勇気のボタン〜タヌキの恩返し〜 第六十一話 タヌキと猫の大喧嘩(3)

  • 2017.06.25 Sunday
  • 10:33

JUGEMテーマ:自作小説

金色に輝く獣と、真っ黒に染まった獣。
二匹の獣がスーパーバトルを演じている。
壁が粉砕され、床が抉れ、家具はバラバラに切り裂かれる。
雷鳴のような雄叫びが響き、真っ赤な血が飛び散る。
その速さは目で追うことが出来ず、金色の光と真っ黒な影が、シュシュっと部屋を飛び回っていた。
「・・・・・・・・・・。」
俺は呆然と立ち尽くす。
こんなの・・・・俺がどうこう出来るレベルじゃない!
ただただ立ち尽くしていると、入口から動物たちが覗いてきた。
「悠一・・・・どうだ?」
マサカリはビクビクしている。
「お前ら!入ってくるな!」
「でも心配でよお・・・・いったいどうなってんのかと・・・、」
そう言いながら部屋を見て、「ぬおわ!」と驚いた。
「みんな見ろ!悟空とベジータが戦ってる!」
「マジ!?」
「・・・・おおおおお!すげえ!」
「どっちが勝つか賭けようぜ!」
「もちろんコマチさんに決まってるでしょ!・・・・って言いたいけど、黒い方も強いわね。」
「お前らなあ・・・・あの戦いの中に投げ込むぞ!」
動物たちは興味津々で、「スマホで撮れ!」なんて言っている。
《このアホどもは・・・・・。もしマイちゃんが負けたら、俺たちだってどうなるか分からないんだぞ!》
息を飲みながら戦いを見つめる。
両者の力はほぼ互角で、殴っては殴られ、噛み付いては噛み付かれている。
・・・・・おっと!ここでマイちゃんがマウントポジションを取った!
馬乗りになって、ガツンガツン殴りかかる。
でも影のたまきも負けていない。
サッとパンチをかわし、マイちゃんの腕に足を絡める。
《ああ!危ないぞ!》
あの体勢は腕ひしぎ十字固めだ。
完全に決まれば腕が折れてしまう。
「ブリッジだ!ブリッジして抜け出せ!」
マイちゃんはググと背中をそらし、見事なブリッジを決める。
そして頭を中心に、クルっと身体の向きを変えた。
「ナイスだ!」
影のこまちは「チッ!」と舌打ちする。
再び技を掛けようと飛びかかるが、マイちゃんは膝蹴りで迎え撃った。
「おうぶッ!」
顔面に膝が直撃して、影のたまきは倒れる。
でもスタントマンみたいにバっと跳ね起きて、二人は取っ組み合った。
「頑張れマイちゃん!負けるな!」
両者は相撲みたいに力比べをする。
パワーは・・・・どうやらマイちゃんが勝っているようだ。
影のたまきを押し返して、そのまま一本背負いを掛ける。
しかし上手く決まらなかった。
影のたまきはジャンプして、器用に受け流したのだ。
《クソ!俊敏さは向こうの方が上か・・・・。》
さすがは猫、実にしなやかな動きをする。
「コマチ!ビームだ!ビームを出せ!」
「今こそかめはめ波よ!」
《出るわけねえだろ・・・・。》
マイちゃんはサッと拳を構えて、眩い光線を撃った。
「出るのかよ!」
信じられないことにビームが撃てるらしい・・・・。
しかしそれは影のたまきも一緒だった。
手を広げ、紫色の炎を撃ち出す。
「お前もかよ!」
光線と炎がぶつかり、部屋は吹き飛んだ。
「うわああああああ!」
「ぎゃあああああああ!」
衝撃波と爆炎が襲ってきて、俺たちは部屋の外に吹き飛ばされる。
「クソ・・・・冗談だろ・・・・こんなの・・・、」
「悠一いい・・・・・これ、やっぱり俺たちじゃどうしようも出来んぜ・・・。」
「ああ・・・・きっとこれは夢よ。終わったら起こして。」
「すまん、俺はもう逃げるわ。後はよろしく。」
「あ、だったら私も運んで!」
動物たちは怯えまくっている。
俺だってオシッコをちびりそうだ・・・・。
でも一匹だけそうじゃない奴がいた。
「情けねえ奴らだぜ。」
「カモン・・・・。」
部屋の前に仁王立ちして、腕を組んでいる。
爆発のせいで体毛はチリチリで、燃えかけのぬいぐるみみたいだった。
「悠一よお・・・・このままじゃヤベえぜ。」
「な、何が・・・・・?」
「たまきが言ってたんだろ?長時間の戦いは禁物だって。」
「ああ・・・自分のパワーに耐えられなくなるからな。」
「もうそうなりかけてる。」
カモンは部屋の中を指差す。
マイちゃんはさらに巨大化して、恐竜のように大きくなっていた。
しかし・・・・ボロボロと手足が崩れ出す。
「まずい!」
立ち上がり、部屋の中に駆け込む。
でもまたビームと炎がぶつかって、爆発が起きた。
「ううわあああああああ!」
ゴロゴロと部屋の外に投げ出され、手すりで頭を打つ。
「のおおおおお・・・・・・、」
割れるように頭が痛い・・・・・。
でもこのままじゃマイちゃんが死んでしまう。
どうにか金印を奪わないと。
「おい悠一!カモンが・・・・、」
マサカリが叫ぶ。
俺は顔を上げ「何してんだ!?」と叫んだ。
「戻れ!危ないぞ!」
カモンは部屋に入って、コソコソとマイちゃんに近づいていく。
「馬鹿!死ぬぞ!」
「もうじき死ぬんだ。なら死ぬ前に役に立たねえと。」
振り返り、ニヤリと笑う。
「悠一・・・・死んだら骨を拾ってくれ。」
「何言ってんだ!また爆発したら骨も残らないぞ!」
俺は部屋に駆け込む。
するとその時、影のたまきの手が伸びてきた。
首を掴まれ、グイっと引き寄せられる。
「ぐえッ・・・・・、」
「悠一!」
動物たちが叫ぶ。
マイちゃんも助けようとするが、手足が崩れて倒れてしまった。
「マイちゃん!」
「悠一・・・・くん・・・・、」
崩れた腕を伸ばし、悔しそうに顔を歪める。
「金印を!金印を外すんだ!」
「助けるから・・・・今すぐ・・・・・、」
マイちゃんの中から、大きな光が溢れる。
その光はさらに彼女を焼いた。
「よせ!死ぬぞ!」
「助けるから・・・・絶対に・・・・・、」
崩れた手足で這いずり、俺の方にやって来る。
しかしその時、カモンがマイちゃんの上によじ登った。
「金印は・・・・どこ!?」
キョロキョロしながら金印を捜す。
そして・・・・・、
「あった!」
マイちゃんの首元へ行って、体毛の中に潜り込む。
そして「取ったどおおおお!」と叫んだ。
「金印!ゲットだぜ!」
小さな腕で金印を掲げる。
マイちゃんは金色の光を失い、しゅるしゅると萎んでいった。
人間に戻り、そこからさらにタヌキに戻ってしまう。
「うう・・・・・。」
元に戻ったのはいいが、崩れた手足はそのまま。
「悠一君・・・・」と呟いた後、気を失ってしまった。
「マイちゃん!」
助けに行きたいけど、影のたまきに首を掴まれている。
俺は「おい離せ!」と振り返った。
でも・・・その異様な姿に言葉を失う。
人と猫を混ぜたような姿、真っ黒に染まった体毛、そして見ているだけで吐き気を覚える殺気・・・・。
すぐに目を逸らして、ブルブルと震えた。
《コイツやべえ・・・・マジで悪魔だ。》
たまきは言っていた、あれはもう禍神ではないと。
強い怨念を抱えた悪魔だと・・・・・。
「イー・・・・・。」
影のたまきは呟く。
顔を近づけ、「戻りましょ・・・・」とささやく。
「あなたの魂はまだ生きてる・・・・その胸の中に。」
そう言って俺の胸に手を当てる。
「ここにあなたの記憶が眠ってる・・・・・。だから目を覚まして・・・・。
こんな小僧なんてどうなってもいい・・・・・イーが蘇ってくれるなら・・・・。」
影のたまきは切ない声でささやく。
そして幽霊みたいに、ユラユラと揺れた。
《なんだコイツ・・・・まるでワラビさんみたいに精気を感じないぞ。》
生きているのか死んでいるのか分からない感じがする。
俺は《もしや・・・・》と思った。
「お前・・・・もう死んでるのか・・・・・?」
「イー・・・・・一緒に行きましょう・・・・・。遠い世界へ・・・・・。」
「祠の戦いの怪我が元で死んだのか?
