微睡む太陽 第六話 光の国へようこそ(2)

  • 2017.05.10 Wednesday
  • 08:56

JUGEMテーマ:自作小説

目の前に暗いトンネルがある。
傍には看板が立っていて、大きな字で『入らないで下さい』と書かれていた。
入り口には工事の時に使う通行止めのアレが並んでいて、その奥は真っ黒な通路が続いている。
「行こう。」
俺は真っ直ぐにトンネルに向かった。
陸翔君は不安そうな顔で、おばさんに車椅子を押されている。
「ほんとに入るの?」
おばさんが尋ねる。
「宇宙人に会う為です。」
「・・・・分かったわ。どうしても行かないと納得しないみたいね。」
ため息をつきながら、一緒にトンネルに入っていく。
中は真っ暗で、外からの光もほとんど届かない。
おばさんは「はい」と懐中電灯を渡してきた。
「車に積んであったやつだから、電池が残ってるかどうか分からないけど。」
「助かります。」
スイッチを押すと、ぼんやり光が灯った。
ゆっくりとトンネルを歩いていく。
俺は幽霊は怖くないので、こういう場所を何とも思わない。
でも陸翔君はかなり怯えていて、おばさんの手を握っていた。
「ねえ、ほんとに幽霊がいたらどうする?」
「幽霊はどうでもいい。宇宙人に会いたいんだ。」
「どっちが怖い?」
「どっちも怖くない。」
「呪われたらどうしよう・・・・。」
あまりに不安そうなにするので、おばさんが「外で待つ?」と尋ねた。
「勇作君だけに行ってもらえばいいじゃない。別に陸翔がついて行かなくても。」
「・・・・・行く。」
「意地張って。」
怯える陸翔君と共に、先を目指した。
トンネルの中はヒビ割れが多かった。
歩道には草が生えていて、よく見れば天井にも生えている。
虫にしろ草にしろ、小さな生き物は逞しい。
きっとUMAのDNAが入ってるに違いない。
注意深く辺りを観察しながら、ゆっくりと歩いていく。
そして何もないまま外に出てしまった。
「そう長いトンネルじゃないな。」
もう一度調べようと思って引き返す。
しかし陸翔君は「もう無理・・・」と言った。
「ごめん、UFOの人だけで行って。」
「宇宙人に会いたくないのか?」
「宇宙人は会いたいけど、幽霊は嫌だ。」
「幽霊は人間の意識だ。怖がることはない。」
「僕は怖い。戻ろうお母さん。」
「そうね。」
おばさんは頷き、「先に車に行ってるわね」と言った。
「私たちは新しいトンネルの方から帰るから。」
「分かりました。向こうなら宇宙人もいないでしょうから安全です。」
「勇作君も気をつけてね。暗いから転んだりしたら怪我するわよ。」
そう言い残し、二人は新しいトンネルの方へ歩いて行った。
「素人には荷が重い仕事だったかな。」
俺はプロだ。
どんな危険も承知の上だ。
凶暴な宇宙人に襲われようとも、決して逃げたりしない。
「宇宙人め、絶対に見つけてやるぞ。」
気合を入れてトンネルに入る。
くまなく観察するが、様子はさっきと変わりない。
あっさりと反対側へ出てしまって「妙だな」と首を傾げた。
「幽霊が出るなら、宇宙人もいるはずなのに。」
もう一度入る。
途中で立ち止まり「出て来い!」と叫んだ。
「ここにいるのは分かってるんだ!隠れても無駄だぞ!」
懐中電灯が闇を切り裂く。
俺の声が静寂を切り裂く。
「なぜ姿を見せない!俺を怖がってるのか!宇宙人ともあろう者が!」
きっと宇宙人はプライドが高いはずだ。
なんたって地球より遥かに進んだ文明を持っているんだから。
きっと俺たちのことは見下しているはずだ。
だからこうやって挑発すれば、怒って出て来るに違いない。
「怖いか!この俺が!勇者の俺が恐ろしいか!」
手を広げ「かかって来い!」と叫ぶ。
「ほら!どうした!来いよ!ベネットだってナイフを捨ててかかって来たんだ!
