勇気のボタン〜タヌキの恩返し〜 第六十四話 戻る者と旅立つ者(2)

  • 2017.06.28 Wednesday
  • 09:29

JUGEMテーマ:自作小説

たまきは無事に一つに戻った。
これでようやく一件落着。
でもまだ大きな心配事が残っている。
《マイちゃん・・・・無事でいてくれよ!》
彼女は霊獣の世界にいる。
大怪我を負ったから、モズクさんが連れて帰ったのだ。
俺はウズメさんに頼んで、マイちゃんのいる世界まで運んでもらうことにした。
《今行くからな!》
光を失った金印を握りしめ、彼女の無事を祈る。
ウズメさんはあっと言う前に神社の前まで来て、「行くわよ!」と叫んだ。
彼女の巨体は、鳥居よりも遥かに大きい。
でも構わず突っ込んでいく。
すると突然鳥居が巨大化して、ウズメさんが通れるサイズになった。
「身を低くして、しっかりしがみ付いてて!」
「はい!」
鳥居を潜った瞬間、グニャリと空間が歪んだ。
すべての景色が捻れて、強烈な風が襲いかかってきた。
「うわああああああああ!!」
ギュっとしがみ付いても、あまりの突風に吹き飛ばされそうになる。
もう限界だ・・・・・。
そう思った時、突然風がやんだ。
「着いたわよ。」
「・・・・・・・・・。」
恐る恐る顔を上げる。
「ここは・・・・・。」
俺たちが出た場所。そこは岡山だった。
マイちゃんの家がある、山の麓の草むら・・・・。
「家がある・・・・。消えたはずなのに。」
ウズメさんは家の前に俺を下ろす。
それと同時に、ガラガラと玄関が開いた。
中から現れたのはモズクさん。そして・・・・・、
「ワラビさん!」
マイちゃんの両親が、じっと俺を睨む。
「あ、あの・・・・・、」
二人の視線に圧されて、ゴクリと息を飲む。
「・・・あの・・・・マイちゃんは・・・・?」
二人は俯く。そして・・・・・首を振った。
「まさか・・・・そんな!だってそんなこと・・・・、」
膝から力が抜ける・・・・その場に崩れ落ちそうになる・・・・・。
《そんな・・・・そんなのウソだ!》
思わす叫びそうになった時、家の中からダダダダ!と足音が聴こえた。
「悠一君!」
人間に化けたマイちゃんが飛び出してくる。
ガバっと抱きついてきて、とんでもないパワーで締め付けられた。
「よかった!無事だった!」
「ぐ・・が・・・・・ごうふッ!」
「心配してた!無事でよかったああああああ!!」
「ぎゃあああああああああ!!」
骨が鳴る・・・・内蔵を吐き出しそうになる・・・・。
意識が遠のいて、魂が抜けそうになる・・・・。
「悠一くうううううん!」
「あ、またお迎えが・・・・・、」
見上げた空には、仏さんと天使がいた。

            *

「大丈夫ですか?」
ワラビさんが包帯を巻いてくれる。
俺は「お構いなく・・・」と苦笑いした。
でも笑うとビキっと骨が鳴る・・・・・痛い!
《ついさっきまで仏さんの手に乗ってたからな・・・・。》
またしても死ぬところだった。
ワラビさんが助けてくれたおかげで、どうにか死なずにすんだけど。
「これでよし。」
包帯を巻き終えたワラビさんは「ごめんなさい」と謝る。
「マイのせいで、危うく故人にしてしまうところでした。」
「いえいえ、いいんですよ。いつものことだから。」
そう言って笑うと、またビキ!っと痛んだ。
「ごめんね悠一君・・・・嬉しくてつい。」
俺の隣でマイちゃんが申し訳なさそうにしている。
モズクさんが「まあ無事だったんだからよかったじゃねえか」と笑った。
「兄ちゃんが来るまで大変だったんだぜ。『悠一君の所に行くうううう!』ってよ。
おかげでほれ、家ん中がめちゃくちゃだ。」
タンスは逆さまになり、天井には穴が空き、床は抜けている。
辛うじて残っているのはちゃぶ台だけで、これにも爪痕が付いていた。
「怪我が治った途端に暴れ出してよ。『行くったら行く!』って聞きゃしねえ。
そこへちょうど母ちゃんがやって来て、どうにか宥めてくれたってわけだ。」
「大変だったんですね・・・・・。」
俺がここへやって来た時、二人は沈んだ顔をしていた。
そして悪いことでもあったかのように、首を振ったのだ。
俺はてっきちマイちゃんに何かあったのだと思った。
でもそうではなくて、あまりに暴れるマイちゃんに辟易としていたのだ。
そこへようやく俺がやって来て、これで大人しくなるとホッとしたのだった。
「悠一君・・・・ほんとに無事でよかった。」
グスっと泣いて、また抱きつこうとする。
「あ、ちょっとッ・・・・、」
慌てて仰け反り、「今は勘弁・・・・」と手を振る。
「マイ、いい加減にしなさい。これ以上やったら、本当に鬼籍に入ってしまいますよ。」
「ご、ごめんなさい・・・・。」
シュンと項垂れるマイちゃん。
俺は「そう落ち込まないで」と肩を叩いた。
「もう全て終わったんだ。アイツは・・・・ホワンはたまきの中に戻った。もう悪さをすることはないよ。」
「ホワンさん・・・・可哀想だね。ずっと長い間い一人ぼっちだったなんて・・・・。」
「ああ。でも最後には救われた。本人が言ってたんだから間違いないよ。」
たまきの言葉はホワンの言葉。
だからたまきが救われたと言うのなら、それはその通りなのだろう。
「それよりさ、こっちの方が問題だよ。」
俺は金印を見せる。
黄金の輝きは失われて、ただの鉄みたいになってしまった。
「どういうわけか分からないけど、急にこんな風になっちゃったんだ。
これがなきゃマイちゃんは人間の世界にいられないのに・・・・。」
沈んだ顔をしていると、「ちょっといいですか?」とワラビさんが手を出した。
俺は金印を預ける。
ワラビさんは真剣な目で睨んで、「力を失っていますね」と言った。
「なら・・・・もう役に立たないってことですか?」
「このままではね。だけど力を込めれば大丈夫。」
「力を込める・・・・?」
「この金印、霊力の貯蔵庫のような物だと思います。
そして溜まった霊力を使い果たすと、だたの金属に戻ってしまうのでしょう。」
「・・・・ということは、また力を込めれば・・・・、」
「ええ、マイを守ってくれるはずです。」
「ほ、ホントですか!?」
嬉しくなって立ち上がる。でもまた骨が鳴った・・・・。
「痛ッ・・・・、」
「悠一君!」
「大丈夫大丈夫、平気・・・・。」
アバラを押さえながら、「これで人間界に戻って来れるね」と笑いかけた。
しかしワラビさんは首を振る。
「霊力を込めれば力を発揮しますが、そうすぐにというわけにはいかないでしょう。」
「どういうことですか?」
「マイを守るほどの力を込めるとなると、しばらく時間がかかります。」
「しばらくって・・・・どれくらい?」
「100年ほど。」
「100年!!」
「ええ。」
「そんな・・・・・。」
大きな仕事を終え、たまきから一人前のお墨付きをもらい、俺の人生はこれからだと思っていた矢先に、なんてことだ・・・・。
「どうにかならないんですか!?」
「どうにもなりません。」
「そんな・・・・・。だって100年先って言ったら、俺はもう死んでますよ。
これじゃあ・・・・結婚なんて無理じゃないか。」
目の前が暗くなって、がっくりと項垂れる。
《人生って上手くいかないもんだ・・・・。仕事が充実しそうになったら、今度はプライベートで打撃を受けるなんて。》
成功者はプライベートで恵まれないというが、果たしてどっちがいいんだろう?
仕事を取るか、大事な人を取るか。
・・・・・そんなの決められるわけないじゃないか!
