不思議探偵誌 最終話 挑戦、再び!(2)

  • 2010.07.27 Tuesday
  • 09:28
 俺は勝負事が苦手である。
つねにのらりくらりと生きていたいのである。
だがしかし、人生というものは自分の思うようにはいかない。
俺は今、探偵事務所の看板を賭けて、自分と同じ超能力探偵と勝負をしているのだ。
勝負の内容は、茂美の飼っていたペットのヘビをどちらが先に見つけるか。
そのヘビは変わったやつで、頭が二つあり、全身毛むくじゃらで関西弁を喋る。
茂美の部屋から脱走したそいつを見つけた方が勝ちである。
「はあ、なんでこんな勝負受けちゃったんだろう。」
街を歩きながら俺が呟くと、由香利君がポンと俺の背中を叩く。
「何弱気になってるんですか。
きっと今回だって久能さんが勝ちますよ。
私だってついているんだし、張り切っていきましょう。」
由香利君は気合十分といった感じで、その足取りは力強い。
「そうは言うけどね、尾崎は俺よりすごい超能力者なんだよ。
どう考えたって俺の方が不利じゃないか。」
俺は空をぼーっと見上げ、流れる雲を目で追いかけていた。
秋の風が俺の頬を撫で、その感触は気持ち良くはあるが心は重たい。
「久能さん、もっと自分に自信を持って下さいよ。
何も超能力だけで勝負が決するわけじゃないんだから。
私達は以前にそのヘビを見つけてるんですよ。
そんなにこっちが不利だとは、私は思わないけどなあ。」
まあ確かに以前、俺達はそのヘビを見つけた。
今は茂美にメロンちゃんと命名されているそうだが、どう見たってそんなに可愛い名前が似合うようなやつじゃない。
「とりあえず、駅前に向かいましょう。
以前もそこでメロンちゃんを見つけたんだし。
今回だっているかもしれませんよ。」
そう言う由香利君の声は明るい。
俺は力無く頷き、とりあえずは駅前に向かうことにした。
そのメロンちゃんというヘビは確か無類の女好きだったはずである。
若い女性を見つけては、「俺のことどう思う?」と声をかけてくる。
由香利君もそう声をかけられた。
秋空の下を、俺は足取り重く、由香利君は力強く歩いて駅前までやって来た。
今の時刻は午後2時。
平日の駅前にはそれなりの人がいた。
若い女性も多く見かける。
俺達は駅前の自販機の前でしばらく様子を見ることにした。
注目するのは若い女性である。
もしメロンちゃんがここにいるとすれば、必ず若い女性に声をかけるはずだ。
由香利君が自販機からジュースを二つ買い、一つを俺に手渡しながら若い女性を注意して見ている。
俺はジュースのプルタブを開け、一口飲むとはあっと息を吐いた。
由香利君が買ってくれたのはオレンジジュースで、やたらと甘い味が口の中に広がった。
「久能さんもよく注意して若い女性を見ていて下さいね。
もしここにいるなら、きっと声をかけてくるはずですから。」
「分かってるよ。
あいつは無類の女好きだもんな。
由香利君もあいつに交際を申し込まれて、困っていたっけ。」
以前ここで見つけたメロンちゃんは、えらく由香利君のことが気に入り、しきりに交際を申し込んでいた。
いや、交際じゃなくてプロポーズだったかな。
ヘビのくせに、人間の嫁さんが欲しいなどと言っていた。
「嫌なことを思い出させないで下さい。
私、あの時のことちょっとトラウマなんですから。
ヘビに好意を持たれるんなんて、身の毛がよだちます。」
由香利君はぶるっと身を震わせ、ジュースを飲んだ。
俺達はしばらく駅前を行き交う若い女性を見ていた。
時計を見ると午後3時半。
1時間半、ここで見張っていることになる。
「なあ、そろそろ見張るのはやめて駅の周辺を捜さないか?
どこかに潜んでいるかもしれないぞ。」
俺はすっかり飲み干したジュースの缶をもてあそびながら言った。
「そうですね。
じゃあ二手に分かれて捜してみましょうか。
もし見つけたらケータイに連絡を入れるってことで。」
そして俺達は駅の周辺を捜した。
自転車置き場、草が刈られていない空き地、駅前の喫茶店の裏。
そうこうして捜しているうちに、瞬く間に時間は過ぎていき、時計の針は午後5時を指していた。
俺達は一旦元の場所に集まり、顔を見合わせるなり首を振った。
「こっちは何処にもいなかったよ。
若い女性も注意して見ていたんだけどな。」
「私も全然ダメでした。
もしかしたらまた声をかけられるかもってちょっとビクビクしながら捜していたけど、何処にもいませんでしたね。」
これだけ捜しても見つけられないということは、ここにはいないのかもしれない。
秋の空は夕焼け色に染まり、駅から出てくる人達をオレンジ色に照らしている。
「別の場所を捜してみようか。」
俺は夕暮れの秋空を見ながら言った。
「そうですね。
他にメロンちゃんが行きそうな場所って何処だろう?