宇宙人ともあろう者が、たかが人間が怖いっていうのか!」
『野郎!ぶっ殺してやる!』
そう叫んで出て来ると思ったのに、返事はない。
「もしかして憶病なのかな・・・・。」
宇宙人だって色んな性格の奴がいるはずだ。
だったらこのトンネルに隠れている奴は、気の弱い性格なのかもしれない。
《もしそうだとしたら、挑発は逆効果だな。》
俺は作戦を切り替えることにした。
「安心しろ!ここにはモルダーもスカリーもいない!お前を捕まえたりはしない!」
もしかしたらライトも怖がるかもしれないから、スイッチを消した。
「お前をエリア51に連れて行ったりしない!ただ俺をUFOに乗せてほしいんだ!」
暗いトンネルの中、目を凝らして見つめる。
でも全然返事はなくて、見えるのは外の光だけ。
宇宙人どころか幽霊さえ現れない。
《どうやらかなりシャイな奴だな。こりゃあ会うのに手間取るぞ。》
人間にだって人見知りがいるんだから、宇宙人だって人見知りをするかもしれない。
そんな奴と打ち解けるには、時間が必要だ。
「分かった!お前が安心したら出て来てくれ。」
歩道に座り、宇宙人が心を開いてくれるのを待つ。
・・・するとその時、コツコツと足音がした。
「現れたか!」
足音はどんどん近づいてくる。
俺は立ち上がり、音のする方を睨んだ。
・・・・外からの光を受けて、人影らしきものが見える。
それはだんだん近づいてきて、俺の手前で止まった。
「これが宇宙人・・・・。」
宇宙人はハゲていた。
それに老けていて、歯も汚い。
服は地味なポロシャツに、薄汚れたスラックス。
足元の革靴は、先っぽに穴が空いていた。
《なんてこった・・・・こりゃあ浮浪者の宇宙人だ。》
地球にだって不況があるのだから、宇宙にだって不況があるのだろう。
それならば宇宙人のホームレスがいたっておかしくない。
「あんたはここで暮らしてるのか?」
そう尋ねると、「そうだけど・・・・」と答えた。
「あんた誰?」
「俺は基(はじめ)勇作。この星の者だ。あんたはどの星から来たんだ?」
「は?」
「不況に追われてこの星へ逃げてきたんだろう?」
「まあ・・・・不況のせいでリストラに遭った。ちょっと前からこのトンネルで寝泊まりしてるんだ。」
「それは大変だな。宇宙にはハローワークとかないのか?」
「は?」
「宇宙人の社会は地球よりも進んでるはずだ。ならば職の斡旋くらいしてくれるだろう?」
「無理だよ・・・・。もう歳だし、これといった資格もないし。」
「諦めるな。資格なんか取ればいい。ていうかUFOを運転できるんだから、それを活かした仕事を見つければいい。」
「あんたさっきから何言ってんの?宇宙とかなんとか・・・・、」
「お前は宇宙人だろう?UFOに乗って来たんだろう?」
「んなわけないだろ。俺はただの人間だよ。」
「ならどうしてこんな場所にいる?」
「そりゃ雨風が凌げるからな。」
「いや、違うな。お前は宇宙人だ。そして人間の意識を抜き取って、このトンネルに連れてきてるんだろう?」
「はい?」
「ここには幽霊が出ると噂がある。」
「らしいな。俺は見たことないけど。」
「嘘だな。もしやお前・・・・・、」
「なに?」
「不況で仕事がないもんだから、犯罪に手を染めているのか!?」
「はあ?」
「人間の意識を抜き取って、それを他の星に売ってるんだろう!」
「馬鹿じゃないのか。そんなこと出来るわけないだろ。」
「その姿も本当の姿じゃないんだろう?本当の姿は、人間とは似ても似つかないものに違いない。
きっとホームレスの頭にチップを埋め込んで、それで乗っ取ったんだろう!」
俺は宇宙人の頭を掴む。
「チップを出せ!」
「やめろ!」
「そのホームレスを解放するんだ!」
「痛い!何するんだ!」
宇宙人は俺を突き飛ばす。
そして慌てて逃げ出した。
「おい待て!」
「誰か!変な奴がいる!」
「俺をUFOに乗せてくれ!」
「頭のおかしな奴がいるううう!」
「逃がさん!」
宇宙人はなかなか足が速かった。
でも俺だって負けていない。
肉体には自信があるので、すぐに追いついた。
手を伸ばし、宇宙人を捕まえようとした。
しかしその時、宇宙人の向こうから誰かが現れた。
「何やってる!?」
警察だ。
ライトを向けて、こっちに走ってくる。
「ここは立ち入り禁止だぞ!」
二人組の警官がダッシュしてくる。
宇宙人は捕まってしまった。
「お巡さん!変な奴がいるんです!」
「変な奴?」
宇宙人は俺を指さす。
警官はライトを向けて、「ここで何してる?」と言った。
「宇宙人を探してるんです。」
「はあ?」
「ていうかそいつは俺が先に見つけたんです。返して下さい。」
そう言って奪う返そうとすると、「大人しくしろ!」と掴まれた。
「離せ!」
「暴れるな!手錠掛けるぞ!」
「あんたらはそうやって、事実を隠してきたんだ!宇宙人を見つけては捕まえて、邪魔する者は牢屋に叩き込んできたんだろう!」
「いいから落ち着け!」
「そうやって捕まえた宇宙人は、米軍に引き渡すんだろう!UFOだって隠してるはずだ!」
「いいから大人しくしろって!」
警官は二人がかりで押さえ込んでくる。
「クソ!事実を公表しろ!警察は宇宙人を隠してるってな!」
足をバタバタさせながら、「みなさあ〜ん!」と叫ぶ。
「警察が事実を隠蔽しようとしています!米軍の手先となって、真実を隠そうとしているんです!」
力いっぱいの声で叫ぶが、誰も来てくれない。
なぜだ?
ここに宇宙人がいるのに。
「・・・・そうか、警察がこの付近を封鎖してるんだな。なんて卑劣な・・・・、」
警察は国家権力の象徴。
その象徴が米軍の手先になっている。
これはもう・・・・いよいよ米軍の陰謀に違いない。
《もしかしたら、アメリカ政府と宇宙人は手を組んでいるのかもしれない。
世界を支配する為に、水面下で着々と準備を進めているに違いない!》
俺はがっくりと項垂れる。
いくらなんでも、俺一人で米軍と宇宙人を相手に戦うのは無理だ。
警官が「どうしますこれ?」ともう一人の警官に尋ねる。
「う〜ん・・・捕まえるってほどでもないしなあ。」
そう言って宇宙人に目を向ける。
「あんたはここで何してたの?」
「その・・・住む場所がないもんで・・・。」
「仕事してないの?」
「・・・・リストラに。」
「ああ、そりゃ大変だね。で、こっちの人に何かされた?」
「宇宙人呼ばわりされました。幽霊を売り飛ばしてるんだろうとかわけの分からないことを言われて・・・。」
「殴られたりとかはしてない?」
「頭を掴まれました。宇宙人のチップがどうとか言われて。」
宇宙人はビクビクしながら喋る。
そして「もう行ってもいいですか?」と言った。
「あんまり騒ぎになるのは嫌なんで・・・・。」
「もうここに入っちゃダメだよ。いい?」
「はい・・・・。」
「あ、いちおう名前と年齢教えて。あと住所。」
「いや、だから家がなくて・・・・、」
色々と聞かれてから、宇宙人は解放された。
そして俺に一瞥をくれて、逃げるように去って行った。
「で、こっちの彼はどうしようか?」
「お前ら!宇宙人を逃がすな!」
「さっきは捕まえるなって言ってたじゃない。」
「保護するんだ!でないとまた幽霊を売り飛ばすぞ!」
「う〜ん・・・・この人ちょっと病気かね?」
そう言って頭を指さすと、もう一人の警官が頷いた。
「保護しときますか?」
「だな。」
「俺を保護してどうする!保護するのはあの宇宙人だ!」
俺はパトカーに乗せられる。
そして警察署まで連れて行かれた。
さわがしい署内の隅っこで、ちょこんとソファに座る。
そして色々と話を聞かれた。
親を殺されたことを話すと、警官はギョッと目を見開いた。
「ほんとに?」
「ええ。」
「目の前でねえ・・・親を・・・・。」
警官はため息をつく。
もう一人の警官が「先輩」と言った。
「これですよ。」
「ん?」
二人はパソコンの画面をのぞき込む。
「ほらこれ。21年前の事件、これでしょ。」
「ああ、これな。ちょっとしたニュースになってたな。」
どうやらネットを見ているらしい。
確かに俺の事件はニュースになった。
でも日本で起きた事件じゃないから、そこまで騒がれなかったけど。
「可哀想に。」
先輩の警官が呟く。
「四歳の頃に目の前でなあ。」
「そりゃ心も病みますよ。」
二人は可哀想な目で俺を見る。
まあこういう目も慣れっこだ。
「どうします?もう落ち着いてるみたいだし、帰しますか?」
「だな。」
そう言って頷き合った時、誰かが警察署に駆け込んできた。
「あの!」
「ああ、おばさん!」
おばさんは血相を変えて叫ぶ。
「ウチの子がいなくなったんです!」
「なんだって!」
俺はおばさんの元まで走る。
「いなくなったってホントですか!?」
「勇作君!あんたこんな所で何してるの!」
「宇宙人と色々あったんです。それより陸翔君がいなくなったって?」
「新しいトンネルを通って、外で勇作君を待ってたのよ!それで私だけちょっと車に戻ったの。
そしたらどこにもいなくなってて・・・・、」
おばさんは俺の手を握って、「知らない!?」と叫んだ。
「どこ行ったか知らない!?」
「分かりません。宇宙人と色々あったから。」
おばさんは泣きそうな顔をしている。
そこへ警官がやって来て、「どうした?」と尋ねた。
「この人がさっき話したおばさんです。それで息子の陸翔君がいなくなったそうです。」
「いなくなる?」
「行方不明なんです。」
「ええ!?」
驚く警官。
おばさんは「お願いします!」と警官の手を掴んだ。
「陸翔を捜して下さい!あの子車椅子なんです!足が不自由なんです!一人でそんな遠くに行けないはずなんです!
