不思議探偵誌〜オカルト編集長の陰謀〜 第二十四話 愛のカカト落とし(2)

  • 2017.07.26 Wednesday
  • 11:42

JUGEMテーマ:自作小説

『さあて!波乱の第二審査も終わったあ!いよいよラストだあああ!!』
司会のペンゲンが大げさなほど煽る。
観衆の盛り上がりはいよいよ最高潮で、足踏みが会場を揺らした。
『まずは我らが女王!ティムティム様の登場だあああ!!』
司会が振り返り、大げさに手を向ける。
すると今までとは違って、派手なライトアップもスモークもなく、ゆっくりと歩きながら女王が現れた。
その顔は険しく、とてもミスコンに望む表情とは思えない。
さっきまではあんなにあざとかったのに。
《由香里君の挑発で本気になったってわけか。》
女王の周りには近寄りがたいオーラが溢れている。
見た目は子供だが、腐っても一国の女王。
本気になった時のオーラは迫力がある。
女王はステージの前まで歩き、可愛らしくお辞儀をした。
顔は微笑んでいるが、目は笑っていない。
今までと違うその雰囲気に、あれだけ盛り上がっていた観衆も静まり返った。
《最後の審査は観客へのメッセージだったな。いったい何を伝えるつもりだ?》
険しい表情、殺気立ったオーラ。
きっともの凄く真面目なことを言うに違いない。
俺も観客たちも、息を飲んで見守った。
《こっちまで緊張してきた。》
ピンと張り詰めた空気・・・・握った手が汗ばむ。
するとティムティム女王、司会に向かってクイクイと手を動かした。
どうやらマイクを要求しているらしい。
『あ、どうぞ・・・。』
受け取った女王は『マイクくらい用意しとけだしょ』と睨んだ。
『す、すいません・・・・。』
『お前、来月から補佐官に降格だしょ。』
『ええええええ!!』
驚く司会ペンゲン。
そりゃそうだろう。
彼は王冠を被った王様で、それが補佐官に降格になるんだから。
しかもマイク一つ忘れただけで。
しょんぼりと肩を落とす司会。
ティムティムは険しい表情のまま喋りだした。
『今日ここに集まってくれたみんな。まずは感謝の言葉を述べるだしょ。』
あのワガママな女王が謙虚になっている。
かえって恐ろしい・・・・。
『さっきの小娘・・・偉そうにわらわに説教してくれただしょ。
現代人だから許してやるけど、もしもわらわと同じ古代人だったら、即刻打ち首だしょ。』
そう言ってステージの脇にいる由香里君を睨みつけた。
その眼光は恐ろしく、背筋が冷たくなる。
それは由香里君も同じようで、表情が強ばっていた。
『でもまあ・・・あの小娘の言うことももっともだしょ。
わらわはちょっとばかり身勝手かもしれないだしょ。』
《ちょっとどころじゃないだろう。》
ツッコミたい気持ちを堪え、女王の言葉に耳を傾ける。
『かつてわわらには友達がいただしょ。彼女はムー大陸の外交大臣として、わらわを影で支えてくれただしょ。
しかし悲しいかな、わらわの身勝手な行為で、心を塞ぎ込んでしまったんだしょ。』
女王の声には悲しみがある。
どうやら本気で悪いと思っているようだ。
『その結果、彼女の友達であったタムタム王まで傷つけてしまっただしょ。
タムタムは土偶に魂を宿した後でも、わらわを恨んでいただしょ。
その恨みは現代まで続き、ついさっきまで戦っていただしょ。』
そう言ってカボチャのUFOを見つめた。
『あの中にはタムタムとモリモリがいるだしょ。二人共わらわのせいですごく傷ついているだしょ。
だけどわらわは生まれながらにして女王様気質だしょから、素直に謝るなんて出来なかっただしょ。』
《だろうなあ。あれは後から身に付いた性格じゃない。》
『だけど本心では悪いと思っていただしょ。思っていたけど・・・・謝ることはなかっただしょ。
だってわらわは一国の女王だから、そう簡単に頭を下げるわけにはいかなかっただしょ。』
《それは確かにその通りだ。国の威信に関わってくるからな。》
『でも・・・・もうそんな意地を張っても仕方ない気がしてきただしょ。
ずっとずっと恨みを抱かれて、現代に蘇ってまで争うなんて。
しかもそんな小娘にまで説教をかまされて・・・・。』
またジロっと睨むが、今度はさっきより柔らかい視線だった。
『さっきは殺してやろうかと思っただしょが、いち小娘に手を出すなんて、女王の威厳に関わるだしょ。
だからさっきのは許してやるだしょ。』
そう言った後に鋭い眼光が戻る。
きっと次は無いぞという脅しなのだろう。
その眼光を受けて、由香里君はさらに強ばっていた。
『さて、グダグダこんなことを言い続けても仕方ないだしょね。
今回、わらわはミスコンという機会を得てラッキーだったかもしれないだしょ。
だって・・・・あの二人に謝るチャンスが出来たから。』
また表情を和らげて、少しだけ笑みを見せる。
どこか演技臭くもあるが、素直な言葉であると信じよう。
『遥か大昔のミスコンで、わらわは彼女たちを深く傷つけてしまっただしょ。
そのお詫びをここでさせてほしいだしょ。』
女王は杖を床に置く。
そして膝をつき、両手もついた。
「おい、まさか・・・・、」
由香里君と目を見合わせる。
彼女も驚いていた。
『タムタム!モリモリ!聞こえてるだしょか!?』
UFOに向かって叫ぶ。
『わらわのせいで、二人を傷つけてしまっただしょ。
今日この場を借りて、二人に謝罪させてほしいだしょ。』
顔を俯かせ、ゆっくりと身体を沈めていく。
『謝るまでにずいぶんと時間がかかってしまったこと・・・・許してほしいだしょ。
そして二人を傷つけてしまったこと、本当に申し訳ないと思ってるだしょ。
・・・・・ごめんなさいだしょ。』
深々と頭を下げて、床におでこをくっ付ける。
土下座・・・。
一国の女王が、かつての友達に最高位の謝罪を送っている。
会場はドヨドヨとざわめき、悲鳴まで聴こえた。
『やめて女王様!』
『俺たちの女王が土下座するなんて見たくない!』
『中止だ!女王様が頭を下げるようなミスコンなんて、今すぐ中止にしろ!!』
会場からはブーイングの嵐だ。
その矛先は女王ではなく、彼女が頭を下げているUFO。
もっというならば、その中にいるかつての友達だ。
『出てこいコラ!』
『俺たちの女王様に頭を下げさせるなんざいい度胸だ!』
『その面見せろ!!』
ペンゲンたちはUFOを取り囲む。
そして『出てこい!』と一斉にわめきだした。
《おいおい・・・なんて展開だ。まるでデモじゃないか。》
悪いのはティムティム女王の方。
それなのになぜかタムタムとモリモリが責められている。
その時、《まさか!》と女王を振り返った。
『・・・・・・・・。』
「・・・・今、ほんの一瞬だけ笑ってやがった。」
一秒もない時間だったが、確かに笑っていた。
「あのアホ女王め・・・・わざとこういう展開を狙ったな。」
ペンゲンたちは深い事情を知らない。
きっとモリモリとタムタムのことも知らないだろう。
そんな相手に対して女王が土下座をしている。
それはペンゲンたちにとっては受け入れられない光景のはずだ。
由香里君を見ると、彼女もその事に気づいているようだった。
眉間に皺を寄せ、ギュっと拳を握っている。
「由香里君!堪えるんだ!決して殴りかかったりしちゃいけないぞ!」
「そんな事はしません。しませんけど・・・腹が立って・・・・。」
「そりゃ俺も同じだ。あの女王様、根っから腐ってやがる。」
ペンゲンたちの『出てこい!』コールは続く。
俺は「逃げろ!」と叫んだ。
「成美さん!UFOを飛ばして逃げるんだ!!このままじゃそいつらが襲いかかる!」
そう叫ぶと、UFOの中から誰かが現れた。
「あれは・・・・、」
中から出てきたのは土偶とマネキン。
「タムタム、モリモリ・・・・。」
二人は手を取り合い、ステージまで飛んでいく。
観衆の一人が石を投げて、コツンと土偶に当たった。
『こいつらだ!こいつらが女王様に頭を下げさせたんだ!』
『許すな!俺たちの女王を傷つけた罪を!』
『引きずり下ろしてぶっ殺せ!!』
ウオオオオオオ!と怒号が響く。
石はさらに飛んできて、バコバコと二人を直撃した。
『やめるだしょ!!』
女王が立ち上がり、杖を掲げる。
『その二人はわらわの友達だしょ!侮辱することは許さんだしょ!!』
杖の先から眩い光を放つ。
ペンゲンたちは『ははあ〜!』とひれ伏した。
《まるで水戸黄門だな。》
権威に弱いのは古代人も同じらしい。
女王は飛んでくる二人を見つめて、『お帰りだしょ』と手を広げた。
『タムタム、モリモリ。わらわが悪かっただしょ。』
そう言ってまた頭を下げた。
『モリモリ・・・・ごめんだしょ。わらわのせいで、貴女は引きこもりになってしまっただしょ。
最後はそんなマネキンの中に閉じこもって・・・・すまなかっただしょ。』
《あれは自分から宿ってたのか。》
どうしてマネキンなのかと疑問だったが、引きこもりが行き過ぎた結果らしい。
『それにタムタム。貴女の大事な友達を傷つけてしまっただしょ。
それは貴女自身を傷つけたのと同じこと。ごめんなさいだしょ。』
女王は手を広げて走り出す。
そしてガバっと二人を抱きしめた。
『ごめんなさい、私の大事な友達たち。』
目に涙を浮かべながら、強く抱きしめる。
『そう簡単に許すことが出来ないのは分かってるだしょ。
だけど二人は今でも大事な友達だしょ。
だから・・・出来るならわらわと一緒に、ここでペンゲンたちを導いてほしいだしょ。』
潤んだ瞳のまま、二人を見つめる。
『これからは三人で手を取り合って、この古代都市を治めていこうじゃないかだしょ。』
グイっと涙を拭い、握手を求めるよに手を差し出した。
そんな様子をペンゲンたちが見守っている。
さっきまでのお祭り騒ぎはどこへやら。
みんな感動の場面を期待して、まっすぐな目を向けていた。
《まずいなこりゃ・・・・。》
また由香里君を見ると、彼女も同じような顔で困っていた。
「久能さん、これって・・・、」
「ああ、どう転んでも俺たちが不利になる。」
もし・・・もしもここで、モリモリとタムタムが仲直りを拒否したらどうなるか?
ペンゲンたちは一気に暴動を起こすだろう。
その後に由香里君がメッセージを伝えたところで、誰も聞いちゃいない。
誰もが女王の味方をして、彼女に票を入れるだろう。
ではもしタムタムとモリモリが仲直りを受け入れたらどうなるか?
これはこれで厄介なことになる。
なぜならペンゲンたちは一気に感動の嵐に包まれて、『女王万歳!』などと叫ぶに決まっているのだから。
一国の王でありながら頭を下げ、謝罪を送った。
そしてそれを受け入れたかつての友達。
こんな感動的な場面はないので、ペンゲンたちは女王に票を入れるだろう。
そして当の女王本人は、心からの謝罪などしていない。
先ほどチラリと見えた笑みがそれを物語っている。
ほとぼりが冷めた頃、どうにかしてあの二人をここから追放するだろう。
・・・・いや、追放だけならまだいい。最悪は処刑ということも有りうる。
《あの女王め・・・・さっきの由香里君の説教を逆手に取りやがった。》
観衆の前で現代人の娘に侮辱される。
きっと女王のプライドはズタズタだったはずだ。
しかしこういう展開に持っていけば、ペンゲンたちはこう思う。
『女王はなんて心が広いのだろう。あんな小娘の侮辱に怒りもせず、それどころか自ら非を認め、頭を下げるなんて・・・・』と。
タムタムとモリモリ、この二人が謝罪を受け入れようが受け入れまいが、明るい未来は待っていない。
・・・・この状況、果たしてどうすれば打開できるのか?
「久能さん・・・やっぱり・・・私の説教まずかったみたいですね。」
「今さらそんな事を言っても始まらん。」
「だけどこのままじゃ・・・・、」
「とにかく事の成り行きを見守ろう。下手に手出すとさらに状況が悪化するかもしれない。」
ティムティム女王はウルウルしながら二人の手を取る。
しかしその涙の奥には悪魔の笑みが潜んでいる。
あの二人はそれに気づいているのか?
『タムタム、モリモリ、どうかわらわを許してほしいだしょ。』
切ないその声は、あの二人にどう響くのか?
成り行きを見守っていると、二人は突然ティムティム女王から離れた。
《仲直りを拒否するつもりか?》
二人は手を取り合って、空へ浮かんでいく。
そしてまたUFOへと戻ってしまった。
《拒否したか・・・。しかしそうなると・・・・、》
案の定ペンゲンたちからブーイングが起こる。
ブーブー言いながらまたUFOを取り囲んだ。
『なんだその態度は!』
『女王が土下座までしたのに!』
『出てきなさいよ!』
このままでは暴動が起こる。
奥ではまたティムティムの女王の不敵な笑みが。
《このままじゃティムティム女王に同情票が持って行かれる。いったいどうすればいい?》
焦りながら見守っていると、二人はまたUFOから出てきた。
『モリモリ、タムタム・・・・やっぱりわらわと仲直りしてくれんだしょね。』
嬉しそうに手を広げる女王。
タムタムとモリモリは顔を見合わせて、ニヤリと微笑んだ。
『バ〜カ。』
『んなッ・・・・、』
『誰がお前となんか仲直りするか。』
『うむううッ・・・・、』
女王の顔が真っ赤に染まっていく。
二人はゲラゲラ笑いながらUFOへ逃げ込んだ。
『ぐううう・・・・おのれええええええ!!』
女王は殺気を振りまく。
その怒りはペンゲンたちにも伝わって、途端に暴動へ発展した。
『なんて奴らだ!』
『あれだけ女王様が謝ってるのに!』
『このUFOごとやっちまえ!!』
みんな一斉に石を投げつける。
するとUFOは高く舞い上がり、中から茂美の声が響いた。
「この中には私の大事なお客様が乗っておられます。これ以上攻撃を加えるなら、UFOの一撃でここを吹き飛ばしますよ?」
そう言ってピカピカとUFOを光らせた。
「お爺様、細胞破壊ビームの用意を。」
「おう!」
「お婆様は都市破壊爆弾の用意を。」
「任せとけ。」
UFOの中から物騒なやり取りが聴こえる。
するとそれを聴いたペンゲンたちはパニックに陥った。
『アイツらここを吹き飛ばすつもりだぞ!』
『いやあ!助けて女王様!!』
みんなあちこちへ逃げ惑う
中には女王の後ろに隠れる者もいた。
《でかした茂美さん!》
あのUFOに攻撃能力はないが、女王はそれを知らない。
だから青い顔で『やめるだしょ!』と叫んだ。
『ここを吹き飛ばすなんて・・・そんな酷い真似は許さないだしょ!』
そう言って杖を掲げるが、UFOが迫ってきて『ひい!』としゃがんだ。
「まずは女王様の首から頂こうかしら?」
『や、やめるだしょ!』
UFOの中からマジックアームが出てくる。
おそらくただの作業用だろうが、女王は『ひいいいい!』と怯えた。
「うふふ、古代ムー大陸の女王の首・・・・きっと高く売れるわ。」
『そ、そんなの嫌だしょ!』
「それとも生け捕りにしようかしら?そうすれば世界中の科学者たちがあなたを解剖して・・・・、」
『それも嫌だしょ!』
女王はペタンと座り込む。
そして傍にいたペンゲンを盾にした。
『わらわは女王だしょ!みんなわらわを守るだしょ!』
『そんな!俺たちは女王の盾ってことですか!?』
『だってわらわが死んだら、誰がここを治めるんだしょか!?』
『だからって俺たちを犠牲にするなんて・・・・、』
『わらわがいるからこの古代都市を維持できるんだしょ!それとも何だしょか?
お前たちがわらわに代わって、ここを治めることが出来るんだしょか!?』
『そんなの無理です!だけど死にたくない!!』
『女王の身代わりになるなんて名誉なことだしょ!お前の名前は教科書に載せてやるだしょ!』
『名誉より命が惜しいです!』
民を盾に命乞いをする女王。
他のペンゲンたちは、目を丸くしてそれを見ていた。
・・・今、女王の威信は地に落ちた。
《これもうチェックメイトだろ。》
茂美はウィンウィンとマジックアームを動かす。
盾にされたペンゲンは『ぎゃああああ!』と怯えた。
『こいつを連れて行けだしょ!その代わりわらわは見逃すだしょ!』
『そんな!』
泣きながら首を振るペンゲン。
するとその時、UFOの中からタムタムとモリモリが降りてきた。
『やめて下さい。』
『ここまでする必要はありません。』
ペンゲンの前に立ち、守るように手を広げる。
『民に罪はありません。』
『どうか許してあげて下さい。』
そう言うと、マジックアームは動きを止めた。
『ほっ。助かった。』
『あ!わらわを置いて逃げるなだしょ!』
女王も逃げようとするが、マジックアームが迫って『ひいい!』と腰を抜かした。
「さあ、その首をもらおうかしら。」
『い、嫌だしょ・・・・・。』
「大丈夫、痛みは感じないから。」
『そんな酷いことやめるだしょ!』
泣きながら首を振っている。
そして『呪ってやるだしょよ!』と睨んだ。
『わらわは一流の魔術師だしょ。もし殺したりなんかしたら、子々孫々末代まで続く呪いを掛けてやるだしょ。』
どうやら本気のようで、目が黒く染まっていった。
おぞましい殺気が溢れて、古代都市を覆っていく。
『わらわは死ぬだしょが、お前も永久に苦しむだしょ。それでもいいならやるだしょよ。』
どうやら腹を括ったらしく、険しい目で睨んでいる。
するとタムタムとモリモリがUFOの前に立ちはだかった。
『お願いです!女王を許してあげて下さい!』
『彼女を必要とする民がここにはいるんです!』
『私たちならもう怒ってません。』
『どうか彼女を殺さないで下さい。』
そう言って必死にお願いしている。
「そこまで言われちゃ仕方ないわね。」
茂美はマジックアームを引っ込める。
そしてゆっくりと女王から離れていった。
『ほっ。』
胸を撫でお下ろす女王。
タムタムとモリモリは宙に舞い上がり、『みなさん!』とハモった。
『怖い思いをさせてしまってごめんなさいもす。』
『もうUFOは大人しくなりました・・・もり。』
隠れていたペンゲンたちが顔を出す。
しかしまだ怯えていた。
『私たち・・・・女王と仲直りすることにしますもす。』
『許せない部分はまだあるけど、これ以上みなさんにご迷惑をかけるわけにはいきませんもり。』
そう言ってクルっとティムティム女王を振り向いた。
『ティムティム。』
『仲直りしましょう。』
女王の傍へ飛んでいき、手を差し出す。
『お前たち・・・・、』
ウルっと潤むティムティム女王。
握手を交わそうと手を出したが、なぜかピタリと固まった。
《あの二人・・・・笑ってやがる。》
タムタムとモリモリは不気味に微笑んでいる。
まるでさっきのティムティム女王のように。
『お前たち・・・・わらわを嵌めただしょな?』
『嵌めるなんてとんでもないもす。』
『心の底から仲直りしたいと思ってるもり。』
二人の顔がどんどん歪んでいく。
それは悪魔の微笑み。
ティムティム女王は顔を真っ赤にした。
『お前たち・・・許さんだしょ!』
『ティムティム、ここは握手しといた方がいいと思うもす。』
『そうでななければ、ペンゲンたちは貴女を信用しなくなるもり。』
二人は小声で脅す。
ティムティム女王は顔を真っ赤にしながら、『おのれええ〜・・・』と悔しがった。
しかしここで争えば、ペンゲンたちからの信頼を失う。
悔し涙を我慢しながら、二人と握手を交わした。
その瞬間、ペンゲンたちから安堵の歓声が湧いた。
『よかった!和解したみたいだ。』
『これでここが滅ぼされることはなくなったのね!』
『よかったあ〜・・・死ぬかと思った。』
涙ながらに包容するペンゲンたち。
ティムティム女王は怒りに満ちた声でこう呟いた。
『お前たち・・・・この恨みは忘れんだしょよ。』
笑顔の奥に潜む、確かな殺意。
女の恨みはかくも恐ろしい・・・・。
「どうにかなりましたね。」
由香里君もホっとしている。
「いや、まだだよ。」
「どうして?ここまで来ればもう・・・・、」
「ペンゲンたちを見てみろ。」
手を向けた先には、じっと女王を見つめるみんなの視線が。
「今、奴らの心は揺れ動いている。」
「揺れ動く?」
「この先女王を信用してもいいものかどうか?判断に困ってるんだ。」
「でもさっきはペンゲンを盾にしようとしたんですよ?だったら信用なんて・・・、」
「そう思いたいが、そうもいかない。なぜなら彼女は長くここを治めてきたという実績がある。
だからペンゲンたちは迷ってるんだ。この先も女王について行くべきかどうかを。」
俺が思っていたよりも、女王への信頼は厚いらしい。
これを打ち崩すには、やはりミスコンで勝つしかあるまい。
「由香里君、今度は君の番だ。」
「でもこんな状況じゃ、誰も私のメッセージなんて聞いてくれないですよ。」
「逆さ。こんな状況だからこそ届く。女王に対する不信感が芽生えた今こそ、票を獲得出来るチャンスなんだ!」
バシっと背中を押すと、「でも・・・」と戸惑った。
「迷うな。いつもの君らしく、言いたいことをビシっと言ってやればいいだけだ。」
「久能さん・・・。」
しばらく迷っていたが、「そうですね」と頷く。
「私、ビシっと言ってきます。自分の伝えたいこと。」
「ああ。俺も客席から聞いてるよ。」
彼女は小さく頷き、ステージの中央へ歩いていった。
床に転がっているマイクを拾って、観衆の前に立つ。
みんなの視線が一気に集まって、かなり緊張していた。
「頑張れ由香里君!俺がついてるぞ!」
頷きを返し、観衆をまっすぐに見据える。
「ええ〜っと、なんか大変なことになっちゃったけど、次は私の番なんで聞いて下さい。」
会場はシンと静まり返る。
緊張が増したのか、由香里君の喉がゴクリと動いた。
「私はミスコンなんて初めてで、緊張しっぱなしです。
まだ空手の試合で蹴ったり突いたりしている方がマシかなって思うほどで・・・。
今だってこんな格好のまま喋ってるし・・・・、」
そう言って「まだ水着じゃん!」と叫んだ。
「なんで水着のままなの!?」
「気づいてなかったのか・・・。」
「久能さん!アオザイは?」
「ステージの脇にある。」
マイクを捨てて、慌ててアオザイを拾う。
顔を赤くしながら、一目散にステージの袖に逃げていった。
『ええっと・・・ちょっとばかり時間がかかるようなので、しばしお待ちを。』
司会が困った顔で言う。
少し離れた所では、ティムティム女王がニヤニヤと笑っていた。
《なんだあの笑顔?何かを企んでいるのか?》
こいつは何をしてくるか分からない。
分からないが・・・今は心強い味方がいる。
ティムティム女王の隣にはタムタムとモリモリがいるのだ。
もしも女王が悪さを企んだら、おそらく彼女たちが知らせてくれるだろう。
《正々堂々と戦うなら、由香里君が負けるわけがない。》
そう思って彼女が出て来るのを待った。
しかし待てども待てども現れない。
やがて観衆からブーイングがおき始めた。
『何やってんだ?』
『さっさと出てこいよ。』
『もったいぶってんじゃないわよ。』
《いかん、このままでは心象が悪くなる。》
俺はステージに上がって、「由香里君」と袖へ入った。
「何してるんだ?みんな待ってるのに・・・・、」
そう言いかけて言葉を失う。
「ゆ、由香里君!」
「久能さん・・・・。」
彼女は倒れていた。
アオザイを手にしたまま、顔色悪く横たわっている。
「どうしたんだ!」
「急に・・・体調が悪くなって・・・、」
「なにい!まさか・・・女王に何かされたのか!?」
「そうじゃなくて・・・、」
「ならどうして倒れてるんだ?」
「ここ、寒いから・・・、」
「・・・・・あ。」
今思い出した。ここは南極の地下だったのだ。
地表ほど寒くはないが、それでも水着で過ごせる場所じゃない。
「さっきまで・・・水着だったから・・・、」
「全身が冷え切ってるじゃないか・・・・・。どうして言わなかった!?」
「だって・・・・休憩なんてしたら・・・・不利になるから・・・、」
「馬鹿なことを・・・・。そんなの気にしてる場合か。」
俺は宇宙服を脱ぐ。
「サイズは合わないだろうが、これを着ていろ。」
「でもそんなことしたら久能さんが・・・・、」
「いいのさ。君の水着姿のおかげで、たっぷり温まってる。」
「それ下半身だけでしょ・・・?」
「うむ。」
息子は屹立しっぱなしで、ちょっとばかし痛いほどだ。
「とにかくこれを着るんだ。」
強引に宇宙服を着せると、「温っかい・・・」と身体を抱いた
「それを着ていればすぐに体温が上がるはずだ。」
「でも・・・これ以上待たせたら、誰も私のメッセージを聞いてくれません・・・。」
「それは仕方ないさ。この状態じゃまともに話なんて出来ないだろ。」
「だけどこせっかくここまで来たのに・・・・。」
「棄権しよう。」
「そんなッ・・・・そんなの絶対に嫌です!」
そう言ってフラフラと立ち上がる。
「私は最後までやります・・・・。」
「無理するな。」
「途中で投げ出すなんて嫌です・・・・。どんな事でも・・・最後まで・・・やり抜かないと・・・・、」
フラフラとステージへ向かおうとするが、足取りはおぼつかない。
「あ・・・・、」
「危ない!」
倒れる由香里君を抱きとめる。
彼女は俺の腕を掴んで、「久能さん・・・」と呟いた。
「私の代わりに・・・戦って下さい・・・。」
「え?」
「ミスコン・・・・久能さんに・・・最後を任せます・・・。」
「おい由香里君!由香里君!!」
彼女は気を失ってしまった。
「俺に任せるって・・・・俺は竿が付いてるんだぞ。」
「いいじゃない付いてても。」
後ろから茂美がやってきた。
「由香里ちゃんは預かるわ。」
「・・・・・・。」
「何その目は?」
「あんたに預けたら、強制的に定期購読させられるんじゃないかと思ってだな・・・、」
「由香里ちゃんにそんな事はしないわ。」
「本当だろうな?」
「いくら私でも、気絶してる子から無理矢理契約は取らないわよ。」
「そうか・・・なら頼む。」
茂美の腕に由香里君を預ける。
宇宙服さえ着ていれば、すぐに体温が戻るだろう。
しかし俺の方は・・・・、
「ぶえっくしゃ!おお寒・・・・。」
「由香里ちゃんから代打をお願いされたんでしょ?」
「ああ、でも俺は玉も竿も付いてるからなあ。ミスコンには参加出来ない。」
「でもこのまま行かなかったら、それこそ棄権とみなされるわ。」
会場から大きなブーイングが沸いている。
茂美は「ね?」と肩を竦めた。
「・・・分かったよ。やるだけやってみるさ。」
「UFOの中から応援してるわ。」
由香里君を抱えて、ステージの袖から去っていく。
俺は「寒いいいい〜・・・」と身体をさすった。
「由香里君、ずっとこんなのに耐えてたのか。ていうかこれだけ寒いなら、水着のままだってことに気づけばいいのに。」
文句を言ったところで始まらない。
ここはもう腹を括って、玉砕覚悟で挑むしかないだろう。
「超能力探偵、久能司!初のミスコンへ挑むぞ!」
今の俺はパンツ一丁だ。
でもそれがどうした?
裸で何が悪い?
身体は寒いが、息子は元気なまま。
胸を張り、自信を持っていこうじゃないか。
「やるか息子よ!」
気合を入れ、ステージへ歩いていく。
「やあみなさん!お待たせしてしまって。」
30半ばのオッサンが、パンツ一丁で手を振る。
南極より冷たい視線が突き刺さった。

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