虫の戦争 第十六話 狂気の光(2)

  • 2017.11.26 Sunday
  • 10:56

JUGEMテーマ:自作小説

午後九時前。
人間の女が自動販売機の前にやってきた。
100円を入れ、「阿蘇の天然水」を買う。
ボタンを押し、出てきたペットボトル拾う。
その瞬間、奇妙なことが起こった。
「あれ?」
自販機の電気が消えたのだ。
不思議に思ったが、節電の為かなと納得して、その場を後にする。
同時刻、別の自動販売機の光が消えた。
ジュースを買おうとしていた子供が、何度もボタンを押す。
しかし出てこない。
お金を入れた瞬間、うんともすんとも言わなくなった。
「なんで?」
100円を損してイライラする。
写真を取り、ラインで友達に送った。
その数分後、民家の近くの街灯が割れた。
パリンと音がして、窓の外が暗くなる。
家人は外へ出て、街灯を見上げた。
「割れてるのか?」
地面にはガラスの破片が散らばっている。
辺りを見ても誰もおらず、不思議そうに首を捻った。
それから一時間後、ファーストフード店の店先のライトが消えた。
しかし誰も気づかない。
客は備え付けのWi-Fiでゲームに夢中、店員は私語に勤しんでいた。
気づいたのは30分後で、客の一人が割れたガラスを踏んだ為だった。
「危ねえなオイ!どうなってんだこの店!」
店長を呼べと怒鳴るが、店長は不在。
代わりに学生のアルバイトが怒鳴り散らされた。
この日の夜、町のあちこちでトラブルが起こった。
半数以上の自動販売機の電源が抜かれ、多くの街灯が破壊された。
ライトを割られた店は、警察に被害届を出すほどだった。
しかし犯人は見つからない。
ほぼ同時刻に、散発的に起こった町の明かりの消失。
一人の犯行ではないと、警察も気合を入れて捜査した。
翌日、地元のローカル局でニュースが流れた。
お昼頃には全国区のニュースでもチラっと流れるほどだった。
いったい誰の犯行か?
困ると同時に、怯える人間たち。
そんな様子をおチョウさんが遠巻きに眺めていた。
「あはははは!上手くいったわ!」
パチパチと手を叩いて、戦果を喜ぶ。
アビーとムーもハイタッチした。
「やったね!」
「これほど上手くいくとはな。」
蜂蜜と樹液で祝杯を挙げる。
その後ろでは、数羽のゴイサギが疑似餌を咥えていた。
「いいもん貰った。」
「これで釣りが捗るわね。」
「虫もたまには良い事考えるな。」
ゴイサギは嬉しそうで、「そんじゃ」と去っていく。
おチョウさんは「手伝ってくれてありがとう」と手を振った。
「さあ、これで人間どもにギャフンと言わせたわ。」
満足そうに胸を張る。
アビーも「だね」と頷いた。
「でもさ、人間はすぐに直しちゃうんじゃないの?」
「でしょうね。」
「だったらやる意味あったのかな?」
「もう一回やるから平気よ。」
「また!?」
「いずれは直すでしょうけど、それまでは夜の光が減るわ。私たちを惑わす狂気の光が。」
「でもあんまり派手にやると・・・・ねえ?」
「そうだぜ。足がついたら終わりだ。それにもう鳥は協力してくれないし。」
一度成功したからといって、続けて上手くいくとは限らない。
どんな事であれ、浮かれている時が一番危ないのだから。
しかしおチョウさんは動じない。
「まだ武器があるのよ」と言って、草の中を漁った。
「はいこれ。」
「なにコレ?」
「疑似餌よ。」
「このイモムシみたいなのが?」
「ワームっていうのよ。川にいる虫に似せて作ってあるの。」
「また拾ったのか?」
「ううん、これは盗んだやつ。」
「人間から?」
「昨日いろんなお店の電気を割ったでしょ?あの時にこっそり釣具屋の中に入ったのよ。」
「ちゃっかりしてるなあ。じゃあこれでまた鳥に協力してもらおうってか?」
「そういうこと。ゴイサギはもう疑似餌をあげちゃったから、今度はササゴイね。」
「そいつも釣りをする鳥だよな?」
「そうよ。もう話はつけてあるから。」
「アンタの行動力には恐れ入るよ。なあアビー?」
おチョウさんはいつだってみんなの先陣を切る。
痛い目に遭うこともシバシバだが、やってよかったと思うことの方が多い。
「セイタカアワダチソウの時だって、おチョウさんがいなけりゃ戦えなかった。アンタはみんなのリーダーだよ。」
「やめてよもう・・・・否定しないけど。」
ムーは「いよ!女王様!」と拍手を送る。
通りかかったアリの行列も、「女王様!」と拍手した。
しかしアビーは喜べない。
おチョウさんが頼りになるリーダーなのは認めるが、これ以上人間を挑発することには反対だった。
「ねえおチョウさん。もうやめない?」
「何よアンタらしくない。いつもは一番やる気になるクセに。」
「だってこれ以上虫の数が減ったりしたらどうなるの?」
「大丈夫よ、また増やせばいいんだから。」
「増やす以上に減っていってるじゃない。最近なんかザリガニですらあまり見かけないんだから。」
ここ数年でパッタリと姿を見かけなくなってしまった。
それどころか、外来種の魚でさえ数が減っている。
「水は環境の変化に敏感よ。川や沼に生き物がいなくなるってことは、それだけこの辺りが汚れてきてるってことよ。
そうなったらいくら卵を産んだって、増える場所がくなるわ。
そんな状況で人間を挑発したら、いったいどうなるか・・・・。」
「弱気ね。」
「心配してるの。ムーは不安じゃない?」
「不安だけど、なるようにしかならないよ。人間に対する挑発をやめたところで、あいつらが俺たちのこと気にかけてくれるとは思わないし。」
「そうかもしれないけど・・・・。」
「どっちみち俺たちは虐げられる運命なんだ。だったらたまには人間にも痛い目みてもらわないと。
もちろんやり過ぎはよくないけど。」
おチョウさんとムーはやる気満々だ。
アビーは反対したが、二匹に押し切られてしまった。
「というわけで決行ね。明日、夜が明ける前に、またここに集まってちょうだい。」
「ん?夜明けにやるの?夜中じゃなくて?」
「ササゴイは薄明薄暮性なの。」
「なにそれ?」
「夜明けと日暮れに活動するってこと。」
「ああ、なるほど。」
「陽が昇り切る前なら、人間はまだ眠ってるわ。」
「OK!やってやろうぜアビー。」
「上手くいくといいけど・・・。」
アビーの不安は消えない。
それどころか、陽が暮れるにつれて大きくなっていった。
やがて夜が来て、昨夜と同じように作戦を開始する。
今回はササゴイが手伝ってくれた。
クチバシで自販機のコンセントを抜き、街灯を割り、店のライトを割った。
夜の街から消えゆく光。
あちこちに散乱する蛍光灯の破片。
もはやイタズラのレベルを超えて、ちょっとしたテロ行為になっていた。
作戦を完遂したおチョウさんたちは、小川の茂みに戻ってきた。
「はいお礼。」
ワームの疑似餌をササゴイに渡すと、「いやっほう!」とはしゃいだ。
「こいつがあれば大漁だ!」
「またいつでも声かけてくれよ。」
よくできたイモムシの模型を咥え、明け方の空へと消えていった。
「ふふふ、今頃人間たちは慌ててるわよ。」
口元に手を当てて、笑い噛み殺す。
しばらくの間、夜の町から余計な光が消えた。
おチョウさんもムーも、自分たちの戦果を疑わなかった。
しかしアビーの不安はまだ消えない。
作戦そのものは上手くいったが、果たして人間がこのまま大人しくしているだろうか・・・・。
「ねえみんな、ちょっとの間、身を隠さない?」
「どうして?」
「なんで?」
「嫌な予感がするの。不安が消えないのよ。」
「心配性ね。」
「平気だって。絶対に俺たちのせいだってバレないから。」
「・・・・・・・。」
おチョウさんもアビーもあっけらかんとしている。
おかしいのは自分の方なのかなと、それさえも不安になるアビーだった。
「何も起こらなきゃいいけど。」
おチョウさんたちに背を向けて、小川の流れを見つめる。
対岸には一羽のゴイサギがいて、ミミズの疑似餌で釣りをしていた。
鋭い目をしながら、水面を睨み付けている。
真っ赤なその瞳は、怒りにそまった狩人のよう。
わずかに映った魚影さえ見逃さない。
「そこおッ!」
折りたたんでいた首を、魚影に向かって発射する。
長いクチバシは吹き矢のごとく、いとも簡単に魚を捕えた。
「七匹目ゲット〜!」
大漁だった。
疑似餌の効果は石や木の枝とは大違い。
本物と勘違いした魚が、いくらでも寄ってくる。
俊敏なゴイサギにとって、射程内にやってきた魚を獲ることなど、造作もないことだった。
「この疑似餌がある限り、餌には困らないな。」
パクパクっと小魚を飲み込み、また釣りに勤しむ。
「ゴイサギは喜んでるわね。ああやって魚を狙ってくれるなら、虫は安心かも。」
今回の作戦、不安はまだ消えない。
しかし鳥の脅威から逃れられるなら、そう悪いことではなかったかもしれない。
いや、きっとそうであると自分に言い聞かせた。
そうしないと、膨れ上がる不安に対抗できなかった。
「人間が先に滅ぶのか?虫が先に滅ぶのか?どっちなんだろう?」
陽が昇りかけた空に、ぼそりと問いかける。
しかし誰も答えない。
人も、虫も、太陽でさえも、そんな答えは持ち合わせていなかった。

