違いないだろう。
俺は外に出て、一人墓地を眺めた。
「この墓のどこかに宇宙人が眠っていたりして。」
きっと人間に化けている宇宙人だっているはずだ。
メン・イン・ブラックみたいに、俺たちの生活に溶け込んでいるに違いない。
人間として生き、人間として暮らし、人間として死んでいく。
そう考えると、今にもこの墓地を掘り返したくなった。
でも残念、今日はスコップがない。
備えあれば憂いなし。
明日からは毎日持ち歩くようにしよう。
ムズムズした気持ちで墓地を見つめながら、ふと空を見上げる。
少し曇っていて、太陽の光がカーテン越しのように薄い。
その時、俺はとんでもないものを見つけた。
「あ・・・・・、」
墓地の向こうにそびえる山、そのさらに向こうに、二つの太陽が浮かんでいた。
「なんだあれは!宇宙人の襲来か!!」
大声で叫ぶと、「どうしたの?」とおばさんが出てきた。
「見て下さい!太陽が二つもあります。」
「あらほんと。」
「あれはきっと宇宙人の母船ですよ!」
「違うわ、あれは幻日よ。」
「幻日?」
「太陽が二つあるように見える現象のこと。気象の関係でこうなることがあるの。」
そう言って「久しぶりに見たわ」と笑った。
「ほら、左側にあるのが本物の太陽。あっちの方が強く光ってるでしょ?」
「ならあれが母船か!」
「右側にある小さな光が幻日よ。光の屈折でああいう風に見えるの。」
「なんてこった!分身機能も持っているのか!」
俺は頭を抱えて叫んだ。
「もしあれが敵対的な宇宙人だったら、地球は今日滅ぶことになる!」
「だからあれは幻日、UFOじゃないのよ。」
「でも太陽が二つなんておかしいですよ!きっとUFOです!」
そう叫ぶと、おばさんは首を振った。
「勇作君ならあれくらいで驚かないと思ってたわ。」
「どういうことですか?誰だってあんなの見たらビックリするでしょ!」
「勇作君はオーロラを見たことがあるんでしょ?」
「アイスランドにいた頃にね。しょっちゅう見てました。」
「ならオーロラはUFOの仕業?」
「オーロラはただの気象現象です。」
「でしょ?なら幻日だって・・・・、」
「あ、でも・・・・、」
「何?」
「父と母が死んだ時に見た、あの弾けるオーロラ。あれはただの気象現象には思えなかったなあ。
まるで太陽みたいだった。昼間より明るくなって、地球のすぐ傍に太陽が近づいてきたみたいで。」
あの時のことを思い出し、じっと幻日を睨む。
するとおばさんが顔を覗き込んできた。
「勇作君?」
「太陽が二つ。」
「泣いてるの?」
「え?」
おばさんに言われて、目尻を触る。
知らないうちに涙が出ていて、濡れた指先を見つめた。
「なんで?」
不思議に思って、また目尻を触る。
するとおばさんが、「寂しくなったらいつでも来てね」と言った。
「はい?」
「陸翔も喜ぶし、私も賑やかな方が楽しいし。」
そう言ってハンカチを渡してきた。
「すいません。」
目を拭って、また幻日を見る。
・・・・なぜか分からないけど、どんどん涙が出て来る。
悲しいわけじゃないし、目が眩んだわけでもない。
なのに涙が止まらなくて、ずっとハンカチを当てていた。
おばさんが手を握ってきて、一緒に幻日を見上げる。
きっとおばさんはこう思ってる。
父と母が殺された時のことを思い出して、悲しくなってるんだと。
でも違う。そうじゃない。
父と母は関係ないんだ。
《あの時誰かいたんだ。俺とお父さんとお母さんと、あの犯人と。他にも誰かいて、それが誰か思い出せない。》
それを思い出そうとするほど、涙が出て来る。
やがて陸翔君が出てきて、「なんで泣いてんの!」と叫んだ。
「分からない。」
俺は首を振る。
なんで泣いているのか俺にも分からない。
涙が止まらなくて、ずっとハンカチを当てていた。

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