きっと誰かにさらわれたんです!お願いします!」
「落ち着いて下さい!」
警官は奥へおばさんを連れて行く。
おばさんは取り乱し、何度も陸翔君の名前を叫んでいた。
《アイツの仕業だな!》
俺には心当たりがある。
そう、ハゲの宇宙人だ。
《アイツめ、陸翔君の意識を抜き取って、他の星に売るつもりだな。》
怒りが湧いて、外へ駆け出した。
「おいあんた!」
後輩警官が追いかけてくる。
「俺は宇宙人のプロです!アイツを見つけて、絶対に陸翔君を助けます!」
追いかけてくる警官を振り切って、一目散にトンネルを目指す。
でもここからだとちょっと遠いので、近所の家にあった自転車を借りることにした。
《宇宙人を追いかける為だ、許せ!》
庭の土に『借ります』と書置きして、急いで漕いだ。
ギアを一番重いやつに入れて、とにかく漕ぎまくる。
だけどトンネルに向かう道は坂になっていて、スピードが落ちてしまった。
「むうう〜・・・」と立ち漕ぎするけど、あんまり進まない。なぜだ?
「・・・・ああ!ギアが重いからか。ていうか降りた方が速いな。」
自転車を捨てて、坂道を駆け上がる。
しかし途中にある脇道から車が出て来て、慌てて飛び退いた。
「どけ!こっちは忙しいんだ!」
モタモタ出て来る車に、イライラ焦る。
舌打ちしながら坂を見上げた時、怪しいものが目に入った。
「なんだアレは!?」
空に小さな物体が浮かんでいる。
ピュピュっと俊敏に動いて、トンネルの傍へ降りていった。
「偵察型のUFOか!」
きっとさっきの宇宙人が絡んでいるに違いない。
あれを使って俺たちを偵察し、陸翔君をさらったのだ。
俺は一目散に駆ける。
そして息を切らしながらトンネルの前までやって来た。
「どこだ!?」
UFOはこの辺りに降りたはずだ。
辺りを睨んでいると、トンネルの傍に中学生くらいの少年がいた。
そしてその手には・・・・、
「あれはさっきのUFO!」
俺は駆け寄り、「君は宇宙人か!?」と叫んだ。
「へ?」
「それはUFOだろ!」
「いや、ドローンだよ・・・・。」
「ドローン・・・・。」
その名は聞いたことがある。
簡単に飛ばせる小型のラジコンだ。
ニュースで問題になってるってやっていた。
「なんだ・・・UFOじゃないのか。」
がっかりする。
しかしすぐに最初の目的を思い出した。
「なあ君、車椅子の子供を見なかったか?」
「見てないけど・・・・。」
「なら宇宙人は!?ホームレスに化けてるんだ!」
「え?知らないけど・・・・。」
「実はな、車椅子の少年が宇宙人にさらわれたんだ。この辺りでな。」
「ほんと!?」
「ほんとだ。目撃者でもいればと思ったんだが・・・、」
「じゃあこれ見る?」
「なんだ?」
「これカメラ付いてるから。」
少年はドローンを差し出す。
そこには小さなデジカメが付いていた。
「これでトンネルの中撮ってたんだ。」
「君も宇宙人を探してるのか?」
「ううん。ここお化けが出るって噂があるから、心霊動画とか撮れないかと思って。
撮れたらネットに上げようと思ってたんだ。」
「なるほど。米軍が隠してる事実を、世の中に公表しようってわけだな。」
「?」
俺はデジカメを再生させる。
まずは空撮から始まり、じょじょにトンネルへ迫っていく。
ドローンはトンネルへ近づき、中へ入っていく。
しかし真っ暗で何も見えない。
やがて反対側に抜けて、パッと明るくなった。
画面がホワイトアウトする。
しかしじょじょに景色が映ってきた。
「これは!なんてことだ!!」
「どうしたの?」
「やっぱりあの宇宙人の仕業だったか!」
俺はドローンを突き返して、「陸翔君がピンチだ!」と叫んだ。
「君!すぐに救急車を呼んでくれ!」
「なんで?」
「陸翔君は怪我をしているかもしれない!」
