勇気のボタン〜タヌキの恩返し〜 最終話 タヌキの恩返し(2)

  • 2017.07.01 Saturday
  • 10:59

JUGEMテーマ:自作小説

空が夕焼けに染まっている。
地平線へ消えていく陽が、美しい絵を描いている。
流れる雲もオレンジに染まって、童謡の『赤とんぼ』を思い浮かべた。
あれも夕焼けを歌った歌だ。
幼い頃、よく子供番組で流れていた。
俺は『赤とんぼ』を口ずさみながら、家路についていた。
「思ってたより遅くなっちゃったな。」
家を出た時はまだ明るかったのに、空は夜を迎える準備に入っている。
マサカリは「いいじゃねえか」と言った。
「おかげでたんまり散歩が出来た。」
「私もお昼寝気持ちよかったわ。天気の良い日に外で寝るのは最高よね!」
「俺も満足だぞ!たんまりミミズのブルーレイ借りたからな!」
「私は不満よ。なんで全部ミミズなのよ。そんなの一枚で充分でしょ。他に見たい奴があったのに。」
「まあまあ、また借りてやるから。」
俺はブルーレイの袋と一緒に、ケーキの入った袋を揺らした。
トコブシヤって店の、すごく高いケーキだ。
《マイちゃん甘い物好きだからな。きっと喜ぶはずだ。》
ルンルンと鼻歌を歌いながら、マンションに入る。
エレベーターに乗り、最上階まで来て、部屋の鍵を取り出した。
「ただいま!」
ドアを開けると、中はシンと静まり返っていた。
「あれ?」
いつもなら「お帰り!」って飛び出してくるはずなのに、返事がない。
「寝てるのかな?」
ドアを閉め、「マイちゃ〜ん!」と呼ぶ。
しかしリビングに行くと誰もいない。
「おかしいな?」
仕事場を覗いてもいないし、他の部屋にもいない。
「トイレかな?」
そう思ったけど、どうも違うようだった。
《暗くなりかけてるのに、電気が点いてない。なんでだ?》
出掛けてるのかなと思ったけど、鍵は俺が持ったままだ。
合鍵は渡していないから、外に出たなら入って来れない。
「どこ行ったんだろ?」
もしかしてオートロックであることを忘れて、外に出てしまったとか?
それか急用が出来て、家に帰っちゃったとか?
《いや、それもないか。だってケータイ持ってるからな。何かあったら連絡してくるはずだ。》
動物たちも「コマチは?」と、キョロキョロ部屋を見渡す。
「ちょっと心配だな。」
電話を掛けてみようと、荷物をテーブルに置く。
その時、ふと何かが目に入った。
「これは・・・・・・。」
テーブルの上に、金印が置かれている。
光を失い、ただの鉄のようになった金印が。
そしてその下には、紙が挟まっていた。
まるで手紙のように、二つに折ってある。
「・・・・・・・・・・。」
嫌な予感がする・・・・・。
動物たちも何かを察して、神妙な顔になる。
俺は手を伸ばし、金印を掴む。
そして二つ折りの紙を手に取り、ゆっくりと開いてみた。
どうやら二枚重なっているようで、そこには彼女の丁寧な字が並んでいた。

            *****

『悠一君へ〜
大きな仕事を終えて、お疲れ様でした。
あの時はどうなることかとヒヤヒヤしたけど、悠一君が無事に戻って来てくれて本当によかったです。
私の家まで迎えに来てくれた時、泣きそうなほど嬉しかったです。
そしてカモンのこと、本当に辛かったね。
いつかお別れするって分かってても、実際にその時が来ると、深い深い悲しみに襲われるものです。
だけどカモンはきっと幸せだったと思います。
悠一君、それにマサカリやモンブランや、チュウベエやマリナ。
みんなと過ごした日々は、きっとかけがえないのない宝物だったはずです。
それは悠一君も同じだろうし、他のみんなも同じだと思います。
悠一君は、あのたまきさんからお墨付きをもらうほど立派になりました。
それは今までいっぱい頑張ってきたからだと思うし、その中ですごく成長したからだと思います。
本当にすごく逞しくなって、私だって免許皆伝をあげたいくらいです。
もう悠一君は一人前です。
きっと一人で何でもやっていけるだろうし、これからもどんどん立派になっていくと思います。
でもね、そんな悠一君を見ていて、私はちょっぴり悔しくなりました。
大きな力を秘めていても、全然それを使いこなせなくて、いつも空回りばっかりです。
頑張ってるつもりなんだけど、結局は悠一君に迷惑をかけてしまいます。
そんな自分が嫌になってきて、でも悠一君はどんどん前に進んで、だからやっぱりちょっと悔しいなって気持ちが出てきました。
でも誤解しないで下さい。悠一君を嫌いになったとか、そういうことじゃありません。
今でも大好きだし、ずっとずっと一緒にいたいと思っています。
だけど私だって成長したい。
せっかく幻獣に生まれたんだから、もっともっとこの力を活かせるようになりたい!
私はこれから一年間、お母さんの元で修行します。
聖獣になれば、金印なしで人間界にいられるから。
でも今は、それだけが理由で聖獣になりたいと思っているわけじゃありません。
私自身が、もっともっと強くなって、成長したいんです。
頑張れば、前より強くなれる。大きくなれる。
悠一君を傍で見ていて、そう思いました。
だったら私だって、頑張って強くなりたいです。
空回りばっかりする駄目タヌキじゃなくて、幻獣の名に恥じないようなタヌキになりたいんです。
だからすぐに修行に入ります。
ビシバシ鍛えてもらって、立派な聖獣になる為に。
本当なら今日はずっと一緒にいるはずだったけど、でもこんな手紙を残して帰ってしまうこと、どうか許して下さい。
だってこのまま悠一君と一緒にいたら、明日も明後日も一緒にいたいと思うようになってしまうから。
だから・・・・本当にごめんなさい。
きっと怒ってるだろうけど、ほんとにほんとにごめんなさい。
私は頑張る。だから悠一君も動物探偵を頑張って下さい。
これからもたくさんの動物を助けてあげて。
一緒に過ごした一年間、とっても楽しかったよ。     小町舞
追伸  その金印を持って、九女御霊神社に行ってみて下さい。
    そして本殿の左奥にある、オレンジ色の社にお供えしてみて下さい。
    きっと良いことが起こるはず!』

            *****
一枚目の手紙には、マイちゃんの想いが綴られていた。
それを読んだ俺は「怒ってなんかないよ」と呟いた。
「マイちゃんにはマイちゃんの夢や、目指したいものがある。だから怒るわけないじゃんか。」
一年修行して、彼女は聖獣になる。
大変な道のりだろうけど、でもきっと成し遂げるはずだ。
あれだけ真面目で、才能があって、そしてワラビさんに鍛えてもらうんだ。
だったら聖獣になれないわけがない。
そして金印なんかなしで人間界にいられるくらいに強くなって、また戻って来てくれる。
一枚目を読み終えて、二枚目を読もうとした。
でもこちらには妙なことが書かれていた。
『この手紙には、私の勝手な妄想が詰まっています。
ほんとに下らない妄想なので、読みたくなければ捨てて下さい。
だけど私の妄想に付き合ってくれるのなら、金印をかざしてみて下さい。
あ、だけどもし読んだとしても、真に受ける必要はないからね!』
なんか意味深なことが書いてある・・・・・。
《マイちゃんよ、こんな書き方をされちゃあ誰だって読んじゃうよ。》
俺は金印を見つめて、手紙の上にかざしてみた。
すると力を失ったはずの金印が、一瞬だけ光った。
「うお!なんで・・・・、」
驚いていると、マサカリが「見ろ!」と叫んだ。
「手紙が変だぜ!」
俺はじっと目を凝らした。
金印の光を受けた手紙は、様子が変わっていった。
最初に書かれていた文字が消えて、別の文字が浮かんで来る。
それは金色に輝いていて、マイちゃんが力を解放した時にそっくりだ。
「すげえ!まるで手品みてえだ!」
「ねえ悠一!なんて書いてあるの!」
動物たちは興味津々に身を乗り出す。
俺は黄金色の神々しい文字を、じっくりと読んでいった。

            *****

『この手紙を読んでいるってことは、私の妄想に付き合ってくれるってことでいいんだよね?
ほんとのほんとに勝手なことを書いてあるけど、全部私の戯言です。
だから真に受けないでほしいし、すぐに忘れて下さい。
では妄想語りを始めます。
あのね、私はずっと前から感じてたことがあって、それは悠一君の私への想いです。
私は悠一君が大好きで、結婚できることになってすごく嬉しいです。
だけど悠一君の方はどうなのかなって?
悠一君も私を好きだって言ってくれるけど、でもその気持ちは女の人に対する好きとは違うものなんじゃないかって思うことがあるんです。
悠一君の目はいつも優しいです。
こんなダメな私を励ましてくれるし、いつでも心配してくれるし。
それはすごく嬉しいことだけど、でも不安なことでもありました。
私を見るその優しい目は、好きな女の人を見る目ではなくて、動物を見る時の目にそっくりだからです。
マサカリ、モンブラン、カモン、チュウベエ、マリナ。それに今まで助けてきたたくさんの動物たち。
みんなを見る悠一君の目はとても優しくて、そして・・・・それは私にも同じでした。
私を見るその目は、動物を見る時と同じでした。
私が勝手にそう思ってるだけかもしれません。
でもどうしてもそんな風に感じてしまうんです。
そう感じる気持ちは日に日に膨らんで、その時こう思いました。
悠一君は私のことを、女の人として好きなんじゃないって。
マサカリやモンブランと同じように、動物として好きなんじゃないかって。
私はタヌキです。
人間に化けられるけど、正体はタヌキです。
だからきっと、私のことも動物として見ていたんじゃないかって感じるんです。
悠一君は大の動物好きだから、いつだって優しい目で見つめます。
でもその目は、私にとってちょっと辛い時がありました。
覚えていますか?去年の夏に、お稲荷さんと揉めて大変な目に遭ったことを。
あの時、遠くに離れていた藤井さんが戻ってきて、悠一君はとても嬉しそうでした。
そして藤井さんを見つめるその目は、動物を見る目とは全然違うものでした。
一人の女の人を見る目っていうか、動物への愛とは全然違う優しさがこもっていました。
こんなこと言うと笑われるかもしれないけど、私だっていちおう女です。
だからですね、なんていうか・・・・そういう所はピンときちゃうんです。
ああ、悠一君にとって、藤井さんは特別な人なんだなあって。
でも私は悠一君が好きで、だからこの一年間、一緒に動物探偵をやってきました。
藤井さんを見つめていたあの目で、いつか私のことも見てくれるんじゃないかって。
でもね、やっぱりあの目で見つめられることはありませんでした。
私を見る悠一君の目は、やっぱり動物を見つめる時のままで、優しいけど女の人への愛じゃないように感じました。
だから・・・・悠一君は私のことをどう思っていますか?
私は悠一君が好きです。男の人として好きです。
悠一君はどうですか?私のことを女の人として好きですか?それとも動物として好きですか?
答えを聞くのはすごく怖いです。
面と向かって尋ねる勇気がありません。
だからこんな手紙を残しました。
私は今から霊獣の世界へ帰ります。
聖獣を目指して一生懸命修行します。
一年間でなれるかどうか分からないけど、でもやり遂げるつもりで頑張ります。
私は自分の道を目指します。
悠一君も自分の道を目指して頑張って下さい。
一年後、私は悠一君に負けないくらいに成長できるほど、修行に励むから。
そして聖獣になったなら、その後は神獣を目指すつもりです。
こっちはすごく時間がかかると思います。
いくらお母さんに鍛えてもらっても、一年ではすまないでしょう。
悠一君、私は私の世界で生きていこうと思います。
だからもうここへは戻ってきません。
いきなり出ていくなんて、なんて酷い奴だって怒ってるでしょう。
私から結婚してって言ったクセに、私から婚約破棄するなんて、なんて酷い女だって怒ってるでしょう。
でも心配しないで下さい。
私のことなんてすぐ忘れます。
悠一君はもう自分の道を歩んでいて、たまきさんから認められるほど立派になったんだから。
だからきっと、一年後には私のことなんてどうでもよくなっているはずです。
そういえばあんなタヌキもいたなあなんて、ぼんやり思い出しながら、仕事に精を出しているでしょう。
だけどこのままお別れするのは、あまりに勝手過ぎるし、迷惑を掛けると思います。
だからささやかだけど、お礼をさせて下さい。
その金印を持って、九女御霊神社に行ってみて下さい。
そしてオレンジ色の社の前に、お供えしてみて下さい。
実はあの社には、不死鳥の末裔の神様を祭ってあるんです。
その神様にお願いすれば、あなたと彼女にかけられた呪いが解けるかもしれません。
きっとなんのことか分からないですよね。
でも分からないままでいいです。言っちゃダメだって、たまきさんとの約束だから。
だけどそうすることで、悠一君は本当に好きな人と結ばれることが出来るはずです。
これは一年間お世話になった、私からの恩返しです。
一緒に過ごした時間、本当に楽しかったよ。
きっとこの先もずっと忘れないと思う。
私は霊獣の世界で、お父さんとお母さんと一緒に幸せに暮らします。
だから悠一君も幸せになって下さい。
その金印を使えば可能なはずだから。
時を超えて、想いが結ばれるはずだから。
そうすれば、きっと幸せになれるはず。
今まで本当にありがとう。これからも動物探偵を頑張って!
さようなら、悠一君。』

            *****
手紙を読み終えると、黄金色の文字が消えていった。
消しゴムにかけられたみたいに、真っ白な紙に戻っていく。
「・・・・・・・・。」
俺は白紙になった紙を握り締める。
するとマサカリが「どうすんだ?」と呟いた。
「その金色の文字、俺にも読めたぜ。」
「私も。」
「俺もだ。」
「読んでいいのか悪いのか、分からない内容だったわね。」
動物たちは俺を見つめる。
その目は何かを促しているようだった。
「・・・・・・・・。」
俺は立ち上がる。
真っ白になった手紙を睨み、ビリビリに破いた。
それをゴミ箱に捨てると、玄関に向かった。
「悠一。」
マサカリが呼ぶ。
振り向くとみんな一列に並んでいた。
「俺はアホだな。全然彼女の気持ちを分かってなかった。
こんなに悩んでたのに、まったく気づかないなんて・・・・。」
遠い昔、似たような間違いを起こした気がする。
そいつはずっと一人で寂しがっていて、俺はまったくそれに気づかない。
空白になった記憶の中に、かすかにそう浮かんだ。
「行ってくる。」
動物たちに頷いて、一目散に駆け出した。
《駅はそう遠くない!どうか間に合ってくれ!》
かすかな希望を灯して、車を走らせる。
夕暮れ時の駅からは、たくさんの人が吐き出されていた。
俺は車から飛び出し、駅の中に駆け込んだ。
「ちょっとあんた!切符は!?」
駅員さんに止められて、「これで!」とお金を渡す。
構内を抜けて、岡山方面に向かうホームに駆け下りた。
広いホームを見渡す。すると・・・・・、
「・・・・・・いた。」
ポツンとマイちゃんが佇んでいる。
電車の前に立ち、吐き出される人を見つめている。
そして人の波が途切れると、中へ乗り込もうとした。
「マイちゃん!」
大声で叫ぶと、驚いた顔でこっちを見た。
「悠一君・・・・・。」
俺は駆け寄り、彼女の手を掴む。
間一髪・・・・。
彼女の手を引き、電車から下ろす。
「悠一君・・・・。」
マイちゃんはキツネにつままれたような顔をしている。
ドアが閉じ、電車が動き出す。
大きな音を立てながら、遠くへ走り去った。
「・・・・・手紙、読んだよ。二枚目も。」
「・・・・・・・。」
「帰っちゃうの?霊獣の世界に。」
「・・・・・・うん。」
「もう戻って来ないの?」
「・・・・・・・・・。」
マイちゃんは顔を上げない。
ポンと尻尾が生えてきて、近くにいた人が驚いていた。
「私・・・・タヌキだから。」
「知ってるよ。」
「だから・・・・動物としてしか見てもらえないんだって・・・・。」
「そんなことない。」
「でも藤井さんを見る目と、私を見る目は全然違った・・・・・。
どっちかっていうと、動物を見るみたいな目で・・・・・。」
悲しい声で言って「それは辛いから・・・」と顔を上げる。
「でもいいの。だってコレだもん。そういう風に見られても仕方ない。」
尻尾を動かしながら、無理に笑ってみせる。
「悠一君には好きな人がいて、その人と結ばれるのが一番幸せなことだから。
だから・・・・もう・・・・・、」
そう言ってまた俯く。
俺は首から金印を外して、じっと見つめた。
「あの手紙に書いてあったね。これを持って九女御霊神社に行けって。
そうすれば呪いがどうとかって。」
「・・・・ごめんなさい。ほんとは言っちゃいけない約束だったのに・・・・。」
「たまきとの約束?」
「・・・・今日の朝、マンションに行ったらたまきさんがいた。
あの時、悠一君は気を失ったみたいにグッタリしてたの。
寝てるっていうより、ショックで気絶してるって感じだった・・・・。
だからたまきさんに尋ねた。いったい何があったの?って。」
ゆっくりと顔を上げ、唇を噛む。
「たまきさんは言えないって言った。でも私はしつこく問い詰めたの。
だって心配だったから。こんな風になるなんて、影のたまきさんに悪いことされたんじゃないかって。」
「あいつはもういないよ。一つに戻った。」
「でもさらわれた時に何かされたのかもしれないし!だから何度も何度もたまきさんを問い詰めた。
そうしたら教えてくれたの。悠一君の記憶を抜いたって・・・・。」
「記憶を・・・・抜く?」
「前世に関すること・・・・。」
「そうか・・・・。それで記憶が抜けたみたいになってるんだな。」
ボリボリと頭を掻いて、「たまきめ・・・」と眉を寄せる。
「でもそれは悠一君の為だったんだよ!たまきさんは間違ったことはしてないから。」
「分かってる。アイツは意味もなくそんな事をする奴じゃない。
だからあえて聞かないよ。なんでそんな事をしたのかってことは。」
「ごめん・・・・。」
また俯いて、グスっと鼻を鳴らす。
「詳しいことは言えない・・・・でもその金印を九女御霊神社に持っていけば、きっと良い事があるはずだから。
悠一君は藤井さんと結ばれて、幸せになれるはず・・・・・。
だから何も聞かずに、それを持って行って。それが私に出来るたった一つの恩返しだから・・・・。」
ズズっと鼻をすすって、背中を向ける。
「私は帰る・・・・・。いっぱい修行して、聖獣になる。悠一君に負けないくらいに頑張る!」
ゴシゴシと目を拭って、ニコっと振り返る。
「だから悠一君も頑張って。これからもたくさんの動物を助けてあげて。」
そう言って「みんなと幸せにね」と頷く。
俺は金印を見つめ、手の中で転がした。
「抜けた記憶の部分に、色々と複雑なことがあるんだろうな・・・・。
でもさ、そんなの今はどうでもいいんだ。俺はマイちゃんに会いに来ただけだから。」
小難しいことはどうでもいい。
俺が聞きたいことは一つだけだ。
「また戻って来るんでしょ?」
そう尋ねると、暗い顔で俯いた。
「聖獣になったら戻って来るんだよね?」
「・・・・・霊獣の世界で暮らします。」
「なんで?俺たち婚約してるのに。」
「でも悠一君の胸には藤井さんがいる!ずっとずっと続いてるから!それは・・・・ずっと昔から・・・・、」
「昔のことなんてどうでもいい。俺は今、マイちゃんに聞いてるんだ。」
たまきのせいで、ぽっかり記憶が抜けている。
でも一つだけ覚えていることがある。
記憶が抜ける前、アイツはこう言っていた。
「過去も未来も関係ない。俺は今を生きてるんだ。」
そう言うと、マイちゃんは驚いた顔をした。
「・・・・悠一君、もしかして思い出しちゃったの?金印の記憶を・・・・・。」
「いいや、ぽっかり抜けてるよ。」
「だったらなんでそんなこと・・・・。」
「これだけ覚えてたんだ。薄れていく意識の中で、たまきがそう呟いてた。」
「・・・・・・・・・。」
「抜けた記憶に、何があったのかは分からない。でも俺が知りたいのはそんなことじゃないんだ。
今一番知りたいのは、マイちゃんの気持ちなんだ。
今、大事なものが目の前にある。だったらそれを大事にしないでどうすんだって話だよ。」
マイちゃんは困ったように俯く。
俺は肩を竦めて「ごめん」と謝った。
「俺さ、恋愛とか男女の関係に疎いから。だから知らず知らずのうちに、マイちゃんを不安にさせてたみたいだ。」
「悠一君・・・・・。」
「あの手紙には、俺がマイちゃんを女の人として見てないって書いてあった。
でもそんなことはない。好きじゃなきゃ結婚なんてしないよ。」
「でも!藤井さんを見る目と、私を見る目は全然違う!
私を見る時は、いつだってマサカリたちを見る目と一緒だった!
きっと女の人としては意識してないよ・・・・。」
「でもあの手紙は妄想なんだろ?」
「え?」
「そう書いてたじゃない。これは私の妄想ですって。だからそう思うのは、君のただの妄想だよ。」
「・・・・・ずるい、そんな言い方。」
マイちゃんは悔しそうに俯く。
俺は小さく笑った。
「俺は動物のことには詳しいけど、それ以外のことからっきしなんだ。
いつかウズメさんにも注意されてさ。このままじゃいつか困るって。
ほんとに・・・・その通りになっちゃったよ。」
ほんとに情けない男だと思い、苦笑いが出る。
「俺はマイちゃんが好きだよ。女の人として。」
「・・・・・・・。」
「でも上手く伝わらなくてごめん。」
「・・・・・・・。」
「最近さ、ふと気づいたんだよ。そういえば婚約指輪もあげてないって。
ほんとにアホだよな、俺は・・・・。」
「・・・・・・・。」
「こんなんじゃ愛想を尽かされても仕方ない。
でもこれだけは言える。俺はマイちゃんと動物を同じになんか見ていない。
だって俺、動物は好きだけど、変態じゃないから。」
「・・・・・?」
マイちゃんは首を傾げる。
俺は顔を赤くしながら答えた。
「俺は動物とそういうことしたいとは思わないから。
マイちゃんが好きだから、その・・・・あの夜は誘ったわけで・・・・、」
恥ずかしくなってきて、意味もなく咳払いする。
「君を一人の女性として愛してるんだ。上手く伝わらなかったのは悪いと思ってるけど、でもそれは本当のことだよ。
だからまた戻って来てほしい。聖獣になったら、また俺の傍に・・・・。」
そう言ってマイちゃんの手を取り、金印を渡した。
「これは預けておく。」
「え!だってこれがないと藤井さんと・・・・、」
「藤井は関係ない。」
「でも・・・・、」
「君がたまきから何を聞いたのか知らないけど、でも俺の気持ちは変わらない。
俺は今を生きてるんだ。だから傍にある大事なものを、大事にしたい。」
「・・・・・・・・・。」
「藤井は藤井で、自分の道を歩んでる。これだって決めた道で頑張ってるんだ。
俺もアイツも、動物に関わる道を歩いてる。
そういう意味じゃ、俺とアイツはいつでも繋がってるのかもしれない。」
「・・・・・・・。」
「でもそれとこれとは別なんだよ。アイツは友達であり、なんていうか・・・・戦友みたいな感じなんだ。」
「・・・・・・・・・。」
「マイちゃん、俺が好きなのは君なんだ。だから結婚して下さい。」
金印を預けて、ギュッと握らせる。
「こんな恩返しなんていらない。その代わり、君の答えを聞かせてほしい。」
手を離し、じっと見つめる。
マイちゃんは金印を握ったまま、小さく呟いた。
「・・・・・くる。」
「え?」
「・・・・・戻ってくる。」
手を開き、色を失った金印に目を落としたまま、「戻ってくる」と言った。
「聖獣になったら、また戻ってくる。だから・・・待っててくれますか?」
今までに見たこともないほど真剣な顔だった。
俺はその視線を受け止め、強く頷いた。
「もちろん。その時までに稼げるようになって、いい指輪を買っておくよ。」
「悠一君・・・・・。」
グスっと泣いて、尻尾を揺らす。
「私頑張るから!絶対に聖獣になる!もう駄目タヌキじゃないって、自信を持って帰って来るから!」
「マイちゃんなら必ずなれる。その時まで、俺もマサカリたちと一緒に頑張るよ。」
手を伸ばし、ギュッとマイちゃんを抱きしめる。
「大好きだよ、マイちゃん。」
「悠一君・・・・・。」
大きな尻尾が揺れて、ポンと消える。
近くにいた人がまた驚いていた。
次の電車がやってきて、音を立てながら停車する。
俺は顔を近づけて、そっとキスをした。
マイちゃんは前みたいにビクっとしなかった。
もう以前のように距離はない。
素直な気持ちをぶつけ合って、下らない遠慮はどこかへ消え去った。
電車が止まり、ドアが開く。
俺たちは身体を離し、ギュッと手を握った。
「待ってるよ、聖獣になる日を。」
「うん・・・・絶対になってみせる。」
たくさんの人が吐き出され、マイちゃんは電車に乗っていく。
ドアが閉まる前、一度だけ振り返った。
「さようなら、悠一君。またね。」
「ああ、また。」
ドアは閉まり、マイちゃんは遠ざかっていく。
「またね。」
去りゆく電車に、投げかけるように呟いた。
《行っちまった・・・・・。》
一年後に戻ってくるのは分かってる。
でもこうして見送るのは寂しかった。
夕暮れは夜に変わり始め、薄いオレンジの光だけが残っている。
寂しい気持ちが増して、哀愁が膨らんだ。
「・・・・帰るか。」
ホームを後にし、駅を出る。
すると動物たちが待っていた。
「お前ら!ついて来たのか?」
みんな真剣な顔をしている。
まっすぐ見つめるその目には、なんとも言えない哀愁が漂っていた。
「なんだよその目は・・・・・。」
動物たちは駅を見上げる。
「悠一よ、ああいうのはどうかと思うぜ。」
「ん?」
「あんなにたくさん人がいる所で抱き合うなんてねえ。」
「へ?」
「俺が空から見てたんだ。人目もはばからず、『結婚して下さい!』って言ってたろ。しかもその後キスまで。」
「あ、いや・・・・・、」
「恥ずかしいわあ・・・・そんな子に育てた覚えはないのに。」
「・・・・・育てられた覚えはないけど。」
動物たちはなんとも言えない顔をする。
「なんでそんな顔してんだよ・・・・。」
「いや、こういう顔しといた方がいいかなって思って。」
「だって一年とはいえ、離れ離れになるわけでしょ?だったら喜ぶのもどうかと思って。」
「まあ悪い結果にならなくてよかったよな。あのまま捨てられることも充分にあり得たから。」
「コマチさん、ほんとに良い子よねえ。向こうへ帰ってる間に、もっと良い人が見つかったりして。」
「そうなりゃコイツはおしまいだな。」
「きっと首を括るわ。」
「いや、廃人になるだろ。」
「廃人になってから首を括るかも。」
動物たちは心配そうに首を振る。
「こりゃ俺たちがしっかりしてねえとな。」
「カモンがいない分、一匹あたりの負担が増すわね。」
「じゃあ新しいの飼うか?今度はハリネズミとか?」
「あんたねえ・・・カモンがお亡くなりになったばかりで、よくそんな事が言えるわね。
でももし飼うなら、次はアルマジロにしてくれないかしら?」
「・・・・・・・・・。」
なんでこんな場面で、いつものバカぶりを発揮するのか?
腹が立つっていうより呆れる。
「お、なんかへこんでるぞ。」
「ほんとだ。やっぱり寂しいのね。」
「モテないからな。一年は虚しい独り身だ。」
「可哀想な悠一・・・・・でも浮気はダメよ。」
「お前らな・・・・・・、」
プルプルと震えて、「もうちょっと言い方があるだろ!」と叫んだ。
「カモンが逝って寂しがってるかと思えば、いきなりこれだ。お前らの思考回路にはついて行けん。」
ポケットに手を突っ込んで、車に歩き出す。
「お前ら歩いて帰って来い。」
「怒るなよ悠一。」
「そうよ、私たちなりの慰めなんだから。」
「けどハリネズミは前向きに考えてくれ。」
「アルマジロの方がいいって。それかセンザンコウ。」
いつもみたいに馬鹿話をしながら、車に乗り込む。
するとモンブランが「どうしてアレ返しちゃったの?」と言った。
「ん?」
「金印。別に返す必要はなかったでしょ。」
「いや、アレはもらえないよ。」
「なんで?九女御霊神社には持って行かないにしても、何かの役に立つかもしれないのに。」
「だってアレは恩返しだもん。受け取っちゃったら、さよならするってことになる。」
「ああ、なるほどね。」
モンブランは頷き、「悠一にしてはカッコイイじゃない」と言った。
「俺にしてはってのは余計だ。」
車を走らせ、暮れかけた街を眺める。
カモンが去り、一年だけとはいえマイちゃんが去った。
去年の冬から一年の間に、実に色んなことがあった。
化け猫に狙われるなんて思わなかったし、禍神の戦いに巻き込まれるとも思わなかった。
それにたまきに会えるなんて思わなかったし、龍に襲われるとも思わなかった。
思わないだらけの一年で、よく乗り越えられたものだとホッとする。
でも何があるのか分からないのが人生。
先のことは誰にも分からないし、過ぎたことは変えようがない。
だったらやっぱり今を生きるしかない。
頭に残るたまきの言葉。
『今を生きなさい』
中身の濃い一年を過ごして、その大切さを知った。
その考えはこれからも変わらないだろう。
暮れゆく空を眺めながら、自分の人生を大事にしなきゃと頷いた。
「お、なんか神妙な顔してるぜ。」
「ほんとだ。一人で哀愁に浸ってる。」
「立て続けに別れが続いたからなあ。ショックで頭がおかしくなったか?」
「それは元々でしょ?神経とか脊髄とか、色々支障をきたしてるのよ。もう長くないのかも。」
「マリナ、あんたカモンの毒舌が・・・・・、」
「あらヤダ!このままじゃ二代目を襲名する羽目になっちゃうわ。私は癒し系なのに。」
「もう癒し系じゃなくなってるから気にすんな。」
「そうそう、元々刺があるんだ。自分で気づいてないだけで。」
「もう!ひどい言い方しないで。私は癒し系よ。ねえ悠一?」
「確実に二代目だ。」
「そんな・・・・、」
引つるマリナを見て、みんなが笑う。
こいつらは相変わらずで、それは一年後も変わらないだろう。
《マイちゃん、俺は待ってるよ、こいつらと馬鹿な毎日を過ごしながら。
だから立派な聖獣になって帰って来てくれ。それが一番の恩返しさ。》
夜に包まれていく街の中を、賑やかな車が通り過ぎていった。

          ******

〜みんなそれぞれ〜

『今年は良い大根が採れたんです。ほら、見て下さい!このまん丸とした肉厚の・・・・・あ、こっちはカブだった。
こっちこっち!こいつでブリ大根でも作って下さい、きっと美味いですよ。
・・・・あ、そっちの綺麗なやつは有川さんのやつじゃないんで。
これから栗川さんの家に行くんですよ。この大根を届けたら、きっと喜ぶだろうなあ。
僕たちね、あれからすごく仲良くなったんですよ。
この前なんか畑を手伝いに来てくれて。
このままいけば、もっともっと仲良くなって、いつかは文通なんかも・・・・・。
え?顔が赤くなってる?
いやいや!やましいことなんて考えてませんよ!
僕らは清く正しいお付き合いをしていますから。
有川さんのおかげで、あんな可愛い友達ができてほんとよかったです。
それじゃ僕はこれで。
これからブリ大根を作ってあげる約束なんで。
ああ、栗川さん・・・・今日こそ文通を切り出してみようかな・・・・。』
          *
『おお、有川さんじゃありませんか!以前はお世話になりました。
ああ!お金なんかいいですよ!ほら、君!すぐに返金して!
いやいや、ご遠慮ならさずに。
今日はうんと動物園を楽しんでいって下さい。
あとこれはオフレコでお願いしたいんですが・・・・なんと赤ちゃん象が生まれるかもしれんのですよ!
タミ夫と新しいパートナーの間に!
ああ、今から楽しみですなあ・・・・・。
人間にしろ動物にしろ、赤ん坊は可愛いものですからなあ。
天国のタミ子も、赤ん坊と幸せにやっていることでしょう。
これも有川さんのおかげです。
これからもこの調子で、どんどん動物たちを救ってやって下さい!
では今日は私がご案内いたします。
特別にライオンの檻の中に入れて差し上げますぞ!
あれ?どこ行くんです?
もしやライオンはお好みではないと?
ならばお任せ下さい!
ナイルワニの池の中を遊泳して頂きしょう!
あれ?有川さん?どちらへ?
有川さん!どちらへ・・・・・・、』
          *
 
『あ、動物探偵のおっちゃん!
何してんの?こんな昼間っから土手を歩いて。
もしかしてまた何か捜してんの?
いいぜ!今度は俺が手伝ってやる!
・・・・・って言いたいけど、今日はテニスの試合なんだよな。
俺さ、この前の大会で優勝したんだぜ!どう?すごいだろ?
将来の夢はグランドスラムなんだ。
今からバッチリ練習して、プロを目指すんだ。
学校から帰ったら毎日練習してるし、絶対になってやるよ!
・・・・・って言いたいけど、タクのやつがまたボール失くしちゃってさ。
あいつ、新しいのを買うたびにどっかやっちゃうんだよな。
おかげで買っても買ってもキリがないよ。
ドルはもっと賢かったのになあ・・・・。
え?タクのことも褒めてやれば、もっと賢くなるって?
いやあ、どうだか。
・・・・でもこれ以上ボールを失くされたらたまんないからな。
今日帰ったら、いっぱい可愛がってやるか。
それじゃ試合に行かないと。今度ゲームでもして遊ぼうぜ!』
          *
『むうう・・・・拓蔵のやつめ。
せっかく軍門に下ったのに、全然マリーと会わせてくれない。
こんなんじゃあいつの舎弟になった意味がないじゃないか!
しょうがない、こうなったらもう一度拓蔵と戦って、マリーを俺のものにする!
・・・・どわ!あ、アンタは動物探偵の・・・・・。
そ、それにそっちはモンブラン!!
す、すまない!この前はあんな事になってしまって!
でもお前を傷つけるつもりはなかったんだ。
全ては拓蔵が悪いんであって・・・・・って。え?マリーはもういない?
飼い主と一緒に引っ越していったって?
なんで!どうして!ホワイ!?
そっちのインコがそんな噂を聞いたって?
・・・・むうう、俺はそんなの信じない!マリーは俺一筋だったはずだ!
なのに俺を残して出て行くなんて!・・・・・あり得るかもな。
あいつはお嬢様育ちで、気分屋でプライドも高かったし。
しょうがない、こうなったら新しいメスを探すか。
モンブラン、ものは相談なんだが、もう一度俺と結婚してみる気は・・・・・ぎゃああ!
尻尾を噛むな!玉を引っかくな!
おいアンタ!こいつを止めろ!
は?知るかって?
それでも飼い主か!
ちょ、痛い!そんなとこ噛まないで!
だ、誰かあああああああああ!!』
          * 
『あら久しぶり。またこの土手に散歩に来たの?
言っとくけど今は翔子ちゃんはいないわよ。
なんかすごい忙しいらしくて、あちこち飛び回ってるわ。
え?アンタまたこの町に戻ってきたの?
・・・・ははあ、さては仕事が上手くいってないのね。
だからこの町が恋しくなったんでしょ?
なに?仕事は上手くいってるって?
何よつまんない、せっかくからかってやろうと思ったのに。
ていうかそっちのデブ犬は相変わらずね。
まるでパンク寸前のタイヤみたい。もうすぐ破裂するんじゃない?
ふふふ、冗談よ。
またこうして会えて嬉しいわ。
そうそう、あんたあの猫のこと覚えてる?
ウチの庭を荒らしてたタマコロ。
風の噂で聞いたんだけど、子供が出来たらしいわよ。
カレンの友達の友達の友達の、そのまた友達が聞いたんだって。
え?それ噂以下のガセなんじゃないかって。
はあ・・・・あんたは夢がないわねえ。
タマコロは幸せになった、それでいいじゃない。
そんなんだから翔子ちゃんにも愛想を尽かされそうになるのよ。
ていうかそこのデブ犬、勝手におやつもらってんじゃないわよ。
それ私のなんだからね。
まったく、そんなんだから汚いのよ、顔も雰囲気も。
・・・・泣かないでよ、冗談なんだから。
ほら、せっかくだから一緒に散歩しましょ。』
          * 
『おお、有川君じゃない!
どう?動物探偵は上手くいってる?
実は君が辞めてからさ、主任が寂しそうなんだよ。
小言を言う相手がいないって。
たまには遊びに来てあげてよ。
あ、それから僕ね、ちょっと夢が出来ちゃって。
ほらこれ、バイクを買ったんだ。
こいつで日本を一周しようかと思ってさ。
なんか君を見てたら、僕もふつふつと熱いものが湧いてきちゃって。
やりたいことがあるなら、歳なんて関係ないよね。
ずっと昔から夢だった、バイクで世界一周に挑んでみようかなって。
まずは日本一周からスタートするつもりだよ。
もうピースケには会えなくなっちゃうけど、でもあいつには飼い主がいるからね。
あんまり僕に気を遣わせちゃ悪い。
僕は僕の為に、このバイクで余生を楽しむよ。
それじゃね、有川君も人生を楽しんで!』
          *
『オラオラオラあああああ!どけどけサルども!
ここは俺様の修行場だぞ!
・・・・・ぬあ!お、お前・・・・なんでここにいるんだ!?
は?ツチノコが暴れて迷惑だから、どうにかしてくれって依頼を受けたって?
いったい誰から!?
・・・・なあにい!そこのボス代理のサルだと!
おのれ!貴様ら手を組んだってわけか!
いいだろう、新しく生み出した魔球で、みんなまとめて吹き飛ばしてやる!
喰らえ、幻の魔球52号!
・・・・・ぐは!ま、また岩の隙間に挟まって・・・・・。
おいサルども!鱗を剥ぐんじゃない!
そこのポンコツ探偵!見てないでサルを追い払え!
なに?追い払ってもいいけど、この山で暴れるなって?
むうううう・・・・それじゃあ修行が出来ないじゃないか!
しかしこのままでは破裂してしまう・・・・・。
仕方ない、お前の言うことを聞いてやる。
ほれ、今すぐ助けろ!
・・・・・おいサルども!なんでそいつに襲いかかる!
お前もお前だ!サルごときに怯むな!ズボンを引き千切られたくらいで逃げるんじゃない!
俺がどうなってもいいのか!
おい!戻ってこおおおおおおおい!!』
          *
『あ!お久しぶりです!
去年の夏はお世話になりました。
ピーチが死んだことはまだ悲しいけど、でも部屋に籠ってても仕方ないから。
だからたまにこうしてサーフィンしてるんです。
よかったら有川さんもやります?
え?寒いから嫌って。
そりゃまだまだ海は寒いですけど、でもいい波が来るんですよ。
海水浴客もいないから、気兼ねなしに遊べるし。
気が向いたらいつでも言って下さい、教えてあげますから。
あ、遼斗さんもう波に乗ってる!しかも素足で!
いいなあ、あんなの人間には無理だ・・・・・。
遼斗さんね、あれからちょくちょく家に来てくれるんです。
ピーチのお墓に手を合わせて、それに夏はダイビングの仕事も手伝ってくれたんですよ。
見た目はちょっととっつきづらいけど、でもすごく良い人なんです。
あ、人じゃないか。
・・・・うん!今行く!
それじゃ有川さん、またいつでも来て下さい。
いつか遼斗さんと三人でサーフィンしましょう!』
          *
『あらあ!誰かと思えばあの探偵さんじゃない!
私のライブを見に来てくれたのね、嬉しい!
見ての通り、今日はデパートの屋上でやってるの。
この演劇が終わったら、いよいよ私の出番よ!
あれから稽古に稽古を重ねて、いっぱい技を身に着けたの。
この前なんか、正式に契約しないかって芸能事務所の人が来てたのよ。
団長は嬉しそうだったけど、でも私は乗り気じゃないのよね。
そりゃ大きな舞台で活躍するのもいいけど、こうして身近にお客さんと触れ合える興行も悪くないじゃない?
私は目の前にいるお客さんを大事にしたいの。
せっかく来てくれたんだから、うんと楽しんでいってもらわなきゃ!
他のみんなもボスって認めてくれたし、チームワークもバッチリよ!
見せ場はなんといってもサルの猿回し。
私が五匹のサルを操って、最後には私自身が空中へ舞い上がって瞬間移動するの。
これをやるとみんな大ウケなんだから!
え?それは猿回しじゃなくて、手品なんじゃないかって?
いいのよ細かいことは!
大事なのはお客さんが喜んでくれることだもの!
ほらほら、特別に最前列に座らせてあげる!
私の瞬間移動をその目に焼き付けてちょうだい。』
          *
『いらいっしゃいませ!とどめき庵では安心安全、快適なサービスを心掛けております。
特別プランを申し込まれますと、夜には空飛ぶ龍のショーがご覧になれますよ!
・・・・・・って、貴様はあの時の探偵ではないか!
ぐうう・・・・よくもノコノコと現れたものだ。
いまこの場で成敗してくれる!
・・・・何?後ろに女将が・・・・・。
ぬあ!・・・・あ、いや、違うんだ!これはその・・・・すいません。
はいはい!それはもう反省しております!
二度とこの前のようなことは・・・・。ひい!すいません!
あ、ちょ!
痛い!耳がちぎれる!
引っ張らないで!!
お、女将!女将いいいいいいい!
・・・・コラお前!そっちは松の間だぞ!
お前みたいな貧乏人が泊まれる部屋では・・・・・。
へ?女将が許可したって?
どうぞどうぞ!安心安全、快適なサービスをご堪能下さい!
夜になれば空飛ぶ龍のショーが・・・・・。』
          *
『ふっふっふ・・・・良い屋根裏を見つけたぞ。
前のヤクザの家は追い出されたが、今度こそはここを根城にする。
・・・・・うお!なんだこのインコは!?
どっか行け!ここは俺が見つけた屋根裏だぞ!
うわ!蹴るな!つつくな!
クソ・・・・いったん撤退するしか・・・・って、こっちには猫が!
ぎゃあ!噛むな!引っかくな!
おのれ・・・・俺は諦めないからな!また必ず戻ってくる!
・・・・・って、お前はあの時のブルドッグ!
うわあ!飛びかかるな!
重い!臭い!
クソ!もういい!どっか他に新しい家を見つけてやる!
・・・・・ん?誰かが尻尾を掴んで・・・・・って、お前はあのヤクザの家の娘!
なんでこんな所に・・・・離せ!
・・・・って、別にいいか。
このまま連れて帰ってくれるなら、あそこの家で飼ってもらえるかもしれない。
おい娘!仲良くしような!
・・・・・って、思いっきり尻尾を握るな!
ていうかちょっと吠えたくらいで泣くな!
ん?向こうからデカイ熊が走って・・・・・って、あれはヤクザの親父!
ひいいいい!
俺は悪くない!このガキが勝手に泣いたんだ!
追いかけて来るなああああああ・・・・・・。』
          * 
『あ、有川さんじゃないですか!
今日はお買い物ですか?
このドラッグストア、けっこう安いから助かりますよね。
私ね、春から東京へ行くんです。
やっぱり飛行機のエンジニアになることにしました。
前に有川さんが言った通り、スパナを持ってる方が似合うみたいで。
たまにお父さんの仕事を手伝ってるんですけど、様になってるって褒めてくれたんです!
その言葉がすごい嬉しくって。
ああ、やっぱり血は争えないなっていうか、私はお父さんの子供なんだなって。
流れてるんですよね、職人の血が。
だから東京へ行って頑張ることにします!
でもクリスマスには帰ってきて、春風とお父さんとケーキを食べるって約束なんです。
だけどいつかは好きな人と一緒にクリスマスを過ごしたいなあ・・・・・・。
・・・・・あ、独り言なんで気にしないで下さい。
車の調子が悪くなったら、いつでも持って来て下さいね。それじゃ。』
          *
『あら悠一。こんな朝早くに神社に来るなんて珍しい。
ん?昨日でこがねの湯を辞めたって?
そういえばウズメが言ってたわね、『悠一君がいなくなっちゃう!人手が足りないわ!』って。
でもアンタにはアンタの人生がある、気にする必要はないわ。
ていうかバイトを辞めた分時間は出来るわけだから、その分依頼を増やしてあげるわ。
これからはもっともっと忙しくなるから、覚悟しておくように!
・・・・え?仕事をくれるのはありがたいけど、危険なやつは勘弁してくれって?
なにビビッてんのよ。あんたは私の戦友なんだから、ビシバシ戦ってもらうわよ。
え?・・・さすがに人食い狼だの、吸血鬼の退治だのはやりすぎだろって?
まあねえ・・・・どっちもアンタ死にかけてたし。
でも大丈夫!こうして生きてるんだから、悪運は強い方よ!
きっと死なない死なない!
・・・・やっぱり無理?それは動物探偵の仕事じゃない?
ていうか私とはまだまだ対等にはなれないから、しばらく依頼は控えてくれって?
はあ・・・・情けない。せっかく一人前だって認めてあげたのに。
この前だってせっかくあげたマンションを返すし、またこの町に戻って来ちゃうし。
成功したいなら、もっと欲を持たないとダメよ。
・・・・・はい?出来るなら俺の目の前から消えてくれって。
ちょっとアンタ、それどういう意味よ。
私がいちゃ邪魔だっていうの?
私は元師匠よ。少しは口の利き方ってもんを弁えて・・・・、
・・・・・ああ、なるほど。そういうことね。
いつか自分の手で私を見つけたいと。
その時に本当に対等になれる気がするからと。
まあ確かにそうかもしれないわね。
こうして再び出会ってしまったのは、偶然みたいなものだから。
私だって本当は、あんたが見つけてくれるまで姿を見せる気はなかった。
・・・・・いいわ、なら戦友って肩書は一時お預け。また師弟に戻りましょ。
でもね、それはより辛い道のりよ。
あの程度の依頼でビビってるようじゃ、私を見つけるなんて到底無理。
それに何かあっても私を頼ることは出来ないわよ。
それでもいいの?
・・・・・よろしい。
だったら自分の手で私を見つけてみなさい。
その時、アンタのことを本物の戦友だと認めてあげるわ。
でも覚悟のいる難行よ、心してかかりなさい!
・・・・自分で言ったクセに怖気づくんじゃないわよ、まったく・・・・。
私はアンタに期待してるの。もっともっと大きくなって、いつか私に手が届くって。
だから待ってるわ。自分の力で見つけに来てくれるのを。
アンタを信じてる。それじゃ・・・・いつかまた。』
          *
『悠一君へ〜
お元気ですか?まだまだ寒いけど、風邪とか引いてませんか?
マサカリ達は元気ですか?
私は修行の毎日です。
お母さんはすっごく厳しくて、普段の顔とは全然違います。
いっつも『タアアアテエエエエエ!』って奇声を上げて、怒られています。
でも私は負けません。
自分で選んだ道だから、必ず聖獣になってみせます!
悠一君はどうですか?動物探偵は上手くいっていますか?
きっとマサカリたちと楽しい毎日を過ごしているんだろうなと思います。
そして一生懸命頑張って、たくさんの動物を助けてるはずだって信じてます。
辛いこともあるだろうけど、負けないで下さい。
私は辛くなった時、あの金印を見つめています。
これを見ると元気が湧いてくるからです。
だってこれは悠一君の大事な物で、いつかは返さなくちゃいけないから。
その為には、早く聖獣になって戻らないといけません。
だから辛い時はこれを見て、自分を奮い立たせています。
必ず戻って、またみんなと一緒に暮らすんだって。
そして二人で動物探偵をやって、たくさん動物を助けていくんだって。
それに・・・・戻らないと結婚できないから。
私、早く悠一君のお嫁さんになりたいです。
その日が来るのを、お父さんもお母さんも楽しみにしています。
だからこそ、私を厳しく鍛えているんだと思います。
あと少しすれば冬が明けます。
そうすれば桜が咲いて、ポカポカと明るい季節になります。
別れとか、挫折とか、傷つくとか、誰にだって辛い季節があります。
でもそれを乗り越えたら、きっと明るい春が待ってるはず!
私たちはまだまだ冬です。
寒いし辛いけど、でも必要な季節です。
悠一君が言っていたように、今を生きるしかありません。
いつかやってくる春を信じて。
悠一君はきっと頑張ってるはず。だから私も頑張ります。
来年は必ず二人で桜を見ようね!    小町舞』
          *

『よう悠一、いつまで手紙読んでんだ?』
『まったくデレデレしちゃって。鏡で顔見てみなさい。すっごくだらしないから。』
『まあまあ、唯一自分を見てくれる女だから、喜んでも仕方ない。』
『ほんとにねえ。でもこれから大丈夫かしら?たまきだってどっか行っちゃったし。』
『アホだよなあ。自分から茨の選ぶんだから。』
『カモンがいたらボロクソ言われてるわね。』
『カモンじゃなくてもボロクソ言いたいな。』
『悠一、もう手紙は終わりにしましょ。何度読んだって帰って来るのが早くなるわけじゃないんだから。』
『・・・・・お!どうやらお客さんだぜ。』
『あらほんと!ほらほら、営業スマイルで迎えてあげて。』
『あとお茶淹れろ。』
『それと座布団。ボロいアパートなんだから、汚れた畳に座らせちゃ失礼よ。』
『・・・・あの、こちらは有川動物探偵事務所ですよね?』
『おうおう!こりゃまた可愛いお嬢さんだぜ。』
『ほんと、どっかコマチさんに似てるわ。』
『コマチ?誰ですかそれ?』
『なッ・・・・俺たちの言葉が分かるのか!?』
『信じられない・・・・・。他にも動物と話せる人がいたなんて・・・・。』
『世の中は広いなあ。』
『ほんとにねえ。』
『私、人間じゃありませんけど・・・。』
『え?』
『ん?』
『霊獣です。』
『へ?』
『はい?』
『弟を捜してほしくてやってきました。』
『お・・・・、』
『弟・・・・?』
『チェリーって名前のハクビシンです。私と同じ霊獣なんです。』
『ちぇ、チェリー!』
『それって屋根裏のアイツのことじゃ・・・・、』
『ていうかアイツも霊獣だったのかよ!』
『世の中狭いわ・・・・。』
『あの・・・・チェリーのことをご存じなんですか!?』
『知ってる知ってる。』
『ついこの前会ったもんね。』
『ヤクザに追いかけられてたな。』
『ほんとにねえ、世の中どうなってるんだか。』
『お、教えて下さい!チェリーはどこにいるんですか!?』
『まあまあ、そう慌てるない。』
『悠一、お仕事よ。話を聞いてあげて。』
『俺お茶淹れるわ。』
『ほらほら、この座布団に座って。』
『ああ、どうも・・・・。』
『そう緊張しないでいいわ。まずはお名前を教えて。』
『ハクビシンのツクネといいます。ええっと・・・霊獣をやっています。』
『・・・・動物探偵の有川と申します。まあまあ、そう緊張なさらずに。
まずは詳しくお話を聞かせて下さい。』
      
                 勇気のボタン〜タヌキの恩返し〜   完

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