確かよく駅前に出没するんでしたよね。
ここの電車に乗って、隣の駅まで行ってみますか?」
俺はその意見に賛成し、由香利君と並んで歩きながら駅に入った。
切符を買って改札を抜け、ここより大きな街がある隣の駅へ向かった。
ホームを着いて電車を下り、改札を出て駅前を見渡す。
「さっきの駅より大きいし、人もたくさんいますね。」
仕事帰りの人達が俺達の脇をすり抜け、足早に帰宅して行く。
その中に混じる若い女性に注意を払いながら、ここでも二手に分かれて捜すことにした。
俺は駅前の大きな本屋の前で、しばらく辺りを見張ることにした。
今頃尾崎はどうしているだろう。
何処を捜しているんだろう。
まさかもう見つけたなんてことはないよな。
あいつはかなり優れた透視能力を持っている。
ただそこに突っ立っているだけで、超能力を使えば多くの情報を得られるのだ。
俺達のように忙しなく捜し回らなくても、少し移動するだけでかなりの捜索範囲が得られる。
明らかにこちらが不利だが、もうそんなことを考えても仕方がない。
もしこの勝負に負けたら、探偵誌事務所の看板を降ろさなくてはいけない。
探偵をやめたら、俺は一体何をすればいいのか?
宝くじを当てて、脱サラをして始めた探偵業である。
これを奪われたら、俺の生き甲斐って一体何だろう?
それに由香利君の鉄拳をもうくらうことも出来なくなる。
それはかなり寂しい。
ネガティブなことばかりが頭をよぎり、メロンちゃんがいないか見張りながらも、常に負けた時のことを考えている自分がいた。
きっと今の俺の顔は暗く沈んでいるだろう。
隣に由香利君がいたら、「元気出して下さい!」と励ましてくれるんだろうな。
その時ふと思った。
俺にとって由香利君とは何だろう?
ただの助手か?
いや、それにしてはやたらと殴られたり蹴られたりしている。
俺は雇い主なのに。
まあそれは俺が悪いからなのだが、それでもそんなことをしてくる助手はそうはいないだろう。
そして俺の元気が無い時にはいつも励ましてくれる。
思えばいつも隣にいて、叱咤激励してくれる存在だった。
もし探偵を廃業したら、由香利君は俺から離れていくんだろうか。
それとも「私がついてますから、また何か新しい仕事を始めましょう!」と言ってくれるのだろうか。
思えば彼女のことを深く考えたことはなかった。
いつも隣にいるのが当たり前になっていた。
俺が探偵じゃなくなっても、彼女は隣にいてくれるのかな。
メロンちゃんがいないか見張りながらも、俺はずっと由香利君のことを考えていた。
彼女が、俺の隣からいなくなるのは寂しいな・・・。
俺はこれからも彼女と探偵を続けたいと思っている。
いつも舞い込んで来る変な依頼を、由香利君と二人で解決してきた。
それがこの先も続けられるかどうかは、俺が尾崎に勝てるかどうかにかかっている。
そう思うと、絶対に負けられないという思いが湧いてきた。
勝負事は苦手だ。
でも逃げられない、いや、逃げてはいけない勝負がある。
自分の大切なものがかかった勝負。
人生で一度はやってくるだろう大一番。
俺は頭からネガティブな思いを振り払い、本屋の前を離れて辺りを捜し回ることにした。
通り過ぎる若い女性を注意して見ながらも、建物の陰や、駅の中もくまなく捜した。
しかし、何処にもメロンちゃんはいなかった。
時刻はもう午後7時。
由香利君からケータイが鳴り、とりあえず駅の前にあるファミレスで少し休憩しようということになった。
「何処にもいませんねえ。」
由香利君の方も成果があがらなかったらしく、スパゲッティを口に運びながら宙に目を漂わせていた。
俺は食欲がなく、コーヒーだけを飲んでいた。
由香利君は相変わらず目に闘志を燃やしている。
きっと俺とは正反対で、勝負事には強いのだろう。
尾崎になんか絶対に負けない。
そういう思いが、由香利君の顔ににじみ出ている。
俺はコーヒーを口に運びながら、ファミレスの窓から外を眺めていた。
もうすっかり暗くなっている。
メロンちゃんは一体何処にいるのだろう。
ブラックのコーヒーは口の中に苦い味を染み渡らせ、俺の喉を通って胃の中へおさまっていく。
由香利君はせっせとスパゲッティを口に運び、まだまだこれから戦う為のエネルギーを補充しているように見えた。
「ここで少し休んだら、次の駅に行きましょう。
そこで見つからなかったら、また次の駅に・・・。」
そう言う由香利君の言葉を遮り、俺は尋ねてみた。
「なあ、由香利君。
なんで君はいつもそんなに前向きなんだ?
どこからそんな力が湧いてくる?
俺だって尾崎には負けたくないと思っている。
けど、正直負けたらどうしようって不安もあるし、今日だってもう少し疲れた。
君の元気の元は一体何なんだ?」
すると由香利君はフォークを皿の上に置き、水を一口ゴクリと飲んでから答えた。
「私だって、負けたらどうしようって不安はあります。
けど、不安だけじゃ前に進めない。
私はまだ、久能さんと一緒に探偵を続けたいですから。
その思いを実現させる為には、絶対に勝ちたいって思いが必要なんです。」
俺はコーヒーのカップの中を見つめた。
ブラックのコーヒーは、まるで夜の街みたいに真っ暗だ。
「私ね、空手をやってるじゃないですか。
それは強くなりたいからやっているんです。
その強さっていうのは、実際に暴漢とかに襲われた時に対処する強さでもありますけど、それ以上に心の強さが欲しいんです。
空手をやって、体だけじゃなくて心も鍛えたいんです。
空手の試合の時にね、絶対に負けるもんかって思って勝負に挑むんです。
それは相手に負けるんじゃなくて、自分に負けるもんかって思ってやってるんです。
試合はいつだって緊張して怖いです。
けど、それは自分の心のせいだから。
自分に負けなければ、相手にも負けないって思ってるんです。
勝負は勝つ為にやるものです。
だから、今回の対決だって、相手に負けたくないんじゃないんです。
自分に負けたくないんです。
私は絶対に勝って、久能さんと探偵を続けたいと思っています。
だから、常に自分の不安に打ち勝って、前へ進もうって気持ちだけなんです。」
いやはや、立派だ。
俺は笑顔で由香利君の言葉に頷き、コーヒーを一気に飲み干した。
「君の言う通りだよ、由香利君。
自分に負けてちゃ、前には進めないもんな。
俺はどうやら、自分の不安に負けそうになっていたみたいだよ。」
その言葉を聞くと、由香利君はニッコリ笑って言った。
「そうです。
自分に負けちゃダメです。
この勝負、絶対に勝って、これからも二人で探偵を続けましょう!」
俺は大きく頷き、「尾崎に負けてたまるか!」と空になったコーヒーカップを睨みつけて言った。
「その意気です!」
そう言って、由香利君はまた元気にスパゲッティを食べ始めた。
そうだ、尾崎になんか負けるもんか。
例え超能力で向こうが勝っていたとしても、それだけで勝負が決するわけじゃないんだ。
要は、自分の心の持ちようなんだ。
そう思うと食欲が湧いてきて、何か食べたくなった。
「俺も何か注文しようかな。」
由香利君は俺の顔を見ながら、笑って言った。
「そうです。
まだまだ今日の捜索は続けますよ。
久能さんもしっかり食べて、力を蓄えて下さい。」
俺は笑って頷き、メニューを手に取って広げた。
何を食べようかな。
そう考えていた時、ケータイの着信が鳴った。
相手を見ると、茂美からだった。
「もしもし。」
俺は何だろうと思いながら電話に出た。
「久能さん、残念な結果に終わったわ。」
俺は茂美が何を言っているのか分からず、訝しげに聞き返した。
「残念な結果に終わった?
どういうことだ?」
するとしばらくの沈黙のあと、茂美はゆっくりと言った。
「尾崎がメロンちゃんを見つけたの。
この勝負、あなたの負けよ。」
俺は一瞬頭の中が真っ白になった。
まるで空になったコーヒーカップのように。
そして次の瞬間、様々なことが頭に浮かんだ。
尾崎が俺達より先にメロンちゃんを見つけた?
何時?何処で?
頭に色々な言葉が浮かび、それらがぐるぐると脳内を駆け巡っていく。
俺はその一つも言葉にすることが出来ず、ただ黙り込んでいた。
「もしもし?
久能さん、聞いてる?」
電話の向こうから茂美の声が聞こえてくる。
まるで遠くから鳴る耳鳴りのように。
「久能さん、どうしたんですか?」
由香利君が不思議そうな目で尋ねてくる。
俺は唇を噛みしめ、ただケータイを握りしめていた。

                                 最終話 またつづく




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