しかしがっくりする俺とは対照的に、マイちゃんはそう落ち込んでいなかった。
「ねえ悠一君。」
明るい顔で「100年も待つ必要ないよ」と言った。
「え?」
「私ね、前から考えてたことがあるんだ。」
「考えてたこと?」
「上手くいけば、金印なしで人間界にいられるかもしれない。」
「ほ、ホントに!?」
マイちゃんはコクっと頷く。
「私ね、聖獣を目指そうと思うんだ。」
「聖獣・・・・。」
「ほら、霊獣って格があるでしょ?霊獣、聖獣、そして神獣。
今の私は一番下の霊獣。だけど聖獣になれば、金印なしで人間界にいられるかもしれないの。」
そう言って「ね、お父さん?」と振り返った。
「ああ。聖獣は霊獣より遥かに力が強ええからな。霊的にも、そして肉体的にも。」
「肉体も・・・・・。」
「マイは幻獣だから肉体が弱ええ。腕力はあっても、穢れに対する免疫がねえんだ。
だが聖獣になれば話は別だ。肉体がパワーアップして、少々の穢れじゃ動じなくなるだろうぜ。」
「ほ、ホントですか!?」
「それに霊力も増すから、穢れを追い払う力も付く。そうなりゃそんなモンなしで人間界で暮らせるはずだ。」
「やった!だったら結婚出来るよ!」
俺はマイちゃんの手を握りしめる。
「だがすぐにってわけにゃいかねえ。」
「え?」
嫌な予感がする・・・・・。
「あの・・・・また100年とか言うんじゃ・・・、」
「1年。」
「1年・・・・?」
「そんだけありゃいけるはずだ。」
「・・・・・・・・ホントですか!」
100分の1に縮まった!これならじゅうぶん待てる。
「本当ならもっともっと時間が掛かるんだが、マイは幻獣だ。
潜在能力は神獣並だから、普通の霊獣よりも早く昇格できるはずだぜ。」
「おお・・・・ここへきて幻獣ってことがプラスに!」
一瞬そう思ったけど、そもそも幻獣でなかったらそのまま人間界にいられる。
俺、けっこうアホなんだな・・・・・。
「兄ちゃんよ。」
「はい・・・・。」
「おめえ・・・・さてはアホだな?」
「・・・・・ッ!」
ちょっと傷つく。
シュンと項垂れると、「お父さん!」とマイちゃんが怒った。
「悠一君はアホなんかじゃない!ちょっと的外れなところがあるだけだもん!」
「そう怒るない。」
煙管を咥え、先っぽに普通のタバコを挿す。
それをプカリと吹かして、話をつづけた。
「マイは幻獣だから、成長するのも早ええはずだ。それに加えて・・・・・、」
そう言ってワラビさんを見つめる。
「母ちゃんが直々に鍛えてくれるからよ。」
「ワラビさんが?」
「母ちゃんは神獣だ。しかも神主やってるから、弟子を鍛えるのも上手いしよ。」
「なるほど・・・・。マイちゃんの才能、そしてワラビさんの指導。この二つがあれば、一年で人間界で暮らせるようになると?」
「おうよ。兄ちゃんが一年間浮気をしなかったらの話だけどな。」
「しませんよ!」
「どうだか・・・・。独り身の所へ良い女が現れたら、コロっといくかもしれねえ。なあ母ちゃん?」
「いいえ、私はそうは思いません。
悠一さんは立派な殿方です。きっと一途にマイのことを待って下さいますよ。」
そう言って俺を振り返る。
「マイのこと、信じて待っていて下さい。私が必ずや聖獣にしてみせますから。」
「お、お願いします!」
手をつき、頭を下げる。
ワラビさんは立ち上がり、俺とマイちゃんの前に立った。
「これからの二人に幸運を願って、祈りを捧げます。」
手を合わせ、目を閉じるワラビさん。
俺とマイちゃんは背筋を伸ばした。
ワラビさんはパンパン!と手を叩き、カッと目を開いた。
「キイエエアアアアアア!」
「・・・・・・・ッ!」
「ヒイイエヤアアアアアアア!」
「え?いや・・・・・、」
「アアアアカアアアアアンンテエエエエエ!!」
「な・・・・え?」
「これでよし。」
《・・・・・なに今の?》
突然わけの分からない奇声を発した・・・・。
なんか怖くてドキドキする・・・・。
「お母さん・・・・ありがとう・・・・グス。」
「ええええ!?」
「久しぶりにお母さんのお祈りを見た・・・・。きっとこれで幸運間違いなし!」
《呪いの間違いじゃないのか・・・・。》
涙ぐむマイちゃん。
「幸せになるのよ・・・・」と鼻をすするワラビさん。
モズクさんはスポーツ新聞を読んでいた。
《・・・・・この家族と上手くやっていけるのかな・・・・・。》
まあ・・・・悪い人達ではない。どうにかなるだろう。
とにかくマイちゃんが戻って来れそうでよかった。
100年なんて言われた時はドキっとしたけど、一年ならあっという間だ。
忙しく仕事をこなしていれば、すぐに時間が経つんだから。
変わり者の家族を眺めていると、ウズメさんが入って来た。
「どんな感じ?」
「ええっと・・・・こんな感じです。」
手を向けると、ウズメさんはクスっと笑った。
「ハッピーエンドってわけね。」
「まあ・・・・一応は。」
「じゃあそろそろ帰りましょうか。人間があまりこっちの世界にいるとよくないから。」
「そうなんですか?」
「幻獣の逆バージョン。清浄過ぎる空気のせいで、人間には馴染めないのよ。」
ウズメさんは「それじゃモズクさん、今日はこれで」と手を上げる。
「おう!」
モズクさんはスポーツ新聞を見ながら頷く。
「母ちゃん、兄ちゃん帰るってよ。」
「え?・・・・ああ!ごめんなさい・・・・。」
グスっと涙を拭いて、「マイをよろしくね」と頭を下げる。
「いえいえ、こちらこそ。ていうか早く聖獣になってくれるのを待ってます。」
「明日、一日だけそちらに向かわせます。
一年とはいえ離れ離れになるわけだから、一緒にいてやって下さい。」
「それは嬉しいですけど、金印がないのに大丈夫なんですか?」
「一日くらいでしたら。ねえマイ?」
「うん!平気平気!」
「そっか。じゃあ・・・・待ってるよ、マサカリ達と一緒に。」
ニコっと頷くと、「悠一君!」と抱きついてきた。
「ぎあッ!」
「私・・・・頑張るからね!絶対に聖獣になるから!」
「ちょッ・・・・やめて・・・・、」
「だから待ってて!いっぱい修行して、うんとパワーアップして、もっともっと強くなるから!」
「だあああああああああ!これ以上強くなんなくていいい!!」
メキメキっと骨が鳴る・・・・。
ワラビさんは「マイ・・・・」と鼻をすすっているし、モズクさんは新聞から顔を上げない。
《この一家とやっていくの・・・・命懸けかもしれない・・・・。》
天使と仏さんが見える頃、ようやく離れてくれた。
倒れる俺を抱えて、ウズメさんは「それじゃお暇します」と言った。
「ほら、悠一君もご挨拶。」
《出来るか!》
「じゃあまた明日!」と手を振るマイちゃん。
俺は白目を痙攣させて、「また・・・・」と気絶した。

            *

マイちゃんは無事だった。
そして金印がなくても人間界にいられることになった。
一年は離れ離れになっちゃうけど、でもそれは仕方ない。
聖獣になってくれることを信じて、ただ待つのみ!
