虫の戦争 第十九話 未知のウィルス(1)

  • 2017.11.29 Wednesday
  • 10:53

JUGEMテーマ:自作小説

地球には常に隕石が降り注いでいる。
しかし地表へ到達する物は少ない。
ほとんどは大気圏で燃え尽きてしまうからだ。
夜、空に尾を引く閃光は、蒸発した隕石の軌道。
アビーとムーは電線の上に座り、消えていく光の群れを眺めていた。
「あれがしし座流星群ってやつらしいぜ。」
「なにそれ?」
「知らない。蛍子さんが言ってたんだ。」
「物知りだもんね、蛍子さん。」
「なあ。」
「ねえ。」
アビーは花の蜜を、ムーは樹液の塊を舐めながら、空を走る光を眺め続けた。
「そういえばさ、俺らのご先祖様って、宇宙から来たって噂があるらしいぜ。」
「そうなの?なんで?」
「なんでって聞かれても知らないけどさ。でも俺らって他の生き物とは似ても似つかないじゃん?」
「私たちからすれば、他の生き物の方が変わってるんだけどね。特にあの猿モドキが。」
電線の下の自販機で、髪の薄いおじさんがジュースを買っている。
プシュっとタブを開け、ゴクゴク飲みながら、流星群を見上げた。
しかし興味もなさそうに、すぐに目を逸らす。
スマホをいじりながら、家へと消えていった。
「私たちの見た目が変だから、宇宙から来たってことになってるの?」
「人間はそう思ってるらしい。」
「それ逆じゃない?人間の方が宇宙から来たのよ、きっと。」
「となると猿も宇宙からってことになるな。」
「虫以外はみんなそうかもよ?」
空に走る無数の光は、地球の外からやってきた物。
あの隕石の中には、いったい何が潜んでいるのか?
もし・・・もしも燃え尽きずに落っこちてきたら、そこには他の星の生き物がくっついているのではないか?
アビーはそう考えて、「どれか一つくらい落ちてこないかしら?」と言った。
「無理だよ、あれは小さいから。」
「大きいやつなら落ちてくる?」
「多分な。今までに何回も落ちてるんだぜ。それこそ地球がヤバイくらいの奴が。」
月を見上げ、「あれだって隕石が落ちて、地球から千切れた一部だって説があるらしいから」と言った。
「へえ、元は地球の一部だったんだ。だったら月にも虫がいるかな?」
「いないだろ。水も空気も無いらしいから。」
「水も空気もなくて、でも生きてる虫もいるかもよ?」
想像することは尽きない。
アビーもムーも他愛ない話が好きで、暇つぶしの定番だ。
しかし二匹の思う先は違う。
ムーは意外とロマンチストで、「今日は月が綺麗ですね」と名作の一文を口ずさむ。
それに対してアビーは「月へ行こう」と立ち上がった。
「向こうにも仲間がいないか調べてみようよ。」
「無理だよ。月って滅茶苦茶遠いんだぞ。」
「なんで?」
「知らないよ。でも蛍子さんがそう言ってた。」
「でもさ、もし向こうにたくさん虫がいたら、これは私たちにとっていい事よ。」
「なんで?」
「地球の虫と月の虫で手を組んで、猿モドキを絶滅させるの。」
「いいなそれ!」
ムーも立ち上がる。
「善は急げ。人間どもを撲滅する為に、月へ行ってみるか?」
「急げばすぐよ。明日の朝には帰って来れるかも。」
二匹は無謀な旅に出る。
空に見えるあの月。
遠いという知識はあっても、どれほど遠いのかという実感がない。
何年か前に行った東京よりも近いだろうと思っていた。
二匹の虫が空に舞う。
天にそびえるあの光には、きっと仲間がいるはずと信じて。
しかし二時間ほど飛び続けて、やっと気づいたのだ。
向こうに仲間がいるかどうかは別にして、どうやってもたどり着けないと。
いくら頑張って飛ぼうが、目に映る月の大きさは変わらない。
しかも上空へ行けば行くほど、気温が下がって体力が奪われる。
