微睡む太陽 第七話 探しものはすぐ傍に(1)

  • 2017.05.11 Thursday
  • 08:54

JUGEMテーマ:自作小説
病院の窓から空を見上げる。
後ろから陸翔君が来て、「UFOいる?」と尋ねた。
「いないな。昼間は寝ているのかもしれない。」
「UFOって夜行性なの?」
「そういう種類もいるだろう。」
俺は振り返り、「あんまり動き回るな」と言った。
「大した怪我じゃなかったけど、頭を打ってるんだ。安静にするんだ。」
「平気だよ。」
陸翔君は空を見上げる。
「宇宙行ってみたいなあ」と呟きながら。
一昨日、陸翔君は怪我をした。
トンネルの傍の坂道を落っこちて。
幸い命に別状はなかったけど、少し頭を打っていた。
最初は意識が朦朧としていて、駆け付けたおばさんは顔面蒼白だった。
でも今はこうして元気になっている。
・・・・ちなみにあの宇宙人は捕まった。
奴を見た陸翔君が『ハゲだ!』と言ったので、カッとなって怒鳴ったのだ。
そのせいで陸翔君は驚き、坂を落ちた。
一時は警察に拘束されていたけど、今は自由の身になっている。
またどこぞで幽霊を売り飛ばしているに違いない。
なにわともあれ、陸翔君が無事でよかった。
二人して空を眺めていると、おばさんが戻ってきた。
「陸翔、これでいい?」
袋の中からポテチを取り出す。
陸翔君は「うん」と頷いた。
「全部食べちゃダメよ。半分だけね。」
「分かってる。UFOの人も食べなよ。」
「ああ。」
二人でボリボリポテチを頬張る。
すると今度は怪人がやってきた。
洋館に住んでいるあの怪人が。
「おう陸翔!」
「お父さん!」
怪人は「ほれ」と漫画を差し出す。
「新刊出てたぞ。」
「やった!」
ポテチを食いながら、漫画を読み出す。
おばさんが「行儀が悪い」と怒った。
「どっちか一つにしなさい。」
「平気平気。」
「何がよ?」
おばさんは「まったく」と笑う。
「でも元気になってくれてよかったわ。勇作君が見つけてくれたおかげね。」
「見つけたのはドローン少年です。」
「あの子にもちゃんとお礼を言わないと。今度お菓子をもってお宅に伺わないとね。」
そう言うと、怪人が首を振った。
「それはそうだけど、問題はそっちのUFO野郎だ。そいつがトンネルなんかに連れて行ったんだろう?」
「仕方ないのよ、そうしないと納得しなかったから。」
「いい大人がUFOだの幽霊だの・・・・馬鹿らしい。やっぱり病院に行った方がいいんじゃないか?」
「ちょっと!」
二人は喧嘩を始める。
陸翔君はチラチラと様子を窺っていた。
《離婚する親に心を痛めていたとはな。気にしていないように見えて、実は落ち込んでいたのか。》
陸翔君が坂で倒れていた時、両親が離婚するのが寂しいと呟いていた。
あれを聞いた時、俺はとんでもない誤解をしていたんだと気づいた。
《この子がUFOに乗りたいのは、足を治す為じゃなかったんだな。
宇宙へ行って、地球の小さな悩み事を忘れたかったんだ。》
宇宙は広い。果てしないほどに。
そこから地球を見れば、どんな悩みも砂塵のごとし。
だから俺は決めた。
UFOを見つけたら、絶対にこの子も乗せてやろうと。
「陸翔君、男の約束だ。」
手を出すと、「何が?」と首を傾げた。
「俺たちはUFOに乗るんだ。」
「乗りたいよね。でも見つかるかな?」
「見つけるんだ、何がなんでも。しかし米軍を相手にするのは分が悪い。」
「向こうが相手にしないだろうしね。」
「NASAに手紙を書くという手もあるが、これも希望は薄い。なぜならCIAやFBIが邪魔をするだろうからな。」
「じゃあどうやって見つけるの?」
「宇宙人は色んな場所にいるはずなんだ。いくらアメリカといえど、全ての宇宙人を拘束しているなんてあり得ない。
ということは、日本にだっているはずなんだ。」
「でも警察とか自衛隊が匿ってるかもよ?」
「そこなんだよ。この前だってハゲの宇宙人を匿おうとしていたからな。」
二人で話し込んでいると、おばさんは「何盛り上がってるの?」と尋ねた。
「UFOを見つける話です。」
「いつもよく同じ話題で盛り上がれるわね。」
「この国にも宇宙人はいるはずなんです。しかしその多くは政府によって匿われているでしょう。
どうにかして政府の手が伸びていない宇宙人を見つけないと・・・・、」
俺は真剣に考える。
日本は狭い。
ならば政府の手が届いていない宇宙人は少ないということになる。
きっと息を殺して暮らしているはずだ。
「彼らは人目につかないようにしているだろうな。」
ブツブツ言いながら空を見上げた時、ピンと閃いた。
「・・・・そうか!目立たない場所を探せばいいんだ!」
思えば今まで目立つ場所ばかり探していた。
怪しい建物とか、電波塔が建っている山とか。
そうじゃなくて、人が寄り付かない地味な場所を探せばいいんだ。
「陸翔君!安心しろ、UFOは見つかるぞ!」
「ほんと!」
「二人で宇宙へ飛び出すんだ!」
「行きたい!」
「行けるさ!行けると思っていれば、どこへだって行けるんだ!」
「だよね!」
俺たちは固い握手を交わす。
おばさんは「楽しそうねえ」と見ていたが、怪人は「馬鹿らしい」と呆れた。
「もうこいつに付き合うな。また陸翔が危険な目に遭う。」
「この前のはたまたまよ。あのホームレスの人だって、最初に陸翔が悪口を言ったのが悪いんだから。」
「だとしてもな、こんな頭のおかしな奴、俺は信用しないぞ。
こんな奴と陸翔を遊ばせるっていうんなら、陸翔の親権は俺が貰う。」
「何言ってるのよ!この前は私に譲るって言ったでしょ!」
「ならそいつと縁を切れ。でないと安心できない。」
「でも陸翔だって喜んでるわ。無理に離しちゃ可哀想よ。」
「逆だ、そいつと一緒にいると危ない。いくら喜ぶっていったって、陸翔はまだ子供なんだ。
まともな大人とそうじゃない大人の区別は付かない。」
怪人は俺を睨む。
不満たっぷりの顔で。
するとおばさんが「ちょっと来て・・・・」と怪人の手を引っ張った。
「なんだ?」
「いいから。」
二人は病室を出て行く。
陸翔君は浮かない顔で漫画に目を落とした。
「宇宙に行きたい。早くUFO見つけてよ。」
「もちろんだ。心当たりができたからな。」
「ほんと?」
「人気のない場所に行くんだ。そうすれば、政府の手が及んでいない宇宙人がいるはずだ。」
「じゃあ行こう、今すぐ。」
「ダメだ。怪我を治すのが先だ。」
「ケチ。」
「宇宙人は危険な奴もいるからな、この前思い知っただろう?」
「あの人は人間だよ。」
「いいや、宇宙人だ。でもあいつはUFOを持っていないだろう。
金に困っていたみたいだから、政府に売り渡したはずだ。」
「UFOの人って、ビックリするくらい妄想出来るよね。ある意味すごい才能だよ。」
「妄想じゃない、真実だ。」
真実はいつだって闇の中で、見ることも触れることも難しい。
でも俺には分かる。そういう直感が備わっているんだ。
モルダーじゃないけど、俺の勘がそう言ってる。
しばらく空を見ていると、おばさんが戻って来た。
「お父さんは?」
陸翔君が尋ねる。
「仕事だって。休憩中に抜けてきただけだから。」
「また来るよね?」
「もちろんよ。」
おばさんは頷き、「勇作君」と呼んだ。
「ちょっといい?」
「ええ。」
おばさんと一緒に病室を出る。
自販機がある休憩所に行って、コーヒーを奢ってもらった。
「すいません。」
「いいのよ、それよりちょっと話したいことがあってね。座って。」
おばさんは真剣な顔をしている。
何か悩んでいるようだ。
「陸翔のことなんだけどね、何か言ってた?」
「何かとは?」
「ほら、私たち離婚するじゃない?そのことで何か言ってた?」
「ええ、寂しいと言っていました。」
「やっぱり本当はショックなのね・・・・。」
おばさんは首を振る。
「さっきね、あの人と話してたのよ。陸翔のこと、もう一度真剣に考えようって。
もちろん親権は譲らないけど、でもあの子が辛い思いをするのは可哀想でしょ。
だから月に一回だけ会うって約束を、週一にしないかって提案したの。」
「それはおばさんと怪人が決めることですから、俺からは何も。」
「たまに寂しそうにしてるのよ。でも意地っ張りなところがあるから、私たちには本心は見せないのよ。
だけど勇作君になら何か言ってるんじゃないかと思ってね。それで聞いてみただけなの。」
おばさんは疲れたようにため息をつく。
俺は立ち上がり、「UFOを探しに行きましょう!」と言った。
「またそれ?」
「陸翔君はUFOに乗りたがっているんです。」
「そういう気持ちにもなるでしょうね、親が離婚するんだから。」
「大きな宇宙から地球を見れば、悲しみさえも塵と化します。
それに宇宙人の超文明なら、足だって治るかもしれません。」
「だといいけど、私はもう大人だから。妄想で気持ちを誤魔化せるほど純粋じゃないのよ。」
そう言ってから、「あ、UFOが妄想ってわけじゃなくてね」と手を振った。
「いいんです、そういう風に言われるのは慣れてますから。でも俺は信じているんです。
いや、確信しているんです。アイスランドで見たあのオーロラ、あの中にはきっとUFOがいた。
記憶の深い部分が、ほんの一瞬だけ鮮明になったんです。」
頭を下げ、病室へ戻る。
「陸翔君。」
漫画から顔を上げて、俺を見る。
「お母さんと何話してたの?」
「離婚のことについてだ。君が悲しんでいるんじゃないかと。」
「ああ、そのこと。」
「家庭の問題はよく分からないが、君のUFOへの愛は伝わった。
だから探しに行こう。それしか道はない。」
「別にそこまで追い込まれてないけど。」
「今日の朝、副業が決まってな。」
「あ、仕事見つかったんだ。よかったね。」
「しばらくは会えないかもしれない。でも休みの日はUFOを探しに行こう。きっと見つかる。そう信じるんだ。」
「分かった。僕もそれまでに怪我治すよ。」
俺たちは握手を交わす。
「それじゃ」と病室を出ると、おばさんが戻ってきた。
「帰ります。」
「もう?」
「色々と忙しくなるんです。まずは人気のない場所をピックアップしないと。」
「また会いに来てね。」
「もちろんです。」
ペコっと会釈して、病院を出て行く。
陸翔君がいる病室を見上げると、手を振っていた。
俺も手を振り返し、戦いに赴く戦士のごとく、力強い足取りで踵を返した。
《陸翔君、世界は君の知らないことだらけだ。そしてそれは俺も同じだ。
自分の記憶さえハッキリしない所があるからな。
でもUFOに乗れば、そんな些細なことはどうでもよくなる。必ず一緒に乗ろう。》
UFOの探索は、もはや俺だけの問題ではなくなってしまった。
陸翔君という相棒が出来たのだから。
俺は立ち止まり、手を見つめる。
アイスランドで両親が殺された時、俺は誰かの手を握っていた。
そしてその感触は、陸翔君の手ととてもよく似ていた。
「もしかしたら、宇宙人と手を握っていたのかもしれないな。」
弾けるオーロラの中に浮かんでいたUFO。
あれは俺のすぐ傍を駆け抜けていった。
「もしかしたら、俺と手を繋いでいた宇宙人を連れて帰ったのかもしれない。
でももそうだとすると、陸翔君は宇宙人ということになってしまうな。
そうでなければ、この手に残る感覚が似ていることに説明が付かない。」
もしあの子が宇宙人だったら、それは喜ばしいことだ。
なんたって俺の求めていたものが、すぐ傍にあるんだから。
「今度会ったら尋ねてみるか。君は宇宙人かって。」
返答を楽しみにしながら、病院を後にした。

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