このことを動物たちに話したら、きっと喜ぶだろう。
俺はウキウキしながらウズメさんの車に乗っていた。
「嬉しそうねえ。」
「ええ、まあ。」
「顔がデレデレよ。この幸せ者。」
パチンとおでこを叩かれる。
「すいません」と笑いながら、「でもいいんですか?」と尋ねた。
「しばらくウズメさんのマンションにご厄介になって。」
「いいのいいの。ていうか君の家はもうないじゃない。」
「吹き飛んじゃいましたからね。ていうか・・・・テレビでもえらいことになってるな。」
車に付いているテレビから、今日の事件が流れていた。
粉々になった俺の部屋、現場検証する警察、群がる報道陣と野次馬。
こりゃあ城崎温泉の時よりも大事になる・・・・・。
「ああ・・・・どうしよう・・・。もしマンションを弁償しろとか言われたら・・・・。
いやいや!それより警察沙汰になるんじゃ・・・・。」
青い顔をしながら、頭を抱える。
するとウズメさんが「平気平気」と笑った。
「この件の対処は彼女に任せてるから。」
「彼女?」
「ん、鬼嫁。」
テレビを見ていると、どどめき庵の女将さんがマンションの前にいた。
「なんでこの人が!?」
鬼の龍と称される、正真正銘の鬼嫁。
あの時の記者会見と同じように、屁理屈で記者の質問を受け流している。
「ウズメさん!なんでこの人が!?」
「私からお願いしたの。この前あなたの旦那で大変なことになったから、ちょっと協力してって。
そうしたら二つ返事で引き受けてくれて。」
「いや。引き受けるって、全然関係ない人じゃないですか!!」
「でも人間界に顔が利くのよ。」
「そ、そうなんですか・・・・・?」
「強面だけど仕事の出来る人だから。色んな所にコネを持ってるのよ。」
「はあ・・・・・。」
「まあしばらくは騒がれるでしょうけど、君が責任を負うことじゃないわ。」
「いや、でもですねえ・・・・・、」
「マンションの補償はたまきがやってくれるし、迷惑を被った人は私が助けるし。」
「そんな!だって俺の依頼でこんな事になったのに・・・・、」
「いいのいいの。たまきがそう言ってるんだから。幸い怪我人もいなかったし、人脈とお金でどうにかなる問題だから。」
そう言ってのほほんと笑う。
《笑ってるよオイ・・・・・。やっぱ人間とは違う感覚の持ち主なんだなあ。》
ウズメさんの車に揺られながら、彼女のマンションへと向かう。
そこは金持ちしか住めないような高級マンションで、「すげえ・・・」と声が漏れてしまった。
「いい所に住んでるんですね・・・・。」
「見た目よりも安いのよ。」
「ていうか引っ越したんですね?」
「ん?」
「ほら、去年の夏に一度だけお邪魔したじゃないですか。怪我したマイちゃんを預かってもらう為に。」
「ああ、あのマンション?狭いから引っ越したわ。」
「そうですか?けっこう広かったですけど・・・・。」
「私には狭かったの。」
《う〜ん・・・・けっこうバブリーな人なんだなあ。人じゃないけど。》
大きな銭湯の経営者なんだから、それなりにお金を持ってるんだろう。
そもそも稲荷の長なわけで、お金なんてどうとでもなるのかもしれない。
車を降りた俺たちは、エレベーターに向かった。
部屋は最上階。
エレベーターに運ばれながら、「動物たちはもう来てるんですよね?」と尋ねた。
「ええ。」
「あ、ああ・・・・そうですか。」
「どうしたの?そわそわして。」
「いや、だって・・・・ねえ。気持ちはすごくありがたいですけど、でも・・・・やっぱりウズメさんのマンションにお世話になるっていうのは。」
「でも住む場所がないんだから仕方ないでしょ?」
「それはそいうですけど、僕は婚約中の身でして・・・・。
いくらご厚意とはいえですね、その・・・・別の女性の所にお世話になるというのは、かなりマズイような気が・・・・、」
「え!悠一君・・・・・私にマズイことするつもりなの?」
「へ?」
「だってエッチな顔してるから。」
「ち、違いますよ!そういうことじゃなくてですね、こういうのはその・・・・倫理的にいかがなものかと・・・・、」
「ふふふ、冗談よ。」
ペチンとおでこを叩かれる。
それと同時にチンとドアが開いて、「こっちよ」と歩いていく。
「ここね。」
そう言ってトントンと表札を指さす。
「・・・・・動物探偵、有川悠一事務所。なんですかコレ?」
「だから君の部屋じゃない。」
「・・・・・えええ!だってこれウズメさんの部屋でしょ?」
「違うわよ。」
「へ?」
「これは君の部屋。」
「俺の・・・・?」
「たまきからの成功報酬よ。」
「ほ・・・・報酬?」
「1000年の悩み事を解決してもらったんだから、部屋くらいは当然でしょ。・・・・だって。」
「・・・・ええっと、じゃあウズメさんの部屋は?」
「私は三つ向こう。」
離れた部屋を指さして、ニヤニヤと笑う。
「・・・・・・・・・。」
「あれえ?何その顔?」
「あ、いえ・・・・なんでも。」
「君・・・・もしかして私の部屋に住むと思ってたの?」
顔を近づけながら、さらにニヤニヤする。
「いや!だってウズメさんのマンションだって言うから・・・・、」
「でも私の部屋だなんて言ってないわよ?」
「う、や、それは・・・・・、」
「もしかして・・・・期待してた?私と一緒に住めるんじゃないかって。」
「ち、違いますよ!」
「じゃあなんでガッカリしてるの?」
「してません!その・・・・ちょっと勘違いしてただけです。」
俺は顔を真っ赤にしながら部屋を睨む。
「だってここに俺の部屋があるなんて思わないじゃないですか。
だからついですね・・・・てっきりウズメさんの部屋のことかと・・・・、」
「婚約者がいるのに、私の部屋に住めなんて言うはずないでしょ。」
「・・・・・ですよね。」
すっごく恥ずかしくなって、《俺、やっぱりアホなんだな》と項垂れた。
「やっぱり妙なこと期待してた?」
「してません!」
「でも勘違いしたままついて来たってことは、一緒に住むつもりだったってことでしょ?」
「う、あ、それは・・・・・・、」
「やっぱり下心があったんでしょ?」
「う、うむう・・・・・ぬううおお・・・・・、」
この人、なんでこんなに嬉しそうなんだ・・・・。
ニヤニヤして、まるで俺をからかう時のマサカリたちみたいだ。
「こ、これは誘導尋問だ!誰か弁護士を・・・・、」
「ふふふ、冗談よ。」
「冗談がキツいですよ・・・・。」
「はい、コレ鍵ね。」
「え?あ・・・・ありがとうございます。」
「お礼なんていいわよ。これはたまきが買ったもんだし。」
「買う!ここって分譲マンションなんですか?」
「当然よ。こんな所の家賃、君が払えるわけないでしょ。」
「・・・・・・・・・・。」
「そう恐縮しなくてもいいって。たまきはこれでも足りないと思ってるくらいなんだから。」
「アイツ・・・・なんでそんなに金持ってんだ?」
分譲マンションなんてもらって、恐縮しない方がおかしい。
するとウズメさんは「仕事よ仕事」と言った。
「ここは君の住居兼仕事場。」
そう言ってトントンと表札を指さす。
「動物探偵、有川悠一事務所。これはお礼でもあるけど、君への期待も込めてるのよ。」
「期待?」
「君は一人前になった。だからこれからはたまきの戦友ってわけ。
だったら仕事場もそれなりじゃないと。」
「はあ・・・・・。」
「気のない返事をしない。せっかく与えてもらった立派な仕事場なんだから、ビシっとしなさい!」
バシン!と背中を叩いて、「それじゃ」と去って行く。
「私はこがねの湯があるから。」
「あ、あの・・・・今回も助けてもらって、ありがとうございました!」
ペコっと頭を下げると、ヒラヒラと手を振りながらエレベーターに消えていった。
「俺の・・・新しい仕事場。」
ここは立派なマンションだ。
仮に賃貸だとしても、決して俺の給料じゃ払えないような場所だ。
「なんかオシャレだし、ドアも立派だな。・・・・どれ、ちょっと覗いてみるか。」
この向こうにはマサカリ達が待っている。
部屋を見るのも楽しみだけど、それ以上に動物たちの反応が楽しみだった。
《マイちゃんは無事で、一年後には戻って来れる。きっとみんな喜ぶぞ。》
ウキウキしながら鍵を挿す。
そして「ただいま!」とドアを開けた。
「お前ら喜べ!マイちゃんは無事だ!そして一年後には戻って来れ・・・・・、」
そう言いかけて、口を噤んだ。
「・・・・・・・・・・。」
動物たちは背中を向けている。
広い部屋の中で、中央に集まって佇んでいる。
でも・・・・一匹足りない。
マサカリ、モンブラン、チュウベエ、マリナ。
みんなは黙ったまま、ある一点を見つめていた。
「・・・・・・・・。」
俺は黙って部屋に入る。
ドアを閉め、靴を脱ぎ、ゆっくりとマサカリ達に近づいた。
「お迎え・・・・・・来たんだな。」
そう尋ねると、マサカリが「ああ・・・・」と答えた。
「逝っちまいやがった。」
「そっか・・・・・。」
「ついさっきだ。パタンと倒れて、そのまま眠るみてえに・・・・・、」
みんなの見つめる先に、カモンが倒れている。
眠っているように見えるけど、でも・・・・もう動かない。
どんなに呼んでも起きることはない。
俺は膝をつき、そっと手に乗せた。
「カモン・・・・・。」
小さな身体を撫でる。
微かに体温が残っていて、本当についさっき旅立ったようだ。
「ありがとう・・・・最後まで手伝ってくれて。お前がいなかったら、俺はどうなってたか。」
ホワンに連れ去られる時、コイツも一緒についてきた。
あの金印を持って。
もしもあれがなければ、ホワンは正気に戻ることはなかった。
そうなれば依頼は失敗、俺だってどうなっていたことか・・・・。
「とうに命のロウソクは尽きてたのに・・・・・。ほんとに・・・・ほんとにありがとう。」
残っていた体温は、ゆっくりと消えていく。
身体は硬くなり、無機物のように冷たくなっていく。
カモンの魂は、もうここにはいない。
きっと天使か仏さんの手に乗って、遠い世界へ旅立って行ったんだ。
悲しい・・・・・けど涙は出ない。
どうして分からないけど、泣くことが出来なかった。
それはカモンが天寿を全うしたからか?
それとも後から大きな悲しみがやってきて、その時に涙するのか?
どちらか分からないけど、なぜか妙に静かな気持ちだった。
動物たちも神妙な顔をしている。
普段はどんな事でも茶化すのに、この時だけは何も喋らない。
モンブランは俺を見上げ「なんで・・・・?」と言った。
「なんでもっと早く戻って来てくれなかったの!」
泣きながら猫パンチする。
「もうちょっと早く戻って来てくれたら、カモンを看取ってあげられたのに!」
「ごめん・・・・・。」
「コマチさんに会ってデレデレしてたんでしょ!」
「・・・・・・・・・・。」
「そんなのカモンが可哀想よ!もう・・・二度と会えないのに・・・・。」
モンブランは「うわあああああん!」と泣き出す。
「ヤだよおおおお!もう会えないなんて!戻って来てよおおおお!」
モンブランを抱え、「ごめんな」と謝る。
「最後の瞬間にいなくて悪かった。」
広い部屋が震えるほど泣く。
マリナもグスっと泣いて、マサカリも辛そうな顔をしていた。
チュウベエはカモンの所に飛んできて、そっと羽を伸ばした。
「餞別だ、持ってけ。」
羽に隠していたミルワームの切れ端。
それをカモンの傍に置く。
今日、一人の仲間がいなくなった。
我が家で一番の毒舌で、我が家で一番の小さな仲間が。
でも小さな身体とは反対に、気は大きかった。
みんながビビるような中でも、コイツだけは逃げなかった。
いったい今までどれほど助けてもらっただろう。
この小さな身体を張って、俺の為に、動物の為に、どれだけ頑張ってくれただろう。
「カモン・・・・俺な、たまきからお墨付きをもらったんだ。
これからは師弟じゃなくて、戦友だとさ。
だからもう何も心配しないでくれ。安心して・・・・・ゆっくり眠ってくれ。」
尽きたロウソクが燃え続けたのは、俺の心配してのこと。
それがなくなった今、手を振って旅立って行ったような気がした。
部屋の中は静かで、泣き声だけが響く。
俺も泣きたいけど、でも涙が出てこない。
動かなくなったカモンを抱いたまま、じっと座り込んでいた。
     ワラビとモズク

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