変温動物の虫にとって、冷たい風は天敵だ。
「やっぱり帰ろうか?」
「そうだな。」
早々に人類撲滅作戦を諦める。
二匹は「バイバイ」と触覚を振って、それぞれの寝床へ戻った。
しかし次の日、再び人類撲滅作戦を掲げることになる。
なんと本当に隕石が落ちてきたのだ。
かなり小さな物だが、隕石は隕石。
第一発見者はおチョウさんで、山の中にみんなを集めた。
「今日のお昼頃、この山の中腹に隕石が落っこちたわ。暇なんで調べてみましょう。」
アビー、ムー、ナギサ、そして地元へ帰って来ていたマー君。
妖精種だけが集まって、大木の根元を貫通した隕石を取り囲む。
「この根っこの穴の中に隕石があるのね。」
アビーは興味津々に覗き込む。
おチョウさんが「悠長にしてる暇はないわ」と言った。
「いずれ人間が嗅ぎつけてくるはず。その前にいっぱい遊んでやりましょう。」
みんな乗り気で、「いやっほう!」と穴に飛び込もうとする。
しかし「待った!」と誰かの声が響いた。
「今の声は・・・・、」
アビーは振り返る。
そこには物知りの彼女が立っていた。
「蛍子さん!」
「その隕石に触っちゃダメよ。」
「どうして?」
「どうしても。それには宇宙のウィルスが潜んでいるのよ。」
「宇宙の・・・・・、」
「ウィルス・・・・。」
アビーとムーはゴクリと息を飲む。
「それもおっかないウィルスよ。もし地球で広がったら、たくさんの生き物が死んじゃうわ。」
「たくさんって・・・私たちも?」
「虫は助かるかもね。数も多いし、世代交代が早いから抗体を獲得する可能性もある。
だけど大きな生き物は無理よ。ウィルスに対抗できずに死ぬわ。」
「大きな生き物かあ・・・・。」
アビーは上目遣いに考える。
頭に浮かんだのはあの生き物。
「それって人間も?」
「ええ。」
「じゃあさ、そのウィルスが広まったら、人間は絶滅するってことね?」
「可能性はあるわ。」
「よっしゃああああああ!絶対に掘り出すわ!」
そんな事を聞いては黙っていられない。
一目散に穴に飛び込んで、隕石を引っ張り出そうとした。
しかしガッツリとめり込んでいるので、ハチ一匹の力ではビクともしなかった。
「誰か手伝って!」
「おう!」
ムーも穴に飛び込む。
しかし二匹でも持ち上がらない。
「私も!」とナギサが飛び込み、「僕も!」とマー君も手伝った。
「だから触っちゃダメだって!」
蛍子さんは鬼の形相で叫ぶ。
するとおチョウさんが「なんでそんなに慌てるのよ?」と尋ねた。
「この隕石があれば、人間を滅ぼせるかもしれないんでしょ?」
「それだけで終わらないから言ってるのよ。」
「未知のウィルスってそんなの恐ろしいの?」
「ええ。だって生き物が死滅するだけじゃすまないかもしれない。最悪は・・・・この星が乗っ取られるかも。」
「乗っ取る!?ウィルスが?」
おチョウさんは「そんなまさか」と首を振った。
「本当のことよ。だって生命は宇宙から来たんだもの。」
「嘘でしょ?みんな地球で生まれたんじゃないの?」
笑えない冗談だと思いながら、それでも気になる。
蛍子さんは真面目な顔でこう返した。
「パンスペルミア説って知ってる?」
「何それ?」
「地球にいる生き物は宇宙から来たって説よ。元々この星に生き物はいなくて、隕石に紛れてやって来たってこと。」
「隕石って・・・中に生き物がいたとしても、大気圏で燃え尽きるでしょ?」
「それがそうでもないのよ。」
蛍子さんは丁寧に説明した。
パンスペルミア説とは、星と星の間で起こる、生き物の移動のことである。
他の星からやって来た生き物が、別の星で定着し、数を増やしていくのだ。
何も宇宙人がUFOに乗ってやって来たという意味ではない。
