不思議探偵誌 第六話 秘密の金曜日(3)

  • 2010.07.15 Thursday
  • 10:27
 「久能さん、目が真っ赤ですよ。」
事務所に出勤してきた由香利君にそう言われ、俺は目をしばたいた。
何故目が真っ赤なのか。
その理由は昨日夢にうなされてあまり眠れなかったせいである。
「ふんは!ふんは!」
昨日強制的に見せられたふんどし同行会の男達は、夢の中にまで出てきて俺を苦しめた。
今でも、「ふんは!ふんは!」という掛け声が耳に残っている。
俺はゴシゴシっと目を擦り、由香利君に言った。
「昨日は俺を置いて逃げるなんてひどいじゃないか。
おかげで俺は、ふんどし一丁のマッチョな男の姿を延々と見せられることになったんだぞ。」
どれほど辛い時間だったことか。
一刻も早く家に帰りたいと思っていたが、とても逃げ出せる雰囲気ではなかった。
「だって、あんなの見たくないですもん。」
由香利君が抗議するように口を尖らした。
「それは俺も同じだ。
夢にまでふんどしの男達が出てきて、俺は今日は寝不足なんだ。」
「それで目が真っ赤なんですね。
私はてっきりパソコンでエッチなサイトでも見ていたのかと思いましたよ。」
失敬な。
そう反論したかったが、実際それで寝不足になることもあるので言い返せなかった。
「でも浮気じゃなくてよかったですね。
私はてっきりそうだと思ってたから、中沢さんに何て報告しようかと思ってましたよ。」
そう、俺も浮気の線が濃厚だと思っていた。
それが「ふんどしの同行会」なるものに出掛けていたとは。
まったくもって予想外の展開だった。
何故彼らはあんなにふんどしを愛しているのか?
何故マッチョで笑顔だったのか?
何故俺を強制的に見学させたのか?
考えても仕方のないことかもしれないが、そのことがずっと頭に浮かんでいた。
もしあの時由香利君も強制的に見学をさせられていたら、きっと俺と同じように「ふんは!ふんは!」という掛け声が頭から離れずに寝不足になっていたことだろう。
俺は目をしばしばさせながら、とりあえずこのことを中沢君に報告しようと思った。
「浮気じゃなかったんなら、きっと中沢さんも喜びますね。」
それはどうだろうか。
自分の恋人がふんどし姿で「ふんは!ふんは!」と言いながら、足踏みをしていたと知ったら、幻滅するんじゃないだろうか。
おそらく石井君はそれが怖かったのだ。
こんな活動をしていることを知られたら、中沢君に嫌われる。
最悪、別れ話にまで発展するかもしれない。
だからこそ、行き先を告げずに一人で出掛けて行っていたのだろう。
石井君が隠そうとしていたことをバラすのは申し訳ないが、これも仕事だから仕方が無い。
俺は受話器を取り、中沢君に電話をかけた。
数回のコールのあと、中沢君の明るい声が聞こえてきた。
「はい、中沢です。」
俺はごほんと一つ咳払いをしてから言った。
「どうも、探偵の久能です。
依頼されていた浮気の調査結果が出ました。」
「ほんとですか!」
飛びつような声を出した中沢君に「詳しいことをお伝えしたいので事務所まで来て頂けますか?」と言った。
「はい、分かりました。
ではすぐ伺います。」
電話を切った後、由香利君がお茶を運んできた。
「中沢さん、何て言ってました?」
「うん、すぐにこっちに来るそうだ。
本当のことを言ったら、中沢君はどんな顔をするかな?」
俺はお茶を一口すすった。
自分の恋人が「ふんどし同行会」なるもに入っていましたよ。
ストレートに事実を伝えるしかあるまい。
「まあ浮気じゃなかったんなら、中沢さんもそんなに落ち込まないでしょう。
きっと安心してくれますよ。」
それは由香利君が「ふんどし同行会」を近くで見ていないからそう言えるのだ。
俺はもう一口お茶をすすり、こっそり買ったエロ雑誌を広げて読み始めた。
「あ!
またそんなもの買って!
次はお仕置きするって言ったでしょう。」
そう言って由香利君から鉄拳やら回し蹴りやらかかと落としをくらった。
ああ、気持ちいい。
お仕置きされるってたまんない。
俺はわざと由香利君にエロ雑誌を見せるようにして、お仕置きをくらうようにしたのだ。
お仕置きされても、なおエロ雑誌を読む俺。
「だから読むなって言ってんでしょ!」
さらに続く由香利君からのお仕置き。
俺はすっかり変態になってしまったなあと感じつつ、由香利君のされるがままになっていた。
そんなふうにSMプレイを繰り返していると、事務所の呼び鈴が鳴った。
「あ、きっと中沢君だ。」
俺は由香利君に体を踏まれながら言った。
由香利君は怖い顔を俺に残しつつ、ドアへ向かった。
「どうも。」
そう言って中に入って来た中沢君にソファに腰掛けるように勧めた。
中沢君は緊張してガチガチに固まっており、由香利君が運んできたお茶を一気に飲み干すと、真剣な眼差しで俺に問いかけてきた。
「それで、幸弘は浮気をしていたんですか?」
目が血走っている。
きっとそのことが気になって仕方なかったのだろう。
俺は「まあまあ」と中沢君をなだめ、一呼吸おいてから話しを始めた。
真剣な中沢君の眼差しを真っすぐ見返し、俺は膝の上で手を組んで答えた。
「結果から言うとですね、石井君は浮気をしていませんでした。」
「そ、それは本当ですか!」
中沢君が身を乗り出してくる。
「落ち着いて下さい。」
由香利君が俺の隣の座ってそう言った。
「石井さんは浮気していません。
昨日尾行をしましたが、それらしい行動は見受けられませんでしたし、そんな相手もいませんでした。」
それを聞いた中沢君は、力が抜けたようにソファに座りこみ、ホっと一安心したような顔を浮かべた。
「そっか、浮気じゃなかったんだ・・・。」
誰にでもなくそう呟き、その瞳には微かに涙が滲んでいた。
由香利君が持っていたハンカチを差し出すと、「すいません」と言ってそれを受け取り、涙を拭いて唇を噛んでいた。
「よかったですね、浮気じゃなくて。」
由香利君の言葉に頷き、ハンカチを由香利君に返すと、中沢君は当然の質問をしてきた。
「じゃあ幸弘は何で、金曜日の晩に一人で出掛けて行ってたんですか?」
俺と由香利君は顔を見合わせた。
どうぞ、久能さんから説明してあげて下さい。
由香利君の目がそう言っている。
俺は思い出したくもない昨日のことを思い出し、答えを待って膝に手を付いている中沢君に答えた。
「実はね、昨日石井君を尾行していたら、彼は市立体育館に入って行ったんですよ。」
「市立体育館?」
不思議そうに尋ねる中沢君に、俺はお茶を一口飲んでから頷いた。
「その体育館でですね、彼はふんどし同行会というものに参加していたんですよ。」
「ふ、ふんどし同行会ですか。」
中沢君は驚いたようだった。
当たり前だろう。
そんな同行会に参加していたとは夢にも思っていまい。
中沢君は無表情のまま、「それで?」と先を促してきた。
ああ、思い出したくない。
説明しようとすると、どうしてもあの時の光景が浮かんでくる。
俺は頭に浮かんでくる嫌な映像を振り払って先を続けた。
「そうです。
ふんどし同行会です。
十人あまりのマッチョな男性が、ふんどし一丁でお互いの姿を見せ合い、ふんは!ふんは!と掛け声をかけながら足踏みをしているというちょっと変わった同行会です。
そこに石井君もいました。」
ちょっと変わったと表現したのは、中沢君に気を遣ったからだ。
あれはちょっとどころどはない。
へたをすれば何かの儀式にしか見えなかった。
「そうですか。
幸弘のやつ、そんな同行会に参加していたんですか。」
ショックを受けたかな。
俺はそう思った。
何たってそんな変な同行会だ。
自分の恋人がそんなものに参加していたとなれば、幻滅する部分もあるだろう。
俺は同情するような目で中沢君を見た。
しかし中沢君は、「そっか、そうだったのか」と呟くと、急に笑顔になった。
何だ?
何でそこで笑顔になるんだ?
俺の疑問をよそに、中沢君は明るい声で言った。
「あいつ、きっとそんなことがバレたら俺に嫌われると思ってたに違いないんでしょう。
だから黙ってたんだ。
何て馬鹿なやつだ。
僕がそんなことで幸弘を嫌うはずがないのに。」
中沢君は笑顔を俺に向けて言った。
「探偵さん、謎が解けてすっきりしました。
僕、今日幸弘と話し合います。
そんなことで、僕はお前を嫌いになんかならないってね。
だって、僕達は愛し合っているんだもの。」
俺の横で由香利君が手を叩いた。
「そうですよね。
お互い愛し合っているんですものね。
今日は幸弘さんと、じっくり話し合って下さい。
私、お二人の愛が上手くいくことを祈っています。」
なんだ、この展開は。
俺はなんだか置いてけぼりになったような気分になっていた。
こいつらの心理が理解出来ない。
だって、マッチョな男達がふんどし一丁で、「ふんは!ふんは!」とか言っているんだぞ。
こいつらはきっと、近くでその光景を見ていないからそんなことが言えるんだ。
しかしそんな俺を放っておいて、中沢君と由香利君は喜び合っている。
「探偵さん、あなたにお願いしてよかったです。」
そう言って中沢君は報酬が入った封筒をテーブルの上に置いた。
「僕、今からすぐ家に帰って幸弘と話し合います。
僕達の愛は永遠だってね。
僕は、どんなことがあっても幸弘が好きだって伝えます。」
ああ、そうですか。
俺は適当に相槌を打ったが、由香利君は「応援してます!」と励ますように言った。
「じゃあ、僕はこれで。
本当にありがとうございました。」
そう言って頭を下げ、中沢君は去って行った。
「はあ、何だか疲れた。」
俺が言うと、由香利君がニコッと笑った。
「よかったじゃないですか、浮気の容疑が晴れて。
きっとこれであの二人は上手くいきますよ。」
「だといいけどな。」
嬉しそうにそう言う由香利君に、俺は気の無い返事を返した。
もう依頼は解決した。
あとのことは好きにしてくれ。
俺はそう思いながらエロ雑誌を広げた。
「だからそんなもの見るな!」
また由香利君のお仕置きが始まり、俺は快感に身を任せていた。
それから十日後、事務所に中沢君が手にバッグを持って訪ねてきた。
石井君を連れて。
「この前はお世話になりました。」
中沢君が頭を下げる。
俺は突然の訪問に、読んでいたエロ雑誌をたたんで二人を見た。
「あれから幸弘と話し合ったんです。
僕はどんなことがあってもお前のことが好きだよって。」
それを聞いて石井君も笑っている。
なんだ、わざわざ惚気に来たのか?
由香利君が「どうぞソファにお掛け下さい」と声をかけたが、二人は拒否した。
「探偵さん。」
「はい。」
いきなり中沢君に呼びかけられ、俺はビクっと身をすくめた。
何だ、いきなり。
そう思うと同時に、中沢君と石井君は同時に服を脱いだ。
「きゃあ!」
由香利君が悲鳴を上げる。
俺も何をするんだ、コイツらはと思って二人を見た。
すると、二人の股間にはふんどしが巻かれていた。
真っ白な、シミ一つない綺麗なふんどしが。
「実は、僕も幸弘に誘われて、ふんどし同行会に入ったんです。」
そう言って二人は「ふんは!ふんは!」と言いながら足踏みを始めた。
「や、やめろ!
お前ら。」
しかし二人は俺の言葉を無視し続けて続ける。
「ふんは!ふんは!」
「ちょっと、久能さん何とかして下さい!」
由香利君が顔を真っ赤にして俺に訴える。
ようし、こうなったら。
俺は眉間に力を集中し、念動力を使った。
すると石井君の巻いているふんどしが3cm横にずれて、タマタマがあわらになった。
「おわ、何だ!」
びっくりする石井君。
「何してるんですか!
この変態!」
思いっ切り顔面に蹴りを入れる由香利君。
俺はソファから転げ落ちてしまった。
そうすると中沢君が持っていたバッグの中から、真っ白な長い布を取り出した。
「これ、探偵さんにお礼です。
僕達と一緒に、ふんどしを巻きましょう。」
そう言うと石井君が俺を羽交い絞めにし、中沢君が俺の服を脱がし始めた。
「ちょ、ちょっと何するんだ!」
抵抗したが、マッチョな石井君に羽交い絞めにされて身動きが取れない。
そうしている間にもさらに俺の服は脱がされ、とうとうパンツ一丁になってしまった。
「さあ、パンツを脱いで我々と同じふんどしを巻きましょう。」
ニコニコしながら中沢君が言う。
そして俺のパンツに手をかけた。
「や、やめてー!」
俺の叫びも虚しく、パンツを下ろされて素っ裸にされてしまった。
「由香利君、助けてくれ!」
俺は必死になって訴えた。
「し、知りません!
もう、みんな変態じゃないですか!」
そう言って顔を手で覆って背中を向けている。
「さあさあ、ふんどしを巻きますよお!」
「やめてー!」
抵抗も虚しく、俺はふんどし一丁の姿になってしまった。
「うう、もうお婿にいけない。」
へたり込んで泣いていると、石井君に手を掴んで立たされた。
「こ、この上何をする気だ!」
俺が泣きながら言うと、二人はニコニコして「ふんは!ふんは!」と足踏みを始めた。
何だ、何がしたいんだ、コイツらは。
「ふんは!ふんは!」
そう掛け声を上げながら、中沢君が「さあ、ご一緒に!」と手招きをする。
俺はしばらく迷ったが、二人はやめる気配はまったくない。
ええい、もうこうなりゃやけだ。
「ふんは!ふんは!」
俺も二人に混じった。
事務所の中では三人の男がふんどし一丁で、「ふんは!ふんは!」と言いながら足踏みをするという異様な光景が広がっていた。
「もうやだ、最悪!」
由香利君が顔を背けたまま叫ぶ。
それでも続ける俺達。
「ふんは!ふんは!」
事務所の中には、ふんどし一丁で叫ぶ男達の声が響いていた。

                                    第六話 完


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