でも彼への想いが強すぎて、現世にとどまり続けてるんじゃ・・・・。」
「・・・イー・・・・目を覚まして・・・・。私にはもう・・・・時間が・・・・、」
そう言って薄く透き通っていく。
それと同時に、殺気の激しさが増した。
近くにいるだけで気を失いそうで、ちょっとだけ漏らしてしまう。
《ヤバイぞこれ!このままいったら、とんでもない悪魔になっちまう!》
今の時点でも充分悪魔だが、これ以上パワーアップしたら本物の悪魔だ。
《ワラビさんと同じように、仮の肉体でこの世にとどまってるに違いない。
もしその肉体が壊れたら、魂が剥き出しになる・・・・・。
そうなってしまった時、こいつは確実に悪魔になる。
たまきでもウズメさんでも勝てない、恐ろしい悪魔に・・・・・。》
この窮地を脱するにはどうしたらいいのか?
・・・・・・分からん!
こんな化け物、俺じゃどうしようも出来ない!
「イー・・・・アイツの所に行きましょ・・・・・。アイツの力なら・・・・あなたの記憶を目覚めさせられる・・・・。」
しっかりと俺を抱えて、マンションから出て行こうとする。
「悠一いいいいいい!」
「ダメ!連れて行かないで!」
「なんてこった!影のたまきが勝つなんて!」
「ああ・・・・これで終わりだわ。もう誰も助けてくれない。」
動物たちはおいおいと嘆く。
でもやっぱりアイツだけは違った。
「この野郎!俺らの大事な飼い主に手え出すんじゃねえ!」
カモンは金印を投げつける。
でも一センチも飛ばすに、コロンと転がった。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「悠一・・・・俺と一緒に向こうへ行くことになりそうだな。」
「NOおおおおおおおお!」
影のたまきはマンションから飛び上がる。
俺は彼女の腕に捕まったまま、高い空を舞った。
《ああ・・・・今度こそ終わりだ・・・・。》
過ぎていく青い空が、遠いものに思える。
俺は前世の記憶を呼び起こされて、きっと消えてしまうだろう・・・・。
そう諦めかけたとき、奴の声が響いた。
あのトラブルメーカーの声が・・・・。
「オラオラオラあああああ!」
遠い空から、凄まじい勢いで飛んでくる。
分身しながら螺旋状に回転して。
「ボンクラ探偵めええええ!コマチは渡さねえぞおおおお!」
幻の魔球が直撃する。
影のたまきは「ぎゅえッ!」と叫んで、マンションまで吹き飛ばされた。
「おぎゃ!」
「ぐへえ!」
壊れた部屋に戻ってきて、俺たちは倒れる。
そこへ再び魔球が襲いかかってきた。
「死ねボンクラ!」
「ノズチ君!ナイスタイミング!」
俺はサッと影のたまきの後ろに隠れる。
また魔球が直撃して、「ひぎゅおッ!」と悶えた。
「なんだこの悪魔みてえな奴は!お前なんか用はねえ!どいてろ!」
ノズチ君はバッコンバッコン!体当たりする。
「・・・・・イーと私の愛を邪魔する奴は・・・・許さない!」
影のたまきはバチコン!と魔球を叩く。
「ぬうううあああああああ・・・・・・、」
う〜ん・・・・ホームラン・・・・。
これで三打席とも打ち取られた。
・・・なんて冗談かましてる場合じゃない!早く逃げないと。
俺は一目散に駆け出した。
「悠一!」
「お前らはついて来るな!」
「言われなくても行かねえよ。」
「ねえ?」
「別に俺らが狙われてるわけじゃねえし。」
「俺も限界・・・・後は自分でどうにかしてくれ。」
「ああ、カモン!ついにお迎えなの!?」
「冗談言ってる暇があるなら、マイちゃんを助けろ!」
俺はスマホを投げる。
マサカリがパクっと咥えて、「ウズメか!?」と叫んだ。
「ああ!すぐに来てもらってくれ!」
マサカリは「分かった!」と頷き、「ほいよ」とチュウベエに渡していた。
