虫の戦争 第二十二話 小さな王国(2)

  • 2017.12.02 Saturday
  • 15:09

JUGEMテーマ:自作小説

戦でものを言うのは数である。
戦術、武器、弾薬。
色んな要素があるので、工夫して戦えば、数で不利でも勝てないことはない。
しかし数が大いにことしたことはなく、数が多いというだけで大きなアドバンテージとなる。
地球在来種VS宇宙外来種。
今のところ、数は在来種が上回っている。
しかし個々の強さは外来種の方が上だ。
総大将を務めるアビーは頭を悩ませる。
数で勝るというアドバンテージ。
これを最大に活かすには、いったどうしたらいいか?
ムーに相談したところ、思いがけない答えが返ってきた。
「あの猿モノドキをお手本にしよう。」
この返事にアビーはブチ切れた。
「なんで奴らの真似なんかするのよ!」
「まあ落ち着け。あの猿モドキどもは、短い間だったけど地球の覇権を握った。その秘密はなんだと思う?」
「アホで野蛮だからでしょ?見境がないんだもん。他のどんな生き物でもやらないような無茶をするじゃない。
根こそぎ森を潰したり、金儲けの為にたくさんの生き物を絶滅させたり。」
「それは奴らが覇権を取ってからの話だろ?そこまでたどり着く前は、猛獣や毒蛇に怯える弱い猿だったんだ。」
「じゃあ脳が大きかったから。知能が高いから文明を持ったのよ。それで強くなったわ。」
「そうだな。幸い妖精には脳がある。人間ほどデカくないけど、ちゃんと考える頭があるんだ。
だったらさ、俺たちも文明を持とうぜ。そうすりゃ猿モドキがやってたみたいに、虫を抑えつけることが出来る。
宇宙からの虫をやっつけられるんだよ。」
「馬鹿言わないで。それじゃあなんの為に猿モドキを滅ぼしたのか分からないじゃない。
また文明なんか持ったら、それこそ自然は壊れて・・・・、」
「でも俺たちは小さい。」
「は?」
「人間はヒョウやジャガーなみにデカいのに、何十億といたんだ。そんな種族が文明を持ったら、そりゃ環境もヤバくなるよ。」
「じゃあ虫みたいに小さな私たちなら、文明を持っても平気ってこと?」
「多少は影響が出るだろうな。でも人間ほどじゃない。だって俺たちは小さいんだから。
小さいってことが、妖精や虫にとって最大の武器なんだ。」
ムーの言う通り、小さいという事こそが虫の武器だ。
よく「ノミが人間サイズならビルを飛び越える」とか、「ゴキブリが人間サイズなら新幹線と同じスピードで走る」と言うが、あれは嘘だ。
もし虫が人間と同等のサイズになったら、跳んだり走ったりなど出来ない。
人間のように頑丈な内骨格を持たない虫では、自分の重みに耐えられないからだ。
動くことはおろか、身体を支えることすら無理だろう。
そのうち自分の重さに負けて、自滅してしまう。
まるで浜に打ち上げられたクジラのように。
虫が多様な機能を持ち、多様なデザインをしているのは、小さいからこそだ。
「俺たちは元々すごい能力を持ってるんだ。自力で空を飛んだり、毒針を持ってたり。
クモなら網を張るし、昆虫には変態っていう特別な機能もある。それに加えて文明を持てば最強だよ。」
「そう言われればそんな気が・・・・・。」
「さっきも言ったけど、俺たちは人間よりずっと小さい。文明を持ったところで、自然環境に与える影響はしれてるよ。
それよりも宇宙の虫が増える方が問題だ。このままじゃいつ絶滅させられるか分かったもんじゃないぜ。」
「そうね・・・・一考の余地はなくもないかも。」
「文明を持つにはまず国を作らなきゃな。それぞれがバラバラに動いても仕方ない。」
「国かあ・・・ますます人間っぽくなっていくわね。」
「人間のように大きな国じゃなくていい。でも巣みたいな小規模なものではだめだ。
言うなれば小さな王国だな。それを作って、みんなの結束を固める。
まずは国づくりから始めよう。」
「いいけど・・・・でも私たちだけじゃ決められないわ。他のみんなにも相談しないと。」
アビーは思っていた。多くの虫や妖精が反対するだろうと。
しかしそうはならなかった。
外来種がのさばっていく昨今、もはや人間への遺恨がどうのと言っていられない。
消え去った敵への恨みよりも、目の前の敵の方が問題なのだ。
大勢の妖精や虫に量りをかけた結果、文明を持とうということで一致した。
その為にはまず国を作る必要がある。
アリやハチなど、社会性を持つ虫が中心となり、小規模ながらも国らしきものを作り上げた。
ベースはハチの巣。
それを幾つもつなぎ合わせ、外界との境目には高い壁(といっても彼岸花程度の高さだが)を築いた。
円状に作った国の大きさは、半径が20メートルほど。
巣に比べれば遥かに大きい。
しかし国としては小さく、かつてのギリシャ人が作り上げたポリス(都市国家)に似ていた。
人間の場合でも、島一つが国として統一されるまでに、長い時間がかかっている。
まずは都市レベルから始まり、その次に島、大陸と拡大していったのだ。
人間の歴史にならって、アビーやムーも同じようにして国を作り上げていった。
建国中にも敵からの攻撃は続いたが、それでも負けじと国を育てた。
そしてとうとう一つの川原を囲うほどの国が完成した。
長さが5キロ、幅300メートルの巨大な国だ。
かつてのポリスとは比べ物にならない。
虫にとっては、一つの島を国に作り変えたのと同じことだ。
この国では妖精が主導権が握る。
それも社会性を持つアリやハチの妖精が。
個々で生きてきた虫は、そのことに対して戸惑いを隠せなかった。
やっぱり国なんていらないと脱走する者もいれば、アリやハチに襲いかかる者もいた。
争いが頻発し、国は混乱した。
アビーは心を痛めたが、ムーは冷静だった。
「俺たちは人間の真似をしてるんだ。だったらこういう事が起きるのだって仕方のないことさ。」
国の在り方に従わない者、反乱を起こす者は必ず現れる。
ムーはここでも人間のやり方にならった。
「法律を作ろう。」
許可のない者は出入り禁止。
反乱も禁止だし、食べ物を奪い合うことも禁止した。
しかし大きな問題が残る。
「肉食の虫はどうするの?アリはほとんどが肉食で、他の虫を殺さないと生きていけないわ。」
「じゃあ肉食の虫は、生きる為なら捕食を認めよう。犠牲になる奴は可哀想だけど、そうしないと国が滅びる。」
高度な社会性を持つアリは、国家にとって重要な存在だ。
それを維持する為ならば、多少の犠牲はやむなしとした。
だが当然食われる側の虫は黙っていない。
被食者の多くが国を抜け、妖精の力を借りて、新しい国作りを始めた。
二つの国は対立し、時には戦争も起きた。
「ちょっとムー。一つにまとまるどころか、余計におかしなことになっていくじゃない。」
「だなあ、やっぱり人間の真似をしたのが悪かったのかな?」
「自分が言い出しっぺのくせに。」
「難しいよ、国を作るって。」
「ていうか最初の目的も果たせてないじゃない。いったいいつになったら文明が出来るのよ。」
国は建てたものの、文明と呼べるものはまだ生まれていない。
ただ領地を拡大し、ハチやアリが支配する地域が出来上がっただけだ。
そこにあるのは自然界のヒエラルキーとは別物。
食物連鎖というピラミッドではなく、国家を維持するうえで築かれた、支配者と奴隷の関係だった。
ハチやアリが特権を持ち、その他の者は隅へ追いやられる。
これについては妖精の間でも意見が分かれ、仕方がないことだと言う者もいれば、ついて行けないと離脱する者もいた。
誰もが理想の世界を夢見る。
自分だけの世界を持ちたがる。
すると国はどんどん増えていく。
虫は人間より小さいので、たくさん国を建てても土地は有り余る。
水棲昆虫にいたっては、水の中に国を作ってしまった。
ムーが国を作ろうと言い出してから10年後、地球上に100万以上の国家が誕生していた。
それぞれがそれぞれの決まり事を定め、他国の干渉を受けたくないという。
しかし衝突は免れない。
何度も戦争が起き、国が滅んでは、新たな国が建てられていった。
・・・皮肉なことに、アビーたちが辿っている道は、人間が辿った道そのものだ。
しかも人間より性質が悪い。
何度も言うが、虫は小さい。
それゆえに、数を増やしても土地は有り余る。
