微睡む太陽 第十七話 微睡む太陽(1)

  • 2017.05.21 Sunday
  • 07:59

JUGEMテーマ:自作小説
太陽が眩しい。
夏が過ぎ、秋になったというのに、灼熱は休む気配がない。
夏は楽しい季節だけど、あまりに長く続くと、体も心も疲れてしまう。
使い込んだエネルギーを取り戻すには、秋のような穏やかな季節が必要だ。
そうでなければ、過酷は冬は乗り切れない。
秋にたくさんの実が成るのは、冬に対して備えろということ。
身体を休め、心を癒し、たっぷりと栄養をつけて、春まで耐えるしかないのだ。
俺は兎羽山を登る。
スコップを担ぎ、リュックを背負い、緩んだブーツの紐を直して、ゴツゴツした岩道を歩んだ。
目的は一つ、UFOを探すこと。
頂上まで昇って、遮るものがない空を見上げた。
雲は薄く、極限まで伸ばしたピザの生地みたいだ。
太陽の光は鈍く、薄い雲を突き抜けて、焼けるような暑さを運んでくる。
その太陽の傍には、もう一つ太陽が浮かんでいた。
実体のない幻、光だけを放つ幻日だ。
これは偽物の太陽、でもこうして目で見ることが出来る。
できるけど、触れることはできない。
飛行機に乗って近づけば、そこには何もないのだ。
だけど見ることは出来る。
そこになくても、あるかのように浮かんでいるのだ。
俺はスコップを掴んで、土を掘る。
UFOを探す為に。
ここにはきっとUFOが眠っているはずだ。
宇宙人が隠れているに違いない。
それを見つけることこそが、俺の使命。
これをせずして、いったい何をしようというのか?
せっせと穴を掘り続け、宇宙より飛来した超文明の産物を探していく。
でも今日も見つからない。
高かった陽は落ちて、空が焦げていった。
「はあ・・・・。」
ため息を拭い、スコップを担ぐ。
頂上を後にして、トボトボと下山した。
麓に着くと、おばさんが墓地の手入れをしていた。
「こんばんわ。」
「あら、今日も登ってたの?」
「ええ。でもUFOは見つかりません。」
「残念ね。」
ニコッと笑って、家に戻っていく。
しばらくすると、陸翔君が出てきた。
「UFOの人!」
慣れた手つきで車椅子を走らせる。
俺の手前まで来ると、「UFOあった?」と尋ねた。
「あるのはある。でも見つからない。」
「いつか見つかるよ。」
「ああ。」
「今日はそのまま帰るの?晩御飯は?」
「お邪魔しようかな。」
「泊まっていきなよ。」
陸翔君は家に戻っていく。
「お母さ〜ん!」と叫んで、「ハンバーグ一個追加して!」と叫んだ。
俺は空を振り返る。
幻日は消えて、本物の太陽しかない。
でもいつかまた現れるだろう。
実体のない幻の星、あれこそが俺の星なのだ。


            *

今から一ケ月前、俺はあの星に手を伸ばした。
オーロラを超え、亜空間から飛び出し、二つの太陽を目撃した。
本物と幻の二つ、それぞれの太陽には異なるものが詰まっていた。
本物には地球と人間が。
幻には宇宙と宇宙人が。
俺は迷わず幻の太陽に手を伸ばした。
その瞬間、元の世界へ戻ってきた。
ここは病院。
医者に鎮静剤を打たれてから、ずっとベッドの上で寝ていたようだ。
傍にはおばさんと陸翔君がいて、怪人も来ていた。
『大丈夫?』とか『もうちょっと寝てなよ』と声をかけてくる。
しばらくすると医者がやって来て、俺に幾つか質問をした。
頭は痛くないか?とか、気分はどうだ?とか。
俺は『スッキリしてます』と答えた。
医者は頷き、明日には退院できるよと言った。
怪我は浅いので、身体は問題ないそうだ。
だけど心に問題があるかもしれないから、精神科の受診を勧められた。
俺は必要ないと首を振った。
『もう真実が分かったんです。』
そう答えて、精神科の受診は断った。
あれから一ケ月、俺の毎日は相変わらずだ。
こうやってUFOを探している。
陸翔君とはずっと友達だし、ていうか兄弟のようだ。
おばさんと怪人は離婚し、琴音さんとはあれから会っていない。
それと優二はどこかへ消えてしまった。
光の国のUFOへも行ったけど、もう二度と会うことはなかった。
あの廃村で見つかった骨は、かなり昔に亡くなった人のものだそうだ。
ウシガエルのいたあの穴は、かつて肥溜めだったらしい。
警察によれば、肥溜めから発生したガスを吸い込んで、そのまま中に落ちたんだろうということだ。
かなり昔の骨なので、身元を特定するのに難航している。
あのウシガエルはただのウシガエルで、宇宙人ではなかった。
そして兎羽山で見つかった恐竜の骨だが、あれも宇宙人ではなかった。
あれは正真正銘恐竜の骨。
琴音さんの言っていた通り、発掘には時間がかかっている。
でも登山の一部が解除されて、近々一般公開されるらしい。
あの恐竜の骨を除いて、それ以外のことは全部俺の妄想だったわけだ。
亜空間から飛び出し、幻日に手を伸ばしたあの日、そのことを悟った。
全ては俺の生み出した妄想であり、幻日と同じく存在はしない。
なぜならこの手で触れようとした幻日は、ホログラムのように実体がなかったからだ。
中にはUFOや宇宙人のイメージが詰まっていたけど、イメージはイメージでしかない。
・・・・だけどそれでいい。
今はまだ触れられなくても、いつか触れてみせる。
宇宙人は必ずどこかにいるはずなのだから。
でもこの星から飛び出すつもりはない。
俺がいるべき場所はこの地球だ。
父の言ったように、宇宙は寂しい場所だ。
母が言ったように、地球は笑える場所だ。
俺の立つ場所はここでいい。
だけど宇宙を、UFOを、宇宙人を見上げることはやめないだろう。
・・・・今思えば、俺は両親の死から目を背けたかったのかもしれない。
いもしない弟を生み出し、やたらとUFOにこだわることで、大きなショックから身を守ろうとしていたのかもしれない。
だけどそれ以前からも、ここではない遠くを見ることは多かった。
父の言うように、俺はここではないどこかを見ていないと、生きていけないのだろう。
だけど母の言うように、足元も大事にしないといけない。
だから宇宙を見上げることはあっても、この星から飛び立とうとは思わない。
今まで通り、この大地を踏みしめながら、UFOを探すだけだ。
そうやって変わらない毎日が過ぎていく。
いつかUFOを見つけるまで・・・・。

            *

「あ、ちょっとあんた。」
銭湯の帰り、番台のばあさんに呼び止められた。
「あのね、急なんだけど・・・・、」
「はい。」
「今日でウチ終わりなんだ。」
「閉めるってことですか?」
「そう。もうあたしも歳だし、ここもボロボロだしね。」
そう言って本当にボロボロの銭湯を見つめた。
「趣味で続けてたんだけど、これ以上はちょっとね。」
「じゃあもうここに入れないんですか?」
「当たり前だろ。あんたも風呂くらいある家に住みなよ。まだ若いんだから、こんなボロいとこ来るんじゃなくてさ。
ちゃんと稼いで、いつまでもUFOなんて言ってないでさ。」
「はい、気が向いたら。」
俺は「お世話になりました」と出ていく。
しかし「あの・・・」と引き返した。
「琴音さんは卒業旅行に行けますか?」
「ん?なんのこと?」
「琴音さんは卒業旅行に行けるかどうか分からないと言っていました。
家が裕福じゃないので、ヨーロッパを巡るなんて無理だって。」
「何言ってんだい。ウチは裕福だよ。」
「え?」
「じゃなきゃ儲けもないこんな銭湯、趣味で出来ないよ。」
「じゃあお金持ちで?」
「そこそこね。ウチのじいさんがたくさん土地持ってたから。ここら辺の地主だったんだよ。
今は息子が引き継いでるけどね。コンビニやら駐車場やらにして、ほっといてもそこそこ入ってくるよ。」
「でも琴音さんはそんなこと言っていませんでした。旅行に行くお金がなくて、それで訳あって俺に近づいて来たんです。」
「訳?どんな?」
「それは琴音さんの名誉に関わることなんで言えません。」
「なんだいそりゃ?でもウチは貧乏なんかじゃないよ。あの子が何言ったか知らないけど、変な噂広めるのはやめとくれよ。」
ばあさんはシッシと手を振る。
俺は「今までお世話になりました」と言って、銭湯を後にした。
家路につきながら、「琴音さんは嘘をついてたのか?」と首を傾げた。
「お金がいるから俺に近づいて来たんじゃないのか?」
いったいどんな理由があって近づいてきたのか?俺には分からなかった。
分からなかったが、その答えは向こうからやって来た。
家に着くと、琴音さんがいたのだ。
ドアの前で佇んでいる。
「琴音さん?」
「あ・・・・どうも。」
ペコッと頭を下げて、「大丈夫でしたか?」と尋ねてくる。
「何がです?」
「あの日私が帰ってから、錯乱して気を失ったって。おばさんから聞きました。」
「大丈夫ですよ。」
「お見舞いに行こうかと思ったんですけど、その・・・・顔を合わせづらくて。」
申し訳なさそうに俯いて、「ほんとは怒ってますよね?」と言った。
「いえ、怒ってません。でもさっき銭湯に行ってたんです。それで番台のばあさんに聞きました。」
そう言うと、琴音さんの表情が曇った。
「何を聞いたんですか?」
「実は裕福な家だって。」
「ああ・・・・・、」
「だから卒業旅行は行けるはずですよね?だったらどうして俺に近づいて来たんだろうって考え中だったんです。どうしてですか?」
「それは・・・・、」
「俺に気があるとかですか?」
「・・・・ぶっちゃけ言うと、けっこうタイプです。でもこの前彼氏と別れたばっかりで、今は誰とも付き合う気はないっていうか。」
「ならどうして近づいてきたんです?」
「・・・・笑いませんか?」
「聞いてみないと分からないけど、多分笑わないと思います。」
琴音さんは顔を真っ赤にする。
そしてこう答えた。
「すいません・・・・その・・・信じてるんです、UFO。」
「え?」
「私は・・・・見たことあるんです、UFO。」
「ほんとに!?」
「アメリカに住んでたとか、妹がさらわれたとかは嘘だけど、でも見たことがあるのは本当なんです。
それでいつ見たかっていうと、両親が離婚した時です。」
「やっぱり離婚してたんですか?」
「はい・・・・。私が陸翔君と同い年くらいの時に。あの時、すごく寂しくて、おばあちゃんの家に行ってたんです。
ていうかおばあちゃんがウチに来いって言ったからなんですけど。」
「親の離婚なんて子供に見せられないですからね。」
「それでその日の夜に、銭湯に連れて行ってもらったんです。お風呂に入った後、すごく空を眺めたくなって、こっそり屋根に登ったんです。」
「銭湯の屋根?じゃあ俺と一緒だ。」
「そうなんです。だからおばあちゃんから勇作さんの話を聞いた時、気になって気になって仕方なくて。」
「残念ながら、俺はあの時UFOは見れませんでした。」
「私は見ました。遠い空からピュンと現れて、けっこう近くまで飛んできたんです。
それでトンボみたにピュンピュン飛び回って、色もチカチカ変わって。
しばらく見てたら、おばあちゃんに呼ばれたんです。銭湯の中から「琴音〜!」って。
その瞬間に消えちゃいました、UFO。」
「なるほど。他の人には目撃されたくなかったわけだ。」
「かもしれません。けど今となっては、あれはただの幻だったのかなって。
大人になるにつれて、そう思うようになったんです。両親が離婚して悲しくて、そこから目を逸らす為に、ああいうのを想像したのかなって。」
「ただのイメージだったと?」
「でも本物だったかもしれない。それを確かめたくて、勇作さんに近づいたんです。
だって一人で探すより、二人の方がいいでしょ?
UFO探しなんて誰も付き合ってくれないし、かといってどっぷりオカルトマニアな人は嫌だし。
だから勇作さんに話しかけてみて・・・・この人ならって思えたんです。」
「?」
「その・・・・UFOは信じてるんだけど、危ない人じゃないって思えたから。
さすがに夜の廃村に行こうって言われた時は、やっぱり危ない人なんじゃないかって思ったけど。
でも約束通り、すごく紳士でした。だからこの人は信用できるって思って、一緒にUFOを探そうと決めたんです。」
「う〜ん・・・そういうことだったんですか。」
俺は腕組みをして唸る。
「それならどうして嘘なんかついたんですか?これからも一緒に探せばよかったじゃないですか。」
そう尋ねると、琴音さんの表情が曇った。
「だって勇作さん溺れて死にかけるから!あの時は助かったからよかったけど、今度こんな事があったら本当に死ぬかもって怖くなったんです。
勇作さんは私以上にUFOを信じてて、危険なんて考えずに突っ走るでしょ?
それがちょっと怖くなったんです。UFOを見つける前に、勇作さんの死体を見ることになるんじゃないかって。」
「なるほど・・・・それで嘘を。」
俺は強く頷く。
琴音さんは「なんでもすぐ信じるんですね」と言った。
「素直すぎますよ。また私が嘘ついてるとか思わないんですか?」
「どうして?」
「どうしてって・・・・だって一回嘘ついたのに。」
「一回ついたからって、二回つくとは限りません。」
「それは・・・・人を信用し過ぎじゃないですかね?」
「それに俺を騙したからって、琴音さんにメリットはない。家が裕福なんですから、卒業旅行は行けるわけだし。」
「そうだけど・・・・、」
「琴音さんは俺と同じ使命を背負っているんですよ。」
「使命?」
「UFOです。UFOが俺たちを呼んでいるんです。空を見ろと。」
「どういうことですか?」
「人は悲しいことがあった時、空を見た方がいいんです。それは琴音さんも知っているはずです。」
「ええ。だからあの時、銭湯の屋根に登ったんです。」
「それと陸翔君を連れ出してあげた。あの子もまた両親の離婚で悲しんでいたから。
そんな時、空を見ることの大切さを、あなたは知っていたんです。だからおばさんに内緒で、廃村に連れて行こうとしたんでしょう?」
「だってほんとに悲しそうだったから。本人は隠してるつもりかもしれないけど、丸分かりって感じでした。」
「あなたは優しい。後からお咎めを受けるかもしれないのに、陸翔君を癒してあげようとした。」
「そんな大層なことじゃないですけど・・・・、」
「とにかくです、また一緒にUFOを探しましょう。」
俺は手を差し出す。
しかし琴音さんは首を振った。
「来年の春から就職だから・・・、」
「ああ、それは忙しくなりますね。」
「引っ越しの準備もあるし、それに卒業旅行も。」
「ならもうUFOを探す気はないと?」
「いえ、そんなことはないんです。でもいつまでもUFOに拘るわけにはいかなくて。すいません・・・・。」
「なんで謝るんです。」
「だって嘘ついちゃったし、それにお見舞いにも行かなかったし・・・・。だからちゃんと謝ろうと思って来たんです。」
「いいですよそんなの。それより卒業旅行に行けるみたいでよかったです。楽しんできてください。」
「それじゃ」と言って、家に入ろうとした。
「あの!」
「はい?」
「一つお願いがあるんですけど・・・・、」
「なんですか?」
「もしUFOを見つけたら、教えてくれませんか?」
「いいですよ。」
「ほんとに?」
「だって気になるんでしょう?もし写真が撮れたら送ります。」
「ありがとうございます!」
琴音さんは嬉しそうに笑う。
「私もほんとは勇作さんみたいに、自由に生きたいです。
自分の好きなこととか、気になることを追いかける人生を。
でも色々と先のことを考えちゃうし、親にもちゃんとしろって言われるし。
だから・・・・羨ましいです。」
「羨ましい?」
「だって純粋なままじゃないですか。」
「子供っぽいとはよく言われます。」
「そうじゃなくて、真っ直ぐでいいなって思って。今はみんな暗い顔してて、元気がないじゃないですか。
だから一人くらい勇作さんみたいな人がいてもいいと思うんです。」
「勝手かもしれないけど・・・」、そう言って「そのままでいてほしいです」と頷いた。
「きっと見つかりますよ、UFO。だから探し続けてほしいです。」
「必ず見つけます。それが俺の使命ですから。」
俺も頷きを返す。
琴音さんはニコっと笑い、「それじゃ」と踵を返した。
「就職、頑張って下さい。」
「はい!勇作さんも!」
そう言い残し、銭湯がある方へ去って行った。
「彼女は本物の太陽を選んだわけか。」
去りゆく背中に手を振る。
UFOを見つけたら、必ず知らせてあげないとな。
陽は傾き、空が焼けていく。
長く伸びた自分の影が、宇宙人のように見えた。

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