《奴の狙いは俺だ!俺さえ離れればみんなは守れる。》
そう思って走ったけど、あっさり捕まった。
「ぎゃああああ!」
「さあ・・・・行きましょう・・・・。アイツの所に・・・・・。
そして戻ってきて・・・・イー・・・・。愛しい・・・・イー・・・・。」
「俺は悠一だ!イーなんて奴は知らない!」
いくら叫んでも無駄で、影のたまきは俺を離さない。
そしてまたマンションから飛びさろうとした・・・・・・瞬間、ピタリと止まった。
「よう兄ちゃん、えらくピンチじゃねえか。」
鉢巻きをしたおじさんが、腕を組んで立ちはだかる。
「も、モズクさん!」
「ノズチが逃げ出しちまってよ。慌てて追いかけてきたんだ。
そしたらオメエ・・・・どえらいことになってんじゃねえか。」
煙管を咥えながら、ブッ壊れたマンションを見渡す。
「よくもまあこれだけ無茶するもんだ・・・・・。
しかも・・・・オイラの可愛い娘がえらいことになってんじゃねえか。」
倒れたマイちゃんを見つめて、こめかみに血管が浮く。
「モズクさん!コイツは恐ろしい化け猫なんです!まるで悪魔みたいに・・・・、」
「見りゃ分かる。」
プッと煙管を吐き捨てて、ゴキゴキっと拳を鳴らす。
「オメエ・・・・マイに金印を渡した化け猫だな?」
「・・・・・・・・・。」
「名前はたまきっつったか?」
「・・・・・・・・・。」
「感謝してたんだぜ、オメエには。あの金印のおかげで、マイはそこの兄ちゃんと一緒にいられるんだからよ。」
モズクさんは拳を鳴らしながら近づいてくる。
顔が猛獣みたいになって、拳も鉄のように変わっていく。
その迫力に圧倒されたのか、影のたまきはじりじりと後退した。
《すげえ!コイツがビビってる・・・・・。》
モスクさんの迫力は尋常ではなく、一歩進む度に、要塞が迫ってくるような威圧感だった。
「・・・・・・チッ!」
影のたまきは舌打ちする。
そして踵を返して駆け出した。
「逃がすかよ。」
モズクさん一瞬で前に回り込む。
「・・・・・・ッ!」
驚くたまき。
ニヤリと笑うモズクさん。
まるでバトル漫画みたいだ・・・・。
「死んどけや。」
そう言って鉄みたいな拳で殴りかかる。
でも・・・・当たらなかった。
影のたまきは俊敏にかわして、マイちゃんの元へと駆け寄った。
そして鋭い爪を向けて、「死ぬわよ・・・・?」と言った。
「私の邪魔をするなら・・・・・こいつを殺す・・・・・。」
「人質かよ。」
今度はモスクさんが舌打ちする。
拳を下ろし、「ほれ?」と肩を竦めた。
「これでいいか?」
ホールドアップするモズクさん。
それでも影のたまきは警戒を解かない。
怖い目で睨みながら、ニヤっと笑った。
「邪魔者は消えろ・・・・。」
マイちゃんを蹴り飛ばし、マンションの外に落としてしまった。
「てめッ・・・・・、」
モズクさんは慌てて駆け出す。
影のたまきはその隙に逃げ出した。
「悠一いいいいいい!」
マサカリが叫ぶ。
他の動物たちも呆然と見上げていた。
《ああ・・・・駄目だなこりゃ。》
ノズチ君のおかげで窮地を脱し、モズクさんのおかげで二度目のピンチを脱出した。
それでもコイツは止められない。
《執念の塊だな。俺の前世のこと・・・・・そこまで好きなのか。》
怖いはずなのに、ちょっと感心してしまう。
一途という言葉があるけど、ある意味コイツほど一途な奴もいないだろう。
やり方に問題はあるけど、根っこは愛そのものなのだ。
《これ以上抵抗したら、さらにみんなを傷つける。俺一人消えてみんなを守れるなら・・・・・仕方ないのかな。》
ぼんやりと諦めが入る。
影のたまきに抱えられながら、流れていく空を見上げた。
しかしその時、足元がもぞもぞした。