俺はトンネルに駆け入る。
急いで反対側まで駆け抜けて、トンネルの傍にあるガードレールに駆け寄った。
その先は急な斜面になっていて、下へ降りる階段が伸びている。
ものすごく急な階段で、しかも狭い。
大人が一人通れるくらいの幅だ。
階段の周りは木立になっていて、山のように鬱蒼としていた。
「さっきの動画では、陸翔君がここを落ちていった。あのハゲの宇宙人を見てビックリして・・・・。」
浮浪者に化けたあの宇宙人。
奴めはまたこのトンネルに戻ってきた。
しかしその時、陸翔君と鉢合わせした。
宇宙人は何かを叫んで手を振った。
その瞬間、陸翔君はここへ落ちていったのだ。
「あの宇宙人め・・・・きっと念力を使ったに違いない。
それで陸翔君を階段の下へ落としたんだ・・・・。」
細い階段を睨む。
それを駆け下りていくと、傍の木に傷が出来ていた。
「新しい傷だな。ということは・・・・、」
俺は木の下を見つめる。
そこは崖といっても差し支えないほどの急斜面。
その遥か下の方で、車椅子の車輪が見えた。
木と木の間に引っかかっているようで、逆さまに倒れている。
「今行くぞ!」
鳶職人なみの身軽さを活かし、斜面を駆け下りる。
そして車椅子の所まで来ると、陸翔君を発見した。
「しっかりするんだ!」
陸翔君はうつ伏せに倒れていた。
手足を投げ出して、グッタリしている。
「しっかりしろ!」
抱え起こそうとしたが、下手に触るとよくないかもしれない。
「ここは救急車を呼ぶしかあるまい。」
スマホを取り出し、119に掛けようとする。
するとその時、上空にドローンが飛んできた。
「ここだ!ここにいるぞ!早く助けを呼んでくれ!」
ドローンはしばらく飛び回って、トンネルの方へ去って行った。
その時、誰かが俺の手を握ってきた。
振り向くと、陸翔君が「助けて・・・」と呟いている。
「すぐ救急車を呼ぶからな!」
手を握り返して励ます。
するとその時、不思議なことが起こった。
「なんだ?手が離れない。」
いくら離そうとしても離せない。
陸翔君が強く握っているからじゃない。
俺の意志に反して、この手が離れようとしないのだ。
「まさか・・・俺も宇宙人に乗っ取られたのか!?」
不安になり、なんってこったと叫びそうになる。
しかしその時、さらに不思議なことが起きた。
辺りの景色がアイスランドに変わったのだ。
場所は両親が殺されたあの港。
空には巨大なオーロラが浮かび、太陽のように炸裂した。
夜空は真昼よりも明るくなり、全ての闇が吹き飛ばされる。
その瞬間、光り輝く空の中に、一つの影が見えた。
《あれはUFO。》
丸い円盤が光の中に浮かんでいる。
そして俺の所まで降りてきて、猛スピードで飛び去った。
《これは俺の記憶か?だったらあの時、弾けたオーロラの中にUFOがいたってことか?》
眉間に皺を寄せて、記憶を掘り起こす。
その瞬間、景色が戻った。
傍には陸翔君がいて、離れなかった手がいつの間にか離れていた。
俺はすぐに119番した。
助けが来るまでの間、「頑張れよ!」と励ます。
「傷は浅い!助かるぞ!」
「UFOの人・・・・・僕を・・・・宇宙に連れていって・・・・、」
「行けるさ!UFOさえ見つかればな!」
「もうここにいたくない・・・・。お父さんと・・・お母さんが・・・・別れちゃうから・・・。寂しい。」
「・・・・・・・・・。」
俺はギュッと彼の手を握る。
「必ず連れて行ってやるさ。」
宇宙へ出れば、本物の光の国があるはずだ。
押し殺していた胸の悲しみさえ、そこでは光に変わるだろう。
救急車のサイレンが聴こえるまで、ずっと手を握っていた。

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