勇気のボタン〜タヌキの恩返し〜 第五十八話 猫神の告白(2)

  • 2017.06.22 Thursday
  • 12:09

JUGEMテーマ:自作小説

「やる!絶対にやる!」
マイちゃんは拳を握って叫ぶ。
「そんなの私たちにしか出来ないもん!頑張ろう悠一君!」
「あ、ああ・・・・。」
さっきまで気絶していたとは思えないほど元気だ・・・・。
家に帰ってから、マイちゃんはしばらく横になっていた。
金印の力で潜在能力を引き出し、挙句には自分のパワーに耐えかねて死にかけた。
なのに凄まじい元気だ。
最初は暗い顔をしていたけど、たまきから聞いた話を伝えると、目の色を変えた。
「たまきさんは、悠一君のことを信頼してるんだよ!」
そう言って俺の手を握る。
「痛ッ!」
「神獣が人間に頭を下げるなんてあり得ないことだもん。
でも悠一君なら信頼できるから、頭を下げてまでお願いしたんだよ!」
「ちょ、手が、指が・・・・・・、」
「たまきさんにとっては、悠一君は誰よりも信頼できる人なんだよ。
だから昔のことや、胸の内を聞かせてくれたんだと思う。」
「わ、分かったから!手え離して!!」
「だったら絶対にこの依頼は成功させなきゃ!
そうすれば、もう一人のたまきさんだって救われるはずだから。
これ以上辛い気持ちを抱えずにすむもん!」
「ぎゃあああああ!手が!指があああああああ!!」
「もう一人のたまきさんは可哀想だと思う・・・・・・。
だって本当は悪者じゃないのに、悪者みたいに扱われて・・・・。」
「マイちゃあああああん!手!手がああああああああ!!」
「この金印だってもう一人のたまきさんがくれた物・・・・・。
これがなかったら、私は人間の世界にいらなくなるところだった。」
「NOおおおおおおおお!」
ベキっと音が鳴って、ブチっと何かが切れる感触がした。
指があらぬ方向に曲がって、「ひいいいいいい!」と叫ぶ。
「私はもう一人のたまきさんに恩返しがしたい。
だから・・・・・戦う!この金印で力を解放して、シバき倒す!
それがもう一人のたまきさんへの恩返しになるはずだから。」
手を離し、大事そうに金印を握りしめる。
「ねえ悠一君!頑張ろうね!!」
「・・・・・・・・。」
「どうしたの?」
「手・・・・手が・・・・・・、」
小指が変な方向に曲がっている。
マイちゃんは「あああああ!」と叫んだ。
「ごめんなさい!すぐ治してあげるからね!」
「え!ちょ・・・・、」
「うん、折れてはないみたい。関節が外れてるだけだから平気平気。」
そう言ってグッと小指を掴む。
「ちょっと痛いけど我慢してね。」
「いやいやいや!そんな力任せに・・・・・、」
「えい!」
「おうはッ!」
電気が走ったみたいに、ビキっと激痛が襲う。
「うん、これで大丈夫!」
「・・・・・・・・・。」
「治ったでしょ?」
「・・・・これ、逆じゃない?」
「え?」
「だって爪が手の平の方に向いてるぞ・・・・・。」
「・・・・・あああ!ごめんなさい!すぐ治すから!」
「いいって!明日病院行くから!!」
「平気平気、私を信じて。」
「信じてこうなっちゃったんだろ!」
「次は大丈夫だから。・・・・・えい!」
「ひぎゃあッ!」
小指が抜けて、グルんと回る。
・・・・・どうにか元に戻ったけど、気を失いそうなほど痛かった・・・・・。
「ま、マイちゃん・・・・・。」
「なに?」
「そろそろ力加減を覚えてくれ・・・・じゃないと身がもたない・・・・。」
「うん!頑張って覚えるよ!だって悠一君のお嫁さんになるんだもん!」
元気いっぱいに頷くけど、それが逆に怖い・・・・・。
力加減を覚えてくれるまで、あと何回脱臼するんだろう・・・・。
痛む小指をふーふーしていると、目の前に動物たちがやって来た。
みんな一列に並んで、ビシっと背筋を伸ばす。
「な、なんだ・・・?」
「悠一よお・・・・。」
マサカリが渋い顔で喋り出す。
「今回の依頼、俺たちはみんなついて行くぜ。」
「いや、みんなで来られても困るんだけど・・・・、」
「いいや、絶対について行く。なんたって今まで一番の大仕事になるだろうからな。お前とコマチだけじゃ不安だ。」
「お前らが全員ついて来る方が不安なんだけど・・・・。」
「でもそれだけが理由じゃねえ。」
「はい・・・?」
「カモン、お前の口から言ってやれ。」
マサカリはカモンに目を向ける。
すると一歩前に出て、星を見るように遠い目をした。
「悠一、俺はもうすぐお別れだ。」
「それ去年から言ってるじゃないか。」
「そうだな・・・・。なんだかんだで、けっこう長生きしちまった。」
「じゃあこれからも長生きしてくれよ。まだまだ元気そうだし。」
そう言うと、カモンは小さく首を振った。
「実はな・・・・、」
「うん。」
「お前が帰ってくるちょっと前に、お迎えが来たんだ。」
「またかよ!」
「天使と仏さんがやって来て、どっちがお迎えをするかでジャンケンしてた。」
「お前もか!?」
「んで天使が勝って、俺を天国に連れて行こうとしたんだ。
でもよお・・・・俺はまだ死ぬわけにはいかねえ。
だって今回の依頼者はたまきからだからな。アイツがお前を頼るなんてよっぽどだ。
だからこの依頼が解決するまでは、まだ向こうに逝くわけにはいかねえ。
俺はどうにか天使を説得して、時間をもらったんだ。」
カモンは小さい腕を組んで、さらに遠い目をした。
「天使が言うには、俺は去年の春には死んでたらしい。」
「そ、そうなの・・・・?」
「でもお前のことが心配で、その気持ちがあまりに強すぎて、だからお迎えに来るのを遠慮してたんだと。
だけどこれ以上はもう限界で、命のロウソクはとうに尽きてるって言われた。」
「尽きてるって・・・・まだ生きてるじゃないか。」
「溶けたロウだけで燃えてる状態らしい。でもそんなのいつ消えてもおかしくない。
だから・・・・もうじきお別れだ。天使からもらったほんのちょっとの時間が過ぎれば、俺は向こうへ旅立つ。」
ビシっと渋い顔になって、俺を見つめる。
「悠一よ、これは俺の最後の仕事だ。
たまきからの依頼を見事に解決すれば、もうお前は一人前だ。
それを見届けたら、俺は死ぬ。」
「カモン・・・・・。」
手の平にカモンを乗せて、「そんなこと言うなよ・・・・」と頭をつついた。
「なんだかんだで今まで生きてたじゃないか。だったらこれからも・・・・・、」
「もう無理なんだよ。」
「でも孫の顔が見たいんだろ?なら旅立つのはそれからでもいいじゃないか。」
「俺だってそうしたいさ。でも時間がないんだ。今の俺は、人生のロスタイムを生きてるようなもんなんだ。
本当ならとうに終わってるんだよ。」
カモンは厳しい顔で言う。
コイツがこんなに真剣な顔をするのは初めてかもしれない。
するとモンブランが「カモンの気持ちを汲んであげて」と言った。
「わざと面白おかしく言ってるけど、でもホントにヤバかったの。
倒れたまま動かなくなって、息もしてなかった。」
「マジかよ・・・・・。」
「あの時みんな思ったもん。ああ、これでお別れなんだって。
でも急に息を吹き返して、『ありがとよ、天使さん』って渋い顔で言ったの。
最初は頭がおかしくなったのかと思ったけど、そうじゃなかった。
カモンが『窓の外見てみろ』って言うから、カーテンを開けてみたの。
そしたら・・・・・、」
「そしたら?」
「雲に乗った仏様が、『チッ』って舌打ちしてた。」
「まかたかよ!」
「天使もムスっとした顔でラッパを投げてた。」
「最低にもほどがあるだろ!」
「空に帰った後も、チラチラこっち見てたし。」
「あいつら執念深すぎだろ!」
とてもお迎えに来る者がする事とは思えない・・・・。
今度来たら文句の一つでも言ってやらないと。
「そういうことがあって、カモンは決心したの。悠一が今回の依頼を果たすまでは、絶対に死なないって。
だからお願い!今回はみんなでやりましょ!
だって・・・・カモンがいなくなったら、みんな揃って何かをするなんて出来なくなっちゃうから・・・・。」
モンブランはグスっと泣く。
マサカリも「えぐふッ!」と泣いて、マリナも涙目になっている。
みんな悲しそうに泣いて、チュウベエも「ウッウッウ・・・・・」と俯いていた。
カモンは「みんな・・・・」と見つめる。
「ありがとな、俺の為に泣いてくれて。」
「バッキャロウ!そんなんじゃねえや!これはちょっと目にゴミが入っただけで・・・・・ぐふう!」
「デブは相変わらず素直じゃねえな。」
「うっせえ!お前・・・・お前この野郎!天国に行ったって、たまには会いに来いよバカ野郎!
幽霊でもなんでもいいから、会いに来い!」
「気が向いたらな。」