何かと思って見てみると、カモンがくっ付いていた。
「お、お前・・・・・、」
「しッ!」
大声を出すなと指を立てる。
「・・・・・お前・・・・何してんだよ・・・・。危ないぞ!」
「これ、最後の希望だ・・・・・。」
そう言ってアレ差し出した。
「金印・・・・・。」
「口づけしろ。」
「え?」
「こいつを持って、たまきにキスするんだ・・・・・。」
「いやいや、この状態じゃそんなこと出来ないだろ・・・・。」
がっちり抱えられているのに、キスなど出来るわけがない。
ましてや空を飛ぶかのように、颯爽と飛び跳ねているんだから。
「悠一、諦めるな・・・・・。ここで終わったら、今までの全てが水の泡だ。」
「そうだけど・・・・コイツはヤバすぎる。これ以上抵抗したら、周りに被害が及ぶだけだ・・・・。」
「なら俺はどうなる・・・・?」
「え?」
「俺が長生きしたのは、お前が心配だったからだ・・・・・。でももう時間がねえ・・・・・。」
「カモン・・・・・。」
「せっかく天使にもらった時間だ・・・・・。だから・・・・見せてくれよ。
お前はもう一人前だって・・・・。動物探偵としてやっていけるって・・・・。
俺が安心して逝けるように・・・・見せてくれよ。」
真剣な目で見つめながら、「ほれ」と金印を向ける。
「・・・・・・・・。」
俺は手を伸ばし、金印を掴む。
その瞬間、たまきが高く飛び上がった。
どうやらスピードを上げたらしい。
でもせのせいでカモンが落ちてしまった。
「悠一・・・・・、」
「カモン!」
カモンは真っ逆さまに落ちていく。
しかしそこへ相方が飛んできて、サッと受け止めた。
「ぎりぎりセーフ。」
「チュウベエ!」
背中にカモンを乗せて、ゆっくりと下りていく。
「悠一!後は任せたぞ!」
カモンが叫ぶ。
俺は「やってやる!」と頷いた。
金印を握り締め、「たまき!」と呼んだ。
「こっち向け!俺の前世がお前と話したいってよ!」
適当な嘘で気を引く。
するとギロっとこっちを睨んだ。
《怖いいいいいいッ!》
もうほとんど悪魔みたいな顔になってる・・・・。
なんか身体も波打ってるし、化け猫の要素がどこにもない。
「イー・・・・だっけ?そいつがお前と話したいとよ。
この金印を握ってたら、そんな声が聴こえた。」
「・・・・・・・・・。」
影のたまきは疑わしそうな目で見つめる。
でも気にはなるらしく、誰もいない茂みの中に下りて、顔を近づけてきた。
「俺の前世・・・・イーっていうんだろ?そいつがお前に言いたいことがあるらしい。」
「・・・・・・・・・・。」
「金印から声が聴こえるんだ。」
「・・・・・・・・・・。」
「もっと顔を近づけろよ。小さな声だから、耳をくっつないと聞き取れないぞ。」
「・・・・イー・・・・。」
ポロっと呟いて、金印を見つめる。
「・・・イー・・・・ここよ、私はここにいる・・・・。」
喋るたびに、身体がノイズのように波打つ。
俺は金印を向けて「ほら」と言った。
「愛してるなら直接言えよ。そして彼の答えを聞けばいい。」
「・・・・・・・・。」
「怖いのか?ここまで散々やったクセに、今さら怖気づくのか?」
「・・・・私は・・・・怖い・・・・。イーを・・・・愛してるから・・・・。」
かなり怯えている。
ザザっと波打って、不安定に揺れた。
「でも好きなんだろ?ここで逃げたら、もう彼と話せないかもしれない。」
「・・・・・・・・・・。」
「勇気を出せ!でないとずっと苦しいままだぞ。」
「イー・・・・・・。」
「本当に悠のことを愛してるなら、目を背けちゃダメだ。ここには俺とお前の二人だけ。
イーの魂と・・・・お前だけだ!」
目の前に金印を突きつける。
影のたまきはじっとそれを見つめ、ゆっくりと耳を近づけた。