例えば彗星が飛来し、地球へ落ちたとしよう。
その時、彗星の内部に微生物が宿っていたとする。
その微生物は地球に定着し、時間と共に進化していく。
やがて進化の枝分かれが起き、生き物の種類が増える。
長い長い時間の後、元々生き物のいなかった地球に、生命が溢れるというわけだ。
これは生命誕生の秘密を説明するものではない。
地球に生命が溢れた理由を説明する説だ。
宇宙には元々たくさんの生き物がいて、中には人間と同等か、それ以上の文明を持つ生命がいる。
地球に飛来した微生物が、偶然にやってきたのかどうか?
もしも他の惑星の住人が送り込んだものだとしたら、それは意図した生命の飛来になる。
これを意図的パンスペルミアという。
まるでSF映画のような話だが、これを真面目に提唱した学者もいるのだ。
今のところ、地球生命がどのようにして誕生したのかは分かっていない。
この星で生まれたのか?
それとも別の星から飛来したのか?
パンスペルミア説は、あくまで地球生命誕生の一説でしかない。
しかしこの物語では、パンスペルミア説が正しいという設定で話を進めていく。
蛍子さんはパンスペルミア説について説明を終える。
「・・・・というわけなのよ。隕石は頑丈だから、大きな物だと中まで燃え尽きないの。
もし微生物が宿っていたとしたら、死なずに落ちてくることもあるのよ。」
おチョウさんは「そうなの・・・・」と頷いた。
「じゃあこの隕石にも・・・・、」
「アンタたちが来る前に、私が確かめた。案の定危ないウィルスが宿っていたわ。」
「さっきこの星が乗っ取られるとか言ってたわね。ほんとにそんな事が起きるの?」
「ええ。これは本当に危ないウィルスなの。まあウィルスを生物とするかどうかは、色んな意見があるけど。」
ウィルスは細胞を持たない。
それゆえに、自己増殖することは不可能だ。
他の生き物の体内に宿り、その細胞を使うことでしか、数を増やせないのだ。
どんな生き物だって細胞を持ち、自らの力で増えることが出来る。
それが出来ないウィルスは、生命ではないという意見もある。
蛍子さんは服の中から妖精の蜜を取り出す。
紫色をした宝石のような蜜の塊だ。
「この蜜の中にウィルスがいるわ。」
「ちょっと!近づけないで!」
「今は閉じ込めてるから大丈夫。だけどもし野に放たれたら、すぐにこの星の生き物に宿るはずよ。」
「もしそうなったら・・・・、」
「未知の病気が流行って、たくさんの生き物が絶滅する。でも虫は数が多いし、耐性を獲得するのも早いわ。
だから私たちが滅ぶことはないと思う。だけど他の生き物はそうはいかない。
人間の力をもってしても、このウィルスに勝つことは無理ね。」
「・・・・・・・・・。」
おチョウさんの顔が引きつる。
人間が滅んでくれるのはありがたい。しかし・・・・・、
「もし地球で大量絶滅が起きたら、虫にとってもいい結果にならないわね。」
「たくさんの生態系が破壊されるわ。そうなれば虫の生きていける環境も少なくなる。
絶滅は免れても、今までのような生活は無理でしょうね。」
「もしそうなったら、この星はそのウィルスだらけってことよね?」
「ええ。でも一番怖いのはそこじゃないわ。」
「なに・・・・?もっと怖いことがあるっていうの?」
「一番怖いのは、ウィルスのせいでこの星の生き物が変わってしまうことよ。
遥か昔、この星に降り注いだ微生物。今ある生物群は、全てそこから発生しているの。
だけどそこへまったく別の生物が混じったらどうなると思う?」
「ど、どうなるの・・・・?」
「まったく見たこともない生き物や、地球の常識に当てはまらないような生き物が誕生するかもしれないの。
そうなったら私たちの知ってる地球じゃなくなる。
もちろん虫にとって良い結果になる可能性もある。だけどそうじゃなかったら・・・・。」
「・・・・・・。」
「アビーたちは人間が滅んでくれるって喜んでるけど、実際はもっと恐ろしいことになるかもしれないの。
ウィルスのせいで地球の環境は変わり果ててしまうかもしれない。そうなったら取り返しがつかないわ。」
蛍子さんの心配は、この星のありようが変わってしまうこと。
未知のウィルスが流行すれば、今までの生物群は消えてしまうかもしれないのだ。
そうなれば地球を乗っ取られたも同然。
それを恐れているのだ。
今までに何度も大量絶滅は起こっているし、それを乗り越える度に生き物は強くなってきた。
大昔、バージェス動物群という奇怪な生物たちがいた。
どれもこれも、神様が気まぐれでデザインしたような生き物たちだ。
有名なのはアノマロカリス。
ウミサソリという、今では絶滅してしまった種族だ。
他にもピンクのナマコにたくさんのトゲトゲを生やしたような生き物、ハルキゲニア。
恐竜図鑑などでよく出て来る、ダンゴムシを平べったくして、さらに巨大化させたような三葉虫。
カンブリア紀と呼ばれる、5億年以上も前の時代のことだ。
この時、なんらかの原因で大量絶滅が起きた。
なんと地球上の85%の種が死滅してしまったのだ。
火山煙による地球の冷却化や、超新星爆発の際に起こるガンマ線バーストの影響など、様々な説があるが、まだはっきりとした原因は分かっていない。
生き残った15%の生き物たちは、それぞれに異なる進化を遂げていった。
この中にミミズを平べったく引き伸ばしたような、ピカイアという生き物がいた。
これが現在のすべての脊椎動物の祖先と言われている。
もしピカイアが滅んでいたら、人類も誕生しなかったのだ。
カンブリア紀を含め、今までに五回の大量絶滅が起きたと言われている。
特にペルム紀という時代に起きた絶滅は、地球史上最大の絶滅とされている。
なんと地球上の生物の95%の種が死に絶えたのだ。
しかしそれらを乗り越え、激変してしまった環境でも生きていけるように、デザインも機能も変えてきた。
地球の歴史上で、生態系や生物群の変化は何度も起きているのだ。
しかしそれらは全て同じ祖先から誕生した生き物。
遥か昔、彗星に乗って降り注いだ、遠い宇宙からの来訪者なのだ。
今の地球の生物群は、過去を遡れば同じルーツにたどり着く。
もしそこへ、異なる星からの生き物が紛れたらどうなるか?
良い結果になるのか?
悪い結果になるのか?
誰にも予想はつかない。
地球の生命は、今のところ絶滅の危機には立たされていない。
であれば、大きなリスクを背負ってまで、別の星のウィルスを受け入れる必要はないのだ。
蛍子さんは「これは必要のないものだわ」と言い切った。
「だからたっぷり私の蜜をかけて、ウィルスが外へ出ないようにしようと思うの。
その後は誰にも分からない場所へ捨てるしかない。人間に見つかる前に。」
大昔から生きている蛍子さんは知っていた。
人間は危ないオモチャにほど惹かれることを。
もしもこの隕石に宇宙からのウィルスが宿っていると知れば、あの手この手で弄ぶはずである。
必要のない研究をし、お金の為にと無意味に増殖させて、欲しがる国や科学者に売るだろう。
だがこれは人間の手に負えるウィルスではない。
地球上に存在する、どんなウィルスよりもたちが悪いのだ。
人間が感染した場合だと、致死率は99.9%。
まず皮膚が侵され、その一時間後には腕や足の神経がやられる。
その二時間後には脊髄が侵され、免疫機能は打撃を受ける。
そして骨、筋肉と蝕まれ、その後は眼球や耳や鼻といった、感覚器官が侵されていく。
その次には胃や腸がやられて、ひどい嘔吐と下痢に襲われる。
わずか半日で満身創痍の状態になるのだ。
立つことも喋ることも出来ず、完全に寝たきりとなる。
その次には心臓が狙われる。
血液を送り出す強い筋肉が、じょじょに蝕まれていくのだ。
肺も同時期にやられていく。
肺の中の神経が破壊され、激痛と呼吸困難に喘ぐことになる。
一日が過ぎる頃には、中世の拷問を受けているような苦痛に見舞われるだろう。
しかし不思議なことに、ここまで来ても脳は無事だ。
骨や筋肉や神経は侵されても、脳だけは綺麗なまま残る。
痛みや苦しみをありありと感じながら、病魔に侵略されていくことになるのだ。
そして感染から二日目、脊髄が完全に破壊されて、免疫機能は無力化される。
ここまでくればもう助からない。
刻一刻と、死が近づいてくるのを待つしかなくなる。
そして感染から三日後、命はいつ尽きてもおかしくない状態となる。
しかし普通に死ぬことは出来ない。
全身に広がったウィルスは「この宿主はもうもたない」と判断すると、特殊な毒素を分泌するのだ。
その毒素は骨と筋肉を腐らせて、ヘドロのように溶かしていく。
血管も神経も内蔵も、シェイクされたようにペースト状へ変わってしまう。
やがて肉体は溶け去り、綺麗なままの脳だけが残るのだ。
ウィルスはしばらく脳内に寄生し、なぜか自然消滅してしまう。
だが脅威は終わらない。
このウィルスの感染力は、地球上のどんな細菌やウィルスよりも強力だからだ。
患者の呼吸、唾、そして触れたもの。
ありとあらゆる場所から他者へと移動していく。
小さな町ならば、一日で全ての人間に感染するほどだ。
蛍子さんは、このウィルスの脅威について説明した。
おチョウさんはますます怖くなって、自分の脚をさすった。
「怖いわ・・・・。ていうかなんでそんなに詳しいのよ?まるでその目で見てきたみたいじゃない。」
「実際に見たことがあるから言ってるの。」
「見たことがあるって・・・・このウィルスは前にも地球に?」
「いいえ、別の星。」
「別の・・・・、」
「私がまだ地球へ来る前の話よ。ここと似たような星で、このウィルスが猛威をふるってたわ。
あの星は地球より進んだ文明を持っていた。それでもこのウィルスには勝てなかったのよ。」
「ちょっと待ってよ!別の星ってどういうこと?アンタは地球の生き物じゃないの?」
思いもよらないことを聞かされて、おチョウさんは「どうなのよ?」と詰め寄る。
「アンタ・・・もしかして宇宙人とか?」
「それは追々ね。今はこのウィルスをどうにかしなきゃってこと。だから・・・・、」
穴の中からアビーたちが出て来る。
ムーとマー君がクワガタに変身して、えっちらおっちらと隕石を引っ張り出していた。
「ようし・・・これで猿モドキを退治できるぞ。」
目の前にあるのは、テニスボールほどの隕石。
表面は黒く、所々に茶色い斑点があった。
見た目よりも軽く、まるで軽石のようだった。
「じゃあこれを人間の街に持っていこう。そうすれば・・・・・ぶふッ!」
アビーは笑いを堪えられない。
自分自身もすでに感染しているのだが、死んでも復活できる身なので、まったく危機感がなかった。
蛍子さんは「だからコイツらをどうにかしなきゃ」と睨んだ。
「ちょっとナギサ、あんたは離れてた方がいいわ。感染したらあの世行きよ。」
「まだ触ってないから平気だけど?」
「もし触ったら終わりよ。まだ不死にはなってないでしょ?」
「もうなったよ。アビーとムーから蜜をもらったから。」
「・・・・馬鹿ガキども!ポンポンあげちゃダメでしょ。」
ゴツンとゲンコツを落とされて、二匹は「むうあああッ・・・」と悶えた。
「これは私が預かっておくわ。」
蛍子さんは大量の蜜を吐く。
それで隕石を包んで、ウィルスを封じ込めた。
そして人間の手のひらほどもある蛾に変身して、隕石を空へ運んでいった。
「あ!独り占めはスルイわよ!」
「そうだそうだ!俺たちが掘り起こしたんだぞ!」
怒るアビーたち。
しかしおチョウさんが「これでいいのよ」と宥めた。
先ほど聞いた恐ろしいウィルスの話。
それを伝えると、アビーたちは「マジで?」と青ざめた。
「あれは私たちがオモチャにしていいものじゃないの。蛍子に任せましょ。」
「せっかく人間をぶっ潰すチャンスだったのに。」
「もったいねえなあ。」
「人間だけですまなくなるから仕方ないわ。」
おチョウさんは背中を向け「私はこれで」と飛んでいく。
「帰っちゃうの?」
「やる事なくなっちゃったからね。どこかで蜜でも吸ってくるわ。」
そう言い残し、遠くへ飛んでいくが、ふと戻ってきた。
「どうしたの?」
「いま気づいたんだけど、アンタら死ぬまでここにいなさいよ。」
「なんで?」
「だって感染してるじゃない。死んで復活するまでは、ここを動かないように。」
「ああ、そういうこと。」
「アンタらみんな復活できるんだから、ちょっとの辛抱よ。それじゃ。」
優雅な羽をはばたいて、青い空の中へと消えていった。
アビーたちは「またね」と手を振る。
「・・・・じゃあ行こうか。」
誰一匹としてここにとどまる気はない。
今の自分たちには強力な武器がある。
これを使えば、憎き人間たちを撲滅することが出来るのだ。
「おチョウさんは危ないウィルスだって言ってたけど、このチャンスを逃さない手はないわ。」
「だな。」
アビーとムーはやる気満々だ。
しかしナギサは少し不安だった。
「でもさ、人間以外の生き物だって絶滅するって言ってたよ。」
そう言うと、マー君が「気にすることないよ」と答えた。
「可哀想だとは思うけど、僕ら虫の不遇を考えれば、そこまで同情しなくてもいいと思う。」
「そう言わればそうね。」
「虫は根っこで自然界を支えてるんだ。なのにいっつも食われたり害虫扱いされたりばっかりだ。」
「そろそろ反乱を起こす時ってことね。」
「虫は何億年も前から地球にいるんだ。最古の生き物の一つなんだ。
なのに後からでてきた生き物たちに、いいようにやられっぱなしだった。
だからさ、もうそろそろ僕たち虫が覇権を取ってもいいと思うんだよ。みんなはそう思わない?」
かつてドブネズミと手を組み、人間と戦おうとしたマー君。
彼の中に宿る野心と怒りは、今でも激しく燃えていた。
その炎はアビーたちにも燃え移る。
もう我慢の時はおしまい。
これからは、虫の虫による、虫の為の世の中に変えていくのだ!
と、一致団結の絆が生まれる。
目指すは人間の街。
いつも根城にしている町の隣に、中核都市に指定されている地方都市がある。
そこでこのウィルスをばら撒けば、甚大な被害は絶対!
「早く行きましょ。私たちだって感染してるんだから、モタモタしてたら死んじゃうわ。」
この世から人間を消し去る。
そして虫の王国を作る。
今までのような小さな世界ではない。
この星そのものが虫の楽園に変わるのだ。
四匹は同じ夢を見ながら、ひたすら街を目指す。
次に生まれ変わる頃には、人間がいなくなっているはずと信じて。

 

calendar

S M T W T F S
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930     
<< September 2019 >>

GA

にほんブログ村

selected entries

categories

archives

recent comment

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM