不思議探偵誌 最終話 挑戦、再び!

  • 2010.07.26 Monday
  • 10:14
 秋も深まる10月の中頃、俺は相変わらず由香利君に隠れてエロ雑誌を読んでいた。
窓から見える空は、どこか哀愁が漂い、吹きこむ風は涼やかに事務所の中を駆け巡っていく。
俺はそんな秋の感傷に浸りながら、エロ雑誌を熟読していた。
「久能さん、またエッチな本読んでるんですね。」
気が付くと、俺の後ろに由香利君が立っていた。
さっきまで事務所の真ん中の床を拭き掃除していたはずなのに。
「い、いや、これは何と言うか・・・。」
由香利君は俺からエロ雑誌を取り上げ、それを丸めてゴミ箱に捨ててしまった。
「ああ、なんてことを!」
俺が拾いに行こうとすると、頭にチョップをくらった。
「そんなものを事務所で読まないで下さいって、何度言ったら分かるんですか。
もう、本当にエッチなことしか頭にないんだから。」
男はみんなエッチな生き物なのだ。
しかしそれを由香利君に説明しても理解してくれまい。
俺はエロ雑誌を捨てられた腹いせに、由香利君のお尻を撫でた。
「何すんの!
この変態!」
思いっ切り顔を蹴り上げられ、俺は床に仰向けに倒れた。
今日もこうしてSMが行われる。
俺は由香利君にシバかれて以来、SMクラブには行っていない。
だってここに由香利君という最強の女王様がいるんだから、わざわざSMクラブに行く必要はないと思ったっわけだ。
「あらあ、今日も元気にやってるわねえ。」
ふとドアを見ると、茂美が腰に手を当てて立っていた。
今日は真っ赤なスーツで、胸元が大きく開き、膝上までの短いスカートを穿いてガンガンにフェロモンを振りまいている。
「こんにちわ、茂美さん。」
由香利君が茂美に駆け寄り、笑顔を見せている。
「こんにちわ、由香利ちゃん。
今日も相変わらず可愛いわね。」
「ええ、そうですかー。」
由香利君は照れたようにニコニコしている。
茂美はドアの前で突っ立ったまま、床に倒れている俺を見下ろして言った。
「うふふ、久能さん。
また由香利ちゃんにやられちゃったのね。
本当に仲のいい二人だこと。」
俺はムクっと起き上がり、由香利君に蹴られた顎を押さえながら茂美に近づいた。
「それで、今日は何の用だ?
また下らない依頼でも持ってきたか?」
俺は茂美のエロティックなボディを眺めて言った。
こいつは本当に色っぽいな。
多分自分でも意識してそのフェロモンを振りまいているんだろうけど、俺のようなエロで変態な男には、この刺激はたまらんのだ。
「いつも下らない依頼で申し訳ないと思ってるわ。
でも、今日はいつもと少しだけ違うの。
まあ妙な依頼ではあるけど、一人お客様を連れて来てるのよ。
そう言って茂美が事務所の中に入ってくると、その後ろから一人の男がついてきた。
「お、お前は!」
俺は声を出して驚き、一歩後ずさりした。
「うふふ、覚えているでしょ。
いつかあなたと対戦した探偵さんよ。」
茂美の後について入ってきた男は、あの尾崎周五郎だった。
忘れもしない。
こいつは超能力を使える探偵なのだ。
それも俺とは比べ物にならないくらい強力な超能力を。
「お久しぶりですね、久能さん。
私のことを覚えていて下さって光栄ですよ。」
そう言うと、尾崎は不敵な笑みを浮かべて俺を見た。
俺は以前尾崎と対決したことがある。
どちらが超能力探偵として相応しいか、勝負をしようじゃないかと持ちかけられたのだ。
それで負けた方は探偵事務所の看板を降ろす。
尾崎は茂美の作っている雑誌「月刊ケダモノ」の愛読者で、以前にその雑誌に載ったことのある俺を見て、「超能力探偵は俺一人で十分だ」と息巻いて勝負を挑んできたのだ。
その結果は、一応は俺の勝ちだった。
しかしそれは完全な勝ちとは言えず、尾崎から塩を送ってもらう形で何とか勝てたのだ。
だからまあ、ほとんど引き分けみたいなもので、結果としてどちらも探偵事務所の看板を降ろすことはなかった。
「久能さん、この前は完全に決着を付けることは出来なかったが、今回こそはどちらが超能力探偵に相応しいか白黒はっきりさせようじゃありませんか。」
俺は内心ビビっていた。
またこいつと勝負するのかよ。
前回は何とか勝てたものの、2回もこいつに勝つ自信はなかった。
「尾崎さんはね、あなたとの再戦を熱望していたのよ。
彼はうちの雑誌の愛読者でもあるし、超能力者でもあるから、私と懇意にしているの。
それでね、いつかあなたとの再戦の機会を設けて欲しいと頼まれていたのよ。」
そ、そんな。
俺は再戦なんてしたくない。
どうせまた、負けた方が事務所の看板を降ろせとか言うに決まってる。
俺はもう逃げ腰だった。
「あ、あの。
みなさん、立ち話も何ですから座って下さい。
お茶でも淹れますから。」
由香利君の言葉で俺達はソファに座った。
茂美と尾崎が並んで座り、その向かいに俺が座った。
「どうです。
依頼の方は順調にきていますか。」
尾崎が挑戦的な目で尋ねてくる。
俺はごほんと咳払いをし、「まあ、そこそこ」と適当に答えておいた。
正直な所、依頼なんてほとんどきていない。
けど、そんなことを正直に尾崎に言えるほど、俺は自分のプライドを捨てていない。
「そうですか。
私の事務所は大忙しですよ。
毎日のように依頼が飛び込み、私の超能力を使って解決しています。」
「ふ、ふーん。
それは結構なことで。」
俺は強がってみせたが、尾崎は見下すような目で俺を笑っているような気がした。
由香利君がお茶を運んで来てそれぞれの前に置き、俺の隣に座った。
「久能さん、以前私があなたに捜索をお願いした変なヘビのことを覚えてる?」
茂美が頬杖をついて尋ねてくる。
「変なヘビって、あの頭が二つあって、全身毛むくじゃらで、関西弁を喋るヘビのことか?」
茂美はお茶をすすりながら頷き、その艶めかしい足を組みかえる。
俺はその足に視線を奪われながらも、、「それがどうかしたのか?」と問い返した。
茂美はまた足を組みかえ、エロティックな太ももを披露しながら答えた。
「実はね、私あのヘビをペットとして飼ってるの。」
俺は口に含んだお茶を吹き出しそうになった。
隣の由香利君も驚いた顔をしている。
「あ、あれを飼ってるのか。」
そう尋ねると、由香利は「うふふ」と笑い、もう一口お茶を飲んだ。
「久能さんからあのヘビを譲り受けたあと、大学に持ち込んだんだけど、そこの教授達もびっくりしてたわ。
こんなヘビは見たことがないって。
それで是非うちの大学で預からさせてくれって言われたんだけど、あのヘビがとても嫌がってねえ。
私、何だか可哀想になっちゃって、自分で飼うことにしたのよ。」
まったく、なんてやつだ。
おかしな女だと思っていたが、まさかあんなヘビを飼うなんて。
俺なら金をもらっても断るかもしれない。
茂美の神経の太さには感心するばかりだ。
「それでね、家に連れ帰って育ててたんだけど、すごく私に懐いてるのよ。
姉さん、ほんまにべっぴんさんやなあ、なんて毎日言われると、こっちも悪い気はしないじゃない。
だから私もメロンちゃんて名前を付けて可愛がっていたわけ。」
「メ、メロンちゃん・・・。」
由香利君がポカンとした表情で聞く。
「そうメロンちゃん。
頭が二つあるでしょう。
だから右の頭がメロンちゃん1号、左の頭がメロンちゃん2号なの。
結構可愛いのよ。」
「は、はあ・・・。」
由香利君が何とも言えない顔で頷く。
メロンちゃんか。
確か以前の名前は右の頭がイチロウで、左の頭がジロウだったはずだ。
あのヘビは無類の女好きだからな。
きっと茂美にメロンちゃんと命名されて、喜々としてその名前を受け入れたんだろうな。
「でもね・・・。」
途端に茂美が暗い顔になって呟く。
俺はお茶を一口飲み、茂美の言葉を待った。
「メロンちゃん、部屋から脱走しちゃったの。」
「脱走!」
俺はまた口に含んでいたお茶を吹き出しそうになった。
「私はマンションの五階に住んでるんだけど、どうやってか分からないけど、脱走しちゃったのよ。
辺りを捜し回ったんだけど、全然見つからなくて。
それでどうしようって困っていたの。
そしたらね、たまたま仕事で尾崎さんと会うことになって、彼にそのことを話したの。
そしたら・・・。」
そこまで言って、茂美は視線を尾崎に向ける。
尾崎は真っすぐ俺を見据え、口元に不敵な笑みをたたえたまま口を開いた。
「久能さん。
もう私が何を言いたいかお分かりでしょう。」
尾崎も組んでいた足を組みかえ、少し身を乗り出して言った。
「そのメロンちゃんというヘビを、どちらが先に見つかるか勝負しましょう。」
ほら、きたよ。
俺はうんざりした顔を見せて答えた。
「いや、別に勝負しなくてもいいんじゃないですかね。
あなたは私より強力な超能力者なんだし、その力を使ってメロンちゃんを見つけてあげればいいじゃないですか。」
何故こいつは勝負にこだわるのか。
俺は少々辟易としながら背もたれに体を預けた。
しかし尾崎はさらに身を乗り出し、テーブルをドン!と手で叩いた。
「久能さん!
以前にも言ったはずです。
この世に超能力探偵は二人もいらない。
だから、どちらが真の超能力探偵か、はっきりさせようじゃありませんか!
逃げることは許しませんよ!」
俺は心底困った顔をして由香利君を見た。
由香利君は真顔で尾崎の話を聞いており、その目には闘志を燃やしていた。
おいおい、由香利君はやる気になっているぞ。
俺は由香利君に背を向けるように体をよじった。
「久能さん!」
俺の背中に由香利君の威勢のいい声がかかる。
「はい、何でしょう。」
俺は小さく聞き返した。
「この勝負、受けて立ちましょう!
真の超能力探偵は久能さんだってことを、証明してみせましょうよ!」
そう言って由香利君は俺を振り向かせ、真っすぐ目を見つめてくる。
「ふふふ、何とも勇ましい助手をお持ちだ。
ねえ、久能さん。
その助手さんの言う通り、私の勝負を引き受けて下さい。
そして負けた方が探偵事務所の看板を降ろすのです!」
はあ、やっぱりそうきたか。
由香利君、茂美、尾崎が真っすぐに俺を見つめている。
まさかこの勝負逃げないよな?
全員の目がそう言っているようだった。
俺は大きくため息を吐き、降参というふうに手を大きく上げてみせた。
「分かった、分かったよ。
この勝負、受けて立てばいいんだろう。」
そう言うと、「さすが久能さん!」と由香利君、「それでこそ私のライバルだ」と尾崎、「私のメロンちゃんを見つけてね」と茂美。
俺はもうどうにでもなれと開き直り、窓の外を見ながらエロ雑誌の巨乳のお姉ちゃんを思い出していた。
「では勝負は明日からです。
先にメロンちゃんを見つけた方が勝ちです。
今度は絶対に負けませんよ、では。」
そう言って尾崎は立ち上がり、事務所を出て行った。
「久能さん、期待してるわよ。」
茂美はテーブルの上に上半身を乗り出し、前屈みになって胸元を見せてくる。
俺はそこに目を奪われながらも、「まあ、期待には答えるよ」と言った。
「うふふ、じゃあ私も帰るわね。
尾崎は強敵よ、久能さんも心してかかってね。」
そう言ってニコッと笑い、茂美も帰って行った。
俺は何だかどっと疲れて、はあっと大きく息を吐き出した。
「この勝負を引き受けるのは久能さん一人じゃありませんよ。
私がついています。
絶対に勝ちましょうね!」
由香利君がガッツポーズを作って俺に顔を近づける。
「そうだな、負けるわけにはいかないな。
二人で必ずメロンちゃんを見つけよう。」
そう言って由香利君の太ももを叩いた。
由香利君の鉄拳が俺の顔面にめり込む。
「相変わらず、エッチですね。」
俺は出てきた鼻血もそのままに、残っているお茶をグイっと飲み干した。

                                   最終話 つづく
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