これがもし人間ならば、土地はすぐさま埋め尽くされるだろう。
これ以上国を建てる余地がないと分かれば、無意味な建国は止まる。
そして異なる国同士、良くも悪くも、どう付き合っていくべきかを考えるだろう。
しかし虫のサイズではそうはならない。
何千、何万と建国しても、まだまだ土地は余っているのだ。
人間と違って水中にも国を作れるので、もはや止めようがない。
地球在来の虫たちは、当初の目的を忘れつつあった。
本当の目的は、外来種に対抗する為の国作りだった。
文明を持ち、有利に戦いを進めようとした。
しかし気がつけば、いつの間にか身内同士の争いに替わっていた。
誰もが条件の良い場所で建国したがる。
傍に水源があるとか、豊かな森があるとか。
勝者は望んだ場所に国を建て、負けたものは新たな土地を探しに行く。
そうやって身内同士で争っている間に、とても恐ろしいことが起き始めていた。
なんと外来種の中から、妖精に進化する者が現れたのだ。
「うそお・・・・これヤバくない?」
アビーは危機感を募らせる。
ただでさえ外来種の虫は強いのに、そこに妖精が加わったら・・・・、
「どうして奴らも妖精に進化したの!?」
悔しかった・・・・妖精への進化は、在来種の特権だと思っていたから。
だがその背景には、在来種同士の諍いがあった。
無数に国が増え、食物連鎖とは関係のない争いを始める在来種たち。
それに嫌気がさしたマー君が、敵に寝返ってしまったのだ。
しかもナギサを説得し、彼女まで一緒について行ってしまった。
この事実を知ったアビーは、ショックのあまり寝込んだ。
「私たち友達じゃないの?どうして裏切るのよ・・・・。」
悲しむアビーだったが、ムーは冷静だった。
「アビー、これはある意味チャンスだぞ。」
「どこがよ!?友達が裏切ったのに、なんでチャンスなんて言えるの!」
「スパイを送るんだ。」
「スパイ?」
「マー君とナギサは敵に寝返った。その結果、向こうにも妖精種が誕生した。きっと妖精の蜜を与えたんだろう。」
「悲しいわ・・・・敵に塩を送るなんて。」
「でもそのおかげで、敵は油断してる。地球在来種を仲間に取り込めば、自分たちにも利益があると知ったんだから。
だからさ、その隙を突くんだよ。あなた達に協力しますよって風に見せかけて、スパイを送り込むんだ。」
「スパイなんて・・・・敵の情報を探ったって、どうにもならないわ。あいつら隠すような情報なんて持ってないでしょ。」
「分かってないなあ。スパイの仕事は諜報活動だけじゃない。」
「他に何があるのよ?」
「破壊工作。」
「破壊・・・・、」
アビーは固まる。顔を引きつらせながら、「それってまんま人間のやり方じゃない!」と怒鳴った。
「ムーの言う通りにやってきたせいで、今の私たちは人間みたいなバカに成り下がったわ。これ以上アンタの意見なんかいらない。」
「まあそう言うなよ。進化に犠牲は付き物だし、間違いだって起こる。」
「取り返しのつかない間違いが起きたらどうするのよ!」
「例えば?」
そう問われて、「それは・・・」と考え込んだ。
「・・・・もっともっと争いが大きくなって、自然が滅茶苦茶になっちゃうとか。」
「それはない。何度も言うけど、俺たちは小さいから。」
「またそれ・・・・。」
「とにかくさ、今は前に進むしかないんだ。お前が総大将なんだからしっかりしてくれよ。」
「総大将なんて・・・国はもうバラバラじゃない。」
「でも俺たちの国の女王様だ。お前がヘバってると、働きアリや働きバチの士気に影響が出る。見てくれだけでもいいから、女王様らしくしてくれよ。」
「じゃあムーが代わって。私はもう疲れたわ。」
「ダメだ。ハチやアリは母系社会だから、お前が頂点に君臨しないと。
オスの俺がてっぺんに立ったところで、誰も言うことなんか聞かないよ。」
「それ責任を押し付けてない?」
「まさか。お前の気持ちは分かるけど、これはお前にしか出来ない役目なんだ。」
ムーの言うことはいちいち理屈っぽく、それがアビーの癪に障った。
しかし彼の言う通り、母系社会のアリやハチの国では、ムーが王様を務めるのは無理がある。
アビーは嫌々ながら「分かったわ」と頷いた。
「そこまで言うなら、私は女王で居続ける。でも・・・・ほんとにアンタを信じていいの?」
「さあ?」
「はあ!?何よそれ!偉そうに言っときながら・・・・喧嘩売ってるの?」
「違うよ。先のことなんて誰にも分からないって言っただけ。でもだからって怠けていいわけじゃないんだ。
その時その時の自分に出来ることを、しっかりやるだけなんだよ。」
「じゃあ私が女王で居続けて、いちいちムーの屁理屈を聞くのが、その時その時の正しいことってわけ?」
「今はな。」
「そんなのバカげてる!私はムーの言いなりじゃないの。そんなこと言うんだったら、今すぐ女王なんて降りるわ。」
アビーは巨大な巣を出て行き、遠くへ飛び去ろうとする。
「さようなら。この国はムーが治めて。」
そう言って本当に飛び去ってしまった。
ムーは慌てて追いかけ、「落ち着けよ」と宥めた。
「そこどいて。」
「だから落ち着けって。そこの蓮華畑で話そう。」
嫌がるアビーを引っ張り、蓮華の上に座らせる。
「ちょっと言い方が悪かったよ、機嫌治してくれ。」
「イヤよ。だって女王のままいたら、ずっとムーの屁理屈聞いてなきゃいけないんでしょ?だったらもう友達をやめるわ。」
「俺の言うことを聞くのは今だけだ。これから先は状況が変わるよ。だって敵の中にも妖精種が現れたんだから。」
「どういうことよ?」
「敵は本格的に攻めてくるってこと。」
「今までだって攻めて来てたじゃない。」
「そうだけど、敵の中に妖精種はいなかった。要するに指揮官がいなかったってわけだな。
でもこれからは違う。妖精は脳を持ってるから、人間なみに賢くなって、あの手この手で攻めてくるはずだ。
そうなった時にな、国を作っておいてよかったと思うはずだぜ?」
「どこがよ?争いばっかりじゃない。」
「でも国があるおかげで、今まで敵の攻撃を凌いできたんだ。
あいつらはバラバラに動くけど、俺たちはそうじゃない。
少なくとも国の単位でまとまって動くんだ。
いくら敵が強かろうが、数はこっちが上だ。しかも国があるから統制の取れた動きをする。
だからこそ今まで戦えたんだよ。」
そう言われて、アビーは「まさか・・・」と呟いた。
「もしかしてさ、ムーはこれを狙ってたの?」
「ん?」
「だって数は私たちの方が勝ってるわ。でも上手くそれを活かせなかった。
だけど国を作ればそうはならない。みんな組織的に動くから。」
「そうだよ。文明を築こうなんてでっち上げた。」
「やっぱり・・・・。」
「文明なんてそんな簡単に手に入るかよ。だけどそうでも言わないと、他の妖精や虫が国作りに賛成しなかったはずだ。」
「要するに、文明を餌にしたわけね?」
「そういうこと。文明は便利なもんだって、この星の生き物はみんな知ってるよ。だって人間を見てきたんだから。
そんな便利なもんが手に入るなら、人間の真似して国作りくらい我慢してくれると思ってさ。」
「いつの間にそんなに嘘が上手になったのよ?アンタ人間に近づいてきたんじゃない?」
「かもしれない。妖精には人間のDNAも混ざってるから。」
「腹立たしいわね。人間が嫌いなのに、奴らの遺伝子を引き継いでるなんて。」
アビーは本気で悔しかった。
人間の力に頼らすに、妖精や虫だけで理想の世界を築きたかった。
しかし現実は酷なもので、人間の歴史、人間の知恵を参考にしないと、外来種に対抗できないのが現状だ。
「いいかアビー。人間は一時でも地球の覇権を握ったんだ。そして歴史上のどんな生き物よりも強く、地球に君臨した。
だったらさ、まずはそれをお手本にするしかないんだよ。」
「悔しい・・・・あんな猿モドキの真似しなきゃいけないなんて。」
感情が高ぶり、複眼から涙があふれる。
「・・・見てよムー。私泣いてるわ。」
「虫にはない機能だな。」
「人間の遺伝子を引き継いでるから、こんな物が流れるのよ・・・・。
今までに涙なんて出たことなかったのに・・・・・。
どんなに嫌だって思っても、私だって人間に近づいてるのかもしれない。」
アビーの悲しみは強くなる。
涙の次は何がくるのか?
キチン質の外骨格が、柔らかいタンパク質の皮膚に変わるんじゃないか?
涙があふれるこの目だって、複眼から単眼に変わるかもしれない。
そのうち何もかも人間に変わってしまって、自分自身が憎き猿モドキになるような気がした。
「怖い・・・・。」
せっかく人間を滅ぼしたのに、今度は自分自身が人間になってしまう。
悲しみを通り越し、笑いさえ出てくる。
泣いて笑って、その度に涙が溢れて・・・・。
こんなの正に人間じゃないかと、自殺したい気分になる。
しかし自殺願望もまた人間特有のもの。
どんな生き物であれ、生きるのが嫌だからと、死を選ぶことなどないのだ。
「アビーの言う通り、俺たちは人間に近づいてると思う。
国を作るとか、嘘をでっちあげてみんなを動かすとか、前の俺ならやらなかったと思うから。
それをやるようになったってことは、やっぱり人間に近づいてるんだろうな。
その原因は・・・多分だけど、脳にあるんじゃないかな?」
「脳・・・?」
「きっと今でも俺たちの脳は進化し続けてるんだと思うぜ。未知のウィルスに感染して、神経の塊だったものが脳に変わった。
大きさは人間ほどじゃないけど、小さくても知能が高くなるように進化してるのかもしれない。」
自分の頭を指さしながら、「アビーは知ってるか?」と尋ねる。
「頭の良い生き物ってさ、人間みたいに残酷なことするんだぜ。シャチは遊びでアシカを殺すし、ボノボは強姦をする。
知能が発達し過ぎると、やらなくてもいいことをやり始めるんだ。
そりゃあ虫だって寄生したり、他の巣を乗っ取って奴隷制を敷いたリするけど、それは遊びでやってるわけじゃない。
自分たちが生き抜く戦略としてやってるだけだ。
無意味な殺しとか、嫌がる相手と強引に交尾しようとするのは、無駄に脳が進化した結果なのかもしれない。
そう考えると、人間が酷い生き物っていうより、知能の発達した生き物が酷いことをし始めるんだ。
いつか俺たちだって人間みたいに・・・・、」
「やめてよ!そんなの聞きたくない!!」
大嫌いなあの猿モドキ。
本当にそんな生き物に近づいているとしたら、アビーは自殺しようと決めた。
しかし死んだところで復活してしまう。
これでは人間になるのを避けられない・・・・と思うと、また涙が溢れた。
「イヤよそんなの・・・・なんで人間になんかならなきゃいけないの?なんの罰ゲームよそれ・・・・。」
溢れる涙は人間へ近づいている証。
悔しいと思えば思うほど、とめどなく漏れてくる。
いっそのこと目を潰してやろうかとさえ思った。
しかしムーは「絶望すんな」」と言った。
「俺たちは人間に近づいてるけど、人間になるわけじゃないんだ。」
「でも似たような生き物になるんでしょ!?じゃあ同じじゃない!!」
「違う!だって俺たちは虫でもあるから。遺伝子に刻まれた虫のDNAは、絶対に消えたりしないんだ。
そのうち人間みたいになったとしても、同じような生き物になるとは限らない。
だってどこを探したって、虫の遺伝子を持つ人間なんていないんだから。
奴らとは違う方向に進化するはずなんだ。」
「でも実際に人間に近づいてる・・・・。」
「そうだな。でもそこが終着点じゃない。限りなく人間に近い生き物にはなるだろうけど、きっとその先があるはずさ。」
「その先ってなによ・・・・?」
「分からない。きっと妖精にしかない進化だよ。人間には無理なことが出来るはずなんだ。
そこへ到達するまでは、まず人間をお手本にしないといけない。
奴らの築いた文化とか文明とか歴史とか、それを踏み台にしてやるんだよ。
そうすることで、あの猿モドキじゃ到達できなかった未来へ行けるかもしれないんだ。」
そっとアビーの手を取り、「一緒に頑張ろう」と言った。
「こうやって手を握って、頑張ろうなんて言ってる時点で、もう人間だよな。
でも今は仕方ない。それを乗り越えた先に、本当の虫の楽園があるかもしれないんだから。」
ムーは本気だった。
せっかく人間を滅ぼし、まだ見ぬ世界が出来上がったのだから、今さら足を止められない。
前に進む為には、人間をお手本にすることもいとわないつもりだった。
アビーはまだ迷っている。
涙が流れる度に、自分の身体にさえ憎悪を抱く。
「どうしたらいいの・・・・。」
ムーに手を握られ、落ち着きを感じることさえ、苛立ちを覚えていた。
虫はドライだ。人間のようにウェットな感傷は持ち合わせていない。
友の手に心地良さを感じるということは、精神まで人間に向かっている証拠。
本当に、今すぐにでも命を絶ちたい気分だった。
二匹はしばらく蓮華の上にいた。
川原に広がるアビーの国は、今のところ虫界で最大の国家だ。
ハチとアリという社会性を持つ虫を中心にしたことで、他のどの国よりも強大になった。
しかしこれからは在来種同士で争っている場合ではない。
外来種は今まで以上に攻撃を強めてくるだろう。
それに負けない為には戦うしかなかった。
日が暮れかける頃、蓮華の上に一匹のハナバチが飛んできた。
「大変です女王様!敵の大軍が押し寄せてきます!」
「ウソ!」
アビーは慌てて空に舞う。
国の外には外来種の大軍が迫っていた。
「そんな・・・・今まではあそこまでの大軍で攻めてくることはなかったのに・・・。」
怯えるアビーの隣に、ムーが舞い上がる。
「だから言っただろ。妖精種が生まれるってことは、こういうことになるんだよ。
奴らは頭脳を得た。これからは戦略的な攻め方をしてくるはずだぜ。」
「こうしちゃいられないわ!すぐに戦の準備をしないと!」」
アビーは慌てて巣に戻ろうとする。
しかしムーが「待て!」と止めた。
「どうしたの?」
「あそこ・・・・ヤバいもんがある・・・・。」
ムーは遥か遠くの山を指さす。
その山の頂上は、雪が積もったように白くなっていた。
「なにあれ?春なのにどうして雪なんか・・・、」
「あれは雪じゃない。繭だよ。」
「繭?それってまさか・・・・、」
「そのまさかだと思う。前に山全体が繭に包まれたみたいに、また大きな虫を生み出そうとしてるんだ。」
「そんな!」
「俺たちは敵と戦う為に国を作った。なら向こうだって・・・・・、」
「私たちの国を潰す為に、大きな虫を生み出そうとしてるってわけ?」
「それしか考えられない。」
もしもあの繭が完成したら、山一つ分の巨大な虫が誕生する。
その虫は何千、何万と卵を産んで、一気に外来種を増やしていくだろう。
「きっと繭はあれだけじゃない。他にもあるはずだ。もしかたらすでに羽化して・・・・、」
そう言いかけた時、遠い空から地震のような羽音が聴こえた。
「なにこれ!耳が痛い!!」
「きっとどこかで生まれたんだ!あのデカいハエが!こりゃあ本当にヤバいぞ!」
空を揺らす風の波は、まるで宣戦布告のよう。
ムーが心配した通り、繭は幾つもあったのだ。
山という山が白い糸に覆われて、次々に巨大なハエが姿を現す。
幾千万の卵から宇宙の虫が孵り、瞬く間に在来種の数を上回ってしまった。
こうなってはまともに戦っても勝てない。
アビーは各国を回り、指導者の虫や妖精に共闘の話をもちかけた。
「今は在来種同士で喧嘩してる場合じゃないわ。ここは一時休戦ってことにして、連合を組みましょう。」
この提案に異論を唱える者はいなかった。
バラバラだった国々は、外来種駆逐の為に、一時的に統一国家となる。
そして数ある国の中に、なんと文明を生み出していた妖精がいたのだ。
「人間の時代、戦争は数ではなく、武器の質で勝敗が決まっていた。
これからは我々も文明の力を手にするのだ!」
そいつは人間の遺伝子が濃い妖精だった。
カブトムシの妖精だが、目は人間のように瞳があり、髪の毛らしき物まで生えている。
硬い外骨格は脆くなり、代わりに内骨格を持っていた。
その手には槍のような武器を持ち、身を守る為に鎧を着ていた。
「これはアリゲーターガーの鱗で作っだ鎧だ。虫の装甲とは比べ物にならないぞ。」
カブトムシの妖精は、みんなに武器と鎧の作り方を教えた。
「それと我々の国では農業をやっている。
ハキリアリの協力を得て、様々なキノコを増やすことに成功したのだ。」
ハキリアリは農業をすることで有名なアリだ。
葉っぱを持ち帰り、そこにキノコの菌を植え付ける。
そして巣の中でキノコを栽培していくのだ。
この方法なら、季節によって食料が左右される心配はない。
武器や鎧と共に、農業も虫の世界へと広まっていった。
初歩的ではあるが、虫は人間と同じように文明を持ち始めた。
その力は戦で大活躍して、在来種を何度も勝利へ導いた。
ムーの提案で国を作ったのも大きい。
壁を建て、城を建て、守りを強固にすることで、敵の進行を食い止めている。
しかし敵も馬鹿ではない。
在来種の中へスパイを送り込み、武器や農業の情報を盗んだのだ。
「クソ!こっちの技術をパクりやがって!」
ムーは怒りに燃える。
お返しとばかりに、こちらもスパイを送り込んだ。
盗んで役立つ情報はなかったが、それが目的ではない。
スパイを送り込んだ理由はただ一つ。
破壊工作である。
いくら敵を倒そうとも、繭がある限りは次々に生まれてくる。
これをどうにかしないと、いつかはアビーたちが負けてしまうだろう。
そこでムーが思いついたのは、繭を乗っ取ってしまおうという作戦だ。
ハチの中には、寄生を得意とするヒメバチという種類がいる。
例えばアゲハ蝶のサナギを育てていると、中からハチが生まれてくることがある。
このハチはアゲハヒメバチといって、その名の通りアゲハ蝶に寄生する虫だ。
アゲハが幼虫の頃、親バチが体内に卵を産み付ける。
何も知らないアゲハの幼虫は、いつしかサナギへと変わっていく。
しかしサナギの中からアゲハが現れることはない。
体内に寄生したアゲハヒメバチの幼虫が、サナギとなったアゲハを食べてしまうからだ。
見た目はアゲハのサナギ。
しかし中で育っているのは寄生蜂。
蝶のサナギからハチが生まれるというのは、なんとも不気味な光景である。
ムーは寄生を得意とするヒメバチの力を借りて、敵の繭を潰すつもりなのだ。
「妖精の蜜をお前たちに分け与える。その代わり、なんとしても繭を乗っ取ってくれ。」
蜜を食べたヒメバチは、すぐに妖精へと進化した。
そして戦の混乱に紛れて、巨大な繭の中に侵入。
敵は巣の中にヒメバチが入ったことに気づかなかった。
巨大なハエが生まれてくるものと思って、羽化の時を待ち続けた。
在来種と外来種の戦いの最中、また一つ繭が裂ける。
宇宙の虫たちは、ハエが出て出てくることを疑わない。
これでまた数が増えるぞと、ほくそ笑みながら眺めていたのだが・・・・、
「ほげええええええ!!」
繭を突き破ってきたのは、ハエではない。
小さなハチの大群だった。
まるで蕁麻疹のように、繭のあちこちから這い出てくる。
不気味だし、見ているだけで痒くなる光景だ。
山一つ分から生まれたハチは、その数1000万。
外来種は動きを止め、おぞましいその光景に見入った。
すると隣の繭からも新たな命が。
こちらもヒメバチに寄生されていて、またハチが現れる。
繭の中では、無残に食い殺されたハエが横たわっていた。
ムーは「よっしゃあああああ!」とガッツポーズを取る。
「見たかアビー!」
「うん!これならどんどん数を増やせるわ。」
「他にもたくさんの繭に寄生させといたんだ。次々に俺たちの仲間が生まれてくるぜ!」
「勝てる!これなら勝てるわ!」
二匹はハイタッチする。
その手はすでに人間に変わっていた。
目も単眼となり、身体も人間に近づいていた。
アビーは胸が膨らみ、ムーの股にはおちんちんらしき物まで。
「見てよムー!おっぱいが・・・・、」
「俺はチンチンが生えてきた・・・・。これってつまり・・・・、」
「妖精も交尾して数を増やせるってことよ!」
「俺たちの力で、地球の生態系を維持できるんだ!」
「じゃあ宇宙の虫なんてもう必要ないわ!」
「本当に・・・・本当に俺たちの世界が作れるかもしれないぞ!」
ムーの予想した通り、妖精は人間へと近づいていった。
しかし妖精は妖精、完全な人間ではない。
いつかまた、虫の遺伝子が強く発現するだろう。
その時、妖精は新たな進化を遂げる。
誰も見たことのない生き物へと。
「私・・・・見てみたくなったわ。ムーが言ってた妖精の未来を。」
「だろ?だからしばらくは人間でいるのを我慢しよう。」
「でもやっぱり腹が立つ。」
「なあに、そう長い時間じゃないはずさ。俺たちには虫の遺伝子だって入ってるんだ。世代交代のサイクルは早い。
人間の何十倍もの速さで進化するはずだ。」
「そうだね。今も小さいままだし。」
「そう、小さいことが俺たちの武器だ。」
「こりゃ何がなんでも外来種に勝たないとね。」
アビーの胸から悲しみが消え、まだ見ぬ未来への火が灯る。
ムーは空を見上げ、いつか訪れるであろう、新たな進化まで戦い抜くことを誓った。
今日、この日を境に、戦いは激化していった。
繭を乗っ取られた外来種が、報復として在来種の国を奪い始めたのだ。
奪っては奪われ、食っては食われる。
アビーもムーも何度も死んで、復活する度に人間へと近づいた。
大きさは妖精のままだが、姿かたち、それに思考、感情など、人間そのものになってしまったのだ。
背中の羽も退化して、飛ぶことさえできない。
その代わり生殖器が発達して、子孫を残す機能を備えた。
「アビー・・・・。」
「ムー・・・・・。」
二人は交わり、卵を産んだ。
透明な卵で、中には胎児が丸まっている。
二人は我が子を守る為、孵化するまで地中の巣に隠すことにした。
「すごいね、妖精が卵を産める日が来るなんて。」
「俺たちは自分で数を増やせるようになった。もっともっとたくさん産んで、妖精の国を大きくしていくんだ。」
二人はまた交わろうとする。
しかしその時、巣が襲撃を受けた。
守りが突破されて、二人のいる部屋まで敵が押し寄せる。
アビーもムーも戦ったが、あっさりと殺されてしまった。
人間の姿では、とてもではないが虫に太刀打ちできなかったのだ。
そしてもう二度と復活することはなかった。
生殖能力の獲得は、不死身という力を奪ってしまった。
生殖できないからこその不死という特権。
死なない生き物が繁殖すれば、いかに小さな妖精といえど、瞬く間に地球を覆ってしまう。
そうなれば住む場所も食べる物もなくなり、かつて人間が犯した間違いを辿ることになる。
妖精という種族を守る為、進化の過程で不死という能力は消え去ったのだ。
二人はこの世を去った。
しかし死ぬ前に卵を残した。
自分たちの分身ともいうべき、妖精の遺伝子を引き継いだ子孫だ。
アビーやムーの他にも、生殖可能な妖精が現れる。
次々に生まれる妖精の卵は、新たな進化へ繋がる希望。
人間に近づいたせいで、戦う力は弱まってしまった。
しかしそれでも子孫を残せるというのは大きい。
ただ妖精を増やすだけなら、妖精の蜜を与えればすむ。
しかしそこに進化はない。
同じような妖精が生まれるだけで、いわばコピーの量産だ。
雌雄が交わり、子を残す。
異なる遺伝子が重なることで、まだ見ぬ生命が誕生するのだ。
在来種の妖精たちは、懸命に子孫を残した。
そして在来種の虫たちも、その子孫が大きな希望であることを知っていた。
だから守った。
戦う力を無くしてしまった妖精の代わりに、命懸けで戦った。
敵は強い。
しかし繭の乗っ取りのおかげで、数では逆転できた。
文明は敵の手にも渡ってしまったが、数で上回るなら、いくらでも勝機はあるのだ。
戦いは終わらない。
いつかやって来るであろう明るい未来を信じて、今もなお争い続けている。

 

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