カモンはニコっと肩を竦める。
「私イヤよ!カモンがいなくなっちゃうなんて!
そりゃしょっちゅう喧嘩してたし、アホだのバカだのネズミだのってボロクソ言い合うけど、でもやっぱり寂しい!」
「モンブラン・・・・お前はもうちょっとお淑やかになれよ。
そうすりゃすぐに良いオスが見つかる。だって美人なんだから。」
「カモン・・・・・。そういうのはもっと早く言ってよ!こんな時に言われたら・・・・余計悲しくなるじゃない!」
モンブランはギュッと抱きつく。
カモンは「よしよし」と撫でていた。
「それとマリナ。俺たちは留守番が多かったから、よく窓際でお喋りしたよな。
俺の毒舌をいっつも笑顔で聞いてくれてさ・・・・感謝してる。」
「ふうう・・・・・やめてよ・・・・。あんたがお礼を言うなんて・・・・そんなの・・・そんなのあんたらしくないわ!」
「最近俺の毒舌がうつっちゃったみたいだけど、よかったらぜひ二代目を襲名してくれ。」
「馬鹿・・・・・私は癒し系なのよ・・・・。でも・・・・たまにはあんたの真似して思い出してあげるわ。」
マリナは寂しそうに目を伏せる。
そして・・・・・・、
「ウッウッウ・・・・・。」
「チュウベエ・・・・お前とは良いコンビだったよな。
お前がボケれば俺がツッコミ、俺がボケればお前がツッコム。
もし人間なら、きっと売れっ子に漫才師になってただろうぜ。」
「ウッウッウ・・・・・。」
「もうお前と馬鹿をやれなくなるのは寂しいけど、たまには俺のこと思い出してくれよな。
お前がボケたら、天国からツッコんでやるからよ。」
カモンは寂しそうに笑う。
チュウベエは顔を上げ「ウッウッウ・・・・・」と唸った。
「美味い!このミミズ!!」
「は?」
「さっき猫神神社で捕まえたんだ。土の中ほじったら出て来た。」
「・・・・・・・・・。」
「こっそりコマチのポケットに入れて持って帰ってきたんだ。いやあ、あそこのミミズも捨てたもんじゃないな。」
「・・・・・・・・・。」
動物たちはみんな白い目で見る。
チュウベエは「なんだ?」と、くちゃくちゃミミズを頬張った。
「なんでそんな暗い顔してんだ?誰かの葬式でもあったのか?」
「バッキャロウ!お前はどこまでバカなんだ!」
「え?」
「カモンは死にかけたのよ!なのになんでミミズなんか食べてるのよ!」
「そうなの?」
「あんたらが出かけてる時、お迎えが来たのよ。でもちょっとだけ時間をもらって、こうして生きるの。
それなのに・・・・・なんてアホなの!」
みんな一斉に責め立てる。
カモンは「OKOK」と首を振った。
「こいつが泣くなんておかしいと思ったんだ。あんなセリフを吐いた自分が恥ずかしいぜ。」
みんなから責められて、チュウベエは首を傾げる。
「んなこと言ったって、俺がいない間の出来事だったんだろ?」
「さっきちゃんと説明してただろうが!」
「そうよ!このアホインコ!」
「みんな、仕方ないわよ。だってチュウベエは鳥だから。一分前のことすら覚えてないんだもの。」
「だよなあ。コイツにとっちゃ、俺のお迎えよりミミズが大事なんだ。悲しい気持ちになって損したぜ。」
「おいおい、なんで俺が悪者なんだ?・・・・あ、そうか!ミミズを独り占めしてたから怒ってんだな。」
ニコッと笑って、「ほらよ」と齧りかけのミミズを差し出す。
「食え、ハムスター。」
「・・・・・・・・・。」
「どうした?美味いぞ?」
「・・・・・・・・・。」
「もうじき死ぬってんなら、その前に美味いモン食っとけ。天国に行ったからって、ご馳走があるとは限らないぞ。」
「・・・・・やっぱお前はバカだな。」
カモンはミミズを掴み、ちょっとだけ齧る。
「・・・・・美味いな。」
「だろ!」
バシバシ背中を叩くチュウベエ。
もぐもぐミミズを食べるカモン。
やっぱりこいつらは良いコンビだ。
俺はミミズを頬張るカモンを手に乗せる。
「本当に・・・・これが終わったらお別れしちまうのか?」
「まあな。」
「そうか・・・・・。」
「んな悲しい顔すんなよ。」
「・・・・・・・・。」
「俺は感謝してんだぜ。悪質なペットショップから助けてくれてよ。
もしあのままあそこにいたら、俺はとうに死んでた。
でもお前がやって来て、俺を助けてくれたんだ。」
「前から気になってたペットショップだったんだ。
動物の声が外に漏れててさ。助けてくれって・・・・。
ある日中を覗いてみたら、酷い有様だった。
とにかく汚れまくってるわ、餌もちゃんとやってないわで。」
「お前は店主に食ってかかったよな。『売り物とはいえ、命を預かってるんだからちゃんとしろ!』って。
でもあそこの店主はほんとにクソだったからな・・・・。
逆ギレして、お前の方がボコボコに殴られたっけ。」
「ちょっと怖い感じの人だったよな・・・・。でもあの時は俺もカッとなっちゃってさ。」
「通りかかった人が警察を呼んで、店主は連れて行かれたっけ。
その後は店をほったらかして、どこかへ消えちまいやがった。」
「無責任にもほどがあるよ。もしまた会うことがあったら、一発くらい殴ってやりたい。」
「お前は残された動物を引き取って、全部里親を見つけてくれた。
でも俺だけが余って、しょうがないからってお前が引き取ってくれたんだ。」
ミミズを食べ終え、「ああ、美味かったあ」と腹を撫でる。
「あの時お前が助けてくれなきゃ、こんな美味い物を食うことだってなかった。ありがとな、悠一。」
「・・・・・・・・・。」
「良い四年間だった。お前と、それにコイツらと一緒に過ごせて、本当に楽しかった。
この思い出は死んでも忘れないぜ。」
「・・・・・・・・・・。」
「泣くなよバカ。」
視界が滲んで、カモンの姿が歪む。
「カモン・・・・最後の仕事、一緒にやろうな。」
「おうよ!あんな化け猫なんざ、チョチョっとやっつけてやろうぜ!」
短い指を立てて、ニコっと笑う。
「コマチ。」
マイちゃんの方を向いて、「こいつを頼んだぞ」と言った。
「お前も知っての通り、コイツは一人じゃ何も出来ない奴だ。
でもガッツはあるし、悪い男じゃない。それに誰よりも動物想いだしな。」
「カモン・・・・。」
マイちゃんは「任せて!」と頷く。
「もう悠一君の傍を離れない。力を合わせて動物探偵をやっていくから。」
「頼んだぜ。」
この日、カモンのお別れ会を開いた。
まだ生きてるのにお別れ会をやるのはどうかと思ったが、カモンたっての希望だ。
「生前葬ってやつだ。今日は俺を敬い、褒めちぎり、そして崇めろ!いいなポンコツども!」
みんな始めは敬い、褒めちぎり、崇めていたけど、あまりに調子に乗りすぎるので、最後にはシバかれていた。
「おいコラ!今日は俺の為の日だぞ!もっと大事に扱え!」
「うっせえこのバカ!フォークで浣腸かましやがって!」
「そうよ!ちょっとチヤホヤするとすぐこれなんだから。」
「まあまあ、こいつなりの照れ隠しなんだよ。生前葬が終わったら即効で埋めてやろうぜ。」
「いいわねそれ。後からゾンビになって出てきたりして。」
騒ぐ動物たちを見つめながら、寂しい気持ちになる。
いつもの光景、有川家の日常、これがもうすぐ見られなくなる。
そう思うと、みんなと一緒に騒ぐ気にはなれなかった。
《いつかはみんな離れていく。それは分かってるけど・・・・。》
俯きながら、チビリとお茶を飲む。
するとマイちゃんが「みんな楽しそうだね」と言った。
「ああ・・・・コイツらなりの照れ隠しなんだろうけど・・・・。」
「でも寂しくお別れするよりいいじゃない。
事故とか病気で死ぬなから悲しいけど、カモンは寿命を全うして天国に行くんだもん。」
「それは分かってるさ。でも・・・・やっぱり寂しいんだよ。
もうこのメンバーで馬鹿ができなくなるかと思うと。」
動物たちはいつもと変わらず陽気だ。
でもそれが寂しさを掻きてて、その和に加わることが出来なかった。
《カモン・・・・お前の気持ち、無駄にはしない。
たまきからの依頼は必ず解決してみせる。》
コイツが長生きしたのは、俺を心配してのこと。
ならば立派な姿を見せることでしか、安心させてやれない。
今度の仕事は、色んな意味で命懸けになるだろうと思った。

calendar

S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
<< November 2019 >>

GA

にほんブログ村

selected entries

categories

archives

recent comment

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM