虫の戦争 第十四話 ハチの巣コロリ(2)

  • 2017.11.24 Friday
  • 11:27

JUGEMテーマ:自作小説

この世にはたくさんの兵器がある。
銃、爆弾、戦車に戦闘機。
どれも強力な兵器だが、最も恐ろしいのは核兵器だ。
たった一発で街を吹き飛ばし、爆発後は放射能によって汚染される。
人類が生み出した最悪の火だ。
それに次ぐ恐ろしい兵器として、化学兵器と生物兵器がある。
化学兵器はスプーン一杯で何千人、何万人と殺すほどの力がある。
生物兵器は一度バラ撒けば、あとは勝手に増殖して、次々に感染していく。
どれもこれも人類に致命的な被害をもたらすので、NBC条約という国際ルールで使用が禁止されている。
Nはニュークリアボムの頭文字をとった核兵器、Bはバイオの生物兵器、Cはケミカルの化学兵器のことだ。
しかしこの条約は人間に対してのもの。
虫相手になら化学兵器の使用は許される。
そう、殺虫剤だ。
めでたくヒメスズメバチを撃退したアビーたちだったが、次なる敵が迫っていた。
そいつはこっそりと窓を開け、アシナガバチの巣に化学兵器を向ける。
遠く離れていても使える、ジェット式の「ハチの巣コロリ」だ。
ゆっくりと腕を動かし、照準を定める。
・・・まず最初に気づいたのはムーだった。
「人間が狙ってるぞ!」
変身を解き、一目散に空へ逃げる。
アビーとアシナガバチは呆気に取られた。
「ムー、どうしたの?」
「殺虫剤!そこの窓から狙ってる!」
アビーたちは慌てて振り向く。
それと同時に、恐ろしい猛毒ガスが発射された。
「いやあああああ!」
アビーは悲鳴を上げながら逃げる。
アシナガバチもそれに続いた。
有毒ガスは巣を直撃し、中に眠る幼虫とサナギの命を奪っていく。
「そんな!せっかく守ったのに・・・・、」
アビーは「猿モドキ!」と怒った。
「いっつもいっつも私たちの邪魔をして!今日こそ一匹くらい仕留めてやるわ!」
「よせアビー!馬鹿なことすんな!」
ムーが慌てて追いかけるが間に合わない。
アビーはチャイロスズメバチに変身したまま、お尻の針を突き刺そうとした。
人間は慌てて窓を閉める。
殺虫剤を持っていることすら忘れて、バタン!と窓を閉じた。
「一足遅かったわね、人間。」
アビーは家の中に入っていた。
人間は再び殺虫剤を向けてくるが、アビーには当たらない。
家の中をブンブン飛び回って、タンスの後ろに隠れた。
「おいアビー!出てこい!」
ムーはバンバン窓を叩く。
人間に喧嘩を売ったらどうなるか?
かつてのドブネズミのようになってしまうだろう。
「今のお前はスズメバチなんだぞ!もし人を刺したら、最悪は死んじまう!そうなったら人間たちは絶対に黙ってない!
おっかない駆除業者が来て、無関係なハチまで殺されるんだ!」
ムーは必死に叫ぶ。
自分とアビーは復活できるからいい。
しかし普通の虫はそうはいかない。
減った分は増やせばいい理論の虫たちだが、人間の駆除は虐殺レベル。
増える間もなく駆逐されてしまうのだ。
「アビーってば!余計なことすんな!ここのハチたちが迷惑すんだろ!」
何度呼んでもアビーは出てこない。
人間は殺虫剤片手に、恐る恐るタンスの裏へと近づいた。
その瞬間、アビーはいきなり飛び出して、人間の顔にとまった。
「いやあ!」
慌てて払いのけようとする人間。
アビーはサッとその手をかわして、服の中に入り込んだ。
「いや!いやあああああ!」
大きなハチがシャツの中に入り、背中をモゾモゾしている。
いてもたってもいられなくなって、慌てて服を脱いだ。
しかしアビーを追い払うことは出来ない。
服から飛び出して、人間の首にしがみつく。
そして・・・・・、
「痛っだッ・・・、」
大きな針をブスリと刺す。
そしてありったけの毒を注いだ。
人間は痛みと恐怖で暴れ狂う。
アビーはすでに離れていて、「バ〜カ」と舌を出した。
「地球はお前らのものじゃないんだ。バイ菌みたいに繁殖しちゃってさ。」
人間は苦しむ。
首を押さえ、辛そうにうずくまった。
手を伸ばし、手探りで受話器を探す。
救急車を呼ぶつもりだ。
「そうはさせるか!」
アビーは受話器を持つ手にとまる。
そしてもう一度ブスリ!
「あいッ・・・・、」
受話器を落とし、手を押さえる。
アビーはダメ押しとばかりに、もう一度首に突き刺した。
「おいやめろアビー!それ以上やったら・・・、」
ムーは叫ぶ。
しかし間に合わず・・・・アビーは残った毒液を全て注ぎ込んだ。
人間は声にならない声で悲鳴をあげる。
首を押さえ、プルプルと痙攣し始めた。
白目を向き、口からは泡と唾液を漏らした。
「まずい!」
ムーは辺りを見渡す。
すると換気用の窓が開いているのに気づいた。
慌てて中に入り、アビーを引っ張る。
「すぐ逃げるぞ!」
アビーはまだ針を刺そうとしていたが、「目え覚ませ!」と頬を叩いた。
「殺してどうすんだよ!」
そう言って倒れた人間を指差す。
痙攣は激しくなり、呼吸も荒くなり、子供みたいにヨダレを垂らしていた。
アナフィラキシーショックだ。
「いいじゃない死ねば。」
アビーはひと仕事やり終えた達成感があった。
ムーも「それは同感だけどさ」と頷くが、さすがにこれはまずい。
「いいかアビー。人間は俺たち虫の見分けなんかつかない。ハチは全部同じに見えてるんだ。
だからここら辺のハチというハチは皆殺しにされる。お前がこんな事するから。」
「だって腹が立ったんだもん。」
「それを堪えなきゃこの星で生きていけないんだ。分かってるはずだろ?」
「じゃあいつまで我慢してればいいの?蛍子さんが生まれる前から人間がはびこってるんだよ?」
「昔はそうひどくなかったんだ。だってここまで文明が発展してないから、人間は自然と共に生きてたんだよ。
でもここ100年前後で急に酷くなったんだ。特に蒸気機関車ってのが出来てからは。」
蒸気機関車の登場は、産業革命へと繋がることになる。
今までの輸送手段ではあり得ないほどの物資や人材を、短時間で、そして高速で運べるようになったからだ。
蒸気機関は、人間が初めて手にした「動力」
人や牛の力で動かすのではなく、機械の力で物を動かす。
そのパワーは人や牛とは比べ物にならず、走る距離だって桁違いだ。
動力を得てからの人間は、凄まじい勢いで文明を発展させた。
車が登場し、飛行機が登場し、タンカーが登場した。
物が、人が、一斉に世界各地へ広がっていった。
人間の勢力が拡大した分だけ、他の生き物は住処を追われた。
滅んだ生き物は数知れない。
人類誕生から500万年。
その5万分の一の時間で、地球の環境をガラリと変えてしまったのだ。
499万9900年は、いったい何をしていたのかというくらいに。
「大昔の人間は、必ずしも俺たちの敵じゃなかったんだ。」
「昔はどうだっていいわ。これからいつまで人間の時代が続くのかってことよ。
いつまで経っても滅ばないなら、いっそのこと私たちが・・・・、」
そう言いかけたとき、誰かが家に帰ってきた。
白いシャツに黒いズボン。
肩にはスポーツバッグ。
「あれはさっきの人間の子供か?」
高校生くらいの少年が、「ただいま」と家に入る。
靴を脱ぎ、居間に入り、ボトっとスポーツバッグを落とした。
「お母さん!」
慌てて傍に駆け寄る。
「どうしたん!?」
母は痙攣している。
素人目にも危険と分かる状態だ。
息子は受話器を持ち上げ、すぐに119番した。
やがて救急車がやって来て、急いで病院へ運ばれる。
救急治療室へ運ばれて、すぐにステロイドを打たれた。
息子がすぐに発見したおかげで、母は命を取り留める。
しかし三度も刺され、そのうちの二回は首ときている。
ショック症状は治まっても、大きなダメージが残った。
結果、一週間以上も入院する羽目になった。
この出来事を知った役所は、すぐに駆除を開始した。
ムーが懸念した通り、あの家の付近のハチたちは皆殺しにされてしまった。
アナフィラキシーショックはスズメバチだけが引き起こすわけではない。
アシナガバチ、ミツバチ、それにムカデでも起こりうる。
毒による抗体が引き起こす症状なので、この虫なら安全ということはないのだ。
近所の家の人間がアナフィラキシーショックで死にかけたとあっては、周りの家もじっとしていられない。
普段以上に害虫に目を光らせた。
いつもは軒下のアシナガバチの巣を放置していた隣人まで、この年はすぐさま駆除に当たった。
その様子を、アビーとムーは遠くから眺めていた。
「な?だから言っただろ。」
「ごめん・・・・。」
「謝ることはないよ。先に仕掛けてきたのは人間なんだ。でも喧嘩を売っちゃダメなんだよ。
何度も言うけど、奴らは賢いんだ。武器だって持ってるし、病院だってある。
いくら頑張ったって、俺たち虫に勝ち目なんかないんだ。」
しばらくの間、この辺りにハチは住めないだろう。
あのアシナガバチたちも、あれから姿を見かけていない。
駆除されてしまったのか?
それとも別の場所に巣を移したのか?
今となっては知る由がなかった。
本来、アシナガバチは危険なハチではない。
攻撃性は低く、巣に触れたりしない限りは、集団で襲ってくることもない。
ミツバチもハナバチも、多くのハチは穏やかで大人しい性格なのだ。
希にクマバチという、黒くてずんぐりした巨大なハチが追いかけてくることがあるが、これも攻撃をしようとしているわけではない。
クマバチはハナバチの仲間で大人しい。
ただ目が悪いので、近づかないとそれが仲間かどうか分からないのだ。
人を追いかけている時は、仲間だと誤解している時。
違うと分かれば去っていく。
ただ羽音はスズメバチにも負けないほどの重低音なので、恐怖は覚えるだろうが・・・・。
獰猛なのはオオスズメバチとキイロスズメバチ。
毎年20人以上がスズメバチに刺されて亡くなるが、犯人はこのどちらかだ。
民家にスズメバチの巣ができた場合、多くの自治体が無料、もしくは補助金を出して撤去してくれる。
特にキイロスズメバチの場合は、民家に巨大な巣を作る習性がある。
初めは洞窟や木の枝に作るのだが、働き蜂が増えると、新たな営巣地を探しに出かけるのだ。
その場合、雨風が凌げ、広いスペースが確保できる民家が対象になることが多い。
アシナガバチに比べて攻撃性が高く、毒も強力なので、とても危険なハチだ。
ちなみにオオスズメバチは民家に巣を作らない。
営巣地は山で、しかも土の中と決まっている。
その辺を一匹で飛んでいるオオスズメバチは、餌を探しているだけ。
刺激しなければ襲ってこないので、無理して駆除しようとするのは、かえって危険である。
しかしハチを恐れる人は多い。
攻撃性の低いハチであっても、絶対に刺さないというわけではない。
そしてどんなに毒性の低いハチでも、アナフィラキシーショックを起こす可能性はある。
もし隣人がハチに刺され、死にかけたとしたらどう思うか?
どんなハチであれ、危険とみなされて駆除される。
ムーはそのことをよく知っていた。
もちろんアビーも。。
今まではなるべく人間に手を出さないようにしてきた。
駆除されそうになったり、捕まえられそうになった時は反撃するが、こちらから攻撃を仕掛けることはなかった。
今回、アビーは感情的になって、人間に喧嘩を売ってしまった。
今となっては、そのことを後悔していた。
「あのアシナガバチたち、ちゃんと無事かな?」
「さあな。」
「私さ、間違ったことはしてないよね?」
「うん。でも正しいからって、なんでも許されるわけじゃないんだ。
俺たちの正義や怒りなんて、人間にとっちゃ興味もないだろうから。」
「ほんとに理不尽よね。いったいいつになったら滅んでくれるのかな?」
二度と同じ失敗はしたくないと思うアビーだったが、絶対にやらないとは言い切れなかった。
あの時、ムーだって手を貸したかった。
しかし自分たちだけの問題ではすまないので、どうにか堪えることができたのだ。
・・・・もし人間たちが文明を失い、武器も病院も無くしてしまったら、その時こそが復讐のチャンス。
アビーとムーの胸にある、人間への怒りと憎しみ。
それは人間が滅ぶまで消えることはないのだ。

 

calendar

S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
<< November 2019 >>

GA

にほんブログ村

selected entries

categories

archives

recent comment

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM