不思議探偵誌 第六話 秘密の金曜日(2)

  • 2010.07.14 Wednesday
  • 10:26
 どうして人は浮気をするのか?
そしてどうして人は浮気を疑うのか?
その根底にあるものは一体何なのか?
そんな哲学的なことは学者に任せておくとして、俺は今浮気の調査の為に張り込み中だった。
「恋人が浮気しているか調べて欲しい。」
そう言って一人の青年がやってきたのは四日前だった。
中沢君というとても爽やかな青年で、今付き合っている恋人が、何故か金曜日になると一人で何処かに出掛けて行くのだという。
その恋人の名前は石井幸弘。
そう、彼らは同性愛者なのだ。
別に俺は同性愛に偏見は持っていない。
世の中には色んな愛の形があっていいと思う。
だから依頼人の中沢君も、本気で石井君を愛しているようだった。
だからこそ浮気を疑うのかもしれない。
中沢君から借りた石井君の写真をポケットから取り出して見た。
相変わらずマッチョな体をしている。
大学時代にラグビー部のキャプテンだったというから、マッチョなのはそのせいであろう。
中沢君と石井君、この二人はどんな夜を過ごしているのだろう。
どっちが攻めで、どっちが受けなのだろう。
俺はやたらとリアルに想像しながら、男同士の絡み合いってどんな感じなのだろうと考えていた。
「久能さん、どうぞ。」
自販機に行っていた由香利君が缶コーヒーを買って戻ってきた。
俺は礼を言ってそれを受け取り、マンションの入り口付近の建物に身を隠していた。
中沢君と石井君は同棲しており、そのマンションを今俺と由香利君が見張っている。
二人の住処は三階。
俺はそこに目をやった。
中沢君の話だと、金曜になると出掛けるというが、決まって夜に出掛けるというのだ。
それがまた怪しい。
もし浮気しているのなら、人目のつかない夜を選ぶだろうから。
俺は缶コーヒーのプルタブを開け、ゴクリと一口飲むと、じっとマンションの入り口付近を見つめた。
今日は金曜日で、時間は午後7時。
そろそろ石井君がマンションから出てきてもおかしくない時間だろうと思った。
「久能さんは、石井さんが本当に浮気してると思いますか?」
由香利君がコーラを片手に尋ねてくる。
その目はなぜかギラギラ輝いていた。
「うーん、どうだろう。
怪しいとは思うけど、金曜日だけっていうのがなあ。
もし浮気してるんなら、もっと頻繁に会うんじゃないだろうか。」
そう言うと由香利君は「そうですかねえ」と眉をひそめた。
「私は逆だと思います。
もし本当に浮気してるんなら、あまり頻繁には会わないじゃないかな。
だって恋人にバレちゃうじゃないですか。」
「じゃあ由香利君は浮気してると思ってるわけだ。」
由香利君は一口コーラを飲み、それからコクリと頷いた。
「私はその可能性が高いと思います。
だって恋人にも行き先を告げないで何処かに出掛けるなんて、何か知られたくない秘密があるからでしょう。
それって浮気が一番確率が高いと思います。」
むう、確かにそういうものか。
恋人に内緒にするようなことと言えば浮気くらいしかないのかもしれない。
「中沢さんには可哀想だけど、私は浮気してると思いますね。」
由香利君は自信に満ちた顔で言った。
俺は缶コーヒーを一口飲んでから由香利君に尋ねてみた。
「由香利君は浮気したり、されたりしたことはあるのか?」
そう尋ねると、由香利君は目を見開いてぶるぶると首を振った。
「私はそんなことはしませんし、浮気をするような男の人とは絶対に付き合いません。」
真面目な由香利君らしい答えだ。
俺は浮気をしたことは無いが、されたことなら結構ある。
あれは中々傷付くものだ。
「所で由香利君、君は今まで何人の男と付き合ったことがあるの?」
そんな質問がくるとは予想していなかったのか、由香利君は飲んでいたコーラを吹き出しそうになった。
「な、なんでいきなりそんなことを聞くんですか。」
顔を真っ赤に染めて慌てたような表情で問い返してくる。
「いや、何となく気になって。」
別に深い意味は無いのだが、由香利君はごほんと咳をしてから「秘密です」と言った。
あらまあ、恥ずかしがっちゃって。
「何ですか?
その目は。」
子供を見るような目をしていた俺に由香利君が口を尖らす。
「いやあ、なんか照れちゃって可愛いなあと思って。」
こういう所は本当に女の子っぽい。
しかしあまり突っ込むと機嫌が悪くなるかもしれないので、この辺にしておこうか。
由香利君はさらに顔を真っ赤にしたままそっぽを向いてしまった。
「私のことなんてどうでもいいじゃないですか。
今は仕事に集中しましょうよ。」
そう言って顔を真っ赤にしながらグイッとコーラを飲んでいる。
「はいはい、これ以上由香利君をからかって遊ぶのはやめにしましょうか。」
そう言うとドスっと脇腹に拳を入れられた。
まったく、冗談の通じない子だ。
そう思いながらマンションの入り口に目をやると、一人の男性が出てきた。
俺はまたポケットから石井君の写真を取り出し、顔を見比べる。
間違いない。
あれが石井君だ。
右手に大きなバッグを持っていた。
中沢君の言っていた通り、金曜日の夜に一人で出掛けていくようである。
「由香利君、後を追うぞ。」
「はい。」
夜になって街灯が照らす道を、石井君は真っすぐ歩いて行く。
俺達は気付かれないように、多少距離を置きながら尾行した。
途中にある建物に身を隠しつつ、石井君の後を追う。
気のせいか、石井君は周りを気にしているようだった。
「どこに向かうんでしょうね。」
由香利君が小声で呟く。
「さあな。
とにかく今は見つからないように尾行するだけだ。」
そう言った途端、石井君がいきなり後ろを振り返った。
俺は慌てて由香利君の肩に手を回して体を寄せた。
「ちょ、ちょっと!
何するんですか。」
恥ずかしそうにして離れようとする由香利君。
「馬鹿、大きな声を出すな。」
俺は離れようとする由香利君の肩をがっちりと掴んだ。
「恋人がいちゃついているふりをするんだよ。
じゃないと怪しまれるだろ。」
俺の言葉を聞いて由香利君は黙り、顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに俯いてしまった。
石井君はチラリと俺達を見ると、また前を向いて歩き出した。
「よし、また後を追うぞ。」
「は、はい・・・。」
由香利君から手を離してまた尾行を続ける。
その間、ずっと由香利君は顔を真っ赤にしていた。
「なんだ、そんなに恥ずかしかったのか?」
俺は小声で尋ねた。
由香利君はまだ恥ずかしそうにしながら答える。
「そ、そんなことありません。
これは仕事ですから、別に何とも思ってなんかいませんから。」
強がちゃって、結構可愛いなあ。
そう思いながら冗談で言ってみた。
「じゃあもっと恋人らしくしてこんなこともした方がよかったかな。」
そう言ってお尻に触ると、思いっきり足を踏まれた。
「調子に乗らないで下さい!」
踏まれた足の痛みを気持ちいいと思う俺は、もう完全な変態だな。
これはまたエロ雑誌を買って、由香利君にお仕置きをしてもらわねば。
そんなことを思いながら石井君をつけること20分。
街の中央にある市立体育館にやって来た。
「なんだ?
こんなとこに用があるのか?」
俺は不思議に思いながらそう言った。
「浮気相手に会うにしては、おかしな場所ですよね。」
由香利君も顔をしかめている。
石井君は市立体育館に入り、俺達もその後を追った。
そして入り口のすぐ外で、中に入った石井君の様子を窺う。
何やら受付の人と話しをし、そして奥にある部屋へと入って行った。
「どういうことだ?
こんな場所で浮気相手と会うってのか?」
「そうかもしれないですよ。
私達も中に入ってみましょうよ。」
そう言って俺達も市立体育館の中に入り、中の様子をぐるっと見回してから受付の人に尋ねた。
「あのう、すいません。」
受付の若い男性に聞くと、「はい、何でしょう?」と明るい声を出してきた。
短く髪を刈りあげた、好感の持てる男性だった。
「さっきここにいい体をした男性の人が来ましたよね。
あの方、奥の部屋に入って行きましたけど、何の用だったか教えてもらえますか?」
そう尋ねると、受付の男性は少し怪しむ顔を見せた。
「実は私、彼の友達でして。
たまたまここで彼を見かけたんですよ。
そしたらこの体育館に入って行くから、一体何の用事なのかなって思って。」
そう言うと、受付の男性は「そうですか」と頷いて、俺の問いに答えてくれた。
「今日は第一運動室でふんどし同好会があるんですよ。」
「は?ふんどし同行会?」
俺はすっとんきょうな声を出していた。
「はい。
毎週金曜日の午後7時半から、ふんどしを愛する皆さんが集まって、ふんどし姿を披露するんです。
さっき来られた方が入ったのが第一運動室です。
今週も、皆さんご自慢のふんどしを見せ合っているはずですよ。」
俺は由香利君の顔を見た。
苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「それって、私が見に行ってもいいんですか?」
「ええ、見学は自由のはずですよ。」
そう言って受付の男性は奥の部屋に引っ込み、そして何やら紙を一枚持って出て来た。
「これがその同行会のパンフレットです。
よかったらどうぞ。」
俺はそれを受け取り、内容を見てみる。
「日本男児の誇り!ふんどし!さあ、君もパンツを脱ぎすてて、ふんどしを巻こうじゃないか!」
そのタイトルを見て、その下に書いてあることに目を通した。
「昨今、日本ではふんどしを巻く男児が減ってきています。
これは大切な日本文化が失われる大変な危機であります。
我々はこの伝統ある日本文化、ふんどしを守る為、毎週金曜日の午後7時半よりふんどしを巻いてその姿を披露し合っております。
さあ、あなたも我々と一緒に伝統ある日本文化、ふんどしをその身に纏おうじゃありませんか。」
俺は何と言っていいか言葉を失い、横から覗き込む由香利君に意見を求めた。
「なあ、どう思う?」
由香利君は無表情のまま、「何とも言えません」と言った。
まあ、確かに何とも言えないな。
「とりあえず、そのふんどし同行会とやらを見に行ってみようか。」
「は、はい・・・。」
あまり乗り気でない由香利君と、第一運動室へとその様子を見に行ってみる。
そしてドアの窓越しに中で行われている様子を見てさらに言葉を失った。
10人あまりのいい体をした男達が、真っ白なふんどしを身に付け、お互い見せ合うように堂々と立っている。
そして円陣を組んで「はいやー!」と大きな声をかけると、みんな輪を作るように離れて仁王立ちをした。
俺は何が始まるのだろうとじっと見ていた。
すると「ふんは!ふんは!」と言いながら足踏みを始めたではないか。
マッチョな男達がふんどし一丁で「ふんは!ふんは!」と足踏みをする光景。
俺は何も言えず固まって、ただその様子を見ていた。
「これは、何なんでしょうね?」
由香利君がぼそっと言う。
「さあな。」
俺も気の無い返事を返す。
するとふんどしを巻いていた一人の男性が俺を見つけ、ニコニコしながらドアを開けて俺の前に寄ってきた。
「見学の方ですか?」
男は満面の笑みで尋ねる。
「え、あ、いや。
その、私は・・・。」
言い終える前に男は俺の腕を取って中に連れ込もうとする。
「ゆ、由香利君。」
助けを求めようと思って呼ぶと、由香利君は体育館の外へ逃げて行く所だった。
「どうぞお近くで我々の活動を見て下さい。」
そう言って強制的に中に連れられ、ふんどし姿の男達の近くに座らされる俺。
その中にはふんどしを巻いた石井君もいた。
みんなニコニコしながらふんどし姿を晒している。
そしてまた足踏みが始まる。
「ふんは!ふんは!」
ああ、帰りたい!
こんな場所いやだ!
「ふんは!ふんは!」
なおも掛け声があがり、男達のボルテージは上がっていく。
「ふんは!ふんは!」
ふんどし同行会の活動が終わるまで、俺はふんどし姿一丁のマッチョな男の姿を見せつけられていた。
「ふんは!ふんは!」
その掛け声は、その晩俺の夢の中にまで出てきた。
「ふんは!ふんは!」
頼むから勘弁してくれ。
俺は夢の中で泣きそうになっていた。

                                  第六話 またつづく



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