「聞かせて・・・・・あなたの・・・・声を・・・・。」
金印に耳が触れそうになる。
その瞬間、俺は前に踏み出した。
顔を上げ、影のたまきに口づけをする。
悪魔のような恐ろしい顔・・・・それに唇を重ねるなんてかなり怖い・・・・。
ちょっとでも抵抗されたら、首が吹き飛ぶだろう。
でもそれと同時に、こいつの力になってやりたいって思いもあった。
こんな悪魔みたいになって、鬼みたいに暴れまわって、それでも俺の前世に会いたがっている。
やってることは異常でも、性根にある想いは純粋なはずだ。
《だったらコイツだって改心できるはずだ。
本物のたまきが改心したみたいに、コイツも悪者ではなくなるはずだ!》
俺は金印を握り締めたまま、口づけを続ける。
一分、二分・・・・いや、もっと長く口づけをしていた。
すると金印が輝きだして、手の中が熱くなった。
燃えるように、焼き付くように・・・・。
その瞬間、自分の中から誰かが出て来る感じがした。
心の奥の、もっと深い所から、俺によく似た誰かが・・・・・。
そいつは俺の身体を乗っ取るように、すべての神経を支配する。
そしてぼそりとこう呟いた。
「ホワン。」
俺の口から、俺ではない誰かがそう呟く。
まるで中国語みたいな発音で。
消えるほど小さな声だったけど、それは確かに耳に届いた。
俺の耳に、たまきの耳に・・・・。
「イー・・・・。」
影のたまきも呟く。
その瞬間、彼女の目から涙がこぼれた。
じわっと潤んで、一粒の雨のように流れていく。
すると悪魔のようだった姿が、元に戻っていった。
まるで憑き物が落ちるみたいに、恐ろしい姿はドロドロと溶けて、着物を来たいつもの姿に。
そこからさらに変化して、顔が幼くなっていった。
《これは・・・・昔のたまきか?》
垢抜けない表情が可愛らしく、目にも柔らかさがある。
黒い着物も消えて、代わりに昔の中国人みたいな服に変わった。
でもその顔は間違いなくたまきで、俺に向かって手を伸ばした。
俺の中の誰かは、その手を握る。
たまきの手は震えていて、崩れるように膝をついた。
両手で俺の手を握り締め、ギュッとおでこに当てる。
お尻から尻尾が生えてきて、甘える猫のように、ゴロゴロと喉を鳴らした。
「イー・・・・。」
もう一度呟いたその言葉は、俺の神経を駆け巡る。
その時・・・・見たこともない景色が見えた。
・・・・ボロい家の中に、真っ白な猫がいる。
とても綺麗な毛並みで、尻尾を揺らしている。
俺は手を伸ばし、その猫を抱き上げた。
「ホワン。」
俺はそう呟いた。
誰に支配されるでもなく、自然と口から出てきた。
それはこの白猫の名前、俺の大事な友であり、そして家族。
笹の葉が揺れる音が響き、窓から光が射す。
俺は猫を抱いたまま、布団の上に横たわっていた。
胸が苦しく、咳が出る。
身体がだるくて、まったく起き上がる気になれない。
ホワンは心配そうに俺を見つめていた。
《苦しい・・・・いつ死んでもおかしくないくらいに・・・・。》
ホワンを抱きしめ、迫り来る死に怯える。
・・・・その時、誰かが近づいてくる足音が聴こえた。
俺は顔を上げ、光に目を細めながら見つめる。
そこには一人の女が立っていた。
旅人のような格好で、大きな荷物を背負いながら。
ホワンも顔を上げ、その女を見つめる。
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
目と目が合う・・・・。
光に照らされながら、女はニコリと笑った。
風が吹き、ざわざわと笹の葉が騒いだ。

 

 

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