          *****

悪いことをすれば捕まる。
悪いことをすれば罰を与えられる。
当然のことであるが、犯人に逃げられてはそれも不可能である。
年々凶悪犯罪は減少している。
人の心が無い時代などと言われるが、犯罪者やヤクザが跋扈していたのは昔の方である。
現在、街中の至る所に防犯カメラがついている。
コンビニに、ガソリンスタンドに、子供たちの通学路に。
車にだってドライブレコーダーという、ある種の防犯カメラが付いている。
至るところに機械の目があるので、悪さをしても誰かが見ているのだ。
連日起こった不可解な事件。
自動販売機や街灯、店先のライトの破壊は、すぐに誰の仕業がバレてしまった。
人は眠っていても、機械の目がそれを捉えていたからだ。
警察署の一角で、二人の刑事がモニターを睨んでいる。
「鳥・・・ですか?」
「みたいだな。」
刑事が見ているのはガソリンスタンドの防犯カメラ。
そこには一羽の鳥が映っていた。
自販機の後ろをコソコソしながら、なにやらついばんでいる。
その直後、明かりが消えた。
また別の防犯カメラには、街灯を破壊する様子が映りこんでいた。
こちらはドライブレコーダーによるもの。
残業帰りのOLが、気分転換にといつもと違う道を通った。
その時、突然傍にあった街灯が消えた。
パリン!という破裂音、電柱の下に散らばった蛍光灯の破片。
空を見上げると、鳥らしき影が飛び去っていった。
家に帰ってからドライブレコーダーを確認すると、鳥が街灯を破壊する様子が映っていたのだ。
似たような映像は他にもあって、警察に届ける者もいれば、SNSに上げる者もいた。
ニュースでも扱われ、ネットでも拡散。
すると鳥に詳しい者達が、すぐに犯人を特定したのだった。
「犯人はゴイサギとササゴイという鳥」
ネットニュースの見出しにもなり、町はにわかに騒然とした。
今のところ人的被害はゼロだが、こうも街灯を割られては危ない。
それに自販機の所有者は大赤字の大損害。
「そんな鳥はすぐに駆除しろ!」
役所や警察署にはそんな声の電話がたくさんかかってきた。
それに対して「もう少し様子を見るべきだ」という意見もあった。
「鳥が好きこのんで悪さをするはずがない。これは何かの習性ではないのか?」
テレビでは専門家を交えて、色々な意見が飛び交った。
駆除か?
それとも様子を見るべきか?
議論は平行線をたどり、平行線をたどったまま、いつしか飽きられた。
なぜならあれ以来、街灯や自販機の被害はなくなったからだ。
続けて被害が出るならともかく、そうでないなら誰も興味を示さない。
それよりも大臣の失言や、芸能人の離婚問題の方が面白いという人が多勢である。
多くの人が世の中に無関心。
鳥がどうのと追いかけるより、有名人が失脚する様の方が良い娯楽であり、それすらも時間と共に忘れ去られる。
犯人がバレてしまい、虫や鳥が駆除されるのではないか?
そんなアビーの不安は露と消え去った。
「いい加減ねえ、人間って。」
心配していたのが馬鹿みたいに思えてくる。
それと同時に、自分たちのやったことに意味はあったのか?と、疑問で仕方なかった。
「すぐ忘れるなら、私たちのやったことだって無駄じゃない。自販機も街灯もすぐに直っちゃったしさ。」
そう言うと、おチョウさんはムスっとした。
「腹立つわね、あんなに頑張ったのに。」
「でも人間が忘れてくれたから、私たちは駆除されずにすんだのよ。」
「鳥や虫なんて眼中にないってわけね。猿モドキのクセに見下して。」
イライラしながら、ガブガブと花の蜜を飲む。
「・・・ぷはあ!こうなったら第三弾を仕掛けるわよ!」
「えええ!もうやめようよ。」
「いいえ、やってみせる!人間どもの世界に爪痕を刻んでやるわ!」
息巻くおチョウさんだったが、怒りと興奮のあまり「ふぎゅッ!」と倒れてしまった。
「言わんこっちゃない。」
葉っぱを千切り、気を失ったおチョウさんの上に掛ける。
「ねえムー。もうこんなのやめようね。」
そう言って振り返ると、「助けてくれ〜!」と空を飛んでいた。
「どうしたの!?」
「ゴイサギが追いかけてくるんだ!」
ムーは必死に羽ばたく。
その上には翼を開いたゴイサギが。
「ちょっとアンタ!なんでムーを襲うのよ!!」
「そうだよ!俺を食べなくたって、疑似餌で魚を捕まえればいいだろ!」
「疑似餌より本物の虫の方がいい。」
「なんだって?」
「疑似餌のミミズであれだけ魚が取れるんだ。だったら本物を使えば・・・・なあ?」
ゴイサギは賢かった。
疑似餌よりも生餌の方が効果的。
偽物のミミズで釣りをする中、その事に気づいてしまったのだ。
「今までは虫を採ったらすぐに食べてた。でもそれを生餌に使えば、より多くの餌が手に入る。」
「お、お前・・・・それって人間の考え方だぞ!」
「分かってる。人間が釣りをしているのを見て気づいたんだから。」
「そんな人間の真似して恥ずかしくないのか?鳥としてのプライドがなくなるぞ!」
「だからどうした?」
「どうしたって・・・・、」
「鳥は虫ほどバカじゃない。人間の真似だろうがなんだろうが、自分にとって有益ならそうするだけだ。」
「そんなッ!」
「お前ら虫は、いったいいつになったら賢くなるんだ?どんなに数が増えた所で、バカのままじゃ利用されるだけだぞ。」
ゴイサギはクルっと旋回して、ムーを咥えた。
「ぎゃあ!」
「さあ、生餌になれ。」
「嫌だ!」
ムーは遠くへ連れ去られていく。
そしてポチャっと川に落とされた。
「お、溺れる・・・・。」
ジタバタもがいていると、さっそく魚がやってきた。
ゴイサギは熟練のスナイパーのごとく、目にも止まらぬ速さで魚を仕留めた。
「・・・・う〜ん、美味い!」
ムーは何度も川に落とされる。
「こんなんだったら、一口で喰ってくれた方がマシだ!」
「まだまだ元気だな。死ぬまで働いでもらうぞ。」
「嫌だ!俺は奴隷じゃない!」
「奴隷なんだよ。お前らは虫は下等生物だからな。人間にも鳥にも利用される運命なんだ。」
ムーの悲鳴はゴイサギの喜び。
暴れれば暴れるほど、魚が寄ってくる。
アビーは「はあ・・・」とため息をつきながら、その様子を眺めた。
「やっぱりいい結果にならなかったわ。」
人間から駆除されることはなかった。
しかし鳥に余計な知恵を与えてしまった。
他の生き物に比べて、虫は敵が多い。
人間、イタチ、タヌキ、鳥、そしてヘビやカエルや魚。
「どうして私たちはこんなに敵だらけなんだろう。」
人間がいなくなっても、きっと虫の地位は向上しない。
自然界を根っこで支える生き物は、他のあらゆる生き物の糧になる運命なのだ。
アビーは二度目のため息つく。
彼女の頭上からササゴイ迫っていた。
活きのいい生餌を求めて。

 

calendar

S M T W T F S
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930     
<< September 2019 >>

GA

にほんブログ村

selected entries

categories

archives

recent comment

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM